コズミとの戦い 〜生き残りのデュカス〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 44 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月06日〜03月13日

リプレイ公開日:2007年03月13日

●オープニング

「かなり空けていたね」
 十四歳の少年デュカスは久しぶりに世話になっている青年ワンバの家へと入る。
「戻ってきましたな」
 ワンバが自分より少し年上のガルイをベットに寝かす。ガルイは無言のまま、うつ伏せになる。ガルイの怪我をおして行った旅だったが、やはり堪えているようだ。完全には直っていなかった。
 デュカスが水をカップに入れて持ってくる。寝ながらガルイは受け取ると、一気に飲み干した。
「まーコズミの収穫はあった。いい旅だったぜ」
 強がりをいうガルイにワンバがやれやれとした表情をする。
 『コズミ』とは盗賊集団であり、デュカスの父と母の仇である。弟『フェルナール』も村をコズミに襲われた時、殺されたと思っていた。だが、この間のコズミの一派との戦いでデュカスはフェルナールと剣を交えた。どういう経緯があったかは想像しか出来ないが、フェルナールはコズミの一員となっていたのだ。
 ワンバは元コズミであったが、恋人を救おうとした事で裏切り者となる。ガルイもワンバと同じ様な境遇であった。今は三人ともコズミを敵とする仲間だ。
 三人が旅していたのは、盗賊集団コズミのアジトである集落を調べる為である。
 盗賊を生業とする集落が点在する地域が存在する。行う盗みの規模により、それぞれの集落が手を組む。そのときの集団名称が『コズミ』という。ちなみにワンバとガルイはそれらの集落の生まれではない。
 数年前、その地域に一人の策士が現れた。彼の名から集団名称がコズミと名付けられたという。
 ワンバによれば、彼が現れてから地域の盗賊のスタイルが変わった。前は盗んだ相手の命まではとらなかったものが、躊躇なく村ごと焼き捨てるようになった。そのせいで生き残りが少なくなり、未だコズミの正体は領主にはばれていない。もっとも、かなりの裏金を領主に収め、お目こぼしをもらっているとの噂もある。
「奇襲をやるとしても、人数は必要な感じだね。あの警備の仕方からすると」
「そうですなあ。まあ、金は貯め込んでいますよってに気にせんと。パッと傭兵でも雇いますやろか」
「今度こそ俺も参加するぞ。なんといおうとやる!」
 三人は帰ってそうそうに話し合いを始めた。
 その夜、デュカスは形見となってしまった剣を持ち、ベットに座っていた。ずっと考え続けていた事の答えを出さなくてはならない。もうすぐ敵討ちになるからだ。
 盗みは許されるものではない。まして人殺しはなおさらだ。
 だが、許す部分もなければ人の負の感情は永遠に続いてしまう。デュカスは葛藤していた。
 罪を償おうとする者は罪人ではない。復讐だけに囚われてはいけない。他にもコズミを追う間にいろいろな言葉をもらった。
「大元の悪は絶つ‥‥。それだけはしなくてはいけない。そうした後、残った人がどうするのかはわからないが、しばらくは見守ろう」
 朝になって起きたワンバとガルイにコズミ討伐に関する目的を伝えた。
 狙うは策士『コズミ』のみ。彼を倒すまで盗賊とは戦うが、それ以上の事はしないと。
「弟はいいんですかい?」
 ワンバに訊かれ、デュカスはしばらく黙った。
「フェルナールはぼくが説得する。それしかいえない」
 デュカスはそういって冒険者ギルドに出かけた。

 冒険者ギルドの受付の女性に傭兵の募集をかける。詳しい内容は後で知らせる内容だ。
 別口の傭兵として前にお世話になったカローにも連絡をとった。それなりの人数を集めてくれるそうだ。
「頼もしい仲間か」
 デュカスは今まで出会った冒険者、そしてこれから会うであろう冒険者の事を考えながらワンバの家へと帰っていった。

●今回の参加者

 eb1790 本多 風華(35歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb8113 スズカ・アークライト(29歳・♀・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb9782 レシーア・アルティアス(28歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ec0037 柊 冬霞(32歳・♀・クレリック・人間・ジャパン)
 ec1290 リヨン・シュトラウス(25歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

リア・エンデ(eb7706)/ エメラルド・シルフィユ(eb7983

●リプレイ本文

●山奥へ
 馬車が二両、パリの外れに停まっていた。
 今回の依頼に向かう者達の前で見送りのリアが歌う。全員の気勢を上げて縁起を担いだ。
「こっちこっち。魔法の言葉を教えるのです」
 歌い終わるとリアが柊冬霞(ec0037)を手招く。
「目を瞑って絶対大丈夫って三回唱えれば勇気がわいてくるのですよ〜」
 リアの囁きは柊の心の内を察しての事である。
「盗賊団は活発に活動しているようだ。かえって集落には人が少ないかもしれないぞ。みんな気をつけてな」
 もう一人の見送りであるエメラルドは発車した馬車に手を振る。リアも大きく手を振っていた。

「皆さんありがとうございます」
 デュカスは冒険者と同じ馬車に乗っていた。ワンバ、ガルイと調べたコズミの集落の地勢についてなどをデュカスは伝える。
 頼もしい新たな冒険者もいれば、世話になった顔なじみの冒険者もいる。デュカスは少しだけ肩の荷が軽くなった。
 夕方になり、馬車を停めて森近くの野原で野営をする。十六名もいるとかなり賑やかである。
「到着したら一日はかけて、策士やあなたの弟の居場所を収集すべきだ。及び集落の見張り等に関しても――」
 焚き火にあたりながら、リヨン・シュトラウス(ec1290)はデュカスに作戦を提案する。
「デュカス、あたしもそう思うのよねぇ。人数、武装の状態なんかをね。かといって不用意に近づいたりして、戦ったりはするつもりはないわぁ〜。そんなドジはするつもりはないけど、侮るようなマネもしないわよ」
 レシーア・アルティアス(eb9782)はワンバの用意したワインを口にする。
「討伐戦ですが頑張ります。これは冒険者側の意見なのですが」
 コルリス・フェネストラ(eb9459)は冒険者の間で予め話し合った大まかな作戦をデュカスに伝えた。討伐班と誘導班に別れてコズミを狙う作戦だ。コルリス自身は誘導班を務めるという。
「どこにでも悪漢というものは居るものですわね。人間の負の感情はどこまで深いのでしょうか」
 本多風華(eb1790)は傭兵のまとめ役であるカローと世間話をしていた。可能性として傭兵の中にコズミに懐柔された者がいるかも知れない。そう思っている事を気取られぬように自然体で探りを入れる。信頼すべきは冒険者。油断は禁物であった。
「冬霞、そんな所にいないで火にあたったらどう? まだ夜は寒いわ」
 焚き火から離れて岩に座っていた柊にスズカ・アークライト(eb8113)は近づく。
「ほらほら」
 柊を立たせたスズカは連れてゆき、デュカスの隣りに座らせた。
「あの‥‥デュカス様は策士コズミについて、どうお考えですか?」
 柊は訊ねる。
「盗賊達は罪なき人々から様々なものを奪ったはず‥‥。だからといってぼくが裁く訳にはいない。だがそれをさせた策士コズミは許せないと思ってる」
「私達はデュカス様の思いを汲んで此処にいるのです。悔いを残さない様に致しましょう」
「ありがとう。実は策士コズミに関わるお願いがみんなにあるんだ」
 デュカスは柊に頷いてから立ち上がり、全員に話しかけた。

「冬霞の事で話したいんだけど、ちょっといいかしら?」
 テントに入ろうとしたデュカスをスズカが呼び止める。少し離れた木の下に移動した。柊は馬車内で寝ているはずだ。
「冬霞にはあまり時間が残されていないの」
 スズカの話に驚きながらデュカスは聞き続ける。柊は不治の病であり、彼女自身はその事実を知らないようだと。
「あの子が献身的と言うより自己犠牲的なのは、無意識に自分の命が長くない事を判ってるからだと思う――」
 デュカスは過去の出来事を思いだしていた。
「――私のカンだけど、貴方には話しておいた方がいいかと思って‥‥実の所、貴方は冬霞の事どう思ってる?」
 スズカは優しくデュカスに訊ねる。
「ぼくは、あの‥‥今まで殺された肉親の復讐の事しか‥‥。でもこの討伐の旅が終われば考える余裕もできるはずです。もうすぐなんです」
「そうだったわね。でも考えてあげてね。冬霞は真剣なはずよ」
 デュカスとスズカはそれぞれの寝床へと別れるのだった。

●準備
 二日目の夕方に一行は山の麓に辿り着く。
 馬車を放置するので、その間、馬が平気なように目立たない辺りの崖に横穴を掘り、草を集めておく。そして馬車で横穴に蓋をした。狼などの野生動物に襲われない策だ。
 一晩を麓で過ごして三日目の朝、一行は山を登り始める。コルリスの意見を聞いて獣道を進んだ。普通の道を進んで盗賊と遭ったら元も子もない。
 ガルイが地元の者でも滅多に立ち入らない場所を知っているそうだ。
 訪れた場所は張りだした崖の先にまで木がそびえ、背の高い草が生えていた。
 着いてさっそく集落の情報収集を開始する。スズカの視力は大したもので離れた眼下の集落の様子がわかるらしい。前にデュカス、ワンバ、ガルイが作った地図に新たな情報を書き込んでゆく。
「ここは矢で攻撃してもらうのがいい」
 リヨンは視力の良さと山岳の知識を活用して集落北部半円の見張り位置などを調べ上げた。近づかなければわからない情報も多い。弓を使える仲間は全部で四名いる。見張りを一気に倒せればいろいろと作戦はやりやすくなるはずだとか、細かい作戦部分を考えながら山を駆ける。
「人様に迷惑かけておいてぇ‥‥間違ってるわ」
 レシーアは南部半円を受け持ち、その視力の良さで集落をつぶさに観察する。笑いあう盗賊集落の者達にレシーアは腹を立てた。
 焚き火の灯りが洩れない工夫、戦いに必要な物資の用意など、やる事はたくさんあった。

「策士コズミは三十代半ばの男です」
 夜中、全員がいる場所でデュカスは話す。ガルイが持っていた絵を全員が確認した。コズミは筋肉質の鋭い眼光を放つような男である。
「それとぼくにそっくりな少年を見かけたら‥‥保護してもらえませんでしょうか? 弟のフェルナールのはずなんでです」
 デュカスはすべての考えを伝えたつもりでも不安が残る。
「フェルナール‥‥」
 デュカスは弟の安否が気にかかっていた。

●決戦
 四日目の夜に攻め入る事が決まった。
 策士コズミを倒せば撤退する予定である。追っ手を排除する為と、陽動によっておびき寄せた時の為に罠を仕掛けた。準備をしている間に日は落ちて星空となる。
 深く寝静まった頃、一行は作戦を決行した。
 討伐班が進入する西側には小さな門がある。コルリスと陽動班の二人が弓を引き、狙いを定めた。
 集落の門番を務めていた二人が倒れる。敵側の者は誰も気づいた様子はない。
 コルリスと二人は他の陽動班と合流した。
 狙うは正門の敵である。さっき西門とは違って大きな門だ。見張りは六人もいて、他にも控えているだろう。
「姉さん、がんばってや」
 ワンバが矢を用意してコルリスの立つ後ろの筒に矢を補充する。四人の弓持つ者の後ろには大量の矢が筒によって立てられていた。矢の先には油が染み込んだ布が巻かれている。
 矢を放つ者は側に置かれたかがり火で矢の先を灯す。そして一斉に放った。炎の矢は闇に放物線を描き、見張りの盗賊を狙う。
 何名かの見張りの盗賊が倒れ、建物に小さく火が灯る。警鐘が鳴らされて騒然となるのが高台にいてもわかった。
 弓持つ者の前には厚い盾を持つファイターがいた。敵も矢で攻撃をしてくるが、陽動班のいる場所は高台である。距離は同じでも矢の届く範囲は圧倒的に陽動班が有利だ。
 炎の矢を放つのは、盗賊側に消火の人手が必要になるからである。少しでも多く、盗賊集落の者を正門近くに集めなくてはならない。
 コルリスは矢を放ち続けて、正門が開くのを待つ。盗賊達の焦燥感が募り、我慢出来なくなって飛びだしてくるはずだ。そうすれば高台までの途中に仕掛けた罠が効力を発する。ファイター達の出番もあるはずであった。

 討伐班は西門から盗賊に悟られぬよう静かに潜入する。正門の方角はとても騒がしく、陽動の成功が窺えた。
 インフラビジョンを駆使するリヨンが道案内をする。細かな場所まで把握していて適任であった。策士コズミがいるのは集落の中央に位置する屋敷だ。
 途中何人かを切り伏せる。進入されたとはまだ気づかれていないはずである。
「ここにコズミなる者がいるのですね。その名を消滅させ、盗賊らを繋げる悪しき呪を断つ事と致しましょう」
 本多は屋敷を見上げてから一歩前に出る。リヨンも横に立ち、それぞれに魔法を詠唱した。
 屋敷の上に真っ赤な火球が現れて弾ける。屋根の一部が吹き飛んでゆく。
 わずかに遅れて本多の放ったムーンアローが夜空に舞った。全てを通り抜けて屋敷内に吸い込まれてゆく。策士コズミがいる事を示していた。
 屋敷内から盗賊達が飛びだしてくる。ざっと見ても二十人はいた。
 討伐班は円陣を組み、中央に後衛を置く。再びムーンアローが放たれるが、また屋敷内に吸い込まれてゆく。外に出てきた盗賊の中にはコズミはいない。
「出てこないとは卑怯者です」
 リヨンは盗賊に再び火球を放つ。
「一気に行く!」
 デュカスは屋敷内への進入を決断した。
「デュカス、私に任せて下さい!」
 スズカはデュカスの前に立つ。屋敷内に入った時、デュカスに瓜二つのフェルナールが剣を構えていた。
「冬霞も先に行きなさい!」
 スズカがフェルナールと剣を交えると叫んだ。
 レシーアとカローは柊を挟むようにして飛びかかってくる盗賊を倒してゆく。柊は仲間の回復に努めた。盗賊はそれなりの実力を持っていて無傷とはいかなかった。
「大丈夫か?」
 一度跪いた柊にデュカスが近づく。
「私の事はお気になさらずに、自分の思いを貫いてお進み下さいませ」
 デュカスは頷いて剣を振るう。本多のムーンアローの向かう先は大分近づいてた。
 レシーアが柊の手についた血に気がつく。跪いた時、柊は咳をしていた。訊ねようとしたレシーアに柊は首を横に振る。
「デュカス様には黙っていて下さい」
 そういって柊はレシーアを回復した。
 討伐班は扉の前に立っていた盗賊二人を倒して広間へと入った。
「こんな小僧の仕業に右往左往しおって」
 二人の盗賊に守られた男が椅子から立ち上がる。
「デュカスだ。‥‥おまえがコズミか?」
「そうだといったら?」
 ワンバからもらったソルフの実をかじり、リヨンが魔法を詠唱する。火球が弾けても盗賊達は怯まない。煤けた臭いが広間に広がった。
 同じくソルフの実を口にした本多もムーンアローを放つ。椅子を立った男に突き刺さった。間違いなく策士コズミである。
「デュカスくん、本懐を!」
 盗賊の一人にカローが立ち向かう。もう一人はレシーアが受け持つ。
「うああああっ!」
 デュカスは策士コズミに駆け寄った。
 剣と剣による、金属音が激しく続く。天井に反響して響き渡る。
 広間にやってきたスズカが両手を縛ったフェルナールを柊とリヨンに預ける。リヨンは二人を連れて安全そうな場所に移動した。
「もう少しだけ持つでしょ」
 スズカは赤くなりかけた瞳で真っ直ぐに盗賊に見つめるとニヤリと笑う。そして手についた血を舐めた。戦いの中、狂化の一歩手前であった。瞳だけでなく髪も赤く染まりかけていた。
「邪魔はさせないわ!」
 スズカはレシーアに加勢する。二人がかりで一気に倒し、そのままカローに加勢した。程なくカローが対峙していた盗賊も倒れ、残す戦いはデュカスと策士コズミだけになる。
 仲間はデュカスを見つめていた。
 旅の初め、策士コズミと一対一の戦いが始まったのなら、そこからは一人で最後までやらせて欲しいと、デュカスは仲間に頼んだのであった。
 盗賊達が広間にやってきた。冒険者達は壁となるつもりであったが、盗賊達は戦おうとはしなかった。デュカスと策士コズミの戦いを見つめていた。
 二人とも深く傷を負い、血を流して動きが鈍くなる。
 デュカスの放った剣が策士コズミの喉元に突き刺さる。そして勝負は決した。
「呪の大元である策士コズミは討ち果たされました。これ以上の戦いは無用のもの!」
 本多は策士コズミがしていた首飾りを引きちぎり、右手で掲げながら盗賊達に訴える。カローがデュカスを背負い、泣きながら柊が回復に努める。
 盗賊達はざわめきながらも、武器を振るおうとはしなかった。そのまま討伐班は集落を脱出する。そして陽動班と合流した。
 麓の馬車を置いた場所に着いた時には、日は昇っていた。

●明日から
 五日目は夕方まで馬車で走りきる。盗賊達は戦意喪失していたとはいえ、追っ手が来る可能性は捨てきれなかった。
 デュカスは六日目の昼頃に意識を取り戻した。
 瞳を開けると覗き込んだ仲間の顔が目に入る。
「これは‥‥母さんが持っていた腕輪だ」
 デュカスは知らぬ間に握っていた腕輪を眺めた。生前の母親がしていたのを覚えている。
「それはあなたの弟が持たせたのです」
 リヨンは話す。デュカスと策士コズミが戦っているのを見て、フェルナールは涙を流していたと。戦う兄の姿に何かを感じたようだ。
 戦いが終わり、麓に着いて馬車で出発する時、自分がしていた腕輪を意識のないデュカスに持たせた。今は傭兵側の馬車にフェルナールは乗っているという。
「そうか‥‥教えてくれてありがとう」
 まだフェルナールと話していないデュカスだが、心配していた事は杞憂であったようだ。時間はかかるだろうがデュカスは元の兄弟に戻れる気がした。

 一晩の野宿の後で七日目に一行はパリに到着した。
「コルリスさん、誘導の方、とても助かりました」
 デュカスは一人一人にお礼の言葉と共に握手をする。柊がデュカスと握手した後、両手を組ませてうつむいた。
「それでは皆さんお別れです。配布した物は差し上げます。盗賊集落についてはギルドに頼んで王宮に詳細を伝えてもらうつもりです。あそこの領主は信頼がおけませんので。ありがとうございました」
 デュカスの挨拶で解散となった。冒険者はギルドへの報告が残っているが、とりあえず仕事が終わった事になる。
「えっ?」
 柊は誰かに背中を押される。そしてデュカスの前に立つ。
「これからどうするおつもりですか?」
「細かい事が片づいたら、生まれた村があった場所に戻る。出来るなら村を再建するつもりなんだ。ワンバもガルイも手伝ってくれるって。きっとフェルナールも来てくれるだろう」
「あの‥‥もしよろしければ、私と‥‥」
「‥‥柊、よければキミも来てくれないだろうか?」
 思いがけないデュカスの一言に柊は言葉を無くした。
「今すぐに答えを出さなくてもいい。しばらくしたらお世話になった人達を呼んで宴を開くつもりだ。その時にでも」
 柊は唇を振るわせて答えようとする。
「早くギルドに行くぞ!」
 ガルイが遠くでデュカスを叫んだ。
「それじゃあ」
 デュカスは手を振るとガルイとワンバの元に駆け寄った。柊の肩をレシーアとスズカが叩く。冒険者達もギルドへと歩みを進めるのであった。