二つ目の教会 〜デュカス〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月02日〜06月07日

リプレイ公開日:2009年06月08日

●オープニング

 パリから離れたヴェルナー領エテルネル村。
 デビルから受けた被害は軽微ですぐに元通りになる。
 近くの森で飼われているブタ達も以前と遜色ないほどに太った。
 畑の麦も順調だ。夏場には収穫出来るはずである。
「いろいろあったけど、やっと完成した‥‥」
 青年村長デュカスは建てられたばかりのジーザス教の黒教義の教会を見上げた。
 白教義に遅れて半年以上経っていたが、ようやく完成に至る。本来はもう少し早く建てるつもりが、デビルとの戦いで延び延びになっていたのだ。
 エテルネル村の人口は増加傾向だが、全体の割合からすれば黒教義の信者はかなり少ない。それでも争いが起こらないように白教義の教会と同規模の建築が行われた。建材は主に焼き煉瓦である。
「シルヴァさん、ありがとうございました」
「これが仕事だからな」
 石工のシルヴァにデュカスは深く感謝する。彼がいなければ教会の建築は成り立たなかったであろう。
 数日後、デュカスはシルヴァをパリに送り届けた後、村の生産品をエテルネル村出張店『四つ葉のクローバー』へと納品する。
 休憩の時、デュカスは青年店長ワンバにジーザス教黒教義の教会を知らないかと相談した。白教義の時と同じように黒教義の司祭を村に招く為である。
「よう知らんのや。一応やけどオイラも白やし」
「ワンバも知らないのか。パリならいくつかはあると思うんだけど、白の信者が突然訪問してもね。黒教義の村人は遠方から来た者ばかりだから――」
 デュカスとワンバは黒教義の教会と縁がなかった。
「わたしでよければ知っていますけど‥‥」
 会話を小耳に挟んだ店員ノノが二人に話しかける。ワンバの恋人でもある女性だ。
「ご近所として知っているだけで、教会までの案内ぐらいしか出来ませんが」
「それでも取っ掛かりがなんもないよりマシや」
 ワンバはノノの手を握って感謝する。
「建てた教会を任せられる司祭を紹介してもらえないかと頼みに行くんだ。白教義の僕でも無下に追い返されたりはしないだろう。でもやっぱり不安はあるな‥‥」
 考えた末、デュカスは冒険者ギルドを訪ねる。
 そしてジーザス教黒教義の教会訪問に加え、村の教会で使う内装品購入を手伝って欲しいと募集するのであった。

●今回の参加者

 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec3299 グリゴーリー・アブラメンコフ(38歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ロシア王国)

●サポート参加者

エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)/ 明王院 月与(eb3600

●リプレイ本文

●集合
 太陽が昇ったばかりのパリ。エテルネル村出張店『四つ葉のクローバー』。
 依頼に参加してくれた冒険者達が次々と来店し、デュカスは挨拶を交わす。
「久しいの、デュカス殿。エテルネル村に最後の豚を届けて以来じゃが、ご壮健そうで何よりじゃ」
「こちらこそお久しぶりです。手伝って頂いた森の放牧場の柵は頑丈で、滅多な事では壊れたりしません。それに豚も順調に増えています」
 ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)とデュカスは強く握手を握り合う。
「こちらが、わしがこの国で最も信頼するフランシア助祭殿じゃ」
「新たに『大いなる父』への祈りの場が増えるのは喜ばしく思います。わたくしはシャンテイィ黒教会の助祭。条件はありますが、懇意にした黒教義の教会がなければ案内させて頂くつもり」
 ヘラクレイオスにフランシア・ド・フルール(ea3047)を紹介されてデュカスが畏まる。
「訪ねてみようと考えていた黒の教会は、これまでに村とまったく繋がりがないところなんです。シャンテイィ黒教会と仲介してもらえたらとても助かります」
 ジーザス教黒教義助祭のフランシアは独特な雰囲気をまとっていた。黒教義をよく知らないデュカスでも、ただ者ではないのが感じ取れる。
 次にデュカスが近づいたのはジャイアントのグリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299)である。
「どんな我等が神の家が加わるンだい? 気候のせいもあるがウキウキしてくるな」
「煉瓦作りの教会です。是非に見て頂きたいところですが、今回は村には行かないのでまたの機会に」
 ご機嫌のグリゴーリーはデュカスの顔を見るなり肩を軽く叩いた。
 以前にグリゴーリーは黒教義教会の建設をデュカスに願った事がある。希望した一人として使命感に燃えるグリゴーリーだ。
「黒の教会が出来上がったと知って参加したのだぁ〜。黒の司祭様がいないと大変だし、内装品も揃えないといけないのだ〜」
 玄間北斗(eb2905)は初日手伝いの明王院月与と一緒に四つ葉のクローバー店へと現れる。
「そうなんですよ。黒教義の村人だけじゃ、教会の切り盛りは無理でしょうし。神学っていうんでしょうか。そういうのをちゃんと勉強した人に来て頂きたいと思いまして」
「おいらもよく知らないのだ。なので買い物をお手伝いするつもりなのだぁ〜」
 デュカスと話す玄間北斗は細い目で笑顔を絶やさない。何かとエテルネル村を気にかけてくれる玄間北斗である。そんな玄間北斗にデュカスはとても感謝していた。
 デュカスは依頼の趣旨説明を始める。
「依頼書にありましたように、僕が長を務めるエテルネル村でジーザス教黒教義の為の教会が完成しました。本来はお迎えする司祭様を先に探しておくべきだったのですが、デビル襲来などの事情が重なって延び延びになり――」
 デュカスが話し終えたデュカスとフランシアは一歩近づいた。そして一対一の面談を希望する。
 デュカスはワンバから許可をとると、ランタンを手にフランシアと一緒に部屋へと向かった。
「先程もお聞きしましたが、今に至る経緯と黒教会設立の理由をお話願えるでしょうか?」
 フランシアは自身が加わるシャンテイィ黒教会を紹介するにあたり、より詳しい説明をデュカスに求めた。それは同時にデュカスが信じられる人物かどうかを判断する意味も含まれる。
「エテルネル村があった土地は僕が生まれた村があったのですが、ある盗賊集団に滅ぼされました。仇を討った後で村の再建を計りましたが、生き残りといえば僕と弟のフェルナールのみ。そこでまったく新しい村としてエテルネル村は出発させました。残骸が残る村跡を生き返らせるのは大変でしたが、冒険者として活動していた時に知り合った仲間が手伝ってくれまして‥‥今振り返ると楽しい想い出です」
 デュカスの話は一時間にも及んだ。
 黒教義の教会を建築した理由についても述べる。まず第一にエテルネル村を支えてくれた人達の中に黒教義の信者がいた事が大きかった。それらの者達に感謝する意味が多分に含まれている。
 第二はエテルネル村の未来を見据えた上での必要性だ。
 ジーザス教白教義が国教のノルマンにおいて、黒教義が少数派なのは今更説明する必要もない程の常識である。
 黒教義と白教義の教会を同規模で建てた意味は深いとだけデュカスは答えた。それ以上の意味は村に関わる人それぞれに見つけて欲しいとデュカスは願っていた。
 フランシアは納得してくれたようで、今日のうちにパリ市街の黒教会を訪ねて面会の約束を取りつけてくれるという。
 フランシアとデュカスは一階へと戻る。
 残る午前中は裏の倉庫に移動し、フランシアから必要な祭事用の内装品の説明を受けた。以前に用意した白教義で必要なものと大差はなかったが、実際の品を見定める段階では差異があるはずだ。
「それでは行ってまいりますので」
 フランシアが正式な黒教義の礼装に着替えて黒教会へと出かけようとする。馬車でデュカスが送ろうとしたものの、大した時間もかからないといって姿を消した。
「フランシア殿の付き添いとして行ってこよう。なに、今日のところは簡単な説明と予定を入れてくるだけじゃろ。わしは外で待機しているわい」
 騎士の略装に着替えていたヘラクレイオスがデュカスの前で笑うと店を出てゆく。
「おいらは内装品を置いているパリのお店をたくさん探しておくのだぁ〜〜♪」
「あ、玄ちゃん待って〜。場所知らないんじゃなかったの?〜」
 店から飛びだしていった玄間北斗の後を月与が追いかける。
 月与が知る黒教義関係者から話を聞き、フランシアの情報と合わせてジーザス教関連の店探しをしようと考えていた玄間北斗である。
「そんじゃ、村長さん。俺ッチとエテルネル村の苦難を纏めようかね」
「わかりました。そうしましょう」
 グリゴーリーと約束していたデュカスは倉庫内の窓際にテーブルを移動させて、書類作りを始めた。
 フランシアには時間の関係で掻い摘んで話したが、書類にはより詳しく記してゆく。
「こう書いて読み直してみると、忘れていた事も思いだすものですね」
「そンだけ大変だったってことじゃないかねェ。使いで出かけている間に村が火災‥‥後で盗賊組織『コズミ』と判明したンだな」
 グリゴーリーはデュカスが書いた文章を懸命に読み進めた。
 そうこうするうちに日が傾く。
 閉じた四つ葉のクローバー店に全員が集まる。
 フランシアは黒教会との約束をとりつけてくれた。面会は明後日の三日目と決まる。
 ヘラクレイオスは満足そうに顎髭を撫でた。
 玄間北斗は月与と一緒に教会関連の品を扱う店を十軒程探し当てていた。同一の品を扱っている場合もあるので一通り回ってから決めるのがよさそうだ。
 グリゴーリーはデュカスが書きだした書類を満足そうに眺める。ともすれば不幸自慢と受け取られそうだが本質はそこではない。黒教義の聖職者なら、それが『向上』と繋がると考えてくれるはずだとグリゴーリーは信じていた。

●買い物
 二日目はデュカスが御者をする馬車に乗って玄間北斗が見つけた店を全員で回った。
「デュカス殿の話から察すれば、これがよいはず」
「そうですね。あまりに大きすぎるのは収まりが悪くなりますし」
 フランシアはデュカスを連れて店内を移動し、まずは大まかに必要な品を見繕う。朗読台、祭壇、燭台、聖杯、聖櫃など多岐に渡った。
「うむ。これは仕上がったばかりの鋳型で造られておるの。よい鉄に、よい仕上げじゃ」
 優れた鍛冶や木工の腕を持つヘラクレイオスは、よい作りかどうかを見定めてくれる。
「ちょっと店員と話してくるのだ〜」
 値段については玄間北斗が店と交渉してくれた。
「いいって、いいって。俺ッチが運ぶからよ」
 一通り回った後で一番よい品を選んで買ってゆく。グリゴーリーが率先して品物を馬車へ載せてくれた。
 ちなみに重たい品を運ぶというので、フランシアの愛馬・フィリポ、ヘラクレイオスの愛馬・アルゴーとケイロン、そしてグリゴーリーの愛馬・ゲオルグも馬車に繋がれてある。
 運ぶ品が多すぎて四つ葉のクローバー店に一度戻ったものの、すべての品が一日で買いそろえられた。

●パリの黒教会
「お店を手伝って待っているのだぁ〜♪」
 三日目の昼過ぎ。四つ葉のクローバー店に残った玄間北斗に見送られてフランシア、ヘラクレイオス、グリゴーリー、デュカスの四人は徒歩で黒教会に向かった。
(「あの二人‥‥」)
 グリゴーリーは来訪者を迎える黒教義の聖職者の中に知った人物を見つける。かつて自暴自棄になっていた二人をグリゴーリーはあらためさせた事があった。
「それでは理由についてお聞き願いましょう」
 部屋に案内された四人は黒教会の上位聖職者と面談する。
「こちらがデュカス殿。若くありますがヴェルナー領のエテルネル村の長を務める者です」
 フランシアは簡単な紹介に留め、デュカスを中心に会話が進んだ。
 デュカスはエテルネル村の足跡を記した書類を手渡して説明した。
「水路を堀へと転用しておかなければ、後の盗賊の襲撃には耐えられませんでした。あの時はヘラクレイオスさんが手伝ってくれましたね」
「うむ。だがあれは元々はデュカス殿の弟、フェルナール殿のアイデアだと聞いておる。わしは手伝ったに過ぎんよ」
 話しの後半になるとデュカスは何度かヘラクレイオスに話しを振る。ヘラクレイオスはその他に村の様子を語った。
 面談は終わり、上位聖職者達が退席する。
 デュカスを含めた四人は別室で待機となった。一時間後に紹介の有無が伝えられるという。
「ちょいと所用じゃ。お祈りをして来ようかの」
 グリゴーリーは部屋を出て礼拝堂へと向かう。そして知り合い二人を見つけて声をかけた。
 初対面の態度を崩さなかったグリゴーリーだが、二人に黒教会を訪ねた事情を伝える。もし上位の聖職者から話しがあったのならエテルネル村の教会に来て欲しいとも頼んだ
 一時間が過ぎ去り、エテルネル村の教会に司祭を派遣する決定がデュカスら四人に伝えられる。
「先程礼拝堂で話したンですが――」
 その際、グリゴーリーは自分達が来訪した時に挨拶をしてくれた聖職者の中から選んで欲しいと礼を尽くして頼んだ。
 上位聖職者とデュカスの間に約束が交わされる。数日の間に滞在する四つ葉のクローバー店に向かわせると。

●そして
 四日目は店の裏にある倉庫で購入した品を丁寧に梱包する作業が行われる。
 パリからエテルネル村までは馬車や荷馬車で二日が必要だ。長時間揺れても傷がつかないようにと丁寧に保護しては荷馬車へ積み込み直される。
 そして五日目の閉店後、一人の聖職者が四つ葉のクローバー店を現れた。
「わたくしがエテルネル村の黒教会に派遣される事になりましたマリオッシュと申します」
 マリオッシュと名乗った司祭はグリゴーリーが知っていたうちの一人である。あれから聖職者としての修行を続けて司祭にまでなっていた。
(「そうか。成長してたンだな。あれから頑張ったのか」)
 グリゴーリーは涙を流すまでには至らなかったが、マリオッシュを見て柄にもなく涙腺が緩む。
「内装品はすべて整い、そして司祭様も来て頂ける事になりました。みなさんのおかげです」
 デュカスがレミエラを渡しながらお礼をいう。
「よかったのだぁ。村に戻る時には注意するのだ」
「そうじゃぞ。村の輸送係と一緒に帰った方がよい」
 玄間北斗とヘラクレイオスは最後に荷馬車に張られたロープがしっかり繋がっているかを確認してくれる。
 ギルドでの報告をする為に冒険者四人は四つ葉のクローバー店を後にした。
「デュカス殿とエテルネル村に主の祝福を」
 フランシアは振り返って立ち止まると、灯りがもれる四つ葉のクローバー店に祈りを捧げるのだった。