本と未来 〜ちびブラ団〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 1 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月09日〜01月17日

リプレイ公開日:2009年01月17日

●オープニング

 ヴェルナー領ポーム町はデビルに襲撃された過去がある。
 火災によって多くの建物が焼失したものの、リュミエール図書館は無事であった。
 町の再建と同じようにリュミエール図書館の蔵書拡充も順調だ。各地からの寄贈、もしくは借りた上での写本によって日々増えてゆく。
 これらはリュミエール図書館と協力関係にある教会の写字生達の頑張りが大きく関係している。
 ちびブラ団と深い関わりのあるシスター・アウラシアも写字生だが、現在はラルフ領主の願いによってルーアンのヴェルナー城に滞在してる。カリナ・カスタニアという少女の家庭教師を務めていた。
 ある日、ちびブラ団の少女コリルの元に一通の手紙が届く。
「アウラシアから手紙が来たよ〜」
 場所は吉多幸政の住む建物。修行の休憩中、コリルは仲間の三人に手紙を見せた。
 リュミエール図書館の新たな目録作りを任されたので、一時的にポーム町へ戻っているとしたためられていた。ちびブラ団暫定緑分隊長のカリナも一緒のようだ。
「目録作りを手伝って欲しいんだね」
 少年アウストが呟く。
 手紙によればパリに用事のあったポーム町の教会関係者によって、冒険者ギルドに依頼が出されているはずとある。
「この間、覗いたら確かにあったな。アウラシアの名前じゃなかったんで、忘れてたけど」
 二日前、冒険者ギルドに立ち寄った少年ベリムートが思いだす。
「俺様達にも手伝って欲しいとあるぞ。よかったら冒険者と一緒の馬車に乗って来てくれだってさ」
 少年クヌットが仲間を眺める。誰もがすぐにでも行きたい顔をしていた。当然、クヌット自身もだ。
 その日の夜、ちびブラ団の四人は親達に許可をもらうのだった。

●今回の参加者

 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 ec2830 サーシャ・トール(18歳・♀・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ec3546 ラルフェン・シュスト(36歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec4004 ルネ・クライン(26歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec4491 ラムセス・ミンス(18歳・♂・ジプシー・ジャイアント・エジプト)

●サポート参加者

諫早 似鳥(ea7900

●リプレイ本文

●道中
 朝日が昇る頃、冒険者とちびブラ団を乗せた馬車はすでにパリ城塞門を抜けて草原を走っていた。目的地のヴェルナー領ポーム町へ一日目の間に到着する為だ。
「気合いを入れて作りました☆ どうぞ、お二人への贈り物です」
 馬車の中でアニエス・グラン・クリュ(eb2949)がコリルとアウストに木像を手渡す。
「わぁ、ありがと〜。アニエスちゃん」
「うれしいな。大事にするね」
 誕生日の贈り物を受け取ったコリルとアウストは馬車内の者達にも見せる。
 コリルを写した木像はレイピアを真正面に構えて闘気魔法を唱えている姿。アウストの木像は左手に伝書を持ち、右手に愛鷹を携えて微笑んでいた。
「これは俺からコリルとアウストに向けてのものだ。おめでとう」
 ラルフェン・シュスト(ec3546)がお菓子と一緒にコリルとアウストに贈ったのは祝辞のカードである。
「後で大事に読むね」
「何が書いてあるんだろう?」
 コリルとアウストは大事にカードを仕舞う。菓子はベリムートとクヌットの分もあった。その他にお年玉ももらえて四人とも嬉しそうだ。
「私からはこれよ♪ おめでとう。コリル、アウスト」
 ルネ・クライン(ec4004)はコリルには橙色、アウストには灰色のマフラーを首に巻いてあげる。
「暖かいね♪」
「うん、冬の間、使わせてもらうね」
 コリルとアウストはマフラーの肌触りを確かめた。ちなみにベリムートは黒色、クヌットは藍色のマフラーを以前に渡してある。
「アウストくんも十歳か。これで全員の歳が揃ったね。おめでとうー♪」
「サーシャさん、なんか照れるな」
 アウストに続いてちびブラ団全員がサーシャ・トール(ec2830)にありがとうの礼をいう。
「シーリアもおっきくなったんだ。変わらず遊んであげてね」
「うん♪」
 ルーナとなったシーリアは人間の女の子並みの大きさだ。以前と同じように空は飛べるようである。
「ぞれにしてもシスター・アウラシアには感謝しなければなりませんわ。皆にとってもよい機会になるでしょうね」
 クリミナ・ロッソ(ea1999)は仄かな期待を持つ。本との出会いは人に決心を促す機会になり得る。
「おっきい図書館に行くのデス。いろんな本があるのも楽しみデス〜」
 ラムセス・ミンス(ec4491)は母国のアラビア語の本がないかと密かに楽しみにしていた。
(「本‥‥ま、なんとかなるやろ。運ぶ仕事もあるやろし」)
 中丹(eb5231)は本を読むとすぐに眠くなってしまう。
 図書館にあるような本は分厚くて重たいものが多いので、目録作りというより整理を手伝うつもりの中丹であった。
 途中休憩を挟みながら、馬車での移動は続く。ポーム町に到着したのは日が暮れた宵の口だ。
 アニエスが朝日が昇るかなり前に出したシフール便のおかげで、アウラシアが宿を用意してくれていた。
「とっても綺麗。ありがとうルネさん♪」
「きっと似合うわよ」
 ルネがカリナにも緑色のマフラーを贈る。
「そうや。これ忘れとったわ」
 中丹も荷物の中から緑色の生地を取りだしてカリナに手渡す。
「嬉しい♪ 中丹さん、ありがとう。何を作ろうかな?」
「そういってもらえると、おいらも気持ちいいんやで」
 カリナの喜ぶ様子に中丹はクチバシをキラ〜ン☆とさせるのだった。

●目録
 二日目からはさっそく目録作りの手伝いである。
 リュミエール図書館のカウンター奥にある書庫に冒険者とちびブラ団は集められた。
「それではどうやって目録を作るか説明しますね」
 シスター・アウラシアが咳払いをした後で説明を始める。
 目録に登録されていない本は仮の本棚に収容されていた。それらを一冊ずつ処理しなければならない。
 六段横幅十五メートルに渡る仮の本棚二列には、びっしりと本が眠る。
 図書館に運ばれてくる本は大抵ラテン語で記されてある。特に神学の本はほとんどがラテン語だ。
 神学以外のラテン語の本はポーム町の教会で写字生によってゲルマン語に翻訳の上で写本される。これは領主であるラルフ卿の指示によるものである。
 その他の言語で書かれた本についても、可能な限りゲルマン語への翻訳が行われていた。
 写本が終わると借りた本は持ち主に返却される。寄付された本は状態がよいものなら底本として目録に記載されて図書館内で閲覧可能になる。
 それらの本を言語別、分野別に目録へと記載してゆくのが主な作業だ。目録は十数冊に渡る。書名だけでなく、章の題名があればそれも拾い上げる。その他の欄に寄贈者の名や簡単な本の内容を付け加える場合もあった。
 目録に記す番号と同じ記号と数字が書かれた紐付きの木札を当該の本にかけ、後は正式な本棚の適所に移動させれば完了である。
 一緒に参加する図書館の司書四人はこれまでアウラシアとカリナの目録作りを手伝ってくれていた人々だ。ちなみに司書達はアウラシアを本名のニーナと呼ぶ。
 まずは各自の能力に合わせて作業が分担された。
 ラテン語に理解があるクリミナ、カリナ、アウラシアは主に神学関連の目録を担当する。
 ラテン語の書名ならアニエス、ラムセス、ちびブラ団の四人も理解出来る。ゲルマン語の本も含めて仮の本棚から机まで、言語を選択した上で運ぶ担当になった。
 ゲルマン語の本に関しては、ラルフェン、サーシャ、ルネが目録に書き込んでゆく。
 中丹は本運びを手伝った。仮の本棚から重たい本を運ぶ時にはちびブラ団を手伝う。仕上がった本を正式な本棚へと整理しながら置きに行った。記号と数字が記された木札によって、所定の本棚はすぐにわかるようになっていた。
 司書達は手が足りない作業を補ってくれる。
「いろんな本があるんだね」
 アウストが呟くと他のちびブラ団三人も頷いた。
(「丁寧に大きな字でと‥‥」)
 ルネは項目ごとの枠に収まる範囲で読みやすさを重視して書き込んでいった。
「ありがとう、みんな。助かるよ。重たいから気をつけるんだよ」
「うん♪」
 机の前に座るサーシャは本を運んでくれるちびブラ団に声をかける。そして目録作りに集中した。
「はい、こちらがラルフ様から頼まれた本です」
「確かにお借りいたします」
 アニエスはアウラシアから礼儀作法の教本を受け取った。
「この辺りで美味しいお菓子を売っているお店を教えて欲しいのデス」
「お菓子? そうねぇ」
 ラムセスは作業の合間に司書の一人から図書館の近場にあるパン屋を教えてもらう。
(「本に囲まれていると落ち着くな‥‥」)
 ラルフェンはふとペンを止めて昔を思いだす。世話になった騎士の書斎に本が溢れていた事を。
「かっぱっぱ〜のえっさほいさっさやで〜。おっと、図書館は静かにやったな」
 中丹はちびブラ団と一緒に本を載せた台車を押して運び、正式な本棚に片づけてゆく。
「シスター・アウラシア、ありがとう御座いますね。本との出会いはちびブラ団の将来の糧になるでしょう」
「いえいえ、そんな」
 クリミナは深くアウラシアにお礼をいうのだった。

●覚悟
 作業が一段落し、休憩の時間となる。
「よろしいですか?」
 アニエスは真剣な眼差しでちびブラ団四人の前に立つ。そして以前ラルフ卿と話した内容を伝えた。
 ラルフ卿が自分達を気にかけてくれている事実にちびブラ団の四人は喜んだ。
「騎士は騎馬に乗り、剣を携え戦うもの。ですが対峙する存在は悪魔や怪物、悪者ばかりではありません。時にラルフ様達の様に命を狙われ、何より王や主君の命令で親兄弟、伴侶や恋人がいる普通の人の命を奪う事もあります」
 アニエスの言葉をちびブラ団の四人は静かに聞いた。
 ラルフェンがふと振り向くと、疲れて瞼を閉じかけている中丹の横に座るカリナが目に入る。
 カリナはちびブラ団の四人に向けて話すアニエスを見つめていた。
「改めて決意を問います。自分の命を誰かのために差し出せますか? 人の命を、主の命令で奪う覚悟がありますか?」
 ちびブラ団の四人はそれぞれの言葉で考えを語った。
 純粋であるが故に正しくはあるものの、とても甘い子供の理想。世間の真実を知れば吹き飛んでしまいそうな、とてもか細い蝋燭の炎のようなもの。
 しかしそれらは些末なものであって、子供らのすべてではない。
 アニエスは真意を酌み取り、四人の覚悟は本物だと信じた。言葉だけではなく、瞳の輝きを含めて。
「これを。私達が道を拓きましょう」
 アニエスは代表としてベリムートに教本を手渡す。子供向けに書かれたゲルマン語の礼儀作法本である。ラルフ卿によって特別に一年間の持ち出し許可が得られた本だ。
 ちびブラ団は教本を前にしてあらためて騎士になると誓った。
「それではこちらの用意も出来た。皆で頂こう」
 ラルフェンは机にお菓子を並べて紅茶を煎れる。
「これも美味しいのデス〜♪ ちょっと摘み食いしたのデス☆」
 ラムセスが抱えていたのは先程買ってきた焼き菓子である。
 誕生日を迎えたばかりのコリルとアウストには少し多めに菓子をあげるラムセスだ。
「実はボク達、さっき面白そうな本を見つけたんだ。作業が終わったら読ませてもらうつもりなんだよ」
 アウストが興味を持ったのは紋章図鑑と戦略指南の本である。
「騎馬での戦い方が図解で紹介した本があったんだ。剣だけでなく、槍も覚えたいぞ」
 クヌットは騎馬での戦い方の本が気に入ったようだ。
「俺は騎士の戦術指南の本が読みたいや」
「あたしも。やっぱり実践的なのがいいよね」
 ベリムートとコリルは吉多がたまに話してくれる戦術についての本を読みたがる。
「これなんてどうかしら」
 さっき目録に記したばかりのルネがコリルとベリムートに本を紹介する。ちょうどよい感じの本がまだ仮の本棚にあったのだ。
「コリルは騎士になったら結婚や子供はどうするの?」
「う〜ん。まだわからないよ〜」
「それもそうね。私は女性騎士として頂点を目指すのなら話は別だけど、そうじゃないなら両立はきっと出来ると思うの。理解のある旦那さんを見つけないとだけどね」
「そっか〜。あたしもそうしようかな?」
 ルネとコリルは互いにウインクをして一緒に笑う。
「シャシムを助けにいった時の戦い、あなたの目にどう映ったかしら? 正義は必ずしも一つとは限らないのよ」
「そうだね。難しいよね」
「今すぐじゃなくていいから自分の信念を見つけてね」
「うん♪」
 ルネは元気いっぱいのベリムートに微笑んだ。
「見かけは若く見えても、私はもうすぐ五十歳だ」
「そっか。サーシャさん、エルフだもんね」
 サーシャの言葉にクヌットが頷いた。いろいろ話そうと思ったサーシャだが、別の機会を待つ事にした。かわりに応援の言葉を贈る。
「騎士になるにしろ、経験してみないとわからないこともある。想像だけで決めてはいけない。よく考えて、確かめて、そのものの真価を得る。その方法はいくらでもあるんだ。私でよければ相談してくれ」
「俺様‥‥いや俺はまだよくわからないことがたくさんあるんだ。サーシャさんは変に感じるかも知れないけど、よろしくな。いや、よろしくお願いします」
 サーシャとクヌットは強く握手をする。
「私にも目を通させて頂けるかしら?」
「どうぞ。クリミナ先生」
 クリミナはベリムートから教本を受け取ってページを捲った。
 かなりわかりやすく書かれてあるが一部難解な表現もある。子供向けとはいえ、貴族向けの本なので仕方がない。それらを補完する為にクリミナは注釈の文章を用意するつもりであった。
「よい本です。しかしこれだけですべてを知った気になってはいけません。礼儀にしかり、格闘の技術にしかりです。経験は大切。どんな事も糧になります。成功した事も、失敗した事も、よい事も悪い事も」
「そうだね。貴族のお屋敷に呼ばれた時にそう感じたよ」
「失敗からは悔しいと思う気持ちや『次こそは』という強い意思を生みます。一緒にいる方々に不快な気持ちをさせないことがマナーの第一歩。まずは『書物を大切に』から、でしょうかね?」
「はい!」
 ちびブラ団の四人はクリミナに小気味よい返事をした。
「中丹さん、強いよね。どこか注意してるところとかあるの?」
「う〜ん、そやな〜‥‥、あんまり相手の武器は見んようにしとるかな?」
 アウストは中丹と一緒に菓子を摘んだ。
「相手の体全体を見渡せるようにして、体のどこに力を込めたかで次はどう動くというのを先読みするような感じやろか。まあ、あんまり参考にならへんかもしれへんけどな」
「うううん。それって何事にも通じるよね。全体を見て先読みか‥‥」
 中丹に感謝するとアウストは一人で考え込む。
「アラビア語の本も少しだけあったのデス〜。さっき、翻訳の写字生さんに言葉の意味を聞かれて照れてしまったのデス」
「ラムセスさん、すごいね〜。それにこのお菓子美味しいし。どこで買ったの?」
「近くのパン屋さんデス。あとで教えるのデス☆」
「うん。ありがと♪」
 ラムセスとコリルは一つずつ菓子の味を確かめながら食べた。たくさんの種類が売っていたようだ。
「カリナ、どうかな? この紅茶」
 ラルフェンは自分自身の気持ちに整理がついてから、ちびブラ団の四人に考えを伝える事にした。まずは様子が気になるカリナに話しかけた。
「美味しいです。とっても♪」
 カリナとラルフェンの会話は終始たわいもないものであった。
(「幼いのに貴族の世界でけなげに頑張っている。もしかして、ちびブラ団にとっての騎士としての試練はカリナからもたらされるのかも知れないな‥‥」)
 そんな風に感じたラルフェンである。
「お城での聖夜祭、どのように過ごされたか教えてもらえますか?」
 アニエスもカリナとラルフェンの会話に加わる。次第に他の仲間達もカリナの話しに耳を傾け始めるのであった。


●そして
 六日目昼頃、仮の本棚は空になる。つまり目録作りはひとまず完了となった。
 ちびブラ団の四人は残りの滞在期間をそれぞれに興味があった本を読む時間にあてた。わからない単語や表現があった時には冒険者やカリナ、アウラシアに教えてもらう。
 七日目の昼過ぎ、冒険者とちびブラ団は馬車に乗り込む。行きとは違って余裕をみて帰る為だ。
「ありがとうございました〜。わたしたちはヴェルナー城に戻ります〜」
 カリナとアウラシアに見送られて馬車は走りだす。冒険者達はアウラシアから追加の謝礼金とレミエラをもらっていた。
 一晩の野営を経て、冒険者とちびブラ団は無事パリへと戻るのであった。