春の秘密基地

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月15日〜05月19日

リプレイ公開日:2007年05月18日

●オープニング

「雪って重かったんだね」
 男の子ドニーは大木を見上げた。森の中にある『木の実の城』と名づけられた木の上の秘密基地は冬の間にかなりの損傷があった。
 木の上にある小屋の屋根は一部が抜けて穴が空いている。
「でも形残してるし。もしあの時直しておかなかったら影も形もないよ」
 小柄な女の子ミィが縄バシゴに手をかけて登ろうとする。
「あぶない!」
 太り気味の男の子ドクがミィを受け止める。縄ハシゴが切れてミィは落下したのだった。
「ミィ、大丈夫?」
 ノッポの子供バズが駆け寄った。手には鳴子の残骸がある。野生動物が近寄ってきてもわかるように設置した鳴子の一部も壊れて地面に落ちていた。
「これは直すの大変だな‥‥」
「うん」
「さっき見てきたら、みんなで乗ったブランコも壊れていた。この前の冬は特に酷かったって父ちゃんいってた」
「そうなのか」
 子供達はこの日は家に引き返した。まずは修理しないと遊ぶにも遊べない事がわかったからだ。
 それから子供達はこっそりと道具を借り、あり合わせの材料を抱えて毎日森と家を往復する。親達は知っていて、知らないフリをしていた。

「秋頃には息子の事でありがとうございました」
 冒険者ギルドにはドニーの母親が受付の女性に礼をいう。
 母親が秋頃に頼んだのは息子のドニーについてだ。去年の秋頃、秘密基地という遊び場でドニーを含む子供達が危ない事をしていないか、周囲に危険はないのか、人様に迷惑をかけてないかとかの心配し、それらを調べた上でうまくやって欲しいと依頼した。
 母親の期待通り、前依頼は無事終了したのだった。
「冬が終わり、春になり、息子のドニーが友達三人とまた秘密基地に日参しています。遊ぶ事はいいのですが、どうやら冬の間に遊び道具が壊れていたようで‥‥」
「それはご心配ですね」
「冒険者の皆様に、もう一度子供達が遊ぶ秘密基地にいってもらい、怪我しないよう修理とかしてもらいたいのです」
 ドニーの母親は他の三人の子供の親と寄せ合った依頼金を受付の女性に渡すのだった。

●今回の参加者

 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 ec2755 キャミー・カル(26歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●秘密基地へ
 道端にも緑が溢れ、小さな野花もそこかしこに咲いていた。
 冒険者達はパリから村へと歩いてゆく。依頼書にあったように、依頼者の家の戸にかかっていた木板を小槌で叩き、近くの小屋で待機した。
「ご足労ありがとうございます」
 小屋に現れた依頼主の母親は挨拶をする。
「ドニーは朝から森にいっています。秘密基地を直しにいっているのでしょう」
 母親の言葉に冒険者達はさっそく森の秘密基地に向かう事にした。

「こっちです。浮いている根には気をつけて」
 森の中に入ると、アニエス・グラン・クリュ(eb2949)は仲間を導いた。秘密基地の場所を正確に知っているのはアニエスだけだからだ。
 木々の間を抜けると、わずかに拓けた場所がある。
「子供らの秘密基地ねぇ。懐かしいわね、あたしにもそんな時代があったわ」
 ナオミ・ファラーノ(ea7372)は目の前に現れた大木を見上げた。壊れかけていたが木の上に丸太が並べられて小屋もある。大木の天辺近くには展望台があった。
「誰だ!」
 男の子の声が聞こえて冒険者達は振り返る。木材を抱えた子供達の姿があった。
「お久しぶりです」
 アニエスは手を挙げて挨拶をする。
「あっ、前に来た子ね」
「あ〜あの子だ」
 女の子のミィがアニエスを覚えていた。三人の男の子も思いだす。
「実は私は冒険者なのです!」
「えっ?」
 アニエスは子供達に説明をする。今は仲間と一緒に冒険の旅をしていて、近くを通ったので懐かしくなり立ち寄ったのだという。
「わたしは動物さんにききました。りっぱな秘密基地があるってきいたのです」
 一人、木の幹に隠れていたエフェリア・シドリ(ec1862)はひょっこりと顔を出す。
「ナイトのキャミー・カルです。よろしくです」
 キャミー・カル(ec2755)は挨拶をすると大木に近づいて垂れ下がる縄を触る。
「大分傷んでます」
「‥‥この前の冬で大分壊れちゃったんだ。直そうと思ったけどうまくいかなくて‥‥」
 ドニーがキャミーに答えてから項垂れると、他の三人の子供も下を向いた。
 冒険者達は依頼で来たことだけは子供達に伝えなかった。その上で修理を手伝う事を提案する。
「任せてください」
 キャミーは強く自分の胸を叩いた。
「本当か!」
 太り気味のドクが大きな声をあげた。他の子供も声をあげて喜んだ。
「どんな秘密基地にしたいのか、希望はどうなのかな?」
 ナオミが訊ねると子供達だけで相談をし始める。しばらくしてドニーが代表して答えた。今ある秘密基地『木の実の城』を修理して使いたいという。
 木の実の城は四人の子供が少しずつ手を加えて出来上がった。それだけ思い入れがあるらしい。
 ナオミは立て替えを考えていた。
「私、見てきます」
 アニエスはナオミの気持ちを察する。
「修理して使えるかどうか、空飛ぶ箒で調べましょう」
 アニエスがミィを誘って箒の後ろに跨がせた。
「うわぁ、飛んだ!」
 二人を乗せてフライングブルームが舞い上がる。
「前、いっていたの。この箒のことだったんだね」
 ミィの嬉々とした声に、アニエスは振り向いて笑った。
 さっそく損傷状況の調査が始まる。
 目視から始まり、丸太が並べて作られた広場に降りて軋むかどうかを確かめる。小屋だけでなく、木槌で幹や枝を叩いて耳を澄ませた。中が割れていたり、空洞ならば反響して軽い音がするはずである。
 アニエスは降りるとナオミに調査内容を伝えた。ナオミも大木の状態を下から調べていたようだ。
「大木自体の痛みは少ないので、直せば使えるようになるわね」
 ナオミの言葉で子供達の心配顔が笑顔になった。エフェリアが筆記用具とその場に落ちていた木片を子供達に渡した。
「秘密基地をおもいのままにかいたらどうでしょう。直すけど新しい好きなものをつめこんだら秘密基地らしいです」
 エフェリアが淡々と話す。
「おもしろそうだね」
 ノッポのバズが真っ先に絵を描き始めた。子供達が順番に自分の世界を描き始める。
 その間にナオミが修理に使う分の材料を割り出す。現場にある材料も換算する。
「手伝ってもらえますでしょうか?」
 アニエスがエフェリア、キャミーに鳴子作りを提案した。
「てつだいます」
「はい!」
 エフェリアとキャミーもアニエスと一緒に鳴子を作り始めた。小さめの板に木片を切ったロープで結んで作る簡単なものだ。それを長いロープの所々に取りつけた。
 出来上がるとアニエスが以前あった辺りに新しい鳴子を取りつけてゆく。まずは外敵からの安全確保が重要である。
「ぼくたちもやるよ」
 書き終わった絵をナオミに渡すと、子供達も鳴子作りを手伝い始めた。
 夕方になり、子供達が家に帰ってゆく。
 今日のところは冒険者達も全員で小屋に戻る。
「うーん。結構難しいわね。今のデザインも残すように‥‥」
 ランタンが照らす夜の小屋の中、ナオミは子供達の絵を観ながら新生『木の実の城』を考えるのであった。

●材料集め
「こ〜んにぃちぃわあ〜」
 二日目の朝、子供達が声を揃えて挨拶をする。場所は木こりの家にある庭だ。
「おー来たな。ん? 後ろにいるのは誰だ?」
「冒険者で、城を直すのを手伝ってくれるんだ」
「私たち冒険者です。こちらで木材を譲ってもらえるそうで」
「そうなんだ。いつの間にかあげる約束になってな。まあ、乗りかかった船だから最後まで付き合ってやるさ」
 木こりは腰に手を当てて笑う。
「ここにあるのは自由に持っていっていいぞ。出かけるので勝手にもっていってくれ」
 木こりは庭から外へと出ていった。
「木材を馬に乗せてください」
 キャミーが屈んで子供達に話しかける。
「空飛ぶ絨緞でも運びます。皆さんよろしく」
 アニエスはふわっと空飛ぶ絨緞を取りだした。
「まずはこれと、これ、それから――」
 ナオミの指示で材木が選ばれ、それをみんなで積んでゆく。
 キャミーは馬には乗らずに、手綱を引っ張って木材を載せた馬を誘導する。アニエスは降ろす事を考えて子供達の中から一人を選んで一緒に現場までひとっ飛びした。
「あれかな?」
 秘密基地の現場ではエフェリアが待っていた。まずは空飛ぶ絨緞からアニエスとドニーと三人で木材を降ろす。二人は絨緞でトンボ返りし、エフェリアは大きさを選別しながら次の便を待つ。
 もう一回絨緞が運んだ後で、キャミーが馬を連れてやってくる。エフェリアとキャミーで絨緞では運びにくい長めの板を丁寧に降ろした。ナオミも驢馬を使って木材運びを行う。
 お昼前には運び終わり、子供達は一度昼食に戻る。冒険者達も小屋へと戻って依頼した母親が用意した食事を頂いた。
「その長さの板を出来るだけ用意してね」
「わかったよお」
 午後になってナオミは子供達に手順を教えると、自分は斧を手に離れた場所で木を倒す。足りない分の木材を用意する為である。
 子供達はナオミの書いた設計図を眺めた。絵に描いた通り、床面がさらに広げてあった。それに最大の新機能は滑り台だ。
 もう二度と使えないと考えていた時に、新たな遊具である。自然と子供達は笑顔になってしまう。
 アニエスのアイデアも盛り込まれ、雪が降り積もりにくくなるよう屋根が斜面に変更されていた。
 そのアニエスはブランコの修理をがんばる。ロープを三つに編んで太く強度を増させる。より丈夫そうな太い枝を見つけておいた。
「こんなのでいいですか?」
 エフェリアとキャミーはアニエスに藁で作った大きい人形を見せた。思ったよりブランコの修理に手間取りそうなのでアニエスは二人に頼んだのである。遠目から眺めれば人影に見えた。獣よけと剣術ごっこに使えるはずだ。
「助かりました」
 アニエスはブランコの修理を続けた。
 ナオミが切った木をエフェリア、キャミーも手伝って運ぶ。馬に引きずらせてはいたのものの、人の力で持ち上げる場面も多々ある。
 子供達に訊ねられてはナオミはアドバイスをした。自分達が直したという自信を持たせる為にもなるべく実作業は子供達に任せるつもりであった。
 夕方になり、子供達は親元に帰ってゆく。
「材料の用意は大体終わったね。明日は実際に直してゆく作業だよ」
 ナオミが仲間に予定を話す。
「私は今日のうちにブランコを完成させます。この場所に泊まり込みますので、どうかご心配なく」
 アニエスはすでにテントの用意を始めていた。残る三人は小屋へと戻る。
「後は吊すだけです‥‥」
 アニエスはランタンを枝に吊して周囲を照らして、ようやくブランコ自体の修理が終わった。ただ、頑丈にしただけに前よりブランコは重い。枝に吊そうと太いロープを愛馬に繋げ、自らも引っ張ってみたがびくともしなかった。
「さて、やろうかね」
「そうです」
「やりましょう」
 アニエスが振り向くと仲間が戻っていた。
「皆さん‥‥」
「行くよ!」
 全員の力でブランコは枝に吊された。その後、小屋から運んであった食事を焚き火で温めなおして仲間全員で食べるのであった。

 三日目の朝、冒険者達が秘密基地を訪れるとすでに子供達の姿があった。
「これ、獲ったんだ。お昼にでも食べようよ」
 ドニーがエフェリアに渡したのは魚の入った桶であった。昨日の夕方、小川に設置した罠にかかっていたそうである。
「あれ?」
 昨日にはなかった梯子が大木に登れるようにかけられていた。
「作業しやすいようにと思ってね。プレゼントよ」
 ナオミに子供達はありがとうと叫んだ。
 今日は本格的な修復である。寸法通りに切りだした木材を設計図に従って打ちつけてゆく作業だ。
 アニエスは魔法の絨緞を使って、木の上に木材を運ぶ。
 トントンと子供達は器用に金槌を使って修理をしてゆく。いくら雪で壊れたとしても元々木の上に小屋を作ったのは子供達である。木工に精通したナオミとアニエスから見てもなかなかの腕であった。
 滑り台も順調に出来上がってゆく。こればかりは頑丈に、しかも怪我をしないように精密に作らなくてはならないので、ナオミが作業を行っていた。
「どこのお偉いさんの依頼? と思うくらい頑丈にね」
 ナオミは釘を打ちながら独り言を呟いた。
「これを踏んだら危ないのです」
 エフェリアはチョコチョコ動いてはもう使えそうもない木片を集めては焚き火をしていた。昨日の寸法切りの時にでたゴミである。メモとかに使えそうな木片は集めて別の場所に置いておく。
 昼食として焼いた魚をみんなで食べて作業を再開した。キャミーが木こりにあと少しの木材をもらいに行った時に家へ立ち寄り、母親には伝えてある。母親から他の親にも伝えてくれるといっていた。
 木の上の小屋の新たな形状の屋根が出来、横壁もしっかりとしたものに変わった。
 縄ハシゴは頑丈な木製の梯子へ。床を支える柱も地面に建てられて、より広く、そして頑丈になる。
 もう少しで出来上がるという所で、終わりの時間となった。
 子供達は残念がるが、こればかりは親が心配する。冒険者達は子供達を説得して家へと帰すのであった。

●完成
 四日目の朝から修理は行われる。
 最後はナオミとアニエスが点検を行った。釘が出た場所はないか、がたついている板はないかなどの注意である。
「完成だよ」
「やったあ〜」
 子供達は踊って喜ぶ。アニエスも一緒の輪に入っていた。エフェリアも無理矢理に輪に入らされたが、まんざらでもないようであった。
「これ、母ちゃんが持たせてくれたんだ」
 ドニーが持ってきたカゴの中身を取りだす。入っていたのは昼食用のパンと薫製肉である。
 全員で昼食として頂く。午後は全員で遊ぶ事になった。
「わたし、乗りたくてうずうずしてたんです」
 キャミーがブランコに乗ると、次々とみんなが座った。ナオミがブランコを押して段々と勢いがついてゆく。
 楽しそうな歓声をあげて存分にブランコを楽しんだ。
 そして木の実の城に登り、新たな小屋の様子や展望台を確かめた後で、順番に滑り台を滑る。何度も繰り返す姿に作ったナオミは満足げな表情をする。
「あら?」
 ナオミがクスリと笑う。子供達に混じり、エフェリアとアニエスも両手を挙げて滑っていた。
 夕方までたっぷりと遊び、冒険者達は子供達と別れの挨拶をする。
「もうあの城はダメかと思ってたんだ」
 ドニーは小さな声で話す。
「いっそ本職の職人さんの所で学んでみては?」
 アニエスはドニーに提案した。
「それって木材をくれた木こりさんのこと?」
 ミィがアニエスを向けていた視線をドニーに移す。
「これだけの物を作れたんだもの。才能はあるわよ」
 ナオミが笑顔でドニーの頭を撫でる。
「エフェリアさん、出発します〜」
 キャミーが一人でブランコをこごうとしていたエフェリアを呼んだ。エフェリアは諦めて仲間に合流する。
「ありぃがあとお〜」
 子供達は声を合わせて別れの挨拶をする。冒険者達は手を振ってパリへの帰路に着いた。
「作る楽しみをこの歳で覚えちゃったら、将来が楽しみよねぇ」
 ナオミは満足そうな顔をする。
「まだ手をふっています」
 エフェリアの言葉で全員が振り向く。子供達の姿はかなりの小ささになっていたが、それでも手を振っている。
 冒険者達は最後にもう一度手を振ったのであった。