村をとりまく黒き存在 〜デュカス〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:04月21日〜04月28日

リプレイ公開日:2009年04月29日

●オープニング

「ちと、変と思うとるのや」
 ある曇り空の日。エテルネル村出張店『四つ葉のクローバー』の青年店長ワンバは冒険者ギルドで依頼しに訪ねていた。
「いつも定期的にデュカスか担当のもんが村の産物をパリの店へ届けにくるんやけど、ぱったりと止まってしまったんや。不思議に思うてシフール便も送ってみたんやけど、音沙汰なしなんや」
 ワンバによれば、いつもならすでに三便の到着があってもおかしくないという。
「確かに不思議ですね」
 受付嬢のゾフィーがワンバの言葉を書き留めてゆく。
「おいらが行きたいところなんやが、店の切り盛りで精一杯やし、それに荒事になっておるならどのみち役に立たんしな。冒険者がええと思うとるねん」
「エテルネル村の土地はヴェルナー領になったはずですから、これだけの時間が経っていたら騒ぎが伝わってきてもおかしくないのですが‥‥」
「そやろ? まーそないなこったで頼みますわ。何もなければそれでええんので」
「では、先程の趣旨で依頼書を貼らせて頂きます」
 ワンバの依頼は終わり、ゾフィーはさっそく清書して掲示板に依頼書を貼りだす。
(「なんだか胸騒ぎがするわ‥‥」)
 ゾフィーはじっと依頼書を見つめてから、受付の業務へと戻ってゆくのだった。

●今回の参加者

 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb5817 木下 茜(24歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec0037 柊 冬霞(32歳・♀・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

クレア・エルスハイマー(ea2884)/ 李 風龍(ea5808)/ バル・メナクス(eb5988)/ マグナス・ダイモス(ec0128

●リプレイ本文

●心配
「そんなこんなで心配なんや。村の様子、見てきてもらえるやろか?」
 早朝のエテルネル村出張店『四つ葉のクローバー』内。依頼人の青年ワンバは依頼書に書いてあった内容を集まってくれた冒険者達へ今一度説明した。
「あの村長が連絡もなく定期便を怠るとは考えにくいのだ。シフ便の返事すらないなんておかしいのだぁ‥‥。この間もアクババが――」
 デュカスをよく知る玄間北斗(eb2905)は腕を組んで首を捻った。やはりここは何かが村で起きているのではと。
「私もそう思います。しかし急ぐのも大切ですが、ここは周到な準備も必要ではないかと」
 アニエス・グラン・クリュ(eb2949)は玄間北斗が触れたアクババという名が気にかかる。
 アクババとは巨大な禿鷹の姿をしたデビルを指す。以前にアクババがエテルネル村周辺に現れて飼育中の豚がさらわれるという被害が起きている。
「アクババだけではなく、村があるヴェルナー領ではデビルの暗躍が激しいようです。それを念頭に置くべきでしょう」
 三笠明信(ea1628)もまた連絡が長く途絶えている事に疑問を持つ。
「準備を行う余裕があるのなら、私は変装用の古着を用意しておこうかと」
 状況をつぶさに観察するのには変装が必要だとコルリス・フェネストラ(eb9459)は考えていた。
「村と連絡が取れない‥‥こんな事は今までなかった事です。デュカス様‥‥」
 伏し目がちに呟いた柊冬霞(ec0037)は青年村長デュカスの妻だ。夫と村が心配でならない様子が窺える。
「連絡が途絶えた村‥‥嫌な予感がしますね。デュカスさん達の身に、何も起こっていなければいいのですが」
 李雷龍(ea2756)は倒れそうな冬霞を心配しながらワンバに話しかける。
「まずは村に行って真相を確かめるのがよさそうだ」
 オラース・カノーヴァ(ea3486)はグリフォン・グレコを外に待機させていた。さっそく村の位置をワンバに訊ねて簡単な地図を作成する。
「アタイ達も地上から村に先行しましょう」
 木下茜(eb5817)はセブンリーグブーツを履きながら二頭の愛犬『炎王丸と風神丸』に語りかける。
 何かに使えればとアニエスはテレパシーリングを玄間北斗と三笠明信に貸しだす。
 店内には初日手伝いの冒険者もたくさんいた。
 クレアは出来る限りのデビル情報を一同に話してくれる。
 バルとマグナスは食料や治療薬などの補給物資を馬車に積む作業を手伝った。必要かどうかはわからないが、もしもに備えてである。
 村へ先行するのは三人。グリフォンに乗るオラースとフライングブルームを用意してきた玄間北斗は上空から、地上からは木下茜が向かう。
 アニエスが書いた手紙を玄間北斗が受け取ると、先行の三人はさっそく出発した。
 馬車組は急いで準備を始める。
 コルリスは古着を買いに市場へ出かけた。
 アニエス、李雷龍、冬霞は王宮の衛兵詰め所でブランシュ騎士団黒分隊のレウリー隊員を呼びだしてもらう。黒分隊と分隊長ラルフ卿をよく知る初日手伝いの李風龍もついてきてくれる。
 レウリーは今回の依頼の受付をしたゾフィーの恋人だ。そしてラルフ卿はヴェルナー領の領主でもあるのでエテルネル村とも繋がりがある。
 魔法武器クレセントグレイブは噂通りデビルサーチのレミエラとセットにされてエテルネル村へ提供されていた。
 レウリーが届けた訳ではないものの、搬入自体は何事もなく済んだらしい。つまりはその前後に異変はなかったようだ。
 一行を乗せた馬車がパリ城塞門を潜り抜けたのは昼の出来事であった。

●エテルネル村
 暮れなずむ頃、玄間北斗はエテルネル村周辺に到達する。村が見えてきた所で着地し、移動が早くなる韋駄天の草履を履いた上で入村を果たす。
「ジャパン土産の御餅を持ってきたのだぁ〜」
 気ままな調子で玄間北斗は見張り台の村人達に声をかけたものの、返ってきた挨拶に元気はなかった。
「実は――」
 この時、玄間北斗は見張りの村人達から村がデビルに囲まれている事実を知る。慌てて村長デュカスの家屋へと向かう。
「玄間さん、すみません‥‥。村に入らないように連絡をしたかったのですが、どうにもならなくて」
「詳しく聞かせて欲しいのだ」
 玄間北斗からアニエスからの手紙を受け取ったデュカスは事情を話す。
 十日程前からエテルネル村はデビルの集団に囲まれていた。誰かが一歩でも外に出たのならデビルは一斉に集中攻撃をかけてくるらしい。
 玄間北斗がそうであったように村へ入るのは自由だ。被害者を増やす為であろう。
「一度だけデビルから勧告がありました。生け贄を差しだせば助けてやると。当然拒否し、村の大人達で戦いを挑みましたが撤退せざるを得ない状況に‥‥」
 デュカスは悔しそうに目を細めて、怪我を負った村人達が教会に集められて治療が行われていると続ける。
 玄間北斗がグリフォンに乗ったオラースが着地するのを窓から目撃した。玄間北斗はデュカスと一緒に外に出る。
「夕方とはいえ、静かな村だな。お、やはり先に着いていたか。そちらが噂の村長か?」
 オラースは玄間北斗とデュカスから村の状況を教えてもらう。
「来てみてはっきりとわかったが、街道筋から外れた村だからな。村から外に人を出さなければ発覚にしにくいって訳か。デビルめ、考えたもんだ」
 オラースは戦闘の準備を抜かりなく整える為に仲間の到着を待つ事にした。
 玄間北斗とオラースは持っていた食料を村に提供する。ある程度の自給はされていたものの、それにも限界がある。デュカスはありがたく受け取った。
 続いて玄間北斗は焚き火をし、わざと水気の多い緑の葉を入れて煙を多く出す。煙を板で区切って外で待機を示す合図を送る。
 自然にみせかけるよう気をつかう玄間北斗であった。

●村
(「たくさんいますね。これは簡単には抜け出せないはず‥‥」)
 二日目の日中、木下茜は茂みに身を潜めながら心の中で呟く。
 持ち前の隠密の技術と多様なアイテムで姿を晒さないように注意しながらデビルを探る。早朝にのぼっていたエテルネル村の煙は『危険』『デビル』『待機』を示していた。
 あまりの多さに正確なデビルの数を数えるまでには至らない。それでも三十を越えていると木下茜は推測する。
 一旦村の近くから離れて夕方まで岩陰に隠れた。馬車の一行が近くを通り過ぎる時、指輪で付与したテレパシーで情報を送る。
 この時、李雷龍はすでに下りていて馬車は乗っていなかった。木下茜はその場に残ってデビルの監視を続ける。
 旅の一行を装いながら馬車は日が完全に暮れる前に村へと到着した。
 待っていた玄間北斗とオラースから事情を聞いた馬車組の冒険者達はさっそく教会へと足を運んだ。
 まずは暖かく腹にたまる料理を持ち込んだ食材で手分けして作る。食材はワンバが持たせてくれたものである。
 その他に馬車で運んできた物資がすべて下ろされて村に提供された。その中には冒険者が提供してくれた多くの食料も含まれる。
 アニエスは母から預かった寄進としてジャン司祭に『魔弓「ウィリアム」+1』と『クルセイダーソード+1』、そして聖なる釘を三本を手渡した。
 そして教会内で香を焚く許可をもらい、すぐに怪我人達を集めて『秘薬「春眠暁覚」』を使う。これで安静していれば明日の朝には回復しているはずだ。
「遅くなりまして申し訳ありません」
「冬霞‥‥」
 冬霞とデュカスは抱き合って再会を喜び合った。
 夜空に月が輝くのを待って玄間北斗は村の外にいた木下茜と李雷龍の二人と接触する。月影の袈裟によるムーンシャドゥによってデビルに知られる事なく瞬時に移動したのである。
 声を立てないように指輪で付与したテレパシーで状況を伝え終わると、デビルに見つからないうちに玄間北斗は村へ戻った。
 三日目も同じように連絡を取り合い、デビルの一掃は四日目の昼と決まる。
 木下茜も持っていた月影の袈裟で玄間北斗と共に村へと移動する。李雷龍は村の外に残り、作戦開始の時を待ち続けた。

●蛾の如き敵
 戦いはエテルネル村上空に三つの姿が浮かんだ瞬間から始まる。それぞれのグリフォンに騎乗したコルリス、オラース、アニエスの三人であった。
 すぐに黒き翼を羽ばたかせる多数のデビルが三人を取り囲んだ。
「そうそう、こうでなくちゃあな!」
 オラースは飛ぶ勢いのまま刀剣を構え、迫り来るグレムリンの肩口に刃を食い込ませた。続いて眼下の固まって飛んでいたデビルの群れに衝撃波を叩き込む。
(「デビルの指揮官は何処に?」)
 アニエスは戦いながら統率しているデビルを捜す。白き鎧にマントをなびかせていたのはわざと目立つ為だ。
 地上からデュカスの弟フェルナールを中心にした村人達が弓矢で援護をしてくれる。
「こちらです!」
 コルリスはデビルの群れを引き連れて飛び回る。敵からの攻撃を少しでも散らす為だ。機会があれば鳴弦の弓をかき鳴らすつもりだが、今はその時ではないと感じていた。
 その頃、地上の冒険者達も村の外に飛びだして戦いに突入する。
「デビルよ‥‥」
 三笠明信の勢いは凄まじい。放つ剣は強烈でデビルを一撃で蹴散らしてゆく。背後に控えるクレセントグレイブを握った村の男達に止めは任せ、迫り来る新しいデビルと対峙した。
「生け贄を渡すつもりなどあるものか!!」
 デュカスも一緒に魔剣を振るう。三笠明信には遠く及ばないものの、冒険者でならした腕は伊達ではなかった。
「旦那様、無理をなさらず‥‥」
 冬霞は後方に控え、一時的に戻ってきたデュカス等にレジストデビルなどをかけ直す。
 完全にデビルの意識が村へ向けられた頃、土煙をあげながら近づく者がいた。
「人間を窮地に追い込もうとは言語道断です!」
 愛馬・大雷皇を駆る李雷龍であった。
 地面へ飛び降りた李雷龍は龍叱爪をインプに深い傷を刻んだ。
 空の戦いにはスモールホルス・雷鳳が参戦し、持ち前の飛行速度とウインドスラッシュで多数のデビルを翻弄してくれる。
 やがて進展しない状況に業を煮やしたのか、デビル等が村への侵入をはかり始めた。
(「それぐらいはお見通しです」)
 建物の影に隠れていた木下茜はキューピッドボウを構えるとデビルに矢を放った。特に多くの村人が集まる教会を目指すデビルを狙って。
「がんばるのだぁ! しばらく抑えれば外の仲間が活路を開いてくれるのだ!」
 玄間北斗は魔弓で矢を射つ村人達の護衛をしていた。近寄るデビルを魔力が込められた木刀で次々と叩き落とす。
 使われている魔弓は以前に玄間北斗が提供したものである。
 教会内では床に打たれた聖なる釘を囲むようにして村の女性や子供達が祈り続けた。
 ジャン司祭は白光の水晶球を発動させてデビルの接近を知らせる。こちらも以前に冒険者から提供されたものだ。
 冒険者の愛犬達も吠えてデビルの接近を教えてくれる。
(「あれが指揮官?」)
 上空のアニエスはインプやグレムリンとは少し大きさや形が違うデビルを見つけだす。それはネルガルであった。
(「アガリアレプトの命か? 残念、我等は決して屈しぬよ」)
 アニエスは玄間北斗から返してもらった指輪でテレパシーを付与し、ネルガルに思念を送る。
 アニエスの行動に気がついた三笠明信もまた指輪のテレパシーで上空のネルガルに話しかける。
 二つの思念に混乱したネルガルは空中で静止して辺りを見回す。その時、フェルナールの放った矢がネルガルの首へと突き刺さる。
「邪魔なんだよ!」
 オラースが振り下ろした一刀でネルガルが地面へと落下してゆく。
「今です! 一気に」
 その様子を眺めていたコルリスは地上に下りて鳴弦の弓をかき鳴らした。
「覚悟する事です! 消え去りなさい!」
 愛馬でネルガルの側を掠めながら、李雷龍がネルガルの片翼を切り取った。
「滅すべき存在‥‥許しはしませんよ」
 三笠明信の剣がネルガルの腹に大穴を開ける。やがてネルガルはこの世界から消え去った。
 指揮系統をなくしたインプやグレムリンは混乱して右往左往をし始める。好機を見逃さず冒険者と村人は攻めに徹した。
 デビルが一掃されたのは、それから約一時間後であった。

●そして
 五日目になり、滞在を余儀なくされていたシフール便のシフールはパリへと戻っていった。せめてものお礼にとデュカスが書いた手紙をワンバに届けてくれるようだ。
 村人の多くが心配していた村近くの森で飼われていた豚は無事である。少々痩せた感じだが、すぐに元に戻るであろう。
「だ、大丈夫か! 冬霞!」
「申し訳ありません、気が緩んでしまいました‥‥でもよかった‥‥」
 蒼白な顔の冬霞はデュカスを見上げて微笑む。支えてくれた腕をぎゅっと掴んで。
 冬霞を診察してくれた医者のレナルドによれば深刻な状態ではないらしい。ただ、今しばらく様子を見る必要があるとだけデュカスに答えてくれた。
「これはラルフ様から送られてきたレミエラの予備です。村にあるクレセントグレイブの分は足りていますので、どうかみなさんで使って下さい」
 六日目の朝、馬車で出発しようとする冒険者達にデュカスはレミエラを贈る。
 感謝する村人達に見送られながら一行はパリへの帰路につくのだった。