ブロズ城進入阻止・奪回 〜マーメイド〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 47 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月12日〜03月19日

リプレイ公開日:2007年03月19日

●オープニング

「そんな事いわれても、どうしろっていうんだ!」
「だから人間は信じられないといっている!」
 アクセルの家では怒号が響いていた。
「やめて! アクセルもカルロス兄さんも」
 フランシスカが二人の間に入るが口喧嘩は止まらない。
 人間の男アクセルの元でマーメイドの娘であるフランシスカとその兄カルロスは世話になっていた。
 カルロスが人間に誘拐され、それを追ってフランシスカはパリにやって来た。途中、アクセルと知り合い、冒険者の力も借りてカルロスの救出に成功する。今はカルロスの体調が戻っていないので、パリのアクセルの家で休養中であった。海に戻るのはもう少し先の話である。
 マーメイドは身体の大部分が乾きさえすれば魚の尾を足に変え、人の姿になる事が出来た。フランシスカとカルロスは人の姿で普段を過ごしていた。
「フランシスカ、確かにこの人間に助けられたかも知れない。だがこいつは一族の敵だ。私は平気だから早く海にある故郷に帰ろう」
「無理はいわないで。とても旅が出来る身体じゃないわ。あの領主ブロズの娘、シャラーノから酷い目に遇わされたのだから」
 ベットから立ち上がろうとして倒れるカルロスをフランシスカが支える。そして再び寝かすとアクセルと一緒に隣りの部屋へ移る。
「アクセル、ごめんなさい。兄には私からいうから‥‥。本当にごめんなさい」
「気にしてないよ。昔‥‥だけでなく、今もマーメイドを食べれば不老不死になれるという迷信は残っている。そう思うのも無理はないさ」
 アクセルがカルロスの寝る隣りの部屋を見つめた。

「二人が仲良くする方法はないかな‥‥」
 買い物をするフランシスカはカゴを持ちながら市場を回る。
 手に入れてゆくのはスープの食材だ。主に海の底で過ごすマーメイドにとって煮込む料理はとても興味深いものであった。魚の味も熱が加われば全然変わって味わえる。フランシスカは人間の食事も結構気に入っていた。
「この似顔絵に似ているな」
「かけて見ればわかるか」
 男達の会話がフランシスカの耳に届く。振り向くとそこにいた一人には記憶がある。前に兄の居場所を尋問した家畜商の主人だ。
「それ!」
 家畜商の主人の横にいた男が、持っていた木桶を回すように振りかざした。

「これで何とか体裁を保てるってもんだ」
 馬が牽く荷台の上で、家畜商の主人は小さな水槽を前に呟いた。囲いで覆われたその水槽の中で一つの影が揺らめく。
 両手を縛られ、マーメイドに戻ったフランシスカであった。
「しかしよくこんなに早くマーメイドが手に入りましたね」
 主人に訊ねたのは領主ブロズの使いの者である。
「少し前だが、パリ近くの村でマーメイドが捕まり、理由はよくわからないが開放されたという噂があっての。パリで捜してみて、まさかと思って水をかけたら、なんと本物のマーメイド。海まで捕らえにいく手間が省けましたぞ」
 家畜商の主人は笑ったが、心中は穏やかではなかった。領主ブロズの別宅に住むシャラーノ嬢の元から男のマーメイドが連れ去られたという。自分が脅されマーメイドを誰に渡したか白状したせいではないかと冷や冷やしていた。
「とにかく女のマーメイド。シャラーノ様も今回は興味を示しませんでしょう。今度は別邸ではなく、城まで届けろとの命令です。シャラーノ様も御出になるようです」
 使いの者は近くにあった椅子でくつろぎ始めた。

 夜になってもフランシスカはアクセルの家に戻らなかった。心配になり、アクセルは大半の物売りがいなくなった市場を訪れる。話を訊くと昼間に突然マーメイドが現れて大騒ぎになったという。
 アクセルは家畜商の住処を探りにいった。留守番を残して他には誰もいない。突然の仕事でブロズの城に出かけたそうだ。
「フランシスカが‥‥捕まったのか」
 家に帰ったアクセルが事を話すとカルロスと大喧嘩になった。
 朝一番にアクセルは冒険者ギルドを訪ねた。すぐにでもフランシスカを助けに行きたかったアクセルだが、無謀は何の解決にも繋がらない。冷静さを装いながら救出の依頼を出すのだった。

●今回の参加者

 eb1964 護堂 熊夫(50歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb2235 小 丹(40歳・♂・ファイター・パラ・華仙教大国)
 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5528 パトゥーシャ・ジルフィアード(33歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●出発
「私はパリで準備をしてから追いつきます」
 十野間修(eb4840)は愛馬木蓮に跨り、アクセルの馬車に集まった仲間から遠ざかってゆく。
「皆さん‥‥集まって頂いてなんといっていいか‥‥」
 アクセルはとても沈んだ様子で挨拶をする。俯き気味でどこかやつれた感じも見受けられた。
「久しぶり! 今は時間がないから、先を急ごうね」
 パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)はアクセルの背中を押して馬車の御者台へと誘導する。
 その場にいた全員が馬車に乗り込んでゆく。既にフランシスカの兄であるカルロスが座席の後ろにある本来荷物を置く場所で横になっていた。
「フランシスカはんの兄さんやな。覚えておるかな。おいら、河童の中丹でおま。よろしゅうに」
「この間、助けてくれた河童の中丹さん。もちろん覚えている。妹の事でまた世話になる。ありがとう」
 中丹(eb5231)が座席から後ろを向いてカルロスに挨拶をした。
「カルロスさん、お久しぶりです。これを着て下さい。とても暖かいですし、厚いので馬車の揺れも軽減されるはずです」
 護堂熊夫(eb1964)は自分の持ち馬を馬車に取りつけてから馬車に乗った。そして『まるごとホエール』をカルロスに着せる。
 馬車はまもなく発車した。
「なんじゃ、カルロスの坊ちゃんが体調を整えて、後はパリを脱出するだけかと思っておったんじゃがな。ほっほっほっ」
 小丹(eb2235)は両端が尖った髭を触りながら笑う。
「そうなんです。慎重にし過ぎて、またフランシスカが危険な目に‥‥。みんな俺が悪いんです‥‥」
 御者台にいるアクセルが丸めた後ろ姿のまま、呟いた。
「まったくだ。とっとと海に帰ればこんな事には」
 カルロスは吐きすてるように話す。
「まーまー、アクセルさんがいなければ、カルロスさんは今頃どうかなっていたかも知れないのです。そうでしょう?」
 護堂が訊ねると、カルロスは「それはそうだが」と小さく呟いた。
「相談をしよう。時間はあまりないからね」
 パトゥーシャの一言で相談が始まる。今はいない十野間の流行病の案も加えられて大体の内容が決められた。
「セブンリーグブーツを使って先行するね。情報収集や妨害工作をしておくね」
 パトゥーシャは馬車を降りて先に向かう。
 護堂も元々先行するつもりでいた。相談が終わると空飛ぶ絨毯で飛んでゆく。
 中丹は御者台に移り、馬車を走らせるアクセルの横に座る。そしてフランシスカがさらわれた時の前後の出来事を詳しく訊いた。
「は〜、しょうもな‥‥。まあ、カルロスはんが嫌がるのも無理ないやろうな」
「彼の気持ちは理解できるんですが‥‥でも捲し立てられるとどうしても」
 中丹は落ち込んでいるアクセルの話を聞いてあげた。しばらくして馬車内に戻る。小丹は寝ていた。
「なあ、カルロスはん、喧嘩なんかしとる場合やないやろ。力合わさんとな」
 今度はカルロスに話しかける。とても不機嫌そうにカルロスは答えた。
「え、なんで人間の肩を持つのかやて? だってな〜面白そうやし〜」
 中丹がアクセルの背中を見てニヤニヤと笑った。
 カルロスは心配している事がある。
 マーメイドの肉を食べれば不老不死になるという迷信とは別にもう一つ、人間との関わりを持つべきではない理由があった。
 一見、姿は似ていても、人間とマーメイドは違う生き物である。恋は絶対に成就されない。不幸を呼ぶだけである。アクセルとフランシスカが自分達の気持ちに気がつかない間に海に戻らなくてはならないとカルロスは考えていた。

●依頼二日目の奮闘
「あいや、待たれい!」
「なんだ。貴様は!」
 馬が牽く荷台にいる家畜商が頭上を指差す。護堂は空飛ぶ絨緞に座り、家畜商の前をフワフワと漂う。顔には道化師の面をしていた。
 テレスコープとエックスレイビジョンを駆使して家畜商の馬車群を発見したのだった。昔観た大道芸の口まねをする。
 護堂は風に流されたようなマネをして水槽を覗き込む。水中のフランシスカは護堂だとわかったのか、明るい表情になる。護堂は家畜商の回りをぐるぐると回った。業を煮やした家畜商は御者にいって馬車群を停めさせる。
「まあまあ、私は流浪の占い師。ここで会ったのも縁。悠久の秘術で占ってしんぜよう」
 護堂は拾った木切れで適当に作ったタロットカードらしき物を取りだす。占いに心得はあったが、この際の答えは決まっていた。
「うむ。これは凶事! 直ちに悔い改めるべきである。何かやましい事を実行中ではないのか? すぐさま止めれば災難は消え去ろう。さもなくば大変な目に遇うぞ。よろしいのか?」
 護堂の占いを家畜商が笑い飛ばす。護堂は食い下がって説得を試みた。もっとも家畜商が人の忠告を聞くような者ではないのには気づいていた。すべては時間稼ぎである。
 護堂は初日に家畜商の馬車群を見つけられず、途中で見かけたパトゥーシャと野営をした。その時の約束通り、発見した時、一度戻ってパトゥーシャに馬車群の位置を知らせたのだ。
 馬車群を停めている間に、パトゥーシャはこっそりと馬車や荷台に細工をしているはずである。
「もう、わかったから消えてくれ。いい加減にしないと痛い目に遇うぞ?」
 家畜商が護衛の傭兵に合図を出した。ここまでと思い、護堂は絨緞で高く空に舞い上がる。
 馬車群から離れた物影でパトゥーシャが護堂に向かって大きく手を振っていた。馬車群への工作は成功したらしい。事実、馬車群はなかなか出発しようとはしない。
 それから護堂は天気を操作しようとしたが、晴天を曇りにしてもあまり意味がないので取りやめる。スクロールのトルネードを使い、修理の邪魔をするのだった。

 夕方頃、アクセルが御者をする馬車はある村に辿り着く。初日野営の時、十野間はアクセル達に合流していた。
 護堂も合流し、今までの経過が話される。ほんの少し前に家畜商の馬車群は同じ村に到着したようだ。今はパトゥーシャが詳しく調べている。
「皆さん、こちらをどうぞ」
 十野間は仲間に目の穴を開けた布袋を渡した。パリで仮装や化粧道具も買ってきたが、代金はアクセルが支払ってくれるそうだ。
 パトゥーシャも戻り、家畜商達が泊まる宿を教えてくれた。近くの空き地にフランシスカが囚われている荷台は停められていた。六人の傭兵が野営をして監視しているそうだ。
「今から睡眠をとって体調を万全にし、人気の少ない深夜にフランシスカさんの奪還決行でどうでしょうか?」
 十野間の意見に全員が賛成をする。
「それはそうと、十野間の坊ちゃんからもらった布を被ると髭が見えなくなってしまうのじゃ」
 小丹は刀で器用に袋の一部を切り取る。試しに袋を被ると口元が開いていて見事にピンと両端が尖った髭が露出した。

●奪回
 深夜の町は寝静まっていた。
 家畜商の馬車群が停まっている一角が明るい。傭兵達が焚き火をしていたのだ。
 躊躇なく、早足で小丹、中丹、護堂が傭兵達に近づいた。その後ろを十野間とパトゥーシャ、アクセルがついてゆく。
「情けはかけんぞ。生き残るかどうかはおぬし達の運次第じゃな」
 傭兵に投げかけた小丹の一言で戦いが始まった。
 焚き火にあたっていた傭兵二人は叫んで仲間を呼んだ。だが仲間が来る間に、小丹の脇差しと中丹の拳につけられた爪、そして護堂のスープレックスの餌食となる。
「影爆弾!」
 馬車から飛びだしてきた傭兵に十野間のシャドゥボムが襲う。焚き火で出来た傭兵達の影が爆発する。
 怪我をした傭兵四人だが武器を手に怯まずに冒険者達に向かってきた。傭兵一人がパトゥーシャとアクセルに近づき、剣を振るおうとする。十野間はシャドウバインディングで動きを止めた。
「大丈夫か!」
 アクセルが急いで荷台にある水槽に近づく。パトゥーシャは周囲を警戒する。アクセルが覆いを外すとフランシスカの姿があった。
「来てくれると思っていたよ!」
 水槽から飛びだしたフランシスカとアクセルは一瞬抱き合う。すぐにフランシスカを護堂に借りた空飛ぶ絨緞に乗せて脱出を試みる。
 その時であった。誰かが焚き火の光を遮ったせいで止まっていた傭兵のシャドウバインディングの術が解けた。
 傭兵が大剣を振り上げる。
 注意を怠っていなかったパトゥーシャは迫り来る傭兵に向かって弓を引き、矢を放つ。足に命中して傭兵が地面に転げた。パトゥーシャとアクセルはフランシスカと一緒に空飛ぶ絨緞でその場を脱出する。
 十野間は新たなシャドウバインディングで傭兵の一人を釘付けにする。
 小丹と中丹は背中をお互いに向けあって隙を作らない配慮をしていた。護堂の動きも気にしている。護堂は攻撃を卒塔婆で受けながら、対峙する傭兵の隙をみて技を仕掛けようと狙う。
 一対一同士なら義兄弟コンビが負ける要素はなかった。
 小丹は十手で受けては刀を振るう。対峙する傭兵も大分動きが鈍くなってくる。頃合いを感じ、小丹はカウンターアタックで止めを刺した。
 中丹も対峙する傭兵を倒し終わり、オーラパワーをかけ直す。義兄弟コンビの次の目標は十野間が止めている傭兵だ。瞬く間に傭兵が崩れてゆく。特に中丹が全力で攻撃していた。相手の顎を中丹の拳が捉えて両足が浮いた。龍飛翔を繰りだしたのだ。
 また一人、傭兵が倒れ、残るは護堂と対峙している傭兵だけとなった。小丹、中丹、十野間が参戦する。
「のおおおっ!」
 止めに卒塔婆から手を離して傭兵の腰をとった護堂のスープレックスが決まる。これですべての傭兵が大地にへばりついた。

「先に馬車へ戻っておいて欲しいのじゃ。何、ちと野暮用じゃて」
 小丹はそういうと、仲間の前から姿を消した。
「大兄、本気やな‥‥」
 中丹は小丹のにこやかな笑顔の奥底に感じたものがあった。背中に寒気を感じながら護堂と十野間に声をかけて、急いでアクセルの馬車へと向かった。

「ん?」
 物音がした気がして家畜商は目を覚ます。ベットから起きてランタンに火を点ける。
「おっお前は何者だ?」
「どうこう言うつもりはないんじゃが『人』を売り買いするのが許せんだけじゃ」
 小丹は一瞬で家畜商との間合いを詰めた。
 右手で刀を持ち、左手は家畜商の口を塞ぐ。刀先は家畜商の心臓を貫き、背中から飛びだしていた。
 小丹の糸目がはっきりと開いていた。床に倒れる家畜商を凍りつくような瞳で見つめていた。

●関所
 フランシスカを奪回してすぐに一行の馬車は村を出た。
 夜間の見えにくい道のせいで、馬車は昼間より速度を落としていた。だが、それでも朝出発するよりパリに早く着けるはずである。
 三日の朝を迎え、関所を目前にして馬車を止めた。揺れていると用意がしにくい為だ。
「これこれ、カルロスの坊ちゃん、動いてはダメじゃ」
「フランシスカさんも動いちゃだめだよ」
 十野間が入手してきた道具で小丹とパトゥーシャが手分けして患者役の者達に化粧をする。重病を装う仲間には濃いめの紅を使って斑点を描いてゆく。かかったかも知れない患者役の中丹には大きく一つと小さく一つ、離れた場所に斑点をつけた。
 もし水をかけられたとしてもばれないように護堂が用意した『まるごとトナカイさん』をフランシスカに着てもらう。そして『まるごとホエール』を着る兄のカルロスの横に寝てもらった。狭いが病人役である護堂にも同じように寝てもらう。
「止まれ!」
 関所に近づくと衛兵に馬車を停めさせられる。
「病人がいるんです。早く通してくれませんか?」
 パトゥーシャは馬車の戸を開けて衛兵に話しかける。鳥のクチバシがついたマスク被り、ローブを纏っていた。アクセル、十野間、小丹も同じ格好をしている。中丹も格好は同じであったがクチバシは自前である。
「病人? いいから見せてみろ」
 衛兵の一人が馬車の扉を開けた。
「ノルマンを脅かしている預言を知らないのですか? 死神の顔は赤い発疹に覆われ――というものです。予言にある疫病かも知れぬこの者を、急ぎ隔離せねばならぬと言うのに‥もたもたしていると、貴方やその家族にも広まるかもしれませんよ」
 十野間が最もらしくゆっくりと言い聞かせるように話す。
「ほらほら、ここに斑点があるやろ。昨日、患者を触ってから出来たんや。なんや、朝からちょっと熱っぽい気もするねん。はようしてや」
 腕を見せながら近づく中丹を衛兵が避ける。衛兵は背伸びをして馬車内を覗いた。赤い斑点を顔に浮かべて横たわる三人を眺めてから衛兵同士でひそひそ話をする。
「とっ通っていいぞ。早くしろ!」
 衛兵が槍で領地の外を指した。
 アクセルが手綱をしならせて馬車を発車させる。
 その日の夕暮れ時に、家畜商の馬車群襲撃の賊についてのお触れが関所に届いた。水をかけて怪しき変化をした者がいれば捕まえろとの内容だが、一行はとっくに通り過ぎた後であった。

●安全な場所
 四日目の夕方、もうすぐパリという場所で馬車を停めてみんなが降りる。
「何度も助けられて‥‥俺はもう‥‥。とにかくありがとうございました」
 アクセルは冒険者達に深く礼をいった。
「フランシスカはん、これあげるわ。ほいフランキスカ。ぷぷっ」
 中丹がフランシスカに渡したのは斧の武器フランキスカである。
「コレで喧嘩なんぞしたら、兄さんやアクセルはんにガツーンと食らわせたるんや」
 夕日をバックに腕を組んだ中丹のクチバシがキラ〜ン☆と光った。
「えっーと、う〜ん。ごめん。重たくて持てないの」
 フランシスカは持ち上げようとがんばったが、地面から斧の先端が離れない。
「これは想定外や!」
 中丹が頭を掻き、全員が笑った。
「パリの家には戻れません。市場での出来事でフランシスカの正体がマーメイドと知った人がたくさんいるでしょうから。信頼する友人がパリ近郊の集落に住んでいます。そこで準備を整えたら、すぐにでも二人を海に届けるつもりです」
 アクセルはフランシスカに視線をやった。フランシスカはハッとした感じでアクセルを見つめた。
「二人を送り届ける旅はドレスタット方面の長い旅になります。内陸部にあるブロズ領とは反対の方角ですが、今までの事を考えると不安です。ギルドで依頼を出すつもりなので、もしもご都合がついたらお願いします」
 アクセルは再び礼をいい、馬車の御者台に乗った。フランシスカとカルロスも冒険者達に礼をいう。そして馬車に乗り込んだ。
 夕日の中、遠ざかってゆく馬車を見送ってから、冒険者達はパリへと歩く。
 依頼の残り日数はかなり余裕があったが、その分目まぐるしかった。長く眠っていない。
 冒険者達はパリで一晩休んでから冒険者ギルドで報告をするつもりであった。