表と裏 〜アロワイヨー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 1 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月24日〜06月01日

リプレイ公開日:2009年05月31日

●オープニング

 パリから北西、ヴェルナー領の北方に小さなトーマ・アロワイヨー領はあった。
 トーマ・アロワイヨー領主となった青年アロワイヨーにはまつりごとの他にもう一つ悩みがある。
 パリ近郊の森の集落で出会った娘ミラのことである。
 ミラは冒険者達のおかげで無事にアロワイヨー家の親戚であるバヴェット家の養女になれた。これで家柄について文句をいう者は少なくなるはずだ。
 バヴェット家の屋敷はトーマ・アロワイヨー領内ではなく、別の領内にある。ミラが移り住むとアロワイヨーと離ればなれになってしまう。そこで別荘宅がトーマ・アロワイヨー領内に用意される事となった。
 アロワイヨーとミラとの結婚も決まり、周囲はより慌ただしくなってゆく‥‥。


「あれは‥‥」
 日中、ミラが城のバルコニーから庭を見下ろすとたくさんの騎士達が整列していた。アロワイヨーの姿もある。
 正式なアロワイヨーの婚約者となった事で、ミラはバヴェット家の別荘宅ではなく城に住まっていた。バヴェット夫人も一緒である。
 その日の夕食時、ミラはアロワイヨーに訊ねる。昼間の式は何であったのかと。
「アロワイヨー領の護衛騎士団の分隊一つをヴェルナー領に派遣する事に決めたのさ。その為の儀礼だったんだ」
「そうなのですか。また戦争でも?」
「戦争といえばそうともいえるのだが‥‥。地獄の階層へと繋がるヘルズゲートや、クーデターでブロズ領へと名を変えた西方の元フレデリック領の事とかいろいろとあってね。少しでもラルフ卿に協力しようと考えたのだが、他領に派兵というのは非常にデリケートな問題を含んでいるんだ。それであまり人数が送れない‥‥。もっとよい方法があればよいのだが」
「先立つものといえばやはり資金でしょう。アロワイヨー領内も大分落ち着いてきたようですし、以前に支援してもらった分を今度はお返ししてみては?」
「それも連絡してみたのだが、丁寧な断りの手紙が送られてきた。何かよい方法はないものか‥‥」
「そうですね‥‥」
 話しは一旦途切れて食事が進んだ。
 食べ終わった後でミラが思いつく。記念硬貨を作ってみてはどうかと。
「ブランそのものではラルフ卿も提供を受けにくい。しかしわたしたちの結婚記念ブラン貨なら受け取りやすいだろうと、そういう事だな?」
「その通りです。純度の高いブラン貨なら万が一の財産となりましょう。そもそも領内におけるブランシュ鉱床の発見もラルフ様のおかげ。恩返しをしないといけません」
 アロワイヨーはミラの意見を採りいれてブラン貨を鋳造するのを決めた。
「そうだな‥‥。ブラン貨の図案だが、わたしの顔などよりミラのほうが栄えるはず」
「そ、それは!」
 ミラは恥ずかしいといって自分の顔が使われるのに反対する。
「そうか。そこまでいうのなら止めておこう。かといって、わたしもこういうのは苦手なんだ‥‥」
「以前、冒険者に壁掛けのデザイン案を手伝って頂きました。ひとまず意見を聞いてみてはどうでしょうか? パリにお住みの方々なので、様々な図案を目にしてきたことでしょうし」
 ミラの勧めで冒険者に意見を求める事が決まった。
「さすがよね。ミラはよい妻になるわよ」
 それまで黙っていたバヴェット夫人が満足そうに紅茶をすする。
 さっそく翌日、依頼を出すためにアロワイヨー家の執事がパリへと向かうのだった。

●今回の参加者

 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●出発と到着
 一隻の帆船がセーヌ川の流れに漂う。
 依頼に参加した冒険者三名はアロワイヨー家の執事と一緒にルーアンを目指す。残念ながら一人の参加者は急用で来られなくなったようだ。
「ゆらり、ゆらゆら、なのです」
 エフェリア・シドリ(ec1862)は甲板で子猫のスピネットを胸元で抱えながら景色を眺める。
 春から夏へと変貌してゆく自然の緑はとても伸びやかに感じられた。通りすぎてゆく古い建物を観賞するのはエフェリアにとってとても楽しい時間である。
「あ、エフェリアさん、ここにいたんですね〜」
 船室に繋がる階段を上ってきたアーシャ・イクティノス(eb6702)はエフェリアを見つけて駆け寄る。
「アロワイヨーさんとミラさんの結婚はもうすぐなのですね〜」
 アーシャはまるで肉親のように結婚を間近に控える二人の幸せを喜んでいた。
「あ、ここにいたんだね」
 明王院月与(eb3600)も現れ、三人はアロワイヨーとミラを話題にした。
「執事さんに聞いたけど、アロワイヨーさんとミラさん、ブラン貨のデザインに顔を使われるのは嫌みたいだよ」
「それで依頼書には他のなにかって書いてあったんですね。う〜ん、いいと思うんだけどな」
 月与からの情報にアーシャが呻る。身もだえするような熱々の仲を示す二人のデザインをアーシャは考えていたからだ。
「中央にミラさんの横顔、頭には大きな花飾りをつけ、回りを月桂樹の葉で囲むつもりだったのです。でも、だめみたいなのです」
 エフェリアの呟きに子猫がニャ〜と呼応する。
「あたいもいろいろと考えてきたけど、提出する前にアロワイヨーさんとミラさんから話しを聞いたほうがよさそうだよね」
 月与がエフェリアとアーシャに頷いた。
 帆船は二日目の昼頃にルーアンの船着き場へと入港する。待機していた馬車に乗り換えた一行は夕方頃、トーマ・アロワイヨー領に到着した。
 今回はバヴェット夫人の別荘宅ではなくてアロワイヨーの城である。今後も城に訪れる機会が増えるであろう。
「みなさん、遠路遙々ようこそいらっしゃいました」
 ミラが侍女を連れて出迎えてくれた。
 アロワイヨーにいつ会えるかと冒険者達はミラへ訊ねる。晩餐の時に会えるはずとミラは答えるのであった。

●晩餐
「ブラン貨のデザインに横顔がよく使われるのは知っていますが、あれに自分のが使われると思うと‥‥夜も眠れませんので」
「あの‥‥、わたしも止めて頂きたく。世間に広めるようなものではありませんから」
 予想された事だが、アロワイヨーとミラはブラン貨のデザインに自分達の顔が使われるのに難色を示す。
 そこまで嫌ならばと冒険者達はあきらめた。そもそも最終的に選ぶのは二人なのだから、無理に提出しても採用されるはずもない。
 アーシャは二人とはわからない男女のデザインはどうかと質問の内容をかえる。アロワイヨーとミラを顔を見合わせ、それならばと了承してくれた。
「このお肉、風味がとてもおいしいのです。唇でかみ切れるのです」
 エフェリアはワインで煮込まれた柔らかいお肉を驚きながら食べ進める。
「若いのに舌がこえているわね。評判の牧場から取り寄せたお肉よ。トーマ・アロワイヨー領の畜産が復活した証拠といってもいいわ」
 エフェリアに微笑んだバヴェット夫人も肉料理を頬張る。
「この野菜もおいしいよ。瑞々しくて、食べると健康になりそう」
「城下町周辺で穫れたお野菜です。こちらも荒れ果てた畑が元通りになったおかげですね」
 笑み浮かべる月与にミラはさらに美味しい野菜料理を薦めた。
「ではわたしは両方を〜」
 アーシャは恋人の事を思いだす。この料理を食べさせてあげたいなあと。
 ゆっくりとした時間はやがて終わった。ワインを飲んだ事もあって部屋に戻った三人はすぐに眠りについた。

●アイデアと見本
 三日目から冒険者達はさっそくデザインにとりかかる。
 誰もが前もって考えてきていたが、具体的なアイデアの絞り込みとサンプルの作成はこれからである。
「大きめに丸くして‥‥、よし♪ ここからが大変だよね」
 月与は小麦粉を捏ねて生地を作り、大きめのコイン型クッキーを焼き上げてゆく。一つずつ違うデザインを施し、気に入ったものを残していった。
 割れてしまったり気に入らなかったものはお茶菓子用である。仲間やミラ、バヴェット夫人を呼んで一緒にお茶を頂いた。
 アロワイヨーは忙しくて顔を出せなかった。領主というのは何もしていないようで、かなり忙しい立場のようだ。
(「いや、ちょっと大胆〜。そこでチューしちゃいましょうか。‥‥ダメ?」)
 アーシャは連れてきたフェアリーのケチャとチチクにモデルをさせる。指輪で得たテレパシー能力で様々な指示を出していった。腕を組ませたり、お姫様だっこをさせたりとやりたい放題である。
「ご、ごめんなさ〜い〜。いいすぎました〜。機嫌なおして〜〜」
 あまりに過激な注文にケチャとチチクが怒り、アーシャは部屋中を追いかけられる。機嫌がなおった後であらためてモデルをしてもらい、デザインを仕上げた。
 それからのアーシャは木片を用いてコインの形を削りだす作業に没頭する。
「たくさん、描くのです。それで決めるのです」
 エフェリアはミラが用意してくれた羊皮紙に絵を描いてゆく。まずは思いつくままに描いては床に置いてゆく。
 不思議そうな顔をして子猫のスピネットが絵を覗き込んだ。
 アロワイヨー家の紋章、花、月と太陽、指輪、赤ん坊、鳥、など多彩に渡る。
 描き疲れるとエフェリアはゆっくりと歩きながら床に散らばる絵を見下ろす。どれがいいのか思案するエフェリアの後ろをスピネットがついていった。
 そしてこれと思った題材を選んで、さらに新たな絵を描いてゆくエフェリアであった。

●発表
 六日目の昼過ぎ、アロワイヨーとミラによるブラン貨デザインの選定が始まった。
 紅茶を頂くテーブルの上には選考の品が並ぶ。
 一つは月与の作ったコインを模した大きなクッキーである。
「『繁栄』や『安寧』の象徴としての農作物の豊穣を形にしてみたの。結婚にも通じるものがあると思うし。ハッ!!」
 大きなクッキーをバヴェット夫人に食べられそうになり、急いでかばった月与である。
 続いてはアーシャが作った木彫りのコインだ。
「気に入ってもらえるといいのですけど〜。それにしても美味しいですね。このミルクティ」
 表はデザイン化されたアロワイヨーとミラを示す二人が横に並んで手を繋ぐ図柄。裏は、かつてアロワイヨーが建てた丸太小屋『アロちゃんハウス』である。
 ちなみにアロちゃんハウスの命名者はバヴェット夫人だ。
「わたしは、これなのです」
 エフェリアが提示したのは二枚の絵である。一枚がお肉、もう一枚は野菜だ。
「肉はアロワイヨーさんです。野菜はミラさんなのです」
 エフェリアは結婚する二人を肉と野菜をなぞらえていた。
「さて、どうするか。ミラ」
「悩みますね。どれもよい出来で」
 アロワイヨーとミラが悩んでいる横でバヴェット夫人は美味しく紅茶を頂く。
 もう一杯もう一杯と侍女にもって来させたカップは五杯にも及んだ。それだけの時間が経過しても、アロワイヨーとミラは考え続けていた。
「似た感じの部分もあるようなら合わせてしまったらどうかしら。三人から観たアロちゃんとミラのイメージがそれだけ近いという事なのだから。もちろん考えた三人の許可は必要だわよ」
 見かねて二人に助け船を出したバヴェット夫人である。
「あの、月与さんの豊穣というのはエフェリアさんの肉と野菜に通じるものがあると思うんです。なのでブラン貨の飾り部分に月与さんの麦穂や葡萄などを採りいれて、肉と野菜は一緒の表面に。裏面はアーシャさんのデザイン化した二人の男女が手を繋ぐのにしたいかなと。アロちゃんハウスも捨てがたいのですが、あれはアロワイヨー様が過去との決別に作ったものなので、内緒にしておきたいそうです。このような感じにしたいのですが、了承してもらえるでしょうか?」
 ミラが代表して自分とアロワイヨーの意向を冒険者達に伝える。
 月与、アーシャ、エフェリアの三人はすぐに受け入れた。なぜならアロワイヨーとミラを祝福する為にやっていた三人だからだ。
「まだ時間があるし‥‥、最終的なサンプルを作ってしまうというのはどうかな?」
 月与の意見にアーシャとエフェリアは賛成する。
 さっそく部屋に戻り、みんなで作業に取りかかった。
「なるべく、大きくするのです」
 みんなで意見を出し合ってデザインの再構築を行う。両面のデザインを絵に起こしたのはエフェリアである。
「さぁ〜てと〜、徹夜になっちゃうかも知れないけどがんばりますよ〜」
 夕方からはアーシャが木片からコインの形を削りだしてゆく。
「おまちどおさま♪ これで力をつけてね」
「これはおいしそう〜♪」
 月与が作ってくれた夜食をアーシャが頬張る。
「あまり細かくしないほうがいいみたいなのです。スーさん、木くずは食べてはいけないのです」
 アーシャの休憩時はエフェリアが細工用の刃物で木片を削る。その姿を子猫のスピネットがじっと眺めていた。
 やがて閉めるのを忘れていた窓から朝日が射し込んだ。三人は疲れて椅子や机に伏せて眠り込んでいる。
 中央のテーブルには仕上がったばかりの木製コインが一つ、置かれていた。

●そして
「素敵な木製コインを作ってくれてありがとう。これから型を起こし、ブラン貨を鋳造させてもらうよ」
 七日目の早朝、アロワイヨーはミラ、バヴェット夫人と一緒に冒険者達が乗り込んだ馬車を見送った。感謝の印として少々の追加報酬と紅茶の葉が冒険者達に贈られる。
 馬車は昼にはルーアンに到着する。そして帆船に乗り換えた冒険者達はセーヌ川を上り、八日目の夕方にパリへ到着した。