【凍る碑】北東の攻防 〜サッカノ外伝〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月28日〜02月02日

リプレイ公開日:2007年02月05日

●オープニング

「これこそが死者よりの手紙という訳か‥‥」
 悪魔崇拝ラヴェリテ教団の若き指導者エドガ・アーレンスは深く椅子にもたれる。
 手にしていたのは、主であるデビルからの託宣であった。
 部屋はランタンの灯火で暖色に包まれていた。
「その様な物言いは、皆が勘違い致します。御自重して下さいませ」
 年端もいかぬ少女がエドガをたしなめる。きらびやかな装飾を纏う少女の名はコンスタンスといった。
「そうだな。確かにこれはただの手紙だ。しかし、その重要さは預言にも劣らないと思うぞ。もっともわたしが動かなくては何事も起きぬかも知れぬがな」
 立ち上がったエドガが窓の戸を開ける。闇の向こうにパリの灯が小さく観られた。目的の地に向かおうとエドガは郊外の宿に泊まっていた。
「さすがにあの『巨大な影』の正体はまもなく愚民共に知れ渡るであろう。だがもう遅い。賽は投げられた」
「仰る通りで」
「11月の時は主の指示で数人だけ配下の者を堤防決壊に遣わせた。あの数での失敗は無理からぬ事であろう。その反省からか、今回の指示は規模が違う」
 ラヴェリテ教団の実戦部隊が動かなければならない規模の作戦である。
「王家も本気を出してこよう。我が主も御出になられるが‥‥」
 エドガにも危惧はある。最近になってパリ周辺でのブランシュ騎士団の動きが活発になってきたことだ。かなりの数の団員もパリに戻っていると聞く。
「そして、奴らも‥‥」
 エドガはカップを手に取り、ワインを一気に飲み干す。冒険者達に邪魔された過去を思いだす。教会の司祭達が欲した羊皮紙と一緒に渡した偽のサッカノの手稿には仕掛けがしてあった。あれが発動していればもう一人司祭を殺す事が出来たはずである。二人消したかった司祭を結果として一人しか屠れなかった。今回の作戦と直接の結びつきはないが、冒険者を甘くみればこれからの失敗にも通じる。事は慎重に行わなければならない。
「エドガ様なら案じる事はありませんでしょう。あなた様程狡猾な方は見たことありませんもの」
 コンスタンスは少女らしからぬ、妖しき瞳でエドガを見つめていた。

「命を持ってしても必ずや! 失礼致します」
 ブランシュ騎士団『ラルフ・ヴェルナー』黒分隊長は跪きから立ち上がると敬礼をし、衛兵が守る広間を後にした。すれ違った他の分隊長に挨拶をすると、彫像が左右を鎮座する廊下を早足で進む。ラルフの後ろを広間に繋がる扉の前で待っていた部下がついてゆく。
「ラルフ分隊長殿、どの様なご命令が?」
「‥‥北東だ」
「北東‥‥でございますか?」
「そうだ。直ちに向かう。ブリザードドラゴンが目撃されたのだ。もしやパリに向かっているやも知れん。一刻の猶予もない」
 ラルフの言葉に部下二人が絶句する。
「これより一時間後に出立する。ブランシュ騎士団黒分隊の総力を持って事に当たる。遅れる者あれば置いてゆく。走れ!」
「はっ!」
 部下二人は全速力で駆けていった。

 一日が経過し、ラルフ黒分隊長は手綱を引き、駆ける馬をとめた。
 望める進路の彼方には軍勢が見受けられる。掲げている旗の紋章に覚えはないが、デビルをかたどっていた。
 ざっと見積もっても五十は越えるであろう。奥に佇む森にも隠れている可能性もある。
「噂に聞いた悪魔崇拝者の集まりか。統制もされているようだ。‥‥人もいるが、それだけではない。デビルの影もある」
 ラルフ黒分隊長は自分の周囲を振り返った。ついて来られたのは七人の部下だけであった。これから追いついて来るだろうが、今はこの人数で対処する他はない。
「我らは進路を確保する。この先のブリザードドラゴンが目撃されたマリアベルまで、勇敢なる他のブランシュ騎士団分隊を送らねばならぬのだ!」
 ラルフ黒分隊長が檄を飛ばした時、一両の馬車が丘の向こうから現れた。
「あの馬車は冒険者ギルド専用のものと見受けられます」
 部下の一人がラルフ黒分隊長に告げる。
「冒険者か。彼、彼女等の力は侮れぬ」
 ラルフ黒分隊長は自ら馬車に近寄り、馬を降りる。
「私はブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーという。頼みがある。すべてはノルマン王国の為。力を貸して頂きたい!」
 ラルフ黒分隊長の声が轟く。その声に答えるかのように馬車の扉が開くのであった。

●今回の参加者

 ea1987 ベイン・ヴァル(38歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea4340 ノア・キャラット(20歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea7191 エグゼ・クエーサー(36歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8988 テッド・クラウス(17歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

タケシ・ダイワ(eb0607

●リプレイ本文

●共闘
「私はブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーという。頼みがある。すべてはノルマン王国の為。力を貸して頂きたい!」
 ラルフ黒分隊長の声が轟く。
「何事ですか?」
 フランシア・ド・フルール(ea3047)は馬車の扉を開く。
「あれを見てくれ」
 ラルフ分隊長が指差した遠くには軍勢が待ちかまえていた。フランシアは事を仲間に伝える。次々と冒険者達は馬車を降りた。
「未知の紋章旗を掲げる一団がある。まず間違いなく最近パリに跋扈する悪魔崇拝者の集団だ。実体はよくわかっていないが、ブリザードドラゴンが現れたこの状況で、この行動。我々黒分隊は北東への‥‥他のブランシュ騎士団の進路を確保せねばならぬのだ」
「悪魔崇拝者の団体か。我々が対峙した事のある団体と、多分同一だな」
 ベイン・ヴァル(ea1987)は敵の軍旗をはっきりと捉えた。禍々しい紋章である。
「俗界の国の存亡はわたくしには関わりなきこと‥‥」
 フランシアは祈りの手を合わせながらラルフ分隊長に視線をやる。
「されど主に叛きし愚かなる者どもを討ち滅ぼす為、騎士団への助力に異存はありません。みなさんはどうでしょうか?」
 次にフランシアは仲間へ視線を向けた。
「異存はない」
 ベインは既に戦いの準備を始めている。
「ノルマンをブリザードドラゴンの脅威から救うためにも、まず目前のデビルや悪魔崇拝者を倒さなくてはなりませんね」
 シクル・ザーン(ea2350)は馬車に不必要な物を預けていた。
「エルフ・ウィザード・ノア! 助勢いたします。悪魔崇拝者は、まだノルマンには居るのですね! 邪魔する者は排除するしかありません!」
 ノア・キャラット(ea4340)は遠くの一団を睨む。
「『足』を試す意味も含め、対集団戦は望むところだよ」
 エグゼ・クエーサー(ea7191)は既に周囲の観察を行う。全体の流れを把握するのは勝利の鍵となる。
「ブランシュ騎士団と共に闘えるなんて光栄の極みです。微力ではありますが全力を尽くさせていただきます」
 テッド・クラウス(ea8988)はラルフ分隊長に敬礼をする。
「もはや言葉は要りません。ノルマンとパリの平和の為、ブランシュ騎士団の行く手を塞ぐ敵を、全力で排除します。我々の命と力をこの一時の為、全ての力を注ぎます」
 レイムス・ドレイク(eb2277)もラルフ分隊長に敬礼をする。そしてテッドと共に黒分隊隊員にも敬礼をした。
「預言の阻止に全力を尽くします。悪魔崇拝者の一団を阻止し、他のブランシュ騎士団分隊の進路を確保しましょう」
 レオパルド・ブリツィ(ea7890)はレイムスにストームレイン、テッドに聖者の剣を貸すのだった。

 戦いは唐突に始まる。
 敵の団体が武器を手に進行を始めたのだ。武装した人間とオーガ族の混合部隊である。デビルはまだ控えているらしい。
 相談をし終えていた黒分隊と冒険者達は陣形を保ち、敵に立ち向かった。
「先手必勝! 一旦蹴散らします」
 ノアは迫り来る敵に向かって詠唱を開始した。
「大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて我に力を与えよ! 爆炎となり隠れし敵を蹴散らせ! ファイヤーボム」
 これが戦いの狼煙となった。
 ベインはラルフに以前戦った時の様子を伝えていた。この状況も予想済みである。まずは相手の出方を見た上で、さらなる作戦を被せてくるのが敵のやり方だ。裏をかかれないよう気をつけなければならないが、それはラルフ分隊長に任せた方がよいとベインは考えていた。
 陣形中央のベイン、テッド、レイムスはソードボンバーを放ち、多数の敵を地に這いつくばらせた。敵の実力を計り、仕留められると思うならスマッシュも繰りだす。陣形左右には黒分隊の猛者達が壁となっていた。
 味方に囲まれたノアとフランシアは、主に敵の魔法を扱う者を狙った。狭い範囲に味方が集まっている。魔法による範囲攻撃をされれば大打撃を受けてしまう。自らの力を信じるがゆえに、敵の後衛を真っ先に狙う必要を感じていた。
 さらにフランシアはホーリーフィールドを展開し、安全地帯を確保する。黒分隊から預かった薬類をノアと分担して使い、負傷者の治療を行う。
 エグゼ、レオパルド、シクルは後衛まで敵の手が及ばないように討ちもらした敵を排除し続けた。
 レオパルドは自らにオーラエリベイションを使い、順次オーラパワーを前衛にかけてゆく。そしてアイテムだけでなくあらゆる手を使ってデビルを警戒した。
 デビルの警戒をしていたのはシクルもだった。特に空への警戒を怠らない。
 エグゼも常に警戒をしていた。前方だけでなく、後方や上空にも気を配る。黒分隊の戦力も期待出来るとはいえ油断は禁物だ。
 後方に一人だけ黒分隊隊員が待機していた。戦場全体の把握と、全滅した場合にパリまで報告をする役目である。隊員はテレパシーでラルフ分隊長に伝える。敵の数が半分を下回った事を。
「殲滅!」
 ラルフ分隊長が最前線に立ち、剣を手に叫ぶ。
 今までの作戦は敵に怪我をさせる事。特に足を狙っていた。敵が足を怪我すれば、後方の自陣に連れてゆかなくてはならない。その際に一人ないし二人の者が手を貸すはずだ。強い相手でなくても数が多ければ万が一があり得る。その為に頭数を減らす作戦を採ったのだ。
 殲滅の合図は作戦の変更を示していた。ある程度数が減ったとラルフ分隊長は判断し、さらなる攻勢を行った。
「大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて武器に集い焔の力を開放せよ! バーニングソード!」
 ノアが味方の武器に魔法を施す。
 敵を烏合の衆とまで表現すると軽んじすぎではあるが、黒分隊と冒険者の共闘は圧倒的であった。間もなく敵陣の方角から笛の音が鳴る。人とオーガ族の混成部隊は一時撤退したのだった。

●北東
 休戦中に正午となる。しばらくして遅れていた黒分隊隊員十名が到着した。
「先程の戦闘で倒したのは二十名と思われます」
 ラルフ分隊長は部下からの報告を聞いていた。
「ラルフ隊長、こちらに来る途中で味方、橙分隊を確認した事を報告致します」
 報告していた者と代わり、遅れて来た隊員達が顔を引きつらせながら一斉に敬礼をする。
「大体で構わない。味方は後どれくらいでここを通過する?」
「一時間か二時間の間だと思われます」
「それまでに進路確保か‥‥。そこに立つ十名、励め。それによっては遅れて来た事、不問にしよう」
「はっ!」
 十名の隊員達は後ろに下がる。
「敵に動きがありました。今回は混成部隊ではなく、人のみと思われます。ただし騎馬が多数」
「そうか。ごくろう。私は騎馬で参戦する。五名、隊員の中から選んでくれ」
 ラルフ分隊長は副分隊長に指示を出すと、冒険者達に近づいた。
「とても頼もしい仲間が出来て助かっている。味方は増えたが、敵はこれから本気になるはずだ。手伝ってもらえるだろうか?」
 冒険者達はそれぞれのやり方でラルフ分隊長に相槌を打った。

「進路確保!」
 一人の隊員が声をあげた。
 黒分隊と冒険者達は戦いながら徐々に移動し、パリ方面から北東までの進路を確保した。戦場の幅は約40メートル。退く事があってはならなかった。
 冒険者達は午前と同じ陣形をとって敵と対峙していた。ラルフ分隊長が率いる騎馬隊は別働し、長い距離を制圧する。
「あれは」
 冒険者の中では一番にエグゼが近づいてくる一団に気がついた。ブランシュ騎士団の軍旗を掲げている。
 フランシアがブラックホーリーを放ち、敵一騎を落馬させる。ラルフ分隊長を背後から狙おうとしていた輩だ。
「イヴェット分隊、来たか」
 ラルフ分隊長は目の端で知る。橙分隊の馬車を含む一群がかいま見えた。
 ラルフは敵騎馬の槍攻撃をかわす。そしてすれ違い様に振るった剣で、馬上の敵の首を宙に舞わせた。
「感謝します!」
 後方を通り過ぎる橙分隊から声が聞こえた。ラルフ分隊長は左手に握った剣を掲げて橙分隊の健闘を祈る。
「五十程度ではないらしい。長引くぞ」
 近くで戦っていたレイムスにラルフ分隊長がテレパシーで知った敵の状況を伝える。シイムスは陣形を組む冒険者仲間に知らせた。
「冷静さが欠けてきたようです。次の交代は僕でよろしいですか?」
 狂化を恐れたテッドは仲間の許可をとって後方に下がる。そして休憩をしていたノアと交代した。ソルフの実で補給した魔力は充分だ。
「あれは!」
 ラルフ分隊長は敵兵の向こうにいた一騎を望んだ。他の者とは違う出で立ちに、敵の大将格だと睨む。会戦前にベインから聞いた指導者の特徴にそっくりであった。
 同時に冒険者達の中にもその一騎に気がついた者がいた。雪山で司祭を亡き者にした奴だ。
 敵指揮官に一騎打ちを挑もうと考えていたレイムスだが今は敵二人と対峙していた。
「敵指揮官、任せます!」
 レイムスが叫ぶ。
「頼む。道を確保してくれ」
 ラルフ分隊長に頼まれてノアはスクロールを活用した。多くの敵が次々と姿勢を崩す。魔法攻撃を逃れた敵がノアを襲う。シクルは盾となって刃をくい止める。
 ラルフ分隊長は一騎で駆けた。ノアは倒れながらもラルフ分隊長に近づこうとする敵に、生えていた植物を足に絡ませた。
 ラルフ分隊長が振り下ろした剣を大将格の男が馬上で受け止める。
「ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーだ。直ちに兵を引き、そして投降しろ!」
 ラルフ分隊長の言葉に大将格の男は笑う。
「面白い男だ。よろしい。名乗ってやろう。我らはラヴェリテ教団。私は指導者エドガ・アーレンスだ」
 ラルフ分隊長とエドガの間で剣が交える度に火花が散る。
「我らが指導者に何をする!」
 敵兵達がエドガを護ろうと二人の間に割って入った。
「一時退却!」
 エドガの号令と同時に敵は森の方角へと下がる。黒分隊と冒険者達も深追いは止めて退いた。

●闇へ
 一時休戦になったとはいえ、互いに緊張を保ちながら睨み合いが続いていた。
 夕暮れで赤く染まった景色は、流血を連想させた。敵も負傷者の治療を行って戦線に復帰させているようだ。長い夜になると冒険者達は覚悟を決める。
 再び口火が切られ、刃がぶつかり合う。
 激しい戦闘は続くが、北東への進路は黒分隊と冒険者が完全に掌握していた。敵であるラヴェリテ教団を森の前後まで圧している。
 夜になるとデビルも戦線に混ざりだす。それから間もなく最後の黒分隊が到着する。騎馬の四人と大量の補給を馬車に載せてきた御者二人である。
 デビルの中には飛来するインプもいた。シクルはミミクリーを活用して撃ち落とす。魔法を操る者達も空中への攻撃を怠らなかった。フランシアは気になる個所があれば腰に下げた袋から色水を弾く。
 色水で浮かぶ何かにエグゼは剣を振るい、手応えを感じる。姿を現したグレムリンの爪を避けてスマッシュEXで止めを刺す。
 エグゼは戦いながら思う事があった。敵である人とデビルは統制がとれていない。デビルには通常の攻撃が効かず、それが様々な場面で味方側の隙に繋がるのだが、その危惧は今は杞憂である。ただこれが統制されていたのならば、今の黒分隊と冒険者の共闘では互角だ。そうなれば進路の確保が出来なくなるだけでなく、味方側が圧される可能性もあった。
 繰り返される戦闘。
 誰もが疲弊し、動きが鈍くなってきた。冷風吹き荒ぶ夜空には月が浮かんでいた。
「ついにお出になられましたか」
 エドガが天を仰いだ。
 黒翼を広げたヘルホースに跨ったラヴェリテ教団の主であるアビゴールの姿であった。
 髭をたくわえた騎士姿のアビゴールは、霧のように流れる雲を散らせて地上へと舞い降りる。長槍と盾を手にするアビゴールの外套は、ヘルホースに取りつけられた軍旗と共になびいていた。
 ラルフ分隊長が繰りだした一撃をアビゴールが盾で受け止める。
「我が名はアビゴール。まさか苦戦するとはな。だがラヴェリテの信徒達よ。お前達が悪いのではない。噂に違わぬブランシュ騎士団、そして冒険者達。この者達が強いのだ。それこそ潰しがいがあるというもの。また相まみえようぞ」
 ヘルホースに跨るアビゴールは浮かび上がると月夜に消えてゆく。
 その場にいた全ての者が気をそがれる。自然と互いに退き、わずかな休戦が訪れた。

●長い夜
「もうすぐ夜明けとなる。残った戦力からすれば、次で決着がつこう」
 ラルフ分隊長はラヴェリテ教団を睨みながら味方全員を励ます。
 黒分隊には数名の死者も出ていた。怪我をしている者は全員といってもよい。底をつきかけた回復の薬類が馬車のおかげで届いたのが幸いであった。
 テッドは仲間と焚き火を囲んで剣を手入れを行う。戦いの当初行っていた現場の確認は増えた黒分隊に任せられるようになっていた。
「ここを凌いだとしても、ブリザードドラゴンがいますね‥。厳しいですが何とかしなければ」
 休むレオパルドが仲間に話していると、ラルフ分隊長が側に座る。
「進路確保だけでなく、引きつけておく事で、少なくともブリザードドラゴン討伐や救出の邪魔にラヴェリテの者が向かうのを防げる。なんとしても、勝たねばならない」
 ラルフ分隊長と目があったレオバルドは強く頷いた。
「指導者の名はエドガか。10才程の少女は見かけなかったか? 見ても後を追ったりしないように注意した少女だ」
 ベインの質問にラルフは見かけなかったと答える。
「主に叛きし愚かなる者どもが自ら動くとは。彼奴等は心の闇を扇動し操るがその本分。それが此処までの実力行使に出るとは‥‥」
 フランシアは焚き火に向こうに揺らめく敵陣を見つめた。

●決着
 空が白み始めた頃、森の入り口では馬に乗るエドガの姿があった。すぐ側には小型の白馬に乗る少女コンスタンスもいた。
 既にラヴェリテ教団側の陣形は崩れ、仲間のはずのデビルの姿はどこかに消えていた。
「潮時はとうに過ぎている。主、アビゴール様が訪れた時に引くべきであった」
「そのようですね」
 エドガに少女コンスタンスが振り向いた。
「わかってはいたが、我らが実戦部隊は勇猛果敢だ。無謀と知ってなお、戦いの場を選んだ‥‥。彼彼女等の絶望は深かった。その思いに応えてやらねばならない。教団を立て直し、再び戦いを挑まねばなるまい」
 太陽が姿を現す直前、エドガとコンスタンスは森の奥に消えていった。

 戦場となった周辺にラヴェリテ教団側の動く姿はなくなっていた。
 黒分隊は制圧を完了させて仲間の治療を行う。動ける隊員を偵察に向かわせるが、周辺に敵の姿はなかった。
 完全に回復させてもらった冒険者達はしばらく黒分隊の手助けをしたが、四日目の昼にはパリへの帰路についた。
 その後、ブランシュ騎士団から全員に報償が送られる。深い感謝の言葉が認められたラルフ分隊長の手紙も添えられていた。