●リプレイ本文
●出発
一日目の早朝、四つ葉のクローバ店に冒険者達が集まる。
「これをフェルナール君にお願いね」
「わかったのだぁ。それではいってくるのだぁ〜」
先行する玄間北斗(eb2905)は見送りのセレストから手紙を受け取ると、フライングブルームで浮かび上がった。
フライングブルームはアニエス・グラン・クリュ(eb2949)が貸してくれたものである。行けるところまで飛んで行き、後は韋駄天の草履でエテルネル村に辿り着く予定だ。ペットの犬と馬は指輪のオーラテレパスでよく言い聞かせて馬車で向かう仲間に預けてあった。
教会の鐘の音に合わせて冒険者達が馬車に乗り込んだ。
「では出発しますね」
御者のデュカスが全員の乗車を確認してから手綱をしならせて馬車を動かす。
「デビルのアクババ‥‥」
アニエスはグリフォン・サライに乗り、上空から馬車を護衛した。
「フォルセティ、何かがあったらホーリーフィールドをお願いしますわ」
クレア・エルスハイマー(ea2884)もペガサス・フォルセティで空を駆ける。
さらなる上空を李雷龍(ea2756)のスモールホルス・雷鳳が飛んでいた。
エテルネル村に近づいたのなら敵に発見されないように地上を走るつもりのクレアである。余程の知識がない限り、翼を隠せばペガサスは馬にしか見えないはずだ。
アニエスは村にいるデュカスの弟フェルナールに相談して、グリフォンを何処かに潜ませるつもりである。
スモールホルスについては村から離れた上空に待機してもらう予定だと李雷龍が出発前にいっていた。
「ホワイトイーグルの可能性あり‥‥ね。って事は‥‥お出ましになるのは‥‥日のあるうち‥‥か」
「アクババが有力ですがホワイトイーグルも警戒しなければいけないでしょう。豚が空に持ち去られたのは一度だけですが、昼間の出来事でした。しかしデビルなら夜も警戒しないと――」
御者台のデュカスの横に黄桜喜八(eb5347)は座る。どちらであっても戦う準備は出来ていた。昨今の状況を考えて常にデビル対策を怠らない黄桜喜八である。
「ホワイトイーグルでもアクババであっても、軽々と豚を掴んで飛んで逃げる敵か。少々厄介だな」
「そうなんです。豚の一頭や二頭ならともかく、もし村人が連れ去られたりしたのなら大変です。特に子供は注意しないと」
馬車内の李雷龍は小窓から遠くを眺めながら御者台のデュカスに話しかける。道中も何があるかわからない。視力の良さで警戒を怠らない李雷龍だ。
「空飛ぶ敵の討伐に私達が集中できるように、村人と家畜達の避難をお願い出来ますでしょうか?」
「完全には難しいですね。逃げる場所はせいぜい家の中ぐらいですし。不安がある者は村で一番強固な建物である教会に避難させましょう。ジャン司祭は白光の水晶球を持っているので、早くにデビルを探知出来るはず。豚に関しては産まれてまもないコブタと母豚に関しては村で預かりますが‥‥。すべては無理です。全部で百頭近くいるのですから」
クリミナ・ロッソ(ea1999)はデュカスと村の護りについてを話し合った。あらかじめ仲間と相談していた囮として使う豚にも触れる。そのぐらいの損失は元より覚悟なので気にしないでくれとデュカスは答えた。
「アニエスさんはグリフォンを隠すつもりのようです。廃材とか村にありますか? よい場所がない時は隠せるように大工仕事でお手伝いするつもりなのです」
「あの大きさのグリフォンを隠せる空き小屋は村にはないはず。フェルナールに頼めば森の中に木の幹や枯れ草を利用して潜ませる空間を作ってくれると思います」
コルリス・フェネストラ(eb9459)がデュカスに相談した内容は、先行した玄間北斗が持っていった手紙の中にも記されてあった。
玄間北斗が村に到着したのが一日目の夕方頃だ。二日目の午後には気を利かせたフェルナールが森で作業を始めていた。
(「森の中に棲んではいないようなのだぁ〜」)
二日目の日中、玄間北斗は森の中で隠密の技で移動しながら調査を行う。地図を見ながらあらためて現地の状況を確認していた。特に放牧場付近でどの辺りに隠れたらよいのかを念入りに調べ上げる。
ついでに捕食した動物の死骸などを探したものの、発見は叶わなかった。
●空飛ぶ敵
二日目の夕方頃、馬車一行はエテルネル村に到着する。
グリフォンは森に用意された藁の寝床で休んでもらう。豚の放牧場の監視も兼ねてアニエスはテントを張って森で一晩を過ごした。
仲間達も森の別の場所で野営を行った。
三日目にはフェルナールとコルリスがアニエスを手伝い、グリフォンが隠れられる簡易な小屋を作り上げる。
それが終わるとアニエスは豚の臭いのついた布や藁でグリフォンを擦り上げておいた。敵に臭いで悟られないようする為だ。
さらに豚の血が入った桶でマントを浸して臭いをつけたら、アニエスの準備は完了である。
玄間北斗と黄桜喜八は愛犬と共に放牧場付近を巡回する。特に不審なものは見つからなかった。
村人のトリガと子供達によって子豚と母豚の十数頭が移動させられたが、多くは放牧場に残される。一部の豚は玄間北斗の家屋『縁生樹』に運ばれた。
玄間北斗の馬が運んできた数多くの魔力付きのミドルボウとスリングは縁生樹に運ばれずに自警団の村人達に預けられる。万が一、敵が村を襲った場合に備えてである。その他の保存食などは縁生樹にそのまま納められた。
「いつ来るのか‥‥だ」
黄桜喜八は放牧場内にある針葉樹の太い枝の上に座って敵が来るのを待った。パラのマントに手をかけて、いつでも姿を消せるように待機する。
「これで動きを止められたら戦いが有利なのだぁ〜」
玄間北斗も黄桜喜八とは別の木の枝に座って待ち伏せていた。手にしていた漁師セットの投網もエチゴヤで強化されたもので魔力が付加されている。一時的にならこれで動きを止められるはずだ。
「なるべく豚に危害が及ばないうちに倒したものですね」
「そうだな。逃げないうちに一気に仕留めるべきだ」
枯れ草で偽装した第一拠点テント内からクリミナと李雷龍が外を覗いた。柵の向こう側には放牧場が広がっている。
「アニエスさんが囮になっておびき寄せてくれるそうだ」
「ボクは弓矢で狙います。ホーリーアローも預かりましたし」
第二拠点テントではデュカスとフェルナールが待機する。
「空を飛べる敵‥‥逃げられたら厄介ですわ」
クレアはペガサス・フォルセティと一緒に第三拠点となるグリフォンが隠れる小屋にいた。
グリフォンの側にはコルリスの姿もある。
「状況によっては後ろに乗せてもらいます。よろしくお願いしますね」
コルリスはアニエスのグリフォンと仲良くなれるように世話をしてあげた。
「さて‥‥、気を引き締めて」
アニエスは玄間北斗から返してもらったフライングブルームで森の上空を飛び始めた。豚の血を染み込ませたマントをなびかせながらの囮である。
緊張の中、時が過ぎてゆく。
三日目、四日目とは何事なく過ぎ去る。
事が起きたのは五日目の暮れなずむ頃であった。
●アクババ
「あれは?」
フライングブルームで森上空を飛んでいたアニエスは遠くに黒い点を発見する。急速に近づいてきたそれとすれ違って、アニエスは振り向いた。
巨大な禿鷹である。
アクババかどうかはアニエスにはわからない。だがすれ違った瞬間、指輪の石の中の蝶が羽ばたいたのは確認した。間違いなくデビルである。
旋回した禿鷹があらためてアニエスを狙う。
アニエスもまた大きく旋回して仲間のいる放牧場へと向かった。速度を計算して禿鷹を振り切らないように注意する。放牧場上空に差しかかった瞬間、アニエスは呼子笛を吹く。そして針葉樹の緑深い森の中に突入して姿を眩ました。
笛の音を合図に地上の仲間達は魔法付与などの準備を行う。ペットの準備も同様である。
禿鷹はしばらく放牧場の上空を旋回し続けた。やがて地上の豚を狙おうと急降下を始める。
その時、一本の矢が宙に弧を描く。立て続けに放たれた矢は禿鷹の横っ腹に突き刺さった。姿勢を崩した禿鷹は豚を掴み損ねて地面へと激突する。矢はフェルナールが放ったものだ。
「その禿鷹はアクババですわ!」
クリミナが柵までかけよると逃げ遅れた豚を中心にホーリーフィールドを張った。
「うおおおっ!」
クリミナより先行して柵を飛び越えた李雷龍は龍叱爪を連続してアクババの側頭部に叩き込む。
「よくも大切な豚を!」
李雷龍に追いついたデュカスが、デビルスレイヤーの剣をアクババの首筋に突き立てた。
よろけながらもアクババは翼を広げて飛び立とうとする。もう一撃、李雷龍は大きくあげた足で蹴りをアクババに喰らわせた。
フェルナールがもう一度矢を命中させるとアクババは失速して森の中に落下していった。
「クリミナおば様、真上!」
「え?」
アニエスのいうとおりにクリミナが天を仰いだ。すると森に消えたはずのアクババの姿があった。
クリミナは瞬時にホーリーフィールドを張る。そして狙われていた近くの豚は事なきを得た。
後から現れたアクババBはホーリーフィールドに弾かれるように、再び空へと上昇してゆく。
「もう一羽いるようです! 私達が追いつめます!」
アニエスと共にグリフォンの背に乗ったコルリスが森の中から飛びだす。アニエスとコルリスのコンビはアクババBを追いかけて空を駆けのぼった。
「トシオ‥‥覚えた‥‥な?」
黄桜喜八は最初に現れたアクババAが落下した地面に愛犬を連れてゆき、臭いを嗅がせる。
「森に落ちたのはおいらと喜八さんに任せるのだぁ〜」
玄間北斗も愛犬に臭いを嗅がせると黄桜喜八と共に薄暗い森の中へ消えた。
「私達は仲間を信じて地上で待ちましょう。フォルセティ」
クレアは空を見上げながら傍らのペガサスに声をかける。ペガサスはホーリーフィールドを周囲に作り上げて安全地帯を確保してくれた。
「右に急旋回します!」
アニエスは上空でグリフォンを操る。後ろに座るコルリスはアクババBに向けてオーラショットを放った。
速度はグリフォンとアクババBとでは差がほとんどない。しかし自らの翼があるアクババBの方がわずかに上手である。低空飛行で木々の間に隠れられたりと一筋縄ではいかなかった。攻撃に転じられてアニエスが掴まれそうになった瞬間もあった。
それでもコルリスのオーラショットはアクババBに傷を負わせてゆく。やがて動きも鈍くなる。
「我は導く魔神の息吹!」
クレアは頭上で旋回したアクババBに対して最大級のファイヤーボムを放つ。ただし上空の仲間に被害が及ばないようにレミエラで大きさを絞っていた。
アクババBは回転しながら落下する。李雷龍が落下の瞬間に一撃を喰らわせた。
地面へと激突した後のアクババBはまったく動く気配はなかった。やがて一片の肉片すら残す事なく消え去る。
仲間達がアクババBと戦っていた頃、黄桜喜八と玄間北斗は木々が生い茂る森の中で、もう一羽を追いかけていた。
「逃がさねぇ‥‥だ」
黄桜喜八は金鞭を頭上へと大きくしならせた。組み合わされているレミエラの能力によってソニックブームが放たれる。空へと逃げようとしたアクババAは衝撃で軌道を逸らし、木の幹へと衝突する。
さらに上空から現れたスモールホルス・雷鳳が体当たりを敢行した。
「ここなのだぁ!」
黄桜喜八とスモールホルスの攻撃の間に木へ登った玄間北斗は魔力付きの網を投げた。網が翼に絡まったアクババAは再び地面へとぶつかる。
黄桜喜八は網の上からさらに金鞭でアクババAを絡め取った。そして、もう片方の銀のナックルで翼に渾身の殴打をする。
玄間北斗も加わり、やがてアクババAは完全に沈黙した。次第に姿が薄くなり、この世界から消え去っていった。
●そして
六日目の早朝、パリへと帰る冒険者達を見送ろうと村人達が集まる。
「教えて頂いてありがとうございます。実際にデビルを目にした方の意見はとても参考になりますので」
「いえ、少しでもお役に立てればと」
クリミナは昨晩の空いた時間、デビルの知識をジャン司祭に手ほどきしたのである。
「この村が駄目になったら俺も悲しいからな」
「とっても助かりました。また来てくださいね」
李雷龍はフェルナールと別れの挨拶として握手を交わす。
「危険があったら今回のようにデュカス村長に連絡すれば大丈夫ですわ。みなさん良い子ですわね」
「うん♪ お姉ちゃん、そうするね。」
クレアはペガサス・フォルセティの回りに集まった子供達の頭を撫でた。
「いざという時は縁生樹の在庫を使っていいのだ。武器もデビルにも効果があるのだぁ〜」
「それは助かる。時間に余裕があればこうやって冒険者を呼べるが、そうじゃない場合もあるからな」
玄間北斗はデュカスの他に村人達にも家屋『縁生樹』の備蓄についてを語った。
今回使用された数多くのミドルボウとスリング、そして漁師セットもあらためて縁生樹に仕舞われる。
「うずうずしていた‥‥だ。これで‥‥いい」
「寒くないの?」
エテルネル村に張り巡らされた水路で泳いだ河童の黄桜喜八は満足げである。
「こんな感じでどうでしょうか?」
「あら、もう帰るって時にすまないね」
コルリスは建て付けの悪かった家屋の窓戸を直してあげて感謝された。
「‥‥ヴェルナー領になったから悪魔に襲われたなんて、思わないで下さいね?」
「思いませんよ、絶対。もちろん村のみんなもそう考えています。ありがとうございました」
デュカスはアニエスに血で汚れて使えなくなったマントと同じ物を手渡した。
エテルネル村を出発した馬車一行は七日目の夕方にパリへと到着する。別れ際、デュカスは追加の報酬を冒険者達に贈るのであった。