盗賊集団コズミ 〜生き残りのデュカス〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月03日〜02月09日

リプレイ公開日:2007年02月11日

●オープニング

 様々な所で人が集って談笑をする。真剣な眼差しで依頼書を眺める者もいる。
 いつもと変わりなく賑わう冒険者ギルドにデュカスも訪れていた。
 ここ最近の日課である。
 仇である盗賊集団コズミに関わる依頼がないかを調べるが、今日もありはしなかった。
「奇遇だな」
「これはお久しぶりです」
 デュカスは物資搬送の時に知り合ったカローに声をかけられて挨拶をする。
「依頼はたくさん出ているが、ピンとくるのがなくてね。そうそう、コズミを追っているんだったな。進展はあったのかい?」
「まだなんです。こうやって依頼を見に来たり、他の冒険者にも訊いたりしてるのですが‥‥」
「そうだなあ。盗賊の襲撃があると、いろいろ噂は飛び交うが、実際は誰がやったかなんて当事者以外なかなかわかるもんじゃないからな」
 デュカスとカローが話していると、大きな物音がする。受付の方からだ。
「そんなのはいい! 先に依頼を頼みてえんだ。金はある!」
 一人の男がカウンターに革袋を叩きつけた。勢い、椅子から転げ落ちそうになる。格好からいって怪我をしているようだ。手当てはしてあるようだが、巻いた布が真っ赤に染まっていた。
 男の勢いに負けたらしく、女性の受付は依頼内容を聞き始めた。
「変わった依頼者もいるもんだな。それじゃあ」
 カローが立ち去った後でも、デュカスは気になって男を眺めていた。
「――あの集落が危ねえんだ。コズミが狙っているんだよ。どうにか助けてやってくれ」
 依頼が終わると男は床に倒れる。
「今‥‥コズミと?」
 周囲が騒然となる中、デュカスは動揺しながらも男に近づいて起き上がらせて肩を貸す。男はもうろうとした様子だ。
「知り合いなんです。ぼくが世話をしますので。お騒がせしました」
 デュカスは嘘をついて男を運びだし、自分の馬の背にうつ伏せで被せるように乗せた。手綱を引っ張り、歩いて世話になっているワンバの家に向かう。
 デュカスは途中で正気を取り戻した男に訳を話す。手当てをするのでコズミについて訊きたい事があるとお願いする。
「お客人ですかい?」
 家にいたワンバが男に肩を貸すデュカスに近づく。
「こいつ!」
 男の顔を見るなり、ワンバがナイフを抜いた。
「ワンバ、どうしたんです?」
 デュカスは体の位置を変えて男の盾となる。ワンバは動きを止めるが、ナイフを構えたままだ。
「ワンバ、まさか生きて‥‥いたとはな」
 男が呟いた。
「一体どういう事なんです? お話しをしたくてお連れしたんですが。二人はお知り合いなんですか?」
「こいつは‥‥コズミの一味の者だ」
 デュカスの問いにワンバが答えた。
「えっ‥‥」
 デュカスは肩を貸している男と目が合った。
「そうだ。俺は盗賊コズミにいた。そして、そこのワンバも元コズミのもんだ」
 男の言葉にデュカスはワンバを凝視した。ワンバは視線をそらし、ナイフを構えていた腕をだらりと下ろした。

 デュカスはその夜、床に寝転がりながら昼間の一件を思いだす。自分のベットは連れてきた男ガルイに貸していた。
 ワンバは重たい口を開いて白状した。周辺の村々に潜り込み、財力や戦力、罠などを調べてコズミに教える役目をおっていたそうだ。だが、デュカスの故郷の村に恋人ができ、救おうとした事で裏切り者とされ、殺されそうになった。
 ワンバはひたすら謝ったが、デュカスはどうしていいのかわからなかった。今まで黙っていた事への怒り。ワンバも両親や弟の仇である事。だがワンバに恩も感じている自分。一緒に過ごしたワンバはとてもいい人であった。
 連れてきた男ガルイもワンバと同じ様な立場だった。コズミが次に故郷の村を襲うのを知り、金を持ちだして盗賊の身分を隠して冒険者ギルドに依頼を出したそうだ。面は割れていなかったらしい。故郷にはまだ年老いた母親がいるといっていた。故郷の村を救うのを手伝ってくれるなら、コズミの細かい情報を教えてくれると交換条件を持ちだされた。
 デュカスはその夜、一睡も出来なかった。

 数日を待ってデュカスは冒険者ギルドで依頼を受けた。
 ガルイが出した依頼である。
 とにかくコズミと聞いて、避けて通る訳にはいかなかった。

「あの坊主によく似た奴をコズミで見かけたぜ」
 ワンバの家でガルイがベットに横になりながら口を開いた。
「それは‥‥コズミがいつもやる手のあれか?」
 後悔の表情がありありと浮かぶワンバが呟くように答える。手には酒の瓶が握られていた。
「そうだ。幼子は洗脳して仲間にする。坊主には弟がいたといってたな。話した方がいいのか?」
「それは‥‥」
 ワンバは言葉を詰まらせた。

●今回の参加者

 eb7804 ジャネット・モーガン(27歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb9782 レシーア・アルティアス(28歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ec0037 柊 冬霞(32歳・♀・クレリック・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●情報
「や、久し振りぃ〜、無茶せず生き延びてたかい?」
 ワンバの家を訪ねたレシーア・アルティアス(eb9782)がデュカスを手招く。
「はい。み、みなさん、よろしくお願いします」
 デュカスはくっついたレシーアに驚いて後ろに一跳びする。
「相手は盗賊集団ね。高貴なる私にとって、民草を苦しめる者達の討伐は当然の事。一人残らず成敗してくれるわ!」
 ジャネット・モーガン(eb7804)は右の掌を頬に当てて体をそらす。今にも高笑いしそうなその姿勢はとても堂に入っていた。
「いろいろと複雑なようですが、今は村を守ることに専念しましょう。細かいことは、守りきった後です」
 コルリス・フェネストラ(eb9459)はガルイに詳しい情報を訊くつもりだ。
「デュカス様、お久しぶりです」
 柊冬霞(ec0037)はジャパン式の挨拶であるお辞儀をする。
 冒険者達がワンバの家を訪れたのはデュカスと合流する事と、ガルイに訊ねるという二つの意味がある。
「こららです」
 デュカスは仲間を奥の部屋に案内した。
「離せ! 母ちゃんが死んじまうんだぞ!」
 部屋では暴れるガルイをワンバが押さえつけていた。
「ガルイさんの依頼を受けてくれた冒険者達です。ぼくも受けましたので」
 デュカスが紹介をすると、ガルイは大人しくなった。
「よろしくな。俺も一緒にいくわ」
「怪我した体じゃ無理ですよ。我々に任せて下さい」
「そんな甘い相手じゃあねえんだ。コズミっての‥は‥‥よ」
 ガルイは黙り込むと、傷ついている肩を押さえた。
「襲撃ルートや時刻もある程度判るのかしら?」
「私も訊きたかったのです。盗賊集団コズミが村のどの方角から攻めてくるのか、おおよその予想を」
 ジャネットとコルリスが質問する。
「話しておくか‥‥」
 ガルイは傷に響かないように小さな声でコズミについて語りだす。コズミは常に集団では動くとは限らない。バラバラに行動して目的地で落ち合う事もある。
「それなら一人ずつ狙えばいいんじゃない〜?」
「そう思うだろ? 所が――」
 レシーアにガルイが首を横に振る。コズミの連中は盗賊だとわかる格好どころか変装をしている場合もある。何もしていない相手を倒したら、逆に冒険者側が村人に責められるだろう。
「襲ってくる時刻はどうなのかしら?」
 ガルイはコルリスに四日目の朝日が昇る一時間から二時間前だと答えた。
「コズミは風下から目的地に入る。そして風上に移動しながら奪い、最後に火を放つ」
 デュカスは拳を強く握った。自分の生まれた村が燃やされた事を思いだす。
「ロープや簡易な落とし穴でも仕掛けましょう」
「それはいい。だが手加減はしない方がいいぞ」
 ガルイはコルリスを見つめた。
「ただの穴なら這い上がればいいだけだ。やはり怪我をさせるべきだ」
 ガルイの意見は残酷にも聞こえたが、それだけコズミが危険な相手だという警鐘も含まれていた。
「母ちゃんを‥‥頼む」
 ガルイの願いの言葉で話が終わり、冒険者達はワンバの家から外に出た。
「私、所用がありまして遅れます。すぐに追いつきますので別行動させてもらえませんか?」
 柊が仲間にお願いをした。
「一体何をするんだい?」
「今は任せて下さい。お願いします」
 柊は話しかけたデュカスに続いて仲間にお辞儀をする。
「まーいいんじゃな〜い。行くわよ!」
 柊の真剣さにレシーアは気がついてた。みんなを促すように一番に歩き始める。
「先に行っていろいろと準備をしておきます!」
 コルリスが馬を手綱で誘導しながら、セブンリーグブーツで駆けていった。
 家から出てきたワンバがデュカスに近づく。
「‥‥ガルイの奴は眠りにつきましたでさあ」
 デュカスは久しぶりにワンバの声を聞いた。
「一つだけ‥‥。敵を倒す時は顔を確かめてから。わかりやしたか?」
「ありがとう。ワンバ。帰ってからゆっくり話そう」
 デュカスは馬を引っ張って仲間を追いかける。追いついた後、元気に振る舞うデュカスだが、様々な事が思いだされて口数が少なくなっていった。
「デュカスとやら」
 ジャネットが声をかける。
「何を悩んでいるのか知らないけれけど、この私が至高の助言をして差し上げます。罪を犯した者は罪人、だけど罪を償おうとする者は罪人ではないわ」
「そうだね。とにかくて信じてみるよ」
「それがいいわ」
 ジャネットは愛馬のたてがみを一撫でした。

●助っ人
「お久しぶりです。護衛依頼の時にご一緒した柊冬霞と申します」
「キミは確か‥‥デュカスくんと一緒の3番隊だったね」
 柊は冒険者ギルドでカローを見つけて声をかけた。そして助っ人の話を切りだす。
「ここじゃ何だから座って話そう」
 カローが柊をテーブルに誘導して座らせる。柊は今回の依頼について説明した。
「二十人か‥‥。五名で戦うのは確かに大変だな」
「カロー様、どうかお願いします。あと護衛の時ご一緒した方々はご存じではないでしょうか?」
 柊はテーブルの上に全財産を置くと、カローを真っ直ぐに見つめた。
「今はこれしかありません‥‥足りなければ後で働いてお支払いしますのでどうか助力をお願い出来ませんでしょうか?」
「キミがなぜ、そんな事までするんだ?」
「依頼の敵はあの方が捜し求めていた仇が相手になります、デュカス様はきっと無茶をなさるでしょう、私はあの方が復讐に囚われているのを見ていられないのです‥‥」
 柊がカローから視線を外して少し俯いた。
「わかった。わたしは引き受けよう。但しこれは依頼なのだからある程度は受け取る」
「ありがとうございます」
「ちょっと待ってくれ」
 カローはカウンターに向かい、しばらくして帰ってきた。
「元1番隊の奴らは無理だ。元4番隊のメンバーはどの依頼にも入っていないらしい。探してから彼女らと一緒に向かう。それでいいか?」
「はい!」
 柊はカローに礼をいうと急いで仲間を追いかけた。
「すみませんでした」
 日が暮れようとした頃、野営の準備を済ませていた仲間と柊は合流する。
 コルリスは夜遅くではあったが目的の村へ到着したのだった。

●村人
 二日目のお昼過ぎに四人は村に到着した。既に着いていたコルリスは今日の午前に起きた事を仲間に話し始める。
「周辺で大勢の人間が一度に通りづらい狭い場所のようなところはありませんか」
「そうだなあ。橋の付近がそんな‥‥どうしてそんな事を訊くんだ?」
 コルリスは村人に訊ね返されて考える。仲間だけで解決するつもりでいたが、付近で作業をするだけでも目立つ。悩んだ末にこの村が盗賊に狙われているのを村人に教えた。すると村人は村の長に会ってくれという。
 そこでコルリスは仲間が来るまでの間、周辺の地勢を教えてもらった上で確かめに回っていたそうだ。
「下手な事をいうとガルイが疑われるわね。コズミがやって来たら、偶然、私達が居合わせた事にするつもりだったけど‥‥今の人数で大変なのは確かだわ」
「ギルドの依頼で襲撃の情報があったって事にしちゃえば〜?」
 様々な意見が交わされる。話し合いをした上で冒険者達は村の長の屋敷を訪れた。
「そういわれても、どうしたものか」
 老翁の村の長は白い髭を触って呻る。
「レシーアとやらがいうには、みなさんは冒険者ギルドが遣わせた事になるがのお。ギルドがそんな親切な集まりだとは思えんが、かといって絶対違うともいい切れん。ただ、いっときにせよ警備を強化するのは賛成じゃ。材木を使っていいぞ。何名か若い者に口利きをしてやろう」
 村の長は考えた上で結論を出した。
 コルリスの指揮の元、冒険者達と村人との罠作りが始まった。他には柵や鳴子も取りつけるつもりである。防壁も作りたかったが無理なようだ。
 村の風下にあたる北東には防風林がある。そこに落とし穴を仕掛けて川にかかる橋へと導く作戦だ。
 ジャネットは休憩時間にガルイの母親が住む家を訪ねる。母親には真実と、そしてガルイが親を思う気持ちを忘れていないのを伝えた。
「今度息子に会った時は、拳骨の一つでもくれてやりなさい」
 母親に感謝されたジャネットは急いで現場に戻る。再開された作業は夜遅くまで続いた。

 三日目、朝早くから罠作りの作業は再開された。
 防風林内に落とし穴を掘り、足を怪我する程度には杭を立てておく。そこから村へ近い場所には鳴子を仕掛けた。
「木の根を傷めないようここにしましょう」
 コルリスは狩猟の知識をフルに活用する。
 村に入ろうとする直前には川が横たわっていた。歩いて渡ろうと思えば出来なくもないが、それなりに川幅はある。普通なら橋を使うはずだが、より通らざるを得ないように柵を立てた。橋を渡って村に入った場所が迎撃地点と決まる。
「食べなせえ。うまいでよ。俺達は戦うのはからっきしなんでよ。これぐらいしかできねーけど」
 昨日もそうだったが、手伝ってくれた村人が食事を用意してくれた。
「曇りのようだねぇ。朝方になったら雨でも降らしておくわ〜」
 レシーアはウェザーフォーノリッヂでこれから先の天気を知る。
 冒険者達はしばしの間だけだが眠りについた。真夜中の零時頃から全員で見張る段取りになっていた。
「やあ。遅くなったが、敵が来るまでには間に合ったようだ」
「えっ? カローさんが何でここに? それにお世話になった4番隊の人達も」
 武装したカローと女性二人が村人に案内されて現れる。見張りをしていたデュカスが驚いて立ち上がった。カローは柊から助っ人を頼まれた話を切りだす。
「そんな事が‥‥」
 デュカスは柊が眠るテントに視線をやった。

●決戦
 鳴子の音が鳴り響く。
 日がまだ昇らぬ朝方の出来事であった。レシーアの魔法が成功してぽつぽつと雨が降りだしていた。
 冒険者達はそれぞれの武器を手に敵を待ちかまえる。
「コルリスが来たわ」
 遠目が利くレシーアが確認した。コルリスは橋を渡りきり、仲間の元に到着する。
「敵は落とし穴にかかり、動きが鈍った何人かを矢で仕留めました。私は鳴子に引っかかってません」
 コルリスが報告をしていると、防風林に松明の灯りが現れる。剥き身の武器を手にしている敵が急速に近づいていた。
「行くぞ!」
 敵の先頭の者が橋を渡りきろうとする寸前でデュカスのかけ声が響く。
 敵はガルイの情報通り、二十人はいる。しかし橋を渡りきれた者は数人。対峙する敵とを比較すれば冒険者側は有利であった。
「私が居合わせた所に来るなど、運が悪いわね」
 ジャネットはわざと大降りに剣を振るう。隙があるように見せかけて自分の方に敵を呼び込んだ。
 デュカス、カロー、女性二人も剣で味方の盾となりながら敵と刃を交える。
 レシーアは味方が分断されないよう気をつけていた。ひらりと身を翻して、体重を乗せて拳を敵に打ち込む。苦戦してそうな味方がいれば加勢した。気にしていた弓などの遠隔攻撃をする敵は見当たらなかった。味方のコルリスが先に倒したようだ。
 コルリスは弓を構え、橋の途中の敵を矢で迎撃する。雨のせいで橋にいる敵は滑って不安定のようである。撃ち終わるとオーラパワーで味方に力を付与してゆく。
 柊は周囲に気を配りながらリカバーで味方を癒した。
 策にはまりながらも、敵は数にものをいわせて攻め入ってきた。橋を渡った周辺で乱戦となる。
 デュカスは後衛である柊に敵が向かわないように戦っていた。振り下ろされた剣を受け、そのまま反撃しようとするが動きを止める。
「フェルナール‥‥」
 デュカスに剣を振るった敵は弟のフェルナールにそっくりだ。
「フェルナールだろ。ぼくだ!」
 デュカスはただ敵の剣を受け止めるだけだ。
「兄ではない! 俺を見捨てたくせに兄貴面なんてするな!」
 よく似た者ではなく、確かにデュカスの弟フェルナールであった。フェルナールは敵の集団に紛れてゆく。
「離してくれ。フェルナールがいるんだ!」
「デュカス様、今追いかけてもどうにもなりません。無茶をせぬようとのアヴリル様の言葉を忘れないで下さいませ」
 追いかけようするデュカスを柊が背中に掴まって止める。確かに柊の言う通りだが、デュカスは諦められなかった。
「デュカスくん、冷静になりたまえ!」
 カローがデュカスの前に立って、迫り来る敵の剣を受け止める。
「貴方達に勝ち目は無い」
 ジャネットはバーストアタックを放ち、敵の盾にヒビを入れた。こうする事で相手の気を削ぐ作戦だ。
「撤退するぞお!」
 敵の誰かが叫び、フェルナールも橋を渡って敗走してゆく。
「止まりなさい!」
 コルリスは逃げる敵一人の足を射抜いた。情報を得る為に生け捕りにしたのだ。
 敗走する敵を追いかけたジャネットだが、橋を渡り終えた所で立ち止まる。
「この国で一番美しい私にかかれば、盗賊団の一つや二つ敵ではないわ!」
 ジャネットの高貴なる高笑いは防風林に広がる。ジャネットはこれでガルイの事を村人に話す必要はなくなったと心で呟き、同時に彼の母親を思いだしていた。

●帰路
 戦いの後、冒険者達は泥のように眠った。村の長の計らいによって安心して睡眠をとる。
 依頼五日目の朝はとてもすがすがしく感じられた。
 矢を使い切ったコルリスだが、代わりを村人に何本かもらった。使って欲しいそうだ。
 デュカスと冒険者仲間は捕虜を尋問する。やはり敵の正体はコズミであった。生け捕りした者とまだ息がある者は村が領主に連絡をして罪を償わせるという。
 お昼頃、冒険者達は村を出立した。

 日は暮れて、冒険者達は焚き火を囲む。
 デュカスは揺れる炎を見つめ続ける。
「弟様が生きていたのを感謝しましょう。いつか誤解は解けます」
 柊はデュカスの横に座る。
「闇に惑わされてはいけません、デュカス様の心の中にある光を信じて」
「そうだね」
 デュカスは薪を火にくべた。
「飲めば忘れるわぁ〜。ねぇ」
 レシーアがデュカスにワインを渡す。村人がくれた祝杯用のワインをみんなに分けていたのだ。
「コズミなんて私にかかればこんなものよ」
 ジャネットはご機嫌だ。
「捕虜がアジトの場所を吐いたようで、捕まえたかいがありました」
 コルリスはワインを口にする。
「力になれたようでよかったよ」
 カローは手入れをしていた剣を鞘に収める。焚き火の前で寝転がる助っ人の女性二人は座り直してワインを頂いた。

 一晩の野宿が終わり、何事もなく全員がパリへと戻る。
 ギルドへの報告を終えると、デュカスはワンバの家に帰った。無事村を助けられた事を伝えると、ガルイは母親の無事に涙した。そしてデュカスに詳しいコズミの情報を教えてくれる。
「おいらにとってもコズミは敵。‥‥戦いやす」
 帰ってきたデュカスにワンバは覚悟を告げたのだった。