結婚パーティでの語らい 〜ちびブラ団〜
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■イベントシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 15 C
参加人数:15人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月15日〜09月15日
リプレイ公開日:2009年09月25日
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●オープニング
パリから北西の方角にあるトーマ・アロワイヨー領では、アロワイヨー領主とミラとの結婚式が執り行われる予定となっていた。
ウィリアム3世陛下を始めとした貴族が招かれており、こちらは招待状なしに立ち入る事は難しい。
だが結婚式のすぐ後に行われる予定の城内で開かれるパーティは別だ。
参加を希望する貴族だけでなく、あらかじめ選ばれてはいたものの、領民の代表者達も参加する。中には子供も含まれていた。
最低限の礼儀は必要とされたが、それ以外は堅苦しいしきたりはなしというのがアロワイヨー領主の意向であった。
とはいえ、国の重鎮も含まれるので安全に関しては万全を期さなくてはならない。そこでアロワイヨー領主はこれまでの実績を考えて冒険者ギルドに頼む事にした。
アロワイヨー家の執事をパリに向かわせてかけた募集は警備に関するものだ。鎧を身につけての城内の護りは衛兵に任せておけばよい。
冒険者達にアロワイヨー領主が望んだのは、パーティに紛れ込んでの警備。それぞれに給仕役や一般の参加者などに変装してもらう。緊急の事態への備えであった。
「これ、アロワイヨー様のだな。結婚式、ついにやるんだ」
十歳の少年冒険者ベリムートは冒険者ギルドの掲示板に貼られたパーティ警備募集の依頼書を真っ先に見つけだす。
「ほんとだ。えっと‥‥いろんな人が来るみたい。カリナも来るかな?」
少女冒険者コリルも依頼書に目を通す。カリナとは北海に面するミリアーナ領を治めるカスタニア一族の少女である。
「きっと参加すると思うよ。お兄さんも来るかも知れないね。ノミオ様だったよね」
少年冒険者アウストも依頼書に近づく。
少年クヌットも見に来たところで、参加することが全員一致で決められる。
「こ、今度こそはちゃんとした礼儀正しい言葉遣いで話さないと、い、いけませんね。きっと叔父のヒストロテも参加されることでしょう」
緊張した面もちでクヌットが口を開くと他の三人がずっこけた。あまりにも普段の話し方と違ったからである。
しかし、今回は特に注意しなくてはならないのは間違いない。もしかするとウィリアム3世陛下と直接話す機会があるかも知れないからだ。
無理だったとしても、他にもたくさんの貴族が出席している。騎士を目指す四人の子供達にとっては絶対に失敗出来ない千載一遇のチャンスともいえる。
もっとも依頼の趣旨として正体を隠さなくてはならないのが辛いところだ。
それでもちゃんと仕事をやり抜くつもりの四人の子供達であった。
●リプレイ本文
●華やかなるパーティ
領内で一番大きな教会で行われたアロワイヨー領主とミラ嬢との結婚式。二人は多くの人々に祝福され、幸せの最中にある。
多くの参加者達は結婚を祝うパーティへ出席する為に教会から城へと移動した。
パーティの出席者は結婚式に呼ばれた貴族だけではなかった。トーマ・アロワイヨー領内から選ばれた人々も含まれている。領地発展に貢献している商人や技能を持つ職人、将来を担う子供達など、出来る限り様々な立場の者に声がかけられていた。
発展する領地の未来をアロワイヨー領主は願う。
ブラン鉱床の採掘に頼りすぎず、治水や開墾などの施策によって食料自給における地力をつける事こそが大切だと考えていたのである。
やがて日が暮れて、豪華な食事と奏でられる音楽に合わせたダンスによる結婚の祝いは始まった。
城の周囲や廊下などの警戒は領内の兵士が務める。広間の警備には各々に変装を施した冒険者達が紛れて担当していた。
「綺麗な姉ちゃんがぎょーさんや〜〜〜。やっぱ貴族の令嬢は気合いがちゃうな〜〜」
シフールのイフェリア・アイランズ(ea2890)は天井にいくつかぶら下がっているシャンデリアの一つに座ってパーティの様子を見下ろす。
天井近くをふよふよと浮いて目立たぬように監視する。
美味しそうな料理を見つけると、いそいそとご相伴にあずかった。旨いお肉をかじりながら綺麗な令嬢達を眺めるのは格別である。ちなみにイフェリアは女性なのだが。
(「あの姉ちゃん、特に綺麗やなあ〜。しかしあの男、何か変な‥‥あ、腕掴んで無理矢理に‥‥えらいこっちゃで〜」)
イフェリアは焦る心を押さえながら仲間の元へと飛んで事態を知らせる。
「あの、少しよろしいですか?」
「なんだ、邪魔をするでないぞ。ん?」
令嬢の腕を掴んでいた貴族の中年男が振り返る。
声をかけたのはマミ・キスリング(ea7468)。綺麗な女性だと知った中年男は、しかめていた眉間の皺を緩やかにする。
自由になった令嬢にマミはこの場を離れるようにと視線を送った。
「お話ならば私がお聞きしますので」
マミは鼻持ちならない中年男を広間から遠ざけるよう廊下への扉を潜り抜けた。
「あら、素敵な殿方をお連れしているようですわ」
すると廊下にいたクレア・エルスハイマー(ea2884)がマミと中年男に話しかけてくる。
「エルフの方もなかなかのものだな。どうだ、そちも一緒にわしの部屋でとびきりの酒でも呑みながら楽しむというのは」
「お褒めに頂くのは光栄でございますが‥‥、あまりにオイタが過ぎますと、魔法でこげこげになるか、ビリビリしびれるか、突然地面に叩きつけられるか、選んで頂く事になりますわよ」
鼻の下を伸ばしていた中年男はクレアに自分の身分をひけらかすと、マミを連れて立ち去ろうとした。
「何だ? 邪魔だ! そこを退け!!」
「これは失礼。ところで、そちらの女性は俺の許嫁。掴んでいる手を離して頂けますか」
柱の影から現れた西中島導仁(ea2741)は中年男の行く手を遮った。
マミが婚約者というのは場をうまくまとめる為の嘘だが、この機会に妙齢の女性と知り合いになりたいと考えていたのは事実である。
しばらく西中島と中年男のにらみ合いは続く。根負けした中年男は捨て台詞を口にしながら後ずさる。やがて何かに背中がぶつかって立ち止まった。
中年男が振り向くと、そこには李雷龍(ea2756)の姿がある。
「あなたが広間に戻られると、困るご令嬢も多いはず。ここは自室に戻っておとなしくして頂けませんか?」
「何を! おまえ達、些細な事でわしを責めおって。このままではすまさんぞ。牢獄に入るのを覚悟しろよ!!」
李雷龍を始めとした取り囲む冒険者達に中年男が声を荒らげる。やがて近くの部屋から物音と悲鳴のようなものが聞こえてきた。
「どうしたのだ? 何かあったのか?」
悲鳴のすぐ後にドアが開いて李風龍(ea5808)が廊下に現れる。マミが部屋で何をしていたのかを問うと、さわやかな表情で李風龍は語った。
「悪さをした奴がいたので、この拳で懲らしめてやったのだが、つい力の加減を間違えてしまってな。死にかけたが、ちゃんとリカバーで治しておいたところだ。まだまだ修行が足りんな。‥‥。どうしたのだ、そこの御仁は」
李風龍の前でヘナヘナと中年男が座り込む。
音も含めてすべては李風龍の自演によるものだが、中年男は信じたようだ。
後は城の兵士に中年男を自室まで連れて行ってもらって一件落着となる。
冒険者達は広間へ戻ると、食事を楽しんだりダンスに参加しながら警備を続行するのであった。
●仲良きこと
「騎士を目指されると聞きました。夢への一歩、これからまだ先は長いですけど、陰ながら応援していますよ、僕に出来る事があれば知らせてくださいね」
壬護蒼樹(ea8341)は元ちびブラ団の子供達四人と一緒にテーブル近くにいた。
ベリムート、クヌット、アウスト、コリルは商人の子供に扮している。壬護蒼樹はノルマン王国に居着いたジャイアントといった風情だ。
「まだまだだけど、がんばるよ〜♪」
コリルが壬護蒼樹の顔を見上げながら拳を強く握りしめた。
つい先程、クヌットの叔父ヒストロテと共に四人の子供達は挨拶回りをしたのだという。クヌットはうまく礼儀作法に則ってやれたかどうか悩んでいたが、アウストによれば練習の成果がちゃんと出たらしい。
壬護蒼樹は結婚したアロワイヨー夫妻との挨拶を済ませてある。後は滅多に食べられないご馳走を腹一杯に食べながら警備をするのみだ。
程良い焼き加減の肉に熱々のソースがかけられたものを皿にとって頂く。なくなるとすぐにウエイターかウエイトレスがやって来て、新たな料理を並べてくれた。
底なしの胃袋を持つ壬護蒼樹だが、味や量に妥協することなく満腹まで食べられそうである。とはいえ、独り占めだけはしないように心がけるのであった。
「ウィリアム三世陛下、どこにいるんだろう?」
ベリムートは背伸びをして辺りを見回す。あまりに人が多くて目立つはずの国王陛下が見つからない。
「あ、こちらにいらっしゃいました」
聞き覚えのある声にベリムートが振り向いた。
声の主は耳元にアメジストのピアスが輝くアニエス・グラン・クリュ(eb2949)。アニエスはカリナ・カスタニア嬢とノミオ・カスタニアを元ちびブラ団の四人のところまで連れてきてくれたのである。
「お久しぶりです。みなさん元気でしたか?」
挨拶をするカリナは以前より元気な様子だった。兄のノミオも笑顔である。
アウストが訊ねると、ノミオとカリナが港町オーステンデの現在の様子を教えてくれる。今では町の建築物の修復も終わって大分落ち着いたという。
領主館地下に広がる遺跡については、手つかずのようである。
「いつか皆で一緒に探検したいですね☆」
アニエスにカリナがにこやかに頷く。しばし子供達は一緒に語り合う。もうすぐの収穫祭の時にも会おうと約束をするのであった。
●花多きパーティ
領内の子供に変装したレリアンナ・エトリゾーレ(ec4988)は広間の至る所にあるテーブルに近づいては料理を少しずつ頂いていた。そうする事によって何か異変はないかと探していたのである。
ふと広間中央に目を移すと、たくさんのカップルがダンスを踊っている。
(「あの方は、陛下様?」)
一度はお目にかかってみたいと考えていたウィリアム三世陛下の姿が目に留まる。レリアンナは知らなかったが、その時に踊っていたのは結婚したアロワイヨー夫妻の後見人というべきバヴェット夫人であった。
端から観るとかなり異色な取り合わせだが、バヴェット夫人にとってはダイエットの賜物である。きっと一生の思い出になったのに違いなかった。
「陛下様にお会いできましたのは、光栄な事――」
機会があったのでウィリアム三世に挨拶をしたレリアンナである。変装もしているので覚えてはもらえないかも知れないが、言葉をいくつか交わしただけで満足であった。
(「陛下の回りはとても華やかだな」)
ラルフェン・シュスト(ec3546)がウィリアム三世に視線を向けると、必ずといっていい程、女性に取り囲まれていた。
多くの場合にはラルフェンの妹の姿もある。
後で詳しく陛下の話を聞くつもりのラルフェンだが、今はウエイター姿で警備の仕事を頑張った。
元ちびブラ団四人の奮闘には目を見張るものが感じられた。自分達より小さな子供が迷子になっていたのを見つけて親探しをしていたのである。
ラルフェンも一緒に親を探してあげた。
「ありが‥‥と。おにいちゃ‥‥」
「よかったな。もうお父さんから離れないようにな」
泣きながらお礼をいう女の子に、幼き頃の妹を思い浮かべるラルフェンであった。
「こんな呑ませ方をするなんて、何を企んでいるのかわからないわね」
商人に扮したセレスト・グラン・クリュ(eb3537)は広間近くの個室を前もって借りていた。広間で酷い酔い方をしている娘を探しては部屋に移動させて清めの聖錫によるアンチドートを施してゆく。
クリミナ・ロッソ(ea1999)も同様にアンチドートによる酔いの解毒を行っていた。
「酔っているのを利用して不埒な事をする男って結構いるのよ。つもりがないなら気をつけてね」
一言だけセレストは娘達に注意する。実の娘のアニエスや子供達には、まだ知られたくはない現実だ。
セレストは訳があってピアスをチェリー型のものに取り替えて広間を巡回した。
するとまるで目印にしていかのようにトロシーネ・パルネと出会えた。チェリーピアスはセレストとトロシーネにとって思い出深い品である。
トロシーネが統治するパルネ領は、トーマ・アロワイヨー領と山を境にして隣接していた。
(「あの時の事ですが――」)
セレストは指輪に込められたテレパシーを発動させて念波でトロシーネと会話する。
バンパイアスレイブとなったトロシーネの妹のシリディアは、今もなお人目につかないように暮らしているらしい。
パルネ領の復興に関してはまだまだであった。建物が壊れたのなら建て直せばよいが、人心の荒廃となるとなかなか難しかった。それでもよい方向に向かっているという。
最後にセレストは以前ひどく傷つけてしまった事を謝るのだった。
(「メリーナ様はどうやら大丈夫ですね」)
クリミナはブランシュ騎士団黒分隊エフォール副長の妹、メリーナの事を気にかけていた。どうやら周囲とうまくやっている様子で安心する。
一度だけだが、クリミナはコアギュレイトで殴り合いの喧嘩を始めた二人を動けなくした。
元ちびブラ団の子供達がヒストロテに連れられて、たくさんの貴族と挨拶していた場面もクリミナは目撃する。この事が将来の騎士への道へ繋がるかも知れないとふと考える。
(「がんばって下さいね」)
心の中で元ちびブラ団の四人を応援するクリミナである。
「お二人の治世の元、より多くの人々の元に祝福と安寧が齎せん事を願って」
十野間空(eb2456)はアロワイヨー夫妻に挨拶をした。周囲には祝辞を送ろうとたくさんの人がいたので、短い時間で済ませる。
「またどこかでゆっくりと。いろいろと助けて頂いて感謝しております。ありがとうございました」
別れ際に十野間空はアロワイヨーと強く握手を交わす。
(「そういえば政治に関わる上での現地の言葉の重要性を、あの時知った‥‥」)
警備の間に昔をつい思いだしてしまった。
大事になる前に仲直りなどの解決を見いだして、トラブルを未然に防ぐように努めた十野間空であった。
●盗人
「どうですか? ギルドのお仕事の感じは」
「難しいけど、やりがいがある。あ、あの女の人、ちょっと酔いすぎな感じだよね」
ウエイターとして紛れ込んでいたリディエール・アンティロープ(eb5977)は、商人の子供に扮しているベリムートとしばらく一緒にいた。
仕事に入る前にベリムートと他の元ちびブラ団の三人とも懐かしい話をしたリディエールである。
騎士になりたいという四人の願いを噂で聞いていたリディエールは、全員の頭を撫でて元気づけた。子供扱いをしているかなとも思ったが、四人とも喜んでくれる。
元ちびブラ団の子供達と連携し、仲間達に情報を伝えながらリディエールは警備の仕事をこなしてゆく。
「ご結婚、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
赤ワインを運んだ時に、アロワイヨー夫妻へお祝いの挨拶を送ったリディエールであった。
「はい♪ お待たせしましたぁ」
フリルのついたウエイトレス用ドレス姿の諫早似鳥(ea7900)は、銀のトレイを持って広間を駆け回る。今年出来たての上質赤ワインを来賓に振る舞いながら、にこやかな瞳の奥に鋭い光を隠して。
名を訊ねられたのならニコルと答え、口調も普段とは違って柔らかいものに変更していた。
すべては敵を欺く為。敵とは、こういう場に必ず現れるであろう貴金属目当ての泥棒だ。貴族だから、裕福だから、といって安心は出来ない。生活と関係ないところで緊張を楽しむ輩もいる。
(「あの視線の動き‥‥」)
諫早似鳥は挙動の怪しい令嬢の付き人をする女性に目を付けた。指輪のテレパシーで視界の中にいたアウストに連絡をとると、さっとテーブルの下に隠れる。
令嬢の付き人が酔っぱらった貴族の中年女性に近寄った。面倒をみるフリをしてさっと指輪を奪うと外へ逃げようとする。
諫早似鳥はテーブルの足に引っかけたロープを引っ張って令嬢の付き人を転ばせた。
「この人、あの方の指輪を盗ったんです!!」
クヌットとベリムートが両足と両腕を押さえて令嬢の付き人を動けなくする。
それだけでは解決には繋がらない。共謀の存在もちゃんと把握し、コリルとアウストはさらにもう一人の令嬢の付き人を捕まえた。いつの間にか盗んだ宝石類が渡されていたのである。
真の犯人は恐らく両者の主人である令嬢であろう。細かい調べは専門の者に任せ、ともあれ元ちびブラ団四人のお手柄になる。
「よく不届き者を捕まえてくれた。君達の名前を聞かせてもらえるだろうか?」
ウィリアム三世に声をかけられた四人の子供達は緊張しつつも、はっきりとした口調で一人ずつ名乗った。
「どこかで聞いた名前だな。それはとにかく覚えておこう」
子供達四人と握手をしてからウィリアム三世は、女性達にお願いされてダンスへと戻ってゆく。
子供達も一緒に踊る事にした。
クヌットはカリナと。アウストはコリル。ベリムートは知り合ったばかりの貴族の女の子とだ。
踊っている中にはアロワイヨー夫妻の姿がある。近くにはアロワイヨーの親友であるシルヴァ夫妻もいた。
パートナーが決まった冒険者も奏でられる音楽に合わせて広間の中央に躍り出る。黒分隊のエフォール副長とさる貴族の女性の姿もあったらしい。
アロワイヨーとミラの結婚を祝うパーティは夜遅くまで続けられたのであった。