【名も知れぬもの】闇の防衛ライン

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 3 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月20日〜02月27日

リプレイ公開日:2007年03月01日

●オープニング

「失礼します」
 丸めた羊皮紙を脇に抱えた軽装の騎士が執務室に入る。
 執務室内にはブランシュ騎士団ラルフ黒分隊長、エフォール黒分隊副長が席についていた。
「ごくろう、レウリー隊員。さっそくこちらに」
 軽装の騎士をラルフ分隊長はレウリー隊員と呼ぶ。
「はっ!」
 レウリー隊員はテーブルの上に羊皮紙を広げる。それはリブラ村周辺の地図であった。
「ここが今回の重要地点だ」
 ラルフ分隊長は用意されていたチェスの駒を手に取る。白のキングをリブラ村へと置く。
 リブラ村とは巨大虫の目撃地点である。いろいろな噂が飛び交っていて、真実は見えにくいが、それだけは確かな事だ。預言にまつわる大事件としてパリのみならず、ノルマン王国が激震していた。
「問題はここなのですね」
 エフォール黒分隊副長が黒のキングを山を跨いだ場所に置いた。
 そこにはヴィーヴル町があった。直線距離にすればリブラ村とは大して離れていないが、歩いて向かえばかなり遠回りしなくてはならない位置にあった。
「空飛ぶ虫にとっては、険しい山など関係ない」
「つまり、簡単に向かう事が出来るのですね? ラルフ分隊長」
「その通りだ。我々黒分隊は被害の拡大を防ぐ為にヴィーヴル町を死守する。つまりは巨大虫の壁となるのだ」
 ラルフ分隊長は山の中腹の拓けた場所に黒のナイトを置いた。
「ここが黒分隊の防衛ラインだ。問題は‥‥」
 ラルフは腕を組む。
「リブラ村とヴィーヴル町とは同じ領地内であったな?」
「はい。その通りです」
「なら私が出向いて領主に交渉しよう。長期避難が必要かも知れない。リブラ村の者の受け入れを了承させてくる」
「黒分隊長自らがお行きにならずとも、わたくしめが」
「いやエフォール副長には他の仕事を任さねばならない。ヴィーヴル町、町長の説得を頼む。長期避難を私が領主に交渉している件と、もう一つ、噂ではあるが巨大虫は光や熱に集まる習性があるらしい。つまり、夜には一切の灯火をせず、無灯火にして欲しい。念の為、外出禁止も徹底してくれ」
「はっ!」
「説得の後、引き続きウィーヴル町の警護をお願いする。万が一にも巨大虫が向かってしまうかも知れない。隊員七名をみつくろい、引き連れて向かってくれ」
「それでは肝心の山間部中腹での作戦に支障があるのでは?」
「私も領主との交渉が終わればすぐにかけつける。だが、確かに足りぬ‥‥。他の分隊もそれぞれに役目があるはずだしな」
 ラルフ分隊長とエフォール分隊副長はしばらく黙り込んだ。
「レウリー隊員、こちらへ」
 ラルフ分隊長は壁沿いに立っていたレウリー隊員に声をかけた。
「これから冒険者ギルドに行き、依頼をしてきてくれ。今回の作戦には冒険者の力を借りるとしよう」
「はっ!」
 レウリー隊員は依頼内容についていくつか質問をすると、冒険者ギルドに直行した。
 山の中腹の拓けた場所でブランシュ騎士団黒分隊と共にヴィーヴル町へと向かう巨大虫を殲滅する依頼であった。

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1987 ベイン・ヴァル(38歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea4340 ノア・キャラット(20歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea8284 水無月 冷華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

●準備
 冒険者達はそれぞれの方法でリブラ村とヴィーヴル町の間にある山の中腹に向かっていた。
 フライングブルームを持つ冒険者三人は注意しながら飛行したが、途中でそれらしき巨大虫は見かけなかった。
 続いてセブンリーグブーツを持つ者、そして途中でブランシュ騎士団黒分隊の馬車に乗せて貰った者達と、全員が午後を過ぎた頃には山の中腹に揃った。黒分隊の隊員と挨拶を交わすとさっそく作戦会議が始まる。
「はわ‥。リブラ村に居た虫さんが姿を消したですね」
 ラテリカ・ラートベル(ea1641)は朝方にパリで知った情報を話す。
「その通りです。昨日までは日に何匹かの巨大なブリットビートルと交戦になりましたが、今日は一度も現れていません。それから他の問題としては、デビルの目撃例があります」
「虫さんの数が増えるかも知れませんもの、気合を入れ直さないとですね!」
 黒分隊隊員の言葉にラテリカは小さくガッツポーズをとる。
「尋常ならざる数の巨大昆虫に、悪魔か。困った事だな」
 ベイン・ヴァル(ea1987)遠くの眼下にある点のようなリブラ村を眺めた。少し移動さえすれば中腹からヴィーヴル町も望める。
「虫の数が多い割に此方の人員はそう多くない。敵が大挙して押し寄せて来る前に罠などで効率化を計る必要がある」
「既に切りだした丸太を井桁に組んで、夜間にはかがり火を用意しています。虫は光と熱に寄ってくるので。もう少し井桁を増やすつもりですので、手伝ってもらえませんか?」
 隊員は昨日燃やして炭になった井桁を指差す。
「それ以外にも、網による罠や、虫が足をとられるような粘る罠を考えているのだが」
「私も同じ罠を考えていたです。網は出来るだけ高い所から投射出来ればなおよしです。それから私は戦いになったらテレパシーで連絡を受け持つです」
「黒分隊が戦闘時、テレパシーによる連絡をしているのを知っている。ラテリカも組み入れてもらえれば我々も助かる」
 ベインとラテリカが考えていた仕掛けは殆ど同じ物であった。感心した隊員はさっそく材料の手配をし、そしてどのようにテレパシーを活用しているかを話す。
「私は魔法の箒で高台など見晴らしのよい場所へ行き、遠目の能力を使って虫の群れを正確に探索しましょう」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)は微笑みながらフライングブルームを両手で握る。
「私は空を飛びながら索敵をしたいと考えています。もし遠回りしてヴィーヴル町に近づこうとする虫がいたら、持ってゆくランタンに火をつけてこちらまで引き寄せます」
 リアナ・レジーネス(eb1421)は手にしていたランタンを仲間と隊員に見せた。
「虫の状況を調査し、見つけたら仲間に知らせます。ファイヤー・トラップを仕掛けておきます」
 ノア・キャラット(ea4340)はスクロールを片手に張り切っていた。
「剣も魔法も未熟なれど、出来うる限りの事はするつもりです」
 志士の水無月冷華(ea8284)はいつでも刀が抜けるように背筋を伸ばし、足元の安定を心がけていた。
「敵は、虫笛により移動し始めたらしいです」
 レイムス・ドレイク(eb2277)は拳を強く握る。
 冒険者達は自分達が班分けをし、交代しながら事にあたるのを黒分隊側に伝える。
 A班がノア、ベイン、リアナで、B班はラテリカ、レイムス、ジークリンデ、水無月となる。
「ラルフ隊長は交渉に時間がかかっているようだ。しかし必ずここを訪れるはずだ。それまでは我々だけで出来る限りの事をしよう」
 隊員の一言で様々な作業が開始された。井桁を作るだけでなく、より広く戦いの場が使えるように、木も切られる。無闇に切られたのではなく、森林火災に繋がらないようにする配慮だ。冒険者の油も一部活用される。
 もちろん提案された罠も作られた。
 誰もが激しい戦いを予想していた。
 初日の夜、井桁に組まれた丸太が燃やされたが、虫の襲来はなかった。

●オーガ族の群れ
 二日目になり、夜明けからほどなくして、ラルフ分隊長が馬で駆けつける。隊員からの報告を聞くと、すぐに冒険者達のテントを訪ねた。
「留守にしてすまなかった。これから虫も襲来しよう。よろしくお願いする」
 ラルフ分隊長は監視と警備を行っていたB班の冒険者に声をかけた。
「志士の水無月冷華です。宜しくお願い致します」
「再び『黒分隊』と共に戦えるとは、光栄です。闇を払い明日を切り開く為、勇気有る誓いを胸に戦います」
「危急存亡のときなれば、及ばずながら全力を尽くしましょう」
「山火事にならないよに周りに小さなお堀を作ったりしました。ラテリカも、お手伝い頑張るです」
 丁度交代の時間になり、A班の仲間もテントから出てくる。
「お久しぶりです。ラルフ黒分隊長殿、ノア・キャラット‥‥今回も支援いたします、よろしくお願いします」
 全員がラルフ分隊長と挨拶を交わした。

「オーガ族の襲来確認!」
 索敵をしていた冒険者達から殆ど同時に報告があり、テレパシーと口頭により中腹にいるすべての者が警戒した。休んでいたB班は飛び起きて、戦いの準備を始める。
 冒険者が中腹にやってきてから未だ巨大虫は現れない。空から索敵出来る仲間は交代で虫を警戒する。オーガ族と同時に襲来する可能性もある。最初に虫の索敵を受け持ったのはリアナだ。
「最初にオーガ族とは‥‥」
 レイムスは武器を手に群れを成して森の中から襲来するオーガ族に呟いた。囮なのか本隊なのか。レイムスを含め冒険者全員が敵の作戦を心の中で計りかねていた。
 ほんのわずかだが、デビルの姿も窺える。ラテリカはムーンアローを使うがデビルには当たらない。少なくともこの周辺にいるデビルは巨大虫の統率者ではないようだ。
 圧倒的に勢いで黒分隊と冒険者の連合はオーガ族の襲来を退けた。だが誰もがしっくりとこない。あまりにも手応えがなかったからであった。

 三日目の朝になり、シフール便で手紙が届けられた。手紙はヴィーヴル町の警戒を指揮していたエフォール黒分隊副長からだ。
「敵の指揮している奴は頭がいい‥‥」
 ラルフ分隊長は手紙を読み終えると部下にそう話しかけた。
 山の中腹でオーガ族の襲来があった昨日にヴィーヴル町はデビルに襲われていた。手紙によれば黒分隊隊員、副長を含め八名でデビルを撃退するものの、重傷者多数とあった。薬類も切れてしまい、どうにもならない状況らしい。今の状態でブリットビートルが来襲するとなると、ヴィーヴル町の防衛は怪しい。
 ラルフ分隊長は以前に遇った悪魔の騎士アビゴールを思いだす。きっと奴が裏で作戦を立てているのに違いないと。
 その後、パリからも連絡が届く。リブラ村で虫の進撃を防ぐ作戦が冒険者と騎士団とで決まったと書かれていた。
 夜、井桁のかがり火から火の粉が天へと昇る。山の中腹だと寒さはかなりきつかった。ラルフ分隊長は歩いてヴィーヴル町が望めるはずの崖に立つ。灯りは一つもなく、真っ暗でとても視線の向こうにヴィーヴル町があるとは思えない。
 ラルフ分隊長は大怪我をしながらも奮闘してくれている副長と部下に敬礼をした。

●ブリットビートル
 四日目の日中、リアナが灯されたばかりの井桁のかがり火近くにフライングブルームで降りた。追っていたブリットビートルが今度はかがり火に注意をとられて周囲を回り始める。
 近くに設置された粘着する罠に虫が止まると、一斉に攻撃がされた。
 今日になって倒した虫の数は五匹を数える。
 ラルフ分隊長はジークリンデにお願いし、ペットであるフレキに状況を記した手紙を持たせ、ヴィーヴル町の副長の元に向かわせた。
 状況からいって今夜からがブリットビートルとの戦いになると、ラルフ分隊長は考えていた。

 夕刻になり、いつもは一個所だけの井桁のかがり火は三個所用意されていた。出来るだけ一個所にまとめてた方がいいのはわかっていたが、ヴィーヴル町に一匹でも向かわせる訳にはいかなかった。その為にすべての虫が集まるようにかがり火が設置されたのである。
 そのうちの一個所は冒険者達が受け持っていた。
 この日が決戦と考え、全員で対処にあたるつもりであった。もちろん交代で休めるように準備は用意されている。
 星が消え、虫の大群が夜空を覆う。
「殲滅!」
 ラルフ分隊長のかけ声と共に戦いが始まった。
「こっちです!」
 リアナは中腹からヴィーヴル町寄りの空を飛び、たまたま、かがり火に引き寄せられなかった虫をフライングブルームに取りつけたランタンの光で誘導する。高速の虫相手には命がけの任務である。常に速く飛び続けて翻弄していた。
「邪魔だ!」
 ベインは高速で飛来する虫を弾き、後衛の盾となった。後衛の一人であるリアナは虫を誘導しているが、数が落ち着いたら駆けつけてくれる約束だ。飛んでいる時に倒せない訳ではないが、これだけの数だと体力が持たない。仕留めるのはノアに任せていた。
「大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて我に力を与えよ! 爆炎となり集まりし虫を蹴散らせ! ファイヤーボム」
 ノアの繰り出した輝く火球が一瞬にして夜空に広がる。飛び込んだ虫が黒こげになって雨のように降り注ぐ。
「巨大な虫を攻撃せよ!」
 水無月はウッドゴーレムに命令を出す。
「凍れ!!」
 そして襲ってきた虫をアイスコフィンで凍らせて前方に防壁を造り上げた。水無月は魔法攻撃によって瀕死となった虫に止めを刺すが、すべてにおいてB班の護衛を優先させる。
「絶対に防衛ラインを越えさせません!」
 レイムスもB班の盾となるが、得意技を駆使して殲滅も行う。放たれた技で虫の羽根がもぎ取られて飛散する。すべては後衛の魔法詠唱の時間を稼ぐ為であった。方法は違っても目的は仲間と同じである。
「飛んで火に入る冬の虫よ!」
 フレイムエリベイションで自らの士気を高めたジークリンデはファイヤーボムを叩き込んだ。すでに何回もファイヤーボムを使えたのは黒分隊からもらったソルフの実を大量に使っていたからだ。もちろん他の術者にも手渡されている。
「こちらに集中していますです」
 ラテリカは黒分隊とのテレパシーによる連携を行う。わざと仲間に聞こえるようにテレパシーと同じ内容を言葉にする。このおかげで戦力を無駄にする事なく、最大限に活用出来ていた。
 ノアがスクロールを駆使して大量の虫を地面に落として足止めさせる。前衛はここぞとばかりに虫を蹴散す。
 粘る罠も、網による罠も、効果があった。足止めされた状態で攻撃すれば、虫は大した驚異ではなかったからだ。
 早めに片方の班が休憩をとり、交代で事にあたる。
「大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて武器に集い焔の力を開放せよ! バーニングソード!」
 ノアは交代の始めにはベインに、終わりには別班の前衛へとバーニングソードをかける。戦いの間は魔法攻撃で手一杯になってしまうので、このタイミングは外せない。
 戦いは一晩中続いた。
 五日目の朝が訪れた頃には、時々、空に数匹の虫が飛来する程度となる。そこで黒分隊の一部に任せ、冒険者達は昼の間に長く睡眠をとる事にした。ラルフ分隊長がまだ最後の決戦が残っていると説得し、それに冒険者達が同意したからである。
 夕闇になり、再び飛来する虫の数が増え始めた。ラルフ分隊長のいう通りになる。
「ここが正念場。踏みとどまれ!」
 堰を切ったように虫の大群が押し寄せる。ラルフ分隊長は檄を飛ばした。
 ベインはたいまつをかがり火から離れた場所に立てて止まった虫を狙う。
 ノアとジークリンデによるファイヤーボムの火球が空を輝かせる。ノアの仕掛けた魔法の罠も虫を巻き込んで動きを止めた。
 群れの統率者はどうやら近くにいないようであった。ラテリカのムーンアローは外れる。しかしテレパシーによる情報網は何事にも代え難かった。虫の数が減少に転じるとラテリカはシャドゥボムで虫を狙う。
 水無月は最後と感じた時、接近戦に持ち込んだ。カウンターアタックで仕留めてゆく。
 虫の誘導を一段落させたリアナは、ライトニングサンダーボルトを発動させる。一直線に伸びてゆく雷光は虫の群れにトンネルを空ける。
「ノルマンの地を汚す者は、聖なる神罰の一撃を受けよ」
 レイムスが止めを刺した虫が動かなくなる。その虫をやってから一時間が経過しても、新たなブリットビートルの影は現れなかった。
 勝利の叫びが山に木霊するが、疲れきった者達はその場に座り込む。
 かがり火を囲むように黒分隊と冒険者達はひたすら待機した。

 六日目の朝が訪れ、昼になっても虫の襲来はなかった。しばらくしてリブラ村から虫の殲滅に成功したという吉報が伝えられた。
 すでに怪我などの治療は終わっていたが、一部の見張りを除いて全員が休憩に入る。
 ラルフ分隊長は隊員に後を任せ、馬に跨ってヴィーヴル町に向かう。馬には持てるだけの薬を積んでいた。

 七日目の朝に黒分隊と冒険者達は山の中腹をあとにする。
 全員が黒分隊の馬車に乗り、パリに帰還した。
 数日後、冒険者達は活躍を褒め称え、報償が与えられる。一人一人の名前は黒分隊全員の記憶に刻まれるのだった。