●リプレイ本文
●村
初日の夕暮れ時、冒険者達はそれぞれの方法で村を訪れる。
「ありがとうな」
キサラ・ブレンファード(ea5796)は愛馬から降りる。騎乗に少々不慣れなので仲間に誘導してもらったのだ。
「そうか、なるほど」
李風龍(ea5808)は治療と村人の移動の依頼に入ったチサトから情報をもらう。村の長が村人の説得を容認してくれたという。そして長の屋敷に泊まっていいと伝えられる。
「それにしても‥‥ちぃっ、デビルの手先になった司教だと!? 阿呆が!!」
李はチサトからやはりルッツ司教が怪しいと聞かされると激しく憤慨した。
「先に鉱毒の発見しておくべきだろう。依頼人によればまだ時間に余裕があるらしいからな」
デュランダル・アウローラ(ea8820)は明日からの相談を仲間に話しかける。
「それでも早めに鉱石を見つけないと厳しいな」
アレックス・ミンツ(eb3781)は頷いた。
「とにかく、いかなる状況においても、デビルは俺達の敵です。ヤツらの目的を、必ず阻みますよ!」
グラン・ルフェ(eb6596)は強く拳を握る。すぐ隣りで馬の姿になっているヒポカンプスがいななく。グランの気持ちが伝わったようだ。
「毒とは古典的な手段を使いますね。鉱毒に関しては、私の知識が役に立つはずです」
シクル・ザーン(ea2350)は鉱毒が混じっているであろう人工の小さな池を眺めた。
「村では持参した物のみ食すつもりです。無理強いはしませんが、貴殿らもそうした方がよいでしょう」
水無月冷華(ea8284)は常に警戒をしながら仲間に注意を促す。李も同感で頷いた。
「ルッツ司教ですが、アイスコフィンで固めておきませんか?」
水無月は仲間に提案するが、現段階では保留と決まる。証拠がない状況でそれを行うと村人の反感を買ってしまうからだ。
「長の屋敷には依頼人のカリアがいるようだ。鉱石の特徴などを訊かないとな」
ディグニス・ヘリオドール(eb0828)は先頭を切って、長の屋敷へと向かった。屋敷に着くとディグニスは足りない分の保存食をカリアから譲ってもらう。
もうすぐ夜が訪れる。明日に備えて、冒険者達は早めに睡眠をとるのだった。
●鉱毒の元
翌日、冒険者達は朝早くから行動を開始した。
デュランダルの愛犬ドライ、グランの愛犬ペロくん、キサラの愛犬が山中の森をゆっくりと進んでゆく。
冒険者達は昨日のうちにカリアにルッツ司教が触った物を借りていた。消えた横穴の場所に向かいながら、同時にルッツ司教の臭いを犬達に辿らせる。
「向こうの冒険者も調べに来てるはずだが、すれ違いか?」
李はカリアからヤードも向かうと聞いていた。
「気のせいか?」
キサラが気配を感じる。しかし周囲を探しても仲間以外の姿は見つけられない。
冒険者達はカリアが横穴を見かけたという場所に辿り着く。犬達が吠える。この場所にルッツ司教は長く居たようだ。
「魔法で隠蔽しているならば、そこは水の流れが不自然になっているはずです」
水無月は屈んで水の流れに注意する。
「あの辺りが変な感じがします」
水無月が少し離れた場所を指差した。
「‥‥おかしいぞ?」
デュランダルが呟く。みるみるうちに変化し、大きな石と土くれが詰められた穴が姿を現した。
「幻影か何かで隠していたようです」
水無月は横穴に近づいてみる。カリアが村人を連れて探しに来た時は、見かけに騙されてわからなかったのだろう。
穴は完全に塞がれていた。中に鉱石があったとしても問題はなさそうである。
李は判明した事を手紙に書き、鷹の蒼風に結んだ。そして一刻も早くとチサトの元に飛ばした。
「もう一つ、怪しい場所がある」
ディグニスはカリアから借りた地図をダウジングペンデュラムで調べた。怪しい場所とはもう少し上流である。
既にかなりの時間が過ぎていた。帰りの時間を考えるとこれ以上進むのは無理である。長時間に渡り村から離れるのも考えものであるので、二日目の鉱毒探しはここで終わりとなった。
三日目に冒険者達は小川の上流に向かって進んだ。
昨日とは違い、横穴が発見された場所までは犬達も急がせる。それから先は昨日と同じように臭いを探らせた。
「発見されてない場所は幻影で見かけだけを隠している可能性が高いと思います」
グランは川の流れから目を離さずに歩く。
もう一方の冒険者達も昨日のうちにルッツ司教がデビルと繋がる証拠を掴んだ様子である。集まった証拠で村人の説得が行われる事だろう。
ディグニスが怪しいといった一帯に足を踏み入れて、冒険者達は注意深く周囲を探る。
数時間後、上空では李の鷹が鳴き、大地では犬達が呻った。
「デビルです!」
突然、姿を現したグレムリンの攻撃をシクルは受けきる。
三匹のグレムリンは冒険者達に襲いかかるが、大して時間もかからずに倒されて消滅する。ペット達の騒ぎ方からすると、まだ何かがいるようだ。
「人がいる!」
デュランダルが走る。キサラも続き、仲間のほとんどが追いかける。
逃げてゆく者の後ろ姿は聖職者の衣である。キサラはスタンアタックをいつでも出せるように心がけた。
「邪魔するな!」
まだ隠れていたグレムリンが二匹、謎の人物を追いかける冒険者達の前に立ちはだかった。すぐに倒し終わるが、その時には謎の人物は姿を消していた。
「ルッツ司教なら、指の2本や10本折って吐かせたのに」
キサラはとても残念がる。さすがにこの状況で見つけたのなら、手荒に尋ねても、村人の反感は少ないはずだからだ。
「ルッツ司教だな」
アレックスは抜いた剣を鞘へとしまう。
「無理にでも村でルッツ司教をアイスコフィンで固めておけば‥‥」
水無月は次があればどのような状況でも躊躇しないつもりだ。
間もなく、幻影で隠された新たな鉱毒鉱石が詰まる横穴は発見された。シクル、ディグニスの知識をもって冒険者達が鉱毒にさらされないように作業を開始する。
まずは鉱石が小川の水に触れないように遮蔽物を作る。それを作るだけで夕方になり、鉱石の撤去については明日の作業となった。
四日目の作業は鉱石の撤去に費やされた。
グランが連れてきたヒポカンプスには様々な道具が積んである。特に投げ網を使って鉱石を小川から離れた場所に運んだ。
慎重に行わないと冒険者自身が鉱毒に汚染してしまう。小石大の鉱石であったが、時間のかかる作業となった。
「昨日みたいに邪魔が入るかも知れないし」
グランは昨晩のうちに仲間と一緒に作った鳴子を周囲に取りつけ済みである。再びデビルや謎の人物がやってくるかも知れないからだ。
鉱石は小川から離れた岩場に運ばれた。グランはギルドへの報告時に、安全な処理の要請も行うつもりであった。
日が暮れて冒険者達は村に帰る。もう一つの依頼の冒険者に訊いた所、ルッツ司教は姿を眩ませたようだ。疑いの行動に冒険者達は陰謀を感じずにはいられなかった。
五日目になり、解毒剤の配布と村人の移動を行っていた冒険者達はパリへと出発する。
かなり無理があったように思えた依頼内容であったが、無事全員を移動させられたようだ。おかげで村には冒険者八人以外の人影はなくなった。
「これで思いっきりデビルと戦えるな」
「問題はあるぞ」
李とキサラは監視をしながら話し合う。
キサラの考えでは、もしルッツ司教がアビゴールに連絡をとれたなら問題があるという。村人が避難した近くの集落に目標を変える可能性があった。
「もっとも、あの時の鷹や犬達の反応からすれば、連絡役のグレムリンも倒したと考えていい。だが、襲撃の直前にでもルッツ司教が余計な事をいえば、やはり目標を村から集落に変えるかも知れない‥‥。村の周囲に罠を張ろうかと思ったが、それよりやらなくてはならない」
キサラは珍しく考えを言葉にした。普段は考えるより身体を動かしている方が性に合っているキサラだが、聖職者がデビルと繋がっているというのが特に許せなかった。同じ考えを持っていた李だから相談したのだ。
「司教を掴まえないと、大変という事だな?」
「その通りだ」
李とキサラの二人は考えを仲間に伝え、独立してルッツ司教探しを行う事にした。残る冒険者達はまだ残っていた鉱石の撤去の為に小川の上流に向かった。
ルッツ司教は見つからず、そして鉱石の撤去は終了する。
屋敷にはカリアが残していった回復系の薬があり、全員で分ける。デビルの襲来はまだこれからであった。
●デビル
六日目の村にあったのは静寂のみであった。
村人がいない村。その状況で冒険者達はひたすらデビルを待つ。
ともすれば緩みそうな気分を奮わせて、冒険者達はデビルを警戒する。
辺りが暗くなって間もなく、キサラがルッツ司教を掴まえて屋敷に戻ってきた。キサラの愛犬が隠れ場所を探り当てたのだ。
ルッツ司教は顔を腫らしている。キサラの尋問はすでに行われていた。
「聞きたい事はたくさんあるぞ」
戻ってきた李が両手を絡ませて指を鳴らす。
「貴方が真に無実だと言うのでしたら、神の御前で身の証を立ててください」
静かな怒りをシクルも募らせていた。
「『父』よ。この者が悪しき者であるならば、聖なる裁きを。ブラックホーリー!」
シクルはルッツ司教の前で祈りを捧げたあとで、魔法を詠唱した。ダメージを完全に受けた様子に、シクルはルッツ司教をデビルの手先と決めつける。
吐露したルッツ司教によれば、明日の朝方、つまり今日の六日目の夜が明けた時にアビゴールは襲撃する予定なのだそうだ。
水無月のアイスコフィンによってルッツ司教は縛られたまま凍らされる。
冒険者達はわざと無人の家々にランタンの火を灯しにいく。もし早めにデビルが到着したのなら、真っ暗な村に不審を抱くかも知れないからだ。火事が起きないようにランタンの周りが水で囲まれるように気を使う。
準備を終えた冒険者達は、体力を温存しながら夜明けの時を待ち続けた。
薄暗い朝方に火花が散る。
剣が黒きデビルを切り裂く。
ペットのおかげでより早くデビルの襲来を探知出来た冒険者達は優位に戦いを進めていた。
「落ちろ!」
グランが弓でシルバーアローを放つ。空中で牙を剥くグレムリンに突き刺さる。
シルバーアローはカリアが前もって用意してくれていた。何故なら目撃したデビルに翼があったからだ。空を飛ぶデビルに役に立つのは、魔法以外にはシルバーアローをおいて他にない。射る事に弓に精神を掻き乱されるグランであったが、味方への支援を考えながら建物の隙間から矢を放ち続けた。
「邪魔です!」
水無月はグランの近くで寄ってきたグレムリンを刀で払う。勘のいいグレムリンが遠隔の冒険者を狙うのはわかっていた。
グランが水無月にありがとうの合図をする。水無月は頷き、襲ってくるグレムリンに刀を奮った。水無月はグランに全力を出される事が自分の仕事だと心得ていた。
「こっちだ!」
キサラはグレムリンを引きつけるように村の家々を縫うように逃げる。空を飛べるグレムリンにとってキサラを追いかけるのは容易であった。しかし、そこがキサラの狙い目でもある。
乱戦状態で味方を傷つけないよう注意するより、気にせずに全力を出す作戦を選んだのだ。
立ち止まったキサラは真っ赤な刀身の剣を振り上げる。踏みだした右足に土埃が纏い、そしてキサラの動きによって渦を巻いた。
少々の怪我など気にせず、一気にグレムリンの群れに立ち向かう。攻撃が当たると奇声をあげてグレムリンは立ち去ってゆくが、新たな敵が次々とキサラを襲う。間がある時に回復の薬を使い、キサラは戦いを続行した。
「これは、どうした事ぞ」
ヘルホースに跨る悪魔の騎士アビゴールの言葉を前線の冒険者達は耳にした。
村人がいないのなら、目的であるデスハートンの白き玉を手に入れる事は出来ない。すでにこの時点でアビゴールが村を襲う意味はなくなっていた。
アビゴールの周囲にはたくさんのグレムリンが取り巻いている。突き進む冒険者達はグレムリンを排除する。
「負けません!」
シクルはミミクリーを使い、飛来するグレムリンを直接剣によって斬りつける。
「道を開けろ!」
アレックスはソニックブームで遠くにいる敵に衝撃を与え、そして襲ってくる攻撃をカウンターで返す。
「退け!」
自らにグットラックをかけた李は攻撃をカウンターで返す。そしてデュランダルがアビゴールに言葉をかけるのを待っていた。
ディグニスは自らに様々な守護をかけ、そして受けに徹しながらも、反撃においては技を駆使して一気に敵を排除する。
「今回は存分に相手できるが、どうする?」
「俺に任せてくれ」
ディグニスが愛馬に乗るデュランダルに頷いた。
「アビゴール! 我が名はデュランダル・アウローラ。一騎打ちを申し込む!」
仲間のおかげで拓かれた道をデュランダルは槍を手に突き進んだ。すでに槍や自らに魔法の力は付与してある。
「受けて立とうぞ!」
アビゴールも長槍を手にヘルホースで駆ける。真正面同士でデュランダルとアビゴールが交差した。
「これは!」
アビゴールの強さは今までに感じたより、強い印象を受けた。デュランダルは武器を槍から剣に換え、再びアビゴールに戦いを挑む。
シクルと李は一騎打ちにグレムリンが参戦したら、すぐにでも手を貸すつもりでいたが、今の所邪魔はしていない。
その間に少しでもグレムリンの群れを片づけなくてはならなかった。
一騎打ちは激しい戦いとなっていた。すでに何度かデュランダルは回復の薬を使っている。
「この戦い、始まった時から我の負けのようだ。一騎打ち、楽しかったぞ」
アビゴールはヘルホースと共に空へと舞い上がる。そして姿を消すと、生き残ったグレムリンも逃げてゆく。
デビルは死んでも死体が残らない。戦いが終わった後の村には傷ついた冒険者達と壊れた建物が残った。
冒険者達は怪我を薬やリカバーで回復する。七日目、八日目とかけて、ゆっくりと村で体力を回復した。
九日目のパリへの帰路の途中で、冒険者達はカリアがいる集落に立ち寄った。
「どんな言葉で感謝してよいやら‥‥。ありがとうございました」
冒険者達はカリアだけでなく、村人にも感謝されて集落を後にする。唯一心残りがあるとすれば、かなり村の建物が壊れてしまった事であった。
パリのギルドに到着すると、冒険者達はアイスコフィンが解けたルッツ司教を引き渡した。
「自ら悪を為さば自ら汚れ、自ら悪を為さざれば自らが清し。清きも清からざるも自らの事なり、他の者によりて清むる事得ず」
李がルッツ司教に教えを話す。
「‥‥自分でしでかした過ちは、自分で裁け。それが無理ならば、俺達が正してやる!」
李の声にルッツ司教は身を縮めた。
冒険者達のギルドへ報告が終わる。
「アビゴールは強くなっている」
デュランダルは仲間との別れの時に一言残して立ち去るのだった。