望む将来 〜ちびブラ団〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月27日〜02月01日

リプレイ公開日:2009年02月05日

●オープニング

 ちびっ子ブランシュ騎士団、略してちびブラ団。
 本物のブランシュ騎士団に憧れる子供達が作った集団は基本四人で構成されている。
 黒分隊長こと少年ベリムート。
 灰分隊長こと少年アウスト。
 藍分隊長こと少年クヌット。
 橙分隊長こと少女コリル。
 十歳を迎えた今、四人は将来を見据えていた。
 想いは本物の騎士になること。
 子供の儚い夢で終わるのか、それとも現実として掴み取るのか、今は誰も知る由もなかった。


 冬の晴れた日、ちびブラ団の四人とアニエス・グラン・クリュ(eb2949)は吉多幸政の家近くにあるセーヌの河原で騎士修行をしていた。
「現状皆さんの能力、騎士としての適性はどの程度のものでしょうね?」
 休憩の時、アニエスが焚き火にあたりながら、ちびブラ団の四人を眺める。
 女の子のコリルは当然としても、男の子のベリムート、クヌット、アウストにも顕著な差があった。体格だけでなく、他にも個性は様々である。
 これから先、同じ修行を続けても結果は異なるものになるだろう。それならば各自に特化した修行もよいかも知れないとアニエスは考えた。
「まず自分がこんな騎士になりたいと思う姿を想像しましょう。それを実現するための目標と具体的な計画を紙に記してみませんか?」
 修行が終わった後、五人はそのままクヌットの家に移動する。アニエスが見守る中、ちびブラ団の四人はペンを走らせた。
 まずはクヌットが自身の考えを発表した。
「俺様、いや俺はさ。この間、図書館の本で観たような戦闘馬に乗って先鋒になるのが夢なんだ。一気に味方の活路をひらくようなさ。その為にはまず馬に慣れて、それで長槍の扱いをうまくなりたいなあ」
 クヌットの目標は単純かつ明快だ。誰よりも強い騎士になりたいと願っていた。
 続いてはアウストである。
「ボクは戦いを成功に導く手助けがしたいかな。といっても戦いそのものより、戦略で頭を使ったり。補給や索敵をおろそかにすると戦いはそれだけ不利になるんだよ。そういうのを補佐官や副長の立場で具申できたらなって。あ、もちろん騎士なんだから戦うのも強くなりたいよ」
 アウストは頭脳を使って役に立つ騎士になりたいという。
 三番目はコリルだ。
「えっとね。最終的に目指すのは指揮する立場よね。すぐには無理だろうけどブランシュ騎士団の分隊長になりたいの。でも責任が重いから、いろいろと勉強しないと。強いのはもちろんだけど、戦術とかの指揮をする能力にも長けていないといけないし」
 あまりに必要な技量が多すぎてコリルは把握しきれないようだ。それはベリムートも同じであった。
「俺もコリルと同じなんだ。将来はブランシュ騎士団の分隊長。望めるのなら隊長になってノルマンを守りたい。でもさ、この間読んだ戦術の本にもあったけど、指揮をする立場の人って強さそのもの、状況判断、部下からの信頼とか、求められるものが多すぎてさ。いくら名門貴族の出でも、それらが欠けてたら結局は落ちぶれるみたいだし」
 コリルとベリムートは同時にため息をつく。続いてアウスト、クヌットも肩を落とした。
 自分達に足りないものは何となくわかっていても、具体的な修行方法となると四人とも思いつかないようだ。加えてクヌットを除いた三人は市井の出である。騎士になれるかどうかもとても怪しかった。
「わかりました。ここは私に任せて下さい。ギルドで指導してくれる冒険者を募集しましょう。どうすればいいかさえわかれば、ある程度までは独学でなんとかなるでしょうし。皆様に必要なのは最初の一歩を踏みだす事です」
 アニエスは四人と約束をする。
 そして翌日、冒険者ギルドを訪れた。
「アニエスさん、今日のご用はなんでしょう?」
 カウンターでアニエスに応対してくれたのは受付のゾフィー嬢である。
「実はちびブラ団の分隊長様を本物の騎士に導いて頂ける方々を募集したいのです。困難は山のようにありますが、まずは騎士としての技量を身につけなければなりません。その為の依頼です」
「あの四人の子供達ね。レウリーも知っている子らだわ。そう、本気で騎士を目指すのね」
 ゾフィーはアニエスの言葉をまとめて依頼書を仕上げてくれる。
 依頼の形式としてはお茶会の募集となった。
 ただし、和気藹々が目的なのではなく、ちびブラ団の将来についての話し合いである。その点は間違いがないように大きな文字で目立つように書かれた。
 アニエスは掲示板に貼られた依頼書を再度読み直してからギルドを立ち去るのであった。

●今回の参加者

 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec3546 ラルフェン・シュスト(36歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec4004 ルネ・クライン(26歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec4491 ラムセス・ミンス(18歳・♂・ジプシー・ジャイアント・エジプト)

●サポート参加者

諫早 似鳥(ea7900)/ ルイーゼ・コゥ(ea7929)/ 壬護 蒼樹(ea8341

●リプレイ本文

●初日
 多くの人々でごった返す冒険者ギルドには個室がいくつか存在する。
 その中の一室にアニエス・グラン・クリュ(eb2949)の要望に応えようとする仲間が集まってくれた。
 ちびっ子ブランシュ騎士団の四人もおとなしくテーブルの一辺に並んで座る。
「集まって頂いてありがとうございます。今日はちょっとした顔合わせです」
 アニエスがちびブラ団の四人をあらためて紹介する。参加してくれたのはこれまでにちびブラ団と関わりのある冒険者達であった。
 ちびブラ団の四人はアニエスに語った未来への展望をあらためて話した。それが終われば今日の主な用事は終了である。
「依頼の最後の日にはお茶会を開かれるとお聞きしたわ。その時、こういうお茶菓子はいかが」
「ありがと〜。クリミナ先生」
 クリミナ・ロッソ(ea1999)がコリルに渡した木片にはクッキーのレシピが記されていた。
「私からはこちらを」
「助かるよ。アニエスちゃん」
 アニエスが紅茶の葉とジャムをベリムートに預ける。加えてお茶会の用意に必要な購入費用も手渡された。
「私は外に繋げてある子馬で買い物の荷物運びをするわ」
「テルムと二頭なら、どんな買い物をしても平気だね」
 ルネ・クライン(ec4004)は中腰でアウストの目の高さに合わせて微笑んだ。何を買うかなどは口出ししないつもりである。
 お茶会用にと、とっておきのクレープのレシピも提供するルネだ。
「これは僕が美味しいお店を探す時に使ってる地図デス〜♪」
「おお、何かすごそうだね。ありがと〜」
 ラムセス・ミンス(ec4491)はアウストにパリの裏地図を貸しだす。裏地図を広げたアウストへ特にお勧めのお店を教えておいた。
「俺は菓子なら甘いのが食べたいな」
「わかったよ〜。ラルフェンさんは甘党なんだね♪」
 ラルフェン・シュスト(ec3546)の希望にコリルは微笑んだ。ベリムートは強く頷き、アウストはメモを取り、クヌットは握り拳をあげる。
 さっそくちびブラ団の四人とルネは市場に買い物へ出かけていった。
「わたくしはこちらの補足に力を注ぎますので、先に失礼させて頂きます」
 クリミナはベリムートから礼儀作法の教本を預かっていた。難解な部分に注釈を施すつもりである。必要な図解は似顔絵描きのオレノに挿し絵を描いてもらう予定だ。
「僕はここで失礼するのデス〜」
 ラムセスも帰り、冒険者ギルドに残ったのはアニエスとラルフェンの二人である。
「夕方にはお仕事の時間終わるので、その後なら大丈夫なのです☆ 今日はゾフィー先輩もシフト一緒なので、後で伝えておくのです〜。きっと平気なのですよ〜♪」
 アニエスとラルフェンは受付カウンターのシーナ嬢に時間外の相談をお願いをした。
 ゾフィー嬢も近くの受付カウンターに座っていたが、たくさんの依頼人が並んでいたので話しかけるのは躊躇われた。
 相変わらず深刻な問題を抱える依頼者はシーナのカウンター前には座らないようだ。反対にゾフィーは大忙しのようである。
 宵の口、レストラン・ジョワーズ・パリ支店に仕事帰りのシーナとゾフィーが現れた。予約した個室で待っていたアニエスとラルフェンが出迎える。
 ひとまずは食事の時間となる。
「プレ・サレは最高なのです〜♪」
「ほら、シーナったら。そんな食べ方見られたら、お嫁の貰い手なくなるわよ」
 まるでゾフィーが母親でシーナが幼い子供のようだとラルフェンは思わず笑ってしまった。
「実は――」
 食事が進んだところでアニエスが相談を切りだした。ちびブラ団の四人が冒険者ギルドに登録する際にどのような手続きが必要なのかである。
 冒険者の登録には一人につき10Gの費用がかかる。さらに身元保証のお礼などで別にかかったりもするが、それは個人の問題で冒険者ギルドとは直接関係がない。
 本名ニーナ、通称シスター・アウラシアからちびブラ団は正義の為の資金を預かっているが、果たして使ってよいものか疑問が残る。
 ちびブラ団四人の両親の説得するにあたっても関係する問題であった。
「登録料を身元保証人として今仰られた吉多さんに全額支払ってもらい、後から四人の子供達が依頼の稼ぎで返してゆくのはどうかしら? アニエスさんやラルフェンさんのように援助したい方は吉多さんに資金を預けるって形がよいと思うのだけど」
 ゾフィーの提案にアニエスとラルフェンが話し合った。想定していたように身元保証も含めて吉多に頼むのが最善のようだ。
「ただ、実際に見ていないので断言しようがないのだけど、四人の子供達の実力は大丈夫かしら? もう少し力をつけないと活躍するのは難しいかも。今は駆け出し用の依頼でもデビルが関わっているものが多いのよ」
 深刻な内容の受付が多いゾフィーならではの見識である。
「十歳ならきっと大丈夫なのですよ。それがギルドの規約ですし〜。不安なら最初は戦闘がない困った人のお助け依頼がいいのです。これまでにちびブラ団のみなさんがお手伝いしたような依頼もそれなりにあるのです〜♪」
 日常の困り事依頼をよく受け付けるシーナらしい意見であった。他の受付よりも相談者が少ないシーナだが、それなりに仕事はこなしている。
 視点を変えてみれば日常の困り事の受付に関してシーナはエキスパートといえる。
「助かりました。何かあった時はまた相談に乗って下さい」
「俺からもいわせてくれ。ありがとう、二人とも」
 帰り際、アニエスとラルフェンはシーナとゾフィーにお礼をいう。
 翌日、吉多幸政の元を訪ねた時にはルネも一緒であった。
「保証人になるのは構わんが、ジャパン出身のわしではどうなのだろうか?」
 吉多の言葉にアニエスはハッとなる。
 現在のノルマン王国が復興するに際し、ジャパンの協力は非常に大きなものであったらしい。ゾフィーが吉多の身分に触れなかったのはその為かも知れない。しかし身元保証をするのならば、ノルマン王国出身者で社会的地位が高い者がより望ましいはずだ。
「お金に関わる一連は、ちびブラ団と身近なわしが引き受けよう。ただ、身元保証は冒険者の方々にもお願いしたい。もちろんあの子らの親御さんの許可も必要だが」
 吉多の考えをアニエス、ラルフェン、ルネの三人は受けいれる。三人とも元々資金の援助をするつもりでいた。
「これを。私達が話すまで子供達には内緒にして下さいね」
 具体的な金額を考えてきたルネは吉多に20Gを預けた。アニエスとラルフェンは次の機会となる。
 登録費用は四人分で40G。これに武器防具や野営用具、保存食代も必要になるだろう。
「こちらはクリミナおば様から預かってきたものです」
 アニエスはクリミナから頼まれた『兵書「呉子」』と『写本「古代ローマ人の軍事制度」』を預けた。
「俺には子がないゆえその分も、後進である彼らの力となりたい。力不足だがせめて、その道の先をゆくひとりの騎士として切に思う」
 ラルフェンはちびブラ団への協力を吉多に深々と頼むのであった。

●お茶会の前日
 四日目の午後、アニエスとクリミナは二人でパリを歩いていた。
 アニエスの案内で辿り着いたのは路地裏の奥にひっそりとある空き地。絵師オレノの商売場所である。
「この絵を綺麗にわかりやすく仕上げてもらえますか?」
 クリミナは礼儀作法が描かれたたくさんの木片をオレノに渡した。どれもクリミナが自ら描いたものである。
「長い保存に適した小冊子にしたいのです。高級な羊皮紙にお願いします」
「こんなに! これは張り切らせて頂きます」
 アニエスに謝礼金を前渡しされたオレノは非常に喜んだ。
「それと‥‥こちらのカードを頂けますか?」
 アニエスは並べられていた木札の中からバレンタインカードを手に取る。
 花の絵が散りばめられていたが、中央には何も描かれていない。ここに意中の相手の名を書きつけて想いと共に大切に保存しておくものらしい。
「アニエスさん?」
「な、何でもありませんよ。クリミナおば様」
 クリミナと目が合い、恥ずかしくなって下を向くアニエスである。顔は真っ赤に染まっていた。
 さすがに注文の図解が明日までに仕上がるはずもない。
 完成したのなら吉多の元に届けてもらう約束になった。クリミナの文章が書かれた羊皮紙と合わせて、ラルフから預かった礼儀作法の教本を補足する小冊子にまとめられる予定である。小冊子にする費用も今回アニエスが提供した資金に含まれていた。

●お茶会
 五日目の午後、ベリムートの家でお茶会は開かれた。
 ベリムートの両親はちょうどお出かけ中である。
 ちびブラ団の四人が朝から頑張って作った菓子類がテーブルに並ぶ。紅茶入りクッキーや林檎の入ったクレープなどが用意されていた。
 テーブルにはペルス・ネージュの花が飾られている。小さくて白い、とても可愛らしい花である。
「今日はお越し頂いてありがとうございます」
 訪れた冒険者達をテーブルまでエスコートしたのはベリムートである。
「きれいなのデス♪」
 ラムセスが指先で花びらに触れた。
 全員が揃い、ちびブラ団の四人が並んで挨拶をする。
 さっそくお茶会が始まり、クヌットがホットミルクとお湯の入った容器二つを持ってくる。コリルとアウストがミルクティーを煎れてゆく。ストレートな紅茶が好みの方にはジャムも添えられる。
 アニエスからもらった紅茶の葉はクッキーに使用されていた。ミルクティ用のは以前にラルフ卿からちびブラ団が頂いたものだ。
 銀製の食器類はキマトーナ婦人からプレゼントされたものである。壁にはアニエスが持ち込んだウィリアム3世の肖像画が飾られている。
「分隊長様方が本物の騎士になるにはどうしたらよいのか、具体的な意見を出し合うお茶会です。と、その前にそれぞれの個性を確認しましょうか」
 アニエスの一言で話し合いが始まる。
「そうですね。個性とは長所、短所と言い換えられます。しかし自分では短所と思っている点が他人から見れば長所、という事は多々あります。冷静に判断すべきでしょう」
 クリミナが並んで座るちびブラ団四人に微笑んだ。
 ちびブラ団は一人ずつ自分の長所、短所を語り始める。
「俺様、いや俺というかボクは、なんていうかやっぱりこの言葉遣いだよな。別に友達と話すときはいいと思うんだけど、やっぱり偉い人とかの前じゃまずいようなあ‥‥。ラルフ様からもらった教本でがんばってみるつもりなんだ。長所は元気なとこかな」
 クヌットには落ち着きがない。ラルフ卿からの教本が一番必要なのはクヌットのようである。
「僕は引っ込み思案‥‥なとこかな。あくまで仲間と比べてだけど。あとは何かする時に考え込むクセ。悪いことしているつもりはないんだけど、みんなが知らないところで、よく大人に怒られるんだ。遊んでいないで、とっとと動けって。父さんと母さんは別だけどね。僕としてはよく考えてから効率的にやろうと思っているんだけど。これって本当に悪いことなのかな? 長所は思いつかないや」
 アウストの悩みに冒険者達は驚いた。クヌットの長所を伸ばすには新たな環境が必要なのではと考える冒険者は多かった。
「あたしの短所はやっぱり体力かな。今はみんなと同じくらいだけど女の子だから、いつかは抜かされるもん。そういうのって機転とか知識でカバーするしかないと思うの。アウストのとはちょっと違うんだけどね。長所は‥‥自分でいうのって恥ずかしいよね。明るいところ? かな?」
 コリルは心の奥底で実戦の勘を養う必要性を感じているようだ。
「俺は‥‥長所や短所を考えてもわからないんだ。欲張りなんだな、きっと。すべてが長所にも感じるし、逆に短所にも感じられる。うぬぼれているつもりはないんだけど、大抵のことはなんとなく出来ちゃうんだ。でもさ、もっとうまくなろうとしても難しくてさ‥‥」
 ベリムートの悩みはとらえどころのない霧のようなものだ。故に長所、短所も浮かび上がりにくい。何事もコツを掴むのがうまいからこそ物事を軽く見てしまうのがベリムートの短所だといえなくもない。しかしベリムートなりに壁を感じているのは確かなのである。
 ちびブラ団の四人が長所と短所を語るのは終わった。
 ルネはさっそくクヌットと話してみる。言葉遣いや礼儀作法についてだけでなく、騎士としてどうしたいのかを訊ねたりもした。
「あなたは誰かを守ろうって気持ちが強くて勇気があるけど、その分自分の力を過信し過ぎる所があるわ。でも元気がない皆を勇気付けられる優しさと人を纏めていける魅力の持ち主よ」
 なるべく傷つかないように短所を指摘してあげるルネである。言葉遣いに関してはクリミナに任せた。
「なんとなくだけどボクもわかるのデス。大きいので子供にみられないし、理解されないのはつらいのデス」
 ラムセスは特にアウストと長く語り合った。
 世界は自分を中心にして回ってはいない。だからといって仮面を被って周囲に合わせても自分自身を見失ってしまう。折り合いをどこでつけるかは本人次第だ。
「親と離ればなれになるかも知れないのデス。それでも騎士になりたいのデスか?」
「うん。父さん母さんは悲しむと思うけど‥‥、それが必要ならばね」
「考えるクセは悪いことではないと思うのデス。そういう事をいう人も、いつかはわかってくれるのデス。がんばるのデス」
「ありがとう、ラムセスさん」
 アウストの決意の固さを知り、応援するラムセスであった。
「実戦での知識が必要だとコリルさんは考えているのですね」
「そういうことなのかも。でも、はっきりとはわからないの」
 クリミナはコリルの思いをより引きだしてあげる。そして余った時間はクヌットの言葉遣いの悩みにすべて注いであげた。
「得手不得手は意外と自覚し難い。俺は槍の扱いが苦手だが、剣術と比較した時の苦手意識であり下手とは違う。出来ればちびブラ団同士で評価し合うのが望ましい。だが客観的な評価が無理だと感じたのなら、俺達や吉多に任せたらどうだろうか?」
「そうだね。俺がうまくいっていると感じていても、もしかしたら違うかも知れないし」
 ラルフェンは主にベリムートの相談に乗る。
 ベリムートの悩みは思ったより深かった。犬ゾリや雪合戦での活躍を見ても、ベリムートの能力は比較的高い。それでもベリムートは不安を感じているようだ。
 各自の相談時間は終わり、より具体的な話題が話し合われた。どうすればちびブラ団の四人が本物の騎士になれるのかだ。
「私の考えを述べさせて頂きます。騎士になるには貴族、騎士階級の方の養子になるのが早道です。といいますか、殆どこの道しか残っていません。さらにイギリス語を覚えてケンブリッジに入学をするか、または他の騎士の従者になるかでしょう」
 アニエスの言葉にベリムート、アウスト、コリルは顔を見合わせた。知っているだけならラルフ卿を始めとしてそれなりいるが、養子にしてもらうほどの親しい相手は少ない。
 養子に迎えてくれるとすれば、以前にアニエスとの繋がりで出会った老騎士達しか思いつかない。
 騎士の家柄であるクヌットは、ひとまずの条件を満たしていた。
「そういえば出かけるとき、母ちゃんに教えてもらったんだ。前に母ちゃんの兄ちゃんが怪我をして留守番した時があっただろ? 母ちゃんの兄ちゃん、落馬から元気になったんだけど、さすがに戦いに行ける身体じゃなくなっちゃってさ。それで今は独り身だし、養子が欲しいっていってるらしいよ。もちろん騎士だぜ」
 クヌットの話しに誰もが釘付けになる。
「もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」
「うん。欲しいのは一人だけど、男でも女でもいいって。そのかわり騎士となってノルマンに貢献するのが条件だってさ。一応いっておくけど、母ちゃんの兄ちゃん、四十歳近くで使用人もいないし、今は嫁もいないぜ」
 アニエスに頷きながらクヌットが答える。
「先方の意志確認もありますので断言は出来ませんが、今のところの選択肢は老騎士の方々か、クヌットさんの親戚の養子になるのかになりますね。なるべく早めに気持ちを固めておいて下さい。それと、ご両親の説得は‥‥どうしましょうか」
 アニエスの問いにベリムート、コリル、アウストが相談する。そして自分達で説得すると力強く返事をした。
 大変なのはわかっているが、今後を考えるならこれぐらいの試練は自分達で越えなければならないと覚悟したベリムート、コリル、アウストの三人である。
「俺様、いやボクも手伝うぜ。仲間だからな」
 クヌットが差しだした手に他の三人が手を重ねる。
「修行に関してはこれまで通りでよいと思います。ただ、礼儀作法も頑張って下さい。それとなるべく上流の方々の目に留まるように行動なされた方がよいとも考えています。競技大会やそして‥‥冒険者ギルドへの加入をお勧めします」
 アニエスは世間にアピールする重要性をちびブラ団に説いた。その為には冒険者になるのが早道である。
「登録については吉多様と私達に任せて下さい。お金については後々に吉多様に返して頂ければ結構です。焦る必要はありませんので。ただ養子になるのも含めて、ご両親の許可は絶対に必要です」
 アニエスがこれまでの話をまとめ、あらためて順に伝える。
 クヌット以外のちびブラ団三人は早くに両親を説得しなければならない。騎士の養子になるのと前後して冒険者ギルドに加入を果たして活動すべきである。
 最初は簡単な依頼でいいので、徐々に世間の評判を高めるように行動する。さらに養子先とは別の騎士に気に入られて従者となれば、騎士団入隊への道が開かれたといえる。
 従者にはならずにケンブリッジに入学する方法も残っているが、それは別の話だ。
「立派な人を目指すより、人に好かれる、愛される人間になる心掛けを。他人の長所を多く見い出そう、活用しようと努めて下さいね」
 アニエスは諭すようにちびブラ団へ語りかけた。特に反抗心が窺えるベリムートが心配であった。
「そうそう、ルイーゼさんからアウストさんに伝言があったわ。『うちみたいな天候を武器に使う魔法使いの立場からすると、季節や天候、地形も戦略の重要な要素やと思うんよ〜。いろんなモノに興味持ち続けてな〜』なのだそうよ」
「そうだね。心に留めておくね。今度会ったときにルイーゼさんにありがとうって伝えてね」
 クリミナの物まねにクスッと笑いながらアウストが感謝した。用兵の本を吉多に預けた事もアウストに教えたクリミナである。
(「神よ、どうか4人の存在と資質と活躍を、多くの人々が見知りますように」)
 クリミナは話しの最後に祈りを捧げる。
「私も諫早さんからアウストさんに言付かっています。『あたしら武将の手先や間諜はモノみたいに扱われてるし、実際そう自分でも思うんだけど、出来れば下の人間、できるだけ多くの人間の利益や損得を考えられる人間が強いと思うよ』です」
「なるべくみんなの幸せを考える‥‥。難しそうだけど忘れないようにするね。そうボクがいってたって諫早にお願いね」
 アニエスに語るアウストは考え深げな表情であった。
「少し待ってくださいデス」
 タロットカードを取りだしたラムセスはベリムートの将来を占う。
「後悔しないよう、目指して進んで見るべきデス。やらないで後悔するより、やって後悔する方が後で振り返って誇りを持てると思うデス」
「突き進むよ、俺」
 タロット占いの結果と共に自らの考えもベリムートにラムセスは伝えた。
「騎士には皆の命と同じ位、自分の命を守る義務がある。人の感情を読み取る練習を忘れないようにね」
「うん。死んだら誰も守れないもんね」
 ルネはコリルと強い握手を交わす。
「そうだ。買い物に出かけたときの子馬に名前をつけてほしいの。いい名前ないかな?」
「ちょっと待っててね」
 ルネのお願いにコリルは三人の仲間と相談する。
「語感でみんなで決めたんだけど、バルディエってどうかな?」
「それにさせてもらうわね。バルディエとも一緒に頑張りましょうね」
 戻ってきたコリルにルネが微笑んだ。
 ちびブラ団の四人が冒険者になったのなら、守るべき存在というより共に歩く仲間となる。そうなる日も遠くはないだろう。
「これを受け取ってくれ。いつか振り返ったのなら、きっと今日の事は節目と思いだすだろうから。記念だよ」
 ラルフェンは『ふわふわ帽子「くろやぎ」』をちびブラ団の四人にプレゼントする。
「ありがとう御座います!」
 ちびブラ団の四人はぎこちなさを残しながらも礼儀をもってラルフェンに感謝した。四人の覚悟と心意気を受け取ったラルフェンである。
 最後にちびブラ団の四人がおこづかいで買ってきたシュクレ堂の焼き菓子が冒険者達に贈られる。
 彼、彼女らなりの精一杯の感謝であった。
 夕日の中、ちびブラ団の四人は帰る冒険者達が見えなくなるまで手を振っていた。