大いなる誤解 〜シーナとゾフィー〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月29日〜06月03日
リプレイ公開日:2007年06月05日
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●オープニング
パリの夜空には星が瞬く。
「すまないねぇ。ゴホッゴホッ」
「おとっつあん。それはいわない約束よ。白湯を飲んでね」
ジャパンから来た親子、父親と十代半ばの娘がノルマンの宿に泊まっていた。
父親の名は川口源造、娘は川口花という。辿々しいゲルマン語しか話せない親子がノルマン王国にやってきたのには訳がある。
二人だけの今は使い慣れたジャパン語で会話していた。
「おかあちゃん、どこにいるんだろう」
花がため息をついた。
源造の妻であり、花の母親であるリサが家出したのだ。リサはノルマンの生まれである。親子が辿々しいながらもゲルマン語が話せる理由はここにあった。
「まさか、団子を食べただけで家出するとは」
源造は肩を落とす。確かにリサに断りもなく棚にあった団子を食べた源造が悪いのだが、家出を、しかも遠く離れた故郷のノルマン王国までするとは思わなかったのだ。
花の懐にはリサの残した置き手紙が入れられている。ゲルマン語で書かれていて、読むのに苦労した二人であったが、なんとか『ノルマン王国に行く』の部分だけは読み解いた。
「おとっつあん、今日の昼間、パリをさまよっていたらジャパン出身の方と出会えたの。親切な方で、この宿まで道案内してくれたのよ。それにいろいろと教えてくれたの。この国にも冒険者ギルドはあるみたい。おかあちゃんの事、探してもらおうと思うの」
「それはいい考えだ! ゴホッ。知らない土地で人捜しをするのが、こんなに大変だとは思わなんだ。無理をしてでも冒険者ギルドに行かなければ」
源造と花は明日に備えて早く眠るのであった。
「えーと。リサという人を捜しているのですね?」
冒険者ギルドの受付で川口親子から依頼を受けていたのはシーナ嬢であった。普段は頼りなく感じられるシーナであったが、ジャパン語もそれなりには話せる。
ジャパン語でやり取り出来て川口親子も安心して依頼をする。もっとも源造と花がシーナの前に座ったのは、他の受付が埋まっていたからなのだが。
「はい。団子を食べたばかりにリサは家出を」
「団子‥‥ってなんですか?」
花がシーナに団子の説明をする。弾力のある丸いお菓子のようだ。
「とにかく、よろしくお願いします」
川口親子はシーナに頼み込む。花が源造に肩を貸しながら冒険者ギルドを立ち去ってゆく。
「シーナ、どんな依頼を受けたの?」
「あっ、ゾフィー先輩。えっと、人捜しの依頼ですー。奥さんに逃げられたんで、捜して欲しいそうなんです。でもね、少しおかしいのですよ」
「何がおかしいの?」
「十五、六歳くらいの娘がいるんですけど、捜して欲しいリサという母親は三十歳くらいなんです〜」
「まあ、確かに早いけど、田舎だったら十五前後で結婚してもおかしくないし。特別変という訳じゃないんじゃないの?」
「父親が五十歳ちょっと前って感じだったんですけど」
「‥‥連れ子じゃなければ犯罪ね。結婚当初を考えると」
ゾフィーはあきれた顔をする。
「とにかく人捜しの依頼なのです〜」
シーナは依頼書を書き終えると掲示板へと貼る。
この時点で川口親子は手紙を受付に、つまりシーナに見せるのを忘れていた。シーナは他に情報がないのか、川口親子に訊くのを忘れていた。
大いなる、受け取る者によっては些細な誤解は遙か以前から始まっているのだが、ここでまた解かれるチャンスが失われる。
後は冒険者の手に委ねられる事になるのだった。
●リプレイ本文
●迷子
「みっみなさん、コホッ、ありがとうござゴホ」
川口源造が宿で寝ている所を冒険者達は訪れた。
「みんなわかるので、ジャパン語で話すのだぁ」
玄間北斗(eb2905)は、つたないゲルマン語で話す源造にジャパン語で話しかける。今回参加した全員はジャパン語に通じていた。
「それは助かる。花は食いもんを買いに出かけたのだが、まだ戻らないが、じきに、ゴホッ」
「源造お兄ちゃん、寝たほうがいいよ」
源造を明王院月与(eb3600)は手を添えて横に寝かす。
「依頼書を見たのだ。リサさん、御団子で拗ねちゃうなんて、本当に御団子が好きなのだなぁ〜なのだ。でも‥月道使うお金があったら、御団子なんて好きなだけ食べれたと思うのだぁ〜」
「わしもそうは思うのだが‥‥」
玄間の問いに源造が項垂れる。
「そうそう、どうしてリサさんがパリにいるって判ったのだ? 言付でもされたのかな? なのだ」
「私も思ったのです。リサさんがパリにいるってどうして判ったんですか〜?」
玄間とリア・エンデ(eb7706)が源造に訊ねると手紙の存在がわかる。手紙は花が持っているので帰りを待つ事にした。
「花様、なかなか帰ってきませんです〜」
三十分程経過すると、リアが窓の戸を開けて顔を外に出してキョロキョロと眺める。
「もしや、花のやつ。また迷子になったかも知れん。宿の前にある酒場で買ってくるといっておったのに」
源造の言葉に冒険者達は驚く。さすがにそんな近くで迷子になるとは思えなかったからだ。
「花さんはいつ頃出かけましたか?」
エフェリア・シドリ(ec1862)の問いに源造は今から遡って一時間程前だと答える。
エフェリアはパーストを唱えて花の足取りを追う。仲間も後をついてゆく。何度も繰り返して辿ると、宿の向かいにある酒場に入って、持ち帰りの食事を手に入れたあとで別の出入り口から出てゆくまでがわかる。
「宿と反対の方に歩いていったみたいです」
エフェリアは道の真ん中に立ち、宿のある反対方向を指さした。
玄間は源造から花のかんざしを借りていた。愛犬の五行に臭いを嗅がせて追いかけさせる。冒険者達もついてゆく。
「なんかすごいとこばかりなのです〜」
リアは目を丸くさせた。狭い建物の隙間や、高い石壁の上、鍛冶屋の炉の側、怪しい宿屋の通路など、どうして通ったのか理由が想像出来ない場所を通る。
「エフェリアちゃん、こっちぃ〜」
途中に遺跡跡があり、立ち止まって動かないエフェリアを引っ張ったのは明王院であった。
「多分、親戚や家族に何かがあって見舞いなりに来る必要があったのだ。それを手紙を読めなくて家出と誤解しているのだ」
「団子はきっと薬かなにかです。まちがって源造さんは団子を食べて体調が悪くなったのです。リサさんはノルマンでしか手に入らない材料を取りに来たのかもしれないです」
「リサさんはお団子食べれなかったから怒って家出したのです〜。きっと手紙にもそう書いてあるのです〜」
「リサさん家出の原因はお団子じゃないわ。預言とかのノルマンの被害を聞いての里帰りしたんだと思うの。書き置きにはその辺の事が書いてあったけど、うまく読めなかったんじゃないかな」
玄間、エフェリア、リア、明王院と、どんな手紙なのか自分の想像を並べてゆく。
宿を訪れたのが朝方なのに、すでに暮れなずむ頃になっていた。
犬の五行が吠える。
「えっ?」
布を被せたトレイを運ぶ着物の少女。冒険者達はやっと川口花を発見した。
「ああ、冒険者のみなさんですね。ちょっと道を間違えちゃったみたいで」
花は笑顔で首を傾げる。しかしちょっとどころの話ではなかった。
冒険者達はとにかく花を宿まで連れてゆく。
「五行は花ちゃんから離れてはいけないのだ。必ず側にいて迷子にならないようにするのだ」
玄間は宿に入る前に愛犬の五行に花の見張りを言い聞かせる。
「ちょっと見せて貰ってもいいかな? なのだ」
宿に戻ると、玄間は花の持っていた手紙を見せてもらった。仲間も横から覗いて文面を眺める。
書かれていた文字はゲルマン語であった。
宛先はジャパンで住んでいた近くの主婦仲間に宛てられたものである。内容は、子供が出来たから里の実家に戻って産むというものであった。しばらくジャパンを離れるが、お元気でと締めくくられている。
冒険者達も驚いたが、もっと驚いていたのは川口親子である。
「うちらに宛てた手紙じゃなかったんだね。おとっつあん。それにあたしに弟か妹?」
「いや、まあ、確かに‥‥。そんな事いってたような、腹ぼてになってもおかしくはないんだが‥‥」
親子二人で混乱していた。
今日のところは、もうすぐ夜が訪れる時刻なのでお開きとなる。なぜ主婦仲間に宛てた手紙なのかの謎は明日へと引き継がれるのであった。
●団子作り
「月与ちゃん、よろしくなのだぁ〜」
「美味しい御団子を作って、ごめんなさいの切っ掛けを作ってあげればいいんだね」
二日目、玄間と明王院は相談した上で団子作りをする事にした。とにかく川口親子三人は団子好きのようだ。作っておけばなにかと役に立つと考えたのだ。
「む〜、困った時のギルド頼みです〜。シーナ様とゾフィー様にも相談してみるのですよ〜」
団子にものすごい興味を示していたリアも食材集めに協力をする。
「私もお団子食べるのですよ〜♪」
「リアお姉ちゃん‥‥」
あまりにもハイテンションなリアの様子に、明王院はちょっと引き気味だ。
「えとえと、ちゃんとお仕事はするのですよ。はう〜そんな目でみないで下さい〜」
リアは汗をかきながら両手をバタバタさせた。そして涙目になる。
明王院とリアは冒険者ギルドを訪れた。
「えとえと、お米を売ってる所知りませんかです〜☆」
とびきりの笑顔でリアは顔見知りのシーナ前のカウンターに座る。
「お米ですか。ちょっと待って下さい。ゾフィー先輩に訊いてくるです〜」
シーナはギルドの奥に姿を消してすぐに戻ってくる。
「ここで売ってるですけど、かなりお高いですよ」
シーナは簡単な地図を書いた木片を渡してくれた。
明王院とリアはお店を訪ねる。様々な輸入物が扱われるお店の片隅にお米が置かれていた。その中でも明王院は餅米を選んだ。さすがに粉の状態で売っているものはない。
川口親子が泊まっている宿で調理場を借りて団子作りが始まる。
まずは冷水と一緒に餅米を石臼でひく。それを乾燥させて粉を作る。米の粉といってもいろいろとあるようだ。間違えると美味しくない団子しか出来ないと料理が得意な明王院は説明した。
明王院とリアは団子作りをがんばるのであった。
その頃、エフェリアは看板を掲げながらパリ市街を歩いていた。
絵に心得があるエフェリアは川口親子からリサの特徴を訊いて、看板の絵にしていた。
「ノルマン出身の奥さんを探しています。名前はリサ・カワグチと――」
エフェリアは興味を持った人に話しかける。もしリサを見かけたら冒険者ギルドを訪れるように伝えて欲しいと頼んだ。さっきギルドに立ち寄った時、ゾフィーという受付の女性がちゃんと宿まで案内してくれると了承してくれた。
エフェリアはその他にも『団子』『ジャパンの親子』などをキーワードにしてパリ中を探し回ったのであった。
玄間は花と一緒にパリ市街を歩いてリサを探す。監視役の愛犬五行も一緒だ。
手紙にはわずかながらリサの実家に繋がりそうなヒントが書かれていた。どうやら編み物が上手なリサの母親が住んでいるみたいだ。
「そっちはダメなのだぁ〜」
少しでも目を離すと花はとんでもない方向に歩いてゆく。玄間は常に花を視界に置いた。
花によると、父親の源造も自分もノルマン王国を訪れたのは初めてなのだそうだ。
昔、リサがジャパンに遊びに来たとき、源造に一目惚れしてそうだ。そのまま源造と結婚してジャパンに居着き、そして花が生まれた。
きっと若い頃の源造はとても器量のいい男であったのだろう。
とにかく些細な情報でもと、玄間と花は情報を集めるのであった。
●そして
三日目は明王院とリアによって完全なる団子が出来上がる。
「お母さんには美味しいお団子を用意して待ってるから顔を出して‥って呼びかけてみようなのだ」
外で探す仲間に玄間が作戦を提案する。それぞれに納得してパリに散らばるのであった。
「はーい。お口開けてね」
明王院は少しだけ普通のお米も手に入れていた。それで宿で源造にお粥を作ってあげたのだ。世話をしながら話しを聞く。ほとんどはリサへのおのろけ話である。長年連れ添ったというのに、少なくとも源造の方は熱々だ。
明王院は日頃から御世話になっている市場にも出かけた。最近見かけた新しい人物について訊ねるのであった。
「お団子食べる為には仕方ないのです〜。月与ちゃんのほうがたくさんだしてくれましたし‥‥」
リアは軽くなった懐を思いだしてちょっと涙目になる。しかし気を取り直して町中で竪琴を鳴らす。傍らには団子が置かれていた。
「ジャパンから美味しいお団子屋さんが来たのですよ〜♪ お一つどうですか〜♪」
こうやってお団子を宣伝すればリサ本人がやって来るとリアは考えた。そうでなくても、客から最近ジャパンから来た人を知らないを訊き、そして二人連れの親子が来ている事を広めてもらう事も出来る。
団子にはちょっとだけ利益を足しているので、売れれば少しは赤字分を解消できる。一石二鳥であった。
「団子屋さん、やってます」
今日のエフェリアの看板にはリアがお団子を売っている場所も書かれてあった。
夕方、リサ本人は現れなかったが、見かけたという人物が冒険者ギルドを訪れる。その際にシーナとゾフィーが情報を訊きだしてくれた。
玄間と花の二人は一緒にパリ市街を回った。リアのやっている団子売りの宣伝と、情報集めである。
夕方には冒険者全員によって情報が集まる。総合してみるとのある地区に情報が集中していた。後は絞り込みだけだと玄間は呟いた。
明日にはその地区の調べを全員で行う事に決まるのだった。
●再会
四日目の朝早くから冒険者と川口の父親と娘はパリ市街を歩いていた。
「なんでここに?」
目星をつけた地区を捜し始めて一時間も経たないうちに、源造の妻であり、花の母親であるリサが発見された。
「お母ちゃん!」
花はリサに抱きついて泣きじゃくる。年齢の割りに花は甘えん坊だ。
「あらまあ、あんたらが源造さんと孫の花ちゃんかい。それにたくさんのお友達かい? そんなとこにいないで入りなされ」
リサの母親である老婆が全員を家に招き入れた。
リサの説明、源造と花の話が合わさる。
リサが主婦仲間に宛てた手紙以外にも、源造と花に宛てた手紙はあった。手紙は膳に置かれ、風に飛ばされないように団子が乗る皿で重しがされる。布が被されていたせいで二人宛の手紙に気がつかなかった花が、皿を棚へと移動させてしまう。手紙は風でどこかにいってしまったようだ。その後、源造が棚にあった団子を食べて悪友に誘われて家を一日空ける。博打で負けて源造が帰ってきてみると、花が一人で泣いていた。リサも源造もいなくて寂しかったのだという。家の中を探してみると、源造と花には難読な主婦仲間宛てのゲルマン語で書かれた手紙だけが見つかった。これが真相のようであった。
「急いでいたんだよ。月道の時間とか。二人目の時は実家で産むって、母親と約束していたのを突然思いだしてね。でもちゃんと話しておけばよかったね。ごめんね花」
リサは花に謝る。
「だけど、あなた。ちゃんと子供が出来たかも知れないとは、わたしはいっておいたわ」
「いや、確かにその通りだが突然お前が消えて、わしは‥‥ショックで寝込んで。それに断言してた訳じゃなし」
「まったく‥‥いなくなる前日まで、新しい子供が生まれたら名前をどうしようかと一緒に考えていたじゃありませんか」
「そんな事いわれても‥‥リサ、おめえがいなくなったんで気落ちしちまって。それどころじゃ‥‥ゴホッ」
「まったく、しょうがないねえ」
花が泣き、源造も泣き、リサもほろりと涙を流した。
「美味しい御団子を用意しましたので、食べましょう」
明王院とリアがたくさんの団子が入った器をみんなの前に置いた。
「お土産にとジャパンから持ってきたお茶がありましたわ」
リサがお茶を用意する。
全員がお茶とお団子を美味しく頂く。
「『花より団子』とはいうけど、『団子より花』なのだぁ〜」
玄間の冗談に全員が笑った。リサの母親も孫に逢えて嬉しそうだ。
「月与ちゃんにお願いがあるのです〜。まだ少しだけお団子の材料が残ってましたですよね?」
リアは明王院に耳打ちをした。
●そして
五日目なり、冒険者達は念の為もう一度リサの実家を訪れる。リサに逢えたせいか源造の容態も大分よくなっていた。
「時期外れだが、これを持っていておくれ」
帰りの間際、リサの母親から冒険者達は毛糸の手袋をもらう。これから暑い季節になるが、次の冬に使わせてもらうと冒険者達はお礼をいった。
冒険者達はギルドで報告を済ますが、リアの一言で相談用の個室に集まる。残った材料で明王院が最後の団子を作ってくれたそうだ。
「シーナ様もゾフィー様も一緒にお団子食べるのです〜♪」
リアが休憩時間となったシーナとゾフィーを招き入れる。みんなで団子を頬張った。
「クニュクニュして美味しいです」
エフェリアは一生懸命に口の中をモグモグさせる。とても気に入ったようだ。
「ジャパンにはおもしろい食べ物あるのですねぇ」
「ほんと、初めて食べたわ」
シーナとゾフィーも団子を口にしていた。
「そういえばこの間食べ‥‥」
話しかけたシーナの口をリアが両手で塞いだ。
「はう〜! お友達に聞いたのです〜。でも、その話題は御免なさいなのです〜!」
リアは涙目でシーナを止めた。どうやらゾフィーも感づいたようで少し青ざめた表情をしていた。
「えとえと、お友達の為にお土産もらっていいですか〜?」
団子が残ったのを確認して、リアはみんなに許可をもらう。ここだけの話しなら持ち帰っていいそうだ。日持ちしないのでお早めにと明王院はいう。
「それぞれがよければ、それでいいと思います」
エフェリアは最後にそう言い残して、テクテクと膝までの長さのある髪を揺らしながら仲間の元を去っていった。
依頼者夫婦の年齢の差も関係ないと言いたかったようだ。
時間に余裕を残して今回の依頼は終了するのであった。