暖ある住処は丸太小屋

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月29日〜02月03日

リプレイ公開日:2007年02月06日

●オープニング

 森のわずかに拓けた場所に丸太小屋はあった。
 上空には冷たい風が吹き荒んでいたが、木々に厚く守られた丸太小屋周辺には関係ない出来事だ。
 馬の蹄が土くれを後ろに蹴飛ばす。
 丸太小屋に向かって馬で近づく者があった。

 暖炉は丸太小屋にほのかな灯りと暖かさをもたらしていた。
「森の中だから、この程度で済んでいる。こりゃあ荒れているのお」
 初老の男は独り言を呟く。
 丸太小屋を時折風が叩きつけ、戸が鳴っていた。少々の天候の荒れでは何事もないのに、わずかとはいえ小屋を揺らすのは普通ではない。森から出れば酷い風なのだろう。
「おや?」
 初老の男は玄関の戸を叩く音に最初風のいたずらかと思った。だが、どうやら来訪者のようだ。
「どなたかな?」
「俺は石工をやってるシルヴァという者だ。まずはこれを読んでくれ」
 戸の隙間から一通の封書が初老の男に渡される。
「これは、アロワイヨー様の封蝋」
 初老の男は蜜蝋を垂らし、印を押して閉じられた封書を小刀で開いた。
 内容はこの手紙を運ぶシルヴァに手を貸してやって欲しいとの内容であった。初老の男は森の所有者である富豪アロワイヨーから管理を任されていた。
「まずはお入りを」
 初老の男は玄関の戸を開けてシルヴァを丸太小屋に入れる。暖炉前の椅子に座らせると、質問を始めた。
 過去にシルヴァなる男はアロワイヨーの屋敷の建築に関わったらしい。その時アロワイヨーに気に入られたようだ。
「アロワイヨーの許可はもらった。この森の一部を開放し、避難者に住んでもらう。一時的になるか長期になるかはわからないが、手を貸してくれ」
 初老の男は自分の雇い主を呼び捨てにするシルヴァに不快感を覚えながらも質問を続けた。
「貴方は先程自らを石工だと仰いましたが?」
「そうだ。俺の仕事は石工だ。木工は手習い程度。できれば石造りの家を建てたい所だが、時間がかかりすぎる。そこで丸太小屋を考えつき、こうやってやってきたんだ」
「なぜ一介の石工がこのような事を? 今一要領が掴めないのですが」
「それは‥‥、俺はセーヌの上流でパリを救う為、堤防を切った事がある。成功して家に帰り、子供が生まれていてものすごく喜んだ。しかし日が経って気にかかる事があった‥‥」
「それは?」
「堤防切りに成功はしたものの、いくつかの家を濁流で流してしまった。後で村にいった所、流された家の人は一度は戻ったものの、どこかにいってしまったらしい‥‥」
 シルヴァの顔の影が暖炉の灯火で揺れる。
「もちろんその人達がここに来るはずもない。しかし噂によればまたどこかで預言のせいかなにかでモンスターが暴れているそうだ。前と同じように家を無くした者達がいるかも知れない。この寒波で野宿などしたら、どんなに屈強な者でも体力がもたない。頼む。手を貸してくれ」
 シルヴァの話しを聞きながら、初老の男はもう一度、手紙に目を通した。
「アロワイヨー様はその食欲から誤解されやすいお方。なんであれ心を通じられた方がいましたか‥‥。わかりました。手をお貸ししましょう。しかし、貴方とわしだけではたかが知れてますぞ? アロワイヨー家にはこういう手伝いを出来る者は殆どいないはず」
「心配はしないでくれ。考えがある」
 シルヴァは丸太小屋を後にし、馬で駆けてパリへと戻った。

 冒険者ギルドを訪れたシルヴァはさっそく受付に向かった。報酬を用意するアロワイヨー家の執事も一緒である。
「丸太小屋造りを手伝ってもらえる者を募集したい」
 依頼の内容は簡潔であった。

●今回の参加者

 eb5338 シャーリーン・オゥコナー(37歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb7986 ミラン・アレテューズ(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec0938 レヨン・ジュイエ(29歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●変更
「集まってくれてありがとう」
 シルヴァは森にやってきた冒険者に深く感謝する。
「わしはこの森を管理するフォレという者だ。これから丸太小屋を建てる際の指南をしようと思うとる。よろしく頼む」
 初老の男フォレは持っていた斧に体重をかけて立つ。
「水術者のシャーリーン・オゥコナーですの」
 シャーリーン・オゥコナー(eb5338)は挨拶をして近くに建っていた丸太小屋を眺める。この森の管理を行う初老の男フォレの住処だ。これから建てる丸太小屋は似たものになるだろう。
「ミラン・アレテューズだ。まあ、よろしくな」
 ミラン・アレテューズ(eb7986)は外に置かれていた丸太の輪切りに座ってみた。その座り心地に、このような椅子もいいなと心の中で呟く。
「あとのお二人は買い物があるようなので、アロワイヨー家の執事とお越しになられます。わたしはこれで」
 御者はシャーリーンとミランを乗せてきた馬車で去ってゆく。
「ここで話すのもなんだ。中に入ってくれ」
 フォレは冒険者二人とシルヴァを丸太小屋の中に招き入れた。丸太小屋がどんな感じなのかを説明していると、外から馬のいななきが届く。
「せっかくだから馬車で送ってもらったのさね。ウェールズのライラだ。よろしくさね」
 ライラ・マグニフィセント(eb9243)は食材の入った篭を抱えて丸太小屋を訪れる。
「初めての依頼ですので及ばないところも多いかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
 クレリックのレヨン・ジュイエ(ec0938)は丸太小屋に踏み入れると祈りを捧げた。胸元にたくさんの布を抱えていて、とても大変そうである。
 ライラとレヨンが購入した物は、アロワイヨー家の執事が支払ってくれていた。
「わたくしめはこれにて」
 執事は丸太小屋には入らずに戸を閉めた。
 集まった全員が改めて挨拶をする。続いてフォレが丸太小屋建ての説明を始めた。
「隠しても何も始まらない。正直に話しましょう。計画していたものから考えると、頭数が足りないのじゃ‥‥」
 フォレの説明によれば、シルヴァと二人で予定していた丸太小屋は考え直し、より簡単な構造にするつもりらしい。一軒で二家族分十二人が暮らせるのを想定。少し窮屈だが、寒さをしのぐのを第一とするそうだ。
 木材はかなり以前にフォレが切り倒したのを使う。理由の一つは伐採にかかる時間を短縮する為である。とはいえフォレは元々一軒分の丸太を使ってもらうつもりでいた。
 そして乾燥させていない丸太を使うのを避けたかったのがもう一つの理由であった。木材は素人が想像出来ない程、収縮と膨張をする。地方によっては一年は放置して全体の膨張収縮がなじんでから丸太小屋に住む程だ。先の話だが、住んでもらう避難者には乾燥した木材がないので、同時に二軒を建ててもらうつもりらしい。短期で使えなくなるのを覚悟して一軒に住んでもらい、もう一軒は乾燥するのを待つ。人数が多ければそれの繰り返しだ。
「俺の方も変更する。暖炉とカマドの二つを作るつもりだったが、両方の機能がある暖炉にするつもりだ。その分の余った時間は丸太小屋建てにあてる」
 シルヴァは暖炉用に大量の煉瓦を用意してあった。
 冒険者達は使わない装備をフォレの丸太小屋に置いて外に出る。作業が開始された。

 まずは急いで丸太小屋を建てる場所を決める。
 フォレの丸太小屋の側には湧き水による小川が流れていた。それから考えてもあまり離れていない方がよい。水はけがよく、既に拓けていて、作業用に使う六、七メートルの間隔がある丈夫な木が最低二本ある場所が理想的だ。
「植生から見てもこの辺りが良さそうな感じですの」
 シャーリーンが見つけた場所はまさに条件がぴったりであった。特に四方に一本ずつ枝振りがよい木が生えている。四本あれば、丸太を持ち上げる作業がかなり楽になるはずだ。
 レヨンが修道院から持ってきた聖水で土地を清め、木材運びが始まった。
 全員で乾燥されていた丸太をフォレ所有の二両の荷車に跨がせて現場に運ぶ。距離にして百メートルもないが、やはり丸太は重い。シャーリーンのロバ、ライラの馬が荷車を牽引してくれるおかげで大分助かる。とても頼もしい味方だ。
 日は暮れ、夜が訪れる。全部の丸太を運び切れた訳ではないがこれ以上の作業は無理であった。初日の外での作業は終わりとなる。
 食事作りはライラとレヨンが行った。食材は豊富に買い揃えたので食事には事欠かない。使うつもりでいた保存食はこれからやって来るであろう避難者に置いてゆく事にした。さらにシャーリーンとミランは多めに持ってきた分も置いてゆくそうだ。
「どうぞですの」
 シャーリーンが食事作りの為に水をクリエイトする。水を汲みに行く重労働を軽減し、時間も節約出来る。シャーリーンはその後で働いてくれたロバに餌をやり、毛布を被せてあげた。ライラも馬に餌をあげにゆく。
 食事を待つ間に、手の空いている者は藁を束ねた。藁葺きの屋根にする予定だからだ。
 レヨンは余裕があれば手に入れた布で生活に必要な物を作るつもりである。ミランも余った木材で椅子などの家具を作るつもりだった。柵も作りたいが、見たところそこまでの木材はない様子である。
「あたたかくて元気の出るものを作りました」
「さあ、食べるさね」
 レヨンが食事をよそる。具のたくさん入ったスープである。ライラは暖炉の遠火で焼いた肉料理を運ぶ。
 明日を考えて全員が早めに就寝する。シャーリーンはとても温かい牧羊犬のブリストルを抱きしめて寝る。
 フォレの丸太小屋は暖炉のおかげで少しも寒くなかった。炎は消えても炭は燃え続けて朝まで丸太小屋を暖めた。

●作業
 二日目の朝になり、丸太運びを再開した。午前は運ぶ作業で完全に潰れ、午後二時頃になってやっと終わる。
 休憩をとって、これからは仕事を分担する事となった。
 シルヴァとフォレは組む為に斧で丸太の端を削る。
 ミランとライラはフォレがつけた丸太の印部分を大まかに削った。
 シャーリーンとレヨンは丸太小屋が建つ場所の枯れ草を刈る。
 すぐに日は暮れて外での作業は終了した。
 昨日と同じくライラとレヨンが用意してくれた食事が終わり、室内でやれる作業となる。
 藁を束ねる仕事は間に合いそうなので、レヨンは針仕事を始めた。まずはベットに使うもろもろの物だ。
「シルヴァさんですね。同じ修道院の先輩からシルヴァさんのことを伺っています。彼は所用で出かけていますので、院長に許可を願って私が参りました」
 レヨンが手を動かしながら藁を束ねるシルヴァに話しかけた。
「おお、もしかして堤防切りとその後、娘を祝福してくれたクレリックの方かな。彼には大分助けられたよ。そうか。彼の後輩なのか」
「私も、災害に遭った方々のお手伝いをしたいと以前から願っていました。院長には少し無理を言ってしまいましたが‥」
「そうなのか。でも来てくれて助かったよ」
 シルヴァとレヨンの会話は弾んだ。
「いやしかし、切っているのを見ていると簡単そうなのに、なんて難しいんだ‥‥」
 ミランはフォレに訊ねながら余っている材木をもらって椅子やテーブルを作っていた。
 藁の束ねが終わるのに合わせて全員が床につくのであった。

●三日目
「せーのおーで!」
 左右に半分ずつ別れて全員で縄を引っ張る。
 丸太の端に繋がれた縄は高い木の幹に引っかけられ、最後はみんなの手に握られていた。
 息を合わせて縄を引き、丸太を宙に浮かせる。目標の高さまでくるとシルヴァとフォレがうまく組み合わさるように丸太をゆっくりと誘導する。そして合図を出して丸太は下ろされた。
 室内になる中央には既に煉瓦が運ばれていた。朝一の作業で床部分の丸太を並べた後、みんなで運び込んだのである。壁が出来上がると運びにくいので先におこなったのだ。
 組み上げはかなり体力を消費する。一回ごとに休んでは四方を順にして作業を続けた。大変ではあったが、目に見えて丸太小屋が建ってゆく様は冒険者達の励みとなった。
 日が暮れ始める頃には壁となる部分はすべて組み上がっていた。
 食事が終わると、シルヴァは現場に戻って暖炉の製作にかかる。辺りは暗かったが、ランタンの灯りで作業を続行した。
 冒険者達はフォレの丸太小屋で各々の作業を続ける。
 この日はシルヴァが戻るのを待って丸太小屋の灯りを落とすのだった。

●屋根
 四日目の朝になり、現場を訪れた冒険者達は丸太の壁から中を覗き込んで驚く。暖炉の大体は出来上がっていた。後は上に伸びる煙突部分のみである。
 シルヴァは暖炉製作を続ける。屋根作りを直接作業するのはフォレとライラだ。他の者達は細めの丸太を縄で結んで木の枝を利用して引っ張り上げる。
「冬場に打ちつける時は適度に隙間をあけないと、夏場にめくれ上がってしまうからな」
 フォレの指示にライラは従った。屋根となる丸太の間隔はわずかながらわざとあけられる。雨と雪は藁を葺く事で防げるらしい。
 作業は順調に進み、全てが組み上がる。シルヴァを除く者達は粘土を手にして壁の丸太の間に詰めてゆく。時間が経てば自然に合わさってゆくのだが、今は冬で待てはしなかった。
「今日はこれぐらいにしよう」
 フォレの言葉にみんなが帰ろうとする。
「おーい。出してくれ!」
 丸太小屋から声がする。シルヴァは出入り口のない中で作業を続けていたのだ。
「すまんすまん」
 フォレは笑うと出入り口になる場所を鋸で切り抜いてゆく。
「わざとやりやがったな」
 入り口が空けられ、ランタンを手に微笑みながら出てきたシルヴァに全員が笑った。
 この日の夜に裁縫や家具作りは終わる。食事が済み、最後となる明日に備えて全員が早めの時間に眠るのだった。

●完成
 屋根に藁が葺かれる。
 窓や煙突の部分が鋸で切り取られた。夜の作業で作られてあった戸などが取りつけられて完成に近づく。
 次々とミランの作った家具が運ばれてゆく。家具作りはヤスリがけなどをシャーリーンが手伝ってくれた。
 レヨンが縫った布団一式が小屋と一体化した丸太製のベットに置かれる。全てを縫うには間に合わず、枕はライラの手によるものだ。
 運び終わってからの空いた時間でレヨンは布団の隅に小さく刺繍を施す。『この家に暮らす者に豊かな祝福のあらんことを』とレヨンの願いが綴られた。
 最後に煙突部分が組み上がり、丸太小屋は完成した。
 レヨンは完成を祝い、聖水を撒いて祝福する。
 暮れなずむ頃、アロワイヨー家の馬車二両が、新しく出来た丸太小屋前に停まった。
「すまん! いろいろと手間取った」
 執事と共に現れた丸い体型の人物は、森の持ち主であるアロワイヨーだ。
 シルヴァと握手を交わすとアロワイヨーは連れてきた避難者を紹介する。
 本当は誰も彼も連れて来たかったのだが、それでは最初が立ち行かぬと思い、若い者が多い家族を選んできたらしい。二家族で十人である。
「ここ、新しいお家なの!」
 子供達がはしゃいで丸太小屋を触る。
「ああ、そうだよ。新しいお家だ」
 夫婦が子供達と一緒に丸太小屋を見上げた。
「ありがとう‥‥本当に」
 シルヴァは冒険者一人一人に握手を求めた。
 シャーリーンは保存食の他に、寝袋八個と防寒服八着を置いてゆく。
 ミランも保存食の他に、ランタン、油、火打石を避難者が当座を凌げるように置いていった。
 シルヴァはもう少し森に残り、煉瓦造り用の窯を作るという。
 冒険者達はアロワイヨー家の馬車に乗って森を後にした。
 避難者達はこれからフォレを師匠にして丸太小屋を建ててゆくはずだ。もっと多くの人が集まり、集落を作ってゆく。そんな事を考えながら冒険者達は馬車に揺られていた。