ルーアンの宴 〜仲間達との語らい〜

■イベントシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 10 C

参加人数:17人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月26日〜12月26日

リプレイ公開日:2010年01月04日

●オープニング

 ノルマン王国ヴェルナー領ルーアン。パリ北西の方角にあり、セーヌ川沿いに佇む古き街である。
 ヴェルナー領はブランシュ騎士団ラルフ・ヴェルナー黒分隊長が領主として治める地。ヴェルナー城はルーアンに存在する。
 そのヴェルナー城では今年、聖夜祭を祝う晩餐会が催される事となっていた。
 降誕祭である十二月二十四日はルーアン大聖堂でのミサが行われるので、晩餐会が開かれるのは聖誕祭二十五日の宵の口。
 ラルフ卿はこれまでに様々な面で協力してくれた冒険者を招く。告知が伝わりやすいようにと依頼として冒険者ギルドで募集された。
 移動はセーヌ川を航行する帆船。送り迎えも万端だ。もし晩餐会に着てゆく服を持っていない場合には、城で貸し出しもしてくれるようである。
 セーヌ河口から船で半日程度の距離のおかげでルーアンには新鮮な海の食材も溢れている。晩餐会ではそれらを活かした料理がおそらく並ぶであろう。
 また十二月はジビエの締めといってもよい。越冬に備えて野生の動物等は秋に栄養を蓄える。つまり脂がのっているのは今頃まで。一月六日までの聖夜祭を過ぎたらジビエではないという者もいるぐらいだ。
 晩餐会は思う存分美味しいジビエ料理を食べる機会でもある。あるいは男女の出逢いの場かも知れないが、それは人それぞれ。
 参加の冒険者ギルドの受付嬢シーナは晩餐会に備えてダイエットを兼ねた体力作りをしているというもっぱらの噂だ。
 すでにヴェルナー城では晩餐会が開かれる日を待つのみとなっていた。

●今回の参加者

リーディア・カンツォーネ(ea1225)/ クリミナ・ロッソ(ea1999)/ フランシア・ド・フルール(ea3047)/ マリオーネ・カォ(ea4335)/ リュリス・アルフェイン(ea5640)/ マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)/ ナオミ・ファラーノ(ea7372)/ 諫早 似鳥(ea7900)/ デュランダル・アウローラ(ea8820)/ リアナ・レジーネス(eb1421)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ フレイ・フォーゲル(eb3227)/ 宿奈 芳純(eb5475)/ エフェリア・シドリ(ec1862)/ ラルフェン・シュスト(ec3546)/ 琉 瑞香(ec3981)/ ヴァジェト・バヌー(ec6589

●リプレイ本文

●挨拶
 ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーが領主として治める土地『ヴェルナー領』。そのヴェルナー領の中心地となるのがセーヌ川沿いに佇む古き街『ルーアン』である。
 聖夜祭の季節。生誕祭の二十五日。
 宵の口からルーアン中央にそびえるヴェルナー城の大広間では晩餐会が開かれていた。
「あと少しだからそんなに焦らなくても大丈夫だ、お嬢」
「焦ってなんて‥‥でも遅くなったらラルフ様が他の方と」
 控え室の椅子に座るアニエス・グラン・クリュ(eb2949)の髪をセットしていたのは諫早似鳥(ea7900)である。
 夕方、アニエスはラルフ卿の到着を城門の近くで待っていたので、用意が少しだけ遅れたのである。
「国と正義に心血を注ぐタイプの殿方は妻として適切な方を選ぶもの。社交場に出る事も増えましょうし、自在にご自分を演出できるようになって下さいませ。それに先程の肌のお手入れでツルツルお肌。これでお嬢様の恋の行方も、わたくしたちチームA(アニエス)の援護できっと!」
 マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)は鏡に映るアニエスの姿をうっとりとした瞳で見つめる。
「いや、そのさ、あたいを含めてチームAと呼ぶのは勘弁して欲しいんだが‥‥。全然聞いていないし」
 諫早似鳥は軽い溜息をついた。すぐにヘアセットが終わる。最後の仕上げにマグダレンが薄目の化粧を施してドレスアップは完成である。
 アニエスがまとっていたのは矢車菊が描かれた青紫色のドレス。ジャパンの生地に刺繍と飾りがつけられた特注品だ。
 諫早似鳥とマグダレンはアニエスの姿を眺めて何度も頷く。
「マグダレン、大広間でやっていたラルフ卿の話も終わったよー」
 廊下から飛んでやって来たのはマリオーネ・カォ(ea4335)。マグダレンに誘われて晩餐会に出席したシフールだ。
 アニエス達が大広間に現れた時にはすでに賑やかな状況となっていた。
 事前に給仕として参加したいと許可を得ていたメイドドレス姿の諫早似鳥は、リュリス・アルフェイン(ea5640)を見つけてそっと近寄る。
「よく来たね」
「チキン料理があると誘われたら、どこにでも顔を出すのが俺だからな」
 リュリスは諫早似鳥にドレスタットで世話になった事を忘れていなかった。その諫早似鳥に誘われたのである。断るはずもない。
 その頃、晩餐会の主催であるラルフ卿はたくさんの出席者達に囲まれていた。
「ジプシーのヴァジェト・バヌーと申します。シルヴァン様の村でアンデッドスレイヤーのレミエラに関するお手伝いをした事がある身でしたので、この度、宴に参加させて頂きました」
 ヴァジェト・バヌー(ec6589)は真っ先にラルフ卿へ近づいて挨拶をする。
「アガリアレプト討伐に際し、多大なる貢献があったのがシルヴァンが束ねるタマハガネ村。このヴェルナー・エペもシルヴァンの手によるもの。アンデッドスレイヤーはデビルの襲撃に混じるズゥンビとの戦いにおいて大いに役立った。早くに排除しなければ、デビルの狡猾さに惑わされてしまっただろう」
 ラルフ卿と握手を交わすとヴァジェトが後ろへ下がる。
 次に一歩前に出たのはヴァジェトと同じくタマハガネ村で鍛冶に従事していたナオミ・ファラーノ(ea7372)だ。
「村の職人や仲間達と一緒にクレセントグレイヴやシルヴァン・エペの製作担当をしたナオミといいますわ。武器の使い心地。例えば柄の握りの具合とかどうだったかしら?」
「クレセントグレイヴの完成に、特に寄与した人物としてシルヴァンからナオミさんの名前はよく聞いている。そうだな、これは特殊な気候のせいだと思うのだが――」
 ナオミは武器の使い心地がどうだったかを教えてもらう。
 極寒の高山だと厚手の手袋をはめなければならず、とても武器が持ちにくかったという。その為に革を取り寄せて握りの部分に巻いたとのエピソードがラルフ卿の口から語られた。ただこれは非常に特殊な事例である。ノルマン王国にも山はいくつもそびえているものの、地獄階層のペイン山脈に匹敵する程の高山は存在していないからだ。
 ナオミは最後にシルヴァンが晩餐会に来ているかをラルフ卿に訊ねる。参加名簿には載っているので大広間のどこかにいるはずだとラルフ卿は答えてくれた。
「私もタマハガネ村で武器作りに従事した者、フレイ・フォーゲルと申しますぞ。アンデッドスレイヤー作刀の基礎となる護符の再発見者はこの私。故にフレイの護符と名付けさせて頂きましたぞ」
「貴殿の名もシルヴァンから聞き及んでいる。シルヴァン所有のハニエルの護符のような品が発見されたと連絡があった時、非常に驚いた」
 フレイ・フォーゲル(eb3227)は地獄階層での戦いで得た経験の中で、武器に関して改良して欲しい点がなかったかをラルフ卿に質問する。
 武器そのものに対する不満はなかった。ナオミに話したように極寒の地においての例は回避不可能なものだからだ。極寒地専用のものを打てば、それはそれで手かせ足かせになったであろう。
 デビルに特化したナイフなどの小型の武器があったなら、木々が密集する森の中での戦いが少しだけ有利になったかも知れないとラルフ卿はフレイに告げるのだった。
「お初にお目にかかります。僧兵の琉瑞香と申します。ルーアンのトレランツ運送社に絡む一連の事件に関わっていた者です」
「セーヌ川を隔てたノルマンの土地に巣くったデビルとの戦いにおいて、カルメン社長を始めとしたトレランツ運送社には骨を折ってもらった。そうか、手助けをしてくれた冒険者の中に瑞香さんも」
 琉瑞香(ec3981)は話しの最中でクローニングによる腕の再生についてをラルフ卿に勧める。超越の再生治療が行えたからだ。
「心配して頂いて恐縮なのだが、無くした右腕には思うところがあってね。このままでいたいのが私の意志なのだ」
 ラルフ卿は丁寧に琉瑞香の申し出を断る。それを耳にしたデュランダル・アウローラ(ea8820)がラルフ卿の前に進んだ。
「ラルフ殿、失礼を承知していわせてもらおう。次の戦いに備え万全を期すのが騎士として、そして上に立つものとしての務めだと思うのだが」
「それは正しいのだが、あの地獄の地で散っていた者達の事を忘れない為にも、この我が侭は通させてもらう。‥‥心配をかけてすまないな」
 困った顔をしながらラルフ卿はデュランダルの右肩に左手を乗せる。
「もし気が変わった時には、すぐに再生した方がいい。それはそれとして、ようやく一息つけそうだな。これまで共に戦えたことを誇りに思う。アガリアレプトを討つことができたのは、黒分隊やヴェルナー領の兵士が戦い続けてくれたお陰だ」
 ラルフ卿に合わせてデュランダルは左手でがっしりと握手を交わす。
 次にラルフ卿の前に現れたのはジャパン独特の出で立ちをしたジャイアント、宿奈芳純(eb5475)である。
「陰陽師の宿奈芳純と申します。この度はアガリアレプト一味の討伐成功、本当におめでとうございます。そして黒分隊の皆様も本当にお疲れさまでした」
「芳純さんも含めて、冒険者のみなさんには様々な面で協力して頂いた」
 宿奈芳純は黒分隊の隊員達にも労いの言葉を贈りたいと願う。エフォール副長を中心にして黒分隊の隊員達が集まるテーブルをラルフ卿は宿奈芳純に教えるのだった。
 次にラルフ卿が移動したテーブルには一人のクレリックの姿があった。
「リーディア・カンツォーネと申します。地獄階層のデビル討伐の件、とても気になっていたのです」
「これはリーディア様。これからはどうかラルフとお呼び下さい」
「そんなに畏まられると困ります。私をご存じで?」
「知らぬ者は、おそらくこの大広間にいないはず。ノルマン王国に暮らす者であれば、少なくともお名前を耳にしている事でしょう。このような目出度い話は馬より早く大地を駆け抜けるもの」
 リーディア・カンツォーネ(ea1225)はウィリアム三世陛下の后となる人物であった。
 ヘルズゲートが閉じる前にアガリアレプトの討伐を果たした事をラルフ卿はリーディアに報告する。
 次にラルフ卿と話したのは黒教義の聖職者。
「ラルフ殿、ビショップ叙階に対しての口添え、感謝致します」
 ビショップとして挨拶するフランシア・ド・フルール(ea3047)である。
「私がしたのは些細な事。すべてはフランシアさんの成果だ」
 フランシアは十字架を握りしめてアガリアレプト討伐を共に成し遂げたラルフ卿を祝福する。
「彼奴を居城へ追い返す為に地獄で戦い生還した黒分隊の騎士方‥‥そして勇敢に戦って散った騎士方にも、決戦前のお約束通り神の新王国への階を確かに昇った事へ正式に『大いなる父』からの祝福を、いずれ日を改めて差し上げるとお約束します」
 そうラルフ卿に告げて静かに下がるフランシアである。
「ラルフ黒分隊長、リアナです。アガリアレプト一味を倒せて安堵しております。少しでも私の魔法がお役に立てたのでしたら幸いです」
 フランシアの次にリアナ・レジーネス(eb1421)がラルフ卿に話しかけた。
「最初の登山には私も同行したが、あのクリエイトエアーによる空気補給がなければどんな事になっていたか。あの山脈での戦いはもっと苦しいものになっていたはず。何も出来ずに全滅の憂き目に会ったかも知れぬ程に」
 ラルフ卿は一つ一つを思いだしながら感謝の言葉をリアナに贈る。
 リアナも宿奈芳純と同じように黒分隊の隊員達との交流を望んでいたので、ラルフ卿から集まっているテーブルを教えてもらった。
「ラルフ卿のお噂はかねがね」
 跪いて挨拶をしたのはマリオーネ。
「このような晩餐会への出席を賜り――」
 マリオーネと一緒に飛んできたマグダレンもラルフ卿に挨拶をする。二人は早々に下がって食事の時間にした。
「凄いよね、俺には絶対出来ない事やっちゃった人だもん。かーっこいい☆」
「本当に。さすがお嬢様が好いたお方」
 マグダレンとマリオーネは食事を頂いた後で大道芸の準備に入る。
 落ち着いた雰囲気で晩餐会を楽しむ参加者も多くいた。
「‥‥いい夜ですわね」
 挨拶を一通り終えたクリミナ・ロッソ(ea1999)は壁際の椅子のあるテーブルについていた。元ちびブラ団の四人と一緒に礼儀作法の本をラルフ卿へ返し終わってほっと胸を撫で下ろす。
 単に本を返したという事実だけがクリミナの安堵に繋がった訳ではなかった。礼儀作法の本を返すという行為が子供達の成長を意味していたからだ。
 クリミナはやんちゃだけが取り柄の頃からクリミナはベリムート、クヌット、コリル、アウストを知っている。冒険者として修行をし、そして騎士の道を歩もうとしている四人の子供達。よい出来の今年のワインを頂きながら、クリミナは四人の子供達の輝かしい未来を願うのだった。
 クリミナから少し離れた立食用のテーブルにいたのがエフェリア・シドリ(ec1862)とシーナ・クロウルである。
 たくさんの皿に盛られた料理を前にシーナが瞳を輝かせていた。
「シーナさん、ダイエットしていた、なのでしょうか?」
「してましたよ〜。この日の為にパリをグルグルと走っていたのです☆」
「走っていた、のですね。でもそうは見えなかったのです。あとたくさん食べていたのです」
「そ、それは‥‥。あ、こ、この雁肉の炙り、美味しいのですよ〜。さすがジビエ料理。お皿にとってあげるのですっ〜」
 エフェリアの突っ込みを誤魔化しながらシーナが食を進める。
「二人とも楽しんでいるようだな」
 そこにやって来たのがラルフェン・シュスト(ec3546)。
「ラルフェンさんも食べるのですよ〜♪ この鴨にかかってるソースが絶妙なのです☆」
 シーナはラルフェン用として新たな小皿に料理を盛った。
「シーナさん。アロワイヨーさんやミラさん、バヴェットさん、あそこにいたのです。ちょっと話してくるのです」
「わかったのです〜。後でまた合流しましょ♪」
 エフェリアはシーナとラルフェンに軽い会釈をすると、離れたテーブルへトコトコ歩いていった。
「ラルフェンさん、婚約指輪を見つめていますね。恋人さんを想いだしていたのでしょ〜?」
「そ、そんなことは‥‥」
 顔をシーナに見られないように背中を向けたラルフェンはコホンと咳払いをする。
「シーナはどうなのだ? 誰か好きな人でも」
 自分の肩越しにラルフェンはシーナを見下ろす。
「う〜ん‥‥」
 シーナはしばらく考え込んだ。
「エフェリアさんとゾフィー先輩から聞いたんですけど、あちらにいるアロワイヨー領主とは食いしん坊の趣味がとっても合いそうなのですよ。すでに結婚されていますけど。他にああいう方がいればいいなと思った事もあるんですけど‥‥何か違うような気もするのです〜」
 結局のところ、運命の人に出逢わなければどうにもわからないとシーナは呟く。ただ出来るならば調理の腕が立つ人がいいと答えたシーナだ。
「結局は自分以外のものにはなれんし、ありのままを尊重してくれてシーナの幸福感を共有できる相手が一番かな」
「そういう人と出会えるのを楽しみにしているのですよ☆」
 シーナはラルフェンにうんうんと頷くのだった。

●お楽しみの時間
 晩餐会が始まってからしばらくして演奏が大広間に響いた。これまでも流れていたのだが、より大きな音で。ダンスの時間になったのである。
(「ラルフ様‥‥」)
 多くの女性に囲まれた中、ラルフ卿が最初のパートナーに選んだのがアニエス。青紫色のドレスが大広間で花を咲かせた。
「困った時はいつでも頼ってくれ」
「ありがとうなのですよ〜♪」
 ラルフェンはシーナをダンスに誘った。おそらく婚約者には承諾済みなのであろう。
「あとでアロワイヨーさんとミラさんの踊っていたところ、描くのです」
 エフェリアはバヴェット夫人と共にアロワイヨー夫妻が踊る姿を眺める。残念ながら刺身はなかったが、美味しい蒸し魚を頂きながら。
「それでゆっくりとお願いしますね」
「わかったぜ、クリミナ先生」
 クリミナはクヌットに誘われて一緒に踊った。以前よりクヌットの背が伸びているような気がしてクリミナは何だか嬉しくなる。
「へェ‥‥硬派の噂高い侯爵も、あんな柔らかい表情するんだ」
 諫早似鳥(ea7900)は調理場にある小窓から大広間を見下ろすように覗き込んだ。ここから料理の状態を確かめるのである。
「きっと寂しいのだろうよ、ラルフ様も。まだデビルが残っているとはいえ、のっぴきならぬ状況はノルマン王国から過ぎ去った。しかし自分には何も残っていない。逆に多くの部下を戦いの最中でなくしている‥‥」
 諫早似鳥の言葉を聞いて老翁の料理人が呟いた。
 老翁の料理人によればラルフ卿は早くに両親を亡くし、さらにこの領地も一度は神聖ローマ帝国に奪われている。
 ノルマン王国復興と同時に領主の座へと返り咲き、ブランシュ騎士団の黒分隊長としても名を馳せている。しかしがむしゃらに生きてきた分だけ、なくしたものも多くあるのだろうと老翁の料理人は語った。
「ラルフ様もわしらと同じ人の子だからな‥‥」
 老翁の料理人の話しを聞き終わった後で諫早似鳥はもう一度、アニエスと踊るラルフ卿を眺めた。
「わ〜‥‥どの料理も、暫く眺めていたくなるくらい綺麗ですね」
「そうだよね〜」
 リーディアはコリル、アウストと一緒に豪華な食事を頂いていた。
「食べるのが勿体ないです‥‥。でも、はぅ、このお魚‥美味しい‥♪」
「それはドーバーソールのムニエルで美味しいと評判なんです」
 アウストがリーディアにいろいろと料理の名前や食べ方などを教えてくれる。
「そんな事があったんですか?」
「ええ、彼奴を居城に追い込む為に――」
 ベリムートはフランシアと一緒に料理を頂きながら地獄階層での出来事を聞いていた。
(「アーレアンも無事に戻ったみたいだな」)
 リュリスは囓った鶏のもも肉ローストを呑み込みながら大広間の一角にアーレアンを見つける。
(「オレの心は未だに満たされぬ復讐心で大半を占めているけど、ここにいる連中を見てると少しだけ、優しい気持ちになれる。人の幸せを祈るなんて、ガキの頃に全てを失ってからしたことがなかった。馬鹿な奴らだけど、その馬鹿正直なお人好しも悪くはねえわな‥‥」)
 ふと口元を緩ませるリュリスである。
「今日ぐらいはいいか‥‥」
 デュランダル・アウローラ(ea8820)はワインをぐっと飲み干して考えるのをやめる。今だけは楽しもうと。
「こういうのは久しぶりのような」
 リアナは黒分隊の隊員と一緒にダンスを踊った。他の者への超越リトルフライ付与については危険なので取りやめる。天井に取り付けられているシャンデリアの蝋燭に何かがあっては大変だからだ。
「お二人の仲がうまくいっているようで安心しました」
 琉瑞香はカルメン社長、ゲドゥル秘書と共に楽しんでいた。
「そ、そういわれると‥‥何だか照れますね」
「もっとビシッとしていて欲しいんだがねぇ」
 ゲドゥル秘書の様子にカルメン社長が溜息をつく。進展があって二人は一緒に暮らし始めたようだ。
 黒分隊との交流の後でカリナやノミオ、エリスと一緒にいたのは宿奈芳純だ。
「スフィンクスのミラーラさんとお話しする際には『自分には夢がない』と申しましたが、一つ、私にもできる事を別の国で見つけました。未来の勇者を目指す子供達への、私なりの贈り物を届けることです」
「それはよかった、よかった〜〜。それを祝して今日は呑もうか。ホラ」
 宿奈芳純のカップが空になると顔の赤いエリスが酒を注いだ。
「それにしても元気になられたようで」
「ここの食事は強すぎるので控えているが、もう大丈夫だ」
 ナオミはビールを頂きながらシルヴァンと談義を続けていた。
「なるほどですぞ。工房の話、魅力的ですぞ」
 フレイはミリアーナの領主ハニトス・カスタニアから協力を得ようと奮闘中である。
 ダンスが終わると大道芸披露の時間になった。
「この度はデビルとの戦いのご戦勝、おめでとうございます」
 許可を得て唯一リアナのリトルフライを付与してもらったヴァジェト・バヌー(ec6589)は、宙を飛びながらの踊りを披露する。
「さて、興味あるなら教えるよ、こっち集まって!」
 マリオーネがマグダレンの協力を得て始めたのがジャグリングである。
「はい。これで七本目ですわ」
 借りたナイフとフォークをマグダレンが次々とマリオーネに投げる。マリオーネは輪を描くようにすべてを宙で回し続けた。
 二十本を操ってからマリオーネのジャグリングは終わる。
 そしてリアナにも加わってもらって三人で空中ダンスを踊る。ストーリー仕立てにして恋物語が演じられた。
 マリオーネの声色はとても見事だ。拍手喝采で大道芸は終わる。
 それから深夜近くまで晩餐会は続けられた。しかし何事にも終わりはある。
 ラルフ卿の締め括りの挨拶によって晩餐会は幕を閉じた。