街角デート 〜シーナとゾフィー〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 46 C
参加人数:5人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月16日〜04月19日
リプレイ公開日:2007年04月23日
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●オープニング
「春の季節ですが、ピンと来ませんです。なんか、こう刺激はないものですかね? ゾフィー先輩〜」
冒険者ギルドの書庫で新人受付女性のシーナとベテラン受付女性のゾフィーが整理をしていた。
「この間の報告書読んだわよ。結局、人様の恋路を助けただけで、自分はワインとステーキを食べただけじゃない」
ゾフィーは抱えていたたくさんの本をテーブルに置く。
「そりゃそうですけど‥‥。別に恋人探しにいった訳じゃないし、ワインとステーキ美味しかったし。それをいったら、せんぱ‥‥」
シーナはいいかけて口を噤んだ。余計な事をいって怒られるのもばからしい。
「それより、なんでわたしが受付をやっていると、大事件とかの依頼が来ないんだろう‥‥」
座る目の前のカウンターに書いてある訳でもないのに、シーナが受ける依頼は簡単な内容が多い。落とし物探しとか、留守番を頼めるかとか、そんなのばかりだ。
シーナはゾフィーが持ってきた本を本棚にしまいながら考える。
「わたしが依頼者だとして、大事件を抱えていたとして、ギルドに来たとき、『ほわわ〜ん』としているシーナのカウンターには座らないわね。逆にも考えられるし、別にそれでいいんじゃない?」
ゾフィーの指摘にシーナは釈然としない。
一休みした二人はティーを用意し、シーナの持ってきたシュクレ堂の焼き菓子を摘む。
「こんな感じなら依頼者座ってくれますかね」
シーナは眉をひそめてみる。
「似合わないからやめなさい。いつか自然に来るようになるわよ」
ゾフィーはパクパクと焼き菓子を食べていた。
本の片づけが終わり、シーナとゾフィーは隣同士で受付のカウンターに座った。いつもは離れて座るのだが、今日に限って出勤している受付の女性の数は多かった。
ギルドにはたくさん人がいるものの、シーナの席に座る依頼者はいない。あくびを我慢しているシーナの横ではゾフィーが依頼者と話しをしていた。
月に何回かは来る依頼者で、必ずといっていい程、ゾフィーのカウンターに座る。
「あのですね。ゾフィーお姉さま――」
隣から聞こえてきた依頼者の言葉にシーナは驚く。
(「おっおねえ〜さま?」)
シーナはゆっくりと眼を動かし、横目で見る。十五歳くらいのかわいい娘である。
「そんなこといわないでくださあい。あたし泣いちゃいますぅ」
まるで男女の修羅場みたいだと思いながら、シーナは隣の会話を聞き続けた。仕事なので席を立つ訳にはいかない。座っている限り、隣の声は聞こえ続けた。
「聞いてたわね‥‥」
依頼者が帰った後でゾフィーはシーナを睨む。顔は心なしか赤い。
「聞きたくて聞いてたんじゃありませんです。はい。それにそういう趣味なのは内緒にしておきますから。ね?」
「わたしはいたってノーマルだ! 神に誓って男が好きだ!」
「先輩。『男好き』って拳握って力説されても、困るんですが」
いつもとは逆の立場のようでシーナはワクワクしていた。
「そういえば、先輩の所に座る依頼者って今みたいなタイプが多いですよね。‥‥ああやって騙してギルドの依頼、増やしていたんですか」
「違う!」
「もしかして‥‥わたしの事まで狙っているとか?」
シーナは散々にゾフィーをからかった。
仕事が終わり、ゾフィーの夜のやけ酒にシーナはつき合わされる。
「あんな依頼受けられる訳ないじゃない!」
ゾフィーがワインを容器から一気呑みする。
依頼は一度でいいからゾフィーとデートしたいとの内容だ。断ったそうだが、シーナには諦めたようには思えなかった。
「ほら? あそこ」
シーナがおつまみの小魚の尻尾で指した先では人影が隠れる。どうやら昼間の依頼者らしい。
「シーナ‥‥助けて! 昔からああいう女の子に好かれるのは確かだけど、わたしは本当に普通の女なのよ」
ゾフィーに懇願されてもシーナにはどうする事もできない。
「じゃあ、ゾフィー先輩がわたしに依頼を出して下さい。冒険者になんとかしてもらいましょう」
「冒険者‥‥? そっそうね。そういう手があったわね」
切れ者のゾフィーの面影はなかった。珍しく弱気なゾフィーにシーナは悪いことをした気になった。
翌日、シーナは依頼書を貼る。
ボディーガードの依頼である。そして小さく恋人役の募集も書かれていた。
男性と仲良くしている姿を見れば、自然とゾフィーを狙う女の子がいなくなるだろうという算段だ。どうやらゾフィーにちょっかいを出している女性は昨日の依頼者だけではないらしい。
「依頼期間はわたしも休みをとって、遠くから見守るです〜」
なんだかんだいって好奇心旺盛なシーナであった。
●リプレイ本文
●準備
「さてさて、明日のデート本番に向けて準備をするです〜」
シーナがみんなが集まった所で、冒険者ギルドの個室の扉を閉める。丸一日の使用許可をとったのだ。
「なんでシーナがいるのよ?」
ゾフィーは両手を腰に当てて睨む。
「明日デートする女性が、そんな顔しちゃいけませんよ。デート中はゾフィーさんの方がぞっこんな感じに見えるように、積極的にイチャイチャしに行って下さいね♪」
セシル・ディフィール(ea2113)は横から覗き込むようにしてゾフィーに話しかける。
「えっあっ‥‥そうね。そうしないとね」
依頼を出したのは自分だが、ゾフィーはこの展開に戸惑っていた。
「役立たず‥かもしれないが‥‥頑張るな。よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
今回唯一の本参加の男性冒険者、ウリエル・セグンド(ea1662)はゾフィーと握手をする。必然的にゾフィーの恋人役になる。
「ねえ、ウリ。先に服を選んでおきたいのだけど?」
ピキッ! とどこからか音がしたような後で、ガブリエルがウリエルに声をかける。ウリエルは何も感じないまま服選びに個室の隅に移動する。
「終わったら絶対すねてやるんだから」
「何かいった?」
「別に?」
ガブリエルはウリエルに服をあてていた。
「キャメロットの騎士、セリア・バートウィッスルと申します。宜しくお願いしますの」
セリア・バートウィッスル(ec0887)は一人ずつに挨拶をし、ゾフィーの前に立つ。
「明日は熱烈なゾフィーさん信者を演じますの」
「助かるわ。どうかあの娘らをうまく誘導してね」
ゾフィーは少し涙ぐんでいた。
「シーナさん、お久しぶりです」
「あ、お肉の友よ! お久しぶりです〜」
シーナは鳳双樹(eb8121)の手をとって喜ぶ。
「明日も一緒にゾフィー先輩を見守るです。うまくいったら打ち上げで美味しいもの食べるのです〜」
「そっそうですね。あっシーナさんに訊きたいことが――」
鳳は相変わらずのシーナに微笑んだ後、ゾフィーが欲しがる物を訊ねる。あらかじめ用意しておくつもりであった。
「デートする二人の好みを聞いて、デートプランを決めておきませんとね」
リリー・ストーム(ea9927)が鳳とシーナに近づいた。
「あたしも考えていたんです。ショッピングに‥広場‥、やっぱりデート中は手はつないでほしいです。えっと‥それで別れるときにはお別れのキ‥スとか」
鳳は最後の自分の言葉で赤面する。シーナは目を丸くした。
「そうそう。やはり最後の締めに、キスは欠かせませんわね〜。演技指導しなくてはなりませんわ」
リリーは自分の頬に手を当てて柔らかい表情になる。
「シーナさんは、前の依頼のラヴィッサンの手紙を読んだのですよね? それをデートでの会話の参考にしたらどうでしょう?」
鳳はサロンテの手紙は読んだが、その相手となるラヴィッサンの書いたものは読んでいなかった。
「そっ‥‥それは!」
シーナはしぱらく考える。
「ごめんです。あの手紙の内容でうなされた夜もあるのです。ゾフィー先輩も同じ事いってましたんで、やめた方が‥‥」
シーナが申し訳なさそうに断る。
「でもセリアさんに後で訊いた所、サロンテのはラヴィッサンより大分威力が弱い感じです〜。あれなら使っても平気かも?」
シーナの言葉に鳳は驚いた。あの内容で弱いとは。それならと明日のデートを邪魔する時に参考する事にした。
服の選別が終わると全員が集まり、デートコースが決められた。そして作戦も相談される。
「それでも付き纏う子が居たら、怪しい宿屋に入りましょう! 中まで追って来ませんわよ‥」
リリーの言葉にゾフィーとウリエルは凍りつく。そしてピキッピキッ! っとまたどこからか音が鳴ったようだ。
初日の終わり際、リリーの友人ゴールドが個室を訪れる。先日のデート依頼人がギルド内でゾフィーを探していたのを教えてくれた。その他にも二人程、ゾフィーがいるかどうかをギルド員に訊ねた娘がいたようだ。
「モテモテですね‥‥」
セシルの感想にゾフィーは青ざめていた。
●決戦のデート日
「そろそろですね」
二日目の午前中、鳳が建物の影から冒険者ギルド前を覗き見る。シーナと監視役の冒険者達は待機済みだ。
ゾフィーを狙う娘達がデートを目撃しなければ意味がない。そこで目立ちやすい冒険者ギルド前からデートが始まる。
ゾフィーが先に待っていた。普段はさっぱりとした格好の多いゾフィーがかなり派手な女性らしい服に身を包んでいる。
「待ったかな?」
ゾフィーに駆け寄る男が一人。ウリエルだ。
「いえ、ついさっき来たばかりで‥‥」
うつむき気味に話すゾフィーの手をウリエルは握る。いつものきつい印象がなく、柔らかい物腰だ。そして二人で歩き始める。
「いい感じね。あっ、ちょっといってくるわね」
リリーは服の袖を噛んでわなわなと震えている娘に近づく。前もって周囲を見回った所、ゾフィーにちょっかいを出しそうな娘は三人いた。その中でも一番リリーの好みの娘である。
「そこの可愛い子猫ちゃん‥コッチにいらっしゃい♪」
「えっ?」
リリーが声をかける。嫉妬に震えていた娘がその場に自分にしかいない事に気がついた時、顔が真っ赤になった。
「あたし‥‥ですか?」
「そうよ。お話ししましょう♪」
リリーは娘を落としにかかった。うまく生業の酒場の顧客に仕上げるつもりだ。
他の仲間はデートの二人についていった。
ゾフィーとウリエルはショッピングに市街を歩く。だんだんと慣れてきたようでぎこちなさがなくなっていた。
「やっと‥‥笑ったな。そう‥楽しい顔を見せてやればいい」
ウリエルの言葉にゾフィーは繋いでいた手を離し、代わりに腕を組む。
デートの二人は彫金師のお店で足を止める。そしていろいろな品を見学する。
「とっても綺麗なものばかりでした」
店を出てもゾフィーは装飾品の話しを続けていた。
「最後に渡そうかと‥でも、今渡した方がいいみたいだね」
ウリエルはネックレスをゾフィーにプレゼントする。鳳がシーナにゾフィーの好みの品を訊き、用意したものをウリエルに預けていた。普段世話になっているからとシーナが全額を出して買ったものである。
「あっありがとう」
早速、首にかけてもらったゾフィーは嬉しそうである。
我慢しきれなくなったようで、二人の娘がゾフィーに近づこうとする。三人から減って二人になっていたはずだが、新たにもう一人増えて、狙う娘の頭数は三人に戻っていた。
「あら、ごめんなさい」
近づこうとする娘二人を邪魔するようにセシルがわざとぶつかる。その間に鳳とセリアが先にデートの二人の側に立つ。
一人だと娘二人に負けてしまうので、鳳とセリアはコンビで対抗するつもりであった。
「ゾフィーお姉さまはあたしにとって麗しき美の女神アフロディーテ。試練のごとく雷鳴が轟き、大地を揺るがせても気持ちに変わりなく、永遠にお慕い申します。そのような者とは別れて、どうかあたしとお付き合いしてください」
鳳は大仰なポーズでゾフィーに告白する。サロンテという女性の手紙からヒントを得た台詞だ。
「退いてですの!」
セリアが鳳を怪我しない程度に突き飛ばす。前もって練習した内容だ。簡単ながら髪型を変えて変装をしていた。
「ゾフィーお姉さまは、セリアのものですの! あっちにいくですの!」
セリアは鳳を捲し立てる。そして遅れてやってきた娘二人にも突っかかった。
「ゾフィーお姉さまは誰にも渡しませんですの!」
セリアはゾフィーとウリエルの組んだ腕をほどこうとする。
「乱暴はやめて。あの、よく依頼に来てくれる方よね? お気持ちは嬉しいけどわたしはこの人を愛しているの。ごめんなさい」
ゾフィーはウリエルの肩に頭をもたれさせた。
「ゾフィーお姉さま! そんな男と付き合うなんて‥ひどいですの!」
セリアは視線をゾフィーに残したまま、首をゆっくり横に振る。
鳳も涙を見せて震えながら、横目で娘二人を眺めた。自分達も振られるのではないかと後込みをしている様子である。
「あたし達かわいそう〜」
セリアと鳳は抱き合って泣く。そしてセリアと鳳は離れると、それぞれに娘の手を掴んでその場から逃げだす。
セリア、鳳は娘二人としばらく慰めの言葉をかけあう。そしてあきらめる方向に話を持っていくのだった。
ゾフィーとウリエルのデートは続き、夕暮れ時に二人は王宮前広場を訪れる。
それぞれに仕事をこなした仲間も戻り、全員で監視を行っていた。
シーナによれば、残るゾフィーを狙う娘は今回の依頼のきっかけとなった娘である。リリーは声をかけてみたが、なびきはしなかった。
「いろいろとやってみましたけど‥‥」
リリーは言葉巧みに近づいた後、娘の首筋や耳に息を噴きかけて誘った。ナンパには自信のあるリリーだが、何故か娘に塩を投げかけられて退散しなくてはならなくなった。どんな事があってもゾフィー一筋らしい。
「このままだとゾフィーさんには特別な春しか来なくなりますね。それも運命と諦めて‥‥いえいえ、依頼ですしがんばりませんと」
少し面白がって覗いているセシルである。
途中で買った荷物をウリエルがさりげなく持ってあげていた。大きな木の側まで来るとウリエルが手を離して荷物を落とす。
そして木の幹に優しくゾフィーを導いた後で顔を近づける。
監視の一行は覗きの集団と化していた。
ゾフィーがウリエルの首に手を回し、長く二人の顔は近づいたままであった。
「どう見ても本当にキスしてるようにしか見えませんです」
シーナが呟く。角度的に二人の唇は窺えなかったが、その仕草は演技とは思えない。
「まずいです!」
セシルが叫ぶ。ゾフィーを狙う娘が一直線にデートの二人へ向かって走っていた。
ここで冒険者達が駆け寄れば、今回の事がバレバレになる。ぎりぎりまで待機せざるを得ない。
娘はデートの二人の前で立ち止まり、肩を上下させて呼吸をする。
「おっ男と女がキスだなんて‥‥キスだなんて! そんなの不潔です〜!」
そういい残し、娘は泣きながら去っていった。
その状況を見ていたほとんどの者が心の中で娘に向かって『おい!』と突っ込むのであった。
●打ち上げ
三日目の夕方から依頼成功の打ち上げパーティが酒場で始まる。
「デートお疲れ様でした。その‥どうでした?」
乾杯の後で、鳳が興味津々にゾフィーへ訊ねる。
「ウリエルさんはとても紳士で助かりました」
ゾフィーもまんざらではなかったようだ。場は自然とキスの時の話題になる。
「ホントになんか…してませんから。ね? ゾフィーさん」
ウリエルはみんなにキスの事を訊かれて困っていた。
「ええ、緊張していたわたしをリードしてくれましたけど、してませんよ。囁いてはくれましたけど‥‥」
ゾフィーの言葉に女性陣が全員で『キャー』と叫ぶ。ということはウリエル以外全員である。
「フリとはいえ‥あんなことしてごめん。本番は、ホントに好きな人のために‥‥大事にとっておかないと」
ウリエルはゾフィーの頭をぽんぽん撫でる。
「デートはどうでした? ウリエル君に本気になったりしちゃった?」
リリーはゾフィーに小声で訊く。
「ちょっとだけ。でも恋人がいらっしゃるようですし、いい人をわたしも探します」
ゾフィーは笑顔で答える。
セシルはワインを頂きながら考える。結局、ゾフィーにいい男性がいれば今回のような困った事にはならなかったはずだ。
「もっともいえる立場ではないですけど‥‥」
「セシルさん、なんかいったですか?」
「いえ、なんにも」
シーナに独り言を聞かれたセシルは微笑んで誤魔化した。
「‥恥ずかしかったですの‥」
セリアは昨日の事を思いだして顔を真っ赤にしていた。変装していたとはいえ、ばれなかったどうか不安である。
「ほら、セリアさんもお肉美味しいですよ。お肉の友も食べるです〜」
シーナはセリアと鳳に焼き肉をすすめた。そして口一杯にお肉を頬張る。
「あっ、まずいわ」
リリーがテーブルの下に隠れる。昨日、一番最初にリリーが懐柔した娘が酒場に現れた。ゾフィーには目もくれず、キョロキョロと探した後で酒場を去ってゆく。
「どうやら私に乗り換えたようで。困りましたわ‥‥ちゃんと恋人が居ますのに‥」
椅子に座り直したリリーが呟く。さすがにゾフィーと一緒の席を見られたらまずいと思ったので隠れたのである。
打ち上げが終わり、全員で冒険者ギルドを訪れて報告が行われる。もっともほとんどをシーナが見ていたので大した時間もとらずに終了する。
シーナとゾフィーに見送られながら、冒険者達は寝床へと帰ってゆくのだった。