炎の中で踊る何か

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月30日〜04月06日

リプレイ公開日:2009年04月04日

●オープニング

「な、なんだ、この煙は‥‥」
 ある日、パリから遠く離れた村が煙に覆われる。
「どうしたんだ。これは」
「どこか火事じゃねぇのか?」
 人々は村の家屋のどれかが燃えているのではないかと疑う。しかし事実はもっと深刻であった。近くの森が燃えていたのである。
「雪解けしたばかりのこの時期に火事とは」
「雷が落ちたわけでもねぇし」
 時期的に森林火災が起きるとは思えなかったが、事実燃え広がっている。村の人々は総出で火事を消し止めようと斧や鎌を手に森へと向かった。
 小さな火なら水をかけて消すやり方もある。しかし大きく広がったのなら、周囲の燃える木や草を排除して炎の広がりを止めるしか方法はなかった。
 人々の努力によって森の木や草が伐採されてゆく。うまくいきそうだと誰もが手応えを感じた時、森を焦がす炎の中に妙な存在が目撃された。
「なんや? あれは!」
 炎の眩しさに目撃者達にもはっきりと判別はつかなかった。しかし目撃例をまとめると小さな猿のような何かが手に持つ道具で炎をまき散らしていたようだ。
 村の人々が知る由もなかったが、それはグザファンと呼ばれるデビルであった。
「とにかく炎の中で平気な奴なんてわしらじゃ手に負えん。確か今、村に旅の者達が泊まっていたよな」
「ああ、確か冒険者とかいっておった。戦いとかはお手のものっていってたぞ」
 村の人々は話し合い、炎の中にいるグザファン退治を冒険者達に願うのだった。

●今回の参加者

 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec4252 エレイン・アンフィニー(25歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ec4491 ラムセス・ミンス(18歳・♂・ジプシー・ジャイアント・エジプト)
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ec6162 セシル・ミラー(35歳・♀・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ec6273 アテルイ(33歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

諫早 似鳥(ea7900)/ セレスト・グラン・クリュ(eb3537)/ ルネ・クライン(ec4004

●リプレイ本文

●依頼
「どうか聞いてくれ。お願いがあるんだ!」
 一人の青年が冒険者一行の休む宿屋へと飛び込んできた。さらに一人、もう一人と増え、最後には村の長までやって来る。宿屋の入り口付近は村人達でひしめき合った。
「実は――」
 村の長が代表して冒険者達に状況を話す。村からそれほど離れていない森が燃えていて鎮火を目指していた所、妙な存在が炎の中で暴れていたのを目撃したと。
 妙な存在は村の人々が焼失を食い止める為に木や草を伐採して作った安全帯を飛び越えて炎をまき散らしているという。そのせいでせっかくの苦労も台無しになって、森林火災は拡大中だ。
「この煙い状況は道理で。落ち着いて下さいまし。特に炎の中の何かの容姿についての特徴を教えて頂けますか?」
 クレリックのクリミナ・ロッソ(ea1999)は妙な存在を目撃した一人ずつから話しを聞いた。
「どうやら、ふいごを持つ妙な小猿の化け物のよう‥‥」
 一考した上でクリミナは正体を『グザファン』ではないかと判断する。自分自身の目で確かめなければ断言出来ないが、火の手が広まる現実からすると悠長に構えてはいられなかった。
「まずはデビルのグザファンだと決めつけてしまいましょう。地獄の竈の番人がこの様な平穏な村に‥‥」
 クリミナはグザファンがどの様なデビルかを仲間達に説明する。
 一番の特徴は炎に対して完全な耐性を持つ事だ。デビルなので通常の武器も効かなかった。攻撃方法として手に持つふいごから炎の塊を噴きだせるらしい。かなりの威力と飛距離を備えているようだ。
「地獄から来た下級悪魔、ですか‥‥。私は大丈夫、続けての仕事ですが頑張りましょうね!」
 クリミナの説明にアニエス・グラン・クリュ(eb2949)がコクリと頷く。
 冒険者達はギルドの依頼で昨日遭難者を救出したばかりであった。パリへの帰り道の途中にたまたまこの村があり、ゆっくり休もうと立ち寄った最中の出来事だ。
「デビル、ですか。これも何かのお導き。承知しました」
 神聖騎士のソペリエ・メハイエ(ec5570)にとってデビルを討つべき敵に他ならない。神に祈りを捧げたソペリエはジャイアントの巨体を椅子から立ち上がらせる。
「この場に居合わせた事を感謝しなければなりませんわね。村の人達を救えるのですから」
 エレイン・アンフィニー(ec4252)は荷物の中からホーリーキャンドルを取りだすと長に預けた。もしもグザファンが村にやって来たのならこれで凌いで欲しいと。
「僕も助けるのデス。太陽さんに聞いてみるのデス〜」
 ラムセス・ミンス(ec4491)は外へ飛びだすと金貨を取りだしてサンワードを唱える。近くの森に居るデビルという訊ねでは無理だったので、クリミナから教えてもらったグザファンの容姿の特徴でやり直す。すると大まかだが答えがもらえた。
「今、グザファンは北にいるようなのデス。皆で探しに行くデス」
 ラムセスは宿屋へと戻って仲間と村の人々の前で北を指さす。
 刻々と火の手が広がっているので、冒険者達はさっそく行動を開始した。
 まずは馬などの特に今回必要のないペットは村へ預けられる。
 エレインは村の水瓶のいくつかをクリエイトウォーターで満たした。グザファンが万が一村を襲った時の対処用だ。
 ラムセスはウェザーコントロールで天候を曇らせる傾向にずらす。唱える前に風読みをした所、雨にまで天候を崩すのは難しく感じられた。だがわずかな可能性に賭けて魔法を唱えておくラムセスであった。
 空から探す為にアニエスは空飛ぶアイテム類を用意する。さらにソペリエとラムセスには念波が使えるようになるテレパシーリングと、普通の火ならば絶対の防御力を発揮するウィッチネッカーを貸しだした。エレインには鳴弦の弓を手渡す。
「よろしく頼んだぜ!!」
 村の人々に見送られながら冒険者達は空へと飛翔した。
 アニエスが空飛ぶ絨毯を操ってクリミナとエレインが同乗する。ラムセスとソペリエはそれぞれにアニエスから借りたフライングブルームで浮かんでいた。
 漂ってくる煙を避けながら、冒険者達はグザファンがいるらしい北の方角へと向かうのだった。

●炎の中
(「森の延焼は私達が食い止めますので」)
 アニエスは雛あられで空飛に浮かぶ絨毯の上に呼び寄せた小鳥二羽にテレパシーで話しかける。火災によって森を追いだされた鳥達はかなりの数にのぼっていると推測された。
 雛あられをついばむ小鳥二羽とは残念ながら会話が成立しなかった。あまりに小鳥達の知能が足りなかった為である。ただ慌てている様子はなんとなくだが感じ取れた。
「これでよいでしょう」
 アニエスに頼まれてクリミナが怪我をしていた小鳥二羽にリカバーを施す。元気になったところで小鳥二羽は飛び立ってゆく。多くの鳥達と同じ方角へと遠ざかっていった。
「鳥さんは怖いから逃げているのデス〜。反対の方角が怪しくて風向きも考えるとこっちだと思うのデス」
 一番動物に詳しいラムセスの意見によって目指す方角が真南から微妙に東よりへ修正された。
「酷いわ‥‥。早くグザファンを倒して火を消さないと‥‥」
 エレインは眼下に広がる森林が燃える様子に心を痛める。なるべく高度を飛んでいるものの、熱気が伝わってきた。煙も酷く、うまく避けないとすぐに視界を奪われてしまう。
「どこに隠れているのでしょう‥‥。炎を拡大させているのならこれから燃え移ろうとしている境目辺りが怪しいのですが」
 ソペリエはフライングブルーム上なので魔法は使わずに視力を頼りにしてグザファンを探した。デティクトアンデットによる探索はクリミナに任せる。
 ちなみにアニエスがウィッチネッカーを貸してくれたので、ソペリエは耐火に効果がある冰玉散を村の長に預けておいた。あれを飲めば普段より炎に近づけるのでもしもの時に役立つはずである。
 すでに灰と化した森の跡もあった。焦る気持ちを抑えながら一枚の空飛ぶ絨毯と二本のフライングブルームは火災の上空を漂う。
「不死者を感じましたわ」
 クリミナのグザファンを感じた地上周辺を指さす。
「いたのデス。踊っているみたいなのデス」
 真っ先にラムセスがグザファンを視界に捉える。炎の中で燃えさかる木々の隙間を縫いながら踊るグザファンの姿があった。
 冒険者達はまだ火の手が広がっていない森の中へ着地してからそれぞれに魔法付与を行う。会話を聞かれないようにとアニエス、ラムセス、ソペリエは指輪の力でテレパシー能力を自らに付与する。
 少なくなった魔力をアイテム類で補給しておいた。
 残念ながらラムセスのウンディーネ・花水木は怖がっていて戦力とは成り得ない。ラムセスはエレインがクリエイトウォーターで大地の窪みに湧き出させた水をウォーターコントロールで火に近い木にまとわせて欲しいと花水木に頼んだ。
 クリミナはホーリーフィールド、エレインはヘキサグラム・タリスマンと防御の準備を整える間に残りの三人は再び空を舞う。そしてグザファンを囲むようにして三人は燃えさかる森の大地へ降り立った。
 テレパシーで互いの準備を確認した後で、エレインが詠唱を始める。
 ウォーターボムがエレインの掌から放たれた。水球は燃えさかる森の中へと一直線に進み、蒸気を発生させながらグザファンへと命中する。
 グザファンは虚を突かれて踊りをやめた。ウォーターボムは突き詰めればただの水なので魔法耐性のあるデビルのグザファンに効果はない。それでも意識をエレインに向けさせるのには充分であった。
「なんだぁ〜! おめぇらは!!」
 グザファンは眼を開くとエレインに向かって走り始める。エレインの側にいたクリミナは射程に入ったのならコアギュレイトを放てるようにと構えていた。
 グザファンのふいごの炎がクリミナとエレインを包むホーリーフィールドに遮られる。クリミナは高速のコアギュレイトを試みるが、残念ながらグザファンの動きを止めるまでには至らなかった。
 だが二人の頑張りは充分に冒険者達の有利へと働いていた。
「小娘!」
 血飛沫が飛び散り、刃に揺らめく炎が映る。
 アニエスがグザファンの背後からシルヴァンエペで狙ったのは、ふいごを持つ右手であった。
 振り返ったグザファンにアニエスが対峙する。
 次の瞬間、グザファンの右側から近寄っていたラムセスが魔法の鞭がしならせた。絡め取るまでにはいたらなかったが、グザファンの胸に傷を負わせる。
 ラムセスが中距離から攻撃を仕掛けてグザファンの注意をそらせる。アニエスは盾を構えて突進し、グザファン目がけて刀を振り下ろす。
 エレインは鳴弦の弓をかき鳴らしてグザファンを弱体化させた。立ち位置は出来る限りグザファンへ近づけるようにと燃えさかる炎の近くだ。
 アイスコフィンで凍らせた大木の幹を背にしてエレインは弦を弾き続ける。
 やがてグザファンはラムセスとアニエスに背を向けて逃げだした。わざと作られた逃げ道の方角で待ち伏せていたのは複数のソペリエであった。
 ソペリエはブロッケンシールドに込められたアッシュエージェンシーの能力で灰から身代わりを作っていたのである。
 灰で出来た身代わりには戦闘能力など欠片もない。それでも逃げ道を防がれたとグザファンが思い込ませるには充分だった。
「トゥシェ!」
 ソペリエが名付けた捨て身の技でグザファンに刃を突き立てる。
(「消えたのデス」)
 ラムセスだけでなく全員が激しい炎の中に飛び込んだグザファンを見失った。
「おそらく虫か何かに変身したはず!!」
 テレパシーが届かない状況にクリミナは大声で炎の中へ叫んだ。クリミナの不死者探知が届かない範囲にグザファンは逃げていた。
 クリミナの叫びを聞いたソペリエは自らにデティクトアンデットを付与する。クリミナが使うデティクトアンデットとは探知出来る距離や効果時間が格段に少ないものの、今はそれで充分だと判断したからだ。
「この方向の先にいます!」
 ソペリエが目の高さより少し上の空中を指さした。
「逃がしはしません!」
 アニエスは刀を構えてソニックブームを業火の中へと放つ。手応えはあったものの、一瞬の間は何も起こらなかった。
 まもなくグザファンが炭化した大木の上に被さるような格好で近くに現れる。虫か何かの変身をといたのであろう。
 ラムセスが魔法の鞭でグザファンを絡め取って身動き出来なくさせる。そこをソペリエとアニエスが止めを刺した。
 やがてグザファンの身体はこの世界から消え去っていった。

●火事
 グザファンを退治した事実はすぐに村へと伝えられる。
 村の人々は消火活動を本格的に再開した。冒険者達もそれぞれの特技で手伝う。
 アニエスは大包丁で次々と伐採してゆく。
 エレインはアイスコフィンで木々を凍らせて延焼の時間稼ぎを行う。
 ラムセスとソペリエは斧を借りて木々を切り倒す。ラムセスは合間を見てウェザーコントロールを唱えた。ソペリエは剣術を応用して斧を木の幹に食い込ませる。
 クリミナはアニエスからウィッチネッカーを借りて燻る焼け跡を歩く。炎が残る個所を発見するとデティクトアンデットを使って倒したのとは別のグザファンが潜伏していないかを調査する。
 日が暮れて夜になっても炎は衰えずに森は燃えさかった。
 目処がついたのは四日目の昼前であった。冒険者達がグザファン退治を頼まれてから約一日が経過していた。
 念の為の監視の者数人を残し、殆どの村人や冒険者は村に戻って食事と睡眠をとる。
 ラムセスのウェザーコントロールのおかげか夕方には雨が降りだして、火災は完全に鎮火するのだった。

●そして
 一日ゆっくり休んだ冒険者一行は六日目の朝に村を後にした。
 出立の直前、村の長からお礼が手渡される。その中には複数のレミエラも含まれていた。
 森林火災が起こる一日前に村の木こりが森の中で拾ったものだという。人には使えなさそうなレミエラなので、倒したグザファンの落とし物の可能性が高い。
 村へ立ち寄る前に解決した依頼で借りた馬車によって、冒険者達は七日目の夕方頃にパリへと到着した。
 ギルドで報告し、レミエラを使えるものと交換してもらう。
「失ってしまった木々の命は還りませんが今は春、新しい芽をつける季節です。森の再生を祈りましょう」
 クリミナは十字を胸で描きながら森を思いだす。
「冬を終えてこれからなのに、燃やされた木が可愛そうデス。でもできるかぎり少なくできたと思うのデス」
 ラムセスは髪の毛に隠れた瞳を潤ませる。
「子供達も笑顔を取り戻していましたし、きっと大丈夫ですよ」
 エレインは別れ際の子供達の姿が忘れられなかった。
「デビルの暗躍は許せません」
 ソペリエは仲間達と目を合わせて頷く。
「偶然の遭遇でしたけど、グザファンを倒せてよかったです」
 アニエスはある人物を心に浮かべる。そして手紙に今回の出来事を書こうと心の中で呟いた。
 最後に別れの挨拶を交わし、冒険者達は解散するのであった。