ミラの緊張 〜アロワイヨー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月15日〜03月20日

リプレイ公開日:2009年03月23日

●オープニング

 パリから北西、ヴェルナー領の北方に小さなトーマ・アロワイヨー領はあった。
 トーマ・アロワイヨー領主となった青年アロワイヨーにはまつりごとの他にもう一つ悩みがある。
 パリ近郊の森の集落で出会った娘ミラのことである。
 ミラは冒険者達のおかげで無事にアロワイヨー家の親戚であるバヴェット家の養女になれた。これで家柄について文句をいう者は少なくなるはずだ。
 バヴェット家の屋敷はトーマ・アロワイヨー領内ではなく、別の領内にある。ミラが移り住むとアロワイヨーと離ればなれになってしまう。そこで別荘宅がトーマ・アロワイヨー領内に用意される事となった。
 バヴェット夫人は昔からアロワイヨーを気に入っている。二人の結婚が決まるまで、当分の間別荘宅でミラと過ごすつもりでいた。


「予定も取りつけましたし、用意も万端。後は出かけるだけだわ」
 トーマ・アロワイヨー領のバヴェット別荘宅。バヴェット夫人とミラは居間でお茶の時間を過ごしていた。
「アロワイヨー様も用意を終えたと仰ってました。ですが‥‥パリでの事を想像しますと緊張します‥‥」
「大丈夫よ、ミラなら。それにわたくしがついていますもの」
 ミラの緊張とはウィリアム3世との謁見についてだ。結婚の許可を得るためにアロワイヨーと共にウィリアム3世と会わなければならなかった。
 余程の失敗がなければ大丈夫とはいえ、やはりノルマン国王を目前にするのは大変な機会である。今から緊張していても誰もミラを笑えないだろう。
「先にパリへ向かったアロちゃんの執事が冒険者ギルドで依頼を出しているはずだわ。のんびりして緊張をほぐしましょう」
 バヴェット夫人はミラを気づかい、前もって準備を整えていた。
 アロワイヨーとミラ、バヴェット夫人はパリへと出発する。到着予定はウィリアム3世との謁見の日よりかなり前であった。

●今回の参加者

 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 ec6114 マーガレット・マーニュ(29歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec6142 檻村 曜子(31歳・♀・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

エイジ・シドリ(eb1875

●リプレイ本文

●話し合い
「依頼書に記しておいた通り、アロワイヨー様一行は明日パリへお越しになる予定です。何かしらのご用意が必要なら今日の内にお願い致します」
 ギルドの個室に集まった冒険者三名を前にしてアロワイヨー家の執事が改めて日程を説明する。
 アロワイヨーとミラ、バヴェット夫人を乗せた帆船がパリの船着き場に入港するのが二日目の昼頃の予定。それから四日目までが冒険者達に任された持て成しの期間になる。特にミラの緊張を解く事が重要とされていた。
 五日目に行われるウィリアム3世陛下との謁見を前にしてミラはかなり緊張しているようだ。それを解きほぐすのが冒険者達の役目であった。
「そうそう、肝心な事を話し忘れておりました。アロワイヨー様とミラ様がウィリアム3世陛下と謁見するのは婚姻の許可を得る為で御座います」
 冒険者三名はアロワイヨーとミラが恋仲なのは知っている。結婚の約束を交わしたのもエフェリア・シドリ(ec1862)と明王院月与(eb3600)は把握していた。
 しかし国王の許可を得る所まで話が進んでいたとまでは考えておらず、誰もが驚きの表情を浮かべる。
「鉱床の脱出劇からそんな事があったのですか。ミラさんにはバヴェット夫人以外に貴族階級の女性のお友達が必要ですね」
 アニエス・グラン・クリュ(eb2949)は一人の婦人を思いだす。彼女ならばピッタリだと心の中で呟いた。
「国王さんに結婚の許可をもらう、なのですね。ミラさん、緊張、ほぐすのです」
 エフェリアが真っ先に思い浮かべたのはレストラン・ジョワーズの美味しい料理だ。これまでに経験した遊びもミラ達とやりたいと考える。パリを散策するのも良さそうだ。
「ジョワーズなのです」
「やっぱりそうだよね」
 エフェリアと月与は視線を合わせて頷いた。全員で楽しい晩餐を過ごせば自然とミラの心も和らぐだろうと考えたのだ。
 その他にミラの美容にも作戦を練っていた月与である。
「是非お呼びしたい方がいるので時間的余裕が欲しいのです。予約を後ろにずらしてもらえますか?」
 アニエスの願いによってジョワーズでの晩餐会は行われるとしても三日目か四日目の予定になった。
 その他にも盛りだくさんなアイデアが冒険者達から提案される。
 小一時間の話し合いの後、冒険者達はさっそく行動を開始するのだった。

●それぞれの準備
 アニエスはそのまま個室に残ってペンを取った。
 綴り始めた手紙はパリ在住のキマトーナ婦人宛のものだ。ジョワーズで開く晩餐会への招待と、陛下との謁見におけるアドバイスを願う内容であった。
「失礼のないように‥‥」
 蜜蝋で封をしてアニエスは手紙を完成させる。さっそく酒場『シャンゼリゼ』に出向いてシフール便として手紙を出す。
 返事はパリ冒険者ギルドの受付嬢であるゾフィー宛にして欲しいと記しておいた。もちろんゾフィーから許可も得てある。
(「きっとキマトーナ様は宮中で何からの役職に就いているはず‥‥」)
 キマトーナ婦人がミラの味方になってくれれば心強いとアニエスは考えを巡らすのであった。

「これでいいか?」
「ちょっとだけ、小さかったと思うのです」
 エフェリアは兄エイジ・シドリを訪ねて道具作りをしてもらった。
 運んできた木材や買ってきた羊皮などをエイジが器用に削ったり組み合わせてゆく。エフェリアは膝にスピネットを乗せてその様子を眺めた。たまに頼まれると道具を探して兄に手渡す妹である。
 やがてギルドの受付嬢シーナと一緒に遊んだケーゲルシュタットの道具などが出来上がる。羊飼いがやっていた球を穴に入れる遊び用の棒や球も仕上がった。
「これでみんなと遊べるのです」
 エフェリアは道具を両手で抱えると、外に繋いであるドンキーのプルルアウリークスに運ぼうとする。しかし誰がどう見てもたくさん持ちすぎていて前が見えていない。エフェリアがフラフラと壁にぶつかりそうになる。
「貸してみろ」
 エイジが荷物の三分の二以上を持ち、エフェリアの代わりにドンキーへ載せてくれた。
「気をつけろよ」
「はい。大丈夫なのです」
 エフェリアは兄に見送られながら冒険者ギルドへと戻ってゆくのだった。

「あれは買ったし、それから――」
 市場を訪ねた月与はたくさんの食材を買い込んでいた。
 ジョワーズでの晩餐会は別にしてその他にもお花見をしようとみんなで決めていたのである。その為のお弁当を作ろうと月与は張り切っていたのだ。
 バヴェット夫人の事を考えるとある程度の肉料理は必要である。華国風味を採りいれてみようとそれらしき食材を探す。
 ふと気がつくとモンゴルホース・金剛の背中の上は荷物で山盛りになっていた。
「えっとミラさんにアロワイヨーさん、バヴェット夫人に執事さんに――」
 月与はお花見をするメンバーを数え直す。いくらたくさん食べるバヴェット夫人がいるからとはいえ、これぐらいが限界であろう。
 月与は買おうとしていた果物をそっと木箱の中に返した。
「あ、アニエスさんにエフェリアちゃんが待っているかも」
 月与は教会の鐘の音を聞いて市場を後にするのだった。

 アニエス、月与、エフェリアは再び集まってから外出をする。エフェリアが知るというアーモンドの木がある場所へと向かった。
 途中で川口花の実家へも立ち寄り、花見への参加を誘う。
 ついでに米糠がないかと月与が相談する。残念ながら一時は糠漬けを作る為に用意していたのだが、今はないという。
 月与はミラの肌を綺麗に磨いてあげる為に米糠の利用を考えていたが、手に入らないのであれば仕方なかった。
 三人はアーモンドの花の咲き始めを確認し、一日目の準備を終えるのであった。

●到着
「さあミラ、行こうか」
「はい。みなさんよろしくお願いしますね」
 二日目の昼過ぎ、冒険者達は執事と一緒に船着き場でアロワイヨー一行を出迎える。馬車で一緒に向かったのは元々アロワイヨーが住んでいた屋敷であった。
 バヴェット夫人は旅の疲れで先に休んだ。
 若いアロワイヨーとミラはまだまだ元気だったのでエフェリアが遊びに誘う。二人は旅のものから軽い服装に着替えると冒険者達と一緒に庭へ出た。
「これは‥‥何でしょう」
 ミラがエフェリアから手渡された木の棒を不思議そうに眺める。枝分かれの部分を利用して先が緩い鈎状になっていた。
「こうやって振るのです。球を打つのです」
 試しにエフェリアがやってみる。大きく木の棒を身体側面方向に振り上げるとそのまま地面すれすれを掠めるようにして置いてあった球を打つ。
 球は高く舞い、遠くに掘らせてもらった穴に向かって転がった。主人を褒めるが如く、近くにいた子猫のスピネットがエフェリアの回りを跳ね回る。
「球を入れるのです。少ない回数で入れると勝ちなのです」
「なるほど! わかりました」
 ミラもさっそくやってみる。運動神経のよいミラはすぐに要領を呑み込んだ。アロワイヨーも含めて冒険者達も一緒に遊んだ。
 疲れてきたらお茶を飲んで一休みをし、室内でケーゲルシュタットで遊んだ。こちらは投げた球でこん棒を倒して楽しむゲームである。
 ラ・ソーユという掌で球を打ち返すゲームもやりたかったエフェリアだが、専用のコートが必要なので断念する。
「あら楽しそう。この遊び、わたくしも知ってるわよ」
 夕方に目を覚ましたバヴェット夫人も混じってケーゲルシュタットは続いた。
 アロワイヨーの勧めで冒険者達は屋敷へと泊まる。長くお喋りをした後で就寝する一同であった。

●アーモンドの花
 三日目早朝、冒険者達はギルドのゾフィー嬢を訪ねる。キマトーナ婦人からの手紙が届いており、アニエスはさっそく目を通した。
 四日目の夕方からがよいと書かれてあったので、エフェリアと月与はジョワーズへ予約をしに向かう。
 アニエスは個室を借りると感謝の手紙をキマトーナ婦人宛に書いて送った。
 冒険者達が屋敷に戻った頃、アロワイヨー、ミラ、バヴェット夫人の三人は目覚めていた。軽く朝食をとってから執事を含めて全員でパリを散策する。
 パン屋シュクレ堂では菓子類を買い求める。他にも雑貨屋トゥー、エテルネル村出張店四つ葉のクローバーに立ち寄り、市場で少女ファニーとも出会う。
 残念なからアロワイヨーの友であるシルヴァはパリにはいなかった。
 アニエスが連れて行ったのは似顔絵絵師オレノが商売をする路地裏の小さな空き地であった。
「ウィリアム3世陛下の絵ですね」
「これだけ小さければ緊張なさらないかと♪」
 アニエスは購入したウィリアム3世が描かれた木札をミラに贈る。挨拶の練習用に丁度よいはずである。
 そして極度の迷子癖のある川口花を家まで迎えに行ってから一同は目的の場所を目指す。
「綺麗ですね‥‥」
「本当だ‥‥」
 見上げればアーモンドの木の枝にピンク色の花がたくさん咲いていた。ミラはアロワイヨーに寄り添ってしばらくそのまま眺め続ける。
「ミラさん、花を愛でながら食べるととても美味しいんだよ」
 月与の声にミラが振り向くと、そこにいたのは鷲と鷹、かたつむりとウサギであった。
 正確にいえばぬいぐるみを着た冒険者三名と川口花だ。
 まるごとしろわしさん姿のアニエスは団子が盛られた皿を手に持つ。
 まるごといーぐるの月与は手に入れたお弁当の箱と兎餅を頭の上にのせていた。
 自前のまるごとかたつむりを着たエフェリアは皿一杯のふわふわパンを運ぶ。花はまるごとウサギさん姿でジャパンのお酒を抱えていた。
「あら美味しそうね」
 バヴェット夫人が食べ物から漂ってくる匂いに瞳を大きく開く。
 持ってきた布を地面に敷いて座り、さっそくアーモンドの木の下での昼食が始まる。特に月与が腕によりをかけた料理は逸品である。
 小春日和の元、アーモンドの花が夕日に染まるまで一同は楽しむのだった。

●ゆっくりとした時間
 四日目の日中は月与によるミラのマッサージが行われる。昨晩も行ったのだが、今日はより本格的だ。屋敷には湯浴みが出来る浴場があり、そこを借りて行われていた。
「どうかな?」
「ええ、とってもリラックスです。眠ってしまいそう‥‥」
 ミラに湯へ入ってもらった後でより綺麗に洗い、月与はローズウォーター入りのオイルで各部を揉んだ。蒸した布も用意して身体が冷えないように気をつける。焼いた石も用意してもらい、湯をかけてわざと浴場に蒸気を行き渡らせた。
 より艶々な肌になったミラは月与に感謝した。

●貴族
 夕方になり、一同は馬車に乗ってジョワーズへと向かった。
 店内へ入ろうとした時、ちょうどキマトーナ婦人も馬車で現れる。それぞれに挨拶を交わしてさっそく入店した。
 個室に入ってまもなく予約時に注文されていた料理が運ばれてきた。
 スパゲッティを始めとしてプレ・サレの子羊肉が使われた料理は貴族の舌をも呻らせる。庶民的な雰囲気でありながらジョワーズの味は確かであった。そこにはあるギルド嬢の活躍が秘められているのだが、別の話なのでここでは語られない。
「今の彼女の立場は、何となくエフォール様に通じる気が致します。どうかミラさんの味方になってあげて下さい」
 食事が一段落した後、周囲に誰もいないのを確認したアニエスがキマトーナ婦人に相談する。
「とてもよい娘さんね。わかりました。わたくしも力添えを致しましょう」
 キマトーナ婦人から快い返事をもらったアニエスは安心をした。
 立ち上がったキマトーナ婦人はミラへと近づいてゆく。
 しばしの談笑の時間がとられ、そして晩餐会は終わりとなった。
「トーマ様、お話よろしいでしょうか?」
 屋敷へと戻ったアニエスはアロワイヨーにキマトーナ婦人の思い人が誰かを伝える。ブランシュ騎士団黒分隊副長エフォール・ヴェルタルがその人物だ。結婚式の際にはラルフ卿だけではなく、エフォール卿も呼んで欲しいと頼んだ。
「エフォール副長殿ですか。確かラ・ペという武器の有用性を説きにラルフ卿の使者として領地の城へやって来られましたね」
 アロワイヨーはエフォール副長を覚えていた。エフォール副長にも結婚式への招待状を送るとアロワイヨーはアニエスと約束をする。
 うろ覚えであるがアロワイヨーはちびブラ団クヌットの親戚モステンティ卿を知っていた。可もなく不可もなくといった人物のようである。近衛の一人らしい。
 アロワイヨーとアニエスが話していた頃、月与は今一度ミラを仕上げる為にマッサージをしてあげる。
 エフェリアはアーモンドの花を愛でながらの昼食や晩餐会での様子を思いだしながら絵を描いた。
 夜が更ける前にミラが眠りに就く。その様子に安心した冒険者達であった。

●そして
 五日目の昼頃、冒険者達は馬車に乗ったアロワイヨーとミラ、バヴェット夫人を見送った。馬車が向かった先の城ではウィリアム3世陛下との謁見が行われる予定だ。
「大丈夫だよね」
 月与が大きく振っていた両手を下ろす。
「周辺の方々の結婚の同意が前もってなければ、謁見すら難しいはずです」
 アニエスは甘えてきたフェアリーのニュクスを胸元で抱いた。
「アロワイヨーさんがいるのです。二人なら平気なのです」
 エフェリアは遠ざかってゆく馬車に向かって大きく頷いた。
 夕方まではヤキモキとした時間を冒険者達は過ごす。
 窓からアロワイヨー家の馬車が見えると冒険者達は庭へと飛びだした。
「陛下から結婚の許可を頂きました♪」
 馬車から下りて微笑んだミラに冒険者達が抱き合って喜んだ。いつもは豪快なバヴェット夫人もみんなが喜ぶ様子に涙する。
「ありがとう。これもみなさんのおかけです」
 アロワイヨーは執事に持ってこさせた品を冒険者達に贈った。紅茶用の葉と追加の報酬金である。様々な費用も相殺できるように増やされていた。
 アロワイヨー家の馬車でギルドへ報告しに向かう冒険者達は誰もが笑顔であった。