子犬と手紙 〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月11日〜02月16日

リプレイ公開日:2007年02月19日

●オープニング

「あら? 何をしているの?」
 冒険者ギルドの受付であるゾフィー嬢は自分が担当するカウンターに座った者に驚きの声をかけた。
「えへへっ、へえ。ちょっとね」
 カウンターに座っていたのは後輩のシーナ嬢であった。まだまだ未熟なシーナをゾフィーは普段から何かとフォローしている。
「非番なんですけど来ちゃいました」
 笑顔のシーナにゾフィーはため息をつく。
「休みの日に仕事場へ来るなんて‥‥シーナ、寂しすぎるわ。もうすぐバレンタインデーだというのに。恋人ぐらいいないの? いないならつくりなさいよ」
「そういうゾフィー先輩だって、浮いた話の一つもないって、巷で有名ですよ」
「シーナったら、もしかしてケンカ売りに来たの? この口がいうか!」
「スッピバゼ〜ン〜ゆるじでぐだじゃい」
 ゾフィーはいつものように両手でシーナの頬を引っ張るが、周りの視線に気がついてすぐに放す。
「子犬?」
 今まで死角になって見えなかったが、ゾフィーはシーナの太股に乗る子犬に気がついた。
「道ばたで拾ったんです。わたしじゃよくわからないし、飼い犬みたいだし。依頼を出して飼い主を捜してもらおうかと思って」
 頬をさすりながらシーナは答える。
「わざわざそんな事を。シーナは優し過ぎるわ。この子犬‥‥。ただの犬じゃないわね。狼の血が入ってそうよ」
 ゾフィーは子犬を抱きかかえる。かわいらしさの中に精悍さが感じられた。
「何か探す手がかりになるような物とか、状況とかはないの?」
 ゾフィーにいわれてシーナは子犬の指差す。首輪には革製の袋がついていた。
「中に手紙らしきものが入っているんですけど‥‥。封がしてあって、なんだか悪い気がしてまだ開けてないんです」
「でも、それぐらいしか手がかりはないんでしょ?」
 ゾフィーはためらいもなく、袋から羊皮紙を取りだして開いた。
「これは‥‥」
 ゾフィーは手紙を読んで固まった。
「ゾフィー先輩、どうしたんです?」
 シーナも立ち上がると覗き込むように手紙を読んだ。
「これは、ラブレターです‥ね。男性から女性宛て。しかも、うわ‥‥‥‥すごっ」
 ゾフィーとシーナは顔を真っ赤にしていた。別にエッチな事が書いてあった訳ではないが、その内容はとても恥ずかしい内容だ。
「こんなにあつあつ、あまあま、べたべたな文章なんて読んだ事ないです〜。わたしの大好きなシュクレ堂の焼き菓子より甘いです〜。甘すぎるです〜」
 シーナはゾフィーを見つめる。
 手紙は男性が既に恋人の女性に宛てた内容だ。ただ、シーナとゾフィーのいう通り、歯が浮くような文章がこれでもかと書き記されていた。
「ほんと、愛されてるというか、暑苦しいというか‥‥。あっここに書いてある村、わたし知ってるわ。前後からいって女性が住んでいる村みたいね。この子犬がバレンタインデーの交換プレゼントみたい。どうする? シーナが届けに行く?」
「わたし一人でパリから出た事ないんです〜。なんかとても怖くて。やっぱり、最初思った通り、依頼でお願いしようかと」
「ちゃんと報酬払うなら、別に構わないけど‥‥。そうそう、この村にはブドウ園があるわ。ワイン作りでそれなりに有名な所ね」
「わっわたし、お肉大好きですけど、ワインにも目がないんです〜。休みもらって冒険者と一緒に行こうかなー。そうだ。そうしよー。届けを出してきます〜」
 シーナはギルド関係者だけが入れる奥に走ってゆく。ゾフィーの胸元に子犬を残して。
「まったく食いしん坊なんだから。ねえ、わんちゃん?」
 ゾフィーが話しかけると、おとなしい子犬は一度だけ吠えた。
 ゾフィーはシーナが戻ってくるのを待って依頼書を書き上げる。ギルドを去る時のシーナはとても張り切っていた。今日の内に冒険の準備を整えておくそうだ。
「キャンプに行くんじゃないのに‥‥きっと保存食忘れて、お菓子を持っていくタイプね。シーナは」
 ゾフィーは依頼書を掲示板に貼りながら呟いた。

●今回の参加者

 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb9571 レイ・マグナス(29歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb9780 ディエミア・ラグトニー(21歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)
 ec0037 柊 冬霞(32歳・♀・クレリック・人間・ジャパン)
 ec0887 セリア・バートウィッスル(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ラスティ・コンバラリア(eb2363)/ 張 源信(eb9276

●リプレイ本文

●出発
「お待たせしましたです〜」
 シーナはフラフラと左右に流れながら手を振る。背中の荷物がとても重いせいだ。
 依頼書に書いてあった集合場所には既に冒険者達が集まっていた。
「キャメロット出身の騎士、セリア・バートウィッスルと申しますの。宜しくお願い致します」
 セリア・バートウィッスル(ec0887)は転げそうになったシーナを支えると挨拶をした。
「シーナ様、皆様と楽しく旅を致しましょう」
 柊冬霞(ec0037)はジャパン式にお辞儀をする。
「子犬と手紙のお届けものですか。季節はバレンタイン、そんな依頼も良いものです」
 レイ・マグナス(eb9571)は騎士の振る舞いとしての挨拶を行う。
「みなさん、鳳・双樹と申します。宜しくお願い致しますね。シーナさん、お久しぶりです」
 鳳双樹(eb8121)がにこやかに挨拶をするとシーナは気がつく。
「お肉の友! あっいや、ごめんなさい‥‥。あれから勝手にそう呼んでたんです〜」
 シーナは恥ずかしそうに笑った。前にシーナが骨付きの大きな肉を食べたがっているのを知った鳳が届けてくれた事があったのだ。その事をレイが脳裏に留める。
「かわいいネ〜♪」
 ディエミア・ラグトニー(eb9780)はシーナについてきた子犬にじゃれられていた。ほっぺたをペロペロ舐められている。
「そうでしたね。ディエミアさんの荷物をハクトに載せましょう」
 鳳はテントを含むディエミアの荷物を愛馬に載せる。
「シーナさんのは私が預かりますの」
 セリアはシーナの荷物を愛馬ベルガーに載せた。その他にも全員が身軽になれるように平均して鳳とセリアの愛馬二頭に荷物を振り分ける。そして出発するのだった。

 冬場ではあったが、陽が差しているとそれなりに暖かかった。
 一行は人々が往来している道を進む。子犬が元気いっぱいにみんなの回りを走る。
「ギルドの依頼はどんなのがあるのカナ?」
 ディエミアがシーナの横を飛ぶ。食事時にするつもりだったが、ちょうどいい機会なので気になっていた事を訊いてみた。
「んっとですね〜。変わったものだと虫歯を抜いて欲しいとか、髪を切ってくれとかもあります〜。そういう時はお仕事をしている方を紹介するのです」
「受付って大変なんだネ」
「です。えっと他にもずっと冬場に座り続けるのは結構寒いんです。寒くないように着込んで、それでいて、スマートな姿を維持するにはテクニックがいるんですよ」
「へぇ〜。スタイルを気にしているんだネ。そういえばもうすぐバレンタインデーだヨ」
 ディエミアはみんなの上空を回った。
「ディエミア様やシーナ様には誰か気になる人はいらっしゃるのですか?」
「アタシは内緒ネ。シーナはいるのかナ?」
 一番後ろを歩いていた柊の訊ねにディエミアが答え、さらにシーナへと振る。
「シーナは‥‥いないです。他の冒険者のみなさんはどうなんです?」
 シーナが周囲を歩く冒険者達を見回した。
「わっわっ私も内緒です」
 鳳は顔の前で大きく右手を振った。
「私は残念ながら」
 レイは自然体ながら、いつでも剣を抜く心持ちでいた。
「言い出した柊さんはどうなの?」
 一番先頭を歩くセリアは笑って誤魔化した後で柊に質問を戻す。
「いえ、私は‥‥今まで出会いがありませんので‥‥」
 柊は真っ赤な顔でしどろもどろになった。
 みんなで笑っていると枯れた草むらから物音がする。
 レイとセリア、鳳は自らの剣に手を添える。柊は子犬を抱えてディエミアと一緒に後方へ下がる。後方の二人は魔法の準備を行った。
 子犬が吠えると、枯れた草むらから出てきたのは真っ白なウサギであった。
「なんだ」
 全員が再び笑い、旅は再開された。
 夕暮れ時になると、一行は途中の集落付近でテントを張る。落ちた小枝を集めて焚き火をする。シーナは焼き菓子をたくさん持ってきていた。それをお裾分けし、保存食をみんなから少しずつもらった。
 一人ずつ焚き火を番して、初日の夜は過ぎてゆくのだった。

●ワインの村
 二日目のお昼を過ぎて、一行は村に到着した。
 さっそく手紙に書かれていた名前の女性を捜す。村人に訊くとすぐにわかり、家を訊ねた。
「サロンテさんですね。この子犬、サロンテさん宛ての手紙がついていて、拾ったんです」
 シーナが抱いていた子犬をサロンテに見せた。子犬は小さく呻ると両耳を垂れさせる。手紙を預かっていた柊がサロンテに渡す。
「手紙は読みましたです。え〜、あの、すみませんです」
「いえいえ、これがなけ‥れば‥‥わたし宛てだ‥‥と‥‥は‥‥‥」
 手紙を読むサロンテの顔が真っ赤になってゆく。言葉も途切れて黙り込む。
 手紙を持つ手が震えだした。
「ごめんなさーい! すぐ戻りますので!」
 サロンテはあたふたと家の中に入ると、強い勢いで扉を閉めた。きっともの凄く恥ずかしかったのだろう。
「そんなに恥ずかしい内容ですの?」
「あれは、凄まじく精神にショックを与えるです〜。自分宛てならなおさら。対デビル用の武器に転用できないか、ゾフィー先輩と話し合ったぐらいですから」
 訊ねたセリアにシーナがうんうんと頷く。
 しばらくしてサロンテが戻ってきたが、顔はまだ赤いままだった。子犬を受け取り、ため息をつく。
「この手紙の送り主はきっとラヴィッサンだわ。この間、喧嘩しちゃったので、バレンタインデーを利用して仲直りしようとしたんだと思います」
 サロンテは話しを続ける。
 ラヴィッサンという男はとても猫好きの『犬嫌い』であった。正確には犬にとても嫌われる体質であった。犬好きのサロンテの為に無理をして子犬を用意したのだろうが、届ける前に逃げられてしまったのだろう。
「わたしは犬好きで『猫嫌い』なんです‥‥」
「どうしてそんな二人が恋人同士に?」
「私達にもわかりません。不思議なものだと二人で話し合った事もあります」
 鳳の訊ねにサロンテは何度もため息をついた。
「ところでみなさんはパリからいらっしゃったのですよね? これからご予定はありますか?」
 サロンテに特別な用はないとシーナが答えると、お礼としてしばらく泊まっていく事をすすめられる。
「お言葉に甘えましょうか?」
 一行は相談してお世話になるのを決めるのだった。

●ワイン蔵
「こちらです」
 三日目、冒険者一行はサロンテに鍾乳洞を案内された。家業で造られたワインが貯蔵されているのを見学する。
 太い鍾乳柱が何本も立っている。とても古い鍾乳洞に違いない。
「これは‥‥外より寒いようだ」
「そうですの」
 レイとセリアが呟く。防寒服を着ていた一行だが、やはり肌が露出している顔などは冷たく感じられる。
「この村のワインが評判なのはこの鍾乳洞のおかげなの。一年中とても冷たいのよ。おかげで夏頃飲んでも、収穫時期の絞りたてみたいと評判なんです」
 サロンテは台車に何本かのワインを載せる。鍾乳洞の外に出ると寒いはずなのにとても暖かく感じられた。
「今夜はこのワインで盛り上がって下さい」
 サロンテの言葉に一行は大喜びする。
「あの‥‥ちょっといいですか?」
 レイがサロンテを他の者達から遠ざける。
「‥‥なるほど。わかりました。そういう事ならわたしの方で用意しますからご心配なく」
 レイに耳打ちで相談されたサロンテはにっこりと笑った。

 夜になり、食事はそこそこにワインをメインにしてのパーティが始まった。
「とてもおいしいですの」
 ワインを飲むとセリアはどうしても頬が綻んでしまう。
「私、お酒には弱くあまり飲めませんけど‥‥すっきりしていてとってもおいしいです。シーナさんはどうです?」
「おいしいです。この世のものとは思えないです〜」
 鳳とシーナは二人とも、頬を押さえてうっとりとした様子だ。
 柊は飲みすすめる仲間に注意しようとするが止める。バレンタインデーは特別な日である。目をつぶる事にした。中には大いに飲みたい人もいるだろう。
「少し飲んでみましょうか」
 柊は両手でカップを包むように持ち、口をつけた。
「おいしいです」
「そうでしょう〜。適量ならワインは身体にもいいらしいよ〜」
 側にいたシーナが柊のカップにワインを注いだ。
「子犬ちゃん、こっちだヨ〜」
 ワインも飲んでいたが、ディエミアは子犬と遊んでいた。抱きついてくる子犬はとてもふわふわしていて気持ちがいい。
「よかったら名前つけてくれませんか?」
 サロンテにいわれて顔を赤くしながらディエミアは考える。
「アタシの名前の上と下をくっくけてディアちゃんっでいいカナ?」
「もちろん♪ よかったね。お前の名前は今日からディアよ」
 サロンテはディエミアの横に寝転がる子犬に頭を撫でた。
「みんな楽しそうでよかった」
 レイもワインを頂いていたが、明日に備えてそこそこにしておくつもりでいた。女性達の笑い声を魚にしてレイはワインを飲んだのであった。

●帰りの日
「ふ〜い〜」
 いつもなら日が昇って大して間もなく起きるはずが、昨日飲んだワインのせいか遅かったシーナである。
「みなさん、朝ですよ〜」
 シーナは女性陣を起こす。隣りの部屋にいるレイも起こそうとするが、すでにベットにはいなかった。
「いい匂いが‥‥これは!」
 シーナは急いで昨日ワインを頂いた居間へと向かう。テーブルにはきれいに片づけられていて、新たなワインとカップが並べられていた。
「お待ちどう様です。朝からヘビーですが、みなさんなら平気でしょう」
 レイがいくつものお皿を持って現れる。テーブルに置かれてゆくお皿には厚い豚肉が石焼きされたステーキが置かれていた。
「お肉! しかもワイン付き!」
 シーナの瞳が輝く。
「あら、いい匂いね」
 他の冒険者達も居間へと現れる。
「依頼の最後を少し幸せな気分で終わりたいと思いまして、サロンテさんにお願いしたのです」
「シーナさん、よかったですね」
「うん!」
 鳳にシーナが強く頷いた。
 全員が席につき、食事が始まった。
「まだパリには着いてませんが、依頼の成功と、全てのカップルを祝いつつ」
「乾杯」
 レイのかけ声と共に乾杯をする。
「お肉もおいしいし、ワインもとてもいいヨ。シーナがくれたシュクレ堂の焼き菓子もおいしかったしネ」
「エヘヘッ」
 ディエミアが羽根を少しだけ羽ばたかせる。シーナは照れた後、お肉を口一杯に頬張った。

 お昼を兼ねた朝食が終わり、一行は帰りの準備を始めていた。
「パリにいますラヴィッサン様にプレゼントとか手紙がありましたら、預かりますか?」
「そうねえ。手紙は書いたのだけど、自分で渡そうと思うわ。でも気になるので読んでみてくれないかな?」
 サロンテはその場にいた柊とセリアに手紙を向ける。セリアはサロンテの手に注意が向く。
「手に傷がありますの。どうかなさったのですか?」
「実はラヴィッサンとは逆に子猫をともらってきたのだけど、引っ掻かれちゃってね。子犬と子猫同士なら仲良くなるかも知れないし。そうしたら、わたしとラヴィッサンも猫と犬、どっちも好きになれるかも」
「それはいい手ですの」
 セリアと柊は賛成すると、サロンテの手紙を読みだした。
「ラヴィッサンのがすごかったから、わたしのは大人しい内容にしたのだけど、どう?」
 柊は顔が熱くなる。セリアは好奇心から読んでしまったが激しく後悔する。
 恋は盲目と申しますが、流石にこれは‥‥と柊は心の中で呟く。ラヴィッサンの手紙は見ていないが、きっと大差ない内容だろう。
「へっへいきだと思います」
 柊とセリアは顔を見られないようにサロンテに背中を向けて、荷物の点検をするフリをした。

「それではお元気で!」
 一行はワインのおみやげをもらい、手を振ってサロンテの家を後にする。行きと同じく愛馬を引くセリアを先頭にしていた。
「あれはもしかして?」
 見送るサロンテに、一行とは違う方向から近づく男がいた。サロンテの家から子猫が飛びだして男の足元にじゃれる。
「きっとラヴィッサンさんですね。いいなあ。私も素敵な恋がしてみたいなぁ‥‥」
 鳳は愛馬の首に抱きつく。
「このまま行くです〜。人の恋路をジャマすると馬に蹴られて死んでしまうですよ」
 全員が笑うと、遠くから犬の遠吠えが届いた。
「ディアだネ」
 ディエミアは遠くに小さく見える子犬ディアに手を振った。
「よいバレンタインデーだ」
 レイは恋人同士がうまくいきそうな事に満足する。さて、帰りも仲間の護衛をと気合いを入れ直した。

 一晩の野宿の経て、一行は五日目の日が暮れた頃にパリへと到着した。
 報告は全てシーナがわかってはいるが、全員でギルドに顔を出す。そして別れの挨拶をした。
「わたし、まだまだ新人受付ですけど、よろしくお願いしますです」
 冒険者ギルドの出入り口近くでシーナが冒険者達を見送り、今回の依頼は終了した。