三人家族とグリフォン二頭
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 70 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月07日〜07月17日
リプレイ公開日:2009年07月17日
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●オープニング
青空に一つの影。
広げられた翼は鷲のようだが、後ろの半身がまるで獅子。そして背中には人を乗せていた。
「そろそろ休憩をした方がいいですね」
飛翔騎乗動物グリフォンを操っていたのはアニエス・グラン・クリュ(eb2949)だ。自領の館にいる祖母を見舞い、パリへ帰る途中であった。
「あれは‥‥」
休憩の為に地面へと下りたアニエスは、飛翔を続ける別のグリフォンを見かけた。何故かぐらついていて様子がおかしく感じられる。
気になったアニエスは天を仰ぎ続けた。
「あ!」
上空のグリフォンから何かが零れ落ちるのをアニエスは目撃した。どうやら騎乗していた人のようである。
自分が飼っているグリフォンはすでに休んでいて、すぐには飛び立てない。アニエスは咄嗟に思いつき、所持していたフライングブルームを発動させて宙に浮かぶ。
近づくとはっきりとわかる。落下していたのは少女であった。
アニエスは片手を伸ばして少女の服を掴んだ。しばらく持ちこたえたが、フライングブルームの動きが不安定になってゆく。
枝葉が伸びる大木が真下に見えたところで、アニエスは意を決し、フライングブルームから飛び降りた。
「痛い‥‥」
擦り傷は出来たものの、アニエスは枝葉のクッションのおかげで無事であった。落下していた少女もである。
「あ、ありがと‥‥。あたし‥‥」
しばらく泣いていた少女がようやく話せるようになる。少女が乗っていたグリフォンも地上へと舞い降りてきた。
少女はパリの方角をアニエスに訊ねた。冒険者ギルドに行かなければならないと付け加えて。
「知っていますが、何か頼み事でも?」
「母さんが、おかしくなっちゃったの。もう一頭のコも‥あたし達を襲ってきて――」
少女の話は内容が端折られていてよくわからなかった。アニエスは少女に順序立てて話してもらい、ようやく理解する。
少女は母親と弟の三人で山裾の一軒家に住んでいたのだという。ある日、その一軒家を商人が訪れる。飼っていたグリフォン二頭を譲って欲しいと。
グリフォン二頭は亡くなった父親の形見であった。母親は譲るわけにはいかないと商人を追い返す。
しかし去り際の商人は少女と弟にこういったのだという。母親が疲れているのはグリフォンの世話のせいだ。このままだと病気になるだろうと。
かわいいペットだが、グリフォン二頭はこれといって生活の役には立っていなかった。
少女は弟と一緒にグリフォン二頭を連れだして山頂の小屋に隠れる。そして商人が再び現れるといっていた日に麓の一軒家へと戻ろうとする。
グリフォン二頭を商人に譲ってしまえば母親の苦労は少なくなる。そして当座のお金が手に入り、生活が楽になると少女と弟は考えていた。
商人が麓の一軒家を訪れる前に接触するつもりが誤算が生じる。商人は半日程早く麓を訪れていたのである。
悲鳴が聞こえ、到着したばかりの少女と弟は家の中へと飛び込んだ。
そこにはナイフを手にした母親と、肩を傷つけられた商人の姿があった。さらに商人を襲おうとする母親を止めようと飛びだした弟が腕に怪我を負ってしまう。
いくら少女と弟が話しかけても正気を失った母親に声は届かない。
次第に弟が乗ってきたグリフォンも様子がおかしくなる。
少女は仕方なく弟と商人をグリフォンに乗せて近くの村へと向かった。その村に怪我をした弟と商人を預けると、少女は再び飛び立つ。噂に聞いたパリの冒険者に母親を元通りにしてもらう為に。
事情を理解したアニエスは少女と一緒にパリへと戻る。そして二人で冒険者ギルドを訪ねた。
アニエスはよく知る受付嬢のゾフィーに相談する。
「それはきっと憑依ね。何かに取り憑かれたのだと思うわ」
ゾフィーによれば憑依の能力を持つモンスターはたくさんいるという。ただ一番多いのは一般に幽霊と呼ばれるゴースト系アンデッドのようだ。
少女の手持ちのお金で依頼を出すのは難しかった。アニエスは少女に代わって依頼人となり、募集をかけるのであった。
●リプレイ本文
●離陸と飛行
夜が明けたばかりの冒険者街の空き地に二頭のグリフォンが着地する。
グリフォン・サライから飛び降りたのは、アニエス・グラン・クリュ(eb2949)。
グリフォン・ノアーラから降りたのは今回の依頼に深く関わる少女エステルである。
しばし後で仲間達が空き地へ集まり始めた。
ソペリエ・メハイエ(ec5570)はグリフォン・スカイアに乗って現れる。
徒歩で空き地まで来たのはクリミナ・ロッソ(ea1999)と皇天子(eb4426)だ。
三人とも住処を出る直前に連れてきたのとは別のペットが大暴れたらしい。そのせいで到着が少々遅れたという。
「出発には間に合ったようね」
アニエスの母、セレストが愛馬で空き地に駆けつける。お弁当をアニエスに手渡すと腰を屈めてエステルをゆっくりと胸に抱いた。
「夫が亡くなった時、あたしも半身を失った気持ちになったわ。お母さんを理解して、支えてあげてね」
そう囁いてからセレストは立ち上がるとアニエスと目を合わせる。
アニエスは母へ答えるように強く頷いた。
「グリフォンについてですが――」
見送りのヴァジェトはパリ近郊に住むグリフォン飼育に長けた人物の名をソペリエに告げた。グリフォンの診断もやっているらしい。状況によっては必要になるかも知れないとヴァジェトは考えたようだ。
先を急ぐ為に一行は空を飛んで向かう事になる。
アニエスが駆るグリフォン・サライには皇天子が同乗。
クリミナにはアニエスから空飛ぶ箒『ベゾム』が貸しだされた。
エステルとソペリエはそれぞれのグリフォンの背中に跨る。
セレストとヴァジェトに見送られて五人が空へと舞い上がった。
最初に目指すのはエステルの弟トバルと商人が休んでいる村だ。二人の怪我がどうなっているのかをエステルは心配していた。
「まずは弟さんと商人の治療及び保護ですね」
ソペリエはグリフォン・スカイアをエステルのグリフォン・ノアーラに近づける。
「この世界の病気は魔法などの怪奇現象も絡んでいて厄介です」
アトランティスからやって来た皇天子は、アニエスの背中に抱きつきながら呟く。
「ギルドのゾフィーさんによれば憑依だろうと。わたくしも同じ考えなのですわ。エステルさんのお母様は気を張り続けてきたのでしょう。精神的に追い込まれていたところに憑依をされようものなら‥‥」
ベゾムに乗るクリミナはソペリエに話しかけながら瞳の光を強くした。
「お弁当を食べる時間を含めて一度はグリフォンを休めましょうね。エステルさん、大丈夫ですよ。最短で飛べば弟のトバルさんがいる村まで今日中に辿り着けますので」
先頭を飛ぶアニエスは振り返らないまま、ついてくるエステルに語りかけた。
「あたし、パリに向かおうとしていた時、大分遠回りしていたんですね」
でもそのおかげでアニエスと知り合えたのだとエステルは言葉を続ける。
途中、セレストが持たせてくれたお弁当をみんなで頂いた。
グリフォンを休ませた上で、一行は空の旅を続けるのだった。
●村
一行は夕暮れ時に目指していた村へと到着する。
ソペリエが村の入り口付近でペット達と待機してくれる。他の者達は徒歩で入村した。
辿り着く前に一行は話し合いを行っていた。
エステルはトバルと商人を村人に預ける時、正気を失った母親の事は話さなかったという。まずはその状況が続いているかの確認が必要であった。
「この家です」
エステルはアニエスから借りた指輪の力でテレパシーの力を得る。そして壁越しに中にいた弟のトバルと念波でやり取りした。
母親の状態については商人も自分も誰にも洩らしていないとトバルから返事があった。傷ついた二人を泊めてくれているのは姉弟の亡くなった父親の友人家族である。
事を広めたくないエステルの意向を冒険者達は尊重した。村の長には挨拶程度で済まし、姉弟の亡くなった父親の友人カナカに協力を求めた。
「鶏か。三羽程度ならすぐにでも何とかなる。おかしいのは当然わかっていたが、深く追求するのはなんだと思ってね。ナミロアをよろしく頼むよ」
カナカは事情を理解して協力してくれた。ナミロアとは姉弟の母親の名だ。
「もう少しだけ我慢をして下さいね」
クリミナはさっそくリカバーでトバルと商人を治療する。
グリフォン三頭を含めて全員で押し掛けるにはカナカの家は小さかった。村の長に許可を得ていたのでテントを張らせてもらう。
「それはよかったです。ペット達は主人のいいつけを守って大人しくしていましたよ」
ソペリエは迎えに来てくれたアニエスからどのような展開になったかを聞いて胸を撫で下ろした。さっそくペット達も広場へと移動になる。
皇天子は印象をよくする為に医者として無料で村人達を診断した。テントには多くの村人が並ぶ。
当初、姉弟の母親への理解を村人達に求めようと皇天子は考えていた。しかし自分の目で確認していない以上、憑依されていると断定は出来ないし、エステルが嫌がっているのでとり止めにする。
クリミナとソペリエもリカバーによる傷の治療を手伝ってくれた。
「よく聞いて下さいね」
「う、うん」
アニエスはトバルに明日決行する予定の作戦を伝える。
今すぐにもナミロアを助けに行きたいところだが、すでに日は暮れていた。
知らない土地で暗闇の中で戦うのはあまりにも危険が大きすぎる。敵がゴースト系アンデッドならばなおさらだ。
商人には今しばらく村に滞在してもらう事になった。
●グリフォン
二日目の昼前。
一行は麓の一軒家まで直接飛んで行かず、手前で降りてゆっくりと近づいていた。
「いないみたい」
茂みに隠れながら自分達の家を確認した姉弟は、声を揃えて冒険者達に告げる。もう一頭のグリフォン・アルワは近くにはないと。
「少し先にグリフォンの身体を洗ってあげていた小さな池があるの」
「そこにいってみましょうか」
アニエスはナミロアについてを仲間達に任せ、姉弟と一緒に小さな池に向かった。
ここに来るまでにアニエスは様々な用意をしてきた。早起きをしてレミエラの力で上空に雨雲を作っておき、そしてトバルにはアイテムを貸してある。
到着したばかりの小さな池にグリフォン・アルワの姿はなかった。
(「家の近くで行うつもりでしたが、ここの方が良さそうな‥‥」)
思案の末、アニエスは池の周辺でグリフォン・アルワを誘いだす事に決めた。一軒家の近くだと仲間達が行うナミロアの正気を取り戻す作戦と、かち合ってしまうかも知れないからだ。
用意してきた絞めてある鶏三羽にナイフを刺して血を周囲にばらまく。そして身の部分も目立つ場所に転がしておいた。
しばらくして頭上から激しい羽音が三人の耳に聞こてくる。
「一体どうしたんだろう‥‥」
トバルが沈んだ表情を浮かべた。池周辺に現れたグリフォン・アルワは鶏を嘴にくわえながら、なおも暴れていた。
(「僕だよ。アルワ、わかるかい?」)
トバルはアニエスから借りた指輪でオーラテレパスを自らに付与し、グリフォン・アルワに話しかける。
しかしグリフォン・アルワは羽根をばたつかせて暴れるだけだ。テレパシーを使っても特に変化はなかった。
「何か、嫌がっているような気がする‥‥」
「よく見ればそんな感じがするね」
姉弟が話し合う隣りで、アニエスもグリフォン・アルワを観察していた。
「このままではどうしようもありませんね。雷を落としてみますので」
アニエスは一番威力の弱いヘブンリィライトニングを雷雲の指輪の力を使ってグリフォン・アルワに命中させる。
「今、一瞬?」
「あたしも見たわ」
姉弟がグリフォン・アルワの背中部分に青白い炎を目撃した。
「つまり‥‥、アルワもお二人のお母様のように取り憑かれているのですね」
アニエスは決断する。オーラパワーを『雷公鞭+3』に付与した後で、ヘブンリィライトニングでさっきより強い雷を落とした。
アニエスはグリフォン・アルワの背中に浮かび上がったレイスと思われるゴースト系アンデッドを見逃さない。『雷公鞭+3』の凄まじい威力で一気に片を付けてゆく。
姉弟は安全をはかる為に、グリフォン・アルワを連れて戦いの場から遠ざかった。
青白い炎が消えてゆくのをアニエスは見届けた。
後にグリフォン・アルワが暴れた原因は、頭の中で意味のわからないレイスの囁きが聞こえ続けていたせいだと判明する。
その頃、一軒家でも作戦が始まろうとしていた。姉弟の母親、ナミロアを救う為に。
●憑依
一軒家から外へ激しい物音が洩れていた。
外からは窺えないが、ナミロアが椅子を振りかざして家中の物を破壊していたのである。
ソペリエ、クリミナ、皇天子は家の近くで身を潜めてナミロアが疲れるのを待つ。
クリミナのデティクトアンデッドによって、不死者が家の中にいるのはすでに判明していた。やがて静かになり、三人は物影に隠れながら家の外壁に貼りつく。
(「医者として戦闘はしたくないのですが‥‥」)
しかしここまで来たら躊躇はしていられないと皇天子は覚悟を決める。それに作戦がうまくいけばナミロアを傷つけずに済むはずである。
三人は呼吸を合わせて一気に動いた。
皇天子が窓戸を跳ね上げた。
木箱に乗って家の中を覗きやすくしたクリミナは、ナミロアを目視すると素速くコアギュレイトを唱える。
同時にソペリエはアンデッドスレイヤーの剣を抜いたまま、出入り口となる戸を開いて家の中へ飛び込んだ。
ナミロアは呪縛されて動けなくなる。皇天子とクリミナも酷く散らかった家の中に足を踏み入れた。
「確かにこれはゴースト系アンデッドの憑依に違いありませんね」
憔悴したナミロアを見たクレリックのクリミナは、天井付近にいくつかのホーリーフィールドを張った。
準備が整ったところで、クリミナはナミロアの目の前でホーリーライトを唱える。
次の瞬間、ナミロアから青白い炎のようなゴースト系アンデッドが分離した。光の届かない上へと逃げようとしたアンデッドであったが、天井付近のホーリーフィールドが阻んでくれる。
「逃がしません!」
ソペリエがアンデッドスレイヤーを勢いのまま敵に叩きつける。
「これなら効くはずです」
皇天子はピュアリファイでアンデッドの浄化を試みた。
「大丈夫ですか?」
クリミナは再び憑依されない為にナミロアをホーリーフィールドで包み込んだ。
三人の連携によってアンデッドは一気に仕留められる。
「怪我はリカバーで何とかなりますが‥‥どうやら病気のようですね。風邪をひかれているようです」
戦い終わった皇天子がナミロアを診断してくれる。
ソペリエが倒れていたベッドを元通りにしてナミロアを寝かせた。
やがてアニエスと姉弟も一軒家に現れる。
「おかあさん!」
眠るナミロアに姉弟は抱きついて号泣する。
意識がないはずなのにナミロアの右腕が動き、姉弟を強く抱きしめるのだった。
●そして
姉弟のグリフォン二頭は村のカナカの元に預けられた。
数日間、冒険者四人と姉弟はナミロアの看病をしながら家の修繕に明け暮れる。物運びには力持ちのソペリエが活躍した。
あまりの忙しさに食事も作れない有様である。ナミロアの分だけはなんとかし、後は保存食で腹を満たす。
足の踏み場もない状況から整理がついた頃には、ナミロアも風邪の症状から脱しようとしていた。
「お話がありますわ」
仲間の代表としてクリミナがナミロアに今後の相談を行う。
たくさんの者に問いかけられるだけでも今のナミロアには負担になると皇天子が診断したからである。
姉弟との話し合いは歳が近いアニエスが担当した。
様々な問題の中で一番重要なのがグリフォン二頭をどうするかだ。
ナミロアはなかなか売却の説得に応じなかった。ナミロアにとってはグリフォン二頭も大切な家族なのである。亡くなった夫との思い出がたくさん詰まっているのだという。
とはいえ、姉弟よりも大切かと問われればナミロアは口をつぐんだ。
「おかあさん、ごめんなさい」
エステルとトバルが山に逃亡したのを謝った時、ようやくナミロアの気持ちに変化が訪れる。
近場での引取先を探すというクリミナの言葉に、ナミロアは首を横に振った。未練が残らないように手放すのなら二度と会えない遠くがいいと。
最終的にはグリフォンの売却先は商人に一任される。
アニエスはよろしければとブランシュ騎士団黒分隊宛ての紹介状を商人に手渡した。それを活用するかどうかは商人次第である。
「これは昔、家族全員で山を登った時に拾ったものなんです。あ、大丈夫ですよ。あたしたちの分もちゃんと残っていますので」
元気になったナミロアは冒険者達へ感謝の印として山小人の小石を贈る。
親子三人に見送られながら、冒険者達は早朝の青空に向けて飛び立つのだった。