ダイエット大作戦

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月01日〜05月06日

リプレイ公開日:2007年05月08日

●オープニング

 森の中には集落があった。
 最初は森の管理者が住む丸太小屋一軒だけであった。だが、持ち主の富豪アロワイヨーが友人である石工シルヴァの手に森を委ねる。冒険者と森の管理者の手を借りて、災害の避難者用の丸太小屋が造られたのであった。
 結果、避難者達が住む新たな集落が出来上がる。今では丸太小屋が二十軒に達しようとしていた。
「アロワイヨー様、お休みになっては?」
 集落の者が地面に座ったアロワイヨーに声をかける。アロワイヨーは新たな丸太小屋造りの手伝いをしようとしていたが、体力の無さにへたり込んだのだ。
「ああ、すまない。でも様は止めてくれ。アロワイヨーでいいよ」
 アロワイヨーは額の汗を拭う。
 青年のアロワイヨーだが、運動嫌いの肉食好きが祟り、まん丸の体型の上に体力がない。
 それでも最近はこの集落を訪れて、少しでもみんなが暮らしやすくなるように手伝っていたのだ。もっとも理由がある。
「アロワイヨー、はい。どうぞ」
 娘が水の入ったカップをアロワイヨーに渡す。
「あっありがとう‥‥」
 アロワイヨーは顔を真っ赤して受け取った。

「いたたたっ」
 屋敷に戻ったアロワイヨーは筋肉痛になっていた。
「大丈夫で御座いますか?」
 執事が肩を揉もうとするとアロワイヨーは身体を反らせる。
「自分で何とかするから。それより、この虚弱な身体をなんとかしないと、ミラに嫌われてしまうな‥‥」
 ミラとは集落に住む娘の名だ。アロワイヨーはミラの事が気になっていた。
「屋敷にお呼びになりたければ、いくらでも方法が」
「そういう事をいうのは金輪際止めてくれ。卑怯なマネはしたくない」
「失礼しました」
 執事は一歩退く。
「いや、わたしの事を思っていってくれたのだな。強くいってすまなかった。ただ、お金で解決する方法はミラにはしたくないんだ‥‥」
 殊勝なアロワイヨーの言葉に執事は驚く。前のアロワイヨーなら考えられない事だ。生きるとは肉であるといっていた頃のアロワイヨーとは別人のようだ。
「実は一人で丸太小屋を一軒、造り上げたいのだ。でも今のわたしではどうがんばっても無理に違いない。そこでだ。考えがあるんだが――」
 アロワイヨーは執事に相談する。体力作りのトレーニングを冒険者に頼みたいという内容だ。もちろんまん丸の体型をなんとかして、それなりの姿になりたいのも理由の一つである。
「数日間トレーニングをした所で大した変化はないだろう。でも、一ヶ月、二ヶ月と続ければ、夏頃には造れるだけの体力が備わるはずだ」
「いい考えです。それではさっそく使いの者を‥‥」
「いや、わたしが冒険者ギルドに行って来よう。パリにも久しくいってないしな」
 翌日、アロワイヨーはパリにある冒険者ギルドを訪れる。そして依頼を行った。
「人並みの体力でいい。よろしくお願いするね」
 アロワイヨーは報酬のお金を受付の女性に渡す。
 まだ筋肉痛の身体で足を引きずるようにアロワイヨーはギルドを後にした。

●今回の参加者

 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

アイシャ・オルテンシア(ec2418

●リプレイ本文

●肉
 夕暮れの空では鳥の群が鳴きながら森へと戻ってゆく。冒険者達も鳥と同じく森へと向かっていた。
「来られたようだぞ」
 いくつもの丸太小屋から集落の人達が現れる。歩いて森を訪れた冒険者達は、いつの間にか集落の人達に囲まれていた。
「ようこそ。森の集落へ。依頼をしたアロワイヨーだ。自由に名前を呼んでくれ」
 依頼主のアロワイヨーは冒険者に挨拶をする。早くから集落に待機していたようだ。
「ナイトのアーシャです。職業柄、体を鍛えることは得意です。お任せください」
 アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)は騎士の振るまいを持って挨拶をした。
「侍の鳳双樹と申します。宜しくお願い致します」
 鳳双樹(eb8121)はジャパン風にお辞儀で挨拶をする。
「私はダイエットしたことないですけど、きっと良い事なのですよ〜。私もお手伝いするのです♪ よろしくね」
 リア・エンデ(eb7706)は頬に片手で触りながら会釈をする。
「一緒に運動します。よろしくお願いします」
 エフェリア・シドリ(ec1862)は既に身軽な格好になっていた。
「もう日が暮れるし、今日の所は明日に備える事にしよう。夕食が用意されているよ。みなさん用の丸太小屋が用意してあるから、そこに荷物を置いたら、わたしが泊まる小屋に来てくれるかな?」
 冒険者達はアロワイヨーの言葉に頷いた。

「みんな存分に食べてくれ!」
 アロワイヨーが泊まる丸太小屋で冒険者達はテーブルを囲んだ。
 外はもう暗く、小屋内をランタンの灯りが照らす。
 並べられた山盛りの肉料理をアロワイヨーはフォークとナイフを使って口の中に放り込んでゆく。そのアロワイヨーの姿に冒険者達はあんぐりと口を開けた。
「食べないのか?」
 口の回りを脂で照からせたアロワイヨーが訊く。
「いっ頂きます」
 冒険者達はナイフとフォークを手に取った。
 今日の所は何もいわないが、やはり食事にも工夫が必要だと冒険者達は考える。明日早朝から運動を始めるのをアロワイヨーと約束し、冒険者達は自分達用の丸太小屋に戻るのであった。

●ダイエット開始
「ご承知とは思いますが、短期間で効果を上げるのは難しいので、この先続けられるように伝授します」
「頼もしいな。よろしく頼む」
 二日目、アーシャの言葉にアロワイヨーは体操をしながら返事をする。
「おいちにぃ〜さん、し」
 エフェリアも身軽な格好でアロワイヨーと一緒に体操をしていた。
 アロワイヨーとエフェリアで組んで柔軟体操もする。だが、アロワイヨーの体重がかかるとエフェリアは潰れそうになってよろける。
「レモンの絞り汁も用意しましたし、準備オッケーですよ〜♪」
 リアは応援するつもり満々でいた。すでにセブンリーグブーツを履いて待機済みである。
 鳳は食事の事で集落に用事があり、この場には居なかった。
「まずは筋力トレーニングをしましょう」
 アーシャは斧をアロワイヨーに手渡す。エフェリアも斧を全力を出して斧を持ち上げた。
「薪割りがいいと思います。集落のお手伝いも出来ますし」
「はーい」
 アーシャにアロワイヨーとエフェリアは返事をした。二人は始めるが、狙いが定まらずに半端に割れる。それどころか完全に外れる事も多かった。思ったより薪割りはきつい運動らしい。
 大した数もこなせずに、二人は尻餅をつき、白旗を揚げた。
「アーシャ様。二人とも、いきなり本格的な運動で身体がきゅうってなっちゃったみたいなのです」
 リアは座っている二人にレモンの入った水をあげた。
「きつかったようですね。もう少し軽いものにしましょうか?」
 アーシャは暖炉に使われる大きめの煉瓦を持ってきた。
「これなら平気だ」
 アロワイヨーは煉瓦を持って運動を始めた。エフェリアも難なくこなす。
「がんばるですよ〜♪」
 リアは涼やかな声で唄う。メロディでみんなの志気をあげてやる。
 午前の間、アロワイヨーはこの運動を休み休み繰り返した。

「そうです。昨晩の料理はとても美味しかったのですが、今夜からはダイエットメニューにしてもらいたいのです」
 丸太小屋の中、鳳はアロワイヨーの執事に相談していた。
「それと、ダイエットを始めたのに理由か何か‥‥あります?」
「はい。実は――」
 鳳に執事が説明する。アロワイヨーは集落にいるミラという娘をとても気に入った様子らしい。
「なら、ミラさんに作った料理なら‥‥どんな料理でも食べますね?」
 鳳は執事に教えてもらい、さっそくミラの所に向かうのだった。

 夕方になって、アロワイヨーと三人の冒険者は集落へと戻った。午後にはウォーキングをしたアロワイヨーである。
 冒険者達は水浴びをして着替えた後で、昨日と同じアロワイヨーの小屋で食事のテーブルを囲む。
「これは‥‥?」
 アロワイヨーは並んだ食事を見渡した。肉料理も並んでいたが、野菜を使った料理もかなり並んでいた。
「アロワイヨー、残さずに食べてね」
「みっミラ! どうしてここに?」
 アロワイヨーに新たな料理が盛られた皿を運んだのは村の娘ミラであった。
「冒険者のみなさんに頼まれたの。お肉も食べなくてはならないけど、お野菜もって」
 ミラの笑顔にアロワイヨーは何もいえなくなる。
 鳳が仲間の意見も採り入れ、料理をミラを始めとする集落の人達に頼んのだ。
 アーシャのいう通りに肉を使うにしても鶏肉を主に使用する。体験談によれば、筋肉がつきやすいそうだ。
 リアが考えたワインビネガーと香草で作ったドレッシングをかけるサラダもテーブルには並んでいる。サラダにはソーセージが入っている場合もあるが、これにはない。
 適度な運動を行ったエフェリアはとてもお腹が空いていた。ダイエットをする訳でもないのでモリモリと美味しく食事を頂戴する。
 アロワイヨーも食べてはいる。ただ表情は曇っていた。
「美味しい物でも毎日食べてたら、美味しくなくなっちゃうのですよ〜」
 リアにアロワイヨーは口一杯に頬張ったまま頷いた。

 三日目になり、午前は昨日と同じ煉瓦を使っての運動を行う。
 午後になってウォーキングを開始する。
「緑が綺麗ですね」
 今日は鳳もアロワイヨーの運動に付き合っていた。
 アロワイヨーは無理をせずに歩く。それに合わせて冒険者達も歩みを進めた。
「ほら、あそこにいる鳥は――」
 鳳が木の枝の上を指差す。少しでも楽しんで行えるように鳳は草や鳥の知識を話す。
「がんばれ〜☆ 汗をかいたあとのお水は美味しいのですよ〜♪」
 坂道に差しかかり、リアはメロディを唄う。
「犬は飼っていますか?」
 アーシャに訊ねられ、アロワイヨーは首を横に振る。
「ペットの散歩はいい運動になります」
 アーシャは歩きながら背伸びの運動をする。
「そうです〜。わたくし達がいなくなったら、一緒に歩いてくれる人がいるといいですね♪」
 リアはちらっと鳳を横目で見る。リアは鳳にミラという娘をアロワイヨーが好きなのを教えてもらっていた。
「そうだ。食事を作ってくれたミラさんなんてどうでしょうか?」
「それはいい考えですよ〜」
 リアと鳳の会話が進む度にアロワイヨーの顔が赤くなり、歩も速まる。伴って歩くエフェリアに気がついてアロワイヨーは元の速さに戻した。エフェリアはペコリと頭を垂れる。
 目標としていた一本の大木に辿り着き、全員で休憩した。
「お水は鳳様にお預けします〜♪ 一足先に集落に戻ってお食事の手伝いをするですよ〜。疲れた時にはビネガーがいいのです〜」
 リアは今日もセブンリーグブーツを履いていた。
「リアさんも、ウォーキングしたらどうだい?」
 額の汗を拭うアロワイヨーが訊ねる。
「はう? 私はこれ以上体重減らしたら無くなっちゃうのです〜」
 軽い涙目でリアは訴えながら、すぐに笑顔に戻る。
「それでは♪」
 最後にメロディを唄ってからリアの姿は遠退いていった。

「あっ‥‥美味しいや」
 アロワイヨーはサラダを平らげる。
 三日目の夕食は二日目と大して変わりはなかったが、よりサラダが美味しくなっていた。戻ったリアが途中で摘んだ野草を使ったのだ。知識が役に立ち、リア自身も喜んでいた。

●誉め言葉
「痛いと感じたら危険信号です」
 アーシャはアロワイヨーが頑張りすぎないように助言を行う。
 四日目、煉瓦を使った運動の他に腕立て伏せや腹筋も少しだけ取り入れていた。
「無理をせず、軽く汗ばむ程度でいいですので」
 アロワイヨーは言われた事を守って続ける。
「せっせかいはまわってます‥‥」
 少しがんばりすぎたエフェリアが、目玉を渦巻きにして倒れたのは見守っていた鳳だけの内緒である。
「水は適度に取ってくださいね。のどが少しでも乾いたと感じたら飲んでください」
「レモン入りのお水はたくさんあります〜♪」
 アロワイヨーとエフェリアは時折水分を補給する。
 午後になり、全員がウォーキングから帰って来る。
「アロワイヨー、少し頬が引き締まったかな?」
 通りがかったミラが声をかける。立ち去った後でアロワイヨーはガッツポーズをとっていた。その後に執事にも同じ事をいわれて、よりアロワイヨーはご機嫌となった。
 アーシャが二人に誉めてあげるように頼んでおいたのだ。自分達がいなくなっても三日坊主にならないよう、時々誉めてあげるのをお願いしてある。
 実際、ほんの少しだけだがアロワイヨーの二の腕辺りが引き締まったように感じられた。今はとても体重があるので、目に見えて効果があっても不思議ではなかった。

 食事の時間になり、アロワイヨーは自然に料理を口にする。二日目ぐらいには野菜を食べるのを躊躇する場面も見かけられたが、四日目の夕食では一度もなかった。
「美味しい物はちょっとだけ食べるから美味しいのです〜♪」
 ワインを注いでくれたリアにアロワイヨーは頷いた。
 肉料理も適度には置かれている。今の生活を続ければ自然と体力がつき、そして痩せる事だろう。

●別れ
 五日目の朝方、冒険者達はパリへの帰路に着こうとしていた。
「ありがとう。なんだか自信がついたよ。このまま続けてゆく。ちゃんと斧も使えるようにならないとね」
 アロワイヨーは冒険者全員と握手をする。
「頑張りすぎないようにしてください」
 アーシャは心配はしていなかった。アロワイヨーはきっとダイエットをやり遂げて、引き締まった身体を手に入れるだろう。
「あきらめないで下さい。これからも、ミラさんに健康的な食事を作ってもらってください」
 エフェリアは一緒に運動しただけあって一番アロワイヨーと一緒に居た時間が長かった。アロワイヨーが一度も弱音を吐かなかったの知っている証人でもある。
「ミラさんと上手く行くといいですね♪」
 鳳はアロワイヨーの耳元で囁く。鳳の受けた感じではまったくミラに脈がない訳でもない。後はアロワイヨーのがんばり次第だ。
「がんばって続ければ、私の体重くらいはすぐに減らせると思うのです〜♪」
 笑顔で話すリアにはまったく悪気はないが、アロワイヨーは返す言葉がなく、笑っているしかなかった。
「お元気で!」
 集落の人々に見送られて、冒険者達は森の外に向かって歩き始める。夕方にはパリに到着する事だろう。
「集落の皆さん、元気でしたね」
 避難民であったはずの集落の人の顔が明るかった事が冒険者達の印象にとても残る。
「すべてがうまくいくといいです」
「大丈夫です〜♪」
「平気でしょう」
 冒険者達も明るく帰り道を歩いてゆくのだった。