シフール便の失敗

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月13日〜02月18日

リプレイ公開日:2007年02月20日

●オープニング

「こんにちは」
 冒険者ギルドのカウンターを訪れた若い女性のシフールは椅子の上に立ち、礼儀正しく挨拶をした。
「こんにちは。ようこそ冒険者ギルドへ。何かお困りな事でも御座いますか?」
 受付の女性も丁寧に挨拶をする。
「実は‥‥」
 シフールはつい先日の出来事を話し始めた。
 その日は手紙を預かって受取人のいる町へと向かっていた。最近にしては珍しくお日様が差していてぽかぽかしていたのが仇となる、上空を気持ちよく飛んでいると、突風でバランスを崩してしまった。そしてちゃんと閉じていなかったカバンから預かった手紙を落としてしまったのだ。
 もちろん、すぐに拾いにいったのだが、落ちた場所が悪かった。通称、『死者の集落』と呼ばれている森の奥に落としてしまったのだ。
 死者の集落にはアンデットのズゥンビとスカルウォーリアーが住んでいた。住んでいたというのは正しい表現ではないが、かつての集落だった場所から一歩も出ずに生きていた頃の真似事を行っている事から、そういわれているのだ。
「空から見ますと直径200メートルくらいの小さな集落なんですけど、アンデットがたくさんいて。わたし、降りようとしたんですけど、とても恐くて探せなくて‥‥」
 落ち込んだ様子のシフールは話しを続ける。
「送り主に事情を話して、もう一度手紙を書いてもらえないかと相談したんです。そしたら、手紙だけでなく、その方の父親が生前に書いた羊皮紙も入っていたとか‥‥。受取人は送り主の母親。つまり息子が父親の残した文章を母親に送ろうとしてたみたいなんです。だから書き直せばいいとか、そういう話しじゃなくなっちゃって‥‥」
 受付の女性がシフールのいう内容を書き留めてゆく。
「死者の集落の真ん中辺りに落としたと思うんです。どうか見つけてください。お願いします」
 シフールは受付の女性にお願いすると、飛ぶ訳でもなく俯き加減に歩いてギルドを立ち去っていった。

●今回の参加者

 eb5817 木下 茜(24歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 eb7368 ユーフィールド・ナルファーン(35歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb8113 スズカ・アークライト(29歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb9782 レシーア・アルティアス(28歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ec0052 紫堂 紅々乃(23歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)
 ec0244 大蔵 南洋(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

バル・メナクス(eb5988

●リプレイ本文

●挨拶
「みなさんよろしくお願いします」
 依頼者の女性シフール、エグレットが集まった冒険者達に挨拶をした。場所は冒険者ギルドで借りた相談用の個室である。
「ユーフィールドです。よろしくお願いいたします」
「ウェールズのライラだ。よろしくな」
 ユーフィールド・ナルファーン(eb7368)とライラ・マグニフィセント(eb9243)に続き全員が挨拶を済ませる。
 エグレットが依頼の内容を自分の口から冒険者達に伝えた。様々な差出人の所を回って手紙を預かる途中で、一通だけを死者の集落に落としてしまった。落としてしまった手紙の差出人はパリには居らず、山奥に住んでいるという。手紙の中身は差出人の書いた文章の他に、亡くなった父親が書いた羊皮紙も入っていた。
「ふむ、本当に代わりのきかない、大事な手紙なのだね‥‥。何とか回収するお手伝いをしたいところさね」
 ライラは呟く。
「死者の集落か‥‥」
 大蔵南洋(ec0244)は改めて今回の敵を脳裏に浮かべる。
「まずは手紙を落とした時のことを聞かせてくれ。落とした瞬間のその時にも風は強く吹いていたのか? そうなら若干捜索範囲がひろくなるかもしれんからな」
「故人の文章が入っていたといいましたが、見た目はどんな手紙なのですか?」
「私も手紙の特徴を訊きたかったのよねぇ〜。あと、名前も教えてね?」
 大蔵、ユーフィールド、レシーア・アルティアス(eb9782)は質問をする。
「失礼しました。私はエグレットといいます。手紙自体は羊皮紙を折って作られていて、斧の小さな絵が描かれてました。あと落とした時は――」
 エグレットが説明を続ける。
 手紙を落とした瞬間は、大して風は吹いていなかったという。言い忘れていたと前置きして、死者の集落の中心辺りに三本の杉の木がそびえていた事を話す。枝や葉に引っかかれば自分一人でも拾えたはずなのがとても残念だという。
「私がドジなばかりに‥‥」
 エグレットの背中の羽根の先がしんなりと足元に垂れる。
「今回は大変でしたね。お手紙がんばって取り戻しましょう」
「失敗なんて誰にでもあるわ、フォローできれば問題ないんだからさっさと手紙探して届けてあげましょ」
 ユーフィールドとスズカ・アークライト(eb8113)はエグレットを慰める。
「これは?」
 スズカがエグレットに渡したのは清めの塩であった。
「私達が守ってあげるけど自衛手段は無いに越した事はないからね」
「ありがとうございます」
 エグレットは両手で大事に袋を持ちながらスズカに礼をいう。
「そういう事なら、手紙の回収が最優先事項です。アンデッドは足止めできれば御の字というところでしょう」
 コルリス・フェネストラ(eb9459)はエグレットに微笑んだ。
「シフール便にはいつもお世話になっています。何とかお手伝いをして、元気になって欲しいと思います」
 話しかけた椅子に座る紫堂紅々乃(ec0052)にエグレットは近づいて頭を下げた。
「心強い味方として茜さんとお鼻が利く雷王丸も一緒です。木下さんの通訳は私がします」
「キノシタアカネ。ライオウマル」
 紫堂は木下茜(eb5817)を紹介する。木下は自分と犬を指して名前を教えた。エグレットも自分を指して名前をいう。
 エグレットも少しだけだがジャパン語を理解できた。
 ジャパン語で「ペットの雷王丸と組んで行動します」と木下は話す。その他には、手紙を取り返す事を優先して戦闘は程々に押さえるつもりだと木下はいった。
「せっかくのギルドです。死者の集落について、時間の許す限り資料などを調べてみたいのですが、どうでしょうか?」
 ユーフィールドが全員に訊ねる。
「あたしは先にいって死者の村から離れた場所に野営地の用意をしておくさね」
「みなさんにお任せします。わたしも先にいきますわ」
 ライラとスズカはセンブンリーグブーツを履き、先に現場へと乗り込むつもりでいた。その他の者達はお昼頃までギルドで資料を調べ、それからパリを出発するのだった。

●死者の集落
 それぞれに一晩を過ごし、二日目になる。
 そして夜が訪れたようとした頃にライラとスズカを除いた一行は進む森の奥に灯りを見つけた。野営地の焚き火である。既にテントが張られて、焚き火用の枝も集められていた。
「スズカ殿と周囲を調べていたら、新鮮な食料を集める時間がなくなってしまったのさね」
「いえいえ、お魚も獲ってくれました」
 スズカがライラに微笑む。全員の腹を満たせるだけの量はないが、小川で獲った魚が枝に刺さり、焚き火で焼かれていた。
 一行は味気ない保存食の他においしい魚も頂く。一番喜んでいたのは木下の愛犬である雷王丸であった。
「晴れのようねぇ」
 レシーアは先の天気を予知する。朝早めに起きてもう一度予知するつもりだが、崩れる様子はなさそうだ。
 今日の所は明日の死者の集落突入に備えて早めに寝る一行であった。

 三日目の朝になり、全員が緊張の面もちでいた。
 ライラとスズカが死者の集落の周囲について詳しく報告する。レシーアも調べるつもりではあったが、心配はいらなかった。
 柵は集落の周囲を取り巻いているが、どれも傷んでいてその気になれば壊せそうであった。もしもの時、出口を見失ったとしても逃げるのは簡単である。
 その他には噂通り、アンデッド達は集落からはみ出す事はない。警戒しながら周囲を調べたが、それらしき姿は見あたらなかった。
「問題はアンデッド達がどこまで追いかけてくるかです」
 コルリスは漠然とだが、集落から大きく離れて追いかけくる事はないだろうと考えていた。何かの理由でこの場所に縛られているからこその死者の集落だと。
 まずは試しにコルリスがズゥンビに姿を晒し、セブンリーグブーツで逃げる。死者の集落のズゥンビは、姿が見えなくなるとそれ以上は追いかけてこない。
「集落ひとつ敵に回すというのも厳しいですが、襲ってくるようなら、しかたないですね」
 ユーフィールドは覚悟を決めた。
 木下が雷王丸にエグレットから借りた布を嗅がせる。どうやら手紙についた臭いを探れるらしい。
「私達は集落の中央部にある三本の杉を目指して進む」
 大蔵はエグレット声をかけた。
「手紙を落とした辺りが近づいたら教えてくれ。あとは寄ってくる亡者の索敵を御願いしたいが‥‥恐ろしかったら無理にとはいわぬ」
「いえ、やらせてもらいます!」
 エグレットが大蔵の顔前で拳を握る。
 準備が整い、一行は陣形を組んだ。

 一行は前進を重視した先頭を突出させる三角形型の陣を組む。
 先陣を切るのはライラ、左翼前をユーフィールド、右翼前を大蔵、左翼後をスズカ、右翼後をコルリスが受け持つ。中央にはレシーア、紫堂、木下、犬の雷王丸、そして依頼者のエグレットが収まる。
 なるべく戦闘を控えるつもりの一行だが、見える範囲のズゥンビは誘いだしてある程度減らしておく。そうしなければアンデッドに囲まれる可能性があるし、撤退時の問題になるからだ。
 井戸で水を汲む真似をするズゥンビが一行を見るやいなや襲ってくる。その動きは遅く、前衛が一気にかかれば簡単に仕留められた。
 コルリスはオーラパワーを仲間にかけた上で、いつでも『鳴弦の弓』をかき鳴らせるよう警戒をする。
「近くにはいません」
 エグレットが一度上空に飛んで確認して戻ってくる。もしかしたら集落中央から手紙が飛ばされているかも知れない。アンデッドの他に手紙にも注意しながら一行は進んだ。
「ちょっと待ってね」
 スズカが進行を止める。
 そろりと廃屋の影から覗くと、スカルウォーリアーがニ体、うろうろしていた。
 倒すのはなんとかなるが、その間に他のアンデッドを呼び込んでしまうかも知れない。一行は多数決をとり、迂回する事が決まる。
 小さな集落の中心を示す三本の杉の木に辿り着く。ここまで来るのに三体のズゥンビを倒していた。
 犬の雷王丸が小さく鳴き、木下はもう一度布を嗅がせる。一行は陣形を菱形にして、犬の雷王丸の動きに合わせて移動した。
 家畜小屋の壊れた柵を越えて中に入る。
 視力のよい者達は遠くにズゥンビの姿を確認していた。あまり長くは探していられない。犬の雷王丸の動きからいってこの周辺にあるのは間違いなかった。
 周囲の警戒をエグレットに任せ、冒険者達は細かく周囲を探し始める。四つん這いになったり、雨風に晒されぱなしの農具の下などを探す。
「セーマンの力、ここに示されよ、急き、ゅうぅ!!」
 目の前を槍が横切り、紫堂は呼吸を止めてしまった。屋根の上から一行を狙うズゥンビがいた。
 エグレットが高く空を飛び、清めの塩をズゥンビに振りまく。そのダメージで屋根からズゥンビが転げ落ちる。
「依頼のついでだ‥‥あの世に送ってやる」
 大蔵が霊剣を振るい、ズゥンビに一太刀を浴びせかける。ライラも参戦し、数度の攻防の後で大蔵はスマッシュを打ち込んだ。
「あったわぁ」
 レシーアが斧の絵が描かれた手紙を枯れた雑草の間で見つけた時には、既に一行はアンデッド達に囲まれていた。紫堂は改めて五行星符呪を使い結界を張ろうとしたが、その場に留まる方が危ない状況であった。
「天照の加護受けし、陽光の矢、敵を討て!」
 紫堂はサンレーザーを照射し、ボロ切れをまとっていたズゥンビに衝撃と共に火を点ける。おかげでエグレットはズゥンビから逃れられた。
 コルリスが鳴弦の弓をかき鳴らす短い間に一行は陣形を立て直して移動を開始した。足の鈍いアンデッドには有効な手である。
「アンデッドってゆ〜のは人間と違って逃げてくれないから厄介よねえ」
 殿を務めるスズカはファントムソードを振るう。ゆっくりながらアンデッド達は一行を追いかけてくる。
 木下と犬の雷王丸は一体となって近寄るズゥンビを縦横無尽に動いて翻弄する。手裏剣を放ち、たたらを踏んだ隙に仲間が剣を振るう。背後からは犬の雷王丸も斬りつける。
 倒れたズゥンビから手裏剣を拾うと、木下は急いで仲間に合流した。
 一行の進む先に突然数体のスカルウォーリアーが現れる。コルリスはライラにもらった清らかな聖水を投げつけた。大蔵が足元を狙い、ユーフィールドが横に撫で斬る。ライラが斬り込むと活路がひらかれた。
「生きてる人に迷惑かけてないでさっさと成仏しなさい!」
 スズカがチャージングで一体に止めを刺す。
 前方に立ちはだかるアンデッドはいなくなる。大蔵は側面方向にいたズゥンビをパワーチャージで押しだした。
 一行は急いで死者の集落を脱出した。森の中に入り、しばらく立ち止まったが、アンデッド達が追ってくる様子はなかった。

「ごめんなさい。私がちゃんと見てなかったから、突然襲われてしまって‥‥」
 野営地で焚き火を囲む中、エグレットは冒険者達に謝る。
「気にしてはダメです」
「ですが、特に紫堂さんは危ない目にも遇わせてしまって。それに符呪も不完全に終わってしまって‥‥」
 エグレットは笑顔の紫堂にひたすら謝った。
「みんなが無事で、手紙が見つかった訳だしね。ねっ、紅々乃ちゃん?」
「そうです。よかったです。エグレットさん」
 スズカをはじめ、みんなでエグレットを慰める。紫堂はエグレットの小さな手を握った。
「そういう話はおしまい。それじゃあ余興に占ってみようかねぇ。誰か占って欲しい人は〜?」
 レシーアが見回すと、みんなが視線をそらせた。
「‥‥まあ、いいわぁ。この依頼についてでも占ってみましょ」
 レシーアは占術用品一式は持っていなかったが、落ちていた小石で簡単な占いを行う。
「実は今、死者の集落からやってきたズゥンビ達に囲まれていると‥‥‥‥」
 全員が昼間見た不気味なズゥンビを思いだす。武器を手にする者、辺りをキョロキョロとする者、慌てて剣ではなく小枝を構える者など行動は様々だ。
「嘘よ。やあ〜ねぇ。それに私ははっきり言って占いは下手だからねぇ」
 レシーアはさっさとテントの中へと避難する。
 みんな怒りきれずに笑って焚き火にあたりなおした。
 食事を済ませると、早くに眠りにつくのであった。

●帰り
「アンデッドさんたち、営みを乱してしまいごめんなさい。私たちはこれで失礼しますので、通常の生活に戻ってくださいね」
 日が昇って四日目、コルリスは帰り道の丘から見えた死者の集落に向かって話しかけた。
「あの村もいずれは皆成仏させてあげなきゃね」
 スズカも死者の集落について思うところがあった。
 朝になるとシフールのエグレットは早速手紙を届けに空を飛んでいった。木下は手紙を届けるまでつき合いたかったが、それには時間が足りなかった。
 パリに戻り、ギルドに報告しないと依頼は完了にはならない。
 全員で一緒に帰り道を進む。今回の依頼の出来事を話題にしながら、ゆっくりと歩き続けた。
 一晩を野宿で過ごし、五日目の早めの時間にパリに到着した。
 ギルドに報告をするが、まだ冒険者達は立ち去らなかった。
 日が暮れて夜となり、ギルドにも人影が少なくなってきた頃、エグレットが訪れた。
 エグレットは無事に手紙を届け、感謝してくれた受取人の事を冒険者に笑顔で話す。しばらく話をした後で依頼に参加した者達は解散した。誰もが足取り軽く、帰路につくのであった。