【名も知れぬもの】闇の羽音
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 94 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月20日〜02月26日
リプレイ公開日:2007年03月01日
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●オープニング
「これからをどうするか」
ローブに身を包む悪魔崇拝者が仲間に話しかける。
真夜中に焚き火を囲むのは全部で六人。全員がウィザードである。
今日はこの洞窟に、昨日は鬱蒼とした森の中に泊まった。流浪の生活を送っている六人であった。
「そうだな。ここは託宣の場としても使われた事がある。しばらくいて、仲間がやってくるのを待つのもいいな」
悪魔崇拝者六人は悪魔崇拝ラヴェリテ教団の生き残りであった。
先頃のブランシュ騎士団黒分隊と冒険者の連合に破れ、ラヴェリテ教団は壊滅状態に陥る。一般信徒はいるものの、指導者エドガは行方不明となる。信徒達は途方に暮れていた。
「あれは」
洞窟の奥に置いてあった荷物が開いて、入っていたビールの容器が浮き上がる。その姿は見えなかったが、ラヴェリテ教団信徒達には思い当たる節があった。
「グレムリン様‥‥」
姿を現し、容器の栓を開け、ビールを呑んだのはデビル、グレムリンであった。
グレムリンは空の容器を地面に転がす。そして手紙を置いて姿を消した。
「これは託宣か!」
手紙を手に取った信徒の一人が封を開いた。教団の主であるデビルの騎士『アビゴール』が認めたものだった。誰に宛てた内容ではないが、信徒達の決起を促す内容である。
「巨大虫か‥‥。一部を我々に貸して頂こう。わたしに考えがある」
一人の信徒が残る五人に考えを説明し始める。
その内容を耳にする者が一人。
洞窟奥の岩影には信徒達とは関係ない中年男のドワーフがいた。先に洞窟で寝ようとしていたドワーフだが、後からやってきた六人を不気味に感じ、とっさに隠れていたのである。
信徒六人が寝静まるのを待って、ソロリソロリとドワーフは洞窟を後にした。
「えらいこっちゃ!」
真夜中にドワーフが目指したのはパリ。
誰かに今聞いた企みを教えなければと先を急いだ。
冒険者ギルドのカウンターに勢いよく両手が乗せられて激しい音がする。
「ここで預言とか、デビルの情報も集めていると聞いたが本当か?」
落ち着きのないドワーフに受付の女性は「はい」と答える。
ドワーフは洞窟内で見聞きした事を全部話した。
悪魔崇拝者のウィザード六人が、巨大虫をある場所から誘導して、ある村に送り込む計画を立てているという内容だ。
「なんだかエドガとかいうあいつらの親玉が生まれた村を襲わせるらしいが、わしはその村を知っているぞ」
受付の女性がドワーフの話す内容を書き留めてゆく。とても興味深い内容だが、他に似たような報告は受けていない。事実と受け取るには決定的な証拠が必要だ。
物的証拠がなくても、複数の筋からの情報が重なれば、信憑性は高くなる。今の時点では限られているギルドの人的資源を割けるかどうかわからない。会議にはかけてみるが、ギルドから依頼を出す形では無理なようだ。
「そうだ。これを寝ている奴らからくすねてきたのだが、役に立つかな」
ドワーフが手紙を取りだす。受け取った受付の女性は中身を確かめる。
「これがデビルが書いたものと判定できれば、すぐにでも対策をうてます」
受付の女性は大きく瞳を開いた。手紙の裏側をみると稚拙な絵が描いてある。どうやら地図のようだ。
「その地図はわしが描いた。パリに来る途中で奴らの話しを忘れないようにと思うってな。丸い点が六つあるだろ。最後の丸い点は襲われる予定の村。その他の丸い点は奴らが火を起こして巨大虫を誘導する地点らしい。第一地点は既に日にちを過ぎているな。もう奴らは動いてるはずだ」
受付の女性はドワーフに感謝して、さっそくギルド員の会議にかけた。承認された内容はギルドからの依頼として重要な掲示板へと貼られる。
ドワーフからの情報が正しければ、悪魔崇拝者のウィザード達は既に行動しているはずであった。
●リプレイ本文
●対決の森
「あの森が目的の場所ね」
月夜が照らす平野で、ラファエル・クアルト(ea8898)はセブンリーグブーツを履き、エーディット・ブラウン(eb1460)が乗る馬を手綱でコントロールしながら駆けていた。
「虫と変な人退治、頑張るですよ〜」
エーディットは揺れる馬にしがみつくように乗っていた。わずかに遅れて森を確認する。
「わし、置いていかれるつもりだったのに、みんなの厚意で何とかついていける状態になった。その分がんばる。うおおっ」
ズンヴァ・ラリ(ea6134)はセブンリーグブーツで走りながら、右腕を瞳に当て感激の涙を流した。
「悪魔信者たちの先回りをして誘導の火を焚かれないようにするんや」
中丹(eb5231)は大股に、跳ねるように自らのセブンリーグブーツで進む。
「悪魔崇拝信者、ね。虫唾が走るわね‥‥」
天津風美沙樹(eb5363)は愛馬伊吹を駆って、エーディットの乗る馬、響に併走する。響も天津風の馬だ。それだけでなく、ラファエルとズンヴァが履くセブンリーグブーツも天津風が貸したものであった。
森に入る手前で全員が停まり、馬に乗っていた者は降りる。
「ここからが本番や。改めて挨拶するんや。おいら、河童の中丹でおま。よろしゅうに」
「天津風美沙樹よ、よろしくお願いしますわね」
「うおおおっ。よろしくだ」
「よろしくね。虫にたかられて神に召されるなんて、誰だってまっぴらごめんよね。そんなえげつい手考える奴らを‥‥止めないと」
「よろしくです〜。村を襲うなんて非道は許さないのです〜。先回り出来たので先手を取るのです〜」
それぞれに挨拶をし終わると、夜空に浮かぶ赤い光を振り向く。冒険者ギルドから貰った地図の写しによれば、第三地点の方角であった。あの森林火災の周囲には巨大なブリットビートルが集まっているはずだ。
冒険者達は悪魔崇拝者の愚行をこれ以上許す訳にはいかなかった。
今は依頼日の初日から二日目にかけての深夜であった。すぐにでも対策をうちたい冒険者達だが、深夜の作業にはいろいろと不都合がある。
「ここもしておくですよ〜」
エーディットは周囲を見て回り、燃えやすそうな個所にウォーターボムで濡らしておいた。もし火を点けられたとしても、逃げる余裕が出来るからだ。
冒険者達は交代で見張りをし、眠る事にした。明日早くから作業する予定となった。
●長い一日
日が昇る前に全員が起床し、空が白みだすとさっそく作業を開始した。
ラファエルが土からはみだしたうねる木の根を越え、岩を迂回する。森の中、周囲とセブンリーグブーツを駆使して調べていた。臭いや音の探り、森林特有の地形を把握するのはラファエルの得意分野だ。悪魔崇拝者達が森を燃やし、巨大なブリットビートルを誘導するとすれば、どの位置に火を点けるかを想像する。
「ラファエルさん」
「あら、天津風さん」
ラファエルが考えた結論の場所に天津風が現れる。天津風もこの場所を悪魔崇拝者が狙うと考えたようだ。第三地点の方向近くの広葉樹が多く自生している辺りだ。今は葉が落ちていて水分が少なくて火が点きやすく、燃え上がれば第三地点から見やすい。
仲間を呼び、この場所に悪魔崇拝者用の罠を仕掛ける事が決まった。馬や荷物などはこの位置から風上の森から離れた場所に待避させるのだった。
悪魔崇拝者六人は馬車を降りて森に入る。そして出火させる場所を物色していた。
「この辺りが良さそうだな」
「ここなら全焼するまでに時間はかかるから、虫達が周囲に留まる時間もあるだろう」
「昨日燃やした林からよく見えそうだ。枯れた木も多い」
「そうだな。念の為、ここと、昨日燃やした林との中間に油を塗った丸太を用意するか。その方が順調に移動するからな」
ウィザードである悪魔崇拝者達は魔法で作業を開始した。まずは風を操り、木を切ろうとする。
「うおっ!」
一人の悪魔崇拝者が空中に逆さ吊りとなる。蔓で作られた罠に引っかかり、片足を持ち上げられて枝の下で宙ぶらりんとなった。ラファエルが作った罠である。
「どうした?」
悪魔崇拝者の仲間が駆け寄ると、地面が抜けて何人かが落ちかける。
大きな水球が吊された悪魔崇拝者にぶつかり、雨のように落とし穴周辺に降り注いだ。悪魔崇拝者全員がびしょぬれになる。殆ど同時に、枯れた背の高い雑草の向こうに隠れていた冒険者達が一斉に戦いを挑む。
虚を突かれた悪魔崇拝者達は右往左往するしかなかった。魔法による力は強力でも、盾なる者がいなければ発揮できない。奇襲をされる側になった悪魔崇拝者達に勝ち目はなかった。
「はいはいはい!」
オーラパワーを付与した剣を振るう中丹は一気に一人の悪魔崇拝者を退かせる。悪魔崇拝者は護身用の短剣を振うのに精一杯であった。
反対側からズンヴァがもう一人の悪魔崇拝者を追い詰める。悪魔崇拝者同士が背中をくっつけると、同士討ちを避ける為に中丹は横に流すように剣で斬りつけた。ズンヴァの回り蹴りも決まり、悪魔崇拝者の二人が左右に吹き飛んで地面に横たわる。
向かい合った中丹とズンヴァはアイコンタクトをとると、他の悪魔崇拝者を探す。
エーディットが逃げようとする悪魔崇拝者にウォーターボムを当ててバランスを崩れさせる。そこをラファエルが狙い、止めはスマッシュで斬り伏せた。
「ここまでくれば‥‥」
悪魔崇拝者の一人が襲われた場所から逃げていた。森が拓けて乗ってきた馬車が見えた時、刃が目前を舞う。
天津風は木の幹に隠れながらブラインドアタックEXによって居合を行った。一気に追い詰めて止めを刺す。そして馬車に誰もいないのを確認すると、仲間の元に戻っていった。
もう一人を冒険者達が倒し終わる頃、天津風が戻る。そしてぶら下がる悪魔崇拝者を地面に降ろして縛り上げた。尋ねる為にわざと捕まえたのだ。
戦意を喪失していた悪魔崇拝者は尋問に応じる。
六人いた悪魔崇拝者は依頼書にあったように『ラヴェリテ教団』の信徒だという。教団の指導者であるエドガが現在行方不明中で、彼が恨みを持つ村を全滅させれば戻ってきてくれると考えたようだ。下っ端なのかそれとも口が堅いのかわからないが、簡単な尋問ではそれ以上の情報を得られなかった。
冒険者達は悪魔崇拝者が乗ってきた馬車を確認する。たいまつや斧などの様々な道具を発見する。
「投網もあるんや。わいのを使わんでもすみそうや」
中丹は馬車の中から猟師セットを取りだす。
「まだきてない‥‥かな?」
ラファエルは第三地点の方角を見てから、森の突出している部分に視線を移す。木を多少倒せば、あの場所を森の大部分から切り離せる。そうすれば、森を全部燃やして虫を誘導しなくても済みそうであった。
ラファエルが考えを仲間に話す。
「虫の大体の大きさは分かるわ。落とし穴状に掘って、その底に先を鋭くした木を植え込んでいきますわ。 その辺りに蓋を外した瓶に入れたままの油も仕掛けておくわ」
「火の回りを早くしたいなら油使うか、場所選ぶ‥わよね。多分」
「森を全部燃やさないとすると、悪魔崇拝者達がいっていた丸太の誘導灯を用意した方がいいと思います〜。燃えてるのが見えないと〜」
「わし、木を切る。森、切り離す。丸太用意する」
「投網をつこうて虫たちの行動を阻害して、油をぶっ掛けて火つけて焼き殺すんや」
夜までには時間がなかった。このまま放っておいても、第六地点の村にブリットビートルが向かう可能性は限りなく低いが、それではこの周辺の村々に迷惑がかかるはずだ。
冒険者達は巨大なブリットビートル用の対策を行うのだった。
夕闇が迫る頃、切り離された森に火が放たれた。油が撒かれているせいで火の回りは早い。
森から切り離された場所は二カ所ある。冒険者達はまだ火が点けられていない罠が用意された近くに待機した。ブリットビートルが誘導の為の森林火災に集まった所で、より強い熱と光を放つ罠に点火し、閉じこめて焼き殺そうとする作戦だ。
道標となる油を塗った丸太に火を点けてきたズンヴァも一緒に待機する。
「来たわ」
ラファエルとエーディットが殆ど同時に、飛来する一匹のブリットビートルを視界に捉えた。次々と現れる虫達を見て冒険者達は緊張を高める。燃えさかる森の一角をじっと見つめていた。
悪魔崇拝者のいった十八匹を数え、罠の方に火を点ける。持ち寄った油のおかげで強く燃え始める。燃料として使った木材も脂の多い種類を使い、下からも空気が通りやすいように穴も掘ってある。
ブリットビートルはより強い光と熱を放つ罠の方に向かってゆく。
「いくわ!」
天津風が縄を切ると罠近くの小高い場所からたくさんの丸太が転げ落ちる。罠の周囲を飛び回っていたブリットビートル群が巻き込まれてゆく。地面には落とし穴があり、先を鋭くした丸太が立てられていた。ブリットビートルは落とし穴に落ち、そして丸太に突き刺さる。それだけでなく、置いてあった油に引火し、落とし穴から炎が吹き上がった。
「ファイヤーボム!」
エーディットがさらに炎による爆発を落とし穴の上に被せる。空中へ逃げようとした何匹かが、再び炎の中に落とされた。
「うりゃあや」
中丹はそれでも罠から逃げようとしたブリットビートルに投網する。
二匹がかかり、仲間が油を注ぐ。動きが止まった所に全員で攻撃を仕掛け、そして火を放つ。
すべての罠を潜り抜けた残るブリットビートル三匹が炎の周囲を飛び回っていた。強い火と熱のおかげで冒険者達を見つけられないようだ。
中丹はオーラパワーをかけ直してゆく。
「止まった所を狙うです〜。飛んでる時の体当たりはとても大変ですし、攻撃も当たりにくいです〜」
エーディットが作戦前に話したブリットビートルの知識を再度仲間に伝えた。
持っていた油を持ち寄り、それを丸太にかけて火を点ける。
おびき寄せる為の森の火。燃えさかる仲間を飲み込んだ罠の火。そして小さいながら少し離れた位置にある平野に現れた火。
三個所の火に迷い、三匹の虫は激しくさまよった。
一匹が地面に降り、冒険者達は武器を手に戦いを挑む。
天津風のイシューリエルの槍が斜め前方からブリットビートルを狙う。真横からズンヴァの突きが放たれて転がった。飛び立とうともがくが、ラファエルのスマッシュがそうはさせない。中丹の剣で羽根がもぎ取られる。瀕死になった所をエーディットがファイヤーボムで止めを刺す。
残り二匹も同じように仕留めてゆく。
「一匹たりとも逃さないのです〜」
最後の一匹、エーディットのファイヤーボムではあと一歩死に至らずに手足をばたつかせていた。剣を置いた中丹が跳ぶ。龍飛翔を叩き込み、ブリットビートルはピクリとも動かなくなる。
燃え上がる炎を背にして中丹のクチバシがキラ〜ンと輝いた。
燃やした森の一部は一晩中燃え続けた。
森の大部分に燃え移らないかどうかを交代で監視しながら、冒険者達は三日の朝を迎えた。
何人かの冒険者は悪魔崇拝者達が使っていた馬車に乗る。そして全員で近くの集落を訪れた。集落の長に事情を話し、捕まえた悪魔崇拝者を領主に引き渡してもらうように頼んだ。悪魔崇拝者が使っていた馬車と馬はその礼に集落の長へ渡した。
依頼がどうようなものだったかを話すと、集落の人々が一晩の宿と食事を用意してくれた。
泊まった部屋で冒険者達はこれからを相談する。作戦が功をそうし、時間に余裕があったからだ。
守った第六地点にある村に行く事も話し合われたが、そっとしておく事にした。
悪魔崇拝者の指導者であるエドガがはたして本当に迫害されたのかは、今になっては知る由もないだろう。少なくとも、その村の酷い噂はパリでは聞いたことがない。
この集落から直接パリに戻る事にした。
●パリ
馬やセブンリーグブーツのおかげで、四日目の夜に冒険者達はパリに到着した。それぞれの寝床で休み、翌日の五日目に冒険者ギルドを訪れて報告する。
「おう、あんたらかい! あの悪魔崇拝者達の企みを阻止してくれた冒険者ってのは」
中年のドワーフが冒険者達に近寄ってくる。彼の話によれば今回の依頼書の情報は自分が持ってきたのだという。おかげでギルドを経由して王宮から報償をもらったそうだ。
「商売もんで悪いが、これでも受け取ってくれ。パリを守れて、わしも嬉しいんじゃ」
ドワーフは『船乗りのお守り』をギルドにいた冒険者達に手渡した。
一日の余裕を持って依頼は終了した。すべては的確に動いた冒険者達のおかげであった。