幻の幽霊船 〜トレランツ運送社〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 83 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月11日〜05月19日

リプレイ公開日:2007年05月16日

●オープニング

 パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
 セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
 ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。

「ふーん。どこまで本当の話しやら。まあ、この稼業やってれば聞く話ではあるけどねぇ。それにしてもよりによって周辺の海にかい」
 社長室でトレランツ運送社の女社長カルメン・アーレはゲドゥル秘書の報告を受けていた。
「はい。幽霊船『ソワレ号』に同業の商業帆船が遭遇したそうです。霧の深い夜に、碇を下ろして沖合に待機していたようでずが、知らぬ間に幽霊船に横付けされたようで」
「ほうー」
「生き残りは小舟で逃げた一人だけです。彼のいうにはソワレ号には骨だけになった船員が乗っていたそうです」
「なるほどね。明日の同業の集まりで話が出るだろうね。相手が人じゃないとすると、やっかいな事になったもんだ。どうせ狙うなら海賊船を狙ってくれれば、こっちも助かるっていうのに‥‥」
 カルメン社長は椅子に座りながら足を組んだ。

 カルメン社長の考えの通り、同業の代表者会議で議題にのぼる。海賊対策はことさらであるが、幽霊船も深刻な問題だ。
「ゲドゥル、またパリに行ってきな」
 カルメン社長は社に戻るとゲドゥル秘書に指示を出す。
「冒険者に幽霊船の排除を頼む内容だよ」
「はっはい。あの、それはトレランツ運送社独自の行動でしょうか?」
「いや、各社割当分の排除をする約束になったのさ。うちは幽霊船一隻を一ヶ月の間にする。どうやら幽霊船はソワレ号だけじゃないらしい。もっとも一番悪さをしているのはソワレ号らしいがね」
「たくさん‥‥幽霊船が‥‥」
 ゲドゥル秘書は唾を飲み込んだ。
「この間はアガリ船長の船に冒険者は乗り込んだんだよねぇ? ならアガリ船長にまた任せるか。船はなるべく速い奴を用意してあげな」
 ゲドゥル秘書はカルメン社長にいわれた通りにする。

 翌日、ゲドゥル秘書はパリに寄港する自社の貨物帆船に乗り込んだ。
「今回からは親切な冒険者がくれたこの『船乗りのお守り』で船酔いとはおさらば‥‥あれ? ない、ない」
 ゲドゥル秘書は服や荷物の中を探しまくる。
「出航するぞお!」
 船乗りが大声をあげる。ルーアンの港が貨物帆船から遠ざかってゆく。
「あーー、昨日、大事にするつもりで自宅のベットの枕の下に忍ばせたんだったあ。忘れたあ〜! 戻ってくれ〜」
 ゲドゥル秘書は船室から飛びだして、船縁に手をかけて叫んだ。
「そんな事したらカルメン社長に怒られるわい! どうしてもなら泳いで帰んな!」
 近くにいた船乗りにいわれてゲドゥル秘書は仕方なくあきらめる。泳げもしないゲドゥル秘書である。
 一晩を船で過ごし、ゲドゥル秘書はパリに到着した。
「あの‥‥依頼したい‥‥ことがありま‥‥」
 冒険者ギルドのカウンターに座っていた受付の女性は、どこからともなく届く蚊の鳴くような声を耳にする。
「どうなさったのですか?」
 受付の女性はカウンターの客側の床に寝転がるゲドゥル秘書を発見した。
「いや、平気ですから‥‥」
 ゲドゥル秘書は椅子に掴まって這い上るように座る。そして依頼を行うのであった。

●今回の参加者

 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5363 天津風 美沙樹(38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

不破 斬(eb1568)/ ネフィリム・フィルス(eb3503

●リプレイ本文

●母なるセーヌ
 帆船はセーヌの流れに乗って下ってゆく。
 船首が掻き分ける水音。船乗り達のバカ笑い水鳥の鳴き声。
 海に出るまでに帆船で流れる時間は穏やかであった。

「気持ちいい風だな」
 アリスティド・メシアン(eb3084)は甲板の更に先頭にある船嘴に座り歌い始める。大いなるセーヌを称える歌だ。同時にその視力で進行方向に注意をした。すべては海に出たときの予行演習であった。
「海、それは男の浪漫」
 歌が一曲終わると、後ろから声が聞こえてアリスティドは振り返る。
「って、ちょっと違うよね」
 ヴェニー・ブリッド(eb5868)も船嘴に立っていた。
「ここに立つと詩人になりたくなるわ。あたしも歌は唄えるのよ」
 ヴェニーはアリスティドに笑顔で話しかけ、指先で髪をとかした。

「船長さんがこのコも載せてくる許可を出してれてよかったですわ♪」
 リリー・ストーム(ea9927)は甲板の上でセイル・ファースト(eb8642)の左腕に両腕を絡ませていた。そのすぐ横にはグリフォンのジーグルーネが横たわる。
「リリー、『お・ね・が・い♪』とかいって、船長に色目使っていただろ?」
「いやだ。妬いてるのかな?  良い風‥見てっ! 綺麗なお魚が♪」
 リリーは水面を指差した。甘えたい気分半分、誤魔化す気分半分だ。
「あ・な・た♪ ‥‥うっぷ」
 リリーは笑顔をセイルに向けた後で表情に影を落とす。
「おっ、おい! リリー!」
 セイルはリリーの背中をさする。船酔いが一気に悪化したリリーは胃の中を空にしてしまった。
 すぐに近くで船乗り達が魚釣りしていたのをリリーは目撃した。さらにリリーの姿をヴェニーは見逃さなかった。

「姉さん! こっち来て一杯やりましょうや」
「この間のお前達か」
 船乗り三人にエメラルド・シルフィユ(eb7983)は呼び止められる。
「今度は幽霊船らしいな。船乗りは大変なものだな」
 エメラルドは前回に乗っていなかった船乗りがいないかを訊く。全員が乗っていたと聞いてエメラルドは安心した。
「先に仲間の仕事を手伝うつもりだ。その後でな」
「今度こそ腕相撲、負けませんぜ」
 エメラルドと船乗り三人は笑顔で別れるのであった。

「海賊の次は幽霊船ですか。海もいろいろ運んできてくれますね」
 コルリス・フェネストラ(eb9459)はマストの上にいた。船長アガリも遠くを望んでいた。まだ海は望めずにセーヌ川周辺にある畑が視界に広がっていた。
「いろいろあるのが海ってもんだ。とにかく冒険者には期待しているからな。うちの社長も期待しているぞ」
 相変わらずの大声で船長アガリは笑うと酒を一口呑むのだった。

 金槌で叩く音が響く。
 前もって持ち込まれた木材を組み合わせて何かが作られようとしていた。
「ここを持っていますから、お願いします」
「わかったわ。すぐだからね」
 十野間修(eb4840)と天津風美沙樹(eb5363)が船の両舷に取りつける防護柵を作っていた。長い三角柱の形をしており、両舷に置くつもりである。
 左右に二列ずつ、計四個作るつもりであり、仲間や船乗りにも声をかけて手伝ってもらう。
 どうしても隙間が空く部分には十野間案の外側に杭を向けた形の柵も別に用意された。どちらの柵も動かせるようにしてあり、いざという時に使う構造である。
「これを預かって‥‥あら?」
 船酔いが収まってきたリリーが柵作りに集まった仲間の所に現れた。
 渡そうとしたのは出航前に不破から預かっていた『たすき』であった。どこかで白い布を手に入れて、まだ日が昇らないうちから作ってくれたようだ。リリーが驚いたのは酔い止め用のハーブがたすきの間に挟まっていた事だ。
「これに気がついていれば‥‥今からでも飲んでおきますわ」
 リリーは仲間にたすきを分けると、さっそくハーブを煎じる為に船室へと向かった。
「今日に書く航海日誌のネタは決まりましたわ」
 ヴェニーは大きな瞳をきらりと輝かせる。タイトルは『衝撃! 熱々カップルと魚料理の謎』であった。
 帆船は一夜をセーヌ川の流れの中で過ごし、二日目の午後にルーアンを通過した。そしてセーヌ川河口にある町ルアーブルに寄港するのだった。

●水平線
 波がうねり、弾けた波飛沫がキラキラと輝く。
 三日目の早い時間に帆船は出航して海原を航海していた。
 海鳥の群れが帆船のすぐ側で翼を広げて滑空する。
 アリスティドはパンを千切ると空中に放り投げた。上手い具合に海鳥はついばんで、パンをさらってゆく。
 アリスティドは船の状況を知るために度々甲板を散歩していた。視界が悪い時でも対応が出来るように覚える為にである。幽霊船の出没は夜中だと見据え、午後には睡眠を取り始めるアリスティドだ。
 船乗り達は、いつもの遊びである魚釣りを始めた。
「もう揺れには慣れましたし、平気ですわ」
 リリーはセイルと一緒に釣りをしていた。
「やっぱりお魚は酔った人の出したああいうものを食べ、それを人が‥‥いえいえ、考えてはいけ‥‥あなた、引いてますわ!」
「おっと!」
 セイルの竿が強く引いた。長い格闘の末、大物を釣り上げる。
「こりゃ、すごいな」
 船長アガリも煙草を吹かせながら近づいてきた。
「今夜ぐらいから幽霊船の目撃場所周辺に辿り着く。という訳で冒険者達よ。よろしく頼むぞ。おめぇーらも気ぃ引き締めていけよ!」
 威勢良く船乗り達は声をあげるのだった。

 水平線に真っ赤な太陽が沈み、気温が下がる。
 空には雲はなく、星空が広がっていた。
 幽霊船が出没する時は霧が出てきたということだが、夜というだけで視界は悪くなる。十野間の意見もあり、冒険者二人一組に加え、船乗りにも夜警を交代で手伝ってもらう事になった。
「視界が確保出来なければ戦う事が出来ません。また、皆さんが怪我をされては私達がお仲間入りをしてしまいますので、宜しくお願いします」
 十野間はいざというときの照明を船乗り達に頼み、たすきを渡した。
 三日目夜から四日目朝にかけての夜は何事もなく過ぎ去るのであった。

●緊張の直中
 四日目の帆船は碇を下ろして停止していた。すでに幽霊船の目撃が集中している海域なので、動き回っても大した意味がないからである。
 時間は過ぎてゆく。船乗り達は酒を呑んで暇を紛らわせていたが、冒険者は控えていた。
 水平線の反対側には海岸線も見渡せる。いざとなれば陸に降りる事も可能だ。
 緩やかな状況と、幽霊船が出るかも知れないという緊張。
 昼間に一度、ヴェニーが遠くに船影を見つけるが、人が乗る普通の帆船であった。

●幽霊船
 五日目の夜、わずかな間で霧が立ちこめた。
 突然の視界の悪さは、帆船に乗るすべての者を緊張に誘った。
 ランタンの灯りは乱反射して遠くまでは届かない。視力の良い者でも、大して遠くは見通せなかった。
 昼間にあれだけはっきりと見えた海岸線も、今ではどこにあるのかわからない程だ。
 誰もが耳を澄ませる。しかし波の音しか聞こえない。
 とにかく出来る事として、全員が白たすきをかけて味方の目印とする。
「一緒に頑張りましょうね♪」
 リリーはグリフォンのジーグルーネの背中に乗り、軽く浮き上がった。無闇に幽霊船を探しにいけば、迷子になるので今は我慢の時だ。
「北南から何かが接近! 距離はかなり近いはずだ!」
 船乗りの一人が叫んだ。普段から見張りとして定評のある船乗りであった。視力だけでなく聴力もかなりの持ち主である。
「射撃は苦手なんだがな‥贅沢いってる場合じゃねえからな!」
 セイルは弓矢を取りだした。
「セイルさん、これを」
 コルリスはセイルに矢を渡す。コルリスは前回の依頼と同様に船乗りから矢をもらっていた。その矢をセイルにも分けたのだ。
 コルリス、セイル、アリスティドと矢による攻撃が出来る者がそろう。アリスティドはムーンアローによる攻撃である。コルリスのすぐ側にはかがり火が用意されていた。一部の矢の先端には布が巻かれて、油も染み込まされている。
 柵が用意されて準備は整った。最低限の数を残して船乗り達は船室で待機する。
 霧とはいっても視力のいい者達が船影を捉え始めた。
「大当たりね」
 ヴェニーは船に書かれた『ソワレ号』の名をはっきりと目撃する。
 矢が霧の中に吸い込まれるように飛ばされてゆく。
 前もって敵はスカルウォリアーとグールだとわかっていた。ムーンアローを放つアリスティドはグールを強く念じて光の矢を放つ。その軌跡は霧の中でもなんとか視認出来た。おかげで甲板にいるすべての者がソワレ号の方向を把握した。
 アリスティドが狙うグールらしきの影をコルリスも標的とした。戦闘が始まる前に矢を放つ三人は相談していたのである。
 例え外れても幽霊船に火を放つ事が出来る。
 セイルは火の矢を放っていた。波を被る事のある船なら、これぐらいでは全焼へは繋がらない。それより火が点く事で、よりソワレ号の場所が把握出来るようになった。
 目視で約三十メートルまで海賊船が近づいた時、リリーはジーグルーネと一緒に空へ舞い上がった。
 セイルの一声で矢の攻撃は一時取りやめられる。すぐにジーグルーネに乗ったリリーは幽霊船の上空から戻ってきた。
「ソワレ号後部に敵が集中しているわ!」
 リリーは仲間に敵の状況を伝えた。
 幽霊船ソワレ号は一気に近づいてくる。冒険者達の乗る帆船が大きく横に揺れた。ついに接舷されたのだ。
 グールが真っ先に帆船に乗り込もうとしていた。不気味なうなり声をあげてアンデッドらしからぬ軽やかな動きをみせる。
 コルリスは弓の攻撃からオーラショットに変えていたが、接舷と同時に鳴弦の弓を持ってをかき鳴らす。スカルウォリアーとグールは一時的に緩慢な動きとなった。
 天津風は用意してあった柵を力一杯に押した。一匹のグールと三匹のスカルウォリアーが巻き込まれて海中に落ちた。
 すぐさま海中から顔を出したのはアンデッドではなく、大きく口を開けた鮫であった。海に落ちたアンデッド共は溺れるように鮫との格闘を始めていた。
 十野間はシャドゥボムでまとめてアンデッドの体力を削ってゆく。十野間が頼んだ船乗り達は少しでも冒険者側が有利になるように灯りで周囲を照らす。
 稲妻がヴェニーの手から一直線に放たれて、スカルウォリアーを数体吹き飛ばした。ライトニングサンダーボルトだ。ソワレ号の一部も吹き飛ばしたようだ。
 幽霊船にはまだまだアンデッドが乗っていた。動きが鈍い間に帆船へ乗り込まれないように前衛の冒険者達は幽霊船へと乗り込んだ。
「‥来たか! くらいやがれ!」
 セイルが幽霊船に着陸しようとしたジーグルーネに乗ったリリーを援護する。手には弓ではなく、ホーリーパニッシャーと盾を持っていた。無事着陸したリリーはジーグルーネとともにアンデットを蹴散らす。
「汚い顔を近づけないでっ!」
 リリーは無理にスカルウォリアーを押し出して海の藻屑とする。戦乙女と呼ばれる彼女にしては意外な戦い方だ。
「止まりなさい!」
 十野間がシャドウバインディングでグールのその場に釘付けにする。合図を受けたヴェニーが再びライトニングサンダーボルトでグールを狙い、そして吹き飛んだ。
 エメラルドは怪我をした前衛に手助けしながらリカバーで傷の治療も行う。自ら買ってでた回復の役目である。
 敵の数が半数を切った所で、剣を持ったリリー、天津風、エメラルド、セイルは残る二匹のグールを集中的に狙った。スカルウォリアーはコルリスのおかげでまだ帆船には移っていなかった。船長アガリの指揮の元、少しだけソワレ号と帆船は離される。
 グールはどれだけ傷を負っても動きを衰えさせる事はない。全力の力を振るうグール相手に冒険者達は勇敢に挑んだ。
 グールを倒し、残るスカルウォリアーの掃除も終わる。アンデッドはソワレ号にはいなくなった。海に落ちたアンデッドは鮫が相手をしていた。
 冒険者は落ちたならばどうなるかわからない鮫の泳ぐ海を眺めて息を呑んだ。
「航海日誌は‥‥」
 アリスティド、天津風、十野間、ヴェニー、エメラルド、セイル、と殆どの冒険者達は船室を調べ始め、そして船長室に辿り着く。
 潮風に傷んだ航海日誌といくつか羊皮紙を発見する。すでに火の矢で一部が燃えていた幽霊船であったが、全焼するには余裕があった。
 全員が脱出した後、リリーがジーグルーネに乗って空中から油の入った樽を落とす。一気に火が広がり、幽霊船ソワレ号は業火に包まれた。
「ところで、この幽霊船、まさか舵が石になってた、なんてことないですよね?」
 コルリスの言葉に十野間がハッとする。
「違いますね。この間の海賊船の船影とは違ったと‥‥。コルリスさん、驚かせないでください」
 普段、落ち着いてる十野間の慌てた姿に仲間はにこやかになる。ヴェニーの今日の航海日誌のタイトルは決まった。『まさか! 幽霊船は海賊船?!』である。
 海の上で燃え続ける幽霊船を戻ってきたリリーと一緒にセイルが眺めていた。
「‥もう化けてでてくるなよな‥」
 セイルが燃えるソワレ号に祈り捧げるのであった。

●帰路
 六日目の夜遅くには帆船はルーアンに到着した。トレランツ運送社に立ち寄り、報告が行われた。
「これで予備が用意出来ますから、無くす事を恐れず、一つは常に持ち歩く様にしたらどうです?」
「あ〜あ〜ぁ、なんといっていいやら〜」
 ゲドゥル秘書は十野間に抱きついてた。天津風のとは別にもう一つ、『船乗りのお守り』をもらったのである。
 地上の宿で冒険者達はソワレ号に残されていた船長の航海日誌を読んだ。
 どうやらかなりの遠くの外国まで航海していた商業帆船であった。海賊船と何度も渡り合っても負けはしなかった船乗り達であったが、ある日を境にしてぷっつりと日記は終わっていた。
 五年前の夏、三日間霧が晴れない日に書かれたのが最後である。二日前にどこからともなく歌が聞こえてきたとも書かれていた。
 アリスティドが手に入れた羊皮紙は恋人に宛てた手紙であった。港に着いた時にシフール便に頼もうとしていたらしい。あいにく相手先が特定出来るほどの情報は書かれていなかった。
 仲間のいない所で涙したアリスティドであった。

 翌日の七日目、航海日誌はカルメン社長に手渡される。幽霊船対策の鍵になればいいとの考えからだ。一部、重要と思われる部分は天津風が写しをとっていた。報告の際にギルドに提出するつもりである。
 ルーアンを出発し、冒険者達は八日目のお昼頃にパリへ到着した。
「もう、いつも着る服に縫いつけておきます」
 見送りにゲドゥル秘書はパリまで同行していた。船乗りのお守りのおかげでまったく船酔いしなかったようだ。
 ゲドゥル秘書によれば、他の海運業者も順調に幽霊船を退治しているそうである。
「最近のノルマンの焦臭さと繋がっているんでしょうかね」
 冒険者との別れ挨拶の際、ゲドゥル秘書は一言呟いたのであった。