ちびブラ団危機一髪〜男の子編〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月23日〜05月30日

リプレイ公開日:2007年05月31日

●オープニング

「藍分隊長、風邪で来れないの残念だね」
 青空の下、幌のない馬車に揺られながら、ちびっ子ブランシュ騎士団灰分隊長フランこと少年アウストは仲間に話しかける。藍分隊長とはオベルを名乗る少年クヌットの事である。
「うん。でも妹のジュリアちゃんも風邪だから‥‥。お土産でも持っていこうか」
 黒分隊長ラルフこと少年ベリムートが御者台の隣りで振り向いた。御者をしているのはベリムートの父で、母も後ろの座席に座る。二人はピクニックの引率者であった。
「お土産、いいの何かあるかなあ。あっ見えたよ。湖!」
 橙分隊長イヴェットこと少女コリルは馬車が丘を越えると指差す。遠くには小さな森に囲まれた湖があった。
「湖周辺に集落があるんだ。そこで寝泊まりする予定だ」
 ベリムートの父は息子に話しかけると、手綱をしならす。馬車は少しだけ速くなり、湖により近づくのであった。

 泊まる丸太小屋に荷物を降ろすと、ちびブラ団達は湖に出かけた。水遊びをした後で、持ってきた竿で釣り糸を垂らす。コリルは恐くてエサを自分でつけられず、二人に任せていた。
「すげぇや!」
「黒隊長、すごお〜い」
「本当にすごい」
 特にベリムートが多く魚を釣り上げていた。持ってきた木桶に魚が増えてゆく。
 ちびブラ団達が夢中で釣りを続ける。知らぬ間に後ろから子供達三人が木桶を覗いてた。
「‥‥この魚、おいしいのかなぁ?」
「きゃあ!」
 一人の男の子がコリルに話しかける。突然、真後ろから聞こえた声にコリルは声をあげた。
「びっくりしたあ。えっと、誰?」
 ちびブラ団は三人共、釣りを止めて後ろを振り向いた。
「僕はアンリ。‥‥んとね。こっちにいるのは『家』の友達」
 アンリが釣れた魚をジッと視たままの二人を紹介する。
「おう。俺はジル。でもまだこんだけかよ。俺にまかせてみな。もっとでっかいの釣ってやる」
「ジル。調子に乗りすぎ。私はミミです。魚釣れるのすごいのね。私達はパリ近くの『家』からここに遊びに来たのだけど、君達はこの辺の子?」
 二人は屈みながらも、視線をちびブラ団達に向ける。『家』の三人もちびブラ団と同じ位の歳のようだ。
「違うよ。あたし達もピクニックでパリからやって来たの。あたしコリル。みんなでちびっ子ブランシュ騎士団やってるのよ。橙のイヴェットなの」
「俺はベリムートだ。黒隊長のラルフを名乗っているぞ」
「ぼくはアウスト。灰のフランをやってます」
 ちびブラ団の紹介を聞いて、『家』の三人はひそひそ話をする。
「ブランシュきしだんって‥‥何かなぁ‥‥。このお魚を釣る集団なのかな? それともお魚の名前がブランシュきしだん?」
「旨そうだけど名前長すぎねぇ? なぁなぁ。こいつ食っていい?」
「ちょっとジル。人が釣った物を勝手に食べたら泥棒だよ? そんな事しちゃダメだっていつも先生が言ってるでしょう? でも美味しそうだけどね」
 『家』の三人の言葉にヘナヘナとちびブラ団達は倒れ込む。アウストが説明すると、納得してくれたようで『家』の三人も分隊長の名前をつけていた。
 その後、予備で持ってきた竿を『家』の三人にも貸し、六人で釣り糸を垂れる。
 釣りに飽きてきた頃、遠くから歌声が聞こえてきた。子供達六人は歌声の集団に駆け寄る。それはバードの集団であった。
「今日は大盤振る舞いでお代はいらないよ。さあ、みんなで行進しましょう♪」
 大道芸のバード集団は六人で合唱する。楽器の演奏と相まって、まるで祭りのようであった。
「ふふっ‥‥」
 バードの一人が意味ありげな笑みを浮かべる。そんな事も知らずに子供達は存分に踊り、喜ぶのであった。

 夕方にはちびブラ団の一行は湖の畔で焚き火を囲んだ。仲良くなった『家』の一行とも一緒である。
 釣った魚だけでなく、持ってきた食材を料理し、みんなでとても美味しい食事を頂いた。しかも同じ小屋で寝る事になる。ベットに入ると全員が夢の世界へと導かれる。
 夢の世界で、昼間の出来事が蘇る。楽しい歌。行進。
 ちびブラ団の三人だけでなく、バード集団を見かけていないベリムートの両親も同じ夢を見ていた。それは『家』の一行も同じであった。
「こっここは‥‥どこだ!」
 ベリムートの両親が夢から覚める。起きた場所はベットの上ではなく、何故か湖近くの路上であった。『家』の三人の保護者も右往左往している。
「子供達は? どこ! ベリムート!」
 急いで小屋に戻る大人達の姿があったが、子供達の姿はどこにもなかった。

「うまくいったぞ!」
 揺れる馬車の中で声が聞こえ、ちびブラ団のアウストは目を覚ます。昼間見たバードの後ろ姿があった。
 アウストは起きたのをバードに気づかれないように周囲を確認した。馬車にはちびブラ団のベリムートと昼間に会ったアンリの姿があった。バードの数は三人である。
「この中からあの方に献上する子供達を選ぼう。主に女のガキを選んだ、あっちの組には負けられんぞ」
「まあ、山の崖下にある古城跡でゆっくりと相談しようじゃないか」
「いらないガキはそのまま生け贄だな。無駄がなくて丁度いい」
 三人のバード達の会話は続く。
(「そうか。バードにはメロディーという、人を惑わすのにも使える魔法を持っている者もいるんだっけ。本に書いてあった。それで眠っている間に誘われて誘拐されたのか」)
 アウストは状況を理解するとアンリとベリムートを静かに起こして脱出を相談する。馬車が川に渡る橋に差しかかった時、子供達三人は飛び込もうとした。
「何をしようとしている!」
 脱出はバード達に気がつかれてしまう。馬車から川へと飛び込めたのはアウストだけであった。

 アウストは一人で湖の集落まで歩いて戻る。すでに夜は明けていた。
 そして状況を大人達に説明する。六人の子供を二組に分けて誘拐したようだ。もう一組の方にジル、コリル、ミミがいるのだろう。
 ガッカリしていたアウストの元にジルが姿を現す。ジルも連れて行かれる途中で脱出に成功したそうだ。
「冒険者に頼もうよ! パリにいる友達に手紙を出すから、ジルも」
 アウストは気を強く持ってジルに相談する。どうやら二両の馬車は別の場所に向かったようである。それぞれが乗せられた馬車の者を助ける事が二人の協定となった。
「でも冒険者が来るまで待ってたら、助けられないかもしれない。だから行くよ」
「‥‥俺だって、冒険者だ‥‥」
「ジル?」
「俺も行く。ミミとコリルを助ける。アンリのペットが多分その辺にいると思うから、そいつに頼む」
「うん、分かった。ジルもがんばってね」
 アウストはペットの鷹に手紙をつけて、パリにいるクヌットに託す。
 持てるだけの食料を担ぐと、アウストはジルに手を振って一人で救出に向かう。引率のベリムートの両親にいえば、止められるに違いないので内緒であった。

「仲間が大変なんだ!」
 パリで手紙を受け取ったクヌットは熱で赤い顔をしながらも父親に懇願した。
 手紙には事情の他にちびブラ団で決めた、冗談では絶対に使ってはいけない、最上級の緊急の印が書かれてあった。
「もし、何事もないのなら、それに越した事はない。とにかく依頼を出しておこうか」
 クヌットはアウストを信じ、そしてクヌットの父親は息子を信じた。
 クヌットの父親は冒険者ギルドに出向き、依頼を出す。クヌットは風邪をおして外出し、王宮の門番に話しかけるのであった。

●今回の参加者

 eb7804 ジャネット・モーガン(27歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec0039 コトネ・アークライト(14歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1031 ヴィメリア・クールデン(31歳・♀・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec2068 神崎 輪(25歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec2838 ブリジット・ラ・フォンテーヌ(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ジャンヌ・シェール(ec1858

●リプレイ本文

●湖
「まずはこの湖からね」
 ジャネット・モーガン(eb7804)が馬で移動する仲間の先陣を切っていた。なだらかな坂道を下った先には湖が広がる。
「ジャネット、ありがとうね」
 リスティア・バルテス(ec1713)は自らの愛馬二頭を仲間に貸して、ジャネットの後ろに乗せてもらっていた。
「このくらいなんでもないわ。誘拐された子供達の救出のため。それも高貴な者の努め。さあ行くわよ愛馬コルベット!」
 ジャネットはそういって駆けながらも途中で手綱を緩める。ついて来られたのがブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838)だけだからだ。
 騎乗に不慣れな者が多く、ここまで馬の全力とはいかなかった。それでも歩くよりは断然に早く、お昼を少し過ぎた頃に湖の畔にある集落へと到着した。
「なにか子供達の持ち物ありませんか? ココアに探してもらうの」
 コトネ・アークライト(ec0039)は愛犬のココアを座らせながら、ベリムート夫婦と『家』の引率者から三人の子供の臭いがついた物を借りる。
「勝手口や秘密の抜け穴はあるのか?」
 ジャネットは集落の人達に古城跡について知っている事を訊いた。残念ながら隠し通路などは知らないようだ。
「崖と古城はどのくらい離れて‥ますか?」
 普段は赤面症の神崎輪(ec2068)も、生贄と聞いては黙って見過ごす訳にはいかなかった。心臓をばくばくさせながらも訊いて回る。崖と古城跡とはかなりの距離があるようだ。その代わり崖上から全体が見渡せるのだという。
(「これでいいかな」)
 ヴィメリア・クールデン(ec1031)は、木切れにベリムートとアウストの絵を描いておく。出発の際にも仲間にちびブラ団メンバーの特徴を教えてあったが、もっと詳しく分かるようにだ。『家』の引率者の方々に筆談で訊きながら、アンリの似顔絵も描いた。
「私じゃ使えないから良かったら使って」
 リスティアは光の弓と矢をヴィメリアに渡しておく。ソルフの実はコトネに預ける。馬が運ぶ備品は、すでに活用してくれそうな仲間に渡してあった。
「アンリとベリムートの救出を最優先にしなければ――」
 ブリジットも古城跡について集落の人々に訊ねる。古城は谷間を利用した構造で、左右にある急勾配の崖を繋げるように城壁があるという。
 一通りの情報を得ると、冒険者達は再び馬に乗って先を急いだ。子供達が心配だが、夜に移動するのは危険の方がはるかに高い。行ける所までいって野営を行った。
 出発前にジャンヌが世話をしてくれたおかげで、馬の疲れはそれほどでもない。荷物もバランスよく配分されて一頭に負担がかかるような事はなかった。
「生贄とかってかなり臭いわよね‥」
 リスティアが焚き火を見つめながら話す。
「みんな元気だといいね‥‥。もう一つの依頼の子供達も無事だといいね」
 コトネの呟きに仲間は頷いた。
 見張りは焚き火の近くで一人交代ずつ行われる。
「こんな感じで。味見を‥‥」
 神崎は見張りをしながら、保存食を焚き火で焙ったりし、明日みんなが美味しく食べられる工夫を行うのだった。

●森と崖
 二日目、冒険者一行はまだ薄暗いうちから馬に跨って出発した。
 道は険しく、慣れない騎乗ゆえに慎重にして崖の上を目指す。
 夕方前には崖の上に到着した。
 冒険者達は眼下にある古城跡を眺めた。特にブリジットが熱心に観察する。
 古城跡の周囲は草木がたくさん生い茂っていた。姿を晒さずに近づけるが、もし誘拐者の聴覚が優れていたのなら問題だ。
 仲間が相談している時にヴィメリアがコクコクと頷く。ヴィメリアの聴覚もかなりのものである。音でのさぐり合いは、お互いの能力次第で決まりそうだ。
 冒険者がそれぞれの能力を持って眼下の古城跡を探るが、特別な事はわからなかった。
 今日の所は崖の上近くの目立たない場所で野営を行う。
 夜になり、コトネ、神崎、ヴィメリアが古城跡の窓に灯りを見つける。ブリジットがその灯火の場所を脳裏に焼き付けるのだった。

●アウスト
 三日目になり、神崎を残して残りの冒険者達は崖の下に移動した。
 コトネがブレスセンサーを使って敵の存在を探す。
「あれ? 子供みたいです‥‥。もしかしてアウスト君?」
 コトネが感じた呼吸は人の子供であった。コトネはさらに愛犬のココアにアウストの臭いを探らせる。呼吸を感じた方向にココアは進んでゆく。
「あっ、絵を描いてくれた‥‥」
 少年アウストは発見されるなり近づいてくる。知った顔のヴィメリアがいたので、応援に来てくれた冒険者だと認識したのだ。
「帰って親達にこの事を伝えなさい」
 ジャネットの心配はもっともであったが、アウストは首を縦に振らない。
「邪魔はしないよ。だからぼくも連れてって!」
 アウストは強く願った。相談の末、一人で帰す危険と、さらわれている子供達を一刻も早く安心させる意味も含めて連れてゆく事が決まる。
 今日は長い一日になるのが予想された。
 夕方の赤い空に、神崎がミミクリーで変身した大鷹が舞う。太陽を背にして城壁に近づく。
 神崎は城壁に降りて人の姿に戻る。昨日灯りが見えた場所からは死角の位置で縄ばしごをかけた。かなりの高さがあるのでリスティアとブリジットから借りた分も繋げる。
 縄ばしごを慎重にヴィメリアが登ってゆく。ブリジットが貸してくれたブロナハのマントのおかげで高い場所でも気が軽くなる。登り切ると城壁の階段を使って神崎と一緒に門へと移動する。
 専門の道具がないせいで手間取ったヴィメリアであったが、約一時間後に開錠された。すでに夜になっていたが、門を気づかれず開けるのにかえって好都合である。
 問題は門が開く際の音であった。ゆっくりと慎重に少しずつ開けてゆく。
「誘拐犯は、子供達を閉じ込めてゆっくり休みたいと思うはず」
 ジャネットは余計な音が鳴らないように金具などは布で包んであった。
 古城跡に潜入した一行はヴィメリアを先頭にして、子供達の臭いを手繰るコトネの愛犬についていった。
 古城の構造は隣りの部屋や下の階が見えるので注意が必要だ。鳴子や落とし穴などの罠が仕掛けられていたが、どれも前もって発見して回避する。
 ヴィメリアが仲間に筆談の木切れを見せた。遠くから子供の笑い声が聞こえたそうだ。
 冒険者一行は声が聞こえた方向から離れて相談した。
 様子から子供達はバードの魔法によって騙されている可能性が高い。
 もう一度ヴィメリアが確認すると大人の声も混じっていた。どうやら誘拐者のバードとも一緒にいるらしい。
 ヴィメリアから教えてもらう会話から、冒険者達は結論を出す。少なくとも今日の所はベリムートとアンリに危険はないだろうと。
 寝る時には誘拐者と子供達は別々の部屋になると踏んで、深夜になるのを待つ冒険者一行であった。

 冒険者一行は月明かりが照らす古城の廊下を進む。
 コトネが子供の吐息を捉え、そして愛犬のココアも同じ方向を示す。ヴィメリアは耳を澄まし、バード達の動きを常に監視する。今の所動きはない。
 ヴィメリアが扉にかけられていた錠を開けて子供達の寝る寝室に進入する。
 月明かりが差す綺麗な部屋の中で、アンリとベリムートがベットに寝ているのを発見した。
「アンリ、ベリムート、起きてよ!」
 アウストが二人を交互に揺する。
「なんだ。アウストか。途中で消えちゃうから、心配したぞ」
「眠いなあ‥‥。お兄さん達がよく眠りなさいっていってたよ」
 ベリムートとアンリは緊張感のない言葉を並べる。どうやらバード達のチャームにかかっているようだ。
「しっかりしてよ。二人とも。早く逃げよう」
 アウストは二人を急がせるが、動く気配はまったくなかった。アンリとベリムートの話しから想像するに、バード達は二人と仲良くなったふりをして品定めをしていたようだ。
「大丈夫だからさ。なあアンリ」
「そうだよ。美味しいものもたくさん食べたしね」
 囚われていた二人の子供は、バード達に紹介するといって呼び鈴を鳴らしてしまう。
「結! 金剛界結界」
 神崎は即座にホーリーフィールドを展開した。
 冒険者達は急ごうとするが、突然部屋にバード達が現れた。バード達が寝ていた部屋とは秘密の通路で繋がっていたようだ。
「〜マジカル・オニキス登場です〜♪」
 コトネは『魔法少女の枝』をクルクルと回して踊った。左手で顔の半分を隠す決めポーズをした瞬間、アウストを掴まえようとしたバードの動きを一瞬止める。おかげでアウストは冒険者達の元に逃げ込む。
「はう〜恥ずかしい‥‥」
 赤面しながらも、アウストの危機を救ったコトネであった。
「お前達一体どこから? 動くな!」
 しかしバード達は警戒心のないアンリとベリムートを人質にしていた。
「黒分隊長、しっかりするんだ! アンリは紫分隊長になったんだろ? ちびブラ団はそんな魔法に負けちゃいけない!」
 アウストは力いっぱい叫ぶ。
「だって‥‥」
「そんな‥‥」
 アンリとベリムートは戸惑っていた。
「ぼくは灰分隊長だ! そんな卑怯なバードのいうことなんて耳を貸しちゃいけない!」
 アウストの言葉にアンリとベリムートは冒険者側とバード達を交互に眺める。その後で長くアウストと視線を交わした。
「えいっ!」
 アンリとベリムートは思いっきり強くバード達の足を踏んだ。そして自分達を掴んでいたバードの腕に噛みつく。
「お前達! くそっ!」
 バード達は人質をなくし、戦うそぶりを見せた。
 だが、近距離でのムーンアローを撃とうとしたバードはブリジットの剣で一気に叩きつぶされる。
 ファンタズムを使おうとしたバードはジャネットが真正面から放った剣の一降りに恐れおののく。魔法を使う間もなく沈む。
 唯一スリープの魔法が間に合ったバードがいたものの、アウストが眠っただけだ。アンリとベリムートによってアウストはすぐに起こされる。
「さてと尋ねたい事があります」
 ブリジットがスリープを使ったバードを捕まえて尋問を始めた。
「あの方が‥美しいものが好きなあの方に献上しようとしたのだ。ただ、選りすぐりの子供でないとあの方は満足なされないので‥‥」
「あの方とは一体誰なんです?」
「あの方とは‥我らの」
 バードが言いかけた時、突然グレムリンの一匹が姿を現した。壁にかかっていた槍を手にとってバードの胸を一突きにする。
 リスティアは咄嗟にレジストデビルを唱える。ブリジットは魔剣を振るい、ジャネットは武器をわざと落とし、銀のトレイを取りだしてグレムリンに思いっきり振り下ろす。
 リスティア、神崎、ヴィメリア、コトネは子供達を取り囲んで、守りの体勢をとった。
 グレムリンは冒険者の隙をみて月夜に飛んでゆく。
 ヴィメリアがグレムリンに向かって矢を放つ。一発は当たるがそれ以上は届かなかった。
「臨兵闘者皆陣烈在前!」
 神崎のブラックホーリーも初撃が当たったのみでグレムリンの墜落には至らない。
「きっと連絡係です」
 ブリジットはグレムリンの姿が消え去るまで剣を鞘に収めようとはしなかった。
 槍で刺されたバードは絶命していた。
 その日、一行は別の部屋に移って一夜を過ごした。
「パリにあったオバケ屋敷なんて目じゃないね。ここは」
 仲間が助かって気が緩んだのか、アウストがやっと軽い話を口にした。一つのベットに四人の子供が横になる。冒険者達も一人ずつ交代で見張りをして部屋で休んでいた。
「そうだね。本当のオバケがでそうだね」
 アンリが毛布の下から顔を半分だけ出す。
 新たなる敵は現れる事なく、緊張の夜は更けてゆくのだった。

●湖の畔へ
 四日目になり、古城跡を出た冒険者達は子供達を馬に乗せた。そして自らは手綱を持って山道を下ってゆく。
「みんな仲良しでいいな‥‥私も頑張ってみんなとお友達になりたい、けど‥‥」
 馬の跨りながら楽しくお喋りしている子供達を見て、コトネはちょっとブルーになる。
「そういえば、コトネの決めポーズ、格好よかったな。ちびブラ団でもああいうの作らないか?」
「そうだね。いいんじゃない?」
「僕もミミとジルとああいうの、やりたいなぁ。二人もきっと冒険者達に助けられているよね」
 子供達が一斉にコトネへ振り向く。
「あの‥‥ハーフエルフの女の子なんか、仲良くしてくれないよね」
 コトネは涙目になりながら、子供達に訊ねる。
「なにいってるんだ。コトネにもちゃんとちびブラ団の名前考えているんだぞ。もちろん冒険者のみんなにもね」
 馬に跨るベリムートが歩くコトネに顔を近づけすぎてバランスを崩す。それを神崎が笑顔で支えてあげた。
「すべては御仏の導きのままに」
 神崎は子供達の元気な様子に祈りを捧げた。
 夕方頃、一行は湖の畔にある集落に到着した。
 ベリムート夫婦は涙を流しながら子供達を抱き締めた。『家』の引率者達もアンリの無事に安堵した。
 数日の間にもう一つの冒険者の救出でミミ、ジル、そしてコリルが助け出される。なんとコリルはラルフ黒分隊長と橙黒分隊の混合隊によって助けだされたようだ。
 黒分隊長に再会したちびブラ団の面々はカチンコチンに緊張するのだった。

 七日目になり、ベリムート、アウスト、コリルの三人は馬車に乗ってパリに到着した。冒険者達も同じくパリに到着する。
 ヴィメリアは一人ずつ子供達の頭を撫でてあげる。心の中で『頑張ったね』と囁いた。子供達にも通じたようでみんな強く頷いてくれた。ヴィメリアの四食分の保存食は途中で子供達にあげたものである。
 リスティアは古城跡で見かけたデビルとの繋がりを示す情報をギルドに報告する。かなりの大物デビルが裏に暗躍している可能性があった。

 子供達はクヌット家を訪れた。
 クヌットとその妹ジュリアの風邪は治っていた。クヌットのおかげもあって、ちびブラ団は全員元気であった。
「ふ〜ん。ちびブラ団に新メンバーが増えたのか。でも隊長と副隊長の肩書きはなしな。俺様達と同列の分隊長だぞ」
 細かい部分を気にするクヌットである。
「また本物の黒隊長にも会ったのよ。格好よかったあ。あっ、藍分隊長のお土産忘れた」
 コリルが憧れる乙女の顔から、真顔に戻る。
「別にいいさ。無事に帰ってこれたからそれでいいんだ。でもどんな感じだったのか教えてくれるか?」
「うん♪」
 まずはコリルがミミと二人で囚われ、ジルと冒険者達、そしてブランシュ騎士団が助けに来てくれた話をした。その後でベリムートがアンリと囚われて、アウストと冒険者達が助けに来てくれた話をする。
 話しは尽きる事なく、日が暮れる頃まで語られるのであった。