錆びた青年の生活

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 66 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月02日〜11月10日

リプレイ公開日:2008年11月11日

●オープニング

「みんな信じてくれないんです‥‥。ボクじゃないっていうのに‥‥」
 小雨降る日の冒険者ギルド。半泣き状態のエルフ青年がカウンターで受付嬢に事情を話していた。
「こう見えてもボク、ウィザードで、一ヶ月程前に『クイックラスト』っていう精霊魔法を覚えたんです。ギルドの方なら知っていると思いますけど、金属を錆びさせる火の魔法です。得意になって村の人達に見せたボクも悪かったのですが、それからすぐに町外れの風車の金属部分が腐食する事件が多発したんです。みんなボクがやったんだろうと問いつめるのですが‥‥、違うんです。絶対ボクじゃないんですよ!」
 握った拳を震わせながら、エルフ青年は訴えた。
「それで冒険者に風車の金属部分を腐食させている本当の犯人を捕まえて欲しいと?」
 受付嬢はペンを羊皮紙の上で走らせながらエルフ青年に確認をとる。
「その通りです。領地の憲兵を呼んでも、きっと問答無用でボクが捕まえられてしまいそうで‥‥。村に住んでいる者でウィザードはボクだけですし、近隣にもいないみたいなんです。どうかお願いします」
 エルフ青年は依頼金を前渡しするとギルドを立ち去る。
 受付嬢はさっそく犯人探しの依頼書を仕上げて掲示板に貼りつけるのだった。

●今回の参加者

 ea7181 ジェレミー・エルツベルガー(29歳・♂・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ec4047 シャルル・ノワール(23歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec5511 妙道院 孔宣(38歳・♀・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

シャクリローゼ・ライラ(ea2762)/ リアナ・レジーネス(eb1421

●リプレイ本文

●出発
 一日目の早朝、待ち合わせの空き地には一両の荷馬車が停まっていた。
「集まって頂いて、ボク助かります。どうか真犯人を捕まえて下さい」
 依頼人のエルフ青年ツノリオが集まってくれた冒険者達に挨拶をする。
「まったく、余計な事するから疑われるんだ。とにかくこいつの容疑を晴らしてもらえますか?」
 荷馬車の御者でもあるモストリがツノリオの背中を小突く。モストリも青年のエルフであり、二人は友人のようだ。
「もしも人でなく、魔法以外でさびる原因‥と‥‥。クラウドジェルが濃厚かしら?」
「人以外であれば推定ですが、クラウドジェルか貴腐妖精の亜種でしょう」
 見送りのシャクリローゼとリアナは、人の仕業以外に鉄を錆びさせるモンスターの可能性を指摘した。ちなみにとても斬りにくいだけで、ジェル系モンスターも物理攻撃でダメージを負わせられる。
 目的の場所が遠く、時間があまりないのでさっそく出発する事となる。
 ジェレミー・エルツベルガー(ea7181)とシャルル・ノワール(ec4047)は荷馬車の荷台へと乗り込んだ。御者台にツノリオとモストリが並んで座ると馬車は動き始めた。
 妙道院孔宣(ec5511)とソペリエ・メハイエ(ec5570)はそれぞれの愛馬に跨って荷馬車と併走する。
「魔法は便利なものですけど、脅威を感じる人も少なからずいます。自慢するのはあまり感心しないですね。事件が解決したのなら、これからは慎重に」
「その通りです。ボクとしたことが‥‥」
 シャルルの言葉にツノリオが背中を丸めてため息をつく。
「犯人探しには同行してくれ。戦う必要はないから。それと村や周辺の情報をよろしく。特に風車の辺りを聞きたいな」
 ジェレミーが訊ねるとツノリオは目的地周辺の状況を話し始めた。
 村は麦を育てる農家が主で一部牧畜が行われている。風車は近隣の町村や集落が利用しているものだ。山の中腹にあるせいか年中よい風が吹いていて重宝されていた。緩やかとはいえ、わざわざ周辺の人々が山を登ってまで利用している理由がそこにある。
 ウィザードのツノリオだが、もっぱら牧畜を手伝うのが村人としての彼の顔だ。
「とにかく村に着いたら聞き込みをしましょう。新たな情報が得られるかも知れない」
「賛成です。村人に聞いた上で風車の腐食もよく調べておきたいところです」
 騎乗する妙道院とソペリエが左右から荷馬車へと話しかけた。
 村を含めて近隣には自分しかウィザードはいないとツノリオはいう。しかし村に立ち寄った素行の悪い旅人がウィザードであるの可能性は残っている。
 見送りの二人がいっていたようにモンスターの可能性も視野に入れて作戦を考えた冒険者達であった。

●村
 二日目の夕方、荷馬車一行はツノリオとモストリが住む村へと到着する。山の中腹の比較的平らな部分に村は作られていた。
 村内の道を荷馬車で走る間、ツノリオは村人達から冷めた視線を浴びる。その目はモストリや冒険者達にも向けられた。
(「これは深刻ね‥‥」)
 シャルルは肩をすぼめて心の中で呟いた。
 村での滞在の間はツノリオの家に泊まる事となる。
 冬の到来を迎えたば山はかなりの寒さであった。特に夜は凍えるといってよい。
 村到着からすぐに日が暮れたせいもあり、本格的な活動は明日朝からとなる。
「すみません。村のみんな、欲しい物があっても、売っても交換もしてくれないんで‥‥。前はこんなじゃなかったんですけど」
 ツノリオは暖炉の中に吊り下げられている鍋をかき回す。薪はあったものの、食材といえるものは家にほとんど残っていなかった。冒険者達はお湯のようなスープと一緒に保存食で空腹をまぎらわす。
「早いところ、真犯人を見つけないと命に関わるか‥‥」
 ジェレミーは味も素っ気もないスープを飲み干す。それでも温かいものというのは心を安らげるものである。
「少なくとも、デビルやアンデッドなどは村にはいないようです」
 ソペリエがデティクトアンデッドで調べた結果を仲間に伝える。
「あの様子だと聞き込みも難しそうです。どうしましょう?」
 考えていたよりも村人の口が固そうで妙道院は悩んでいた。
「無理に村人と話したら、逆に誤解を生みそうですしね。証拠を突きつけるしか方法はなさそうです」
 シャルルが風に強く揺さぶられている窓の戸から目を離して仲間を眺める。
「今夜の風は強いな。山頂の雪もここまで流れてくるし」
 しばらくしてモストリがワインを抱えてツノリオの家を訪れた。ワインを呑みながらの話し合いは続く。モストリによれば、事件のあった前後に村へ滞在した旅人はいないらしい。
「村の中で腐食の事件は一度も起きていないのか?」
 ジェレミーの問いにツノリオとモストリの二人はそうだと答える。
「なら風車に集中しよう。風車の管理人だけなら話を聞きだせるかも知れない」
 ジェレミーの考えに全員が賛成するのだった。

●風車
「誰かと思ったら、ツノリオかい。まー、村の連中はお前さんが犯人だといっておるが、わしは証拠もなしに決めつけたりはせん。だからといってモストリのように無実だとも信じてもいないがな。で、そちらはどなたさんらなんじゃ?」
「ボクが頼んだ冒険者さん達です。風車が壊れた時の話しを聞かせてもらえませんか?」
 三日目の昼前、ツノリオと冒険者達は村より少し山を登った位置にある風車小屋を訪ね、管理人である初老の男と話した。
 管理人によれば朝方に金属部分の腐食は起きたのだという。
 その日はとても霧が濃い朝で一メートル先も見えない状況であった。そして霧が晴れる直前、風車の柱と壁の一部が崩れて落ちてしまう。
 たまたまの事だと管理人は考えていたが、翌日にも同じような状況で二基目が作動不能となって誰もが疑い始める。
 詳しく調べてみた所、柱を固定していた金属枠が酷く腐食していた。つまり錆びたせいで柱や壁が落下、もしくは倒れたようだ。
 事態は村全体に伝わり、結果としてクイックラストの魔法が使えるツノリオが疑われる展開となる。
 現在、風車は五基の内の三基のみが稼働中であった。
「そういや霧が立ちこめている間、やけに鳥達が騒ぐ鳴き声が聞こえたような‥‥」
 管理人が呟いた鳥という言葉にツノリオと冒険者達は顔を見合わせる。
「こんなに高い位置なのですね」
 シャルルがリトルフライで空中に浮かび、風車の壊れた金属個所を確認した。ステインエアーワードで空気との会話を試みたシャルルであったが、こちらは失敗に終わる。風の強い場所なので周囲に空気の澱みがなかったからだ。
 ツノリオが地上に居たとしてギリギリでクイックラストが届く高さではある。だが霧の中では目視出来ずに腐食させるのは無理であろう。
 霧が立ちこめる以前に魔法をかけた可能性はあるものの、一基目が壊れた後に管理人が他の四基の風車を点検している。その時、酷い腐食は発見されていなかった。二基目が壊れたのは曇っていて月もない夜が明けた朝の出来事だ。
「ボクは空を飛べません。アイテムもありませんし」
 お調子者のツノリオなので、もし空を飛べる手段を持っているのならば、誰かに見せびらかせているはずである。
「この周辺にもいないようです」
 ソペリエはデティクトアンデッドの調査を終えた。
「これは‥‥」
 妙道院は風車側の地面で野鳥の巣らしきものを拾い上げる。一部がまるで溶けたように欠けていた。
 妙道院が仲間に見せると、犯人はモンスターではないかという意見が多く出る。
 相談の末、風車周辺を見張る事となった。
 だが冒険者の誰もテントを持っていない。道中ではツノリオのテントか、荷馬車にあった藁の中に潜って就寝していた冒険者達である。そして火打ち石もなかった。
「家から持ってきますので使って下さい」
 ツノリオが一度家に戻って四人用テントと火打ち石を持ってくる。夜にはより寒くなるのでジェレミーがシャルルに毛糸の手袋と靴下を貸した。
 人数分のテントと火を簡単に起こせる火打ち石、そして冬の間は防寒の用意が冒険には必須だ。寝袋も人数分はないので焚き火でなんとか凌ぐ事になる。もし腐食させているのが人並の知能を持っていたら、焚き火で警戒される可能性が残る。
 風が防げる岩場を野営地として冒険者達は風車周辺の監視を続けるのだった。

●浮遊する物体
 六日目の朝方、風車周辺は深い霧に包まれていた。
 見張りのジェレミーが全員を起こす。腐食の事件が起こった時と酷似する状況に緊張が走る。
 もし人や貴腐妖精の亜種などの説得が出来そうな相手であれば、冒険者達は会話を試みるつもりでいた。
 その為にジェレミーはオーラテレパスを使えるようになるインタプリティングリングを所有している。ソペリエも持っているとても便利な指輪だ。
 鳥達の鳴き声と羽音が様々な方向から冒険者達の耳に届く。腐食の犯人が近くにいる可能性は強まったが、霧のせいで数メートル先しか見えない。真っ暗ではないので太陽はすでに昇っているはずである。
 説得するにしろ戦うにしろ、まずは相対しなければ何も始まらなかった。
「話しがしたい。なぜ鉄を腐食させている? もしかして昔からこの辺りを棲家にしていたのか?」
 ジェレミーが自らにオーラテレパスを付与し、大声で話しかけた。しかし返事はまったくない。
 シャルルがリトルフライで浮かび上がり、固定されている風車の羽根に飛び移った。
(「霧でよく見えませんけど‥‥」)
 シャルルは何かが泡立つような音が聞こえる方向に向けてストームを放つ。濃霧をかき消すような真似は出来なかったが手応えを感じ取る。
「犯人はクラウドジェルだ!!」
 ジェレミーは一瞬、霧の中から現れた犯人の姿を垣間見る。シャクリローゼとリアナがいってきたクラウドジェルの特徴そのものであった。そして会話が成立しない虫程度の知能しかない相手であるのも思いだす。
「戦うしかないようです」
 妙道院はホーリーを放てるように構える。
「不意打ちに気をつけて下さいね〜」
 風車の羽根に乗っているシャルルからの助言を受けて、地上の三人は背中を合わせて直感を研ぎ澄ました。
 ジェレミーは少しでも霧が晴れるようにストームを仲間の周囲に向けて放ち続ける。
「そこ!」
 ジェレミーが襲ってきたクラウドジェルを見逃さずに矢を射つ。
 最終的には取り込まれはしたものの、矢は確かにクラウドジェルにダメージを与えた。
「止めました!」
 クラウドジェルは繰り返し不意打ちを仕掛けてくるが、四度目の試みでソペリエのコアギュレイトが成功する。
「これを喰らいなさい!」
 妙道院がホーリーで止めを刺す。
「まだいますわ! もう一体!!」
 シャルルのストームが別のクラウドジェルを捉え、地面へと叩き落とす。
 今度はタイミングを逃さずにソペリエがコアギュレイトでクラウドジェルをすぐに動けなくする。そしてジェレミーの矢とソペリエのホーリーによって仕留められた。
「朝から騒がしいの。うぉ、これは一体何だ!!」
 風車小屋から現れた管理人が斜面でだらしなく広がったクラウドジェルを目の前にした。周囲にあった枯れ草がクラウドジェルの酸で融けている。
「なるほど、こいつらが犯人だった訳だな」
「霧がありましたけど、どうなりましたか?」
 管理人が感心していると、ツノリオが駆けのぼってくる。いつの間にか霧は晴れていた。
 クラウドジェルは酸を含んでいて危ないので持ち運ぶのはやめる。代わりに風車の管理人が証人となって村で説明をしてくれた。これによってツノリオの容疑は晴れる。
「もうツノリオをいじめないでやってくれ」
 ジェレミーの一言を皮切りに集まっていた村人達がツノリオに謝罪する。これまでの非礼を許してくれと食べ物などを持って村人達がツノリオの家を訪れた。
「久しぶりに真っ当な食事です‥‥。冒険者のみなさん、ありがとう。モストリもありがとうな」
 クラウドジェルを倒した日の夕食は、それなりに豪華なものとなった。冒険者達の他にモストリの姿もある。
「今後クイックラストは時と場合を選んで使った方がよろしいかと」
「ええ。村人の助けになるような事にしか、使わないようにします‥‥」
 シャルルの忠告を頭に手を当てながらツノリオが頷く。ツノリオの家は笑いに包まれるのであった。

●そして
 七日目の朝、冒険者達はパリへの帰路についた。
 ジェレミーが使った矢は、村人のお詫びの中にあったもので補充される。そして以前に手に入れたものとしてモストリからお礼のレミエラを受け取った冒険者達である。
 八日目の夕方、冒険者達は無事にパリの地を踏んだ。
「解決してよかったです。お二人とも今後も仲良く」
 妙道院が最後の言葉を残し、冒険者達は荷馬車から立ち去る。
「それにしても風車の羽根に乗っている間はドキドキしましたわ。もし狂化してしまったらと‥‥」
「狂化は確かに危ない。‥‥もしかして他に何かあるのか?」
 ジェレミーが問うと、シャルルは顔を赤くする。
 四人の冒険者はそのままギルドに立ち寄って報告をするのであった。