ちびブラ団VSシーナとゾフィー
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:4
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月25日〜03月30日
リプレイ公開日:2009年03月30日
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●オープニング
夕暮れ時のパリの空の下、ちびっ子ブランシュ騎士団、略してちびブラ団は冒険者ギルド近くである人物達と待ち合わせをしていた。
ちびブラ団は基本的には男の子のベリムート、クヌット、アウスト、女の子のコリルの四人組である。
先日正式に冒険者になったので、ちびブラ団の名前を今後どのようにしようかと相談中の四人だが、それは待ち合わせとは特に関係がなかった。
「あ、きたぞ」
ベリムートが見つけたのは冒険者ギルド嬢のシーナとゾフィーの二人だ。まもなくちびブラ団四人の前にシーナとゾフィーが到着する。
「お待たせしたのですよ〜。少し仕事が押しちゃったのです〜。それでは一緒に行くのですよ☆」
集まった全員がシーナの後をついてゆく。やがて到着したのは古びた誰も住んでいない屋敷であった。
「何年か前に冒険した幽霊屋敷みたいだね〜。あのときはまさかの悪魔崇拝者の屋敷だったけど〜」
持ってきたランタンを掲げながらコリルが懐かしそうに呟く。
「ここは大丈夫よ。レウリーの知り合いが所有する屋敷ですもの。で、ここなら広いし、ケーゲルシュタットをやるのにちょうどいいんじゃないかと思うのよ」
ゾフィーが屈んで床を指さした。埃は溜まっていたが綺麗な木板が長く貼られていて球を転がすにはちょうど良さそうだ。
ケーゲルシュタットとはデビルに見立てた複数のこん棒を床に並べ、木球を転がして倒す遊びの事だ。元は修道院で行われていた悪魔払いの儀式なのだが、今では得点を競う面白さから遊びとして世の中に広まっている。
ちなみにレウリーとはゾフィーの恋人の名である。
シーナとゾフィーはケーゲルシュタットに夢中だった。ちびブラ団も冒険者にもらったケーゲルシュタットの道具で結構遊んでいる。そこで合同で大会を開こうと前々から決めていたのだが、これまでよい会場が見つからなかったのだ。
「掃除は必要だけど、ここなら二十人ぐらいでケーゲルシュタットの大会を開いても大丈夫でしょ」
ケーゲルシュタットに関してはゾフィーもとても乗り気である。
「掃除をすればきっと綺麗になるぜ」
クヌットが軽く周囲を駆けてみる。
「大会の告知はどうするの?」
「わたしの家の前に貼り紙をするのと、ギルド掲示板の隅っこに小さく貼らせてもらうのですよ♪」
人集めを心配したアウストにシーナが答えてくれた。
「ちびブラ団のみんなが冒険者になったお祝いも込めて盛大に遊ぶのです〜♪ でもわたしもゾフィー先輩も負けないのですよ☆」
「俺達も負けないよ!」
シーナとベリムートは目と目で火花を散らすのであった。
●リプレイ本文
●大掃除
「さあ〜て、お掃除なのです〜☆」
集まってくれた遊び仲間達と屋敷を訪れたシーナは窓を次々と開け始める。ちびブラ団の四人もシーナに倣って窓戸を開放した。
前日のうちに箒などの掃除道具がシーナとゾフィーによって用意されている。全員で取りかかれば極端な時間はかからないであろう。
「床を綺麗にしても天井に溜まった埃が落ちてきたら台無しになってしまいます。そこでなのですが――」
まずはアニエス・グラン・クリュ(eb2949)のもっともな意見として天井付近の埃取りを行う事になった。
空飛ぶ絨毯はアニエスと鳳令明(eb3759)が持っていた二枚。そしてフライングブルームとベゾムもかなりの本数がある。
なるべく操作がうまい者が空飛ぶアイテムを操り、何名か相乗りして天井付近の埃を落としていった。
シフールの鳳令明は仲間に空飛ぶアイテムを貸して自らの羽根で飛んだ。
二時間程で天井付近の埃落としは終わる。
「集めたら外の庭に埋めるか、燃やしてしまいましょう」
「それが手っ取り早いわね」
ゾフィーとルネ・クライン(ec4004)は板間を箒で掃いて埃などの小さなゴミをかき集めた。
エフェリア・シドリ(ec1862)はシーナと一緒にゴミを運んでは焚き火をする。ちびブラ団の四人は庭で穴掘りである。
大きなゴミはラムセス・ミンス(ec4491)とラルフェン・シュスト(ec3546)が担いで外へと運んでくれた。
ナオミ・ファラーノ(ea7372)と鳳令明は傷んだ戸などを釘で打ち直す。
一日限りの掃除の応援としてアニエスの母セレストの姿もあった。
「最近分隊長様達の視線が気になるのです。ふと振り向くと見られていたり」
「ウィリアム様やラルフ様はずっとそうよ。あの方達は自分の一挙一動が下の人間の生活に直結する事を承知だもの」
他に誰もいないところで母からアドバイスをもらったアニエスである。国王と黒分隊隊長の名前を出されたら納得するしかなかった。
一日目は大まかな掃除が終わった所で解散になるのだった。
●雑巾がけ
二日目は板間の拭き掃除である。
最初はラムセスのペットであるウンディーネの花水木がウォーターコントロールで水の塊を床の上で転がした。
汚れを巻き込んで水が徐々に濁ってゆく。真っ黒になったら土の地面で放っておけば、いずれ元の水に戻って染み込むはずだ。
花水木の魔力が枯れると、今度はみんなで床拭きが行われる。最初は各々にやっていたのだが、アニエスの発案で並んで一斉に拭く事になった。
全員が屈んで両方の掌を雑巾にのせる。
フェアリーのニュクスが主人のアニエスから借りた笛を吹くと『よーいどん!』だ。
全員が一斉に床を蹴って床を四つん這いのまま板間を駆け抜ける。鳳令明は羽根を使って超低空を飛行した。
拭き掃除レースの優勝はルネだ。続いてアニエス、シーナ、鳳令明、クヌットと続く。ラルフェンやラムセスは背の高さが不利に繋がったようだ。
最後は各自の範囲を決めて丁寧に磨き上げていった。二日目が目一杯使われて掃除は完了するのだった。
●練習
三日目、四日目は練習の時間となる。
エフェリアは合間をぬってレストラン・ジョワーズに個室の予約をしに行く。大会が終わった後の食事会である。
ちなみにちびブラ団四人の分は有志で負担する事になった。四人には内緒でゾフィーに預けられる。
鳳令明は連勝をしながらも、たまに木材を使ってオリジナルの木球を作った。ちびブラ団が冒険者になった祝いの球も用意しなければとがんばる鳳令明である。
ナオミは二種類の木球を投げ比べてみて大きい方を選ぶ。張られた木板の目に注意を向けたのもナオミの職人らしいところだ。
ケーゲルシュタットのこん棒にも興味を持ち、シーナからセットの一つを借りてナオミは観察する。フェアリーのセットを作ってみたいし、それにもっとリアルな悪魔の彫刻をこん棒にしたらどうかと考えたりもした。ついでに個人競技とは他に男女のペアを組んで競う事になったので木ぎれでクジを作っておく。
アニエスはシーナとゾフィーにギルド員のハンスの参加をお願いする。数を数えると男の頭数が一人足らなかったからだ。それから半日後にはハンスの出場決定がゾフィーから知らされた。
身内の依頼が心配なラルフェンだが、気合いを入れ直してケーゲルシュタットの練習に励んだ。球への回転や投げる角度など様々な弧を試してみる。
ナオミが作ったクジを引くと、ラルフェンのパートナーはシーナとなった。
他にはナオミとラムセス組、アニエスとクヌット組、鳳令明とコリル組、エフェリアととベリムート組、ルネ・クラインとアウスト組、ゾフィーとハンス組と決まった。
一人が木球を投げ、もう一人がこん棒を立て直したりて木球を転がして返す。しばらくすると交代をして練習は続けられる。
「さあ召し上がれ♪」
ルネはドライフルーツ入りのパイを作って練習していたみんなに差し入れる。ちびブラ団の四人も皿に分けるのを手伝ってくれた。
「紅茶があるのです。ミルクティがおいしいのです」
エフェリアが提供してくれた高価な紅茶の葉で飲み物としてミルクティが用意される。
「とってもおいしいそうなのデス〜。白くてふわふわが入ってたりするって聞いたのデス〜♪」
ラムセスは大きなカゴを抱えて広間の壁際にあるテーブルへ駆け寄った。ホイップされた生クリーム入りのふわふわパンや胡桃入りパンがいっぱい入っている。エフェリアとラルフェンと一緒にシュクレ堂で買い求めたものだ。
「うん‥‥。これはどうにも‥‥何というか‥‥‥‥あの‥‥‥‥‥‥な」
食べ始めたらラルフェンは喋る暇もない。こと甘いものに関しては食いしん坊のシーナに引けを取らないラルフェンであった。
「ユ〜たちにマイボールを作ってプレゼントするにょじゃ〜」
「あ、ピカピカの木球だ。ありがとう〜」
鳳令明は出来上がったばかりの木球四個をちびブラ団の四人に贈った。わざわざ専門の工具まで作って丸さを追求した逸品である。
「リアルな悪魔の彫刻を施したら好事家に売れるかもって思ったけどやめておくわ。勘違いされて黒分隊員さん達のお仕事を増やすのもなんだし」
「シーナも前にゾフィー先輩から悪魔崇拝者じゃないかって誤解されたのですよ☆」
お茶会が終わるとシーナはナオミからケーゲルシュタットのセットを返してもらう。
「ハンスさんは練習に来られないのですか?」
「あの子、まだまだだから日々の仕事が結構きついのよ。仕事の量そのものはわたしとシーナと大して変わらないんだけど。だからセットを渡して合間に練習させているわ」
アニエスは気になっていたハンスの様子をゾフィーに訊ねる。シーナもちゃんと仕事をこなしているらしい。もっともシーナの場合、食べ物が絡むと怪しくなるとゾフィーは笑う。
お茶会のお開きと同時に四日目の練習時間も終わる。
ケーゲルシュタット大会は明日であった。
●ケーゲルシュタット
待望の五日目。
全員が集まったところでさっそく大会が始まった。三回投げて倒したこん棒の得点合計数の高さを競う。
「まずはおりからなのじゃ〜! パワー系にょ投法なのじゃじゃ〜〜!」
鳳令明は助走をつけながら身体をわざと縮ませて直前に弾けさせる。その瞬間、シーナは鳳令明の目から燃え上がる炎の幻影を目撃した。
「令明さん、がんばってねぇ〜」
「おりゃなのりゃあ〜!!」
パートナーとなったコリルも懸命に応援する。鳳令明のマイボールは怒濤の勢いのままこん棒をなぎ倒す。
「うりゃりゅりょ〜〜!!!!」
三投目には腕の力も目一杯に加えた。一本のみアビゴールを外し、鳳令明の得点は58となる。
「あたしもがんばらなきゃね〜」
コリルはパワーより命中を重視した投げ方で31点をあげた。
「やっぱり大きな球で高得点狙いよね♪」
「がんばってね。ルネさん〜」
次はルネとアウスト組の番になる。まずはルネが奇をてらう事なく、真ん中に向けてゆっくりと球を転がした。
ルネは合計で34点を獲得する。
「よし、がんばらないと」
アウストの狙いはよかったが考えすぎてしまい、策士策に溺れた。結果は32点だ。
「さて‥‥目標はシーナがいる組に勝つことね。いい! ハンスくん!」
「は、はい!」
気合いが入りまくりのゾフィーに比べてハンスは弱腰である。いつもは勝ち気なハンスなのだが、果たしてゾフィーが怖いのかギルドでの立場が弱いのかまでは誰にも判別不可能だ。
ゾフィーはたくさん倒して52点。ハンスは28点で終わる。
「せっかく勝負なのだから真剣にやらないとね」
「そうなのデス。まっすぐ転がすしてがんばるのデス」
ナオミとラムセスの組が投げ始めた。
ちなみに妖精達の間でもケーゲルシュタットの大会の真似事が行われていた。ルールをわかってやっているのかは疑問だが、妖精にとっては楽しければよいのであろう。
ウンディーネの花水木を中心が中心となり、後はフェアリーのニュクス、ウィナフレッド、じんの三体だ。
「こんな感じかしら。コース取りは設計に通じるものかも」
「アガリアレプトはよく狙って当てたのデス」
ナオミは48点、ラムセスは39点でそれぞれの三投が終わる。
「よし俺達の順番だよ。エフェリアさん」
「わかりました。ごろごろなのです。とにかくアガリアレプトさんを横から狙うのです」
直前までベルでみんなを応援していたエフェリアがベリムートの呼びかけで小さな木球を手に取る。
両手で下から押しだす独特の投法でエフェリアは35点だ。ベリムートはカーブを多用して42点となった。
「行きましょう。クヌットさん」
「おお、勝とうぜ!」
アニエスとクヌットは気合いを入れてケーゲルシュタットに挑む。アニエスもまた6点がもらえるアガリアレプトだけは必ず倒すように闘志を燃やした。
「この点数は全体でどの辺りでしょうか?」
「俺は気負いすぎたかな?」
アニエスの点数は44点、クヌットは38点である。クヌットは俺様から俺と自分の呼び方を変化させていた。
「さてゾフィー先輩には負けられないのです♪」
「俺もここは勝たないと‥‥。兄の面目というものがあるからな」
シーナとラルフェンの組の投げをみんなが見守る。
シーナはアニエスと同じ44点で終わった。
「ここはパートナーとして俺もがんばらないとな」
ラルフェンの点数は49点であった。
全員の投げが終わり、すべてが集計される。
「やったのじゃ〜〜♪」
結果、個人の部での優勝は鳳令明に決まった。
続いてゾフィー、ラルフェン、ナオミ、アニエスとシーナの同五位、ベリムート、ラムセス、クヌット、エフェリア、ルネ、アウスト、コリル、ハンスの順番である。
「順位の高い人にはシュクレ堂の焼き菓子を授与するのです〜♪」
シーナが自分以外の上位五名までに焼き菓子を贈った。そして全員にケーゲルシュタットのセットを参加賞として手渡すのであった。
●食事会
ケーゲルシュタットの大会が終わり、一同は場所を変えてレストランジョワーズへ赴いた。
エフェリアが予約してくれていた個室で美味しい食事を頂く。
シチューに始まり、スパゲッティやプレ・サレの肉料理、最後にはチーズケーキなどの甘味が控えていた。
「個人では負けたけど、パートナーでの戦いはわたしとラルフェンさんの勝ちなのです〜」
「ふん。負け惜しみいっちゃって。シーナったら」
シーナとゾフィーは仲良く喧嘩していた。
二人組での合計点数で競うと、一位がラルフェンとシーナ、二位が鳳令明とコリル、三位がナオミとラムセス、四位がアニエスとクヌット、五位かゾフィーとハンス、六位がエフェリアとベリムート、七位がルネとアウストとなる。
「はい。お行儀良くね」
「あ、ありがと。ナオミさん」
ナオミはクヌットの隣りに座って食事の様子を眺める。なるべく手を貸さないようにするナオミであった。
(「ここは綺麗に頂かないと‥‥」)
アニエスはちびブラ団四人の視線を感じながら綺麗に食事を頂くように心がける。
「えっえっと、これでいいの‥‥デス?」
ラムセスはナイフとフォークを握って肉料理と悪戦苦闘していた。もう少しで肉が空中を舞う所であった。
「こ、この羊のお肉は美味しいのだワン!」
鳳令明はプレ・サレの味に感動する。何ともいえない独特の風味がさらなる食欲を誘った。
「あとで大会の絵を描くのです。スーさん、美味しいですか?」
エフェリアはテーブルの下で取り分けたスパゲッティを食べる子猫のスピネットに話しかけた。
(「本当に美味しそうに食べるな」)
ラルフェンはシーナの食べっぷりに感心する。そして最後に出てきたチーズケーキを笑顔で口に含む。
「この心地よい歯ごたえ‥‥」
「気に入ってもらえましたですか?」
シーナからお勧めを聞いたルネは最後に林檎入りのパイを食した。シーナ曰く、チーズケーキと双璧の美味しさだという。
(「こういう時間がずっと続けばいいのにね‥‥」)
ルネはワインも頂きながらみんなの様子を眺め続ける。
あまり夜が遅くならないうちに食事会は解散になるのであった。