輝く氷上 〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:4

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月26日〜01月02日

リプレイ公開日:2008年12月31日

●オープニング

「シーナ、やけにご機嫌ね。いつもなら寒い寒いっていってるのに」
 冒険者ギルドの奥。鼻歌を唄いながら着替えている受付嬢シーナに先輩のゾフィー嬢が話しかける。
「あ、ゾフィー先輩、待っていたのです〜。ちょっと遠くですけど、厚い氷が張る湖があって、そこでスケートが出来るみたいなんです。今度の長い休日、一緒に行きましょ♪」
「スケート? 氷の上を滑るやつ?」
「そうなのです☆ シカの骨がついた木靴を宿で貸してもらえるので手ぶらで平気なのです〜」
「手ぶらはいいすぎでしょ。それにしても以前もいったかも知れないけど、シーナ変わったわね。以前は絶対一人じゃパリの外に出かけなかったのに。お刺身の為に海まで出かけたりして度胸がついたのかしら。‥‥どうしたの?」
「あ、あの、その‥‥、ゾフィー先輩はダメなのです?」
「どうしようか迷うわね。返事、もう少し後でもいい?」
 シーナはてっきりゾフィーがついてきてくれるものだと思い込んでいた。
 ゾフィーは恋人のレウリーと休日を過ごすつもりでいたのである。その淡くて甘い願いは後にレウリーの急用によって破れるのであるが。
「ゾフィー先輩が行けないと大変なのです。でも、最初からもっと仲間を集めるつもりだったから、これでよしなのです♪」
 シーナは家に戻ると外壁に貼り紙をする。スケートで一緒に遊ぶ旅仲間募集の内容であった。

●今回の参加者

 ea2113 セシル・ディフィール(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 ec2195 本多 文那(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec5115 リュシエンナ・シュスト(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●到着
「あ、見えたのですよ〜。あれが目的の湖なのです〜♪」
 二日目の暮れなずむ頃、シーナが馬車の窓戸を開けて指さす。
 冷たい風が車内に吹き込んでも気にする者は誰もおらず、一緒に流れる景色を確かめた。
「すごいな。湖全体に氷張ってるんだ!」
 本多文那(ec2195)は目を輝かせる。スケートで滑るのは初めてなので、凍てつく湖がとても新鮮に感じられた。
「スーさんも見るのです。真っ白で広いのです」
 エフェリア・シドリ(ec1862)は膝に乗せていた子猫を持ち上げる。絵に描いて残しておきたいと心の中で呟いたエフェリアであった。
「んー、広い氷の湖‥綺麗ですね‥‥。そういえばお聞きしてなかったかも。ゾフィーさんはスケートはどうなのでしょうか?」
 セシル・ディフィール(ea2113)は前席に座るゾフィーに振り向く。
「スケートは初めてなの。セシルさん、よろしくね」
 恋人のレウリーとの約束が流れたせいで、少しだけ元気のないゾフィーである。セシルはスケート経験者なので、ゾフィーに教えてあげる約束をする。
「もうすべってすべって、すべりまくるのですよ♪」
「シーナって元気よね。久しぶりに一緒に遊びましょう」
 シーナの笑顔を見たシュネー・エーデルハイト(eb8175)は、ふと他の冒険で一緒の仲間達を脳裏に浮かべる。こうしたゆっくりとした時間を彼、彼女達と過ごすのもよいのではないかと思うシュネーである。
「雪がふんわり舞い降る中とか星空の下のスケートもいいですよ♪」
「おおっ〜、なんかすごく雰囲気があって良さそうなのですよ〜☆」
 リュシエンナ・シュスト(ec5115)とシーナは顔を見合わせて頷く。
 一行を乗せた馬車は雪道を走り続ける。
 夕暮れ時に湖の畔にある町の宿へと到着するのであった。

●練習
 三日目の朝が訪れる。
 昨晩から待ち遠しかった一行はさっそく凍りついた湖へと足を運んだ。
 それぞれの防寒対策はばっちりである。
「大丈夫? エフェリアさん」
「まるごとエスカルゴさんでも平気そうなのです。シュストさん」
 エフェリアのスケートの用意をリュシエンナが手伝ってあげる。まるごと防寒服の足の裏に板を当てて、骨製の刃をロープで縛りつけて完成である。
 本当はエスカルゴではなくかたつむりのまるごと防寒服なのだが、エフェリアはそう呼んでいた。
「子供の頃、手を繋いでくれてた兄を巻き込んで転んだ事もあったけど‥‥でも弟と滑っていたので得意ですよ♪」
 リュシエンナは防寒服にコサージュをつけた帽子を被り、マフラーを首に巻いていた。より寒くなった時に備えて毛糸の靴下や手袋も用意してある。
「スケートの間ならこれで充分のはず。さて張り切ってまいりましょう♪」
 セシルは暗褐色の美しい毛皮コートをまとう。
「セシルのコートもいいわねこういうのって嵩張らなくて便利よね」
 銀色の毛皮コート姿はシュネーである。
 セシルとシュネーのコートは光の加減によって輝きを放つ。
「人気がない辺りには雪がたくさん降り積もっているみたい。後で雪だるま作ろうっと♪」
 本多文那は防寒服とトナカイの毛皮で作られたロングコートを着込む。
「シーナ、だ、大丈夫かしら? 氷、割れたりしない?」
 ゾフィーはレウリーからの贈り物であるイギリス製のウール入り防寒服に身を包んでいた。伸ばしたつま先で凍った湖を触ってみる。
「大丈夫なのですよ、センパイ。ホラ、平気なのです♪」
 スケート木靴を履いたシーナが氷の上で跳びはねてみせた。
 シーナは長めの青いマフラーに普通の防寒服姿である。手袋を持っていない仲間にはシーナが余分に持ってきたものを貸しだした。
 スケート経験者はセシル、リュシエンナ、シーナ。未経験者は本多文那、シュネー、エフェリア、ゾフィーだ。
「一緒に氷の上に立ってみるのから始めましょうね。ラードルフはここにいてね」
「スーさんは焚き火の近くで待っていて欲しいのです」
 エフェリアは猫のスピネット、リュシエンナは愛犬のラードルフを練習場所から目が届く焚き火の近くに待機させる。
 リュシエンナはエフェリアと手を繋ぎ、ゆっくりと氷上に移動する。
 少し歩いてみようとすると、エフェリアが尻餅をついた。氷の上でグルグルと回り続ける。
 何度か繰り返したがうまくいかない。まるごと防寒服を着たままのスケートは足下が見えにくく、難易度が高そうであった。
「着替えてくるのです」
 エフェリアは一旦宿へと戻り、ふわふわ帽子にファー・マフラー、そしてシルバーコート姿となる。
「きっとすぐに滑れるようになりますよ♪」
 リュシエンナはエフェリアとの練習を再開した。
「やったことはないけれど‥‥こんな、感じでいいのかしら? 要するに不安定な足場を逆に利用すれば――」
「うわぁ〜、シュネーさん、すごすぎ!」
 シーナがちょっと教えただけでシュネーはすぐに滑れるようになる。
 元々雪上での行動が得意なシュネーだけあって簡単にコツを掴んだようだ。後は滑り続ける事で習熟を増すのみである。
「なので、シーナは本多さんを専門で教えるのです☆」
「シュネーさんに負けないようにしないとね。がんばってまるごと着て滑れるようにならなきゃ。‥‥もってないけどね♪」
「よかったらシーナのを貸すのですよ♪ 確かまるごとうさぎさんを持ってきたのです☆」
「ほんと? よ〜し♪」
 シーナと本多文那は二人で練習を始めた。その横ではセシルがゾフィーに滑り方を教えていた。
「あたたたっ!」
「だ、大丈夫ですか? あら、鼻が真っ赤に」
 うつぶせに転んだゾフィーにセシルが手を差し伸べる。
「思っていたより難しいわね。なんであんなに簡単に滑れるのかしら? いつもはゆっくりペースなのに」
「シーナさん、ラ・ソーユの時もそうでしたけど運動神経はいいんですよね。普段はおっとりしてますけど」
 本多文那の手を引いて滑るシーナを、セシルとゾフィーが目で追う。
「さあ、がんばりましょう。リュシエンナさんがいっていましたけど、こけ方も大切です。立った時、踵を付けて爪先を開くと安定しますよ」
 セシルに激励されてゾフィーは練習を続けた。
 しばらくすると全員で湖の畔の焚き火を囲む。楽しくても暖まる休憩は必要だ。
 セシルがホットワインを用意してくれた。エフェリア、リュシエンナ、本多文那が持ってきたシュクレ堂の焼き菓子やクリスマスキャンディーをみんなで頬張る。
 夕方まで練習したおかげで、誰もが転ばず滑れるようになるのだった。

●ゆったりとした時間
「それでは、あの流木が氷の間に露出してるところまでよ。こういう練習も必要だわ」
「わかったのです。勝負なのですよ〜」
 四日目の昼、シュネーとシーナが氷上で構える。
「いくわよ。それ」
 ゾフィーが投げた小石が氷上で鳴らす音を合図に、シュネーとシーナがスケートで滑り始めた。どうやら二人の間でライバル心が目覚めたようである。
「シュネーさん、出発の時は息抜きしにきたっていってたような‥‥」
「シーナさんも、そんな事いってたよ‥‥」
 セシルと本多文那は掌で日差しを作り、遠ざかってゆく二人を眺める。
「雪とか氷は難しいのです。でも、競争なら描きやすいのです」
 エフェリアはシュネーとシーナが氷上を滑る姿を絵に残した。
「私達も滑りましょうか♪」
 湖に降り立ったリュシエンナが仲間を誘う。
「お二人には思う存分滑ってもらって、私達はゆっくりといきましょう」
 セシルがリュシエンナに続いた。次々と仲間が氷上に立つ。
「もう平気なのです。シュストさん」
「とても上手です♪」
 リュシエンナに話しかけるエフェリアはまるごとエスカルゴさん姿であった。スケートに慣れたので、レミエラで軽量化されたまるごと防寒服なら着ていても大丈夫である。
「これもいい感じ♪ 冬にぴったりだよね」
 本多文那はシーナから借りたまるごとうさぎさんを着込んでいた。エフェリアと並ぶと、とっても可愛いまるごとコンビである。
 四人で楽しく滑った後で、氷上でのキャッチボールが始まった。
「これって? 雪玉‥‥さん?」
 リュシエンナがセシルから受け取ったのはペットの不思議な雪玉である。
「あ、間違えましたわ。本当はコッチ♪」
 本気か冗談かわからないまま、セシルはシーナが持ってきたラ・ソーユ用の球を投げなおす。大空では鷹のイグニィが滑空していた。
「スケートは慣れると走るより、早いのです」
 エフェリアが華麗に球を受け取り、本多文那に投げる。
「ようし、誰に投げようかな。あれ?」
 受け取った球を振りかぶったまま、本多文那の動きが止まる。
「あれって魚釣り?」
 本多文那が指さした先では確かに釣り竿を持った人達がいた。どうやら氷に穴を開けて釣りをしているようである。
「つ、疲れたのです〜。とても昨日まで滑った経験がない人とは思えないのですよ〜」
「やるわね、シーナ‥‥。侮りがたいわ、冒険者ギルドの受付嬢」
 ちょうどその頃、ゴールと決めた地点ではシーナとシュネーが氷上で寝転がっていた。しばらく休憩をすると二人は復活し、他の四人と合流する。
 全員でスケートを堪能した後は雪遊びを始めた。
 雪だるまを作る者、雪合戦を始める者、魚釣りをする者など様々であった。

●聖夜祭
 五日目の日中も一行は大いに遊んだ。
 そして夜、まだ期間なので遅れ気味だが聖夜祭を祝う。シュネー、本多文那、エフェリアが持ってきたリースで宿の部屋を飾り付けた。
「それではみなさん、楽しいスケート万々歳‥‥じゃなくて、おめでとうなのです〜♪」
 シーナが音頭をとって晩餐が始まった。それぞれに信じる神様があるので、具体的には触れずにおめでとうとだけシーナは叫んだ。
「油で揚げた小魚、美味しいのです。スーさん、食べるのです」
 エフェリアはみんなで湖で釣った魚を一口かじる。子猫のスピネットも大満足だ。
 その他にもセシルが腕によりをかけたスープも並ぶ。ボイルしたソーセージや、シーナリクエストのお肉料理も湯気を立てていた。
「すごく似合ってます。シーナさん」
「貸してくれてありがとなのです。リュシエンナさんの方が似合っているのですよ〜。可愛いのです☆」
 シーナはリュシエンナから借りた、サンタクロースの着ているような赤白のメイドドレス姿。リュシエンナは同じメイドドレスでもピンク色でフリル付きである。
「ラードルフがなかなか止まらなかったのには、思わず笑ってしまいました♪」
「あれは考えようによってはお見事だったのです。なかなか、あそこまで辿り着けないのですよ〜♪」
 リュシエンナとシーナが話題にしたのは犬のラードルフが氷上に飛び込んで腹で滑った出来事だ。すぐに止まるかと思われたが、なんと三十メートルの大記録を達成する。
 とうのラードルフはリュシエンナの足下でお食事中である。
「シーナさんが雪だるまになった時はどうしようかと思いましたよ」
 セシルはシーナが坂道で転げた事件を思いだした。そのままリュシエンナと本多文那が作った雪だるまにシーナが突っ込んでしまったのだ。
「雪だるまの顔のところに、ちょうどシーナさんの顔がはまって‥‥」
「シーナ、わざとやったんでしょ。狙いすぎよ」
 本多文那とゾフィーが笑い飛ばせるのも、シーナが無事であったからだ。
「シーナさん、大丈夫なのです?」
「平気なのです〜。ほんのちょっとの掠り傷だったし、セシルさんが手当てしてくれたのですよ♪」
 心配そうなエフェリアにシーナは微笑んだ。
「滑るのって結構、体力使うのね。いい修行になったわ」
 昼間にシュネーはシーナと氷上でのラ・ソーユ勝負を行っていた。変則ルールの上だが、結果シーナの勝ちで終わる。
 悔しさを食欲に向けるシュネーである。
 食事が終わるとゾフィーが持ってきた葉で紅茶を煎れてくれた。
「リズム、とるのです」
 気分が乗ってきてみんなで唄う事になり、エフェリアがハンドベルを取りだした。
 何曲か唄った後、一同は今一度凍った湖に向かった。
「綺麗なのです‥‥」
 星明かりの元で、この旅最後のスケートを軽く楽しんだ。時間にして十分程度であったが、みんなの心に深く染み入るのであった。

●そして
「思う存分、スケートが出来てよかったのですよ〜♪ つき合ってくれてありがとなのです☆」
 パリに戻ったシーナは同行してくれた仲間達にお礼をいう。
「そうそう。これ、レウリーからもらったのだけど、みなさんに差し上げるわ。とても飲みきれないのでお気になさらず♪」
 ゾフィーが紅茶の葉をプレゼントする。
 夕日の中、全員が手を振りながら別れるのであった。