芳醇な香り 〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月18日〜05月23日

リプレイ公開日:2009年05月27日

●オープニング

「おお、オムレット〜♪ ああ〜夢のオムレットが、わたしを呼んでるのですよ〜♪」
 冒険者ギルドの奥。受付嬢シーナは休憩時間に適当な歌を口ずさんでいた。
「あら、シーナったらご機嫌ね。誰かにオムレットをおごってもらうの? それともレストラン・ジョワーズの新メニューに加わったの?」
 一緒にお弁当を食べようと先輩のゾフィー嬢がシーナと同じテーブルへ座る。
「違うのですよ〜。夏トリュフが採れる場所をある人から教えてもらったのです〜。それで今度の休みにでも採りにいこうかなって☆」
「なるほどね。それで夏トリュフ入りのオムレットを食べようという訳か」
「そうなのです〜♪ ちゃんとゾフィー先輩の分も採ってくるのですよ☆」
「楽しみだわ。でも無理しないでいいわよ。存分に食べてらいっしゃい」
 シーナとゾフィーはトリュフを話題にしながらお弁当を食べ終わる。
 休みが終わって仕事に復帰したシーナはいつもより頑張った。時間になると早々に家へと帰り、告知を用意して外壁に貼りだす。夏トリュフを一緒に採りに行く仲間の募集である。
「お腹一杯食べられるといいのです〜」
 貼り紙の内容を今一度読み直したシーナは夕焼け空を見上げるのだった。

●今回の参加者

 ea2113 セシル・ディフィール(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 ec2195 本多 文那(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec6389 因幡 陣(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●出発と到着
「これでいいのです?」
「大丈夫。後は現地でなんとかするさね」
 人混みの中、シーナが持ち上げたカゴの中をライラ・マグニフィセント(eb9243)が覗き込む。
 これから夏トリュフを採りに向かう一行はひとまずパリの市場へと立ち寄っていた。
 買ったのは主に小麦粉やチーズなどのあらかじめ加工が必要な品ばかりだ。シーナが望むオムレットに必要な鶏卵も購入される。
 夏トリュフ探しの後に食材としても使うブタについては現地で調達する事になった。
「夏トリュフとは、なんでしょうか?」
 エフェリア・シドリ(ec1862)が愛馬・ウェールノウムウルブスの手綱を持って仲間達と歩く。子猫のスピネットは馬の背中にあるカゴの中ですやすやと眠っていた。
「すごく香りがいいキノコなのです〜♪ オムレットに入れるといい感じなのです☆ おお、オムレット〜♪ ああ〜夢のオムレットが、わたしを呼んでるのですよ〜♪」
「面白い歌ですね。おお、オムレット〜♪」
 セシル・ディフィール(ea2113)はシーナが唄ったのと同じフレーズを口ずさんだ。
「トリュフかぁ。見るのも食べるのも初めてだけど、とーっても楽しみだね♪」
 本多文那(ec2195)はヴィンターと麗の愛馬二頭を連れていた。
 シーナも若い愛馬・トランキルと一緒だ。ライラは愛馬・アルスター、因幡陣(ec6389)は愛馬・東西と荷物の運搬には事欠かない。散策を兼ねていたので、みんな馬を引いての徒歩移動である。
(「トリュフ。ジャパンでいうマツタケみたいなものかな?」)
 因幡陣は仲間達のお喋りを聞きながらトリュフがどんなものなのか想いを馳せる。
 移動の途中では保存食でお腹を満たした。
 それだけでは味気ないのでライラが持ってきてくれたノワールの名物『パリジェンヌのお菓子』も少しずつ頂く。全部食べなかったのは後でのお楽しみである。
 日が暮れる前に一行は現地の森へと到着する。落ち枝などを拾い、すぐに野営の準備を整える。
「夏トリュフ、たくさんとれるといいのです」
 エフェリアはスピネットを膝の上にのせて岩に座り、仲間と焚き火を囲む。
「近くに村があったのです。明日にでもブタさんがいるか調べてくるのですよ♪」
 シーナはずずっと白湯をすする。
「ウェルにも分るかな。トリュフの匂い」
「どうなんでしょ。まずは明日、ブタさんが借りれたら一緒に探してもらうのがいいと思うのですよ〜」
 セシルはシーナと話しながら愛犬ウェルの頭を撫でた。ダッケルという狩りに慣れた犬種だ。
「トリュフとは違いますが、マツタケは地面がわずかに盛り上がっているところを掘ると聞いたことがありますかねぇ」
 因幡陣は焚き火に落ち枝をくべる。
「僕はトリュフ探しもがんばるけど、他の食材探しもするよ♪ 食べられる植物もわかるしね」
 今日のところはこれで我慢と本多文那はシーナと同じようにカップの中の白湯を飲み干す。
「あたしはカマドや薪集めなどの調理の準備を進めておくさね。食材集めは任せたさ」
 ライラはすでに料理の構想を練ってあった。
 二人一組で野営の順番を決めると、就寝の時間となる。
 シーナはたくさんの夏トリュフと美味しい料理が目の前に並ぶ夢を見るのだった。

●シーナの忘れん坊
 二日目の朝方、ライラを除いた一行は野営した場所から大して離れていない村を訪れた。
 ライラは森に残ってカマド作りである。
「たくさんブタを飼っているね♪ これなら一頭ぐらい売ってくれそう」
 本多文那が柵に両手をかけながらブタ達を眺める。
「わたしはエテルネル村のブタさんオーナーの一人なのですけど、さすがに受け取りに行く時間はなかったのでちょうどよかった‥‥‥‥!!」
「‥‥?」
 シーナの顔が一気に青ざめてゆく。その姿を因幡陣は眺めていた。
「どうしたんだい? お嬢ちゃん」
「ブタさんを、一頭欲しいのです」
 エフェリアがブタを飼育している畜産者から話しかけられる。それを知ったシーナは猛ダッシュで近づいた。
「ト‥‥」
 『トリュフ』と発しようとしたエフェリアの口をシーナは両手で塞いだ。そして笑って誤魔化しながらエフェリアを連れて畜産者と離れる。
「シーナさん、どうかなさったの?」
「あ、あぶなかったのです〜。実は夏トリュフの採れる場所は内緒って約束で教えてもらったのです。一緒に行く仲間はいいけどそれ以上はダメなのですよ」
 セシルからの質問に答えると、シーナは安堵のため息をついた。
「ブタをそのまま手に入れたら、確かに村の人達に疑われますね」
 セシルは顎に手を当ててシーナに頷く。
「エフェリアさん、乱暴してごめんなさいなのです」
「シーナさん、平気です。でもブタさん、どうするのでしょう?」
 エフェリアに見つめられたシーナは、足下に触る存在に気がついた。それはセシルの愛犬ウェルである。
「ここはウェルに賭けるのですよ。ブタはライラさんに使ってもらえるように、料理用としてお肉の形で分けてもらうのです〜」
 シーナとエフェリアはもう一度、畜産者に近づいて頼んだ。そして夏トリュフ狩りの事は内緒にしたまま豚肉を手に入れる。
「というわけなのですよ」
「それは大変だったさね」
 一行は森へと戻ると事情をライラに豚肉を渡す。それから森の奥へと入り、夏トリュフを探し始めるのだった。

●トリュフ
「さあ、ウェル! ここ掘れワンワン的なことを!」
 セシルが力一杯に腕を振り上げて森の奥を指さしたものの、犬のウェルは小さく吠えただけだ。
「きっと何を探すのかわからないのでは?」
 因幡陣の意見はもっともであった。
「トリュフ、教えるのです」
 エフェリアがテレパシーでウェルに夏トリュフを探して欲しいと頼む。もしもの為に子猫のスピネットにもお願いしたエフェリアだ。
「トリュフがよくわからないみたいなのです」
「あ、そういえば‥‥」
 シーナはライラから預かってきたダークトリュフを取りだした。
「トリュフの仲間だと思うのですけど――」
 屈んだシーナはウェルにダークトリュフの匂いを嗅がせた。これでうまくいくかと思われたがウィルは迷っている様子である。
 同じトリュフと名がついているとはいえ、犬の鋭敏な嗅覚からすれば別物のようだ。
「やはり一個は自力で見つける必要があるみたいだね。よ〜し、トリュフはよく知らないけど、キノコの一種だっていうのなら」
 本多文那はトリュフがありそうな辺りを仲間達に教える。後は人海戦術だ。
(「マツタケならこんな感じの辺りでしょうか‥‥」)
 因幡陣が四つん這いになって茂みの中に頭を突っ込む。他の仲間達も似たような格好で地面を探った。
「これ‥‥」
 エフェリアが黒い塊を地面の中から見つけだす。地面スレスレまで顔を近づけていた時、子猫のスピネットと頭をゴッツンコした真下に埋まっていた。
「確かにこれは夏トリュフなのですよ♪」
 食べ物には詳しいシーナのお墨付きがでる。さっそくウェルに嗅がせると、次々と土中に埋まる夏トリュフが見つかった。
「これぐらいがよさそうですね」
 セシルは額にかいた汗を腕で拭う。四日目までの滞在なので、ある程度採れたところでトリュフ探しは終了する。
 その後は野草採集が行われた。その中には果実も含まれる。
「これだけ食材が集めれば大丈夫さ」
 ライラは仲間達が手に入れてくれた食材に目を見張る。カマドは見事に完成し、薪も準備済みだ。
 後はみんなで調理のお手伝いである。
 ナイフが扱える者は下拵えを手伝う。他には馬を連れて小川まで水を汲みにいったりした。
「さあ、お待ちどうさね」
 最後にライラによって仕上げが行われる。切り株のテーブルの上には料理が並ぶ。
「だ、大丈夫ですか?」
「あまりに美味しそうなので、眩暈が〜」
 倒れかかるシーナを因幡陣が支えようとする。
 干しくらげと豚肉、そして野菜で煮込んだスープ。軽く煮込んだ果実を挟んで焼き上げたホカホカのパイ。
 そしてシーナ期待の夏トリュフ入りのオムレットがあった。チーズが仕込まれており、とろりとした食感が絶妙であろう。
 それぞれにお祈りをして夕食の時間が始まった。
「シーナさん、幸せそうなのです」
「ほんとうに。きっと夢心地ね」
 エフェリアとセシルは周囲にホワホワ空間を作り上げているシーナを眺めた。
「それもしょうがないですけど♪」
 セシルも一口オムレットを頂いて頬を押さえる。
「! ものすごくいい香りなのです」
 エフェリアは食べる前にまず香りを楽しんだ。そしてほんの少しだけスピネットにあげる。
「‥‥」
 あっという間に食べ終えてしまった自分自身に因幡陣は驚く。
「お代わりはたくさんあるのさ。どうぞ食べておくれ」
 ライラは器を受け取ると、新たにスープを注いだ。こうなったらお腹一杯に食べようと心に決めた因幡陣である。
 もう一人、食欲に燃えていた男がいた。本多文那だ。
「やっぱりがんばった後の食事は格別だよね♪」
 本多文那は食事の手伝いの他に仲間達のも含めて馬の世話を行ったばかりである。
「オムレット、美味しいね♪」
「本当に☆ パリで思い描いていた味なのですよ♪」
 本多文那とシーナは同時にオムレットを平らげた。
 歯ごたえの良いパイも頂き、仕上げとしてノワール名物『パリジェンヌのお菓子』で締めくくる。
「も‥‥、もう動けないのですよ〜」
 シーナは満足そうな笑顔を浮かべてダウンである。仕方なくみんなでシーナをテントの中まで運ぶのであった。

●そして
 三日目、四日目は料理の少々趣向が変えられる。
 小川で釣った魚、そして狩りで得た野鳥と卵などの新たな食材が手に入ったからだ。
 当然ながら夏トリュフもふんだんに使われて料理の出来を一層素晴らしいものにする。
「これは料理しきれないさね」
 四日目の宵の口。ライラは大きなカゴの中に残った夏トリュフの山を見て呟いた。
「ゾフィー先輩と夏トリュフのお土産を持って帰る約束をしているのですよ♪」
「それにしても多いさね」
 ライラの指摘にシーナは腕を組んで考え、そして思いついた。
 ゾフィーと今回の仲間達へのお土産として分配する以外に、パリの市場に卸してみようかと。
 ちなみに香りが飛んでしまってはなんなので、トリュフはすぐに消費してもらうことになる。
 五日目の朝になり、行きと同じく帰りも徒歩でパリへと向かう。
 無事にパリへ到着した夕方、一行はシーナに連れられて市場へと立ち寄る。
 シーナの友人である少女ファニーの父親は市場の顔役の一人である。相談すると夏トリュフを引き取ってくれた。
「いろいろと買った食材以上の儲けになったのですよ〜♪」
 シーナはかかった費用をさっ引いて均等にお金を分配する。ライラと因幡陣には友達の印としてブタさんペーパーウェイトが贈られた。
「みんな楽しかったのですよ〜。一人ではこううまくはいかなかったはずなのです♪」
 シーナはゾフィーに渡す夏トリュフの入ったカゴを抱えながら、パリの街に消えてゆく仲間達に大きく手を振るのだった。