海賊を撃退せよ 〜トレランツ運送社〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 34 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月14日〜04月23日
リプレイ公開日:2007年04月22日
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●オープニング
パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。
「どうしたもんかねぇ」
女社長カルメン・アーレは椅子に深く座り、机に足を載せて考えた。黒髪をなびかせる切れ長な瞳の二十五歳独身である。
「最近、海賊共にやられっぱなしでどうしたもんか」
カルメン社長の悩みは船を狙う海賊達だ。最近になってまた活発になってきたのだ。先月などは三回も積み荷を奪われてしまった。積んでいた殆どが自前の商品であったから、痛みはあったものの、倒産は免れた。これが人様から預かった品だとすれば大変である。品そのものの補償はもちろん迷惑料まで請求されてしまう。
「ゲドゥル、あんたはどう思うかい?」
カルメン社長は男性秘書ゲドゥルに話しかけた。
「護衛船を用意したらどうでしょうか?」
「あまりいいアイデアではないねぇ。金がある程度かかるのはしょうがないとしても、かかりすぎるのはカンベンさ。それこそ本末転倒ってやつだ」
「では、領主様にお話をもってゆくのはどうでしょう?」
「頼るのも手ではあるが、地面の上ではラルフ様はよくやってくれている。水の上、海の上の事はあたいら船乗りが始末つけた方がいいのさ。よって却下だ」
ルーアン周辺の土地はヴェルナー領とされている。治めている領主は別の顔も持っていた。ブランシュ騎士団黒分隊長の肩書きもあるラルフ・ヴェルナーだ。
「やっぱり、ここはプロを雇うしかないかね。戦いのプロを」
「といいますと?」
「今までは腕力もある船乗りだけに任せておいたが、とりあえず冒険者ってのを試してみようじゃないか。浮かぶ船の上でどれだけの事が出来るか未知数だがね」
カルメン社長は依頼内容をゲドゥル秘書にまとめさせた。
「‥‥悪い予感がします。もしかしたら、これからずっとわたしがこの役目をさせられるのでは」
ゲドゥル秘書は依頼のメモを持って帆船内で船酔いになっていた。
海運業に携わっていながら、ゲドゥル秘書は未だ船に酔う。辞めされられる寸前、気が利いて頭が良いことが理解され、社長つきの秘書になったのだ。
荷物を載せ、ゲドゥル秘書を乗せた帆船はルーアンからパリへと向かう。
パリに着いたゲドゥル秘書は這うようにして冒険者ギルドを訪れ、そして依頼を出したのだった。
●リプレイ本文
●出航
パリの船着き場には既に二日程前からトレランツ運送社の商業帆船が碇泊していた。ルーアンからの荷物を降ろし、そしてパリで新たな荷物を載せてあった。
依頼初日の朝、冒険者の訪れを帆船は待っていた。
「ほらほら、乗り遅れんなよ!」
帆船と埠頭を繋ぐ板の側に立っていた船乗りが大声をあげた。錨が上げられていつでも出航出来る状態である。
集まった冒険者達は挨拶もそこそこに帆船へ乗り込む。
帆が張られ、風を受けてゆっくりと帆船は動きだす。
「喜八おじさん、美沙樹お姉さん、皆がんばって♪」
ミフティアは踊りによって冒険者達を見送りをする。忙しそうにしながらも船乗り達も合間に手を振っている。事前に魔法によっていろいろと助けも出しておいた。
「積み荷はすでに載せられていたようじゃ。残念だのう」
ルーロも手を振っていた。別段、周囲には海賊の回し者らしき怪しい者は見あたらない。
帆船の護衛はこうして始まった。
冒険者達のほとんどは甲板の上にいた。船乗り達も一通りの作業が終わり、交代でくつろいでいる。
「アオイとエンゾウ、特にエンゾウをこのままでいいかねぇ。ヒポカンプスなんだが。ダメなら泳がせるつもりだ」
「ヒポカンプス? 必要っていうなら船に乗っていても別に問題ねえぞ。いらんものなら海に放りだすがな」
黄桜喜八(eb5347)の問いに船長アガリは大きな口をさらに開いて豪快に笑った。積み荷の手伝いをしようと思っていた黄桜だがすでに準備されていていささか拍子抜けとなる。ただ、積み卸しはこの先の港でもあるだろう。
「やれることで船を守りたいと思います」
コルリス・フェネストラ(eb9459)は近くにいた船員達に挨拶をする。
「こっちこそよろしくな。ほう‥‥いい弓持ってるな。少し待ってろ」
船員の一人が船内に入り、木筒に入った矢の束を持ってきた。
「この船を守る分には、思いっきり使ってくれ。前に海賊に襲われて射られた時、傷みの少ないのをとっておいたんだ。会社の備品だから持ち出しは禁止だぞ?」
コルリスはお礼をいって矢を預かる。
「この船に依頼人さんはいらっしゃらないのね」
船乗りのお守りを手に天津風美沙樹(eb5363)は残念がる。ギルドの受付係から酷く船酔いをした依頼人だったと天津風は聞いていたのだ。
船乗りの一人に訊ねると、帰りの航路でルーアンに立ち寄るそうだ。その時にゲドゥル秘書に会えるかも知れない。その時までとっておく事にした。
「ええわぁ」
ルイーゼ・コゥ(ea7929)はマストの上に座り、船乗り達を上から眺めた後でゆっくりと近づく。
「お近づきの挨拶や。よろしく頼むやさかい。ドレスタットの海男達もえぇ男揃いやけど‥‥パリの船乗りもええ男ばっかりやなぁ☆」
ルイーゼは近くの船乗りに声をかけると船縁にチョコンと座る。興味を持った船乗り二人と会話が弾む。
「あ、せやせや。海賊退治のことやけど、うちらも頑張って戦うけど、どうしても討ち洩らしが出るかも知れへん」
ルイーゼは腕を組む。
「せやから、兄さん達には船を守る『最終防衛線』になって欲しいねん。相手の船から板かけて乗り込んできた奴をぶちのめす。お願い出来まへん?」
「討ってでるのが俺達船乗りのやり方。ぜってえの約束は無理ってもんだ。なんせ血が騒ぐ」
「そないな事いわんといてや。兄さん達にしかこの船は動かせないんや。戦うなとはいうとらへんで。うちも兄さん達のかっこいい姿は見たいんやから」
「まっ、出来る限りはやってみるか」
軽い返事ではあったが、船乗り二人は承諾してくれるのだった。
「皆さんの安全を第一に、と伺っています」
十野間修(eb4840)は側にいた船乗りと話し合いをしていた。
「海賊達に対して色々と思うところはあるでしょうけど、無茶をして怪我をしては、社長の心意気を無に帰してしまいます」
「カルメン社長、あの人は恐いからな‥‥」
屈強な肉体の船乗りであったが、女社長カルメンは恐いらしい。
「そうです。カルメン社長の言葉でもあります。とは言え、二度と手を出そうだなんて思わないよう、きっちり締めるところは締めなきゃいけません。その為には皆さんのお力が必要です。宜しくお願いします」
十野間は船乗り達の弱点『カルメン社長』を知る。この言葉は使えそうだと思いながら、他の船乗りにも声をかけていった。
「なんだ?」
船内のテーブルに座って酒を飲んでいた船乗りが、テーブルに乗せられた腕に疑問の声を呟く。
「海賊との戦いは私達、冒険者に任せろ! といっても聞いてもらえないだろう。船乗りの流儀とは強い者が正しいそうじゃないか。どうだ? 私と腕相撲で勝負しようじゃないか」
エメラルド・シルフィユ(eb7983)は腕相撲の体勢で上目づかいに船乗りを睨みつける。
「おいおい。女に守られる程、落ちぶれてはいないぞ」
「私を女と侮るか。構えろ!」
「面白い。やってやろう」
エメラルドの強い語気に、船乗りが手を合わせて構える。
腕相撲の勝負はエメラルドの勝利に終わる。その後、四人の船乗りとも腕相撲を行ったが、全勝であった。
終わった後で酒を酌み交わす。
「船を操るのはお前達の役目、戦うのは我らの役目だ。私達の仕事を取らないでくれよ」
「わかりやしたらから。姉さん、もっと呑みねえ」
船乗り達とエメラルドは心を通じ合わせたようだった。
●海へ
帆船は夜になっても月明かりの中をゆっくりと下る。
二日目の昼間にルーアンを通り過ぎ、夕方頃、海沿いの町ルアーブルに到着した。ここでの積み卸しはわずかであったが、黄桜は空飛ぶ絨毯を使って船乗り達を手伝う。
「明日からは海だからな。英気を養っておけよ!」
船長アガリの言葉に船乗り達は雄叫びで答えた。
「ほらほら、俺達と仲良くなりてぇんなら、酒ぐらいは付き合いな」
冒険者達は船乗り達に声をかけられる。船乗りは半分ずつに分かれて交代で港に下りるようだ。冒険者達も半分ずつに分かれて、ルアーブルの町に繰りだした。
どんちゃん騒ぎの夜は明け、三日目の朝にルアーブルを出航する。
帆船はシェルブールを目指す。
「よろしくね」
天津風は借りた空飛ぶ木臼で青空を飛んでいた。潮風に乗り、カモメに挨拶をしたのである。
「気持ちええわぁ」
ルイーゼも帆船の上空をカモメと一緒に舞う。
二人はその後、交代で空から海賊船がいないかの監視を行った。
「分かりやすい昼間の襲撃よりよ。夜陰に紛れての襲撃の方が怖えぇ‥‥」
相談の時そう答えた黄桜は、空飛ぶ絨毯を持っていたが、夜の監視をする為に昼間は休憩していた。
冒険者達は海に出て緊張をしていたが、何事もなく一日は過ぎ去る。
夜間の警戒は昼間がんばっていた天津風とルイーゼを除く冒険者と船乗り達で行う。元々船乗り達は仕事として見張りが決まっているし、霧などがない限り、見通しのよい海では海賊船発見から時間的余裕がある。全員が戦闘体勢をとるのに問題はないはずだ。
昼間休んでいた黄桜はほとんど通しで空飛ぶ絨毯で空からの監視を行った。
四日目になって夜の帳が下りた頃、帆船は何事もなく目的地のシェルブールに寄港するのだった。
●海賊
五日目は積み卸しで一日が終わる。
その間、冒険者達は嫌な噂を耳にした。
つい先日に海賊船を見かけたという噂である。時々、シェルブール沖で海賊に襲われる事件は発生していた。
六日目のお昼頃、トレランツ運送社の帆船は貨物を大量に載せて出航した。
昼間は四日目と同じく、何事もない平和な時間であった。船乗り達が魚釣りをしているので冒険者達も貸してもらった釣り竿でエサを垂らす。
その日の食事は釣られた魚を使った料理である。新鮮な魚料理に全員が舌鼓を打つ。黄桜、天津風、十野間は素人の手さばきながら釣った魚を刺身にして頂く。ノルマンでは一般的ではないので、ちょっと隠れて食べたのだった。
「南東に海賊船二隻発見!」
深夜、空飛ぶ絨毯を使っての監視から戻ってきた黄桜が声を上げた。すぐさま冒険者達、船乗り達全員に伝えられる。
夜間ではあったが、速度があがるように船乗り達は操船する。南東は進行方向とほとんど変わらない。海賊はシェルブールから出航した船を待ちかまえていたようだ。帆船は大きく迂回せざるを得ない。
準備を整えた冒険者達は空に舞い上がった。
シフールのルイーゼは自らの羽根で、天津風は空飛ぶ木臼に掴まり、黄桜の空飛ぶ絨毯には十野間とエメラルドが同乗して海賊船に向かった。
コルリスは帆船に残り、矢を射るつもりであった。何かがあればエンゾウで海から海賊船に向かうつもりだ。
海賊船二隻は急速に帆船へ近づきつつある。
コルリスは樽を積んだ場所に立ち、キューピッドボウを手にして矢を放つ。戦いは始まった。
ルイーゼは敵の見張りに見つからないように真上から海賊船のマストに降りる。そして初級のウィンドレスを使った。効果を挙げると帆船まで範囲に含まれてしまうかも知れないからだ。すぐにもう一隻の海賊船でも同じ事を繰り返す。
「向こうの船に敵が乗り込んだぞ! 船長に知らせろ!」
ルイーゼはなるべく声をこもらせてヴェントリラキュイを使う。そして海賊達の動きを視力と聴覚を駆使して監視する。一人の海賊が派手な帽子を被った男に近づいて報告をしていた。その他の者に派手な帽子の男は指示もしているようだ。誰かが船長と呼んだのを聞き、ルイーゼは海賊船の船長だと確信した。
黄桜は先にペットのアオイを海賊船に行かせてダズリングアーマーを使わせる。その眩しさを目にしてしまった海賊達はしばらくの間、視力を失う。
ルイーゼに海賊船長が誰か教えてもらっていた冒険者達は目立たぬように海賊船へと降りる。
黄桜は大ガマの術を唱えた。
「うっわあぉ!」
突然大きな蛙が船上に現れて海賊達は叫んだ。中には逃げ惑う海賊もいる。
「蹴散らせ! ガマの助!」
黄桜の指示で大ガマは大暴れする。
「あれね」
天津風はまだ空飛ぶ木臼に掴まっていた。海賊船長を探しだし、目の前に飛び降りる。すかさず居合いをもって攻撃を仕掛けた。
「何者だ!」
「海賊風情に名乗る名前はないですわ」
海賊船長に手傷を負わせた天津風は続けて攻撃を行う。海賊船長の剣技もそれなりのもので簡単には勝たせてもらえそうにない。
十野間は忍び歩きで気配を消して暗躍する。船を動かす舵輪などを順番にスクロールのストーンを使って石化させてゆく。帆船から許可を得て持ってきたシーツも舵輪を固める為に使用した。
「邪魔だ!」
エメラルドは特に帆船に矢を放とうとする海賊を狙う。コルリスの矢がエメラルドの近くを過ぎるが海賊へ当たる。揺れる船上だというのにコルリスの腕はかなりのものだ。
エメラルドは海賊船長と戦う天津風の方に海賊が向かわないように壁となった。
「止まりなさい!」
十野間がシャドウバインディングで海賊船長に手を貸そうとした海賊を止める。さらに近づこうとする海賊達をシャドゥボムで弾き飛ばす。
「撤退だ!」
海賊船長が叫ぶと海賊の誰かが笛を鳴らす。
もう一つの海賊船も帆船に近づく事なく、反対方向に長いオールで漕ぎ始めた。
「置きみやげやぁ!」
ルイーゼはマストの上に乗り、ライトニングサンダーボルトを船長のいない方の海賊船に落とした。これで両方に被害があった事になる。
頃合いを感じた冒険者達は再び空を飛んで脱出した。さすがに二隻分の海賊が集まったのなら、どうなるかわからないからだ。
「あいつら何もんだ!」
海賊船長が叫んだの同時に帽子が吹き飛んだ。コルリスの矢が海賊船の壁に帽子をとめていた。
何人かの海に落ちた海賊を黄桜のエンゾウが背中に乗せて帆船に連れてくる。治療をして縄で縛り、陸に上がったら領主に引き渡す事になった。
冒険者のおかげで海賊船から無事逃れた帆船は、七日目のお昼頃にルアーブルを通り過ぎる。そのままセーヌ川を上って夕方頃、トレランツ運送社が拠点とするルーアンに到着した。
「ほおー。海賊船二隻を横付けもさせずに撤退させたのかい!」
社を訪れた冒険者達とカルメン社長は対面していた。ご機嫌の社長は社近くに宿を用意してくれた。
「これを私に?」
宿へ向かう前にゲドゥル秘書は天津風から船乗りのお守りもらった。これを持っていると船酔いしないという。
「身に付けていると絶対に船酔いしない優れものですわよ」
「あっありがとうございます〜」
ゲドゥル秘書は大げさに泣きながら天津風に感謝する。抱きつかれた天津風は困った様子であった。
冒険者達は一晩を陸の宿で過ごす。
「しかしここの皆、ほんま感じええなぁ。ここやったらうちも働きたいかも」
ルイーゼは宿のベットに寝転びながら背伸びをする。
「海賊との戦いでは何本か矢が飛んできただけでした。船が壊れたら直すつもりでしたが、杞憂に終わりました」
コルリスは静かに笑う。
夜のうちに積み卸しを終えた帆船は八日目の朝、冒険者達を乗せてパリへと出航した。
九日目の夕方にパリの船着き場に着く。
「あんたらがいて助かったよ。血気盛んすぎて、うちの船乗りは海賊に向かっちまうんだ。いくら強くたって、うまくいかない時もある。本当に助かった!」
帆船の船長アガリは冒険者達にお礼をいう。
「船乗りにも休息は必要だ。ルーアンに着いたらお終いさ。あと一踏ん張りだ」
船長アガリは帆船へと戻ってゆく。積み卸しが終われば明日の朝出航のようだ。
冒険者達は船乗り達に手を振って別れの挨拶をし、報告をしにギルドに向かうのであった。