ラ・ソーユの星 〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月09日〜05月12日

リプレイ公開日:2007年05月15日

●オープニング

「ゾフィー先輩、最近パリで流行っているの知ってます?」
 冒険者ギルド員用の休憩室で女性受付シーナは同じく女性受付のゾフィーに話しかける。
「何よ? そんないい方じゃわからないわ」
 ゾフィーはカップに口をつける。二人は食事が終わり、ティーを頂いていた。
「これです。これ」
 シーナがテーブルの上に何かを転がす。
「羊の皮の球?」
「そうです〜。中に羊毛がギュウギュウに詰められているんです。これで遊ぶ『ラ・ソーユ』というゲームがあるんです。最近、酒場にワインを収めに来る修道女さんに教えてもらいました。修道院ではすごく行われてるみたいです〜」
「そうなの」
「明日先輩も休みですよね? 一緒にやってみませんか?」
「明日ねぇ‥‥」
 ゾフィーは考える。あまり乗り気ではなかったが、なんだかんだいってこの間の娘達を引き離す依頼でシーナに世話になった。もらったプレゼントも、後で聞くとシーナの懐で買ったものらしい。
「いいわよ」
「やったあ〜」
 シーナは張り切って午後の受付の仕事を頑張った。

「こういう所でやるのね」
 休みの日、シーナに誘われたパリの一角を見てゾフィーは呟く。
 建物の狭間を利用した場所で四方がほとんど壁になっていて、中央にロープが弓なりに張られていた。ロープで分かれた陣地を跨ぐように、片側の建物には斜面となる屋根があった。
「最初、打つ人はロープの向こう側に落ちるように、屋根に向かって球を飛ばすんです。球は屋根を伝い、ロープの向こう側の相手側に落ちます〜。その球が石畳に二回跳ねる前に相手側の人はロープの向こう側の掌で打ち返すんです。あ、ロープの上を通過させないといけませんですよ」
「ふぅーん」
「で、もちろん球が飛んできたら二度跳ねる前に打ち返すんです。失敗させた方に得点が入ります。四点取ったら、1ゲーム所得。6ゲーム、先に取ったら勝ちです〜。もっとやってもいいんですけど、わたしは6ゲームで勝敗つけるルールでやってますです」
「なるほどね。やってみればわかるかな」
 シーナとゾフィーは早速、ラ・ソーユを始めた。
「もっ‥‥もう一回!」
 ゾフィーが肩で息をしながらシーナに詰め寄る。七回やって一度もシーナに勝てないのが、我慢ならないようだ。
「他の人もやってきたです〜。また今度にしましょう」
 さわやかな汗をかきながらニヤリと笑ったシーナであった。

「納得いかないわ。今度の休みにまた勝負よ!」
 翌日の冒険者ギルドでゾフィーはシーナに宣言する。
「いいんですけど、二人で延々とやるのもどうかなあ〜? もっと人数増やしてやってみませんか? くじ引きでトーナメント作って、勝ち抜きやって優勝したら、粗品進呈をするとか」
「いいわよ。でもどうやって集めるの?」
「ギルドの掲示板に勝手に募集の張り紙したら怒られそうです〜」
 シーナとゾフィーは考える。そして自分達の住処の外壁に募集の張り紙をする事にした。
「先輩と休みの日もあわせましたし、準備バッチリです〜」
 シーナは張り紙を眺めながら、満足そうな顔をした。

●今回の参加者

 ea2113 セシル・ディフィール(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●サポート参加者

エフィー・ヴィスナ(ec0561

●リプレイ本文

●練習
「あっ、こっちです〜」
 冒険者ギルドでシーナが冒険者達に手を振る。練習をしたいというので、他の二日も一緒にやる事にしたのだ。
「シーナといいます。冒険者ギルドで受付をしてます〜」
「ゾフィーと呼んで下さいな。シーナと同じくギルドの受付をやらせて頂いてます」
 シーナは受付のカウンターの外にいるが、ゾフィーは中にいた。初めての方に挨拶をしたのだ。
「侍の鳳双樹です。皆さん宜しくお願いします」
 挨拶をする鳳双樹(eb8121)にシーナが胸元で小さく手を振る。以前の依頼からシーナは鳳を『お肉の友』と呼んでいた。
「外で遊ぶなんてどれだけ振りでしょうか‥。何だか楽しみです」
 セシル・ディフィール(ea2113)は微笑んだ。
「ラ・ソーユですか〜? とにかくみんなで楽しくなのですよ〜♪」
 リア・エンデ(eb7706)はいっぱいの笑顔を振りまいた。
「双樹に誘われたけれど、負けないわ。キャメロットで仲良くなったリアいるし‥面白くなりそうね」
 シュネー・エーデルハイト(eb8175)は涼やかな青い瞳で話す。
「今日わたしはお休みですから、練習おつき合いしますです〜。でもゾフィー先輩は受付のお仕事なんです。明日はわたしが出勤で先輩は休み。もちろん最後の日は二人ともお休みですよ」
 シーナは仕事中のゾフィーを残して、みんなをラ・ソーユのコートまで案内した。

「実は張り紙を見て、私、この球技初めて知りました‥」
「私はイギリスから出かけてきてるので初めてなのです〜」
「実は見た事も遊んだ事もないのです」
「張り紙によると、個人スポーツなのね」
 鳳、リア、セシル、シュネーが全員初めてだというので、シーナは詳しくルールを説明する。
「セシルさん、ちょっと反対側のコートに立って下さいです」
 シーナはサーブ側のコートに立った。セシルもスタンバイする。
「こうやって側面にある屋根の上に向かって球を打つです」
 シーナは白球を掌で叩き、屋根の上に打ち上げた。
「コロコロと白球は屋根を転がり、相手側のコートに落ちます。そして、セシルさん! 二度床に跳ねる前にこっち側のコートに打ち返すです〜」
 シーナに言われた通り、セシルはぎこちなくだが球をコートに向かって打ち返した。
「そうです〜。狭間にあるロープの上を通過させて、相手のコートに入れるです。そして相手も二度跳ねる前に打ち返しの繰り返し。相手に失敗させたら一点入るです。四点で一ゲーム先取。六ゲーム取ったら、その人が勝ちです」
 シーナはにっこりと笑った。手が痛くならないようにシーナはみんなに革製の手袋を用意してくれていた。
 まずは適当に入れ替わってやってみることになった。
「はう〜恐いのです〜。目がぐるぐるなのですよ〜」
 リアが大きく空振りをしてグルグルと回る。そしてチョコンと尻餅をついた。
「目を瞑っちゃ当たりませんですよ」
 シーナの言葉にリアは大きく手を振った。ラリーが始まると、リアはどうしても恐くて打ち返せなかった。
「はう、ファルくん酷いのです〜」
 コートの隅にいたリアのペットの月のフェアリー、ファルセットが、クルクルと回ったあとで尻餅をついた。どうやら主人のマネをしているようだ。
「球は一度跳ねると、結構速度が落ちるみたいです」
「そうだね。あまり弾まないようよ」
「直接の球は狙わずに、跳ねた瞬間を打てばいいかも知れません」
 みんなのアドバイスを受けてリアはがんばってみた。
「わわわ、打ち返せたのですよ〜 嬉しいです〜♪」
 リアは初めてラリーになって大喜びをした。
 全員が入れ替わり、休憩しながら夕方まで練習は続く。二日目はシーナとゾフィーが入れ替わり、練習が行われる。
 そして三日目の最終日、トーナメントによる試合が行われるのであった。

●試合
 くじ引きによってトーナメント表に名前が書かれてゆく。
 第一試合はゾフィーと鳳。第二試合はシュネーとセシル。第三試合はリアとシーナ。
 さらに第一試合の勝者と第二試合の勝者が戦い、決勝への進出が決定する予定だ。
 第三試合はシード扱いで勝者がそのまま決勝進出となる。
「何にせよ主催者に優勝を持って行かれる訳にはいきませんから」
 セシルが革手袋に包まれた拳を握る。
「パワーでは負けませんわ」
 シュネーも淡々とながら静かな闘志をみせる。
「基本が身についていれば勝てるはずです」
 鳳は打ち返しの動きをしてみせた。
「はう〜みんなやる気なのです〜。それに〜」
 リアは初っぱなからシーナに当たった不運をデッカイ涙粒をこぼして嘆いた。

 第一試合が始まる。ギャラリーも緊張気味であった。
 ゾフィーのサーブを鳳が返す。ラリーは長く続いていた。
 白球に追いついてワンバンドしたところを、大きく振りかぶって打ち返す鳳。互いに一歩も譲らず、もつれにもつれ込む。
 華やかに軽やかに。
 まるでコートの中には色鮮やかな花が散りばめられているようであった。
 五ゲームを互いに取り、最後のゲームは二対三になる。鳳がわずかにリードしていた。
 肩で息をする二人。
「ゾフィー様、上手いのです〜」
 リアの声援も飛ぶ。
 サーブが打たれて、ラリーが始まる。
「あっ!」
 ゾフィーが自らの足を絡ませて追いつけない。白球はゾフィー側のコートで跳ね続けて止まる。僅差ではあったが、第一試合は鳳の勝ちであった。

 第二試合はシュネーとセシルである。
 パワーのシュネーと頭脳派のセシルの戦いとなった。
 様子見をしていたシュネーであったが、セシルが打つ白球は離れた位置を狙ってくる。その度に走らされてだんだんと疲れてきた。
 シュネーは一気に勝負をつけようとオーラエリベイションを使った。切れる前に一気に勝負をかける。
 白銀の狼が駆けるようにシュネーの白球が空気を切り裂く。それを薔薇の棘のように鋭いセシルの動きが跳ね返す。
「セシル様、かっこいいです〜」
 リアが応援の声をあげている。
「強いです!」
 シュネーからの球はワンバンドしたとしてもかなりの強さがあった。セシルは全身を使って打たないと返せない。落ちる場所を狙う事が出来なくなる。
 結果、セシル二ゲーム、シュネー六ゲームで第二試合の勝者はシュネーとなった。

 第三試合はリアとシーナであった。
「はう〜」
 リアは一生懸命に白球を追った。ラリーが続くシーンもかなりある。その姿は子猫が初めてネズミを追いかけた姿に似ていた。
「リアさん、がんばってくださいー」
 セシルが両手を口に当てて叫んだ。
 合計でシーナから七点を奪ったものの、六ゲームを獲られ、勝負はシーナの勝ちとなった。
「勝負の世界は厳しいのです〜」
 笑顔のまま、さわやかな汗をかいたリアはシーナと握手をする。
「さて、これからが私の本領なのです〜」
 リアは応援に力を入れる事にした。

 約一時間の休憩を入れて、第一試合の勝者鳳と第二試合の勝者シュネーの試合が始まる。
「鳳双樹‥参ります!」
「双樹ちゃん頑張って〜なのですよ〜♪」
 リアの応援はとても華やかだ。
 二人の試合も均衡した攻防が続いた。
 白銀の狼と花吹雪の戦いである。
 パワーで押すシュネーであったが、鳳は勘を働かせて、白球の落下地点を把握していた。なるべく勢いが止まった所を狙い、ワンバンドしてさらに落ちかけた所を叩き返す。第二試合をよく見て研究した結果である。
「仕方ないわ」
 シュネーは決勝にとっておきたかったオーラエリベイションを使う。それでも鳳は食いつく。
 勝負は鳳四ゲームとシュネー六ゲームで終了し、決勝進出はシュネーとなった。だがこれ以上のオーラエリベイションは使えなくなってしまったシュネーであった。

 二時間の休憩を待って、決勝戦が行われる。
 シュネーとシーナの戦いは激しいものとなった。
「いくです〜!」
「負けませんよ!」
 試合は白熱し、一進一退を繰り返す。シーナは小柄な身体ながら、全身のバネを使ってゲームを進めてゆく。シュネーも力の限り、白球を打ち返す。
 互いにサーブ側の時にゲームを落とし、どちらも五ゲーム奪取となる。
 シュネーが白銀の狼なら、ラ・ソーネをするシーナは鍛えぬかれた闘犬である。牙と牙が弾けあうように戦いは続いた。
「はう、雪ちゃんがすごい事に〜」
 応援していたリアが緊張の汗を流す。リアが雪ちゃんと呼ぶシュネーの疲れはかなり酷いように感じられた。休憩を入れたとはいえ、シーナより一試合多い。それだけでも不利なのは明らかだ。
 シーナが先に二点を奪う。シュネーはまだ0点であった。
「ここが踏ん張りどころね」
 一見すると全力で試合をしてきたシュネーであったが、それでもぎりぎりの部分で体力を温存してきた。今が勝負と感じたシュネーは全力を出した。
「シーナさん、もうちょっとですー」
 セシルが最後の応援をする。
「ええっ?」
 勝ちを確信していたシーナは戸惑う。
 急に息を吹き返したシュネーに点を取られてゆく。
「これで!」
 シュネーは革手袋を武器に見たててスマッシュで球を打ち込む。果たして効果があったのかはわからないが、見事最後の四点目をシーナから奪い取った。
 優勝はシュネーとなり、全員が拍手を送るのであった。

●飲み会
「かんぱ〜い」
 試合が終わったその夜、みんなで酒場に集まり、飲み会が始まった。
「シーナさんとはこうやって一緒にお食事したり、お出かけしたりする機会が多いですね♪」
 鳳が隣りに座るシーナに話しかけた。
「そうなのです〜。お肉の友といると、とっても楽しいですよ♪」
 優勝を逃したとはいえ、シーナはご機嫌であった。
「こちらこそ、これからも仲良くしていただきたいです」
「はい。はいです〜」
 シーナは鳳のカップにワインを注いだ。
「あら♪」
 リアがゾフィーを見て近寄る。ゾフィーは不満げに手酌でワインを呑んでいた。
「楽しくいきましょう〜♪ さてさて〜次は貴族様がお姫様を射止める為に頑張るお話ですよ〜」
 リアは笑顔でゾフィーに話しかけると、吟遊詩人の本領発揮とばかりに詞を唄う。
 一曲が終わると酒場にいる他の客からも拍手が舞い起こる。
「ああ、忘れてましたです。賞品渡すのを」
 シーナはゴソゴソと持ってきていたバックの中を探った。
「全員に賞品を用意出来たのです〜。一位と二位以外は決まってませんけど、まあアバウトに決めましたのです」
 リアに『羽根付き帽子』が渡される。
 ゾフィーには『イカサマ賽「壱」』だ。
「私の酷くない?」
 ゾフィーはもらったサイコロを振ると壱が出た。
 セシルには『とんがり帽子』。
 鳳には『幸福の銀のスプーン』である。
 シーナ自身は『バラのマント留め』をもらう。
 シュネーには『刺繍入りローブ』が送られた。
「久しぶりの外での運動、とても楽しかったです」
 セシルはみんなに声をかける。ゾフィーの機嫌も直り、一緒に酌み交わす。
「派手じゃないかしら?」
「とても似合っているです〜♪」
 シュネーはさっそく刺繍入りローブを羽織ってみた。
 夜は更け、宴は盛り上がり、そしてお開きとなる。
「ラ・ソーユはギルドの依頼より難しかったのです〜」
 リアはほろ酔い気分で別れの手を振る。
 シーナとゾフィーは最後になるまでみんなを見送るのであった。