薪売りの姉と新婦の妹
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月15日〜03月22日
リプレイ公開日:2007年03月24日
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●オープニング
「今回多めに薪を置いときました。次回いつもより遅くなりますがよろしくお願いします」
帽子をとった二十歳過ぎの女性が婦人に挨拶をして裏口を後にする。帽子をかぶり直して兄弟馬二頭が牽く荷車に乗って手綱をしならせた。今の家で薪を買ってくれるお得意さまは終わった。荷車には一本の薪も残っていなかった。
「どうしようーかな」
パリの宿に女性は泊まっていた。ランタンが灯るベットが殆どを占めた小さな部屋で頬杖をつく。
考えていたのは次の薪売りの事だ。どうしても外せない用事があり、パリに来られない可能性があったのだ。
女性は早くに両親を無くし、姉妹二人で協力して暮らしていた。その三歳離れた妹が数日後に集落の教会で結婚するのである。
多めの薪をお得意さまに置いてきたので、普段よりは長く保つだろう。しかしそれでも保って十五日である。
いつもは女性が売りにきている間に、妹が薪を集めているが、今は結婚式の準備でそれどころではない。つまり、次の薪は用意されていない。帰ってから女性がやらなくてはならなかった。たった一人の肉親として結婚式の準備も、そして出席もしてあげたい。
友人に頼んでみたものの、薪を切りだし、パリに売りに来る一連の時間がかかる仕事全部を受けてくれる者はいなかった。
お腹が空いてきたのに気がついた女性は、宿の一階にある酒場に降りる。食事を注文して、再び考えるが何も浮かばなかった。
「あのね――」
女性はダメモトで料理を運んできた給仕に訊いてみる。突然の仕事を引き受けてくれる人達はいないかと。
「冒険者‥‥ギルドってのがあるんだ」
女性は給仕の説明で初めて冒険者ギルドの存在を知った。食事を食べ終わるとさっそくギルドを訪れる。
結婚式に出席する為に、薪を一度だけ自分の代わりに運んで欲しいと女性は願った。お得意さまの家の位置が描かれた地図と、自分が住む集落の地図の二枚を受付に預ける。
依頼金も前払いし、受付にお願いをすると女性は宿へと戻るのであった。どなたか薪売り依頼を受けてくれるのを信じて。
●リプレイ本文
●集落へ
「あれが目的の集落でしょう」
ワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)は愛馬エルシードを駆りながら一緒に行動している仲間に伝えた。視力の良さで遠くに石造りの塀と建物群が望める。
「まっまだ‥‥お日様は真上に昇ったばかりです。おかげさまで早‥く着きそうです☆ ヴェレッタさんは『薪を早く用意出来そうだ』といってますう〜」
耳を隠すように花の形をしたリボンをつけたスズナ・シーナ(eb2735)は馬上で揺られながら、ヴェレッタ・レミントン(ec1264)の背中に掴まっていた。
最初、ワルキュリアがスズナを後ろに乗せてくれるといってくれたが、二人乗りだと少々不安がある。ヴェレッタがラテン語とゲルマン語の通訳を必要していて、そして馬術はなかなかであった。そこでヴェレッタとスズナは助け合う事にしたのだ。
「薪に適した木を探さないとな」
アレックス・ミンツ(eb3781)は愛馬カシスをより速く走らせた。
「みなさん、ありがとうございます」
依頼者である姉フロリアと妹のカリートネの二人が挨拶する。
姉フロリアは詳しくこの場所での薪の用意の仕方を教えた。
「初めまして。ワルキュリア・ブルークリスタルと申します。お気持ち、よく分かります。どうかご心配なく、ご結婚式に出席して下さいね」
ワルキュリアは姉妹に微笑んだ。
「薪を売るお仕事‥‥女性の身で大変ですねえ。お母さんがお手伝いしてあげましょう!」
スズナはコクコクと頷く。
「ヴェレッタさんが『親族の婚姻に求められた休息ならば、神はそれをお与えになるだろう』といってます」
スズナが通訳をすると、ヴェレッタがよく見なければわからない程の振りで頷いた。
「さて薪のある場所に案内して頂こう」
アレックスの言葉に姉妹は裏庭を案内した。
人の腰ぐらいの高さに積み上げられた薪の束がすでにあった。姉フロリアと友人が少ない時間で用意したのだ。この山があと四つは必要なのだそうだ。
結婚式の準備の為、姉妹はその場を後にした。
「薪は生木だと燃やしたときすごいことになっちゃいますし。よく乾燥した物を‥‥すでに乾燥された材木があるのでこれを使うのがいいですね☆」
スズナが丸太の重なっている場所を指差す。簡単な造りながら屋根のある場所が三カ所あり、丸太の乾燥場になっていた。かなりの丸太が積み重ねられている。
「やってみるか」
アレックスが置いてあった鋸を持ち、細めの丸太を斬り始める。木工の心得はなかったが、一番体力があるし、大体で斬ればいいので問題はないはずだ。大きさなどは用意されていた薪の束を参考にする。
スズナ、ワルキュリア、ヴェレッタは手にナタを持つ。大木の輪切りの上でアレックスが短く斬った丸太を割ってゆく。
「はい。ヴェレッタさん」
ワルキュリアが荷車に乗ったヴェレッタに薪を渡す。
薪を地面でまとまると重いので少しずつ荷車に載せた。そして藁を簡単に捻った縄を使い、荷車の上で束ねる。点け木として使う小枝も乾燥場には置いてあった。それらも荷車まで運んで束ねる。
午後の殆どを薪の用意に費やしたが、さすがにすべての作業は終わらなかった。
夜になり冒険者達は姉フロリアの家に泊めてもらった。
冒険者には妹カリートネが使っていた部屋が提供される。まだ妹カリートネは姉フロリアと一緒に住んでいたが、冒険者用の毛布があるだけで生活用品はすでになくなっていた。新居に運ばれたという。
「久しぶりに姉妹で寝るのもいいものです」
妹カリートネは冒険者達に微笑んだ。
「綺麗です」
結婚式用のドレスが居間にはかけられていた。見かけた冒険者は思わず魅入ってしまうのであった。
●薪
冒険者達は朝から昨日の続きである薪の用意を行った。
額に汗をかき、途中に休憩を入れる。今まで姉妹だけで行われていたのが信じられない程のきつい労働である。
お昼を過ぎてしばらく経った頃、必要な薪が荷車の上に揃った。
「ヴェレッタさんが『天候次第ではあるが、今からパリに出発だと中途半端だ』といっています。私もそう思うし、それに今から少なくなった分の乾燥場の丸太を補充したらいいとかと〜」
「そうだな。俺も思っていた所だ」
「賛成です。初めて足を踏み入れる森ですから、うっかり迷わぬよう気を付けて行動しなくてはいけませんね」
「ヴェレッタさんも『それがいい』といってくれました」
全員の意見がまとまり、初日に教えてもらった森へと向かう。歩いて手綱を持って馬を連れてゆく。細い丸太の運搬の為だ。
「こんな感じの木が乾燥場には並んでいたな」
アレックスが斧で木を倒す。細めの木を選んでいるのでそんなには苦労しない。木と木が近いのを間引きするように選ぶ。大木に関しては家などの建築に用いるそうだ。もちろん大木が斬られた跡に生えている木には手を出さない。
ヴェレッタとワルキュリアは倒された木の枝の部分を切り落としてまとめる。スズナは落ちている細い枝を集めて回った。
馬二頭と丸太を縄で繋ぎ、小さな台車を丸太に取りつけて運ぶ。
「あ、キツネだ」
丸太を運ぶ途中で冒険者達はキツネの親子で出くわした。もう雪解けの季節だ。子キツネはとても可愛いが、他にも冬眠から目を覚ました獰猛な野生動物がいてもおかしくはない。冒険者達は気を引き締めなおした。
何度か繰り返している内に夕暮れになる。
「大体こんなもんだろう」
何カ所かに分けて置かれる乾燥場の丸太は使う前の数より少しは多めになったようだ。
冒険者達はその日も姉妹の家に世話になった。
●薪をパリへ
冒険者達は三日目の朝早くから集落を出発した。
荷車には少しぐらい雨が降っても平気なように藁を被せる。さらに広げないままのテントも被せておく。
荷車は冒険者達が飼う内の馬二頭に牽かせる。他の馬も帰りの為に一緒に連れてきていた。とても人が乗れる余裕はないので手綱を交代で持ち、歩いてパリに向かう。
やはり徒歩ではかなりの距離がある。冒険者達がパリに着いたのは夜の帳が下りた頃であった。
●お得意さま
「昨日、帰る途中でギルドに寄りましたら、麗風さんの置き手紙がありました」
四日目の朝方、ワルキュリアは集まった仲間に手紙を見せた。五軒のお得意さまの家をどうしたら早く回れるかが考察された内容である。依頼者の姉からもらった地図と合わせてより早く回れそうである。
ワルキュリアがお得意さまの家の者に挨拶しながら事情を説明する。どこに降ろすかを訊ね、全員で薪を降ろす。
「なんだ。フロリアちゃんも水くさいわね。そうならそうといってくれればいいのに」
気のよさそうなお得意先の婦人が呟く。
「あんた達も大変だけど、ありがとうね。とっても助かるわ」
行く先々で姉フロリアを心配する声と祝福の声が聞かれた。とても慕われているのがよくわかる。
暮れなずむ頃には全部の薪を配り終わった。
「明日出発すれば結婚式に間に合いますね」
「そうです。結婚式のお手伝いもできますね。こう見えても冠婚葬祭関係のエキスパートですから☆」
「参加して祝ってやりたいところだな」
「ヴェレッタさんは『一祝福者として出席しよう』といってます。さぁ、妹さんの晴れ姿を見るために、明日はガンバって戻りましょ〜☆」
冒険者達は明日出発の約束をして、それぞれのパリでの寝床に戻るのであった。
●再び集落へ
五日目の朝、冒険者達は朝早くにパリを出発する。
ヴェレッタとスズナは空になった荷車に乗って集落を目指す。アレックスとヴェレッタは自分の馬に跨っている。
お昼過ぎには集落へと到着した。
スズナは張り切って結婚式の手伝いを始めた。冠婚葬祭は元より料理もかなりの腕前である。ワリキュリアも冠婚葬祭に関してはかなりの知識の持ち主だ。
「そうなのですね。わかりました」
スズナとワルキュリアは集落の教会となる礼拝場に出向く。そして集落独自のしきたりなどを訊いた上で戻り、姉妹にいろいろとアドバイスした。すでに新居に住んでいる新郎となる男性の元にもゆく。
儀式として必要な物は姉フロリアのがんばりもあってすべて用意されていた。時間が余った所でスズナは結婚式の後で振る舞われる食事の手伝いも行う。
「これは美味しいですよ☆」
味見をしたスズナは満足げであった。
「これでもう一回分はいけるのではないのか」
アレックスが話しかけるとヴェレッタが雰囲気で察して軽く相槌を打つ。
アレックスとヴェレッタは裏庭で薪を用意していた。すでに依頼としての薪は必要ないが、次の配達用である。少しでも依頼者の負担が軽くなるようにする配慮であった。
●結婚式
六日目のお昼頃、集落の教会では結婚式が執り行われた。
姉フロリアは結婚式が始まる前から泣いていた。ずっと泣き止まずに涙を拭くためのハンカチを握りしめる。
集落の者が並ぶ中、司教が新郎と新婦に聖書の一節を読み聞かせた。
妹カリートネはドレス姿に白いベールが顔に被せられ、両手にはハーブのブーケが持たれていた。
指輪が新郎から新婦の指にはめられる。ベールが新郎によってあげられて二人は口づけをした。
鐘の音が響き渡り、二人を祝福する。
羽ばたいた小鳥が青い空へと舞い上がってゆく。
姉フロリアは顔をあげられない。周囲にいた友人に支えられていた。
「よかったです」
「ええ、とても」
「だな」
ヴェレッタはラテン語で祝福の意味を言葉にする。
冒険者の中にも涙を流す者がいた。
教会での結婚式は終わり、移動となる。
「あなた方のこれから共に歩む道、時には迷うこともあるでしょうけれど、最善のものであることをお祈りいたします」
木漏れ日の下、神聖騎士のワルキュリアは二人の門出を祝う。
「よかったねカリートネ」
姉フロリアは声を絞り出す。
「お姉ちゃん、今までありが‥‥と‥‥」
妹カリートネも涙で声を詰まらせるのだった。
集落の長の屋敷が結婚式後の食事の振る舞い場所として提供されていた。
まず出されたのがスズナの作ったドライフルーツ入りのケーキである。こういうケーキは一晩くらい寝かせた方が美味しい。今がちょうど食べ頃のはずだ。
ケーキが出席者に切り分けられる。
もちろんそれだけでなく、様々な料理が振る舞われたのであった。
結婚式も終わり、冒険者達は姉フロリアの住む家に戻る。
今日からはこの家に妹カリートネの姿はない。冒険者がいなくなれば、姉フロリアは一人暮らしとなる。
「妹も今までのように薪の用意を手伝ってくれるといってましたので‥‥別にこれからも変わらないと思います」
ようやく泣き止んだ姉フロリアは冒険者達に話す。強がりなのは誰もが分かっていた。
ヴェレッタはスターサンドボトルを取りだして眺めてからしまう。『君も早く良い人を見つけなさい』と伝えてもらって姉フロリアに渡すつもりだったが、今そんな事をすればただの悪者だ。姉もそれなりの器量よしである。その気になれば男の一人や二人掴まえられるだろう。
冒険者達は姉フロリアの祝杯のワインに付き合ってあげる。かなりの量を呑み、全員が居間でごろ寝で爆睡してしまう。夜になるとまだ寒いが、薪をくべた暖炉の残り火のおかげで朝まで寒くはなかった。
●七日目 パリへ
全員が起きたのがお昼近くだったので、それから集落を後にした。感謝する姉フロリアが冒険者達を見送る。
それでもパリに着いたのは、まだ十分に明るい内であった。冒険者達はギルドに向かって報告を行う。
馬での移動が出来たのでかなりの場面で時間に余裕があった。食事に関してもパリ市内か集落での振る舞いがあったので用意しなくても済んだ。
冒険者達は依頼者フロリア、そして妹夫婦の幸せを祈ってから解散したのであった。