弧を描く白球 〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:5人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月20日〜03月01日

リプレイ公開日:2009年02月27日

●オープニング

「ゾフィー先輩〜、これを見てくださいなのです♪」
「あら、どうしたの? その帆船の旅券札」
 朝方の冒険者ギルド奥。受付嬢のシーナとゾフィーは帰り支度をしながらお喋りを楽しんでいた。
 夜勤明けだというのにシーナはとても元気である。
「ジョワーズのマスターがまたくれたのですよ〜。お得意さんで、それに料理の腕がいいティリアさんを紹介してくれたからって。スパゲッティも大好評らしいのです☆ ゾフィー先輩も一緒に行きませんか?」
「場所によるわね。どこまでの旅券札?」
「行き先は前にプレ・サレの羊を仕入れた海辺の町なのですよ〜。あっちでまだ知らないプレ・サレ料理を食べるのです♪ 海の近くだから、お刺身のお腹一杯食べられそうだし♪」
「この時期、寒そうね。海から吹きつける風はとても強いそうよ。わたしはやめておくわ。レウリーと少しでも一緒にいたいし」
「そうなのですか。それは残念なのです」
「シーナ、楽しんでらっしゃい」
 冒険者ギルドを出たシーナとゾフィーは一緒に家路を辿った。パリは目覚めたばかりである。
「これでよいのです♪」
 シーナは家へ帰ると、いつものように外壁に旅の仲間を募集する貼り紙をする。そして部屋を暖かくしてからベットで眠った。
 この時のシーナはまだ何も知らない。海辺の町で待っている楽しい遊びの事を。

●今回の参加者

 eb3759 鳳 令明(25歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 ec2195 本多 文那(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec5115 リュシエンナ・シュスト(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

リーディア・カンツォーネ(ea1225)/ パラーリア・ゲラー(eb2257)/ ヴェニー・ブリッド(eb5868)/ エルディン・アトワイト(ec0290

●リプレイ本文

●出発
 早朝のパリの船着き場。朝靄煙る一角では軽やかな弾む会話が交わされていた。
「美味しい食事と船旅が私を待ち受けているはず。ロマンです〜♪」
「それは楽しみですね。土産のことは気にせずに楽しんでおいで」
 アーシャ・イクティノス(eb6702)の頭に手を乗せてエルディンが撫でる。すぐ側には同じく見送りのリーディアの姿もあった。
「お土産話、楽しみにしてますね〜♪ あと海辺の町やその海岸がどんな感じだったかも〜っ」
 帆船へと乗り込もうとするアーシャにリーディアが手を振る。
「はい〜♪ あっ〜〜っ!」
 身体を捻って手を振ろうとしたアーシャが渡し板から海へ落っこちそうになったのはご愛嬌である。
「みんな、行ってらっしゃい〜♪」
「行ってくるのじゃじゃ〜!!」
 パラーリアの黄色い声に甲板の一行は応える。特に鳳令明(eb3759)は元気いっぱいだ。
 帆船は船首をセーヌ河口に向けて進み始めた。
「スーさん、さしみ楽しみですか? わたしも楽しみです。プレ・サレもおいしそうなのです」
 エフェリア・シドリ(ec1862)は胸に抱えた子猫のスーに話しかける。今はテレパシーを使わずに以心伝心の会話だ。
「スパゲッティ、大人気なのですよ♪」
「ホントに良かったですね。ティリアさん、がんばってましたし」
 リュシエンナ・シュスト(ec5115)とシーナはレストラン・ジョワーズ・パリ支店の繁盛を話題にする。
 そもそも今回の旅が実現したのもジョワーズのマスターのおかげである。美味しいプレ・サレ料理があればマスターに報告するつもりのシーナだ。
「どうしようかな?」
 本多文那(ec2195)は船縁から半身を乗りだしてセーヌの川面を眺める。釣りをしようか悩んでいたが、海辺の町でのお楽しみにする。
「プレ・サレ、美味しかったらいいけどなあー」
 ジャパン出身の本多文那にとってお刺身はとても身近なものであったが、羊肉となると別である。プレ・サレの子羊肉といわれても今一ぴんとこなかった。もしかするとジョワーズで食べたかも知れないが、ボリュームのある肉塊を頬張った記憶はない。
 一行を乗せた帆船は二日目の夕方に海へと出た。三日目の夕方、目的の港町へ入港するのだった。

●海辺の夜
「もうたまんないのです〜♪」
 夜、宿屋を決めた一行はさっそく近場のプレ・サレを出す料理店に飛び込んだ。
 頼んだのはラックと呼ばれるアバラ部分の肉を林檎のお酒シードルで味付けして焼いた逸品である。
 切り分けられたアバラの骨付き肉をみんな手づかみで頬張った。
「スーさん、静かに食べるのです」
 エフェリアはプレ・サレの骨付き肉を半分食べると、テーブルの下にいた子猫のスーにお裾分けする。そして舌に残る旨味ときめ細やかな食感に誘われて、もう一本を手にとった。
 猫の小麗と犬のラードルフもそれぞれの主人から分けてもらっていた。
「羊肉って、とっても美味しいね♪ 僕、知らなかったよ」
「この味が羊肉の味だと考えていると、これから先大失敗をするかも〜。要注意なのですけど‥‥そう勘違いしてしまうのもわかる気がするのです♪」
 本多文那が別の料理店で失敗をしないように注意を忘れないシーナだ。羊肉は独特の風味があるので好みが分かれる。普通の羊肉はジャパン出身の本多文那には受け付けられないかも知れない。
「確かに他のとは全然違いますね、プレ・サレのお肉は。育つ場所や食べる餌でこんなに変わるなんて」
「その通りなのです〜。プレ・サレの子羊肉は別格なのですよ〜」
 シーナとリュシエンナの説明を本多文那はうんうんと頷きながら頬張る。
「これだけでは足りませんよね。やっぱり♪」
 リュシエンナの言葉に全員が賛成する。さっそく近くを通ったウェイトレスに追加を注文した。新たに一人一皿分、六皿がテーブルに並ぶ。
「食べたら元気モリモリなのじゃ〜〜! シーナどにょとゾフィーどにょはこういうお肉を食べて筋肉ムキムキになってるのじゃじゃ〜」
「へ? 何の話しなのです? 筋肉ムキムキって?」
 鳳令明によればシーナとゾフィーがケーゲルシュタットというゲームを鉄球でやっていて筋肉隆々になったという噂があるらしい。出所はちびブラ団からのようだ。
「わたしは、か弱くて儚いのですよ♪ ‥‥何だか信じていない瞳なのです〜」
 シーナの返事に鳳令明が真顔になる。その様子にテーブルでは笑いが巻き起こった。
「シーナさんは運動神経いいですからね。実は脱いだらすごい筋肉質かも知れませんよ〜」
 さらにからかうアーシャの胸元をポカポカと軽く叩いたシーナである。
 美味しくて楽しい時間は夜遅くまで続くのであった。

●釣り
「町でも売っていますけど、やっぱりここは釣り上げたお魚でお刺身が最高なのです☆」
 四日目の日中、シーナはみんなを引き連れて町の外の海岸で釣りをした。海面から少し高い丁度良い崖があり、横一列に並んで釣り糸を垂らす。
 冬の海辺なのに珍しく風は吹かず、ポカポカの陽気であった。
「ここはさっそく♪」
 シーナが釣り上げたシタビラメをリュシエンナが持ってきたナイフであっというまに刺身にしてくれる。
「白いさかなさんは塩でもおいしいのです」
 エフェリアはシーナが持ってた醤油だけでなく手に入れた塩でもお刺身を頂いた。
「今度は私がさばきますよ。ふふふ〜、エスカルゴだって料理したことあるのですよ」
 自信にあふれていたアーシャだが、実際にやってみると苦労する。なかなかモンスターと剣で戦う時と同じようにはいかないものだ。
「こうしてると、ジャパンにいるような気になります」
 本多文那は削った木の棒を箸にして刺身を頂く。他のみんなはフォークで食べる。
「ちょっと釣らせてもらえるか頼んでくるのじゃ〜」
 遠くの波間に漁船を見つけた鳳令明は釣り道具を持って飛んでいった。夕方には大きなカツオを背中に背負って戻ってくる。
 捌いて身だけを宿に持ち帰り、夕食はカツオ三昧となる。刺身を始めとして醤油で煮込んだりとお腹一杯にカツオ料理を堪能したのだった。

●出会い
「あれはなんでしょう?」
「なんですかね?」
 五日目も釣りをしようと海岸を歩いていると一行は奇妙な光景に遭遇する。リュシエンナが指さし、シーナが首を捻った。
 海岸の岩場周辺では羊がたくさん放たれていた。これらが海藻を食べて育つ海辺の羊、プレ・サレとなる。
 一行が注目していたのは羊達ではなく羊飼いらしき少女だ。長めの木の棒を振って白い球を叩いて飛ばしていた。
「何をしているのじゃ〜?」
 鳳令明が少女の頭上で静止する。
「あ、ちょっとだけ遊んでいるんです」
 少女の名前はカトニーといった。羊飼いとして羊を見張っているのだが、あまりにも暇なので仲間で流行っている遊びの練習をしていたらしい。
 その遊びとは木の棒で羊皮の袋に羊毛を詰めた球を打ち、遠くの穴に入れるものである。短い打数だと勝ちのようだ。
「球はラ・ソーユみたいなのです」
 エフェリアは白球を手にとって眺める。
「楽しそうなのです〜♪」
「僕も興味あるな」
 シーナと本多文那はさっそく海岸に流れ着いている流木の中からよさそうな棒を拾い上げる。
 試しに掘った海岸の砂穴に向けて遠くから打ってみた。たったそれだけなのに夢中になってしまう。
「この前はボールで棒を倒したけど、今度は棒でボールを叩くのですね〜」
 アーシャも本多文那から棒を借りてやってみると、とても楽しい。他のみんなも同意見である。
「こにょ球技は故郷で遥か古の時代にあったものに似てるのじゃ〜」
 鳳令明は似た遊びを知っているらしい。
「羊飼いは兄妹で交代しているので、明日の昼間は休みなんです♪ 一度思いっきり遠い穴でやってみたいなって思っていたんですけど‥‥一緒にどうでしょう?」
 打ち解けたカトニーと一行は明日一緒に遊ぶのを約束した。

●ゲーム開始
 よく晴れた空の下、六日目の午後から遠くの穴に羊皮の球を入れるゲームが始まった。
 昨日のうちにちょうどよい木の棒探しや練習をしておいたシーナ一行である。
 シフールに不利なゲームなので、鳳令明には四打のおまけがつけられた。
「行くのですよ〜♪」
 シーナは長めの木の棒を大きく振りかぶって地面に置いた球を打ち抜いた。少し右に逸れたものの、比較的まっすぐに飛ぶ。ただし周囲の木が行く手を遮っている。
 カトニーを含めた仲間達も次々と球を打ってゆく。
 一番遠くに飛んだのがアーシャ、続いて本多文那、カトニー、シーナ、リュシエンナ、エフェリア、鳳令明となる。ただし鳳令明は二打目でシーナに追いついた。
「じっちゃんがいってた! 円じゃ円の動きを掴むのじゃって!」
 宙に浮かびながら木の棒を振り、鳳令明が球をかっ飛ばす。風を読んで飛距離を稼ぐ。
「わたしも、風、気にしてみるのです」
 エフェリアも風を読んだ上で木の棒を振った。砂浜に入ると危険なのでなるべく左側には飛ばさないように気をつける。
「掬い上げる感じかな?」
 枯れ草の中に球を打ち込んでしまったリュシエンナは高くあげるように打つ。障害物のない地面に落ちてほっとするリュシエンナである。
「今は北西の風みたいです」
 アーシャはフェアリーのチククからオーラテレパスで教えてもらった上空の風向き情報を仲間にも教える。
「騎士は勝負には全力で立ち向かうのですっ」
 そしてアーシャは力一杯に球を打った。選んだ木の棒は先が曲がっていて当たる範囲が大きいものである。
「遠くに飛ばしても一回。短い距離でも一回です‥‥」
 カトニーは慎重に球を転がして穴に入れた。近づいてから三打もかかる。全部で十二打となった。
「スーさん、見ていてください。ころころなのです」
 エフェリアはマイペースに十五打。
「うりゃ〜〜! 入ったのじゃじゃ〜♪」
 鳳令明は四打のマイナスをして十三打。
「次は枯れ草に入れないように気をつけないと」
 リュシエンナは突風に翻弄されて十二打。
「はいらないのです〜」
 シーナは奇跡的な障害物越えをしたものの、最後に外しまくって十打。
「運がよかったかな」
 本多文那はまったく破綻せずに九打。
「いいかも?」
 アーシャは最初に飛距離を稼いだおかげで八打で終わる。
 勝負は白熱し、一回目のゲームはアーシャの勝利で終わった。
 二回目の一番はリュシエンナ、三回目は鳳令明、四回目はカトニーとなる。
 シーナと本多文那は二位と三位の上位定位置が多かった。エフェリアは二回目の時、一位をわずかな差で逃して二位になったのが最高の成績である。
「思う存分遊べて今日は楽しかったです♪ これ、大したものじゃないんですけど」
 夕暮れの別れ時、カトニーは想い出の品を一行に贈った。真っ白なつけヒゲは全員に、加えて男性には海賊の眼帯、女性には口紅である。
「パリに来た時は冒険者ギルドに立ち寄って欲しいのです〜♪ 美味しいお店に連れてゆくのですよ〜♪」
 最後、シーナは仲間と共に大きな声でカトニーとの別れを惜しんだ。

 七日目の朝、一行は帰りの帆船へ乗り込んで海辺の町にさよならを告げるのであった。