トーマ・アロワイヨー領の地〜ちびブラ団〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 65 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月27日〜08月04日

リプレイ公開日:2009年08月05日

●オープニング

 パリから北西にヴェルナー領があり、その北にトーマ・アロワイヨー領は広がる。
 少年クヌット・デュソーの叔父、ヒストロテ・モステンティはアロワイヨーに仕える騎士の一人である。
 正確にいえば今は第一線を退いていた。落馬して負った傷のせいで戦いに赴ける身体ではなくなっていたからだ。
 ヒストロテは長旅を経てパリのクヌット家を訪ねた。
「領主アロワイヨー様の結婚式が間近でな。それで改めて領内に卑劣な潜伏者や狡猾なデビルなどが潜んでいないかの点検が行われるのだ。とはいえどうにも人が足りていない。そこで冒険者に頼もうという話になり、暇を持てあましている俺に役目が回ってきたという訳だ」
 壁に杖を立て掛けるとヒストロテはクヌットの母が引いてくれた椅子に座る。歳は四十間近、妻には先立たれていて独り身である。
 テーブルにはクヌットの父と、クヌット本人がついていた。
「俺、今は冒険者やってるんだ。騎士になる時に役に立つと思って。よければヒストロテおじさん、ギルドを案内するぜ。い、いや、えっと‥‥案内しましょうか?」
 話し言葉がめちゃくちゃなクヌットの様子にクヌットの父とヒストロテは顔を見合わせて笑った。
「俺の前ではまだ子供の話し方でいいぞ。そうだな、明日にでもお願いしようか」
「わかりま‥‥いや、わかったぜ!!」
 クヌットが思い切り手を伸ばしてヒストロテと握手をする。
 翌日ヒストロテが冒険者ギルドを訪れた時、クヌットの他に少年ベリムート、少女コリル、少年アウストの姿もあった。
 ちなみにクヌット家から冒険者ギルドまで、ヒストロテを運んだのはベリムートの愛馬テルムである。それだけヒストロテは痩せていた。
「これでよし。みんなも参加してくれるみたいだな。お近づきの印に何か奢ろう」
 依頼を頼んだ後でヒストロテは子供達四人を連れて食事に向かうのだった。

●今回の参加者

 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec4491 ラムセス・ミンス(18歳・♂・ジプシー・ジャイアント・エジプト)

●リプレイ本文

●道中
 早朝、パリ船着き場から出港したドレスタット行きの帆船がセーヌの流れに乗った。
 寄港するルーアンで下船予定なのは騎士ヒストロテ・モステンティと、依頼を引き受けた冒険者達である。
 依頼とは領主アロワイヨーの結婚において万全を期す為の領内調査だ。特に留意すべきは悪魔崇拝者とデビルの存在。もしも接触したのなら排除も依頼には含まれていた。
 ヒストロテがギルドに出した別依頼によって、すでに二つの調査チームがトーマ・アロワイヨー領に出発し、今頃は担当地域を回っている頃であろう。
 現在、ヒストロテと帆船へ乗っているのは最後のチーム。
 クレリックのクリミナ・ロッソ(ea1999)。
 騎士のアニエス・グラン・クリュ(eb2949)。
 ジプシーのラムセス・ミンス(ec4491)。
 そして少しは冒険者に慣れてきた少年クヌット、少年ベリムート、少女コリル、少年アウストの四人だ。
 杖を使って船内の狭い廊下を歩くヒストロテからクヌットとベリムートはつかず離れずにいた。船は揺れるので、もしもの転倒を考えてである。
 コリルとアウストは先に船室に向かい、ヒストロテが休めるように用意をしていた。
「このクッションを敷いた方がいいですよ」
 船室にはアニエスの姿もあった。コリル、アウストも一緒に準備を整えてゆく。
「ありがとう。助かったよ」
 やがてヒストロテが船室に現れて固定椅子へと腰掛けた。
 クリミナに呼ばれて船室にいた冒険者達は甲板へと向かおうとする。最後に出ようとしたアニエスはヒストロテに頼んだ。依頼が終わった後、ヒストロテが過去に仕えていた領主エリファスについて聞きたいと。
「全員が揃ったようですね」
 クリミナが甲板に仲間達を集めたのはミーティングの為である。調査にあたってどのような点に注意すべきかを全員の共通認識にしておく為だ。
「領主さんのご結婚、とってもおめでたいデス」
 ラムセスは結婚の邪魔はさせはしないと意気込む。
 話し合いは進んだ。
 領民の中に悪魔崇拝者が潜んでいたとしても、結婚する両名に簡単には近づけないはずである。そういう類は領の騎士達に任せておけばよい。
 問題なのは悪魔崇拝者を手引したり、もしくは実力行使を行おうとするデビルの存在だ。例え下級であってもデビルは様々な能力を持っているので油断は禁物であった。
 様々な意見が行き交う。
 そしてデビルが潜伏しているとして、考えられるのは大きく分けて二つのパターンだと集約される。
 一つ目は悪魔崇拝者が匿っている状況。善良な領民を悪魔崇拝者が装えば、長くの潜伏も可能であろう。
 二つ目は変身能力を使って動物に化けている状況。牧畜が盛んなトーマ・アロワイヨー領なら紛れるのは比較簡単なはずだ。
 特別な状況として、単独で領民に化けたデビルが潜んでいる可能性も指摘される。但しかなりの知恵が必要とされるので、それなりのデビルでなければ周囲を騙し続ける事は難しいだろう。心の隅に置いておき、もしもに備える冒険者達であった。
 冒険者達は互いにアイテムを貸し借りして前もっての準備を終わらせておく。
 二日目の昼頃、帆船が寄港したルーアンで一行は下り、用意されていた馬車へと乗り換える。御者は元ちびブラ団の子供達四人が交代で行った。
 ちなみに二両の馬車が用意されていたが、人数的に足りるので借りたのは一両だ。
 ヒストロテの様子を気遣いながら、馬車は一路トーマ・アロワイヨー領を目指す。その日のうちに到着し、城下町で宿をとった。
 ヒストロテはこの宿でしばらくを過ごし、冒険者達の報告を待つという。
 冒険者達は調査を前にして早々に就寝するのだった。

●調査
 三日目から割り当てられた地域での調査が始まった。村一つと集落一つが含まれる広さである。
「それではわたくしはここで。後でお会いしましょう」
 クリミナは旅の尼僧として別行動をとる。馬車を下りて徒歩で村へと向かう。
 夕方には村の宿で落ち合う予定である。その為の合図は前もって決めてあった。
「ちょっと待ってくださいデス」
 再発進する前にラムセスはサンワードの魔法で太陽に何度か訊ねた。特定の動物に化けたデビルはいないかと。
 デビルに関してはわからないとしか返事はなかった。
 動物そのものが近くにいるかどうかの質問に関しては答えがある。人の近くで生活していてもおかしくはない馬、豚、牛、羊、鶏、犬、猫などの動物は村にいるようだ。
 太陽への問いは終わり、馬車は動きだす。そのまま馬車で村に入って宿を決めると、各々に行動を始めた。
「私が操ります。丁寧に参りましょう」
「俺は指輪から目を離さないようにするぜ」
 空飛ぶ絨毯Aに乗り込んだのはアニエスとクヌットである。
「こっちの操縦はあたしね〜」
「なら俺は石の中の蝶を確認するよ」
 空飛ぶ絨毯Bにはコリルとベリムートが乗り込んだ。
「ボクらは変わったことがないか、村を回ってみるのデス」
「そうするね。直に目で確認もしておきたいし」
 ラムセスとアウストは徒歩で村と周辺を探ってみるという。
 クリミナも今頃は村に到着しているはずであった。

●クリミナ
(「平和な村ですが果たして‥‥」)
 長閑な景色の中、クリミナは一人村を歩いていた。
 自らに不死者の存在がわかるデティクトアンデットを付与し、周囲にデビルがいるかどうかを探る。
 ひとまず探したのは教会である。もしくは井戸で世間話を行う女性の集団を見つけようとしていた。
 十字架が掲げられた小さな建物を教会だと確認したクリミナは中へと入った。そして司祭と面会する。
「以前に比べ最近変わった事、性格が変わったと思われる方はいらっしゃいません?」
「特には居ませんな。昔から互いの顔を知る者同士。妙ならばすぐにわかりましょう」
 クリミナは司祭に礼をいって教会を立ち去る。
 続いて出会った女性達に聞いてみたものの、問いの答えは司祭がいっていた事と大差はなかった。
(「まだ集落は調べていませんし、村や集落に属さないで暮らしている方もいらっしゃるはず」)
 クリミナは引き続き村全体を歩いてデビルの感知を探し回る。しかしデティクトアンデットでは何も感じられなかった。
 調べる時間はまだまだ残っている。集落や人里離れた場所で暮らす者達も探るつもりのクリミナであった。

●ラムセスとアウスト
「豚がたくさんだ」
「牛さんもいるのデス」
 アウストとラムセスは柵の前に立ち、動物の様子を眺めていた。
「どうしたんだね。ここら辺じゃみかけない顔だな」
 牛が繋がれた荷車が停まり、乗っていた地元の老人が二人に声をかけた。
「ここらへんで変わったことや困ったことがないか、調べているのデス。ちゃんと許可も取っているのデス。ボクたちは冒険者デス」
「冒険者? ほー、こりゃ珍しい。まあ、それは置いておいてだ。別に変わったことはないぞ。いや待てよ‥‥」
 突然考え込んだ老人の前で、ラムセスとアウストは目と目を合わせる。
「強いていうなら、領主のアロワイヨー様が結婚することぐらいだな。前の領主も平時の時は治水に力を入れたりして悪くなかったのだが、ある時を境にいきなり暴君となってしまってな。いやいや、話が逸れた。つまりは、今のアロワイヨー領主にはみんな感謝しておるといいたかったのだ。領主の座に就いた時には非難も多かったが、なんだかんだいってちゃんと復興させたのだからな――」
 老人の話は長かった。ラムセスとアウストが、うつらうらつとし始めてしまう程に。
「も、もしよければ領主さんのために、寄せ書きや刺繍、パッチワークをお祝いに皆で贈りたいデス」
 寝ぼけ眼のラムセスがようやく自分の考えを老人に切りだせる。
「そうか。ついてきてもらえれば、近所のもんを紹介するぞ」
 老人の言葉に従ってラムセスとアウストは荷車の後をついてゆく。近所の者達を紹介してもらうと、事情を話して布や糸などの材料を置いていった。数日後には取りに来ると言葉を残して。
「いなかったね。怪しい人や物とか」
「そうなのデス。でも気を抜いてはダメなのデス」
 宿への帰り道、ラムセスとアウストは並んで歩いた。
 陽がまだあるうちにラムセスは今一度サンワードを唱える。しかし、新たにわかった事実は何もなかった。

●アニエスとクヌット
「非常に目立つので、飛んで調べるのは一日一度にしましょう」
「そっか。じゃ村の上空もあっという間だな。速ぇーからな」
 空飛ぶ絨毯Aを操るのはアニエス。後ろでデビルを感知出来る指輪を見つめていたのはクヌットである。
 空飛ぶ絨毯Bに乗るコリルとベリムートと区分を決めて、空飛び絨毯Aのアニエスとクヌットは北の方角を探った。
 トーマ・アロワイヨー領は狭い割に自然の変化の激しい。草原や森があり、あまり高くはないがブランシュ鉱床が存在する山もそびえてる。
 空飛ぶ絨毯Aが飛んだのは草原地帯だ。稀にとても小さな森がある。
「今んとこ、デビルはいないみたい‥‥」
 たまにクヌットがアニエスに報告した。ついでなので集落の上空も飛んでみたが、デビルの反応はなかった。
 その後、仲間と合流して村長の屋敷を訪れる。騎士ヒストロテの依頼でやって来た事を告げて事情を説明する。
 今の所何もないが、もしデビルなどの危険があったら協力してもらいたいとも頼んだ。
「明日は入れ換えの日になるので忙しくなるのう」
 何気なく言った村長の一言が気になり、アニエスは詳しく話を聞かせてもらう。
 村の中だけで飼うと餌に困るので、羊飼いなどに頼んで一部の家畜を村の外で放牧するのだという。
 放牧地には雨風を防ぐ為の簡易な畜舎がいくつかあるらしい。
「でもさ、放牧されているはずの羊とか、見かけなかったぜ‥‥です」
 クヌットの発言にアニエス、ベリムート、コリルも同意する。畜舎はともかく、四人とも空から眺めたはずなのにそれらしき動物の群れは見かけていなかった。
「早めに切り上げて、畜舎に入れられておったのだろう」
 村長は特に気にしていなかったが、冒険者達は違う。宿に帰るとさっそく相談し、明日にでも調べてみようと決められた。

●群れの中のデビル
 四日目の夜明け前、冒険者達は離れた位置から草原にある畜舎を眺めていた。
「いますね‥‥」
 クリミナがデティクトアンデットで不死者を探知する。
 草原地帯にある畜舎から約八十メートル離れた程の位置からわかる数は四。
 不死者といってもいろいろだが、まずデビルであろう。大きさから想像するに子羊に化けているようだ。
「問題は羊飼いが悪魔崇拝者かどうかですね‥‥。昨日、放牧していなかったのも怪しいですし」
 アニエスが懸念を呟く。
「村長さんによれば羊飼いは一人だけだよな」
「一人ならボクが捕まえるのデス」
 クヌットの前でラムセスが自分の胸を叩いた。羊飼いが悪魔崇拝者かどうかは、生かして捕まえた後でクレリックのクリミナに判断してもらう事となった。
 やがて羊飼いが畜舎に併設されていた小屋から出てくる。そして畜舎の大きな扉を開けようとした。
 それを合図に冒険者達は一斉に動きだす。
 地上からは愛馬・赤龍王に騎乗したアニエスが畜舎へと急接近する。愛犬・ペテロも少し遅れて主人のアニエスを追いかけた。もう一頭、クリミナの愛犬・クララもだ。
 その様子を羊飼いが呆然と眺めている間に、コリルが操る空飛ぶ絨毯Bに相乗りしていたラムセスが地面へと飛び降る。即座にローズホイップで羊飼いの身体を絡め取って動けなくさせた。
 この時クリミナは、空飛ぶ絨毯Aを操縦したアウストのおかげで畜舎の屋根の上に立っていた。すぐに魔法を唱え、畜舎の扉前にホーリーフィールドを張る。
 犬二頭が駆ける勢いのまま畜舎へと飛び込んだ。驚いた畜舎内の羊達が次々と逃げだしてゆく。
 クリミナはデティクトアンデットで不死者の位置を把握しながら畜舎の周囲にホーリーフィールドをいくつも張り続ける。
 間もなく畜舎には五頭の子羊に化けたデビルが残った。逃げだそうにもホーリーフィールドに阻まれたのである。
 アウストは畜舎の屋根の上で鳴弦の弓をかき鳴らしてデビルを弱体化させる。
 クヌット、ベリムート、コリルは騎乗のアニエスと共に畜舎内に突入した。ちょうど犬二頭と入れ違いになる。
 本来の姿に戻る前に一気に仕留めようと畜舎内の四人は剣技を振るう。
 子羊に化けていたのはインプ四体。
 戻ってしまった時には先に翼を狙い、飛び立てないようにしてから追い込んでゆく。
 それでも一体のインプが隙間をうまくすり抜けて外へ飛びだす。逃がしてなるものかとラムセスがサンレーザーを照射する。
 畜舎から飛びだしたクヌットが聖剣アルマスで最後のインプに止めを刺した。
 散らばって逃げてしまった羊達はペテロ、クララの二頭によって畜舎へと戻される。ラムセスが連れてきた精霊の花水木と柳絮も羊の誘導を手伝ってくれた。コリルのフェアリー・プラティナはスリープの魔法で暴れる羊を眠らせる。
 戦いが終わってから約一時間後、すべての羊は畜舎へと戻された。
 その間にクリミナが羊飼いが悪魔崇拝者かどうかを確かめる。結果、羊飼いの疑いは晴れた。昨日、預かった羊達を放牧していなかったのは単に怠けていただけであった。

●そして
 あらためて担当地域を調べあげ、デビルが居ないことを確認した冒険者達はヒストロテのいる城下町の宿へと戻る。
 村長や村の人々から預かった領主アロワイヨーとミラとの祝いの品や言葉がヒストロテに託された。必ずアロワイヨーの元に届けるとヒストロテは約束してくれる。
 よくやってくれたとヒストロテから冒険者達に追加の報酬も手渡された。
 後の事だが、元ちびブラ団の子供らは報酬の中から吉多へお金を返す。さらにそのお金はクリミナ、アニエス、ラムセスへと返済される。
 ヒストロテはアニエスに元領主エリファス・ブロリアについてを語った。
 領民を守るという大義ですら、デビルはつけ込んでくる。結局は野心をデビルに利用されたのだろうとヒストロテはエリファスをそう評価していた。
 エリファスは領地と領民を守ろうとしながら、最終的にどちらにも災いをもたらしてしまった。
 デビルにつけ込まれない為には心を揺らさない事が大切だとヒストロテはいう。怒りを持ってデビルに立ち向かえばいずれは正気を失い、結果として自分の大切な人や存在を傷つけてしまうと。
 冒険者達は城までヒストロテを送る。そのままトーマ・アロワイヨー領を離れて、ヴェルナー領のルーアンへと向かった。
 ルーアンでは帆船へと乗り換え、一行はパリへの帰路についた。