聖なる夜 〜アーレアン〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 84 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:12月22日〜12月30日

リプレイ公開日:2008年12月30日

●オープニング

「お、アーレアン、依頼しに来たのか?」
「まあね。でも、いつものとはちょっと違うんだ。聖夜祭を祝おうと思ってさ」
 二人の青年が冒険者ギルドの片隅で立ち話をしていた。ギルド員のハンスと冒険者ウィザードのアーレアンである。
 しばらくして受付カウンターが空き、アーレアンは席に座った。
「お待たせしたのです♪ どのような御依頼でしょうか?」
 とびっきりの笑顔がアーレアンを出迎える。いつも明るい受付嬢シーナだ。これから話す依頼にはぴったりの聞き手であった。
「大変な目にあった集落が森の中にあってさ。この冬はなんとか越せそうではあるんだけど、ギリギリの生活なんだよ。せめてさ、収穫祭のひとときぐらいは楽しくやってもらおうと考えたんだ。手伝ってくれる冒険者を集めてくれるかな?」
「この間の寄付の森の集落なのですね。わかりましたです。集落の収穫祭を楽しくする為のお手伝い依頼、と」
 シーナはメモをとり、文章を仕上げるとアーレアンに依頼書を見せた。
「この内容でお願いするね」
「はい〜。お受けしましたです♪」
 アーレアンはカウンターから離れてハンスに手を振ると、ギルドを後にする。
「舞踊の横笛はあそこに預けてあれば大丈夫だしな。さ〜て、何を持っていこうか‥‥」
 アーレアンは集落の負担にならないようにパリから必要な品を運ぶつもりでいた。薪は別にして肉や野菜などの食材は全てだ。
「いくら寒くたって今から買っておいたら、さすがに保たないし。馬車の準備だけはしておこう」
 アーレアンは馬車を貸してくれる知り合いの元へと駆け足で向かうのであった。

●今回の参加者

 ea2762 シャクリローゼ・ライラ(28歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea7900 諫早 似鳥(38歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ec0193 エミリア・メルサール(38歳・♀・ビショップ・人間・イギリス王国)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ セレスト・グラン・クリュ(eb3537)/ ラムセス・ミンス(ec4491)/ ソペリエ・メハイエ(ec5570

●リプレイ本文

●買い物
「集落では楽しくやるつもりなんだ」
 一日目早朝、待ち合わせの空き地に集まってくれた仲間を前にしてアーレアンは張り切っていた。
「アーレアンはん、お魚、釣ってきましたえ〜♪」
 最後にやってきたルイーゼ・コゥ(ea7929)がアーレアンへと近づく。
「どれどれ? うわぁ、でっかいね」
 ドンキーのドンちゃんの背中には巨大な魚が積まれていた。あまりの重たさにドンちゃんも大変そうである。このままでは潰れてしまうと、みんなで持ち上げて馬車後部に巨大な魚を移動させた。
「乗っておくれ。まずは市場かね」
 諫早似鳥(ea7900)が馬車の御者台に飛び乗った。仲間達も次々と乗車する。
 ゆっくりと動きだした馬車はパリ市内にある市場へと向かう。
「慣れ親しんだ食材も多めに買っていきましょう。どんな物を食べているんだろう?」
「森の中だから、キノコとか肉類かな」
 壬護蒼樹(ea8341)とアーレアンは買ったばかりのワイン樽を横回転させて踊らせるように馬車まで運んでいた。
「あとで占いをするのデス」
 アーレアンと壬護蒼樹の後ろを食材を抱えたラムセスが追いかける。
「根菜も欲しいね。頼めるかい?」
「わかった。諫早さん」
 市場近くの空き地で馬車の見張りをする諫早似鳥にアーレアンは食材の追加を頼まれる。すぐに市場の雑踏へ戻っていった。
 壬護蒼樹とラムセスは残って馬車への積み込みである。
「たくさんあると目移りしてしまいますわ。どれがいいかしら?」
 シャクリローゼ・ライラ(ea2762)は店頭に並ぶ様々な果物の蜂蜜漬けを前にして悩む。連れてきたフェアリー二体も主人のシャクリローゼの真似をする。
 いくつかを購入し、一緒に行動していたエミリア・メルサール(ec0193)の愛馬ハーモニィの背中に載せてもらう。
 若木のツリーの飾りも探し回るシャクリローゼであった。
「こちらとそちらをもらえますか? それぞれカゴ一つ分で結構です」
 エミリアはナッツ類を主に購入する。もしも残ったとしても、保存が効くので無駄がないはずである。
「大丈夫ですか? よろしければ運びますが」
 愛馬の手綱を持って歩くリーマ・アベツ(ec4801)とソペリエが、シャクリローゼとエミリアを見かける。
「平気です。そちらで購入なされたのはなんでしょう?」
「最初にアーレアンさんから頼まれた品が多いです。小麦粉がかなりあります」
 エミリアに訊ねられたリーマが愛馬の背中に積まれた袋を触る。お互いに重複した物を買わないように気をつけられた。
 聖夜祭を前にして普段より人の行き交いが激しく、市場での空飛ぶ絨毯の使用を取り止めたリーマである。道中では馬車の負担を和らげる為にも荷物運びに活用するつもりだ。
 市場での買い出しが終わると、馬車は諫早似鳥が関わった事がある川口花の実家に立ち寄った。
 以前の約束通り、川口花がシェリーキャンリーゼを同量の醤油と交換してくれる。おまけとして鰹節と味噌も分けてくれた。
「悪い卦はまだ無いと思うデス? 多分大丈夫デス‥」
 パリを出立する直前、ラムセスが精霊の森についてを占ってくれた。一緒に来るかと壬護蒼樹が誘うと驚き、そして慌てていた。どうやらラムセスにも色々とやる事があるらしい。
「それでは道中お気をつけて下さい」
 ソペリエが城塞門を抜けてゆく馬車を見送る。ラムセスは両手を大きく振った。
 リーマは空飛ぶ絨毯、壬護蒼樹は韋駄天の草履で馬車と併走する。
 道中、盗賊に襲われるなどはなく、二日目の夕方に精霊の森にある集落へと到着するのだった。

●集落
「さて、ここはがんばるかね」
 仲間のおめかしを手伝った諫早似鳥は自らも着替えた。髪を結い、簪を差し、持ってきた振り袖に力たすきをする。
 三日目は二十四日なので、ジーザス教にとって今日からが祝いの期間となる。アーレアンによれば、精霊との繋がりが強い集落なので特定の宗教色が薄められたお祭りになるようだ。
 お祝いといえば欠かせないのが美味しい食事である。
 冒険者の何人かは集会所内にある調理場にいた。
「これだけいい食材があれば」
 諫早似鳥は根野菜と茸を中心にしてジャパンのすいとんを作るつもりだ。醤油や味噌、鰹節も手に入ったのでかなりの味が期待出来る。日本酒も大事な味付けの一つである。仲間が用意してくれた様々な魚も使われる。
「やっぱり難しいね‥‥」
 アーレアンはナイフを手に野菜の皮むきを手伝った。
「アーレ坊、指切らないようにね」
 包丁で小気味よい音をまな板上で奏でる諫早似鳥は振り向いて笑う。
「こねこねしましょう。手は綺麗に洗いましたかしら?」
「洗ったよ〜」
 シャクリローゼは子供達と一緒にパン作りをしていた。
 みんなと運んだ水で小麦粉を練り上げる。途中、種菌のパン生地を混ぜ込んだ。石化から蘇った牛の乳も加えられる。
 子供用にとフルーツの蜂蜜漬け入りパンも作られた。
「ドンちゃんの形のパンや。こんなんもええやろ」
 ルイーゼも顔を粉で白くしながらパン作りを手伝った。後で時間が出来たら余興の練習である。
「アーレアン様、カマドの火は?」
「だ、大丈夫だ! 順調だよ」
 シャクリローゼの問いかけで思いだしたアーレアンは急いでカマドの様子を確認する。
 カマドには余熱が必要なので予め行き渡らせておかないとならない。発酵の時間があるので実際に焼くまでには余裕があった。
 調理が順調に進んでいた頃、壬護蒼樹、エミリア、リーマは森に残る廃墟にいた。かつてもう一つあった集落跡である。
「ここは特に大変だったんです」
「そうですか。ではわたくしは少しお祈りをさせて頂きます」
 壬護蒼樹が説明をするとビショップのエミリアは十字架を握る。
「私達は先に作業を始めましょう」
「それがいいですね」
 リーマと壬護蒼樹は廃材を適当な長さに切ると、愛馬が牽く荷車に載せてゆく。薪として利用する為だ。一部はリーマが空飛ぶ絨毯で運ぶ予定である。
 集落が復興するまでの当分の間、森に負担がかかるのは間違いない。なるべく木を伐らないで済むようにと考えた冒険者であった。
 祈りが終わるとエミリアも手伝ってくれる。
 日中の間に準備が整えられ、精霊の森にも夜が訪れるのだった。

●祝
「お星様は上にしましょうね」
 シャクリローゼは集会所で集落の子供達と若木のツリーの飾り付けしていた。
「これでいいですわ」
「やったぁ〜」
 飾り付けが終わり、みんなで喜び合っているとアーレアンが現れる。
「そろそろだから行こうか」
「は〜い」
 近くに仮の礼拝所があり、子供達はアーレアンと一緒に向かう。当初同じ場所で行う予定だったが、食事の用意が忙しないのでお祈りとは別の建物となったようだ。
「また後でね〜」
 お祈りに参加しないシャクリローゼはフェアリー二体と一緒にアーレアンと子供達に手を振る。
 誰もいなくなった所でツリーの下にプレゼントを忍ばせておくシャクリローゼである。
「さて、最後の追い込みをするかね」
 集会所の調理場から現れた諫早似鳥はとても張り切っていた。お祈りが行われている間に料理の仕上げを行わなければならないからだ。
「この火加減でいいですか?」
「いい調子だよ。ちょっと味見‥‥。塩一掴み、入れておいてくれるかい?」
 燃料を用意した後の壬護蒼樹は諫早似鳥を手伝っていた。今は大きな棒でゆっくりと鍋をかき混ぜ続ける。途中まで集落の女性達が手伝ってくれたとはいえ、全員が満足出来る量を用意するのは大変だ。
「テーブルまでは私が運びますので」
「任せといて〜。ぎょうさん配膳しまっせ」
 リーマが調理場から運んできた食器類をルイーゼが席に合わせて並べてゆく。途中からシャクリローゼも手伝ってくれる。
 まだほのかに熱を持っている皿に盛られたパン。大樽から瓶に移されたワイン。パンにつけると美味しい蜂蜜漬けの果物。
 その他にも食欲を誘う料理が並ぶ。晩餐の用意は順調であった。

「それでは皆様に祝福を」
 仮の礼拝所では祈りの時間が始まっていた。
 エミリアはなるべくわかりやすい苦労している集落の人々の心が休まる聖人の説話を語った。
 アーレアンも子供達と一緒に耳を傾けた。
「生きとし生ける者、仲良く手を携えなければなりません」
 違う考えの者同士でも共に平和であるようにとエミリアは説いた。
 二十分程でお祈りの時間は終わる。
「これは‥‥」
 仮の礼拝所から白い景色に声をあげる。お祈りの間に雪が降っていたようだ。今は降り止み、雲間から月が現れている。
 不思議な事もあるものだといいながら全員が集会所へと移動する。
「それ、どこの格好なの?」
「ジャパンってところのさ。さあ、熱いからちょっと待っていておくれ」
 すいとんをよそる諫早似鳥は笑顔で子供の質問に答えた。
「へぇ〜。これがジャパンの料理なのか」
 驚きながら集落の人々はすいとんを口にする。出汁がよく出ていたので、とてもよい味の仕上がりである。
 集落の人々は、にこやかな様子ですいとんを食べていた。
「やけに外が明るいような」
 夜だというのに窓の戸の隙間から光が洩れてくるのに誰かが気がつく。戸を開けてみると空中に漂う光球が集会所を囲んでいた。
 シャクリローゼのちょっとしたサプライズであった。
「それではいきますわよ♪ 今は月夜ですが太陽様に捧げましょう」
 シャクリローゼは妖精の粉などを使った上で踊り始める。化粧や髪型は諫早似鳥のおかげでばっちりだ。
 雪化粧をした木々の枝を飛び移りながら舞う。二体の妖精も一緒に飛んでシャクリローゼを引き立てた。
 踊りが終了すると、集会所の窓から覗く集落の人達から拍手が沸き起こった。
「それでは僕は演舞をさせて頂きます」
 壬護蒼樹は集落の人々の食事があらかた終わった時点で武芸の型を見せる。錫杖を手にし、大きな身体を活用してダイナミックに動き回った。
「ご鑑賞ありがとう御座いました。子供たち、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
 演舞が終わると壬護蒼樹はキャンディーを子供達に分ける。
「私のもどうぞ。美味しいですよ」
 リーマも持ってきたキャンディーを一緒に渡す。甘い物を頬張る子供達の姿は大人の心も癒してくれる。
 ほっとしてやっと食べ物が喉に通るようになった壬護蒼樹であった。
「さてお立ち会いやで〜。ここに現れたのは人形達の劇団や」
 次に芸を披露したのはルイーゼだ。仲間が貸してくれた人形を並べると会話劇を始めた。得意のヴェントリラキュイを利用した腹話術である。
 人形による寸劇をして集落の人々の心を掴み、それから一緒に歌を唄う。
「ちょっと貸してな♪」
 ルイーゼは子供から借りた人形を中心にした。

♪生くもの逝くもの還るもの
 聖霊の祝福が精霊の祝福が太陽の祝福があらんこと
 この夜に希う
 未来の輝きが永劫に続かれることを
 永遠の愛が陽光の如く降り注ぎますよう‥♪

 シャクリローゼが踊った時の歌をみんなで声を揃えて唄う。その声は集会所の外まで響き渡った。
「所詮素人の付け焼刃、せめて今宵ひと時でも楽しんで頂けましたらご喝采」
 諫早似鳥は赤の敷布の上で三つ指ついて一礼をする。
 さっそく始めたのは刃物である榎の小柄三本を使ってのジャグリングである。身体を捻って受け取ってみたりと緩急をつける。
 続いては和傘で物を廻す芸だ。
 まずはシャクリローゼに作ってもらった光球でやってみせる。だが回している傘を退かしても光球は浮いていた。
 諫早似鳥はわざとやっておどけてみせる。
 人が触れば動かしたり投げたり出来るライトの魔法で作られた光球だが、基本的にはその場に浮かび続ける特性を持っていた。
 本番の和傘の上に載せた茶碗はそうはいかなかった。巧みな芸によって廻し続けて喝采をもらう。
 切ったロープや包丁の上で独楽回しも行った。ちなみにロープはちょうどよいのが集落に落ちていたのでそれを活用する。
「おっと、こちらの殿方はフラれたご様子だ。いやしかし、女心は複雑なもの。果たして本心はいかに」
 独楽にはレミエラで自分の手元に戻せる細工がしてあった。それを利用して離れがたい恋人同士を例えに使う。
 諫早似鳥の芸が終わるとアーレアンは子供達に無理矢理前へ出させられた。
「えっと、まあ、よっと!」
 アーレアンは困った末、逆立ちで歩いてみせる。終わると顔を真っ赤にしてテーブルに戻っていった。
 楽しい時間は夜遅くまで続いた。子供達にはキャンディ以外にもいくつかのプレゼントが贈られる。その中には冒険者が持ち寄った人形も含まれていた。

●精霊
 滞在の間に冒険者達は精霊達の元も訪れる。
 クールネとキリオート、そしてフェアリー達は冒険者達の来訪をことのほか喜んだ。
 リーマはいくつかの食べ物を精霊達に贈る。
 行きの道中で壬護蒼樹やシャクリローゼが疑問を感じていた事だが、精霊は食べ物を口に出来るらしい。かといって存在するにあたり、特に食べる必要もないようだ。
 壬護蒼樹はクールネの許可を得て桜の盆栽を大地に植え替える。今の平穏が続くようにと祈りが込めながら。
 シャクリローゼの誘いによって少しだけ人の集落に精霊達が顔を出す。長居はせずに通り過ぎる程度であったが、お互いに応援し合う。
 エミリアは精霊達に興味を持って様々な話しを試みた。
 クールネは集落の人々についてもどうかよろしくと、冒険者達に湖の底で拾った指輪を贈った。
 滞在の期間はあっという間に過ぎ去る。冒険者達は楽しい思い出を胸に抱いて、パリへの帰路につくのだった。

●ピンナップ

シャクリローゼ・ライラ(ea2762


PCシングルピンナップ
Illusted by 白亜