死者達の行進

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 87 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月17日〜11月23日

リプレイ公開日:2008年11月26日

●オープニング

「ゆっくりと、しかし確実に奴らは集落へ近づいているんだ」
 冒険者ギルドのカウンターに座った中年男性が声を震わせながら受付嬢に相談を始めた。寒いのではなく恐怖によるものである。
 男性が思い浮かべるのは六体のズゥンビ。ボロボロではあるが大道芸人の格好をしていて、森の中の道を非常にゆっくりと歩いているらしい。
 動物や人を見ると襲おうとするものの、あまりに動きが鈍くて追いつけず、諦めて再び歩きだすのをズゥンビ六体は繰り返しているという。
「森の向こうには山がある。越えようとしたら死んじまってズゥンビになったんじゃないかと集落のみんなはいっていた。いくら歩くのが遅くてもいつかは集落に辿り着く。その前に退治して欲しいんだよ」
 男性は集落の代表として依頼を出し終える。
「奴ら、歩きながら大道芸をしているんだな。何も投げていないけど、手だけはジャグリングの仕草とかさ。とても怖いが可哀想とも思っているんだ。どうか早く楽にしてやって欲しい」
 男性は胸の前で十字を切ると、冒険者ギルドを立ち去るのだった。

●今回の参加者

 ea7181 ジェレミー・エルツベルガー(29歳・♂・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ec5199 重井 智親(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec5511 妙道院 孔宣(38歳・♀・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

シャクリローゼ・ライラ(ea2762

●リプレイ本文

●道中
「そのズゥンビの六人、どうやって発見したんだ?」
 揺れる馬車の中でジェレミー・エルツベルガー(ea7181)は、御者台に座る依頼人サリカタに質問をしていた。パリを出発してまだ間もない頃である。
「いくら森とはいえ、道のど真ん中を歩いているんだ。嫌でも気がつくってもんさ」
「ズゥンビが何処から来たか、何か思い当たる節でもあったり‥しない?」
「特にないね。ま、森の向こう側に山があるから、遭難したか山賊にでも襲われたんじゃないかね」
「死んだ原因はそれだとしても、そう簡単にズゥンビになんてならないんじゃないかな」
「その通りなんだよな。だからこそ困っているんだ。俺達で倒そうって話もあったにはあったが、こんなの初めてでね。なら専門家って事で、冒険者ギルドに頼んだって訳だ」
 相槌をうちながらもジェレミーは今一納得していない。何か心の隅で引っかかる感じが残っていた。
(「サリカタさんの行動にも不可思議な部分がありますし、ここは慎重に」)
 重井智親(ec5199)は馬車の中でジェレミーとサリカタの話に耳を傾ける。
 行進しているズゥンビ達の所までの案内を頼むと、サリカタはすんなりと引き受けてくれた。それ自体は嬉しいのだが、見方を変えてみると現場まで元々同行しようとしてたとも考えられる。何にせよ彼の安全も含めて警戒を怠らないつもりの重井智親であった。
「つけてくる者はいません」
「引き続き、注意して旅を続けましょう」
 妙道院孔宣(ec5511)とソペリエ・メハイエ(ec5570)は、それぞれ愛馬に跨って馬車に併走していた。二人もジェレミーとサリカタの会話を聞いてはいたが、一番意識を向けていたのは周囲への警戒である。
 その他に森の地形や集落の状況についての情報を冒険者達はサリカタから仕入れる。考えてきた作戦にそれらを当てはめてゆく。
 一つ、問題が残った。
 その他の信仰も存在するものの、ノルマン王国の基本はジーザス教白教義である。
 ズゥンビ六体を倒した時、ジェレミーは燃やしてしまう案を仲間に提示した。ズゥンビは腐った死体であり、不浄である。何かしらの病気をまき散らす原因になりかねない。浄化をするには燃やしてしまうのが確かに一番なのだが、同時にそれは火刑を連想させる。
 火刑は大罪を犯した者へ処されるものである。常識に照らして考えれば、ズゥンビ六体の生前はジーザス教白教義の可能性が非常に高かった。
「被害が想定される以上、仕方がないでしょう」
 イギリス出身であったが、ソペリエはジーザス教白教義の神聖騎士である。彼女はズゥンビを燃やすのはやむなしと考えた。ここで躊躇して、もしも集落に病気でも流行ったのなら大問題だからだ。
 作戦も決まり、一行は先を急いだ。
 馬車が森外縁の集落に到着したのは二日目の宵の口であった。

●森
 サリカタが用意してくれた集落の小屋が目的地周辺での拠点となる。
 三日目の朝、冒険者達はズゥンビ退治に向けての本格的な行動を開始した。
「あれか。確かに何か妙な動きをしているな」
 ジェレミーはフライングブルームに跨って森の上空を飛ぶ。眼下の拓けている森の道ではズゥンビ六体が行進していた。
 サリカタのいっていた通りにズゥンビ達はただ歩いてるだけではなかった。
 何かを放り投げてジャグリングをしようとしている者。
 誰もいるはずもない道の両脇に向かって手を振る者。
 逆立ち歩きをしようとして失敗し、何度も転げるのを繰り返す者。
 生前は美人であったのだろう、ポーズをとってお色気を振りまく者。
 看板を手におどける仕草をする小柄な者。
 笛を吹くような仕草をする者。
「確かに芸人だねぇ。物見小屋から脱走でもしたのか?」
 ジェレミーは少しでも歩みが遅くなるようにと、ズゥンビ達の前方の道に生える草を使って簡単な罠を仕掛けておく。そして芸人の道具も周囲にばらまいておいた。
 その頃、重井智親がもう少し集落に近い道の外れで穴掘りをしていた。ちょっとした崖があり、大きく森の道が曲がっているすぐ近くであった。
「このくらいの深さでいいでしょう」
 重井智親はゴルデンシャウフェルを手に次の穴掘りに取りかかる。
 落とし穴にすべてのズゥンビが落ちるとは限らないが、何体か減らせればそれだけで戦いが有利になる。
 穴自体はそれほど深いものではなかった。足止めが目的なので、本格的な落とし穴を作る意義はとても薄いし、そんな時間も労働力もない。一時的な足止めさえ出来ればそれで充分である。
「このぐらいでよいでしょうか?」
 森の奥から妙道院が落とし穴用に使う小枝を抱えてやって来た。
「そこに置いてくれれば助かります」
 小枝を組み合わせて落とし穴に蓋をしていたソペリエが頷く。最後は枯葉を撒けば落とし穴があるとはわからなくなる。念のため小枝を落とし穴の右端に刺して目印にしておく。
 冒険者達は罠が仕掛け終わると森を調査した。
 ソペリエはデティクトアンデッドを時折使って注意深く探る。発生条件がわからない以上、行進の六体以外にズゥンビが存在するかも知れないからだ。
「あの辺りに落とし穴があるのは、集落のみんなに伝えておくよ」
 サリカタも冒険者達に同行していた。
「ズゥンビは何処から来るのでしょう? 私は僧兵です。気になります」
 行きの馬車内でジェレミーがしていた質問を今一度妙道院がサリカタに問うた。重井智親とソペリエもサリカタを見つめる。
「まいったね。本当に俺が聞きたいところなんだな。その質問の答えは」
 頭をかきながらサリカタは苦笑いをする。
 夜、集落の小屋で冒険者達は昼に得た情報をつき合わせた。
 サリカタを含めて集落の人々の中で魔法を使えそうな者はいない。正体を隠しているのかも知れないが、その雰囲気は感じられなかった。
「死者を蘇らす魔法もあると聞きますが、この集落とは関係なさそうです」
 暖炉に薪をくべながらソペリエが語る。
「森の中に、この集落以外の人家は見あたりませんでした」
 セブンリーグブーツを活用して重井智親は調べたようである。
「フライングブルームで山の麓まではいってみたけど、怪しいのはなかったね」
 ジェレミーがあまり美味しくない保存食を水と一緒に胃袋へ流し込んだ。
 集落の人々とズゥンビの間に因果関係はないと結論が出る。
 ただ単に、ゆっくりと向かってくるズゥンビ達に恐怖を感じた集落の人々が代表者を立てて冒険者ギルドに退治の依頼を出したようだ。
 もし死者をズゥンビにしてしまう何かがあるのなら、それは遠くにそびえる山にあるのだろう。
 ズゥンビ退治は四日目の昼と決まる。
 明日に備え、暖炉で室内をよく暖めてから眠りに就く冒険者達であった。

●戦い
 六体のズゥンビの周囲はまるで時間の流れが違うかのようであった。
 昨日の夕方確認した位置から一晩のうちに進んでいたのは約三百メートル。
 サリカタによれば普段ならもう少し進んでいるところだが、そこに留まっていたのには理由があった。ジェレミーが作った罠と道の真ん中に撒いておいた芸人の道具のせいである。ズゥンビ達は、それらを手にして芸をしようとしていたのだ。
 サリカタには被害が及ばないように離れた位置で待機してもらう。
 冒険者達は配置についてさっそく作戦を開始する。
 まずはジェレミーがフロストウルフのエルクをズゥンビ達のいる道へと放った。
 エルクが道に現れると、ズゥンビ達は本能のままに追いかけ始めた。道での行進の時よりは速いものの、それでもエルクに追いつけるはずもない。
 道から外れ、森の中をズゥンビ達が進んだ。
 やがて落とし穴の周辺にズゥンビ達が辿り着く。一体のズゥンビが片足を落とし穴に突っ込ませる。次々と引っかかり、合計で三体のズゥンビがその場に釘付けとなった。
(「出来る限り遠距離で始末をつける!」)
 ジェレミーの矢が宙を切り裂いてズゥンビAの額に突き刺さる。狙うは罠にはまっておらず、仲間からはぐれかけたズゥンビである。
(「狙うはまだ動けるズゥンビ。敵の動きを止める事こそ勝利への鍵です!」)
 大木の裏に隠れていた重井智親が飛びだす。その姿勢は地を這うように低く、枯葉を舞いあげながらズゥンビBの片足首を小太刀で斬り裂いた。
 立ち止まらず、一旦遠くまで通り過ぎたのは作戦である。動きさえ止めれば、あとはどうにでも出来るからだ。
「立ち止まりなさい」
 ソペリエはコアギュレイトで、ズゥンビCを動けなくする。これで落とし穴にかかった者も含めて自由に動けるズゥンビはいなくなった。
「魂に安息を。どうか安らかに」
 妙道院は大木の幹の上に立ち、下方の動けないズゥンビに向かって聖なるホーリーを放つ。出来る限り、ズゥンビの身体が周囲に飛び散らないようにする為である。
 ジェレミーの弓矢による攻撃と合わせて、遠距離攻撃でズゥンビ全員を重傷まで追い込んだ。後は近接で重井智親とソペリエが一気に畳み込んでくれる。
 最後はジェレミーが用意してきた清らかな聖水で止めが刺された。
「どうか、天国へ召されますように」
 戦いが終わった後、現場へと現れたサリカタは胸の前で十字を切る。
 ズゥンビの遺体は集められ、サリカタが用意した油がかけられる。
 そして火が点けられた。手向けとして芸人の道具も一緒に燃やされた。
 冒険者達はそれぞれのやり方で弔う。
 今の森は枯葉が多く落ちているので、火が完全に消えるまで見届けられた。
 残った灰は一つの穴に埋める頃には日が傾き始めていた。
 焼いた周囲に小川から汲んできた水を撒いてズゥンビ退治は終了となる。
 今一度、冒険者達は日が暮れるまで森の中を探索して他のズゥンビがいないかを確認する。
 ズゥンビが森に現れる事などこれまではなかったとサリカタから冒険者達は聞いていた。サリカタの両親の世代もズゥンビとの接触は初めてであったらしい。
 集落へ戻る途中、冒険者四人は振り返って夕日に染まる遠くの山を眺める。
 あの山で何かがあったのは間違いない。もう二度と死者をもてあそぶような出来事が起こらないようにと祈る冒険者達であった。

●そして
 ズゥンビを倒してくれたお礼として、冒険者達は集落の人達が用意してくれた山菜鍋を夕食に頂いた。
 ジェレミーが使った矢に関しても集落の猟師が補充してくれる。
 五日目の朝、冒険者達はサリカタの馬車を中心にしてパリへの帰路へつく。六日目の夕方にはパリの地を踏んだ。
「生きたまま山を越えてきた奴らの大道芸を是非見たかったもんだ。もしも収穫祭の時期であったのなら、盛り上がっただろう‥‥。助けてくれてありがとうな。これで安心して冬を越せる。またズゥンビが現れたら冒険者ギルドに頼むつもりだ。もっとも、そんなことは起きないと思うがね」
 サリカタと冒険者達は最後に別れの言葉を交わした。
 冒険者達は報告の為に冒険者ギルドへ立ち寄る。ついでに集落の者達からもらったレミエラを使い道のあるものと交換し、今回の依頼は終了となった。