陰謀の展覧会 〜アロワイヨー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 44 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月04日〜01月11日

リプレイ公開日:2009年01月12日

●オープニング

 パリから北西、ヴェルナー領の北方に小さなトーマ・アロワイヨー領はあった。
 トーマ・アロワイヨー領主となった青年アロワイヨーにはまつりごとの他にもう一つ悩みがある。
 パリ近郊の森の集落で出会った娘ミラのことである。
 ミラは冒険者達のおかげで無事にアロワイヨー家の親戚であるバヴェット家の養女になれた。これで家柄について文句をいう者は少なくなるはずだ。
 バヴェット家の屋敷はトーマ・アロワイヨー領内ではなく、別の領内にある。ミラが移り住むとアロワイヨーと離ればなれになってしまう。そこで別荘宅がトーマ・アロワイヨー領内に用意される事となった。
 バヴェット夫人は昔からアロワイヨーの事を気に入っている。二人の結婚が決まるまで、当分の間別荘宅でミラと過ごすつもりのようだ。


「わたくしが負けるなんて! そんな事は認めませんわ!」
 トーマ・アロワイヨー領のとある貴族の屋敷。令嬢オリアは先日の開かれた刺繍を披露する会での不満を漏らしていた。
 オリアは以前、アロワイヨーの寝室に忍び込み、色仕掛けで既成事実を作ろうとした女性である。
 刺繍を披露する会とは聖夜祭前に開かれる催しの事だ。壁掛けに絵画的な刺繍を施して競い合う会であり、領内の貴族の令嬢にとっては晴れ舞台とされていた。
 今年はアロワイヨーと恋仲とされるバヴェット家のミラ嬢の壁掛けの刺繍が優勝する。豊穣をテーマにした穏やかな風景を写し取ったものだ。
「その通りですわ。何か不正をしたに違いありません。あんなにも根回ししておいたのに、こんな結果になるのはおかしいですわ」
 侍女の一人が自分達の事を棚に上げてオリアに同情する。当然ながらミラ側は何一つ不正をしていない。
「‥‥これ以上は野放しには出来ませんわ」
 持っていた扇子を真っ二つに折ったオリアは妖しい笑みを浮かべた。
「壁掛けの展覧が終わる最後の日、再び一同が集まりますわ。その時、消えて頂きましょう」
「飲み物での毒殺‥‥でよろしいでしょうか?」
「最初はそれで。もし、しくじった場合は毒矢でも構いませんわ」
「はい。ではそのような手配を」
 侍女が一礼をして部屋を出てゆく。
「みてらっしゃい。小娘‥‥!」
 オリアは歯ぎしりを立てて、ミラを思い浮かべるのであった。

●今回の参加者

 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●不安
 一日目の早朝、一行はアロワイヨーの執事と共に帆船に乗ってセーヌ川を下る。ルーアンで降りると馬車に乗り換えた。
 トーマ・アロワイヨー領内のバヴェット夫人の別荘宅に到着したのは二日目の夕暮れ時であった。
「しっふしふ〜♪ ミラさんお久しぶりでーす。お元気そうで何よりですよ」
「パールさんもお元気そうで。馬車での移動とはいえ寒かったでしょう」
 パール・エスタナトレーヒ(eb5314)が出迎えてくれたミラへと真っ先に挨拶をする。
 挨拶もそこそこにミラは冒険者達を別荘宅に招き入れた。
 執事はあがらずに馬車で城へと向かう。アロワイヨーを連れてくる為だ。
「アロちゃんのお願いを聞いてくれて、とてもありがたいわ。どうぞお座りになって」
 応接間ではバヴェット夫人が準備を整えていた。暖炉のおかげで暖かく、テーブルには焼き菓子などの持て成しが用意されてある。
「もうアロちゃんの執事から聞いていると思うけど、ミラが刺繍した壁掛けが聖夜祭前の大会で優勝したの」
 バヴェット夫人がこれまでの経緯を説明する。
 提出されたすべての壁掛けは現在も城の広間に展示されていた。五日目の宵の口に行われる閉幕式には当然の事ながら優勝したミラも出席しなければならない。
 アロワイヨーとバヴェット夫人も参加するのだが、ミラと一緒にいられる時間はほとんどなかった。そこでミラを心配したアロワイヨーが護衛の依頼を手配したのである。
「ミラさん、優勝すごいのです」
「いえ、みなさんのおかげですので」
 エフェリア・シドリ(ec1862)に褒められたミラが恥ずかしそうに下を向く。すると、外から馬の嘶きが届いた。城からの馬車が到着したのである。
 応接間での話し合いにアロワイヨーも加わった。
「噂ってどんな感じなの?」
 明王院月与(eb3600)は改めてアロワイヨーに訊ねる。
「証拠はないのだけど、刺繍を披露する会の審査段階で不正が行われたようだ。賄賂だけでなく脅迫もあったとか。それが本当ならば優勝したミラを逆恨みしていても不思議ではないんでね。それで心配なんだよ」
 アロワイヨーの言葉に月与が想像を巡らせた。下剤で恥をかかせる程度から場合によっては殺傷まで考えられる。
 特に注意すべきは毒だ。勧められれば何も食さない訳にはいかないだろう。他の冒険者も月与と同じような危機を考えていた。
(「そうなるのが普通です‥‥」)
 アーシャ・イクティノス(eb6702)がミラを横目で見る。自分に非がなくても、こういう状況は落ち込むものである。
「ミラさんを身を挺して守りますっ。安心して下さい」
「ありがとう。アーシャさん」
 背筋を伸ばしたアーシャの姿にミラが強ばる表情を和らげた。
 閉幕式が行われる五日目の宵の口まで、冒険者達は準備や情報集めに奔走した。

●閉幕式
「それではミラをよろしくするわ」
 馬車で城に到着するとバヴェット夫人は別荘の侍女達を連れてミラ一行と別れる。バヴェット家当主として済ませておかなければならない社交辞令があるようだ。
「わたしたちも行きましょう」
 ミラと冒険者達も壁掛けが飾られている広間へと向かった。
 エフェリアとアーシャはミラの侍女として同行する。ただし華やかな舞台なのでドレス姿である。偽名に関してはバヴェット夫人の忠告でやめておいた。
 月与はミラの客人として参加する。もしもに備えて剣をドレスの下に忍ばせてあった。
 パールはクレリックとして聖衣を纏う。聖職者としてミラの側にいれば荒事を牽制出来るかも知れないと考えたのだ。
 冒険者達は式に出席するにあたり、様々な品をミラに貸してある。
 月与とパールからはプロテクションリング二つずつで計四個。エフェリアは四葉のクローバー。アーシャはヒューマンスレイヤー無効効果のあるレミエラ付きの黄勾玉だ。
「口にされる物はこの銀スプーンで触ってみてからにしてください」
 さらにパールが幸福の銀のスプーンをミラに手渡した。
 広間はまるで舞踏会のようにたくさんの人々で溢れていた。
「あら、ご機嫌よう」
「オリア様」
 たくさんの侍女を引き連れたオリア嬢がミラに声をかける。
「壁掛けが選ばれた時には、つい声をかけそびれてしまって失礼致しましたわ。遅れましたが、ミラ様、優勝おめでとうございます」
「いえ、そんな‥‥。たまたまです。オリア様の勇ましい景色を切り取った壁掛けも、とても素晴らしいものでした」
 いつもは攻撃的な態度をとるオリアがミラに笑顔を向ける。
 あまりに不気味だったのか、ミラは去ってゆくオリアの姿を目で追い続けた。
「だいじょ〜ぶですよ〜。私たちがついているんだから♪」
 アーシャが被っているヴェールを少しあげてミラを励ました。しかしオリアが怪しい事に変わりはない。エフェリアのテレパシーによる仲介によって冒険者達はミラや周囲の人々に聞こえないように相談をする。
 ワインのカップが各自が配られて祝杯の時間となった。
(「さっきいたオリアの侍女の一人にそっくり‥‥」)
 月与はミラにカップを渡した女性給仕に注目する。相談するとアーシャも同じ印象を持っていた。
「テレパシーでの連絡お願いします」
「わかりました」
 エフェリアに一声かけるとアーシャは女性給仕の後を追う。
「ミラさん、スプーンを」
「そ、そうでした」
 少しだけ飛んでミラと目の高さを合わせていたパールが囁く。手元で隠すようにしてカップの中に銀のスプーンを浸して取りだしてみると黒く変色していた。
「!」
 エフェリアは何度も瞬きをする。パールから銀のスプーンが黒くなったのなら毒が入っていると聞かされていたからだ。
(「毒、ワインに入ってました。イクティノスさん」)
 まだテレパシーが届く範囲にいたアーシャに毒の事実をエフェリアが伝える。
「あ!」
 突然、何者かに背中を押されたミラが姿勢を崩す。エフェリアと月与が支えたので転ぶことはなかったが、カップが床に落ちてワインがすべて零れた。
「どうもすみません。お怪我はありませんか?」
 ミラの背中を押したのはオリアに従う侍女の一人である。零れたワインは他の侍女達が一斉に拭き取ってしまう。そして風のように去っていった。
「最初から成功してもしなくても、証拠隠滅をするつもりだったんだ‥‥」
 毒入りワインの回収を元々オリア側は考えていたのだと月与が気がつく。毒の証拠こそ残らなかったがこれではっきりとした。オリアがミラを狙っていると。
(「イクティノスさんが捕まえました。ミラさんに毒入りワインのカップを渡した、悪い人です」)
 エフェリアのテレパシーによってアーシャからの連絡が仲間に伝えた。捕まえた女性給仕はアーシャに一任される。
「大丈夫とは思うけど、念のためね」
 月与は跳ねた滴が口に飛び込んだ可能性を考えてミラに解毒剤を呑ませるのであった。

●吐露
「これがミラ様に盛ろうとしていた毒なのですか」
 アーシャはミラの為に用意された部屋に女性給仕を連れ込んだ。女性給仕の腕を捻りあげたまま小さな容器に入った毒を眺める。
 女性給仕にかまをかけると泣いて許しを懇願された。どうやらお腹を下す程度ではなく、命を奪う猛毒のようだ。
 何度かのやり取りの後、女性給仕がアーシャに取引を持ちかける。すべてをこの場で話すかわりに解放して欲しいと。
 アーシャは布を口に突っ込んで舌をかまないようにして衛兵に引き渡すつもりであった。だが、もしもオリアが二重三重の罠を仕掛けているとすれば悠長な事はしてられない。守るべきはミラの命だ。
 条件を受け入れたアーシャは女性給仕からすべての計画を聞いた。
「オリア‥‥」
 アーシャは拳を強く握りしめて、怒りに震えるのだった。

●罠
 閉幕式が終わり、次々と参加者達が帰路につく。
 ミラとバヴェット夫人一行はしばらく城に留まり、停車場が空いてから帰ろうとしていた。
「家に帰ったら、美味しいものでも食べましょう」
 篝火に照らされながらバヴェット夫人が馬車へと乗り込む。
「ミラお姉ちゃん、大丈夫だから」
 月与はアーシャから借りたブラッディ・トレイを盾代わりにしてミラの前に立った。まるで何者かが遠くからミラを狙っているのを知っているかのように。
 事実、月与は知っていた。夜空を舞うパールがデティクトライフフォースを使って暗殺者を発見していたからだ。
 暗殺者は停車場にある大木の枝に座ったまま弓を構えた。
「ボクを撃ったら天国には行けませんよ〜」
 聖職者姿のパールはミラを狙う暗殺者の矢が描くであろう放物線付近に留まって大声で勧告する。
(「今がチャンス、なのです」)
 情報はエフェリアのテレパシーによって全員で共有される。その中にはアロワイヨーも含まれていた。
 存在がばれた暗殺者は撤退しようとするが尻に何かが刺さり、枝から足を滑らせて落下する。アーシャがインビジビリティリングによって姿を消して木へと近づき、ダーツを放ったのだ。
「ミラ様を狙うなんて許しません!」
 立ち上がって逃げようとする暗殺者にアーシャがタックルをかまして倒す。すぐに城の衛兵達が駆けつけて暗殺者が捕らえられた。
 ここから先は領主であるアロワイヨーに任される。バヴェット夫人とミラ、そして冒険者達は馬車で別荘へと戻った。
 すでに帰路についていたオリアと侍女達が乗っている馬車一行の確保もアロワイヨーによって命じられる。約一時間後に城へと連れ戻されるのだった。

●そして
「まさか、オリアがここまでするとは考えていなかった」
 六日目の朝、パリへ戻る冒険者の見送りの中にアロワイヨーの姿もあった。
 追加の報酬を手渡しながら、アロワイヨーとミラ、バヴェット夫人は冒険者達に感謝する。
「ミラさん、壁掛けとてもよかったのです。遅れました。あけましておめでとうございます」
「ありがとう、エフェリアさん。よい年になるといいですね」
 エフェリアとミラが別れの握手をする。
「これで身辺もしばらくは静かになるとおもうのです。しっふしふ〜♪」
「いろいろと手を尽くしてくれて助かりました。パールさん」
 屋根に座っていたパールはミラとの挨拶を済ませてから馬車内に飛び込んだ。
「まさか本当に殺そうとしてたなんて‥‥。でもこれで安心だね。ミラお姉ちゃん♪」
「ええ、怖かったですけどこれも一つの試練と考えています」
「熱々だね‥‥」
「え?」
 ミラがアロワイヨーと目を合わせる姿を見て、何故か自分が照れてしまう月与である。
「夕食のお肉料理、美味しかったです。アロワイヨーさんのダイエット、お忘れなく」
「寒くなってから怠けているみたいなので、よくいっておきますね」
 アーシャとミラの内緒話の側でアロワイヨーが大きなクシャミをした。
 挨拶を終え、馬車が出発する。冒険者達はルーアンで帆船に乗り換えて七日目の夕方にはパリの地を踏んだ。
 ちょうどその頃、トーマ・アロワイヨー領ではオリアがすべてを白状した。後に重い刑罰が言い渡され、オリアは二度と表舞台には出られない立場となった。