仇のガヴィッドウッド

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 94 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月18日〜11月26日

リプレイ公開日:2008年11月26日

●オープニング

 日に日に寒くなる季節。杖をつく一人の老婆が冒険者ギルドを訪れる。
 時々咳をする老婆は足腰だけでなく視力も衰えていたが、それでも自らの足でカウンターにまで辿り着いた。
「もうすぐなんでの。そろそろやっとかんと、いかんと思うてな。あやつを」
 老婆は年季の入った革袋を受付嬢の目の前に置いた。
「今まで貯めた金がそれに入っておる。ガヴィッドウッドを一本、退治してもらえるかの? ゴボッ――」
「だ、大丈夫ですか?」
 酷い咳をした老婆を受付嬢が心配する。
 落ち着くと老婆は身の上話を始めた。
 老婆がまだ若くて二十代であった頃、結婚したばかりの夫とパリを目指して旅をした事がある。
 長い旅のせいか判断力が鈍り、ある時、人喰樹であるガヴィッドウッドの根本で休憩をとってしまう。
 夫は若かった老婆を救ったものの、ガヴィッドウッドに食べられてしまった。
 悔しくてもどうにもならず、憔悴しながらも老婆は一人パリを目指した。月日は流れ、他の男性と一度結婚したが死別して今に至る。
「ずっと忘れておったのだが、足腰が悪くなった数年前から毎日のようにあの人の夢を見る。目も悪くなり、もう老い先短いと感じておるし、今のうちに墓を用意しておきたい。ガヴィッドウッドは憎き相手だが、考えようによってはあの人の骸ともいえる。冒険者に退治してもらい、切り株の側にでもわたしの墓を建てるつもりじゃて。どうか協力してくれないかい?」
 老婆の言葉に受付嬢が頷いた。そして地図を広げ、老婆の記憶からガヴィッドウッドの位置を特定する。
 老婆が帰った後、受付嬢はすぐに依頼書を掲示板に貼りつけるのであった。

●今回の参加者

 ea8539 セフィナ・プランティエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb2235 小 丹(40歳・♂・ファイター・パラ・華仙教大国)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec1997 アフリディ・イントレピッド(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2494 マアヤ・エンリケ(26歳・♀・ウィザード・人間・イスパニア王国)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

ラーバルト・バトルハンマー(eb0206)/ 中 丹(eb5231

●リプレイ本文

●出発
 一日目の早朝、冒険者六人を乗せた馬車がパリ近郊を駆け抜ける。目指すはガヴィッドウッドが潜む森である。
(「帰った時は直接報告致します。そして身体が暖まるように、スープでもお作りしましょう」)
 セフィナ・プランティエ(ea8539)は馬車窓から顔を出して冷風にさらす。そして遠ざかってゆくパリ城塞を見つめた。退治を優先し、出発前の依頼人フェリーナとの面会を諦めたセフィナである。
「人も食べちゃう木があるんだね。おばあさんの願い、叶えないとだね」
 エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)は御者の隣りに座っていた。とても肌寒い季節だが暖かいマントを着ているので平気である。
「結構な昔、フェリーナさんが酔っぱらった時、一度だけガヴィッドウッドの事を話題にしていたな。まさか何十年も抱えていた前の旦那への想いだとは知らなかったよ。どうか、仇を討ってやってくれ」
 馬車の持ち主でもある御者は冒険者全員に声をかける。
「っていうかぁ、ガヴィッドなんとかって何もんよ。ウネウネする木なんて信じられないし。弱点とかあったりしたりすんのぉ?」
 マアヤ・エンリケ(ec2494)は肘を伸ばして窓枠へもたれ掛かる。
「私が知るところによれば、大木であり、たくさんの蔦が絡んでいるようです。他にも木のモンスターは存在しますが、ガヴィッドウッドは食欲しかない凶悪な食肉植物です。ウロのような口があり、そこから食べるようですね。主な攻撃は枝や根による殴打。そして移動はどうやら出来ないらしいです」
 エルディン・アトワイト(ec0290)は書物マッパ・ムンディを手にしながらガヴィッドウッドについての知識を仲間に教えた。
「ほっほっほっ、依頼書によれば森に人は住んでおらんようじゃが、側には村や集落の一つぐらいはあるはずじゃ。そこでも情報は得られるじゃろ」
 小丹(eb2235)は口ひげを触りながら笑う。普段からつけ髭であり、寒くなってきたので今回はふさふさタイプである。
「旅の途中で休憩した時に、と言う事だから森の中を走る道の近くにガヴィッドウッドは存在すると思えるが‥‥。猟師とか住んでいないのかな」
 アフリディ・イントレピッド(ec1997)も森周辺で村や集落を探すのに賛成する。
 聞き込みに関しては冒険者の誰もが同じような行動を考えていた。
 一行は一晩の野営をし、二日目の昼過ぎに森が望める所まで辿り着く。
 七日目に迎えに来てもらう約束を交わして冒険者達は馬車を駆る御者と別れる。そして森外縁にあった集落を訪ねるのだった。

●森近くの集落
「人食い大樹のことかい? ああ、かなり森の奥まったところだが集落のもんなら誰でも知っているさ」
 冒険者達がガヴィッドウッドについて訊くと、すぐに集落の人々から答えが返ってきた。
 森の中には自然に出来た道がいくつか存在する。獰猛な野獣やモンスターが徘徊する森であるが、さすがに凶悪なガヴィッドウッドが道沿いに立っている訳ではなかった。
 旅人がガヴィッドウッドに接触してしまうのは水音のせいである。
 道から離れた所に小川が流れており、段差があるせいで、ある個所が小さな滝になっていた。
 近くを通ると滝の音がよく聞こえるので、水を欲した旅人は道を外れて茂みに立ち入ってしまう。やがて滝近くに存在するガヴィッドウッドに襲われてしまうという。
 集落に立ち寄った旅人に対しては注意をしてあげられるが、通り過ぎる者も多い。森の反対側からやってくる旅人に対しては、その機会すらなかった。
 立て札を用意しても、すぐに茂みに覆われてしまうようだ。
 聞き込みが終わり、冒険者達は集落の片隅を借りて野営を始める。森に入るのは明日からだ。
 拾った落ち枝で焚き火をして全員で囲む。
「ボクは弓矢で狙ってみようと思うんだ。最初はマトックで根を狙うけどね☆」
「‥‥エラテリス嬢ちゃん、ちょっとこれを撃ってみて欲しいんじゃ」
 弓矢を手にしたエラテリスの姿を見て不安を感じた小丹が立ち上がった。
 小丹は小走りに焚き火から遠ざかると、一本の薪を岩の上に立てる。
「よ〜し☆」
 エラテリスが弦を弾かせて矢は宙を走った。しかし一直線に矢が向かった先は立てた薪から十メートル程離れていた小丹である。
「な、なんじゃ?!」
 小丹は念の為に抜いておいた刀剣で咄嗟に矢を弾き飛ばした。ミサイルパーリングである。折れた矢が地面へと落ちた。
 エラテリスは膝を曲げて屈み、しばらく折れた矢を見続ける。
「マトックだけにしておくね☆」
「そ、そうしてくれるじゃろか。基本を学んでから使ってくれんかのう」
 見上げたエラテリスに冷や汗をかいたままの小丹が頷く。
「今日は集落の中だから見張りしないでもいいでしょぉ〜。早く寝ないと肌が荒れちゃうしぃ。先、寝とくわぁ」
 マアヤは仲間が用意してくれたテントの中に潜り込もうとする。文句はいいながらも、これまでちゃんと見張りをこなしてきたマアヤであった。
「明日には森に入ります。警戒をお願いしますね」
 エルディンはインタプリティングリングでオーラテレパスを付与し、愛犬イコといくらかの言葉を交わす。
 地図も昼の間に用意してある。一本道のようなので特に迷う事はないだろう。問題があるとすれば野獣やモンスターである。
「リアンも猛獣がいたら教えて欲しいです。危険な森のようですので」
 セフィナはブレスセンサーが使える風フェアリーのリアンにお願いしておいた。コクリとリアンはセフィナに頷いた。
「水音がする辺りにガヴィッドウッドが存在するのか‥‥」
 ブルースカーフで耳を隠していたアフリディは森の方角へ振り向く。暗くて何も見えないが、獣の遠吠えが時折届く。
「辿り着くまでの少々の厄介も覚悟しておこうかね」
 アフリディにつられて仲間も森へと振り向くのだった。

●森
 三日目の早朝、冒険者達は森へ足を踏み入れた。
 集落の人々によれば、ガヴィッドウッドの場所まで歩きなら約一日かかるらしい。
 森を横断するのには約三日を要する。この微妙な位置にガヴィッドウッドが立っているのも被害を増やしている一因であろう。無理に森を突破するには先が遠く、ちょうど疲れがたまってくる頃に違いない。
 隠密に長けた小丹がわずかに先行し、弱い敵が襲ってきたのなら一人で対処する。
 ペット達による周囲の警戒も功を奏し、一行の本隊も不意をつかれるような事はなかった。
 オーガ族、狼の群れ、まだ冬眠に入っていない熊などが現れる。すべてを倒す必要もなく、軽くいなすと出来るだけ先を急ぐ。
 十年ほど前から徐々に危険な森になったと集落の人々はいっていた。昔はこれほどではなかったようだ。
 冒険者達は暮れなずむ頃に高台を見つけると、早めに野営の準備を始める。ガヴィッドウッドはもう間近であった。
 森の中なので、特に見張りをしっかりして一晩を過ごす。狼の群れに取り囲まれたが、特に戦う状況にはならなかった。
 四日目の昼前、歩いている途中で冒険者達は滝の音を耳にする。
 小丹が隠身の勾玉を使った上で茂みの中へと消えてゆく。
「おったぞい、この先じゃ」
 小丹はガヴィッドウッドの存在を確認して戻ってくる。
 知覚がどのようなものなのかは不明だが、どうやら震動には特に敏感のようである。隠密の忍び足で近づいても反応があったと小丹は語った。
「ガヴィッドウッドは、あの、おおきなウロのある木です」
 全員で茂みに入り、遠くからガヴィッドウッドを確認する。一見しただけではわかりにくいが、モンスターに詳しいエルディンならば見破るのは容易い。
 ガヴィッドウッドの回りはわずかに拓けていたが、少し離れると他の木々がひしめいていた。滝の位置からは十メートル程離れた位置に立っていて、確かに休憩するには格好の場所である。
「邪魔ってかんじぃ〜」
 マアヤは魔法攻撃を仕掛けようと考えていたが、射程ギリギリから放つには周囲の木々や茂みが障害物となってしまう。アイスブリザードでは届かないと判断する。
 ウォーターボムならなんとかなりそうだが、ある程度は近づく覚悟が必要であった。
「正体はバレバレです。ガヴィッドウッド!!」
 エルディンはジャンプを繰り返しながら大声でガヴィッドウッドに向けて叫ぶ。
「えっえっと、ばれています!」
 エルディンの姿を見てセフィナも真似をした。
 その上でホーリーフィールドをわざと地面へとめり込ませるようにクレリック二人は張ってゆく。だんだんとガヴィッドウッドへ近づくように。
 ある位置からホーリーフィールドは張れなくなる。つまり敵意を持つガヴィッドウッドの根が潜んでいる可能性があった。
 高さはそれほどない木なのに根は十五メートル程先まで伸びているようだ。
「天気は今のところは大丈夫。でも三時間後ぐらいに雨が降りだすよ」
 エラテリスの天気予知を聞いて、即座の作戦実行が決まる。
「枝や根の切り払いは任せてね」
 アフリディが剣を抜き、構える。
 魔法付与が行われると、冒険者達はガヴィッドウッドに戦いを挑んだ。
 小丹、アフリディ、エラテリスが土の中から現れた根と大格闘を繰り広げる。
 しなる太い根が土塊を周囲に散らしながら三人を襲った。避けては刃で斬り裂き、そして突き立てる。
 根が退治された場所にエルディンはホーリーフィールドの安全地帯を確保した。セフィナとマアヤはホーリーフィールド内で詠唱を始める。
 狙うはガヴィッドウッドの太い幹である。
 マアヤのウォーターボムが命中し、まだ枝に残っていた葉が一斉に撒き散る。セフィナのホーリーによってガヴィッドウッドは大きく震えた。
 ある程度近づいた所で、エラテリスはライトで作った光の球をガヴィッドウッドの周囲に投げつける。深い木々のせいでかなりの暗さであったが、これでしなる枝がよくわかるようになった。
 近づくにつれ、根から枝によるものにガヴィッドウッドの攻撃が変化してゆく。
 苔で足をとられるが、それでも前衛の冒険者は踏ん張って襲う枝を斬り落とす。そして幹に深く傷を刻んだ。
 徐々にガヴィッドウッドの動きは鈍り、やがてただの木になったように見えた。植物というのは生きているのか死んでいるのか、とても判断がしにくいものだ。
 悩んだ末に冒険者達は油をかけて燃やす事にした。持ってきた油をかけて火を点けると、まだ生きていたようで少しだけ暴れる。
 冒険者達は治療を終えるとそれぞれに祈りを捧げた。
 依頼人フェリーナの最初の夫だけでなく、これまでに食べられてしまった人はかなりの数にのぼるはずである。
 ある程度燃えた所でマアヤがウォーターボムで消火をしてくれた。
 そしてエラテリスがいっていたように雨が降りだす。
 周囲にいくらかの物品が転がっていたものの、持ち主を特定出来るものはなかった。
 もしもの残り火の可能性も含めて冒険者達はすぐ近くで一晩の野営をする。そして雨が上がった朝になってから森からの脱出を試みた。
 七日目の朝、森外縁の集落に戻ってきた馬車へ冒険者達は乗り込む。パリに到着したのは八日目の昼の事であった。

●そして
「出来ました。どうぞ、お召し上がり下さい」
 セフィナは皿によそったスープを台所からベッドのフェリーナの所まで運んだ。
 冒険者達はギルドへ立ち寄る前に依頼人の家を訪れて報告をしていたのである。
「確かにあのガヴィッドウッドは退治された。安心するがよい」
 アフリディが寝ていたフェリーナの背中に手をそえて上半身を起こしてあげる。
「正確なガヴィッドウッドの位置を記した地図も用意しておきました。こちらに置いておきます」
 エルディンが帰り道で描いた地図をテーブルの隅に置く。
「元気になってね。おばあさん☆」
 エラテリスはニコリと微笑みかけた。
「ほっほっほっ、その通りじゃて」
 小丹はふさふさ髭を触りながら声をあげて笑う。
「美味しいわ、このスープ」
 フェリーナはスプーンでスープを口に運ぶ。
「お墓についても知っておりますが、亡くなった旦那様、もっとゆっくりとおいでと、きっと仰いますよ」
 セフィナはハーブティを煎れながら声をかけた。
 ベッド近くのテーブルには一つの指輪が置かれている。持ち帰った遺留品に含まれていた、かつてフェリーナがもらった指輪であった。
 その他の遺留品については、教会へ納めるつもりの冒険者達である。
「そうそう、そこの棚にあるの、持っていっておくれ。せめてものお礼さ」
「ん? あ、これってレミエラじゃん」
 フェリーナが指した棚を、近くのマアヤが覗き込んだ。手に取ると、ちょうど人数分のレミエラがある。
 しばらくフェリーナと話した後、冒険者達はギルドへと報告に向かうのであった。