故郷へ 〜生き残りのデュカス〜
|
■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 46 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月28日〜03月31日
リプレイ公開日:2007年04月05日
|
●オープニング
パリにあるワンバの家では作業が続いていた。
「さて、大体の荷造りは出来ましたなあ」
ワンバが積み上げた木箱を手のひらで軽く叩く。
「そうだね。パリに結構いたから荷物を増えたね。道具類とかある程度の食料も持っていかないとならないし」
デュカスは新たな木箱を重ねる。後で貨物用の馬車に載せる算段だ。コズミとの戦いで負った怪我も普通の生活に支障のない程度にはよくなっていた。
デュカスの暗雲は払われた。
両親の敵であった策士コズミを討ち、弟のフェルナールも取り戻した。盗賊集落の行く末は気になるが、それは国に任せる事にした。
デュカスは盗賊集団コズミに全滅させられた生まれ故郷の村を再建するつもりでいた。年上の青年ワンバもガルイも手伝ってくれるという。弟のフェルナールも一緒に来てくれるようだ。
「兄さん、これはここでいいかい?」
フェルナールが荷物を運んできた。昔通りの兄弟の仲とまではいかないが、お互いが理解しようとしている。すべては時間が解決してくれるはずだ。
その日の片づけは終わり、全員で夕食を囲む。
「男ばかりでむさ苦しいわ」
ガルイはそういいながらも楽しそうに笑っていた。
「‥‥ところでだ」
ガルイが滅多に見せない真面目な顔になる。
「デュカス、すまねえ。俺は村の再建を手伝えなくなった」
「えっ?」
突然のガルイの言葉にデュカスは戸惑う。
「俺はコズミにいた頃、情報集めのワンバとは違って、直接罪のない無抵抗な人を殺した。訊いた所、この間までコズミにいたフェルナールは人を怪我させた事はあっても殺しまでしなかったようだ。つまり俺は特にどうしようもない奴って事だ」
ガルイは発泡酒をあおる。
「殺しちまった人達は、俺に死んで地獄に落ちろとでも思っているだろうが、せめて世間への罪滅ぼしがしてえ。その為の旅に出てえんだよ。自分勝手だが許してはくれねえかな?」
デュカスは反対する理由は何もなかった。そうはいっても、最初のうちは村の跡に一緒に行って手伝ってくれるそうだ。目処がついた頃に旅に出るという。
「宴の方はどうしましょか?」
ワンバが使い終わった食器を片づけながらデュカスに訊ねる。パリを出てゆく前にいろいろとお世話になった人達にお礼として宴を催すつもりであった。
「パリ近郊の野外での食事会がいいと考えているんだ。もう春だし、いいかなと」
デュカスは瓶から桶で水を汲む。
「冒険者にはとても世話になった。どこに住んでいるかわからないし、冒険者ギルドの依頼の形で報せようと思う。今までの感謝の気持ちを少しだけど依頼金の形で渡せるしね」
デュカスは桶の中の水で食器を洗う。
「わかりやした。うまいもんをたらふく食べましょうや。それでパリとお別れですな」
ワンバが口にした別れという言葉がデュカスの心に突き刺さる。
翌日、デュカスは冒険者ギルドを訪れて依頼をする。名目としては宴の準備用として人が必要な内容だが、それは本題ではなかった。
世話になった冒険者との別れの挨拶。
パリ出発の日は近づいていた。
●リプレイ本文
●人々
そよぐ風と、微かに揺れる木の葉。
野原には一本の木がそびえる。
少し離れた場所は黄色に染まっていた。タンポポの群生である。
石を積んで造られた即席のカマドが三個所あった。馬車で運ばれたテーブルと椅子が並べられ、一角のみが別世界だ。
昨日の内にデュカス、ワンバ、ガルイ、レシーア・アルティアス(eb9782)、コルリス・フェネストラ(eb9459)が用意したのだった。
「集まってくれてありがとう」
デュカスが集まってくれたみんなに挨拶をする。依頼で来てもらった冒険者達以外にもカローと4番隊の人達の姿がある。ワンバとガルイ、フェルナールの姿もあった。
あらかじめ料理は用意されていたが、人数を考えると少し足りないようだ。冒険者達が思い思いに料理を始める。
「なんていう名前の植物かねぇ?」
レシーアは食材を前に首を捻るが、すぐに考えるのをやめた。適当に皮を剥き、適当な大きさに切る。それからも適当なやり方が続けられた。
「これもこれもてきと〜にぶち込んでしまおう♪」
ぼちゃぼちゃと鍋に食材が放り込まれてゆく。動物の骨と魚の骨がぷかぷかと浮かぶなんともいえないカオスな鍋である。
「あっダメっていったじゃないのさぁ。この前の様子見る限りじゃ、無理させらんないね」
レシーアは柊冬霞(ec0037)が野菜が一杯に入ったカゴを運ぼうとしたのを止める。昨日の設営も柊が手伝おうとしたのをレシーアが止めた。
「レシーア様、ありがとうございます」
「もう、水くさいわねぇ」
柊はレシーアにお辞儀をした。
「何を作っているんだい?」
「ジャパンの天ぷらに決めました。これならノルマン王国でもなんとかなります」
柊とレシーアの隣りで料理を作る国乃木めい(ec0669)が頷いた。柊と国乃木はノルマンで手に入る食材についてあらかじめ相談していたのだ。結果、天ぷらにする事にした。ごま油、小麦粉、鶏卵、そして魚介類と野菜があれば出来る。調味料も最後に塩を用意すればよい。
作りながら柊はデュカスを目で追っていた。
国乃木はそんな柊を見て微笑ましく思う。どうやら先の依頼でデュカスと柊の二人の間でプロポーズ染みた発言があったらしい。それを聞いていた国乃木は手を貸してあげるつもりでいた。
「三カ国の料理を口にする機会は‥そうそうありませんから、気合いを入れて作りませんといけませんね」
国乃木が作るのは野菜や肉の炒め物だ。
食材が鉄鍋に入れられると激しい音が鳴る。切った食材はすでに油通ししてある。鉄鍋は強く熱せられていた。
一気に調理を行うのが華国風である。正直、調味料は足りないが、塩味さえ足りればいけるはずだ。
「まるで火と戦っているようです」
サーラ・カトレア(ea4078)が国乃木の調理する姿を見て驚く。サーラは料理を作っている者の手伝いとして、食材を切ったりする下準備を行っていた。
「それではわたしは踊りの準備でもしましょうか」
サーラは宴を盛り上げる為の準備を始めるのだった。
「これを差し上げます。復興の村に持っていって下さい」
コルリスは食事作りで薪割りなどの自分が手伝える部分が終わった後、デュカスにプレゼントをしていた。
昨日設営を手伝った時にもらった木材を使い、桶や食器などを作ってきたのである。
「すごく助かります!」
デュカスは大事そうに受け取る。
「ほら、ワンバ。こんないいものもらったよ」
デュカスは近くにいたワンバを呼び寄せる。
「とっても助かりますなあ」
デュカスとワンバはコルリスにお礼をいった。
「私の作った道具が少しでも村の復興のお役に立てれば幸いです。人手が欲しければ、いつでも依頼を出してください。駆けつけますよ」
「とりあえず我々でガンバってみますわ。なあデュカス。それとは別に、またどこかで、格好いい姉さんの矢を放つ姿を見てみたいもんですなあ」
ワンバは空を見上げて笑う。それとは逆にデュカスがふと悩んだ表情を浮かべた。
「柊さんのことですか?」
ワンバが立ち去った後でコルリスは訊ねる。デュカスはやはり柊の事を考えていたようだ。
「自分に正直になりなさい、ですかね。後で後悔することのないように、自分にとって最良の選択ができればいいですが‥‥」
「いろいろと考えてしまって‥‥」
「選択ができなくてもその気持ちを素直に相手に伝えたほうが、ずっと待たせるよりもいいですよ。あくまで、私個人の意見ですけどね」
デュカスはコルリスと話して覚悟を決めた。
「フェルナール君? ちょっとお話があるんだけど」
スズカ・アークライト(eb8113)がデュカスの弟フェルナールを手招いた。
「何か用でしょうか?」
スズカは近づいてきたフェルナールの首を絞めるように右腕を絡ませる。
「突然なん‥‥モゴモゴ」
スズカがフェルナールの口を押さえる。
「あなたのお兄さんと冬霞、いいムードだと思わない? そこで手伝ってもらいたい事があるんだけど――」
話している途中でフェルナールの顔が赤くなってから青くなってゆく。
「あ、ごめんね」
スズカが手を離すと、フェルナールは軽い咳をして深呼吸をする。
「という訳でお願いね」
「そ‥‥そんな事いわれてもどうしたらいいか」
「黙っていてくれればいいわ。後はみんなに合わせてもらえればいいわよ」
スズカはフェルナールを言いくるめて開放した。
「次はカローさんに話しておきましょうか」
スズカは食事が出来上がるまでに奔走した。
「柊さん‥‥」
出来上がった料理をテーブルに並べていた柊にデュカスは声をかけた。
「あの‥‥この間の事なんだけど」
デュカスは柊を真っ直ぐに見つめる。
「一緒に行ってくれるかな? 故郷に」
柊はゆっくりと頷いた。
「デュカス様、ご迷惑かもしれませんが、私も村に連れて行って下さいませ」
「そっそうか。そうか‥‥よかった」
デュカスは胸を撫で下ろす。
柊がデュカスの手を握る。一大決心をして宴の席でいうつもりであった柊だが、デュカスから話を切りだしてくれた。予定とは変わってしまったが、それがとても嬉しかった。
「それと‥‥私の事は冬霞と呼んでほしいのですが」
「わかった。‥‥冬霞」
デュカスと柊は二人とも顔が真っ赤になる。
「ふふふふっ」
どこからか笑い声が聞こえた。
「見たわ〜よ。デュカス」
テーブルの下から現れたのはスズカだ。
「冬霞、よかったわね」
それ以上何も言わずに、ご機嫌なスズカはテーブルから離れていった。
●宴
「まずは、これからの村の復興と、生き残れた人たちの新しい人生を願って」
「乾杯!」
コルリスの言葉に続いてガルイが声を上げ、乾杯によって宴が始まった。
軽快な音楽が流れる。コルリスのリュートによる演奏だ。
サーラのしなやかな手足が舞い、踊りが始まった。ステップを踏み、常に変化してゆく姿は炎のようだ。
サーラは国乃木が見せた炎の力強さを舞踊で表現してみせた。
激しく燃えさかり、焼き尽くそうとする炎。それは図らずもデュカスの悪夢であった故郷の村の焼失のようであった。
そして寂しさを表す灯火。暖かさを許す暖炉の火。仲間と囲んだ焚き火。敵へと射られた炎。真っ赤な球状の炎。
デュカスは一筋の涙を流した。そこには悲しみだけではなく喜びもあった。踊りから連想された火を通してデュカスは今日までを振り返ったのだ。
「どうかなさったのですか?」
デュカスは隣りに座っていた柊に訊ねられる。
「いや、なんでもないんだ。へぇー。これがジャパンの食べ物なのか」
「お塩を少しつけてお召し上がり下さい。どうでしょう? お口に合いますでしょうか?」
デュカスは手の甲で涙を拭うと、フォークでエビの天ぷらを食べる。それを柊はじっと眺めていた。
「美味しいよ! こんなの食べた事ないな」
デュカスは次々と皿にとって天ぷらを食べる。とっても気に入ったようだ。
「冬霞、身体の方はどうなの?」
デュカスは前にスズカから聞かされていただけでなく、様子からも柊の身体を気にしていた。
「今日は体の調子が良いようです。これもデュカス様のおかげでしょうか」
柊は微笑んだ。
「デュカス、これでしばらくはお別れかね」
レシーアがデュカスに近づく。
「レシーアさん、いろいろとありがとうございました。貴方がいなければ今頃どうなっていたかわかりません」
「そんな事いわれると照れるわ。それはそれとして、よく頑張ったわね‥」
レシーアがデュカスを抱き締めて背中を軽く叩いた。
「兄弟仲良くね」
レシーアは近くにいたフェルナールの頭を撫でる。
「デュカスが無理しないようによろしくね」
レシーアはワンバと握手をするとガルイを探す。突然、叫び声がする。
カローが椅子から転げて倒れていた。
「いや‥‥平気だ。平気なはずだ」
カローは自分で起きて顔を横に振る。どうやらレシーアのカオス鍋を味見したらしい。
「失礼ねぇ。こんなに美味し‥‥」
レシーアは初めて味見をする。みんなに背を向けてよろけた後、自分の頬をつねってから振り向いた。
「まぁ、こんな事もあるわぁ」
笑って誤魔化すレシーアである。
ガルイがちょうどカローの側にいたのでレシーアは話しかける。
「ガルイ、何でも一人で背負い込んじゃダメよ。何かあったらギルドで依頼よろしくねぇ。頼ってくれていいわよ」
レシーアはガルイの両肩を叩いた。
「大丈夫ですか?」
柊が渡した水入りカップを、カローが飲み干した。
「ちょっとびっくりしただけさ」
カローに大事はなく、席に座り直した。
「カロー様、その節は無理なお願いを致しまして申しわけありませんでした」
柊はカローに挨拶をする。そしてみんなに挨拶して回った。
「あっ美味しいです」
演奏を一時やめて休憩をとったコルリスが国乃木の炒め物を食べる。とっても気に入ったようだ。熱が通っているのにシャキシャキした野菜とお肉がとても美味しい。
「同志よ。そろそろいいかな」
スズカがコルリスの側で囁く。
「はい。いきましょうか」
国乃木も用意を始めている。デュカスと柊以外の者に根回しは済んでいた。
「デュカス、ちょっといい?」
スズカが座るデュカスと柊の間に顔を割り込ませる。
「貴方は村に戻るのよね? 冬霞を連れて行くのは構わないけど責任とって頂戴ね」
「せっ責任といいますと‥‥?」
「結婚式はいつにする? 村が復興する迄なんて待てないわよ」
スズカはニヤリと笑いながらデュカスに顔を近づけて答えを迫る。柊は顔を赤くして下を向いていた。
「おっデュカス、結婚するのか?」
「先、越されましたなあ」
「あらぁ、冬霞とられちゃったわねぇ」
「自分に正直になられたのですね」
「おめでとうございますね」
「あらあら‥でしたら、今日は御二人の関係者が少なからず集っていますし。ささやかではありますが、この場を借りて式を挙げられては如何ですか?」
デュカスはみんなに囲まれていた。
「村の復興は大変でしょうし、ガルイさんも御二人を祝福してからであれば、安心して旅立つ事が出来るはずです」
「‥‥わかりました。お願いします」
待っていたデュカスの一言で、宴は結婚式へと変わった。デュカスはジーサス教白の信仰であるので柊とは違う。この問題は二人で解決する事になるが、今日の所は宗教色を排した形となった。
スズカは指輪を用意しておこうとしたが、ワンバに訊いて止めていた。デュカスは自分の知らない所で事が運ぶのがとても嫌いらしい。結婚の誘導だけでも勘のいいデュカスの事だから気がついてないはずがない。指輪を用意されているとすれば、さすがに怒り出すかも知れないので取りやめたのだ。
「どこにいったのかしら?」
デュカスの姿が見当たらないので、全員が探していた。
「ま・さ・か!」
誰かが呟いた時、デュカスが遠くから走ってきた。逃げ出したのではなかったらしい。
国乃木が取り仕切り、結婚式が始まる。
「若い二人に‥数々の祝福と恩恵がもたらされることを」
これからの幸せを願う言葉が綴られてゆく。
デュカスは何かを取りだす。
それはタンポポで作られた指輪である。デュカスが少しだけ姿を消していたのはこの指輪を作る為であった。
「必ずもっといい指輪を渡すから、今日はこれで我慢してくれ」
「いえ、この指輪がとても嬉しいです。春になると野に指輪が咲くとはなんて素敵なのでしょうか」
デュカスと柊はキスをする。
「皆様に後押しされ、好きな人の隣にいる事が出来て‥‥私は幸せです」
みんなの祝福の声があがった。
「私は人並みの幸せを得る事など無いと思っておりました。デュカス様‥‥お慕い申しております」
俯く柊の言葉にデュカスはみんなにからかわれた。
国乃木が持ってきたハーブワインが少しずつ全員に分けられて二人への祝杯となる。
楽しい時間を続き、サーラにかわり、今度はレシーアの踊りだ。
コルリスの奏でる調べに乗り、レシーアは踊った。
「金取るよ?」
レシーアはジッと眺めているワンバとガルイに悪戯っぽく声をかける。
「俺も、やってみるかあ」
踊りが終わり、レシーアは酒の容器をつかってジャグリングを始めた。それを観てガルイもやりだしたのである。
二人のジャグリングにみんなが拍手を送る。ガルイの頭にレシーアがすっぽかせた容器が当たった。
「ごめんごめん。ちょっと酔っぱらったかねぇ」
ガルイの頭を撫でるレシーアであった。
「さあ、みなさんも踊りましょう」
宴の最後はサーラのかけ声でみんなで踊る。デュカスと柊も踊り、全員がステップを踏んだ。中にはとんでもなくヘタな者もいたが、そんなのはどうでもいい事だ。
食事も終わり、夕暮れ時になる。
「冬霞、幸せになりなさいね」
スズカは柊の手を握って話す。
「今度は依頼抜きで、お会いできたら幸いです」
コルリスは村を復興する者達に挨拶をする。
「力になれる事があったら頼ってね。そんな顔しないで。しんみりするのは柄じゃないのさ〜♪」
レシーアは笑顔で手を振った。
すべてが終わり、翌日に宴の後は片づけられた。
そして数日後、たくさんの荷物を載せた馬車はパリを出発した。デュカスの故郷に向かって。