美しき挑戦者募集 〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月14日〜01月19日

リプレイ公開日:2009年01月22日

●オープニング

「シーナ、それは一体?」
 冒険者ギルドの奥。仕事が終わった受付のゾフィー嬢は後輩のシーナ嬢が持ち込んだ大きな荷物を見つめる。
「これなのですか? これがインプでこっちはリリスなのです。で、こっちはアガリアレプト――」
 シーナは袋から顔を覗かせていた棒を順番に指さす。
「ちょ、ちょっと待ってよ。それってデビルの名前じゃないの? 何で棒の名前がデビルなの? ‥‥まさかシーナ、あなた悪魔崇拝者に‥‥」
「センパイ、勘違いなのですよ。これって修道院でも使われているものなんですよ〜。ケーゲルシュタット、こん棒倒しです♪」
「こん棒倒し?」
 シーナはゾフィーに説明する。
 こん棒をデビルに見立て、丸くした木球を転がして倒す儀式が修道院には昔からある。倒しただけ悪を退けた事になるらしい。
 今では儀式というより、こん棒を倒して得点を競う面白さの方が知られている。賭け事にも使われているようだ。
「前に一度やったことがあって、とても楽しかったのです☆ で、今日のお昼休みに市場までいってみたら売ってたのですよ〜。そこで思わず買ってしまったのです〜♪」
「そういうことなのね」
 二人は帰り道の間もこん棒倒しを話題にした。
 シーナの家にゾフィーが立ち寄り、さっそくやってみる。
 木球を転がして倒したこん棒の点数合計が得点となる。同じ回数を投げ合って得点合計の多い方が勝ちだ。
「はっ!」
 こん棒倒しに夢中になったゾフィーが我に返った時は深夜であった。
「もっと人を集めて遊ぶのですよ〜。そうしたらすごく楽しいのです〜♪」
「そうね、わたしも参加させてもらうわ‥‥。ところでシーナ。この道具、まだ市場で売ってたかしら?」
「これだけだったのですよ」
「それは残念だわ」
 シーナの返事にゾフィーが肩を落とす。ゾフィーもこん棒倒しをとても気に入ったようだ。
 シーナはさっそく家の外壁へ貼り紙をする。一緒にケーゲルシュタットで遊ぶ仲間の募集であった。

●今回の参加者

 eb3759 鳳 令明(25歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 ec2195 本多 文那(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec5115 リュシエンナ・シュスト(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ec5385 桃代 龍牙(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●集合
 一日目早朝、シーナの自宅。
「もしもと思って昨日もケーゲルシュタットのセットを市場で探してみたけど、やっぱりなかったわ‥‥」
「それは残念なのです〜。シーナも注意しておくのですよ」
 一番乗りの隣りに住むゾフィー嬢が大木球を抱えながらシーナの前でため息をついた。
 まもなくドアを叩く音がして、シーナは遊び仲間を出迎えた。
「シーナさん、おはようございます。貼り紙を最初に見た時はイペスとかアガレアリプトとか物騒な名前があって何事かと思いました♪」
「きっと夢中になるのですよ☆ それにしても雲母ちゃん、大きくなったのです〜」
 シーナに挨拶する鳳双樹(eb8121)はウンディーネの雲母と黄色いヒヨコを連れていた。
「ケーゲルシュタット、私は初めてなのです」
「簡単よ。木球を投げて、たくさんのこん棒を倒せばいいのよ。球は大きいのと小さいのがあるわ」
 エフェリア・シドリ(ec1862)は、こん棒を並べていたゾフィーを手伝いながら遊び方を教えてもらう。
「双樹ちゃんエフェリアちゃんシーナ様にゾフィー様、皆々様お久しぶりなのです〜♪」
 シーナの家に飛び込んだリア・エンデ(eb7706)は一番近くにいた双樹にぎゅ〜っと抱きつく。
「リアさん、元気でよかったのです☆ 心配してたのですよ」
「はう〜、ファル君、雪ちゃんもシーナ様にご挨拶なのです〜」
 シーナはフェアリーと雪玉を連れたリアに微笑んだ。
「これですね。貼り紙にあったケーゲルシュタットは」
 アーシャ・イクティノス(eb6702)はシーナの家に入るなり、並べられたこん棒に魅入る。
「こん棒がデビルなのです〜。つまりデビルをバッタバッタと倒してゆくゲームなのですよ」
「デビルですか。それは気合いが入りますね。怒りを込めて、ドカーン!と、床が壊れるくらいの勢いで投げ‥‥やだぁ、冗談ですよ〜♪」
 アーシャは顔を引きつらせたシーナの肩を指先で軽く突いてみる。
「これがケーゲルシュタット」
 本多文那(ec2195)は四つん這いになると板間ギリギリまで頭を下げる。そして木球の視点で離れた位置に並ぶこん棒を眺めた。
「ゾフィーさん、おはようございます。初めてなんです。楽しみです♪」
「面白いわよ。ルールは簡単」
 本多文那が立ち上がるとゾフィーがやり方を教えてくれた。
「悪を退ける‥‥ジャパンに似たような意味の行事、あったかしら?」
「前に建物に守護として飾るガーゴイルにそっくりなジャパンの鬼瓦の話しを聞いたことがあるのです」
 リュシエンナ・シュスト(ec5115)はジャパンとノルマン王国の不思議な共通項を話題にする。ちなみにリュシエンナのいう行事とは豆撒きのようだ。
「う〜ん? どう見てもボーリングだよなぁ?」
 アトランティスを通じて天界からやって来た桃代龍牙(ec5385)はケーゲルシュタットの眺めて呟いた。どうやらよく似た遊びを桃代龍牙は知っているらしい。
「桃代さん、ケーゲルシュタットやったことがあるのですか?」
「少し違うけどな。それはそれとして、だ。年頃の女性が留守宅に男を上げるのはあまり感心しないな」
「大丈夫なのですよ。泥棒撃退用にこの家には秘密が隠されているのです♪ いざとなったらそれで丸こ‥‥なんでもないのです☆」
「もしかして丸焦げっていいかけたのか?」
 桃代龍牙が問い直しても笑って誤魔化すシーナであった。
「うっしゃ〜〜。やっと着いたのじゃじゃ〜」
 最後に現れたのはシフールの鳳令明(eb3759)だ。背中の荷物を棲家に置いてくる事でようやく自由に動けるようになったようだ。
「令明さんで全員が集まったので、あらためてやり方を教えるのです☆」
 シーナが大きさの違う二個の木球を持ち上げた。まずはどちらか一方を選択する。
 続いて引かれたラインから足をはみ出さないようにして木球を転がす。そして遠くに並べたこん棒を倒すのみだ。
 倒したこん棒につけられている点数を合計して一回分の得点とする。外れたら〇点。全部で三回投げて、合計点数が多い者が勝ちとなる。
 最終日にはお遊びの延長だが大会が開かれる。それまではシーナの家で練習してもよい決まりだ。
「シーナ様、最後はお夕食会をしたいのですよ〜」
「それはいい考えなのです☆」
 リアの提案にシーナだけでなく全員が賛成した。
 練習の帰りにリアがジョワーズ・パリ支店に個室予約を入れてくれるという。
 さっそく練習を兼ねた遊びが始まる。まずは投げ比べて大小どちらの木球を使うかの選択がされた。
「うにゅ〜、球が大きい‥‥」
 令明は小木球を選択するが、それでわずかに大きめであった。
「シーナどにょ、質問があるのじゃじゃ」
 令明は木球を投げるまで飛んで加速してよいかとシーナに訊ねる。決められたラインの上を頭が越えないまでに手を離して木球を転ばせれば大丈夫とシーナは答えた。
「やっぱ女の子はちっちゃいほうが可愛いですね〜」
「アーシャさん、充分魅力的なのです♪」
 アーシャがシーナとゾフィー二人の手と自分のを比べる。
「それでは!」
 アーシャは大きな手を理由に大木球を選択し、豪快に投げる練習を始めた。
「はう〜上手くもてないのですよ〜」
 リアは両手で大木球を抱えながら転がしてみた。残念ながらへろへろ〜っとこん棒の位置にすら届かない。
 小木球に持ち替えてみると、今度はへろ〜っとはしていたが何とか到達する。インプのこん棒が揺れただけだが、リアは大喜びである。
「はう〜ファル君、雪ちゃんを転がしちゃ駄目なのですよ〜〜!」
 ふと足下を見たリアは喜びから一気に覚めた。ファル君が雪ちゃんを転がしてリアの真似をしていたのだ。
「わたしも、試してみるのです。ごろごろなのです」
 リアの次はエフェリアの番だ。両手で持って下から押しだすように転がす。コントロールがつけやすい小木球に決めたエフェリアであった。
「一応、侍ですし‥‥。ここは大きい方にします!」
「お肉の友なら大丈夫なのですよ♪」
 投げ比べた双樹は大木球を選択する。少々大きく感じるが練習でカバーするつもりである。
「よし! ど真ん中狙いでドカーンと♪」
 最初から大木球でやるつもりだった本多文那は勢いよく投げる。失敗を気にせずに楽しむつもりだ。
「こっちに決ぃ〜めた!」
 リュシエンナは悩んだ末に小木球を選択した。パワーよりもコントロール重視である。革手袋をはめ、小木球に様々な回転を加えてみるリュシエンナだ。
(「傾斜はほとんどないが、投げられた球には右に流れるな‥‥」)
 最初から大木球しか眼中になかった桃代龍牙は板間の様子を詳しく観察した。
「ボーリング仕込みの俺のフォームを参考にしてくれ」
 仲間に宣言をした上で桃代龍牙は勢いよく投げようとする。
 しかしあまりの軽さに離すタイミングを間違え、明後日の方向に大木球が飛んでいった。ついでにバランスを崩し、前転をしてしまい苦笑いをする桃代龍牙である。
 シーナは大木球、ゾフィーは小木球を選択するのだった。

●大会
「それでは始まりなのです〜♪」
 五日目の昼、シーナの合図でケーゲルシュタット大会が始まる。
「特訓の成果を見せるときです〜。目指すは最高記録なのですよ〜♪」
 ファル君が応援する中、リアが大きく下手投げで小木球を投げる。そしてオデコからステンと転んだ。
「はう〜‥‥う?」
 転げる勢いが足されたせいか、こん棒が何本か倒れていた。点数を示すエフェリアの鈴の音が鳴り響く。
「はう〜、やったのです〜♪」
 赤くなったオデコも忘れ、双樹の手を握って跳ねるリアであった。
「狙うは中心からアガリアレプトです!」
 続いての双樹は流れるようなフォームで大木球を滑らせる。
 立ち位置をわざとずらし、斜めからインプに当てた。アガリアレプトを含めて5本を仕留める。
「私も、アガリアレプトさんなのです。スーさん、見ていてくださいです」
 エフェリアは双樹よりも極端な端から小木球を転がした。練習で一番いい結果が出た方法だ。
 非常にゆっくりでインプを外したものの、アビゴールとアガリアレプトはちゃんと引っかけて倒した。
「大分慣れたはず。いくぞ!」
 桃代龍牙は豪快なフォームで腕を振り回すように大木球から手を離した。
 一番手前のインプが掠めただけで宙に舞う。ただし勢いがつきすぎて他のピンに絡まなかった。
「シーナさんに教えてもらったんだし、よし! がんばるぞー♪」
 本多文那はシーナに教えてもらったように投げた。家に泊まり、一緒に夕食を食べたのもよい思い出である。
 かなり倒すものの、高得点のこん棒が倒れない。こればかりは運だ。
「ま、順当だわ」
 ゾフィーは無難な成績である。
 全員が二回投げ終わったところで休憩の時間となった。
 この時点で上位の成績が他の者より抜きんでていた。令明、リュシエンナ、アーシャ、シーナのトップ争いだ。
「みなさんのシュクレ堂の焼き菓子はとっておくのです♪ わたしがたくさん買ってきたのを食べるのですよ〜。美味しいのです」
 シーナの焼き菓子をみんなで食べる。アーシャが持ってきてくれたお饅頭やクッキーもあった。
 さらに芳醇な香りを放つミルクティがアーシャ提供の紅茶の葉で煎れられる。
「はう〜、これを食べるとパリにいるって気がするのですよ〜♪」
 笑顔のリアはパクリとシュクレ堂の焼き菓子を頬張った。
「シュストさん、パイですか?」
「ええ、どうぞ。ジャム入りですよ♪」
 リュシエンナはまずエフェリアにパイを取り分けた。全員に行き渡ったところで、最近体験したお風呂や、蕎麦と汁粉の味を話題にする。
「グレムリン捕まえて、銀の鎖でぐるぐる巻きにして棒に縛り付けて、ゲーゲルシュタットBYホーリー! とか? なんだか可哀想〜」
 アーシャは本物のデビルでケーゲルシュタットをしたらどうなるのかを語った。もちろん冗談である。
「俺が知っているのは――」
 桃代龍牙がケーゲルシュタットによく似たボウリングという競技を話した。みんな興味津々で耳を傾ける。
「来たのじゃじゃ!」
 令明がノック音を聞いて元気になる。
 シーナがドアを開けると、現れたのはちびブラ団の四人だ。令明がベリムートに手紙を送って呼んだのである。
「ベリムートどにょ、おりのやり方を見て覚えるのじゃじゃ」
「わかった。でも練習したいから、勝負は少し待ってね」
 令明は木材で複製したケーゲルシュタットセットをベリムートに贈る。またの機会に勝負を挑む為だ。
 ここからはちびブラ団の四人も見学である。
「俺も昨晩作ったぞ。フェアリー用だけどな」
 桃代龍牙は骨を削って作ったフェアリー用の小さなケーゲルシュタットセットを取りだした。
 喜んだフェアリーのひいらぎとファル君が遊び始める。ウンディーネの雲母がこん棒並べを手伝う。
 休憩の時間が終わり、最後の一投が開始された。
「やってしまったのです〜!」
 ここぞというところでシーナは足を滑らせる。リリスだけは倒したが、これで四位が決定となった。
「やるのじゃじゃ〜!」
 令明は窓から飛翔して室内に飛び込み、これまで以上の勢いで小木球を転がす。5本をなぎ倒すが、残念ながらアビゴールが残ってしまう。
「ふふふ、棒を弾くのがコツっぽいのです!」
 アーシャはカーブを描かせながらの投法でインプを狙った。すべてをなぎ倒し、21点が追加される。
 ただし、二投の時点でリュシエンナが1点勝っていた。
「曲がって!」
 小木球を使っていたが、リュシエンナの投げ方は基本的にアーシャと変わらない。大きく球は曲がり、すべてのこん棒が転倒した。
 結果、リュシエンナの一位が決まる。二位がアーシャ、三位が令明である。
「シュストさん、すごいのです」
 激しく鳴らされたエフェリアの鈴の音がリュシエンナを祝福した。
「これはプレゼントなのです♪」
 シーナは全員にシュクレ堂の焼き菓子をあげた。特に上位三人には多めである。
 さらにまだ持っていない友達にはブタさんペーパーウェイトが贈られるのだった。

●食事会
 一同はちびブラ団を家に送った後、リアが予約してくれたジョワーズ・パリ支店に向かった。
 到着すると予約した個室に通される。
「ここはやっぱりシーナさんがいることですし、お肉料理を注文しましょうか?」
「さすがお肉の友なのです☆ わかっているのです」
 双樹にシーナは頷いた。
 すぐに料理がテーブルに並べられる。
「肉はこの世界でもやはりうまいな」
 ワイン一杯で真っ赤な顔の桃代龍牙はシーナと競うように焼かれた肉の塊にかぶりつく。
「そうです。やっぱりお腹空いたときはお肉ですよ。おかわり!」
 アーシャも二人と一緒になってお肉を頂いた。
「うにゅ〜、残念だったのじゃじゃ。でもベリムートどにょにはまけないのじゃじゃ」
 令明も皿を何枚も平らげる。
「あ、ティリアさん。お元気でしたか?」
 美味しく肉料理を頂いていたリュシエンナが振り返るとティリアの姿がある。シーナの来店を知ってウェイトレスの代わりに料理を運んできたのだ。
 ティリアはシーナの紹介でこの店に料理人として雇われた女性である。
「おかげさまで。これはサービスですよ。どうぞお召しあがれ♪」
 ティリアはスパゲッティの皿をテーブルに並べてゆく。
「リアさん、これが噂のスパゲッティですよ♪」
「はう〜、細長いのですよ〜♪」
 リュシエンナに勧められたリアはフォークでスパゲッティを口に運ぶ。
「美味しいものは人を幸せにするのです〜♪」
 大きな瞳をうるうるさせるリアだ。
「何度食べても、おいしいのです。さすがなのです」
 エフェリアもスパゲッティを子猫のスーさんと食べる。思い出の絵は描いたし、木球を転がした。後は家に帰ってケーゲルシュタットを兄に作ってもらうだけだ。
「前より美味しくなっている気がしますね」
「わたしもそう思うのですよ。腕をあげたのです、ティリアさん」
 本多文那とシーナはスパゲッティの味を確かめる。
 最近はお肉の次に麺料理にはまっているのを双樹に伝えたシーナだ。
「どうしても運動神経が必要なものはシーナに勝てないのよね」
「一つぐらい先輩よりいいとこないと、わたしもやってられないのです♪」
 シーナとゾフィーは二人で笑う。
 お腹一杯になり親睦を深めたところで、集まりは解散になるのであった。