エテルネル村での収穫祭 〜デュカス〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:7人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月28日〜11月04日

リプレイ公開日:2008年11月05日

●オープニング

 パリから離れた地にあるエテルネル村は順調に発展していた。
 教会の建設も順調で、家族単位での経済的独立も特に問題なく受け入れられたようだ。
 森の放牧場にある小ブタ達も元気に育ち、今のところ村の将来に不安はなかった。
 ただ青年村長デュカスは少々覇気に欠けていた。
「兄さん、どうしたの?」
「いや、なんでもない。それより収穫祭はどうしようか?」
 夜、デュカスは同じ屋根の下に住む弟のフェルナールと話し合う。
 ささやかながらエテルネル村でも収穫祭を開いて、みんなで楽しむ事が決まっていた。
 パリにあるエテルネル村出張販売店・四つ葉のクローバーの店長ワンバや店員のノノも招きたいがどうやら恋仲になったらしく、呼びだすのはかえってお邪魔かも知れなかった。デュカスは無理に誘うつもりはないとフェルナールに告げる。
(「兄さん、寂しいのか‥‥」)
 フェルナールはワンバとノノを話題にするデュカスの姿を見て、なんとなくだが元気のない理由がわかる。
「とにかく賑やかにやろう。ちょうど司祭様もやってくる頃だ」
 この前、デュカスは冒険者と一緒にヴェルナー領ルーアンに出向いて、新たに出来る教会の司祭の派遣を願った。
 願いは聞き入れられて、もうすぐやって来る予定である。ただ、教会が完成するにはもう少しかかるので、しばらくは他の家屋に住んでもらわなくてはならなかった。
「木の家もいいが、煉瓦もいいものだ。森との長いつき合いを考えれば、これからの建物は煉瓦造りにした方がいいかも知れないな」
「シルヴァさんが、せっかくよい土を見つけてくれたのだから活用しない手はありませんね」
 別の話題で始まったとしても、兄弟の会話は自然とエテルネル村の将来についてとなる。それだけ二人はこの村が好きなようだ。
 馴染みの冒険者にも参加してもらう為にギルドで依頼が出された。
 収穫祭の準備を頼む内容だが、始まったのなら一緒に呑んで踊り騒ごうと考えていたデュカスであった。

●今回の参加者

 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb9782 レシーア・アルティアス(28歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ec2418 アイシャ・オルテンシア(24歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec5736 テア・メル・メレウト(35歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)

●サポート参加者

ロート・クロニクル(ea9519)/ レア・クラウス(eb8226)/ 朱 空牙(ec3485)/ オグマ・リゴネメティス(ec3793

●リプレイ本文

●パリ
 一日目、早朝のパリ・四つ葉クローバー店前。
「おいらは先に向かっているのだぁ〜」
 玄間北斗(eb2905)は集まった者達に挨拶をすると、韋駄天の草履で先にエテルネル村を目指す。フェルナールとの話と煉瓦作りの手伝いを前もってしたいのがその理由だ。
「それではまずは四つ葉のクローバー店で必要なものでも。村にあるものは別にして他から仕入れた品物もありますので」
 馬車を降りたデュカスと共に冒険者達は店内に入る。
「お、みなさんお揃いで」
 店内では店長の青年ワンバと女性店員ノノが品物の整理を行っていた。
「いろいろと売っているのね。このハム、とても美味しそう」
「そうでっしゃろ。エテルネル村のブタで作った絶品のハムや。向こうでもたくさんあるやさかい、楽しんできてや」
 店内の様子を眺めるテア・メル・メレウト(ec5736)にワンバが説明する。
「果物と香味野菜、それと香辛料を頂けるかしら? 確かハーブ類は村にたくさんあるはずよね」
「はい。お待ち下さいませ」
 セレスト・グラン・クリュ(eb3537)の注文にノノがてきぱきとカゴへと食材を揃えてくれる。
「デュカスさんから聞いたわ、おめでとう。ワンバさんと仲良くね」
「あ、ありがとうございます」
 他の者には聞こえないようにセレストはノノに言葉を贈る。ワンバも同じように祝福したセレストである。
「前に頼んだお肉、保存が効くような状態で受け取りたいのです。実は――」
 壬護蒼樹(ea8341)には他で関わった助けたい集落がある。そこに以前出資した分の豚肉を提供したいのだとデュカスに相談した。
「わかりました。ソーセージが一番素材を無駄なく活用できると思います。今回の帰りに積んで帰りましょう。ギルドのゾフィーさんに連絡してもいいし、店の方に取りに来て頂いても結構ですよ」
 それ以外にデュカスは集落の人々が望めば、つがいの子ブタ二頭を提供する約束をした。ただし、これで壬護蒼樹の取り分は終わりである。
「何、神妙な顔しているさぁ〜」
 レシーア・アルティアス(eb9782)は後ろから近づくと、デュカスの肩に掌をクッションにして顎を乗せる。
「久し振りぃ‥ま、元気ない理由は察しがつくけど、ね」
「そ、そんなことないですよ」
 デュカスの強がりに気がついたのはレシーアだけではない。少なくともデュカスに元気がない事ぐらいは誰の目にもあきらかだった。
「せっかくの収穫祭なら、楽しもうよねぇ」
 レシーアはデュカスにウィンクをすると、店内で食材探しを始める。もっとも自分で調理をするつもりはないので、食べたい料理のリクエスト代わりだ。
「エテルネル村で収穫祭をおくれるとは思ってませんでしたから色々楽しみですよ♪ 遠くへのお買い物とかあればいいつけて下さいね」
「なるべく揃えてゆくつもりではいますが、その時はお願いします」
 アイシャ・オルテンシア(ec2418)は元気よくデュカスに声をかけた。
「それでは少し市場に寄ってきます。すぐ戻りますので」
 クァイ・エーフォメンス(eb7692)は魚類などの食材を探しにオグマと共に店を出る。外では愛馬が待っていた。
「あ、私も一緒に行きますよ〜」
 アイシャも仲間から四つ葉のクローバー店では手に入らない食材のリストを預かると、店を飛びだした。
 手分けすれば準備は早く済む。昼には再集結し、デュカスが御者をする馬車に冒険者達は乗り込んだ。
「良い風の流れを祈ろう」
 朱空牙が抱拳礼という独自の手の合わせ方をして馬車の出発を見送った。クァイは愛馬に乗って馬車に併走する。
 ワンバとノノはパリの四つ葉のクローバー店で留守番だが、二人にとってはその方が幸せだろう。
 馬車一行は一路、エテルネル村を目指して駆けていった。

●エテルネル村
「そうなのだ。焼くには薪も沢山いるのだ。上手く間伐材を使って焼いたり出来たら森と仲良くやっていけそうなのだぁ〜〜」
 強行の日程で一日目の夜に到着した玄間北斗は二日目の昼に煉瓦作りを手伝っていた。
 錬った素材を形にする為の型枠を作りながら玄間北斗はフェルナールと話す。
 滅多に雨が降らない地域なら日干し煉瓦で建てれば充分だが、エテルネル村周辺はそうではない。乾燥させた後で窯で熱を加える焼き煉瓦が使われていた。その際、どうしても必要になるのが燃料だ。
 森の木を大切にする為に建築材を煉瓦へ変更する考えをデュカスとフェルナールは持っていた。それなのに燃料として木を大量に使えば意味がなくなる。
「灰は畑に撒くと良いって聞いた事があるのだ」
「なるほど、参考にさせてもらいます」
 フェルナールは玄間北斗に感謝するのであった。

 三日目の昼頃、馬車一行は村に到着した。すでに収穫祭の準備は始まっており、とても賑やかである。
 もちろん普段も明るい村なのだが、祭りとなるとやはり雰囲気は変わるものだ。作物も収穫し、加工についても大まかには終わっている。
 収穫祭は明日昼過ぎからの始まりとなっていた。
 冒険者達はさっそく各自考えてきた行動に移る。
 セレストは時間のかかる食材の仕込みを終えると、司祭が一時の住まいとする家屋の掃除を始めた。手伝いに来てくれた村の主婦達に今後も持ち回りで掃除が出来るかも相談する。
 司祭の仮の住まいには教会が完成した時に使われる様々な内装品も置かれていた。
 セレストが見たところ、最低限の品については揃っていて安心する。ただ、鐘についてはまだ完成していないのか届いていない。もっとも教会の完成には後一ヶ月かかるようだ。それまでには届いている事だろう。
「一ヶ月なら、何とか今年の聖夜祭には間に合いそうね」
 セレストは窓から見える建築中の教会を眺めながら呟く。
 多くの冒険者は広場での設営を手伝っていた。
(「せっかくの収穫祭だしねぇ」)
 レシーアはウェザーコントロールで、よくなる方に天候をシフトさせておく。余程天候が崩れない限り雨は降らないだろう。村にいる間は定期的に使うつもりであった。
「よいしょ!」
 壬護蒼樹は村人達と一緒に広場の周囲に柱を立てていた。ぐるっと一周させるので、結構大変な作業であったが、壬護蒼樹のおかげでほどなく終わる。
「こんな感じでどうかしら?」
 テアは柱に梯子をかけて登り、高い位置にロープを取り付ける作業を行う。広場を柱とロープで囲んだ。
「それでちょうどいいのだぁ〜」
 玄間北斗も別の柱に登ってロープを架ける。
「わかりました。これをカゴを預かってくればいいんですね。そうそう、フェルナールさんに頂いた手綱、とっても使い易いですよ♪」
 アイシャはフェルナールからお使いを頼まれて、村の近くにある森へと向かう。
 森では収穫祭の料理で使うキノコ狩りをしている村人達がいた。獲れたばかりのキノコをカゴを二つ分預かってアイシャは村に戻る。その途中、放牧場の側を通過すると子ブタ達が元気に走り回っていた。
「たくさんの料理を作らないと」
 クァイは冒険者用の台所に立つ。ひらりと鉄人のエプロンをつけ、鉄人の大包丁をクルリと回転させる。調理器具一式にレシーアが貸してくれたゴールデンカッティングボードを前にエビやヒラメを捌き始めた。
 自前のものを使うつもりだったが、デュカスが全てを出すといっていたので市場で仕入れたものだ。量も必要なので、そうする事にしたクァイである。ちなみにアイシャの菓子類に関しても同じである。
 本番は明日なので今日は仕込みに留めた。調理を続けているとセレストも掃除を終えて戻ってくる。
「これ、とっても新鮮ですよ。ピンク色でとてもきれいだし」
 アイシャが村人から預かった大きな豚肉を台所まで運んでくれた。必要な部分を切り分けて、クァイとセレストは調理を続ける。
「新鮮で臭みがまったくないのは素晴らしいわ。でも、少し寝かした方が良さそうね」
 セレストは肉に下拵えを施すと、虫がたからないようにして保存する。幸いに夜は冷え込むので、こういう料理をするには適した季節だ。
(「お、美味しそう‥‥。いやダメです。食べてはいけないです」)
 壬護蒼樹は別の村人の家屋でソーセージ作りを手伝っていた。壬護蒼樹の出資金分だ。
 わざと栄養分を増やす為に脂は肉へ多めに混ぜられる。血を混ぜたブーダン・ノワールなどのソーセージも用意された。味付けは保存がきくように塩気も強めだ。
 寄付する集落では単品でソーセージを食べる事はまずあり得ない。他の料理に混ぜた時に脂が多ければ美味さに変わるし、味の濃さも丁度よくなるはずである。
「またねぇ〜♪ さてと」
 レシーアは村の子供達と遊んだ後、散策を始める。
 畑は土が剥きだしだが、麦の種はすでに蒔かれている。以前には何もなかった場所に家屋が建ち並んでいた。建設中の教会も見える。
「なぁるほどねぇ‥目ざましいコト」
 レシーアが独り言を呟いた時、人影に気がつく。デュカスであった。
「レシーアさん、実は――」
 デュカスは家屋のプレゼントについて触れる。すると宮殿がいいだの、侍従か欲しいとか、レシーアは冗談で難題を突きつけた。
「ま、考えとくわ。嫌ってぇワケじゃないかんね」
 レシーアは家屋をもらっても管理仕切れないからと返事を保留する。必ず来られる訳ではないからだ。そんなのは気にせずに、この次はいい返事を待っているとデュカスは答えた。
 デュカスとレシーアが広場に戻るとテアが村の娘達に踊りを教えていた。
「お帰りなさい。みんなとても筋がいいわ。すぐに覚えてくれるんですもの」
 テアは額の汗を拭う。
「あたしも教えてもいいんだけど、あまりに妖しい踊りになっちゃうのよねぇ」
 レシーアは軽やかに笑うのだった。

●収穫祭
 高揚した空気の中、四日目の朝は訪れる。
 セレストとクァイは料理の最終段階にはいった。明日まで収穫祭は続くので、それを考慮して準備は行われる。
 テア、レシーア、玄間北斗の三人は、希望する村人達に化粧や服にアクセントを施してあげていた。その際にはセレストが用意してくれたリボンや、摘まれた花も使われる。
 壬護蒼樹とアイシャは出来上がったばかりの料理を運んだりと村の中を走り回る。セレストが提供した酒類もテーブルに並んだ。
 そしてデュカスの簡単な挨拶を始まりとして収穫祭が始まる。
 手作りの楽器が鳴らされて広場の中心では村人達が踊った。
(「祖国とは異なる風習を知るのも新鮮だわ」)
 テアが笑顔で踊りながら村人達を眺めた。基礎を教えた娘達も上手に踊っている。
「ほらほら、長が辛気臭い顔してちゃ〜ダメでしょ〜」
「あ、いや‥‥」
 レシーアがデュカスを誘って一緒に踊る。彼女なりの励ましであった。
「踊りましょうか?」
「そうするのだぁ〜」
 アイシャと玄間北斗も飛びだして踊りの群れに参加した。
「こちらの、まるごとたぬきさんは空を飛びたいようですが、さてどうなるのでしょう〜?」
 ちょっとした大道芸を玄間北斗が始めたので、それを手伝ったアイシャである。
「同じ考え方もありますけど、違う部分もいろいろとあるんですね」
 壬護蒼樹は料理を頂きながら、村にわずかにいるジーザス教黒教義の者達と話す。違う宗教であるが黒という共通点を話題とする。
「たくさん食べるといいわ。若いんだし」
「ありがとうございます。へぇ〜、果実の甘みがこんなにお肉を引き立てるなんて」
 セレストに勧められてフェルナールは豚肉とフルーツのローストを食べる。調味料、ローズマリー、タイムなどで下拵えされた豚肉を最終的にはローストし、そして煮込まれた果物もそえられていた。
 セレスト自身もワインを片手に陽気に収穫祭を楽しんだ。
 教会の建設も収穫祭の時だけは行われない。石工のシルヴァを冒険者達は労う。
 途中、クァイの演奏と歌が挟まれて、みんなが静かに聞き入る場面もあった。
「♪ 黄昏の空の果て 朱に焦げる雲 立ち昇る煙が祭りの合図
 夕日が落ちたら 外に出ておいで 夜の帳が私達を迎える
 集う人達と笑い交えて 分け合おう 料理と恵みの杯 夜空に掲げて傾けた酒は 夢うつつに明日を見せる ♪」
 歌い終わると、クァイは喝采を浴びる。
 遅くまで続けられた収穫祭だが、その勢いは五日目にも続く。
 テアやレシーアは得意の占いで村人を占ったりしてあげる。これによって若い男女がつき合うきっかけになればよいと考えるテアであった。
 昼過ぎ、収穫祭の直中に村人にとって待望の人物が現れた。
 ルーアンから途中まで馬車で乗せてもらい、背負えるだけの荷物だけを持ってきたのはジャン司祭である。迎えに行こうとしていたデュカスだが、それには及ばないと少し前にジャン司祭からの手紙があったのだ。
「これから皆様と共に神への道を歩んで参りましょう」
 収穫祭はジャン司祭の歓迎会へと変わる。
「司祭様、この村に来られるきっかけはあるのかしら?」
 セレストはジャン司祭の座る野外のテーブルに座ってワインを注ぐ。
「ルーアンの大司教様に推薦されたのが直接のきっかけではありますが、赴任するのであれば、新しい人々の集まりから始めたいと考えておりました」
 まだ三十歳には届いていないであろうジャン司祭は答えた。
 セレストは今後の為にと聖書20冊、筆記用具20組、羊皮紙購入用の10Gを出来上がる予定の教会に寄贈した。
 宵の口まで収穫祭は続いた。楽しい祭りが終わると、冬の訪れを受け入れるエテルネル村の人々であった。

●そして
 六日目の朝、玄間北斗はもらった家屋の名を『縁生樹』と名付けた事をデュカスに話す。
 資材庫として活用するつもりであり、木材などを村の為に保管しておくという。いざという時には使って欲しいとデュカスに伝えた玄間北斗であった。
 アイシャにも家屋は用意してある。そして次の機会があればセレストにも一軒譲るつもりだとデュカスは語った。
 テア、レシーア、クァイにはフェルナールから軽快の手綱が手渡される。以前に渡した冒険者三人にはハンカチーフが贈られた。
 帰りの馬車には玄間北斗用のソーセージがたくさん載せられる。
 冒険者達を乗せた馬車は、七日目の夕方に無事パリへと到着するのだった。