【繊細な指】パリの潜伏者

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 32 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月27日〜06月02日

リプレイ公開日:2007年06月04日

●オープニング

神聖歴1002年5の月
騎士の顔は青ざめている。
繊細な指が、神の目を盗んで長く伸び、
白い衣を血で染めるだろう。
王国の大いなる炎は消え失せるだろう。


「そうです。パリ市街での狂信者発見と、もう一つお願いしたい事があるのです」
 ブランシュ騎士団黒分隊エフォール副長は、冒険者ギルドの個室で受付の女性を相手に依頼を行っていた。
「すでに何名もの王宮高官が狙われました。命を落とした者もいます。ノストラダムスの預言の成就であるのか、また無理矢理に成就させようとする狂信者がいるのかは、今は置いておきましょう。大切なのはもっと具体的なものです」
 エフォール副長は強く拳を握った。
「聖霊降臨祭が近づいています。ブランシュ騎士団は参加なされる予定の国王陛下をお守りする為、様々な策を講じています。しかし‥‥」
「何かご心配な事が?」
「預言の詩にある『騎士』とは何を指すのか。国王陛下をお守りするのが第一。しかしわたしにとってはラルフ分隊長をお守りする事も重要なのです」
 エフォール副長はさらに話しを続けた。
 しばらくの間、ブランシュ騎士団黒分隊は身分を隠してパリ市民に紛れ、連絡を取り合いながら狂信者の発見に努めるという。多忙なラルフ分隊長が狂信者発見の指揮を執るのは、聖霊降臨祭の30日のみになる。
 エフォール副長が冒険者に望むのは30日のラルフ隊長の身を守る事である。黒分隊員が常にラルフ分隊長の側で守るのは任務から考えて無理であった。
 30日以外の依頼期間は狂信者探しを手伝ってもらいたいそうだ。
「話しを切りだしたとしても、ラルフ分隊長は警護を拒否なされるだろう。なので秘密裏に行って欲しいのです。各隊員との連絡係として冒険者の手を借りたと、ラルフ分隊長には伝えておきます。これなら、常に冒険者の何名かがラルフ分隊長の側にいても不自然ではないはずです」
 エフォール副長は信頼のおける冒険者を紹介してもらえるように、受付の女性に頼むのであった。

●今回の参加者

 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea8284 水無月 冷華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8898 ラファエル・クアルト(30歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●27日
 初日の朝、冒険者ギルドの個室に冒険者達とエフォール副長は集まっていた。
「まずはこちらを」
 エフォール副長は冒険者一人ずつにヒーリングポーションを渡す。いざというときに使って欲しいという。
 続いて説明が続く。特に時間が費やされたのは黒分隊員の配置についてである。隊員達は変装して様々な場所で任務を行っているそうだ。
「今日から29日までにできる限り狂信者を捕らえ、30日聖霊降臨祭での国王陛下、そしてラルフ黒分隊長の安全を確保したい。何かお考えの作戦はおありか?」
「ラテリカ達は二班に分かれて行動するつもりです」
 エフォール副長にラテリカ・ラートベル(ea1641)が答える。
 1班が騎士デニム・シュタインバーグ(eb0346)、僧兵李風龍(ea5808)、吟遊詩人ラテリカ。
 2班が吟遊詩人シェアト・レフロージュ(ea3869)、レンジャーラファエル・クアルト(ea8898)、志士水無月冷華(ea8284)。
 それぞれにテレパシーが使える者を配し、黒分隊と既知の仲であるラテリカと水無月を分けた。連絡のスムーズさとラルフ黒分隊長に不審をもたれないように考えてあった。
 30日を除く日は他の黒分隊隊員と同じく狂信者の発見に努めるのが仕事だ。しかし隊員達がどの様な行動をしているのかの知り、なおかつ30日の連絡の予習を込めてまずは一通り回ってみる事にした。冒険者達はパリ市街へと繰りだすのであった。

●1班
 裏路地。
「どこの子かな。焼き菓子をあげよう」
 薬草師が近づいてきた子供の頭を撫でる。
 子供はデニムであった。なるべく無邪気な様子で怪しまれないように立ち回る。薬草師は家々を回って調べる黒分隊隊員だ。
「今までに三軒あるのですか」
 デニムは薬草師から怪しい人物と思われる家の情報を受け継いだ。これからの予定も訊き、薬草師の側を後にした。
 近くで警戒していた李とラテリカと一緒に次の隊員の元へと急ぐのであった。

「こんな所で寝ていると風邪引くぞ」
「へへっ、旦那ったら親切でがすね」
 李は道で寝ている酔っぱらいに声をかける。李に注意されて愛想笑いをする酔っぱらいは黒分隊隊員であった。
 李は丸められた羊皮紙を周囲の者からわからないように渡される。李は近くの井戸から水を汲んでやってからその場を立ち去る。
 李はラテリカとデニムと合流した。羊皮紙を読んでみると、怪しい者達の集会が行われている日時場所が書かれていた。何人かの自宅も突き止めてある。
 酔っぱらいに化けた隊員の見事な手際に感心する李であった。

「どっちですか? ポプリ」
 ラテリカは愛犬のポプリに狂信者の臭いを手繰らせていた。接触した黒分隊隊員に頼まれての事である。
 李とデニムもポプリの後を追う。
 ラテリカは空を舞う李の鷹『蒼風』ともテレパシーでやり取りをする。蒼風から教えてもらった狂信者の位置と愛犬ポプリの追う方向を考えて進む。
 狂信者を路地裏の行き止まりにまで追い込んだ。デニムが子供の仕草で隙を作ると襲ってきた。かといってチンピラ相手に引けをとるデニムではない。デニムが狂信者を転ばせて、そこを李が押さえ込んだ。
 捕まった狂信者は毒を手に入れようと方々を探し回っていた。前々から悪魔崇拝者として黒分隊がマークしていた人物である。
「ノストラダムス信奉者と悪魔崇拝者‥‥。どこかで繋がっているのですね」
 ラテリカはお手柄のポプリを撫でてあげながら呟くのであった。

●2班
「そうだね。君の瞳にはぼくしか映っていない」
 王宮前広場で熱々なカップルが犬を散歩させていた。とはいっても、数少ない女性の黒分隊隊員と男性隊員が組んだ偽カップルである。
 2班のラファエルとシェアトがカップルとなり、腕を組み、隊員カップルに近づいた。テレパシー用のMPはいざという時の為にとっておく。水無月は目立たない場所で警戒を怠らない。
「かわいい犬」
 シェアトは屈んで犬の頭を撫でた。
「どうかしら? この辺の様子」
 ラファエルが小声でカップルに訊ねる。今の所、隊員カップルは怪しい人物は見かけていなかった。ただ、普段より人の数が多いそうだ。
 世間話をするフリをして二組のカップルは別れた。

 2班は続いてある家を監視する隊員の元を訪れる。近くの空き家に陣を構えていた。
 水無月が空き家に一人で入る。ラファエルとシェアトが今度は外で警戒する。
「どうでしょうか?」
 水無月が監視を続ける隊員に声をかけた。監視している家の持ち主は錬金術師である。悪徳が世間に広まっている人物で、普段からノストラダムスの信奉者であるのを公言していた。
 怪しい人物の出入りもあり、もっか調査中である。水無月は調査内容を受け取ると気づかれないように外へ出るのであった。

 2班はさらに貴族の庭園の庭師として潜り込んでいる隊員と接触する。
 シェアトは指輪の中にいる石の中の蝶に注意しながら、壁越しにテレパシーで庭師とやりとりをした。今回は接触の難しさからテレパシーを選択したのである。
(「当主が怪しいと聞き及んでいます。どうですか?」)
 シェアトが訊ねると、怪しい行動はあるのだが、今の所捕まえるだけの証拠はないという。引き続き潜入して調べるそうだ。
 2班は割り当てとなる隊員と接触し終わると、市場での情報収集に努めるのだった。

●逮捕
 28日は初日と同じく、情報の収集に費やされる。そして深夜に冒険者も交えて念入りの会議が行われた。
 29日の早朝、一斉に検挙が行われた。
 狂信者の疑いが濃厚な者達が捕まる。
 冒険者達はエフォール副長と共にある貴族の屋敷へと踏み込んだ。
 自ら屋敷内を開示する事を願ったエフォール副長であるが、拒否をされた為に強行に突入したのだ。すでに聖霊降臨祭襲撃の作戦書が潜入した黒分隊隊員によって確認されていた。
「民が何を考えているのか貴殿らはどうお思いか。国王の飼い犬であるブランシュ騎士団よ!」
「国王陛下の暗殺を企んだ裏切り者は舌だけはよく動くようだ」
 当主の貴族とエフォール副長が言葉でやり合う。その側で冒険者達は屋敷内を観察した。
 デビルとノストラダムスを崇拝する奇妙な祭壇がある。調べによれば、屋敷に雇われた者の半数以上が行方不明になっていた。生け贄にされたのであろう。
 貴族以外にも黒分隊隊員によって狂信者が検挙される。ただ、わずかながら逃亡した者もいた。
 明日30日の聖霊降臨祭に備えて、黒分隊隊員は緊張を高める。
 冒険者達もラルフ黒分隊長を守るべく、明日に備えるのであった。

●30日聖霊降臨祭
「志士の水無月です。例の一件以来ですね、ラルフ隊長殿」
「えへへ、ラルフ黒分隊長さん、お久し振りなのです。ラテリカなのです」
「お初にお目にかかります。バードのシェアト・レフロージュです」
「ラファエルよ。はじめまして、分隊長さん」
「李風龍だ。よろしくお願いする」
「デニムといいます。騎士としての言動をいろいろと学びたいと思ってます」
 冒険者達が現れたラルフ黒分隊長に挨拶をした。
「知った顔もあってとても頼もしい。それに誰もが信頼できそうだ。国王陛下をお守りする為によろしく頼む」
 ラルフ黒分隊長は騎士の礼儀を振る舞う。
「さっそく取りかかろう。副長――」
 ラルフ黒分隊長がエフォール副長を呼び寄せる。昨日までの報告はすでに終わっていた。
 今日は未だ潜伏しているはずの狂信者が事を起こさないように威圧し、それでも起きるならば殲滅をしなくてはならない。
 パリ市街に潜伏している黒分隊隊員もある程度の場所に集中していた。それは聖霊降臨祭が執り行われる教会周辺とラルフ黒分隊長が控える馬車周辺である。
 テレパシーが使えるラテリカとシェアトはラルフ黒分隊長に説明を行う。常にどちらかがラルフ黒分隊長の側にいて情報が滞りなく伝わるようにするとの説明である。MPが足りなくならないようにと、二人は副長からソルフの実ももらっていた。
「テレパシーで二人が連絡役をやってくれるので、私たちはその護衛を。周りをちょろちょろ五月蝿いかもだけど、よろしくお願いします」
 ラファエルがラルフ黒分隊長に護衛について説明した。これで常に三人の冒険者がラルフ黒分隊長の側にいられる。
 ラルフ黒分隊長が冒険者達の意見を疑いもなく採りいれたのには、以前のラテリカと水無月の活躍のおかげもあった。
 聖霊降臨祭を喜ぶパリ市民達。歓喜のパリの中にあって冒険者達と黒分隊は緊張に包まれていた。
(「おそらくは使うのは毒」)
 1班のデニムは仲間と一緒にラルフ黒分隊長が待機する馬車を護衛していた。デニムは女性や子供など弱者に思える者が毒を使ってラルフ黒分隊長を狙うと考えて行動する。
(「そっちはどうです?」)
 ラテリカは2班の仲間とテレパシーで常に情報のやり取りを行う。
「今日は戦闘の可能性も高いだろうな」
 李はラルフ黒分隊長が戦いに自ら乗りだすのを予想していた。
「ここも怪しいわね」
 ラファエルは高い建物に登って調べていた。もし自分が隠れ、そしてラルフ黒分隊長を遠距離から狙うのならどこなのかを考える。
 シェアトはラファエルに同行し、怪しいと感じた高所をパーストで探る。前もって狂信者が下見をしている可能性を考えてだ。
(「こっちか?」)
 水無月は気配を消しながら馬車の周辺を探る。怪しい何かが裏路地に入ったのを見かけた。
 水無月は足を止めて息を呑んだ。
 武器を手にした六人の男女と、二匹のグレムリンがその場にいた。位置を考えれば建物一軒の向こう側に馬車がある。
(「何かありましたです?」)
(「直ちにラルフ黒分隊長の守りを強固に! そして馬車がある南の裏路地に応援を!」)
 1班のラテリカからのテレパシーに2班の水無月から返答した。しかし冒険者側の対処が終わる前に、裏路地にいた集団が行動を開始する。建物を突っ切って馬車を襲うようだ。
「待て!」
 水無月は狂信者一人をアイスコフィンで凍らせた。一匹のグレムリンを残して、他の敵は建物の中に消えていった。
 水無月は刀を抜く。そしてグレムリンと対峙するのだった。
「来ました!」
 デニムは建物から飛びだしてきた狂信者を見つけると、短刀を手に立ち向かう。
 李はテレパシーの連絡があってからヘキサグラムタリスマンの詠唱をしていたが、まだ終わらなかった。
「くっ‥‥デビルの好き放題にさせてたまるか!」
 李は途中で詠唱を止め、馬車から出てきたラルフ黒分隊長の前に立つ。グットラックをかけると大錫杖を頭上で回して構える。
「これをくらっちゃいなさい!」
 ラテリカはムーンアローを建物の二階から飛びだしてきたグレムリンに向かって放つ。
 水無月はグレムリンを倒して馬車の仲間と合流した。
 デニムは常にラルフ黒分隊長の盾になろうとし、李はカウンターアタックで敵を潰してゆく。
 変装していた黒分隊隊員も駆けつけるが、その時には事が終わりかけていた。
 デニムはまだ隙をみて襲おうとする何者かに注意する。
「危ない!」
 エフォール副長がラルフ黒分隊長に飛びついた。ほとんど同時に何かが横切る。
 矢がエフォール副長の肩に刺さっていた。
「エフォール副長!」
「わたしはいいですから、早く隠れて‥‥」
 動こうにもエフォール副長が完全に被さってラルフ黒分隊長は身動きがとれない。
「毒は毒でも毒矢ですか!」
 デニムは悔しがりながらも周囲を見回した。
「どの方向からだ!」
 冒険者達、黒分隊隊員は矢が飛んできた方向を探るが、特定できない。唯一、飛んでくる矢に気がついたエフォール副長は気を失う。
 その時、ある建物の上階では戦いが繰り広げられていた。
「なんてことをするのよ!」
 剣を持ったラファエルがドワーフの男と建物の縁で立ち回っていた。ドワーフの男は大弓を捨てて、鞘から剣を抜く。
 ラルフ黒分隊長に矢を放ったのは、このドワーフの男であった。
「おめぇがちょっかい出してこなければ殺れたものを。あのかばった奴は毒でいちころだけどな」
 ドワーフの男は下品に笑う。
 シェアトは現状をテレパシーで伝えようとしたが、離れすぎていて仲間の誰とも連絡がつかない。
「まだ間に合います。罪を犯さないで‥」
 シェアトはシャドウバインディングを唱え、ドワーフの男の動きを止める。説得をするが、ドワーフの男は耳を貸さなかった。
 ドワーフの男は移動できないまま、その場でラファエルと剣を交えた。
「うわあぉ!」
 ラファエルの剣を避けようとしてドワーフの男は足を滑らせる。六分が経過し、突然の足の自由にドワーフの男はついてゆけなかったのだ。そのまま地面へと落ちていった。

 エフォール副長はラテリカの持っていた解毒剤で一命を取り留める。
 夕方、ラルフ黒分隊長が立ち去る時にエフォール副長はすべてを話した。ラルフ黒分隊長を守る為とはいえ、冒険者達に護衛を勝手に頼んだのだと。
「副長は私の命を救ってくれた。冒険者達のがんばりがなければ、今頃はこうしていられなかったはずだ。感謝している。これからもどうか助けてほしい」
 ラルフ黒分隊長はエフォール副長と冒険者達の手を順番に握って感謝した。
「不謹慎かもしれませんが、ブランシュ騎士団の皆さんと、特にラルフ黒分隊長と一緒に行動できることをうれしく思いました。騎士として勉強させて頂きました。ご無事でよかったです」
「私は何もしていない。見習うならエフォール副長を見習うべきだ」
 デニムにラルフ黒分隊長は笑顔の中に自らへの厳しさを隠しながら答える。
「副長は隊長殿がいたからこその行動のはず。あなたには死んでもらっては困るんだ。これからも色々と無辜の人々を守るために戦ってもらわないといけないんでな」
 李はラルフ黒分隊長と強い握手を交わすのであった。

●平穏
 30日のパリにおいて、ウィリアム3世国王もラルフ黒分隊長も命は無事であった。
 31日は何事もなく終了する。
 1日のお昼頃に冒険者達は王宮前広場に集まっていた。
「さあ皆さんご一緒に」
 シェアト、ラテリカ、デニムと楽器や歌を得意とする者達が賛美歌を歌う。
 聖霊降臨祭は過ぎていたが、ノルマン王国の豊かなる未来への祈りを込めていた。
 道行く人達も足を止める。近くにいた黒分隊隊員も耳を傾けていた。
 目を閉じて聞いていた李の肩に鷹『蒼風』が止まる。
 水無月はラルフ黒分隊長の無事に心から安堵した。
「シェアトさん、さすがね」
 ラファエルは隠していた耳を大きく出して賛美歌を楽しむ。
 預言に惑わされる事なく、パリが、そしてノルマン王国が平和であるようにと冒険者達は願うのであった。