さざ波の向こうに 〜マーメイド〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:7 G 6 C
参加人数:5人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月31日〜04月14日
リプレイ公開日:2007年04月09日
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●オープニング
人間の男アクセルはパリのセーヌ川沿いにある船着き場にいた。
ここに来たのには訳がある。
アクセルはマーメイドの娘であるフランシスカと出会い、さらわれた兄のカルロスを冒険者の力を借りて救出に成功する。紆余曲折はあったが、後はマーメイドの兄妹をドレスタットの周辺海域まで送り届ければすべては丸く収まるはずである。その準備として船着き場を訪れたのであった。
「なんかおかしいな」
船着き場でドレスタット行きの定期便や、乗せてくれそうな貨物船の状況を調べていたアクセルは首をひねる。
仕事の関係上、どちらかといえば荒くれ者が船着き場には多い。そんな中でひ弱な細身の身体をした顔だけは整った男が、かなりの数にのぼって働いているのを見かける。もちろん美形がいてもおかしくはない。だが、そういう男達が千鳥足で重たい荷物を運んでいる姿には違和感があった。
「あれは‥‥!」
アクセルは倉庫の影に姿を隠す。旅の装束としては派手過ぎる格好をした女性を見かけたからだ。
「ブロズの娘、シャラーノ嬢‥‥」
アクセルは隠れながら覗き込む。前に地方領主ブロズの別邸にフランシスカを助けに行った時に会った事がある女性だ。
彼女は極度に美形の男を好む。永遠の命の得られるという迷信があるマーメイドを食べる事なく、自分の下僕にしようとした人物だ。
シャラーノは美形の護衛達に取り巻かれながら歩いている。その中に混じって美形とは言い難い高齢の男がいた。
「シャラーノがあのタイプの男と楽しそうに話しをしているなんて‥‥。まさか! お忍びで来た父親の領主のブロズ?」
確証はないがそう考えると合点がいく。
荷物を運んでいる美形の者達はシャラーノの息がかかっているのだろう。奴らはドレスタット周辺でマーメイドが捕らえられた事を知っているはず。ならマーメイドであるカルロスとフランシスカがドレスタットに戻ろうとするのを容易に想像出来るはずだ。
美形の荷物運び達はマーメイドが船を利用してドレスタットに向かおうとするのを待ち伏せているに違いない。
「やっぱりまだあきらめていないのか‥‥。しかも、自らパリにまでやってくるなんて」
アクセルは拳を強く握った。
アクセルは日が暮れる前にパリ近郊にある集落に戻る。そこには友人が住んでいて、今は使っていない小屋を貸してくれていた。
「ここまでやるなんて思っていなかった。きっと街道にも監視の者を置いているはず。セーヌ川だけでなく、陸路も大変だ」
アクセルはカルロスとフランシスカに今日知った事を話し始める。マーメイドの二人は魚の尾を変化させて、人間と変わらない姿をしている。大量の水さえかけられなければ元には戻らない。
「人間の世界はよくわからないけど、パリの近くで他の領主が勝手にそんな事したらいけないんじゃないの?」
「ああ、大問題のはずだ。しかし一般人として監視しているだけなら証拠など出るはずがない。咎められても、とぼけてお終いだ」
フランシスカの言葉にアクセルが悔しそうに眉を寄せた。
「やっかいな奴だ。あのシャラーノというのは」
シャラーノから酷い目に遭わされたカルロスは呟く。傷は大分よくなっていた。
「知り合いのつてで船主を紹介してもらって、貨物船に乗せてもらえるように話をつけてきたんだ。シャラーノが監視していないだろう知る人ぞ知る船主だ。これでパリ周辺からは脱出出来るはずだ。問題は‥‥」
アクセルは一度奥歯をかんだ。
「途中のルアーブルまでしか乗せてもらえない事なんだ。ルアーブルから先は新たな船に乗るか、陸路でドレスタットまで行くかどちらかだ‥‥」
下手をするとこの小屋までブロズ親子に発見されるかも知れないとアクセルは考えていた。領主という立場は大抵の不可能を可能にしてしまう。アクセルは残された時間がない事を痛感していた。
翌日、アクセルは冒険者ギルドで依頼を行った。
長旅のお供をしてくれる者の募集である。すでに事情を知っている冒険者なら、アクセルの名前を見れば察してくれるだろうし、初めてならば依頼の最初に詳しく説明するつもりだ。
依頼を出し終わってアクセルはギルドを出る。
「フランシスカがいなくなるのか‥‥」
アクセルは小春日和に背中を丸めて歩き始めた。
●リプレイ本文
●出航
初日、夜明け前のパリ船着き場上流が集合場所となっていた。
「お二人とも我慢して下さい」
十野間修(eb4840)はマーメイド兄妹に目立たないよう少し汚れた格好をさせていた。容姿からいっても二人は目立つからだ。
「気をつかわせてすまない」
兄カルロスは十野間に首を横に振ってお礼をいう。完全に回復してくれたウェルスにもお礼をいった。
「無事、海に戻れるのを祈ってますね」
見送りに来たパトゥーシャはアクセル、妹フランシスカと握手をする。
「本当に助かった」
「ありがとう。忘れないよ」
二人はパトゥーシャと強く手を握る。
「ユーフィさんには私から経緯をお話ししておいたよ」
「パティの紹介で参加させてもらいました、ユーフィールドです。追ってくるのは褒められた奴らではないようですね」
ユーフィールド・ナルファーン(eb7368)はパトゥーシャに紹介されて挨拶をする。
「貴族にあるまじき所業ですね。そのシャラーノという方々の行いは」
同じく経緯を聞いたコルリス・フェネストラ(eb9459)が呟く。アクセルとフランシスカは強く頷いた。
「レオパルド君、よろしくお願いします」
護堂熊夫(eb1964)はレオパルドに手紙を託す。ドレスタット周辺の有力者、領主や騎士、貴族に宛てて、かつての危機に匹敵する災いの可能性についてが認めてあった。安全面のお願いもされている。
「兄の立場もあるので気乗りはしませんが、やれる事をやっておきましょう」
十野間もウェルスに書状を託していた。地方領主ウード伯宛である。家畜商が行った密漁の件や、パリ周辺でブロズ領主が勝手な事をしているとの内容だ。
「来たようやな」
中丹(eb5231)が小舟が乗りつけたのを知らせる。全員が岸辺に向かい、小舟に乗って次々と帆船に乗り込んでゆく。
「道中、どうかご無事で」
ウェルスは祝福と祈りを捧げて見送る。パトゥーシャとレオパルドは手を振っていた。
ドレスタットへの旅はこうして始まった。
帆船はパリの船着き場に差しかかる。
一行は帆船内で窓の隙間から外を窺う。警戒は厳しいようだ。
何事もなく船着き場周辺を通過すると、護堂が甲板に飛びだした。そしてウェザーコントロールを行う。少し曇っていたので快晴にするつもりだ。
順調な航海の為と兄妹の正体がばれる要素を少しでも排除する為だ。これからも雨が降らないように気をつけるつもりでいた。
「事情はよくわからんが、ルアーブルまでは任せておけ」
船長が煙草のパイプをくわえながらニヤリと笑う。
それからのセーヌ川下りは順調に進んだ。
「なあなあ、カルロスはん」
中丹が川の流れを眺めていたカルロスに声をかけた。
「ある所でマーメイドが泡になって消えたっていうの聞いたんやけど、ほんと?」
「初耳だな。今まで聞いたことがない。実際にもあり得ないよ」
「そうなんや。絶対ないと思っとったけど、聞きたかったんや。すっきりしたわ」
それからカルロスと中丹は泳ぎ方について談義する。一度だけ競争してみようという話になった。
二日目となって夜の帳が下りた頃、帆船はルアーブルに寄港した。
一行は帆船を下りて宿に泊まった。
●ドレスタットへの障害
三日目、一行はルアーブルの町へと繰りだした。
「小舟があれば万が一の時、脱出に使えますし、それにドレスタットで沖に出るときにも使えますので用意するつもりです」
「そうだな。あった方がいろいろと便利だ」
コルリスの言葉にアクセルは頷く。
「費用は請求してくれ。かかった費用は全部出すから」
アクセルがみんなに声をかけておのおのに行動開始となる。
コルリスは小舟を、中丹は化粧道具を用意しに単独行動をとる。その他の者は全員で船の状況を調べる為、船着き場を訪れた。
「まさか!」
護堂は今到着しようとしていた大型帆船を観て声を上げた。前に聞いた通りのとても派手な格好をした女性がいる。
「甲板にいるのはシャラーノですか?」
護堂に問われてアクセルは物影に隠れながら大型帆船に近づいた。そしてすぐに戻ってくる。
「間違いない。あれはシャラーノ、そして近くにいた男がブロズだ」
全員が驚く。
「あれが領主のブロズとその娘のシャラーノなのですね‥‥」
特徴を既に聞いていたユーフィールドだが本物を確認する。ジッと見つめて脳裏に焼き付ける。護衛の者の頭数はたくさんいた。
本日出発の大型帆船はすでに満員であった。貨物船で今日出発するのはない。
明日ドレスタットへ出発する大型帆船の乗組員に前金を渡し、一行は船着き場を後にした。分かれていた冒険者と合流して話し合いが行われる。
「宿には戻るのはかなわんやろ。それとこんなもんは持ってなかったやろか?」
中丹は船乗りのお守りを護堂に見せる。首にかけていた者もいたようだ。不敵な笑みの中丹のクチバシがキラリンと光る。
「小舟は用意出来ました。みんなで運び入れるつもりでしたが、借りた方々に大型帆船に運んでもらえるよう後で頼んできます。代金をはずめばやってくれるでしょう」
コルリスはみんなに報告をした。
「予め手を打っておくべきでしょう。ここは泳ぎが得意な三人にやってもらいたい事があります」
十野間は過去の事例からヒントを得て作戦を考えていた。それを中丹、フランシスカ、カルロスに伝えた。
「なるほどやな‥‥」
「カルロス兄さん、やってみようよ」
「そうだな。最後に仕返ししてやるのも一興だ」
十野間から兄妹は武器を借りる。残る相談は明日出航する大型帆船に乗り込む時だ。
「怖いのは強権を使っての逮捕などですが、この土地ではさすがに無理でしょう。そうなら手加減する理由もない」
ユーフィールドは自分の開いた左手を握った右手で叩く。
「ギリギリの出航時間に強行突破はどうでしょうか?」
護堂は天候操作をした後で提案した。
「おいらは賛成や」
「術をもって対処しましょう」
「みなさんよろしくお願いします」
「もしもの時は矢を放ちます」
大型帆船に乗り込む作戦が決定された。
夜も更けた頃、中丹と兄妹は船着き場近くの海に飛び込んだ。瞬く間に兄妹はマーメイドの姿となる。
目指すは領主ブロズとシャラーノが乗ってきた大型帆船だ。
中丹とカルロスが全力で泳ぐ。わずかな差で先に船の竜骨部分に触ったのは中丹であった。泳ぎの勝負は中丹の勝ちとなる。
少し遅れてフランシスカが到着した。
「さて、これからが本番や」
中丹が海中で話し、作戦が開始された。
フランシスカとカルロスは舵の隙間部分に石を海底から拾って填めてゆく。十野間から借りた武器で傷つけて破損を促す。
中丹はなるべく音を立てないように、横波に見せかけて船底に衝撃を与えた。動きだしたのなら亀裂が生じるように要所を狙って壊してゆく。
作業が終了して三人は仲間の待つ場所に上陸した。
兄妹を乾いた布で拭く。護堂がカルロスを背負い、アクセルがフランシスカを背負う。運んでいる間に魚の尾が人の足へと変わる。
「アクセル、あのね‥‥」
フランシスカがアクセルの耳元で囁いた。アクセルは驚いたが、そのまま黙り込む。焚き火が用意された場所まで戻り、兄妹を完全に乾かした。
その日は宿には泊まらず、野宿する事になった。宿を領主ブロズが調べさせているかも知れないからだ。
「まずは私が見張ります」
護堂が交代で行う見張りの一番に名乗り出た。ユーフィールドも最初の見張りだ。
静かなルアーブル近郊の林の中で一行はひっそりと夜を過ごすのだった。
●いざドレスタットへ
四日目、一行が乗り込むはずの大型帆船の近くには、たくさんの器量よしの男達の姿があった。まず見張っている敵であろう。
コルリスの手筈ですでに小舟は大型帆船内に届けられている。
アクセルとカルロスは確実に面が割れていた。フランシスカも同様である。護堂、中丹、十野間もなんらかの形で知られていてもおかしくはない。知られていないのはユーフィールドとコルリスだけだ。
お昼ちょうどが出航時間である。
「化粧したけどごまかせるかいな?」
中丹の目はパッチリと開き、太い眉毛がダンディズムを漂わせる。他の仲間も中丹の用意した化粧道具で何かしらの変装はしていた。
「作戦は変えずに強行突破で」
アクセルの言葉に隠れている仲間全員が頷く。
中央に兄妹とアクセルを配し、周囲を冒険者達で覆った。後衛は中央後ろである。そして港と大型帆船を跨いでいる木製の小さな橋に向かう。
「おったわ」
中丹が呟いた理由はシャラーノの姿を見かけたからだ。やはり一番の大型帆船だけあって注目されていた。
「そこの集団、待て!」
格好だけは立派な若い男が一行に声をかけた。
ユーフィールドの抜いた霊剣が声をかけた若い男を叩き飛ばす。一行は一斉に駆け始めた。冒険者達は武器を手にする。
「あいつらです! 捕まえて!」
「褒美を取らせるぞ! 引っ捕らえろ!」
シャラーノと領主ブロズが叫んだ。
ブロズとシャラーノの部下達が一行に襲いかかる。数だけはもの凄く、まるで農作物を狙うイナゴの群れのようだ。
「うおおおおっ!」
護堂は盾を持って先頭に立ち、敵の波を押し分ける。
「ふん、かわせるもんならかわしてみぃ!」
「迷惑です。退きなさい!」
中丹が右翼を、ユーフィールドが左翼を担当して敵の集団に楔を打つように突き進んだ。
「人の友人を勝手に売買し、権利を主張するとは! 弾けなさい!」
十野間は敵が固まっている場所にシャドゥボムを唱え、影を爆発させる。シャドウバインディングで稀にいる強そうな敵の足止めも忘れない。
敵が作った厚い人壁を突破する。後はわずかな敵を蹴散らして大型帆船に乗り込むのみだ。
「我慢ならんのや! 少しだけ寄り道するんや! 泳いで追いつくで」
中丹が一行から外れて領主ブロズとシャラーノに向かって突進した。強く足を踏み込んで両掌を領主ブロズに撃ち込む。領主ブロズは弾き飛ばされて海の中に落ちる。
「なっなによ‥‥!」
シャラーノが中丹を睨みつけた。その時一本の矢がシャラーノの近くを通り過ぎる。
「あっ!」
シャラーノが大事そうに抱えていた箱の蓋が開き、宝石のついた装身具が海に落ちてゆく。中丹がわざと空振りの回し蹴りをすると、驚いたシャラーノは足を滑らせて自分も海に落ちた。
中丹は船上で矢を放ったコルリスに手を振る。そして腕を組み、クチバシをキチバシキラ〜ン☆とさせた。既に大型帆船は出航していた。
「おっと、こうしてはおられんかったんや」
中丹は急いで海へと飛び込むと大型帆船に追いつく。縄ばしごをかけてもらって無事に大型帆船へと乗り込んだ。中丹の手にはたくさんの船乗りのお守りが握られていた。敵の隙をみて引きちぎってきたのである。
「面白いもんみせてもらったわ」
大型帆船の船長は大笑いをしていた。理由は何も尋ねられはしない。さすが海の男である。
しばらく警戒していたが、敵の船が追いかけてくる事はなかった。昨夜の細工が功をそうしたようである。
●別れ
五日目は何事なく、六日目の昼に大型帆船はドレスタットに到着した。港近くではたくさんの警備の船を見かける。手紙が効いたのかも知れないと護堂は考えた。
小舟を出して沖合に出る。
「またいつか、お逢い出来たら‥」
「この場所で平和に暮らせることを祈ってます」
みんなが別れの挨拶をする中、アクセルは鬱ぎ込んでいた。
「アクセル‥‥」
フランシスカが声をかけてもアクセルは振り向かない。
「‥‥これでやっと普通の生活に戻れる。とっとと消えろ」
「えっ」
フランシスカはアクセルの言葉が信じられなかった。
「妹よ。行くぞ。みなさんありがとう。人間にもいい方がいるのがわかったよ」
海に飛び込んだカルロスがフランシスカを呼ぶ。
「アクセル、今までありがとう‥‥」
フランシスカはアクセルの背中に声をかけて海に飛び込んだ。
みんなが手を振ってお別れをする中、アクセルは振り向こうとはしなかった。
一晩をドレスタットで過ごし、七日目になる。一行は帰りの大型帆船に乗り込んだ。
借りた小舟を返す為にルアーブルに立ち寄る船を選んだ。その為にパリには予定より一日遅い五日後の到着となる。
アクセルは誰が話しかけても返事をしない。抜け殻のようになっていた。
食事の時、ポツリとアクセルが話す。
敵の船に細工をしてきて海から上がったフランシスカを背負った時、告白されたのだと。
「どうする事もできないじゃないか。どうすることも‥‥。忘れた方がいいんだよ。俺も、フランシスカも」
誰もアクセルにかける言葉は見つからなかった。
それでも冒険者達は船室に閉じこもるアクセルを甲板に誘う。
夕焼けで海が赤く染まっていた。
「イルカです」
護堂が指差す。最初一匹だと思われていたイルカだが、次々と跳びはねて海上に姿を現した。アクセルはぼんやりとその様子を眺めていた。
「アクセル、ほんとーにありがとー」
自分を呼ぶ声にアクセルは海上を見回した。
イルカの群れの中にはよく知った姿。
フランシスカがイルカの背に掴まって泳いでいた。最後の挨拶に来たのである。
「フランシスカ!」
アクセルは叫ぶ。
「アクセルはん、いつか人魚はんたちと平和に暮らせたらええな」
難しいとは思いながら、中丹はアクセルに呟いた。
フランシスカの姿は遠ざかっていった。小さくなり、さざ波の向こうに消えるまでアクセルはずっと見つめていた。
●パリ
途中ルアーブルに立ち寄ったが、既に領主ブロズ一行は姿を消していた。そのまま船旅は続き、十二日の昼頃にパリへと帰港する。
「まあ、飲も! はいはいはいはい、胸に溜まったもんを吐き出すんや!」
アクセルは中丹に酒を注がれる。
みんなの好意で『アクセルを慰める会』と名づけられた飲み会が開かれた。
「またいいことあります」
護堂も酒を注ぐ。
「そうです。元気を出して下さい」
十野間は新たなワインを用意する。
「こっちのお酒もかなりいけます」
ユーフィールドは気に入っているお酒を奨める。
「おつまみ、頼みましょうか?」
コルリスは隣りのテーブルに並ぶお皿を眺めた。
「まったく俺って奴は‥‥みんな、ありがとうぉ」
「そんな事ないでぇ。ええ吐きっぷりや! 生きとりゃまた会えるって、な!」
ぐでんぐでんに酔っぱらいながら飲み会は夜遅くまで続いた。
翌日の十三日、アクセルと別れの挨拶をした冒険者達はギルドを訪れた。
報告をしている途中でギルド員達が話していた噂を耳にする。地方領主ブロズが失脚するらしいとの噂であった。
今回の依頼に参加した冒険者達にとって、理由は容易に想像出来た。
残り一日の余裕を持って依頼は完了する。
それからブロズ領のお取り潰しが正式に決まるまで、大した日数はかからなかった。