一緒にお勉強! ちびっ子ブランシュ騎士団
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月25日〜03月30日
リプレイ公開日:2007年04月02日
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●オープニング
「やっぱりまだダメだね」
「このまま、もう入れなくなるのかなあ」
「しょうがないさ。その代わりラルフ黒分隊長に会えたじゃないか」
「そうそう、凄い名誉さ」
ちびっ子ブランシュ騎士団、略してちびブラ団の子供達四人は、騎士ごっこ用の小枝を持ったまま、オバケ屋敷の門の前に立っていた。
オバケ屋敷は立ち入り禁止にされ、王宮によって本格的な調査が行われている。常に衛兵が周囲を巡回していた。
「ねえねえ、お兄さんはブランシュ騎士団の人?」
橙分隊長イヴェットを名乗る少女コリルが衛兵の一人に声をかけた。
「あいにく違うな。宮仕えではあるが普通の衛兵さ。ブランシュ騎士団は王宮騎士団の中でトップだからな。目指してはいるが、そう簡単になれるものじゃないのさ」
槍を持ちながら衛兵はちびブラ団に笑いかける。
「ぼくたち、このオバケ屋敷と悪魔崇拝の館の秘密を調べて教えて黒分隊長に誉められたんだ。これぐらいの手柄じゃブランシュ騎士団には入れないの?」
灰分隊長フランを名乗る少年アウストの言葉に衛兵は笑う。
「そうだなあ。手柄も重要だが、他にもいろいろとあるんだ。剣術などの戦闘技術だけ秀でればいい訳じゃないしな。頭もいいんだぞ。いろんな事を知っているのさ。難しい本なんかも読まなくちゃならない」
「そうなんだ‥‥」
黒分隊長ラルフを名乗る少年ベリムートはショックを受けていた。
衛兵の言葉にちびブラ団の四人は内緒話をする。
「俺、本を読むどころか、自分の名前ぐらいしか書けない」
「あたし、お父さんとお母さんの名前もかけるよ」
「俺様は妹の名前もかけるぞ」
「まあ、なんていうか、みんな似たようなもんってことだね。ぼくもみんなと大して変わらないし」
ちびブラ団の四人はトボトボと下を向きながら門の前から立ち去ってゆく。
「なんか悪い事いったかなあ‥‥」
衛兵は子供達の事を気にしながらも、見張りの仕事に集中し直した。
その日の夜、藍分隊オベルを名乗る少年クヌットが母親に勉強について相談する。驚いた母親は父親に話しをもってゆく。
クヌットの一族は本来騎士の家柄である。ただ今は落ちぶれて主君に仕えていない状態だ。近所の人達はきっと商人の家だと思っている事だろう。
「俺も騎士を目指してがんばった時期があったが、結局ダメでな。‥‥お前なら立派な騎士になれるぞ」
クヌットの父親と母親は泣いて喜んだ。
「いや、そこまで期待されても困るんだ。でも、取り敢えずやってみようと思ったんだ」
子供なのに結構冷めている少年クヌットである。
クヌットの父親は考えた末、冒険者ギルドを訪れた。
冒険者に教わりたいというクヌットの希望もあったが、ずっと家庭教師を雇うのも家計が許さない。勉強を教えてもらうのではなく、勉強の仕方を冒険者に教えてもらおうという考えだ。
前金を受付の女性に渡す。いつもクヌットと一緒に遊んでいるアウスト、ベリムート、コリルの親にも相談して用意したお金だった。四人まとめて勉強の仕方を教えてもらう依頼である。
クヌットの父親がギルドを出ると母親が待っていた。
「クヌットが騎士ではなく将来に何を目指すとしても、読み書きと知識、そして計算は知っておいた方がいい。今まで忙しくて何もしてやっていなかったからな‥‥」
「まだこれからですよ。充分に間に合いますって」
「何にせよ、やる気になってくれたんだ。‥‥すぐ飽きるかも知れないがな。俺がそうだったし」
父親の言葉に母親は大笑いするのであった。
●リプレイ本文
●先生
「どうか子供達をお願いします」
冒険者達がクヌットの家を訪れると母親に出迎えられた。
「あっ、冒険者が来てくれたぞ」
部屋の入口近くにいた少年クヌットが真っ先に声をあげる。椅子に座っていた他の子供達三人も立ち上がり、冒険者達に近づいた。
「こんにちわ、隊長様方! オベル隊長のお宅にお招き頂けまして!」
アニエス・グラン・クリュ(eb2949)は元気よく手を挙げた。
「はじめまして。どうぞ宜しくお願いしますね」
セシル・ディフィール(ea2113)は静かな佇まいで微笑む。
冒険者達の自己紹介が終わる。今度は子供達の番だ。
「俺様はブランシュ騎士団藍分隊オベルを尊敬しているクヌットだ」
「ぼくは灰分隊長フランが好きなアウストといいます」
「あたしは橙分隊長を率いているイヴェットが大好きなコリルだよ」
「俺はちびブラ団のラルフ黒分隊長ことベリムートという。みんなブランシュ騎士団‥‥ならいいんだけど‥‥」
子供達四人は真似事ながら騎士の敬礼をする。
「これから五日間。わたくし達は皆さんの先生です。よろしいかしら?」
穏やかに話すクリミナ・ロッソ(ea1999)に子供達が「はい」と答えた。
「私は動物と精霊についての知識を教えるわね」
シフールのシルヴィア・ベルルスコーニ(ea6480)はちびブラ団達の頭の上を飛ぶ。
「皆さんも小さな怪我をした事があるでしょう。応急手当の仕方を覚えておくと便利なのです」
エレシア・ハートネス(eb3499)は優しく子供達に笑いかけた。
「騎士になる為にお勉強ですか〜。ちびブラ団の隊長さんは偉いですね〜。ここは名誉顧問の私が一肌脱ぐですよ〜。何を教えるかは後での、お・た・の・し・みです〜」
エーディット・ブラウン(eb1460)は脇を軽く締めて胸の前で拳をつくった。
挨拶が終わると、クリミナの行儀作法についてが始まった。
「皆さんにお訊きします。同じ位強い騎士様がお二人いたとします」
クリミナにいわれた通り、子供達は頭の中に騎士を二人浮かべる。
「一人は優しい口調で人々の話をゆっくり聞こうとする人。一人は乱暴な口調で、人が話しているのにその話の腰を折ったりする人。何かをお願いする時、どっちにお願いしたいと思うかしら?」
「はーい、クリミナ先生。最初の優しく話してくれる騎士様がいいと思います」
コリルが答える。
「そうですね。立ち振る舞い一つで人の目も変わりますからね」
子供達が返事をした後でクヌットとベリムートが小さな声で話し合う。
「俺様っていい方、まずいのか?」
「俺も俺っていってるしな。友達にならいいだろ。でも、この間みたいに黒分隊長に会った時とかは止めた方がいいかもな」
二人はクリミナの視線を感じて内緒話を止めた。
挨拶の練習が終わると、クリミナから子供達は聖書を一冊ずつもらう。ただ、ラテン語訳の聖書らしい。
これから勉強に必要な物をパリ市街で探す事になった。
「気をつけるですよ〜」
一人お留守番をするエーディットがみんなに手を振る。
「さてと、とってもいいものをつくるです〜」
エーディットは木板を手にしてクヌットの家に戻るのであった。
「なるほど。少々お待ち下さい」
司祭は祈った後で礼拝所から奥の部屋に消える。
冒険者達とちびブラ団の一行は教会に出向いていた。
子供達四人はクリミナに教えられた通り、礼儀正しく司祭にゲルマン語訳の聖書について訊ねた。そして司祭は奥の部屋に向かったのである。
しばらくして司祭が司教を連れてやってきた。
「これは子供達よ。よく教会にお越しになられましたね」
司教の挨拶に子供達四人はもう一度ゲルマン語訳の聖書について訊ねた。
「司祭から聞いております。残念ながらゲルマン語訳の聖書は存在しないのです。その代わりといってはなんですが‥‥」
司教は一冊の古びた本をクヌットに手渡す。
「わたくしが助祭の頃、ゲルマン語で要点をまとめた説話集です。信者の方々にお話しする時はゲルマン語ですので、この様なものを作ったのです」
「いいんですか? 司教さま」
フランが訊ねる。
「もちろんです。ただ、期限は区切りませんが、この教会にとっても大切な本です。使い終わったら返してくださいね」
司教の言葉に頷いた子供達四人は大きな声でお礼をいう。
それから一行はセーヌの川原に向かった。
「お借りした麻の袋の中にこれぐらいの小石拾って下さい」
アニエスがいうと、子供達は一斉に小石を拾いだした。
「これでいいかな。橙飛行隊長」
子度達は楽しそうに拾ってはアニエスの元を訪れる。
セーヌ川に来る前に森にも出かけのだが、木の実はほとんど拾えなかった。この時期には少ないようだ。
「あー、空飛ぶと速いんだもん。すぐ捕まっちゃう」
コリルの肩に羽ばたきながらシルヴィアが乗る。夕方までの残った時間、冒険者達は子供達と鬼ごっこをして遊んだ。
家まで子供達を送り届けて、初日は終わるのだった。
●お家でお勉強
「そうなのです〜。これをたくさん書いて覚えるのです〜」
二日目のクヌットの家で、エーディットは子供達に文字の綴りを教えていた。手本を冒険者達で手分けして書いてあった。それを子供達は練習用の木切れに書き写してゆく。
「次はこの大きさが揃った木片に本名と隊長名を書くのですよ〜。一つ、いいこと教えちゃいます。手作り勲章に書き込めば、ちびブラ団の団員証に早変わりです〜♪」
「はーい。エーディット名誉顧問、わかりましたあ」
子供達は喜びながら一生懸命作り始めた。
エーディットに返事をした子供達が作業に取りかかろうとした時、ちびブラ団よりさらにちびっ子の女の子が部屋に入ってくる。
「ジュリア、来ちゃいけないっていったろ。母ちゃんどこいったんだろ」
現れたのはクヌットの妹ジュリアである。
「あそぼ」
笑顔でジュリアはクヌットの服を掴む。
「私と遊びましょう」
「私も眠気覚ましに遊んであげるわ」
セシルがとシルヴィアが話しかけるとジュリアは喜んだ。庭に出てセシルが借りてきた本を読んであげた。シルヴィアはジュリアに抱き締められていて窮屈そうだが、それはそれで微笑ましい。
「あ、ここにいたんだ。セシル先生、ぼくにも読んで聞かせて」
休憩時間になるとアウストが元にやって来る。他の子供達も来たので、もう一度最初からは語って聞かせた。
「その勲章いいですね」
「本当、いいわね」
読み終わるとセシルとシルヴィアが先程名前と隊長名を書き込んだ勲章を誉めてあげる。子供達は満足そうだ。
「そういうお話の本はどこに行けばあるの?」
コリルが訊ねるとセシルは図書館に行けばあると答える。
「まだ難しいと思いますが、読めるようになるのはそんなに先ではないはずです。時間がある時、図書館に行ってみましょう」
子供達は大喜びをした。
休憩は終わり、部屋で説話集を使っての勉強となる。
まだ勉強を始めたばかりで子供達に読ませるのは酷だ。冒険者全員が代わる代わるに最初の部分を読み聞かせる。繰り返す間に子供達は耳で覚えてしまったようだ。
「これをきっかけとして、いつか聖書も読めるようになり、ラテン語も覚えてしまうかも知れません」
クリミナが子供達を見ながら笑顔で頷いた。
「さてさて、これから始まりますお話は冒険者エーディット・ブラウン大活躍の冒険談であります〜」
残った時間でエーディットは初日の留守番時に用意した木板を子供達に見せた。木板には文字だけでなく絵も描いてある。エーディットは子供達と一緒に文を指しながら読み上げてゆく。
「邪悪な魔法使いの不気味な笑い声と同時に、舞い上がったのは身の丈五メートルはある巨大甲虫だったのです〜。危うし、冒険者達!」
エーディットの話に子供達の目が輝く。派手な脚色がされていたが、大筋では事実だ。
「――そして襲われそうな村を間一髪で護りきったのですよ〜。ノルマン王国には再び平和が訪れたのでした〜」
子供達が拍手をして、エーディットは照れていた。
主に読み書きに費やされた二日目も夕方となり、冒険者達はクヌットの家を後にした。
●ひとつふたつ
「それでは川原で拾っておいた小石で、今日はお店屋さんごっこを行います」
「はーい。橙飛行隊長、お願いしまーす」
三日目、子供達はいらない物を家から持ち寄っていた。昨日の帰り間際にアニエスがいっておいたのである。
「俺様がお店をやろう」
クヌットが率先してお店屋をやる。布が敷かれた上に様々な物が並べられている。アニエスは商人用の台帳を子供達にあげようとしていたが、クヌットの家には台帳が余分にあった。今回はそれを使ってやる事にする。
「いらっしゃいませ」
「この木彫りが欲しいなあ。いくらかな?」
お客であるアウストがクヌットに訊ねる。
「小石3になります」
「あとこの釘ももらうね。合わせていくら?」
「えーと、釘は小石2だから‥‥」
困っているクヌットの側にはエレシアが座ってきた。
「石を実際に置いてみるといいと思います」
エレシアはクヌットに囁く。クヌットはお釣り用の小石3と小石2を並べてみる。
「えっと全部で小石5になるぞ」
クヌットは小石を5受け取って商品を渡した。今の計算を台帳に書き記す。それからも小石10分の大石でお釣りを数えるなど、引き算もやってみる。
全員で交代し、理屈がわかった所で、記帳のみで計算をやってみた。間違う場合もあったが、子供達全員の考えをあわせれば正しい答えは導かれる。繰り返していけば、自然と身につくだろう。
「お金はもっとたくさんを扱うようになりますので大変ですが、基本は今と同じです。隊長様方、がんばって下さい」
「はい!」
ちびブラ団の分隊長四人が敬礼をする。部下のはずのアニエスだが、この際はしょうがない。でもなんだか笑いが込みあげてくる。全員が笑いだす。クヌットの家は賑やかであった。
午後もお店屋さんごっこに費やされる。少しだけ昨日の復習として文字の読み書きが行われた。
●知識
四日目は朝から図書館に向かっていた。冒険者達は子供達に注意しながら歩く。
「本当にそれも勉強なの?」
ベリムートが首を傾げる。
「そうですよ。今日の晩御飯は何だろう。確かチキンがあったから香草焼きだ。いや、スープかも! とか考えるのも勉強です」
セシルはベリムートに微笑んだ。
「まあ今のは何ですけど、色々な事を『なんだろう?』って思って、それを考える事、凄く大事なんですよ」
「なるほどー」
子供達四人が同時に腕を組む。
「あの草は少し揉んでから傷口にあてると、血が止まります」
エレシア道ばたに生えていた草を指差した。
「手足を怪我をして大変な時は身体に近い部分を押さえると止まります。でも、時々弛めてあげないといけません」
「そうか。いろいろあるんだね」
「あくまで緊急の場合です。そして早く薬草師さんとかを訪ねて下さい」
エレシアは子供達に応急手当の仕方を教える。
「このギザギザの葉っぱを少しだけ噛んでみて下さい」
「うわ。酸っぱいね」
「はい。でもこれは熱冷ましに効くんです」
エレシアは図書館に着くまで治療と薬草の話をした。図書館に着いたのなら図鑑を探して、見分けのつきやすい薬草を教えてあげるつもりだ。よく似た毒性の強い草があるものは避けて教えないといけないと考えていた。
図書館に着くと子供達は本の多さに圧倒される。
セシルは面白そうな伝説や冒険譚を。エレシアは植物の図鑑を。シルヴィアは動物の図鑑と精霊の絵が描かれた本を探した。
「この動物は危険ね。近寄ったらダメよ」
自分と同じくらいの高さがある図鑑を前にシルヴィアが子供達に説明をする。
「こっちの牙があるのは?」
「それも危険ね。でもこの辺りにはいないから安心してね」
子供達は見たこともない動物に楽しんでいるようだ。精霊はおぼろげな幻想的な姿が多い。コリルはうっとりとしていた。
「中には人間を助けてくれる動物もいるのですよ。注意をしながら、でも、何でも敵ではないのを覚えていてね」
「はーい。わかりました。シルヴィア先生」
「わっ、図書館は静かにね」
子供達が大きく返事をすると、シルヴィアは人差し指を口にあてた。
続いてエレシアの植物についての話が始まる。考えていた通り、図鑑を見せながら説明をしてゆく。できれば森を歩いて現物で教えてあげたかったが、それは次の機会があればするつもりだ。
「知らない植物には注意しましょう」
今度は小さな声でエレシアに返事をする子供達であった。
セシルはいくつかの本を見つくろい、子供達の所に持ってくる。周囲に人がいないのを確認する。今日も野外で本を読んであげたかったが、時間の事もあるし、この場で物語を読み始める。
物語は吟遊詩人が書き残したものだ。
ペガサスを駆り、デビルに立ち向かった英雄の話である。
夕方になって一度クヌットの家に戻ってから解散となった。
初めての図書館に子供達は満足したようだ。ちゃんと読めるようになったらまた絶対行こうと帰り道で話し合っていた。
●お別れ
最後の日は文字の読み書きの教えに終始する。やはり知識を仕入れるのにも、情報のやりとりにも、必要なのは文字が扱えるかどうかだ。
足し算引き算は子供達の様子から見て平気に思えた。
動物と精霊、傷の治療と植物、そして礼儀は騎士に憧れる子供達にとって身近に感じられる知識だ。
夢は子供には絶対に必要なものである。物語から得られた世界はきっと子供達の心を豊かに育むであろう。
「この木板はプレゼントしますよ〜。今度会えたら、新しいお話をしてあげるのです〜♪」
別れの時、エーディットは子供達に甲虫との戦いが書かれた木板をあげる。
「立派な騎士様になる日を楽しみにしてますね」
セシルは微笑む。
「いつか聖書が読めるようになるのを楽しみにしています」
クリミナは子供達に礼儀正しく挨拶をする。
「私も未だ発展途上の存在です。本物のブランシュ騎士団に入れるようがんばりましょう」
アニエスは子供達と別れの握手をする。
「これをみんなで食べて下さい」
エレシアは子供達に焼き菓子を渡す。初日からあげたかったのだが、作り方がよくわからなかった。最終日にクリミナに作り方を教えてもらい、クヌット家の台所を借りて焼き上げたのだった。
「みんな、元気でね」
シルヴィアは空を飛びながら手を振る。
冒険者達は子供達と別れてギルドへと向かうのであった。