●リプレイ本文
●出迎え
カスタニア家の兄妹とシスター・アウラシアは、昼頃パリの船着き場に到着予定であった。手紙で護衛を頼まれた子供四人と冒険者は集合場所をあらかじめ船着き場と決めておいた。
アニエス・グラン・クリュ(eb2949)は出かける前に母セレストへ願う。ヴェルナー領のヘルズゲートを守る砦に林檎を差し入れして欲しいと。
セレストには林檎の生産で有名なパルネ領の領主トロシーネにつてがあった。
「お婆様の事は気にしないで。子供として過ごす最後になるでしょう、楽しみなさい」
承知したセレストは娘に優しく声をかける。林檎にはアニエスなりのメッセージが込められていたのである。
「朝日と煌く海面の光を浴びるミカエル様が超ステキなの☆」
家を訪ねていた画家ポーレット・モランには砦の居住区に飾る風景画をお願いした。『モンサンミシェルの尖塔に立つ大天使』を描いた一枚を送ってくれるようだ。知人の画家モーリスにも聞いてみるとポーレットが微笑む。
その頃、ルネ・クライン(ec4004)とラルフェン・シュスト(ec3546)は一緒に船着き場へと向かっていた。
考えていた通り、船着き場には四人の子供達の姿がある。早くからカリナ達の来訪を待っていたようだ。
「少し会わない間に顔つきが大人びた気がするわ」
ルネは久しぶりに会った子供達と挨拶を交わす。そしてラルフェンと共にしばらく離れていた事を謝る。
「ラルフェンさん、どうしたの?」
思い詰めた様子のラルフェンの顔をベリムートが心配そうに見上げた。
「今一度、騎士になる為の後押しをしたい。どのようになっているか皆が来るまでに話してもらえるだろうか?」
ベリムートがラルフェンの手を握り、コリル、クヌット、アウストも続く。そしてルネの手も同じように空いた手で四人の子供達が握りしめる。
これまでの経緯をアウストが話し始めるのだった。
(「今年も収穫際がやってきたデス! 賑やかなのデス!!」)
賑わう路地を軽やかな足取りで歩いていたのはラムセス・ミンス(ec4491)である。パリは今、喜びに満ちていた。
「みんな元気だったかな?」
「あ、タチアナさんだ〜」
船着き場に到着したタチアナ・ルイシコフ(ec6513)は子供達を探しだして駆け寄った。そして精霊のフランメとヴァルヌスに挨拶をさせる。
「ちゃー♪」
精霊の二人の挨拶を真似て子供達も「ちゃー♪」と返す。最後にみんなで大笑いである。
しばらくしてアニエスとラムセスも姿を現す。
「皆様、お元気でしたかしら」
教会の鐘の音と共に訪れたのがクリミナ・ロッソ(ea1999)だ。ちょうど下流から航行してきた帆船が船乗り達によって岸に寄せられるところであった。
「ちょうどよかったみたいね。初めての方ばかりかな?」
最後にやって来たアレーナ・オレアリス(eb3532)が優雅な動きで仲間達に挨拶をする。これで護衛の全員が揃った。
まもなく下船が始まってカリナ、ノミオ、アウラシアの三人がパリの地を踏んだ。
「ノミオくん、久しぶり」
「あの時はお世話になりました」
アレーナとノミオはよく知る仲である。
まずは宿屋まで三人の荷物を運んだ一同だった。
●収穫祭
「花水木さん、こんなに大きくなったデス」
「前は掌に乗るぐらいでしたよね」
ラムセスは精霊の花水木をあらためて紹介する。今はフィディエルだが、カリナが知る姿はもっと小さかったはずだ。今ではカリナより背が高い。
精霊が目立ちすぎるのも何なので、町中に出るときには宙に浮かばず歩いてもらう事となった。
ラルフェンのフェアリー・ウィナフレッドは犬のリコッタの背中につけられた箱の中に入ってもらう。場合によってはラルフェンや子供達の懐の中だ。
その他のペットは荷物運びを終えると冒険者達の住処へ戻される。ただ、アニエスの二頭は船着き場へ到着する前にベリムート家の馬小屋へ預けられていた。
クヌットが用意してきた服に着替えるとノミオとカリナはすっかり商人の兄妹に変身する。
「アウラシアさんはこちらを。せっかくですし、見繕ってきましたわ」
クリミナはクレリックのよしみでアウラシアに変装用の服を貸す。清楚な装いが心がけられていた。
着替えも終わったところでさっそく出かける。
コンコルド広場に向かう途中、ラルフェンは肉が焼ける匂いに気がつく。誘われて露店に立ち寄ると、野生肉を使ったジビエ料理が売られていた。
「野兎や鴨、鴫、猪、鹿、何でもあるよ。注文があれば、この場で焼いてみせよう。家で料理するのに持ち帰りもOKだ。煮込みの方がいい肉もあるからな」
店の主人の口上に乗せられてノミオがみんなに奢る。炉内の猪肉の外側がナイフで削られてゆく。それを串に刺して受け取った。
美味しいものに辿り着くにはラルフェンについてゆくのがいいと確信するラムセスである。
喋りながら歩いているとやがて広場に辿り着く。
「こんにちは〜♪」
「お、また会えたな。背が伸びたようだね」
ソーセージ売りのボードスに子供達四人は挨拶をする。
「母も手伝ったことがあるのですよ。今茹でている御主人が火傷をしてしまったときに」
「そんなことがあったんですね」
アニエスとカリナは近くのベンチに座って茹でられた串刺しソーセージを頂いた。
焼き栗の露店を出しているオミーリア夫人のところだ。今年は息子とオミリーアだけでなく、旦那も一緒であった。
「この人達だよ。前に栗拾いを手伝ってくれたのは」
「オミリーアを助けてくれてありがとうよ」
そういってオミリーアの夫は焼き栗をくれた。仲間の分も大まけだ。用意されていたテーブルに座り、器から焼き栗を手にとってはみんなで頂く。
「ほら」
「そうすると簡単なのね」
アウストから剥き方を教えてもらうルネの姿を見てラルフェンが微笑んだ。そして子供達が無邪気に遊べる機会も今後減るだろうとルネと話したのを思いだす。
仲間の誰もが感じているようだ。
「あれから好きな人でもできたりした?」
「仕事のせいにするわけじゃないのですが‥‥今はまだ」
アレーナの質問にノミオは照れた感じで答えた。
「領主になるのだから結婚もがんばらないとね」
「そういわれると面目ない」
以前に弱い部分を見られた分、アレーナには頭が上がらないノミオである。
「実はパリの収穫祭に来たのは初めて。有名人の絵札を売っているって聞いたのだけどあるのかしら」
「それならオレノさんのことだな。後で一緒に行こうぜ。広場のどこかにいるさ」
焼き栗の皮を剥きながらタチアナはクヌットと話す。
「美味しいものを食べると元気になるのデス♪」
「とってもおいしい♪」
カリナと並んでラムセスは焼き栗をいっぱい頬張る。
「さっき貼り紙をみたのデス。アサッテには林檎の大食い大会があるのデス。カリナさんもどうデスカ?」
「さっきアニエスさんにも誘われました。三人で参加してがんばりましょうね」
カリナの参加が決まってさらにやる気が出てきたラムセスだ。ちなみにベリムート、クヌット、アウストの三人も組んで参加予定である。
「ちゃんと話せば、きっと真剣に聞いてもらえますよ」
「そうしてみます。クリミナ先生」
クリミナはコリルからの養女に関する相談を受ける。本人の希望もあって今は内緒にしておいた。
焼き栗を食べた後、クヌットが絵師オレノの居場所を探してきてみんなを誘導する。
「実は頼みたい事がありまして――」
アニエスは聖夜祭用カードの注文をし、さらに舞踏会用のドレスのデザインもオレノに頼んだ。青い花の矢車菊のようなドレスが望みだと付け加えて。
さらに似顔絵がうまいとノミオに肖像画の注文を勧めるアニエスだ。それではとノミオは姿を写してもらう。完成したらオーテスンデに届けられる予定である。小さめの絵札はヴェルナー城のカリナにも送られるという。
「ブランシュ騎士団灰分隊長のフラン・ローブル様のってあるかしら?」
「ええ、ありますとも」
大きめの絵札をオレノが鞄の中から取りだす。気に入ったタチアナはすぐに購入する。
胸に抱いてから布に包んで背中の袋へと仕舞うタチアナであった。
●楽しい毎日
夜になれば宿で焼き菓子を賞品にケーゲルシュタット大会が行われる。元は修道院で悪魔払いとして行われたものが娯楽になったものだ。丸い木球をデビルに見立てた棒を倒して遊ぶ。
一位を多くとったのはカリナ。もしかすると弓や投擲などの才能があるのかも知れない。
(「兄とは仲がよいのだな。俺が弟妹の話をした時、俯いたカリナだったが‥‥」)
仲の良いノミオとカリナの姿を見ながら飲むハーブティはとても温かい。そしてこのハーブティはルネが淹れてくれたものであった。
二日目に広場を訪れた時、ラルフェンは『くいしんぼうさんのおみせ』を発見する。
冒険者ギルドの受付嬢シーナが収穫祭限定で開いている露店である。
「繁盛しているようだな」
「あ、ラルフェンさんなのです☆」
妹の次に給仕をしていたシーナにラルフェンは声をかける。まずはジビエ料理の屋台を教えてあげると、シーナは瞳をキラキラと輝かせた。
端から見れば勘違いされそうな状況だが事実は違う。コホンと咳をしてから実は恋人との指輪を作りたいのだがとシーナに相談する。
お金はかかるが彫金の職人ならパリで見つかるだろうとシーナからアドバイスされる。期間を長めにとれば一度の依頼で完成させられるようだ。
後でみんなで食べに来ると伝えてラルフェンは仲間の元に戻った。セーヌ川の畔にある吉多の住処の近くでジャパンの凧揚げが行われていたからだ。
「俺の方が高いぜ」
「いやよく見ろよ。俺の方だ」
クヌットとベリムートが高さを競っている隣で、コリルとアウストがノンビリと揚げている。
「ケンカはしちゃダメだよ〜。あっ!」
コリルが注意していると、アウストが二人より高く凧を揚げた。そしてやっきになるクヌットとベリムートである。
三日目には林檎の大食い大会が開催された。
アニエス、ラムセス、カリナの組とベリムート、クヌット、アウストの組が同じクラスに参加する。
「がんばってね〜」
タチアナは露店で買った林檎を美味しく頂きつつ、出場した六人を応援する。この季節ならではの新鮮な林檎は格別である。
「だ、大丈夫かしら。喉に詰まらせたりしないわよね?」
「皆がいるから大丈夫。さあ、応援しよう」
ルネとラルフェンは大きな声で出場した全員を応援する。
「わたしも出たかったなあー」
「さすがにそれはまずいでしょう。林檎を買っておきましたので」
アウラシアとクリミナは一緒に観戦するのだった。
(「ノミオくんを狙っている感じね」)
アレーナはノミオの後を追う男に気がついた。大事にならないうちにとノミオから引き離して笑顔で諭し、最後に持っていた林檎を剣の勢いで破裂させる。そそくさと男は逃げてゆく。
次第に大会も佳境に入る。
ラムセスが目をグルグルさせながら奮闘し、アニエスとカリナも小刀で小さくしては懸命に林檎を頂いた。
しかし元ちびブラ団の男の子三人組の勢いもすごい。最後はアウストの頑張りですべてが決まる。この日の為に体調を整えてきたアウストの頭脳の勝利だ。
男の子三人組が優勝。アニエス、ラムセス、カリナの組も三位と健闘する。
大食いは戦いの一ヶ月前から始まっているとアウストは格言を残すのであった。
他の日にはアニエスのグリフォン・サライ、ペガサス・ザカライアスに乗っての空中散歩をみんなで楽しもうとした。
「サライとザカ様です」
特に元ちびブラ団の四人に騎乗させてあげたいと考えていたアニエスである。グリフォンについてはオーラテレパスでよく言い聞かせてあるし、四人の騎乗の腕をあがっているの大丈夫であろう。
問題はペガサスなのだが、これまでにデビルを倒した子供達の実績をよく話して納得してもらう。
パリの空はとても自由であった。
城での参賀の帰り道、子供達四人があらたまってみんなに相談があると告げる。宿に戻ると、詳しい説明がアウストから話された。
まずはノミオの側近である老翁ケタニリアが昨日現れて、自分の元で修行をしてみないかとクヌットに話をもってきたという。
アロワイヨー領主のパーティでの活躍が功を奏したようだ。裏でノミオの後押しもあったらしい。
そしてもう一つはアロワイヨー領主からだ。四人のうち二人を配下の騎士の元で修行をさせたいとしたためられた手紙が二日前にアウストの自宅へ届けられていた。
アウストはクヌットの親戚の騎士ヒストロテ・モステンティの養子になる話がまとまりかけている。ここでアロワイヨー領主の申し出を受け入れれば騎士への道が拓けたといってもよい。
アロワイヨー領主の申し出にはもう一人分あるのだが、これには問題が残っていた。コリルだとすれば、養女にしてくれる騎士か貴族がまだいなかったのである。
コリルは意を決してラルフェンに望んだ。よければ養女にしてもらえないかと。
ラルフェンが無理ならば以前にアニエスが紹介してくれた老騎士達に頼んでみるつもりらしい。
話さねばならないと感じたラルフェンはルネとつき合っているのをみんなの前で明かす。あまりに重大なので答えは次の機会まで待って欲しいと優しくコリルに話しかける。
その後、しばらくルネと見つめ合ったラルフェンであった。
残るはベリムートなのだが、もしアニエスが紹介してくれた老騎士達が養子にしてくれるのなら喜んでお願いしたいと考えを語る。
ただ騎士になりたい気持ちは人一倍大きいベリムートだが、まだ迷いがあった。以前にルーアンの船着き場で聞いた船乗り達の噂話が頭の中にこびりついて離れなかったのである。これはまだ誰にも話せないベリムートの心の葛藤だ。
「熟考の上でお返事を。自らの特性と能力、それによってやりたい事をもう一度思い直してごらんなさい」
クリミナは子供達四人の前で何度も頷いてみせる。
(「夢というより、もう具体的な将来に悩む年頃なんだね」)
アレーナは子供達の口から将来の展望が聞けて満足であった。ちなみにカリナはかわいいお嫁さんになりたいようだ。
「四人とも、よく考えて自分に一番合ったところを選べると良いわね」
タチアナは子供達に話しかけながらノミオがくれた紅茶を淹れる。よい香りが宿の室内に広がった。
「僕も、ジプシー頑張るデス」
ラムセスは決意の言葉を自らに投げかけた。
五日目の夕方、一同はカリナ達三人を船着き場まで見送る。
帆船へと乗り込み、カリナとアウラシアはルーアンで下船してヴェルナー城へ向かう。ノミオはそのままオーステンデへの帰路だ。
赤く染まる夕日の中、子供達四人は遠ざかってゆく帆船をずっと見つめ続けるのだった。