あの男の季節 〜ちびブラ団〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月13日〜11月18日

リプレイ公開日:2008年11月21日

●オープニング

 ひゅ〜〜‥‥ドボン。
「た、たちけてくれ〜〜」
「しばらく頭冷やして反省しやがれ。このお調子もんが!!」
 男がパリにやってくると、必ず誰かがセーヌ川に放り込まれる。もっとも男を騙そうとしたりと投げられた者に非はあるのだが。
 男の名はシャシム。猟師であり、山奥で獲った肉を売るのが生業である。
 毛皮については興味がなく、せいぜい自分の身の回りにある服や革製品に使う程度だ。残りは毎年冬の寒さに凍える人々に無料で配布している。
 今年も荷馬車に毛皮を運んできた。一部はちゃんと鞣されて革にもなっていた。
 ある集落の寄付として頼まれていた分の皮革や薫製肉は、すでに冒険者ギルドのゾフィー嬢に預けてある。今、手持ちの皮革はそれらとは別のものだ。
「俺一人じゃむりだな。今年も頼もうか」
 シャシムは冒険者ギルドに出向いて依頼を出す。皮革を本当に必要としている貧しい人々に配る内容であった。
「よう、しばらく厄介になるぞ」
 シャシムは親戚のバムハットを通じて知り合ったボートルの家を訪ねた。
 ボートルはちびっ子ブランシュ騎士団黒分隊長のベリムートの父親だ。当然、息子のベリムートの姿もある。
「シャシムおじさん、右足大丈夫?」
「おお、平気だぞ。もう、ドラゴンに踏まれても折れはせんぞ!」
 ベリムートに以前骨折をしたのを指摘されたシャシムは笑い飛ばす。暖炉の前でベリムートとシャシムはしばらく話しを続けた。
「冒険者と一緒に皮を配るのか。おれも手伝うぞ。仲間も一緒でいい?」
「おー、手伝ってもらえるのなら願ったりだ。よろしく頼んだぞ」
 ベリムートの頭をシャシムが撫でる。
 依頼の頃には同じ猟師を生業としているバムハットも皮革を持ってパリにやって来る。つまり去年の二倍の皮革を配布しなければならなかった。
 翌日の子馬の世話の時、ベリムートはコリル、クヌット、アウストに相談する。
「もちろん手伝うよ〜」
「任せておけよ!」
「一番欲しがっている人に渡さないとね」
 三人は即答し、全員で手伝う事が決まった。

●今回の参加者

 ea4860 ミラ・コーネリア(28歳・♀・バード・人間・ビザンチン帝国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec3546 ラルフェン・シュスト(36歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec4004 ルネ・クライン(26歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec4491 ラムセス・ミンス(18歳・♂・ジプシー・ジャイアント・エジプト)

●リプレイ本文

●集合
 ベリムートが住む家の庭。
「おー、一人来れなかったみたいだが、急用か風邪でもひいたんだろうさ。俺も気をつけねぇとな。集まってくれてありがとうな」
 シャシムが集まってくれた冒険者五人とちびブラ団四人に挨拶をする。
「分けてもらいたいのは、こいつだ」
 シャシムが荷馬車を叩くと積まれていた木箱がグラリと揺れた。中には皮革が詰まっている。
「すごいたくさんだよなあ〜」
 ちびブラ団の四人は頭上の雲を見るように木箱を眺めた。これで全てではなく、明後日にはバムハットもたくさんの皮革をパリに運んでくる予定であった。
「よいしょっと」
 シャシムが箱の一つを地面へと降ろして木製の蓋を外す。
(「貧しい人々にも暖かな冬を‥‥か」)
 ラルフェン・シュスト(ec3546)は木箱から一枚の毛皮を手にとってみた。とても良い質なのが肌触りから素人にもよくわかる。
「とても素晴らしい行いだな」
「よしてくれ。照れるじゃねぇか」
 ラルフェンの言葉にシャシムは大きな口を開けて笑う。
「シャシムさん、元気になってよかったわ。ところで私にも毛皮の肘掛けやマントを作れるかしら?」
 ルネ・クライン(ec4004)も毛皮を手に取って広げてみる。きつい臭いもなく、綺麗に処理されているのがわかる。がさつに見えるシャシムだが、結構まめな男だ。
「ボクも手伝うのデス。でもヘタッピだから誰かに教えてもらいたいのデス」
 ラムセス・ミンス(ec4491)は膝を曲げて箱の中身を覗き込んだ。フェアリーの花水木が真似をする。
「ええ、いいわよ。一緒に作りましょう。大きな一枚物はそのまま敷物、または前で合わせるような一枚服かマントがいいわね。小物はつなぎ合わせるか靴下かミトンがいいかしら?」
 セレスト・グラン・クリュ(eb3537)はルネから毛皮を受け取って何を作るかを想像した。硬質の毛皮についてはとても力がいるのでシャシムとバムハットに任せるつもりである。
「アニエスはどう思う?」
 セレストは娘のアニエス・グラン・クリュ(eb2949)に振り返る。アニエスは地面に落ちている枯葉を見つめて物憂げな様子だ。
(「折角の参賀でしたのに、あの方のお姿を探してしまって‥‥勝手に落胆してるなんて‥‥」)
 アニエスが思いだしていたのは収穫祭での出来事だ。
「どうかしたのかしら? アニエス」
「あ、はい! い、いえ‥‥なんでもありません」
 アニエスは母に声をかけられて我に返る。
「シャシムといいますわい。よいお子さんをお持ちですな」
「セレスト・グラン・クリュですわ。娘がお世話になっています」
 シャシムがクリュ親子に近づいた。そしてセレストと挨拶を交わす。
「アニエスのお嬢ちゃん、前の骨折の時は助かったぞ」
「シャシムおじ様が回復されてとても嬉しいです! こちらこそバハムットおじ様とのお二人から精霊の森の方々にも温情を頂きましてありがとうございます」
 アニエスは寄付をしてくれた事に感謝をする。
「この娘は騎士として当然な事をしているだけ。でも褒めて下さるのは嬉しいわ、あたしの宝物なの」
 セレストはシャシムの前でアニエスの肩に優しく掌を乗せるのだった。
「シャシムおじさん達におじさんがどうもありがとうって言ってたデス」
 ラムセスもシャシムとバムハットに感謝していた。
 皮革を前にして一通りの意見が出た所でさっそく行動開始である。
 セレストは裁縫の材料を買いに行く途中で手紙を出す。貧民街に住むピュール助祭の教会宛である。後日出向くことがしたためられていた。
 ベリムートの家の居間を借りて皮革の縫製も始まる。
「それではジョキジョキするのデス」
「よっしゃ。支えるのは任せてくれ」
 力持ちのラムセスがラルフェンが用意してくれた裁縫道具内のハサミで毛皮を裁断してくれた。クヌットがお手伝いをする。
「こうするといいみたいね。ほら、とても綺麗に仕上がるわ」
「そっか〜。えっと」
 ルネは腕まくりをして膝掛け作りを頑張っていた。側ではコリルが見よう見まねで毛皮に針で糸を通してゆく。
「本当、器用だわね」
「そ、そうでもないです」
 セレストの裁縫を手伝うのはアウストだ。おかげで次々と完成品が仕上がってゆく。
「命は大切なもんだからな。他の動物の命をもらって俺達は生きとる。毛皮もちゃん使ってやらねぇとな」
 シャシムは分厚い革を切りながら呟くのだった。
(「ここの空き地で分けたはず‥‥」)
 アニエスはパリの裏地図を広げて、以前に配布した地域を洗いだしていた。
 今回の配布地域から外すのではない。たくさん分けた地域はそれだけ需要があると考えられる。生活費の足しに春から夏にかけて売却してしまった者もいるかも知れない。そういう人にも新たな毛皮が必要なはずだ。
「持ってきた手袋や長靴、靴下なども分けておこう考えている」
「それはみんな喜ぶね。テルムにも載せるから連れてくよ」
 ラルフェンはアニエスから先に何カ所か皮革を必要としている地域を教えてもらい、ベリムートと準備をする。加工しなくても使えそうな毛皮を愛馬パルフェの背中に積み終わると、子馬テルムを連れたベリムートと一緒に出かけた。
 ルネも一緒に行きたがるが、毛皮での裁縫を優先したようだ。別の日に一緒に回る事となる。
 アニエスは地図での絞り込みが終わると愛馬テオトコスで出かける。木工ギルドなどで貧しい人達に役立てるのを理由にして、廃材をもらう約束を取りつけた。
 そしてアニエスはワイン問屋で若主人を任されているシモンの元も訪ねる。
 シモンはパリが大変な時、冒険者と当時恋人だったエリーヌの力を借りて炊き出しを行った事がある。その時に使った大鍋を借りたいとアニエスが頼むと快く貸してくれた。
「‥おめでた、ですか?」
「そうなんです。もう嬉しくて嬉しくて」
 店の奥にいるシモンの妻となったエリーヌのお腹はとても大きかった。目が合ったエリーヌとアニエスは互いに会釈をする。
 二日目も前日と同じような作業が続く。
 セレストは教会に出向いて炊き出しの正式な許可をとる。その際にセレストから多額の寄付が教会にあった事を知る者は少ない。
 炊き出しは三日目と決まった。

●炊き出し
 貧民街の教会。
 庭ではシモンから借りた大鍋からもくもくと湯気が立ちのぼる。
 三日目の昼過ぎから炊き出しは始まった。
「膝掛け、とっても暖かいのよ。どうぞ♪」
 ルネとちびブラ団は縫いあげた毛皮の品を炊き出しに集まった人々に手渡しする。
「グルグルなのデス。かき混ぜると美味しくなるのデス」
 ラムセスは大鍋を櫂のような大きく長い棒でかき回す。すぐ側ではちびブラ団が教会から借りた器によそってスープを分けていた。
 スープはセレスト特製である。食材の下拵えはみんなで手伝った。
「これを首にかけると暖かいぞ」
 ラルフェンは屈んで目線を合わせると、教会で暮らしている子供達に毛皮の首掛けを巻いてあげる。先日、立ち寄った別の教会でも身よりのない子供達を見かけていたラルフェンであった。その時のお菓子を受け取って喜ぶ子供達の姿が脳裏に浮かんだ。
(「がんばれよ」)
 心の中でラルフェンは応援した。
「何かをしなければと思っていた矢先でした。この度の事、ありがとうございます」
「頼んだのはこちらですし。ところでフェルナンと彼のお母さんは元気?」
 ピュール助祭とセレストは盛況な庭の様子を眺めながら少しだけ立ち話をする。
 セレストが気にしていたフェルナンとその母は大丈夫なようだ。フェルナンは理髪店に務め続けてるし、母親も元気になったという。
 その頃、アニエスは炊き出しには参加せず別の場所にいた。
「この穴さえ塞げば大丈夫です。聖夜祭を迎えるには暖かくしないと‥‥」
 アニエスは金槌を手にラルフェンに教えてもらった家で壁や屋根の修理をする。街中で配布をした際にラルフェンが家の状態を訊ねておいてくれたのだ。
 すきま風がなくなるだけでも室内の暖かさはかなり違うものである。
 炊き出しに集まってくれた人々への配布で、すべての皮革はなくなった。
 アニエスも合流し、和気藹々と全員でベリムートの家に戻ると、新たな木箱が載せられた荷馬車が停まっていた。
「遅くなっちまったな」
「待ってたぞ」
 親戚同士のバムハットとシャシムが拳を合わせた豪快な挨拶をする。明日からはバムハットが持ってきた皮革の配布が始まるのであった。

●配布
「駆け出しとか、生活が大変そうな人を教えて欲しいのデス。毛皮を配るようにお願いされたデス〜」
 ラムセスは冒険者ギルドで受付のゾフィー嬢に相談をしていた。
「怪我をして一時休業をしてる人なら喜ぶと思うわよ」
 ゾフィーは何軒かの冒険者の棲家を紹介してくれる。
「ありがとうデス。アロン君、重いけどいくのデス。終わったらあったかい御飯を用意するデスから頑張りましょ〜」
 ラムセスは元気よく冒険者ギルドを出ると、カメとフェアリーを連れてさっそく向かうのであった。

 アニエスは母セレストがピュール助祭から教えてもらった建物の前に立っていた。一人暮らしで最近教会を訪れていない信者の家である。
 煙突から戻ってきたフェアリーのニュクスとオーラテレパスで会話をする。それからフライングブルームに跨り、窓から家の中に入った。
「怪しい者ではありません。ピュール助祭が心配なさっていたので。大丈夫ですか?」
 アニエスは体調を崩して寝ている病人に声をかける。
「風邪ひいちまってね。なに、もう少し寝ていれば治るさ。そうか、ピュール助祭が心配してたかい。手間、かけさせちまったね」
 咳をしながらも病人は答える。
 アニエスは用意してきた柔らかいパンとワイン、そして毛皮の掛け布団を置いてゆく。
 パンは炊き出しの調理の際に用意したもの、ワインはシモンが寄付してくれたものだ。もちろん毛皮はシャシムとバムハットからの贈り物である。
 何軒か訪問を繰り返すうちに、酷い病状の患者と遭遇する。母にいわれた通り、アニエスは愛馬に乗せて教会まで患者を運ぶのだった。

「心配しなくても大丈夫。しばらくはゆっくりとなさってね」
 教会の一室ではアニエスが連れてきた患者をセレストが看病していた。
 セレストが用意したベルモットには薬草の成分が含まれている。適量ならば身体も暖まるし、病人にはとてもよいものである。
 セレストは四日目と五日目のかなりの時間を看病に費やした。

「あなたがテルムね。女の子同士、レンヌと仲良くしてね」
 ルネは愛馬レンヌを連れてベリムートの子馬テルムに挨拶する。テルムとレンヌは続けて啼いた。
 ルネはラルフェンとちびブラ団と一緒に皮革の配布を行った。
 途中で出会った子供達と遊んだりしながらも皮革はすぐになくなる。ベリムートの家に戻って補充しては配布するのを繰り返す。
「誕生日?」
「そうだよ〜。明日はクヌットなの」
 ラルフェンとルネは同時に声をあげた。コリルによれば明日はクヌットの誕生日だという。
「これは何かしてあげないとな」
 ラルフェンが顎に手をあてて考える。
 配布が終わって集合した時、ラルフェンとルネは仲間にクヌットの誕生日を伝えるのだった。

●配布完了と誕生日
「おかげさんで大好評だったぞ。みんな、ありがとな」
 寒空の下、シャシムが一同にお礼をいう。
 お礼として倒したモンスターが持っていたというレミエラを冒険者に渡す。後で使えるレミエラと交換する形となる。
 外は寒く、室内で休む事になった。
「え? なんだ? これ」
 クヌットが一人だけ首を傾げた。
 居間のテーブルには美味しそうな洋梨のケーキやグレープジュースが並んでいた。クヌットは知らないが、ケーキはセレストとルネが焼き上げたものだ。
「誕生日、おめでと〜♪♪」
 ちびブラ団仲間のコリル、アウスト、ベリムートがクヌットを祝う。冒険者達やシャシム、バムハットも続いた。
「そっか〜。俺様、今日、誕生日だったんだな」
 クヌットの一言にずっこける一同。どうやら本人はすっかり忘れていたようだ。
「ありがとな。うわぁ〜美味しそうだ」
 今すぐにもケーキにかぶりつきそうなクヌットだが、その前にみんなからのプレゼントがある。
「クヌット、お誕生日おめでとう。素敵な騎士様にまた1歩近づいたわね」
「暖かいなぁ。ありがとう、ルネさん」
 ルネからは藍色の毛糸マフラーである。突然に誕生日を聞いたので夜なべをして編み上げたものだ。妹のジュリア用の手編み帽子も渡された。
「誕生日が来たらコリルとアウストにもマフラー編んであげるわね♪」
 ルネは二人にウィンクをした。
「私からはこちらです」
「でっかい剣持ってるのが俺様か。かっこいいな。こっちのお姫さんは‥‥ジュリア?」
 アニエスがクヌットに贈ったのは木彫りの人形である。大振りの剣を携えた未来のクヌットと豪華なドレスを来たジュリアとのセットだ。
「ボクからはこれデス。あったかいとよいデス」
「ほわほわしてるんだ。冬にはちょうどいい感じだぜ」
 ラムセスは余った毛皮を合わせて作った椅子用の敷物を贈った。クヌットとジュリアの二枚である。
 次はラルフェンの番だ。
 まずはちびブラ団の四人全員にお菓子をあげた。すでに十歳を迎えているクヌットとベリムートには祝辞付きのカードがそえられている。
「ひとつ大人となったところで、なにか抱負はあるのかい?」
「そうだなあ‥‥。剣をうまくなりたいかな。絶対、将来は騎士になるんだ。俺様、本気なんだぜ」
 ラルフェンに答えるクヌットの瞳は輝いていた。
 都合がつかない場合もあるからといって、ラルフェンは購入してきたブタさんペーパーウェイトを四人に贈った。文武両道を目指して欲しいという意味を込めて。
「さあ、それでは頂きましょう。ほっぺた落ちても知らないから」
 セレストの贈り物は美味しい料理である。ハーブティを飲みながら頂くケーキはとても心が温まった。
 大人のシャシムとバムハット用にはミートパイも用意されていた。発泡酒が恋しくなるだろうが、それは今夜の楽しみにしてもらうセレストである。
 ベリムートの両親も一緒に、お茶会兼クヌットの誕生日会は楽しく過ぎ去った。自宅に戻れば家族からもクヌットは祝福される事だろう。
 冒険者達はちびブラ団の三人を家に送り届けた後で、ギルドへ報告に向かうのであった。