ちびっ子ブランシュ騎士団とオバケ屋敷
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月25日〜01月28日
リプレイ公開日:2007年01月31日
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●オープニング
「まてえぇ〜。ぼくはヨシュアス団長だぞ。強いんだから負けたりしないんだからな」
「そんなのずるいや。ヨシュアス様はナシだよ。ギュスターヴ様もえらいからダメね。みんな公平でなくちゃ。だから分隊長ね。という訳で俺は黒のラルフとったあ」
「あー。じゃあたしは女の子だから、橙のイヴェット、とっーた」
「ならぼくはヨシュアス団長に雰囲気似てるフランをやろう〜」
「うまいこと残るもんだな。俺様は元々オベル殿の大ファンさ」
冬の寒空の下、子供達四人が真剣に話し合っていた。
子供達はいつの間にかブランシュ騎士団の分隊長の名で呼び合う。そして棒きれを手にすると剣術の修行と称す騎士ごっこの続きを始めた。
「あっ! ダメー」
女の子が木に向かって走りだす。木の根元に置いてあった女の子の持ち物をカラスが探っていのだ。
女の子が近づくとカラスが飛び立つ。
「母さんから借りたきた指輪が‥‥」
女の子は母親に内緒で指輪を持ち出していた。綺麗だったのでみんなに見せたかっただけだがそれが仇となり、カラスに指輪を盗られてしまったのだ。
「あのカラス、ここのオバケ屋敷の上に飛んでったよ。カラス達の巣になっているから」
子供達は自分達が遊んでいた庭の奥にある屋敷を見上げる。屋敷の上空をカラスが飛びかっていた。
「どうしよー。お母さんに怒られちゃう」
「任せろよ。みんなブランシュ騎士団分隊長なんだぞ。オバケ屋敷なんてへっちゃらだい」
一人の男の子が自分の背よりも何倍も高い扉を開ける。軋む音と共に屋敷を覗く。
ずっとこの庭で遊んでいたが、一度も無人の屋敷の中に入った事はない。昼間でも中が暗くてとても恐いからだ。名前を分隊長で呼び合ったからといって突然恐くなくなるはずもない。
「ここ‥‥昔、ものすごい錬金術師が住んでたらしいよ」
「うーん、どうしようか‥‥」
男の子達がためらっていると女の子が泣き始める。
「そうだ。冒険者ギルドに行こう。俺達が強い冒険者を雇って探してもらうんだ」
「だけど、お金いるんだよ。ぼくたち持っていないよ」
「俺様も持ってないぞ」
「とにかくいってみよう。なんとかなるかも知れない」
「みっみんな‥‥ありがとー」
子供達は冒険者ギルドの外で通り過ぎる人達を眺めた。冒険者がギルドを行き来する。子供達はなかなか冒険者に声をかける事が出来なかった。
●リプレイ本文
●スカウト
「あそこでたむろっている子供らは、何?」
冒険者ギルド前に四人の子供を見つけ、カーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)は首を傾げた。
ギルドに近づくカーテローゼを追うように見つめていた。いかにも用事がある様子だ。
「どうしたの、あなた達? お使いでも頼まれたの?」
カーテローゼはしゃがんで四人の子供の視線に合わせると優しく訊ねた。
「えーと、えっとね‥‥」
「それとも、ギルドに用事?」
四人の子供は屋敷の庭であった内容を一生懸命話した。
「‥ぁー‥何とも、ありがちな‥」
カーテローゼは子供達の危なさに冷や汗をかく。もしそのまま踏み込んだら相手が鳥でも怪我をするかも知れない。入らず戻ったのは不幸中の幸いだ。
「負けたり逃げたりするのは恥ずかしい事じゃないわ。ちゃんとした理由があれば。だから、名誉挽回のチャンスよ、分隊長さん達?」
「うん。がんばる」
四人の子供ははっきりした口調で答えるのだった。
「ちょっとだけお姉ちゃんだけど、冒険者なのかな」
「どうなんだろ。そうも見えるし、でも‥‥」
冒険者ギルドに入ろうとしたアニエス・グラン・クリュ(eb2949)だが、入り口近くで四人の子供がしていたひそひそ話が耳に入る。
「私、冒険者です」
アニエスから声をかけると四人の子供が頼み事をする。カラスから指輪を取り戻して欲しいそうだ。
「みなさんは分隊長なのですか。ちびっ子ブランシュ騎士団、入ってみたい気がしますね」
アニエスは子供達に近づく。本家本元を目指しているが、こういうのも興味がある。
「入団を許可しますー。お姉ちゃんは何がいいの?」
「そうですね。ここは一つ、『橙のイヴェット』さんの部下という事で」
「じゃあ、あたしの部下ね」
女の子が張り切った様子だ。
「屋敷の持ち主だった錬金術師の方の名前は判りますよね?」
「俺、知っているよ」
アニエスはラルフ分隊長を名乗る男の子から錬金術師の名前を聞いた。
「調べてからオバケ屋敷に行きます」
アニエスはフライングブルームに跨ると寒空へ飛び上がった。目を丸くして驚いた子供達を残し、アニエスは図書館に向かうのだった。
「あれ?」
空を飛んで冒険者ギルドを訪れようとしたシルヴィア・ベルルスコーニ(ea6480)は四人の子供を発見した。
「こんな所で何をなさっているのかしら?」
シルヴィアが訊いてみると指輪をカラスから取り戻してくれる冒険者を探しているそうだ。
「起きたばかりで調子が悪いけど、屋敷に着く頃には大丈夫だと思うわ。お引き受けしましょう」
シルヴィアの返事に四人の子供は喜んだ。
「何をなさっているのですか?」
ギルドに入ろうとしたエルディン・アトワイト(ec0290)はシルヴィアと話す四人の子供が気になって声をかけた。
「この子供達、錬金術師のオバケ屋敷のカラスの巣から、指輪を取り戻したいといっているわ。これから私も一緒にいくつもりよ」
シルヴィアがいうと、その場のみんなが頷いた。
「錬金術師のオバケ屋敷ですか! どんなものがあるのか楽しみです。私にできることがあれば何なりと」
シルヴィアが四人の子供達に優しく微笑んだ。
冒険者ギルドに入ろうとした緋宇美桜(eb3064)は足を止めた。
視線を感じる方向を横目で見てみると、四人の子供の姿があった。
心の中で呟く。アレは、明らかに物言いたげに見えるけれど‥どうしたものかなぁ? と。
緋宇美は自分があの年頃だったのを思いだす。あれは京都の親戚の家にいった時の事だ。
『アナタハ カミヲ シンジマスカー?』
いきなり訳の分からない言葉で声をかけられてびっくりした。後で分かったのだがイギリス語バリバリの人だったらしい。そのキツかった経験が軽いトラウマになったのは誰にも内緒だ。
「あっ赤い髪のお姉ちゃんは冒険者? お願いがあるんだけど」
遠い目をして思いだしていた緋宇美はうわずった声をかけられて我に返る。四人の子供は真剣な眼差しだ。聞いてみればカラスが盗っていった指輪を取り戻して欲しいらしい。
「そういう事なら、手伝ってあげましょー」
小さい頃なら誰でも覚えのありそうな話である。緋宇美は手伝ってあげる事にした。
「えっ? なんですか〜?」
エーディット・ブラウン(eb1460)は四人の子供に呼び止められる。
一生懸命話す内容を聞いてみると、どうやらある無人のオバケ屋敷から指輪を取ってきて欲しいそうだ。
「オバケ屋敷ですか〜。なんだかワクワクですね〜」
「なんだか昔、すっごい錬金術師が住んでたみたいで大冒険になると思うんだ。それで仲間が欲しいんだ」
「ふむふむ。何を隠そう私は学者の卵、錬金術には興味深々なのですよ〜」
「ぼく達はみんな分隊長なんだ。ちびっ子ブランシュ騎士団っていうんだ」
「面白そうですね。それなら名誉顧問という肩書きでついて行ってあげるです〜」
「ちびっ子ブランシュ騎士団名誉顧問にけって〜い!」
四人の子供は一斉に声をあげた。
一行は歩いてオバケ屋敷に向かうのだった。
●オバケ屋敷
「それにしても、ブランシュ騎士団の分隊長はそんなに有名なのですか?」
シルヴィアは四人の子供の上を飛びながら訊ねた。
「そうだよ。ほら、これ見てよ!」
子供達全員が木片を取りだした。大きさが整ったタロットカードのような感じのものである。簡単ながら肖像画が描かれていた。国王やいろいろな人のがあるが、その中に分隊長の木片もあった。
どうやら町の絵描きが描いて売っているらしい。今はこれを集めるのが子供達の中ではブームなのだそうだ。
「あそこがオバケ屋敷!」
一行はオバケ屋敷が望めるまで近づいていた。
「お姫様の指輪を取り戻してあげなくちゃね」
カーテローゼは続けて小さな声で「まぁ、正しくはお姫様のお母さんの指輪なのだけれど」と呟いた。
四人の子供と冒険者達はオバケ屋敷に到着した。
「調べて来ましたー」
空から箒でアニエスが降りてくる。
「どうやら、この屋敷の持ち主だった錬金術師はカラクリに力を入れていて、木工にも秀でた人だったみたいです。そしてジャパンかぶれでした」
「もしかして‥‥ニンジャ屋敷なのかなぁ?」
「当たりです」
何となく正解を答えた緋宇美をアニエスは拍手する。アニエスは忍者屋敷を説明した。敵が進入しても足止めや撃退する仕掛けがある家の事だ。
「面白そうだな」
オベル分隊長を名乗る男の子が目を輝かせた。他の三人の子供も興味を持ったようだ。
「はい。どうぞ」
エーディットは自分のランタンをフラン分隊長を名乗る男の子に渡した。アニエスもランタンを用意する。二つあれば充分であろう。
さっそく立て付けの悪い扉を開け、薄暗いオバケ屋敷内に潜入した。一見普通の室内だが油断は出来ない。蜘蛛の巣を避けながら一階をさまよう。踏むとギシギシと鳴る床は緊張を高める。
「灯りを持つ人は、なるべく隊列の中心に居てくださいね〜」
「うっうん。わかったよ名誉顧問」
「勝手な行動は騎士らしくないですよね〜。フラン分隊長」
「そっその通りだね」
「ここは中央廊下みたいですね〜」
エーディットは声をかけた。怖々とフランを名乗る男の子はランタンで周囲を照らしながら進んだ。
「ラルフ分隊長、こちらはどうでしょうか?」
ラルフを名乗る男の子が一人で部屋に入ろうとしたのを見てエルディンは呼び止める。ついでに部屋を覗くが、屋敷内は殆ど何も残っていなかった。
「俺が見た所によると問題はないな」
ラルフを名乗る男の子はみんなの所に戻ってきた。
「あの子らが騎士団の分隊長なら、さながら斥候って所か。俺は」
「じゃあ赤い髪のお姉ちゃんは斥候長ね」
緋宇美が冒険者仲間にいった言葉を聞いて、オベルを名乗る男の子が決定する。
「他にどんな役職があるのかしら?」
「本物とは違うけど、魔法長、治療長、伝令長、遊撃長、紋章長、補給長かな。早いもん順でいいよ」
「みんな『長』がつくのね」
訊ねたシルヴィアは頷いた。
「おかしいですね」
一通り一階を回ったが、階段が見当たらない。取り壊された様子もなかった。これだけの人数で回っているのに見落とすのも考えにくい。
「任せて下さいね」
緋宇美は廊下や壁に不自然な継ぎ目や穴がないかを調べる。忍者屋敷で忍者が迷子になるのはいただけない。
像を動かすと、天井の一部がゆっくりと落ちて階段が現れた。
「すっごーーい」
はしゃいで階段を登ろうとする四人の子供をカーテローゼはやんわりと止めた。
ゆっくりと二階に登って、また階段を探す。今度は簡単に見つかって三階に移動するが何かがおかしい。外から見た所、この屋敷は三階建てだった。なのに塔へと繋がる階段が三階には見つからない。一階と同じような仕掛けがないか全員で調べるが発見出来なかった。
「三階にないなら二階だわ」
イヴェットを名乗る女の子がみんなを説得する。そして全員で二階を探す事になった。
アニエスはどんでん返しの板壁を発見した。
「イヴェット分隊長、この辺りが怪しいと思います」
アニエスはもう一度子供達に周辺を探させて、どんでん返しを発見させた。
喜ぶ子供達を誉めると、どんでん返しを潜り抜けて現れた階段を登る。しかし大して登らずに行き止まりとなる。
「階段の途中に‥‥ほら! 隠し扉があるよ」
ラルフを名乗る男の子のいう通り階段の途中に隠し扉があり、通り抜けると三階を突き抜ける階段が現れた。
四人の子供と冒険者達は広く平らな屋根上に登りつめた。空にはカラス達が鳴きながら飛んでいる。
シルヴィアと緋宇美が指輪の回収役であった。エルディンがグッドラックをかけて祝福をする。
「分隊長さん達、こちら」
エーディットは四人の子供を集め、いつでもかばえる体勢をとった。カラスが凶暴なら、ファイヤーボムで威嚇するつもりだ。
アニエスが箒で空を飛ぶ。手には銀のスプーンが握られていた。雲間から顔を覗かせている太陽の光が反射し、キラキラと眩しいはずだ。アニエスが思った通り、カラスが近寄ってきた。
その間にシフールのシルヴィアは空を飛び、緋宇美は疾走の術で一瞬で塔を登り切る。急いでカラスの巣の中を探す。子育ての季節はまだで卵や雛はいなかった。代わりにあったのはたくさんのガラクタ。価値のありそうな物は見あたらない。
シルヴィアが指輪を見つけだし、急いで女の子に見せに行く。
「これ! これよ〜」
待機していた緋宇美は女の子の声を塔の上で聞いて屋根の上に降りた。
「もう逃げるだけですね〜」
エーディットが魔法少女の枝でカラスを追い払うアニエスに撤退の合図を出すと、全員で屋敷の中に戻る。そして無事に庭へと脱出した。
●宴
「みんな、ありがとう〜。これでお母さんに怒られないですむもの」
イヴェットを名乗る女の子は涙目になりながらみんなに感謝した。
「そうだ」
四人の子供は集まって内緒話を始めた。
「あのさ。報酬の事なんだけど」
ラルフを名乗る男の子が話しを切りだした。
「そうね。冒険者を雇ったのだから相応のお金は掛かるわよ? 宮仕えの騎士だってタダ働きはしないわ。ヨシュアス卿だっけ? その人だって貰う物は貰ってるのよ」
カーテローゼは腰を屈めながら話す。
「そうだよね‥‥」
話したカーテローゼは子供に金銭の話しをしている自分に疑問を持ってしまう。自分が依頼をした事にして仲間に報酬を払うのも考えたが、それもなんだかおかしい。報酬といっても、今日のランチと飲み代程度ではあるのだが。
「今回は特別。三人は指輪戻るまでお姫様をちゃんと守ったしね。だけど、お姫さまはちゃんと謝る事」
「そうです。騎士団の人は、勝手に指輪を持ち出したりはしません。二度とこういうことはダメですよ」
「うん‥‥わかった」
カーテローゼとエルディンの言葉に女の子は返事をした。
「でもね。謝ると‥‥」
女の子は母親が恐いようで落ち込んでいる様子だ。
「橙のイヴェット分隊長。お母様はどんな料理が得意なのですか?」
アニエスが訊ねると、女の子は自分の好きなお菓子を答えた。
「では、一緒に私達が行きましょう。みんながいれば謝りやすいですよね。そして依頼のお礼にお茶でもご馳走してくれますか?」
「うん!」
三人の男の子と冒険者達は、女の子に連れられて家を訪れた。
「お母さん。指輪きれいだったので持ちだしちゃったの。ごめんなさい」
女の子は大きな声で玄関に現れた母親に謝る。そして指輪を返した。
「指輪、カラスに盗られちゃったんだけど、ここにいるみんなが取り返してくれたの」
「まあまあ、みなさんありがとうございます」
「あのね。お母さん、みんなに上がってもらっていい?」
「ええ、どうぞお入りになって下さいな」
全員が女の子の家に入る。お茶と手作りのお菓子がテーブルには並べられた。
「正直に謝るのは勇気のいることです。お子さんは勇気のある子ですよ」
エルディンは子供達に聞こえないように、そっと母親に話しかけた。みんなが戻った後できつく叱られないようにする為だ。正直に謝ることを恐れる子にはなって欲しくなかった。
「これは分隊長からのお礼です」
冒険者全員に錫の勲章が渡された。四人の子供は元々これを渡すつもりでいたらしい。
「ちびっ子ブランシュ騎士団に入った人はちゃんと覚えておくね。入りたい人はまだまだ募集中です」
お茶の時間が終わり、四人の子供のお見送りで冒険者達は女の子の家を後にする。帰り道の夕日の最中、カラスが鳴きながら遠くに消えてゆくのであった。