ハーフエルフの遺恨 〜ツィーネ〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月09日〜05月15日

リプレイ公開日:2007年05月16日

●オープニング

「ツィーネさん、レイスの依頼が入りましたよ」
 冒険者ギルドにいた女性冒険者ツィーネに受付の女性が声をかける。レイス退治の依頼をいつも訊くので受付の女性が気を利かせたのだ。
「わざわざありがとう。それでどんな内容なんだ?」
 ツィーネはまだ掲示板に貼る前の依頼書を受け取って目を通す。
「依頼者はあの方ですよ」
 受付の女性が指差したのは、若いエルフの女性であった。
「そうか。依頼者がいるなら、少し話してみるよ」
 ツィーネは受付の女性に笑顔で依頼書を返す。そして女性依頼者に近づいた。
「貴女が出した依頼に入りたいと思っていますが‥‥お話しよろしいですか?」
「えっ? ええ。構いませんよ」
 女性依頼者の名はクロエといった。近くのテーブルにツィーネとクロエは座る。
「ハーフエルフの‥‥レイス退治ですか。何か理由がありそうでお訊きしたいと思って」
 ツィーネの言葉にうつむきながらクロエは話し始める。
 レイスとなったハーフエルフの若い男シリールはクロエの友人だったという。
「シリールは無実の罪だったと、私は今でも思っています。元々彼は村で迫害を受けていました。濡れ衣を着せられ、そして殺されたんです」
「罪とは?」
「村の豪商から金塊が盗まれました。その犯人とされたのがシリールだったのです。犯人と決めつけられて捕まり‥‥領主のご沙汰の前に牢の中で殺されました‥‥」
 クロエは瞳に涙を浮かべた。ツィーネはまるで自分の事のように心に痛みを感じる。
 ツィーネの恋人であったマテューは親友と信じていた男に殺された。今はどこかでレイスとなってさまよっている事だろう。ツィーネがレイス退治の依頼に入るのは、恋人マテューを自らの手で葬ってあげる為であった。
 今はマテューの幼い弟を定宿に残し、依頼で日々の糧を得ていた。
「シリールはレイスになる程、恨みを持ったのは理解出来ます。でも私には忍びなくて。本当ならシリールの遺恨を晴らしてあげたいのですが、とても難しいようです。なら、せめて早く葬ってあげたくて、依頼を出したのです」
「わかった。辛いことを思いださせてすまなかったな。依頼は任せてくれ」
 ツィーネはクロエに挨拶をすると受付が待つカウンターに行く。そして依頼に参加するのだった。

●今回の参加者

 eb0339 ヤード・ロック(25歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1023 クラウ・レイウイング(36歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1850 リンカ・ティニーブルー(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

光翼 詩杏(eb0855)/ エイジ・シドリ(eb1875)/ 国乃木 めい(ec0669

●リプレイ本文

●暴れるレイス
「もう、真っ暗だな」
 セブンリーグブーツを履いたクラウ・レイウイング(eb1023)は手綱で馬を引っ張りながら、村への門を潜った。今は初日の夜中である。
「クラウさん、ありがとうね」
 クラウが誘導する馬には、ローブのフードを深く被るリスティア・バルテス(ec1713)が跨っていた。ゆっくりと馬で走るのなら問題のないリスティアだが、急ぐとなると不安があったからだ。
「もう今日は情報収集も‥‥なんの音だ?」
 リンカ・ティニーブルー(ec1850)が馬を降りた瞬間に、遠くから物音が聞こえた。そして男の叫び声と怒号も続く。
 三人は聞こえた方向へと向かった。辿り着いたのは農家の納屋である。
 闇に浮かぶ青白い炎が三人の前を通り過ぎる。
「レイス!」
 納屋ではレイスが村人を相手に暴れていた。
 冒険者三人は真っ先にレイスの耳の形を確認する。ハーフエルフのレイス。つまり今回の依頼目的のシリールのレイスにまず間違いなかった。
 レイスは村人に怪我をさせると夜空に姿を消した。
「またシリールか‥‥」
 村人の一人が呟く。リンカは顛末を訊こうとするが、村人に素っ気なく拒否される。怪我人がいたのでリスティアがリカバーで治そうとしても、何でもないからと他の冒険者と一緒に納屋から遠ざけられた。
 仕方なく三人は村の中にあった大きめの木の下で寝袋を使って寝る事にした。

●集合
「虫に刺されたな」
 二日目、朝起きたクラウは二の腕をさする。やはりテントがないと睡眠は取りにくい。雨が降らなかったのが幸いであった。
「リスティア、私と一緒に来て、村人から上手く情報を引きだしてくれ」
「わかりましたわ。レイスを退治に来たといって村人に事情を訊いてきましょう」
「私は酒場や商店などで聞き込みをするかね」
 三人は残る仲間が来るまで、情報収集に徹する事にした。

「あのレイスはこの世に未練を残して、それを晴らそうとしています‥その未練に心当たりのある人はいませんか?」
 市場にいた中年女性達にリスティアはレイス退治に来た者と立場を明かし、話しを切りだした。
「町の方々には被害が及ばないよう注意します。ですが、秘密があって隠しておりますと、あのレイスがやって来た時に護りきれない恐れもありますので注意してください」
 リスティアは優しく訊ねる。どうしてもハーフエルフの自分とシリールを重ねてしまう部分がある。それでもすべての村人がそうではないと自分に言い聞かせてリスティアは話し続けた。
 すぐ近くでクラウは周囲を観察していた。村はそれほど広くはない。こうやって調べていれば、真犯人が現れる可能性もある。
 何気ない状況は、緊張の場への変化を常にはらんでいた。

「先程寄ってきた村だが、なにやら金塊が盗まれただ、犯人が処刑されただと言った話をしていたんだが、なにかあったのかい?」
 リンカは酒場のカウンター席に座り、マスターに訊ねた。
「その話しはねえ〜。まあ、楽しく呑んでいきなよ」
 マスターは真っ昼間からの客に笑って誤魔化す。
「そう邪険にするなよ。盗品が見付かったって話がない割りに、処刑が早かったって話をしていたから気になってね。一番高い酒でも、もらおうか」
 リンカはコインをカウンターに置いた。触られないように、すぐに手を引く。
「いや、どこも詳しい話が聞ける様な雰囲気ではなくてね‥飯の種になるかなってふと思ってさ」
「ここだけの話しにしてくれよ。実は――」
 マスターは噂を話しを始めた。

 午後になって間もなく、残る仲間が村に到着する。
 ヤード・ロック(eb0339)とエフェリア・シドリ(ec1862)、そしてツィーネだ。
 エフェリアは初日にエイジからアイテムを借りようとしたが仲間に止められる。一日参加の場合、後にその者が他の依頼に入る可能性がある。そうすれば依頼期間内に返す事は無理だ。その行為を前もって判断できないので同日程の参加者以外の貸し借りは無理なのだそうだ。
 すでに村にいた冒険者達は午前に仕入れた情報を話す。
 村にはシリールのレイスについて、二つの噂があった。
 一つは、豪商の店を取り仕切る店長が金塊を隠した犯人で、その罪をシリールになすりつけたという噂。
 もう一つは、シリールが最近盗賊に入り、その罪を一人で背負わされて捕まったという噂だ。
 シリールが牢で死んだ理由も二つの噂がある。
 世を儚んで自殺したという噂と、看守を抱き込んだ本当の犯人が口封じをしたという噂である。
「さて、とりあえずやるだけやるかな、と。しかし‥‥俺以外は皆女性とはね。‥‥両手に抱えきれない花一杯、と」
 ヤードはボソッと呟くと、のほほんと歩き始める。
「いろんな人に訊いてみます」
 エフェリアはテクテクと小刻みに歩いてゆく。
 まだ日が沈むまでにはかなりの時間があった。冒険者達はそれぞれに真実を探しに別々になるのであった。

 三日目の太陽が昇る。
 昨晩は冒険者全員がゆっくりと眠れた。ツィーネの四人用テントとヤードの二人用テントがあったからだ。もっとも一人ずつ交代して見張りをしていたので、二人用テントのヤードの隣りに眠る女性はいなかった。
「昨日の午後、リスティアと一緒に豪商の主人の評判を調べたけど評判はよくない男だな。だが、豪商の商いで村は潤っているので表だって非難する者は少なかった」
 クラウが保存食をかじりながら話す。
「俺が調べたのは盗賊だ。この辺りには盗賊といえる程の組織はないね。せいぜいチンピラ集団が関の山だな、と。それとやはり、ハーフエルフにはかなり偏見持ってるようだな。俺もばれたらやばそうだな、これは。ふう、やれやれ‥‥」
 ヤードは耳が隠れているのを確認する。
「わたしはエフェリアと一緒に調べた。エフェリアから話してくれ」
 ツィーネはエフェリアに肩を軽く叩く。
「はい。話をあつめました。いろいろなことをききましたけど、牢の管理者さんがシリールさんは強く自殺だといってました。でもほんとのことを隠しているみたいです。テレパシーできいた動物さんも、あと子供も、そういってました」
 エフェリアは淡々と昨日の事を話した。
「新たな情報としては、市場の老人がシリールの事を可哀相だといっていたな。クロエの事も知っていた。かつて恋人同士だったが、親に猛反対を受けたそうだ。結局シリールの方から身を引いたといっていた」
 リンカは木の幹に背中を預けて立っていた。
 この日も冒険者達は調べに村中を回った。
 集まった情報を総合すると、豪商の所を取り仕切る店長が特に怪しい。事件が起こる前にシリールに接触しようとしたのを目撃されている。それに少し前から豪商の元を離れ、独立して商売を始めようと計画しているようなのだ。
 領主に関しては、村の長からシリールは自殺と報告が上がっているので、調べる術がない以上動けない。ある程度は村の自治を尊重しなければならない。今回は自治の範囲にあたるとの判断である。
 金塊は未だ発見されていなかった。
「店長を殺せば、シリールは天に召されるんじゃないか?」
 ヤードの過激な解決法は仲間に却下された。店長が真犯人だったとして、冒険者がレイスのシリールの前で店長を殺せば、シリールは天に召される可能性はある。だがシリールにかけられた疑いは残ったままなのでそのままかも知れない。店長をシリールに殺させる方法も同様であった。
「しかしヤードの解決法にヒントがあるような気がする」
 ツィーネは深く考える。
「みなさん、どうでしょうか?」
 冒険者達が野営を行う場所にクロエが現れた。
「かかった費用は依頼金とは別に出させてもらいますので、ご遠慮なさらずに」
 クロエは今日までの経緯を冒険者達に訊ねる。
「昨日の夜も出没しています。シリールはもう‥‥」
「白のクレリック、リスティア・バルテスよ。クロエさん、この町の地図を持ってますか?」
 クロエにリスティアが話しかけた。
「いえ。家に戻ればありますので、待って下さい」
 クロエは急いで自宅に帰って地図を持ってきた。
「今日までのシリールさんの出没の日時と場所を教えてもらえます?」
 リスティアはクロエが思いだす度に地図へと書き込んでゆく。出没は大抵夜である。これで浮き上がってくる事実があった。
 出没し始めてまもなくの期間は、様々な場所にレイスのシリールは現れていた。
 そしてある日を境にして一個所に出没が集中する。それから出没先を点々とした後で、また別の箇所に出没が集中し始める。
 これらの事実から得られるのは、レイスのシリールが何かを探して追っているのはないかという推測だ。何かとは、この場合、金塊であろう。
 金塊の在処をレイスのシリールに見つけられる度に、本当の犯人が移動させている可能性が高かった。
 レイスは真っ当な判断力を飛ばしてしまった者がほとんどだ。それでも怒りの衝動がレイスとなったシリールを突き動かしていると考えてもおかしくはない。
「そうならここです‥‥」
 エフェリアが地図の一点を指差す。昨日から二回立て続けに出没した村はずれの倉庫であった。

 冒険者達はさっそく村はずれの倉庫の監視を開始した。
 倉庫には常に豪商の所で働く村人達が警備を行っていた。
 三日目の日は暮れて夜になる。
「あれは運びだそうとしているのか?」
 クラウが倉庫での動きを仲間に指摘する。どうやらそのようで、重たい何かを運び出そうとしていた。
「真夜中だというのに大変だな」
 クラウがわざと運ぶ村人達の前に姿を晒した。
「おいおい。なんだその眼は」
 運ぶ村人達はまるで親の敵のようにクラウを見つめる。
「どうしたんだ?」
 続いてヤードも姿を晒した。近くにあったかがり火が全員の影を揺らす。
 他の仲間達も、いつでも飛び出せるように準備を手にしていた。
 無言で一人の村人が剣を抜き、クラウに襲いかかった。大した腕ではなく、クラウはかわして魔剣を抜いた。
「レイスではなく、人に剣を向けなくてはいけないとは」
 クラウは睨む。
 一斉に村人達が剣を抜いた。
「なるべくなら戦いたくないがしょうがない、か」
 ヤードはハッタリでクリスタルソード作りだして手にした。出来ることならマグナブローを使いたくはない。
 突然、夜空から青白い炎が現れる。
「シリール!」
 冒険者達と一緒にいたクロエもレイスのシリールを追って、村人達の前に姿を現した。リンカがクロエに抱きついて地面に転がる。レイスのシリールがクロエを襲おうとしたのだ。
 リンカの傍らに愛犬の黒曜が寄り添う。黒曜にはすでに発動してあった道返の石を首輪部分にぶら下げておいた。結界によってレイスは近づけないはずだ。
「シリール‥‥わたしの事わからないの?」
 クロエは土埃にまみれながら呟く。
 レイスのシリールは見境なく人を襲い始めた。エフェリアはレイスのシリールにリシーブメモリーを使ってみたが、何も反応はない。
「謀殺に加担した者は正直に話すのだ! 殺害の傍らに居た者も話すならば、命を守ってやろう」
 クラウは村人達に向かって叫んだ。
 混乱に乗じてヤードは運ぼうとしていた荷物を確かめる。その輝きはまさしく金塊であった。
「これは一体なんだ!」
 ヤードは箱を転がして中身の金塊をみんなに見せつけた。
「何をする馬鹿者!」
 倉庫の奥から出来てきた男は金塊を持とうとするが、持ち上げられない。
「あれが、豪商の所の店長です!」
 クロエが金塊を持とうとする初老の男を指差す。
「うるさいうるさい! お前ら、持たんか!」
 店長はレイスのシリールに追われる村人達を叱る。
「お前が‥‥やっていたのか」
 よぼよぼの老人がお付きの者に支えられて現れる。それはエフェリアが説得して呼んできた豪商の主であった。
「かわいがってやったのに、そのわしの手を咬むのか。お前のいう事を信じてあのハーフエルフを捕まえさせたのに‥‥それは嘘であったか」
「いや、違う! 違うのです!」
 店長はおどおどして両手を頭の上で振った。
「お前を領主に突き出す。わしも騙されたとはいえ、罪を償おう。許してはくれぬか? ハーフエルフのシリールとやら」
 豪商の主は夜空に浮かぶ青白い炎を見上げた。
 レイスのシリールは真っ直ぐに豪商の主へ向かってゆく。
 豪商の主の前に立つ者がいた。
「止めて! これ以上止めて! シリール!」
 クロエであった。
 レイスのシリールはクロエと豪商の主の横を素通りし、その後ろにいた店長に抱きついた。それはクロエの声が届いたのか、それともただの偶然かはわからない。
「止め、助け‥‥!」
 店長はレイスの攻撃を受け続けた。誰も助けようとはしなかった。
 レイスのシリールにとって店長だけは許せないのであろう。
 やがて店長は動かなくなる。
 青白い炎は徐々に薄くなり、消え去った。
「生まれを選べるわけじゃないのにね‥。せめてこの後は安らぎを得られますように‥」
 リスティアは憤りを抱えながも、シリールの為に祈る。
「シリール‥‥」
 クロエはその場に膝をつき、地面に伏せて泣き崩れるのであった。

 四日目になり、冒険者達は顛末を手紙にまとめた。
 クラウは一文を付け足す。
 正当な沙汰もなく謀殺されたとすれば領主の名が地に落ちる。ここで正義が行われれば領主の声望は益々高まるであろうと。
 手紙はこの地の領主の元に送るようにクロエの手に委ねられる。ツィーネはもう一通の手紙をクロエに渡す。それは初日に見送りに来ていた国乃木の親書だ。
 反省していた豪商の主であるが、時間が経てばどうなるかわからない。なるべく早い時期に判断を仰ぐ必要があった。
 早めに村を出発した冒険者達はクロエを領主のいる砦まで送り届けた。
「ありがとうございます。きっとシリールは天に召されたと思います」
 クロエはお礼をいうと、砦の中に消えていった。

 二晩を野営で過ごし、六日目の夜遅くに冒険者達はパリに到着した。
「シリールさんはいまごろ天国だとおもいます」
 エフェリアはコクリと頷いた。
「我々はただ剣を振るうだけでは無く出来るだけ昇天させたいものだな」
 クラウはツィーネに視線を送る。
「あのレイスは天に召されたようだ」
 別れ際にツィーネは優しい表情で呟いたのだった。